伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

おもしろサイエンス 火山の科学

2020-06-30 21:54:32 | 自然科学・工学系
 火山とは何か、噴火が起こる機序、火山ができる場所、日本と世界の主要な火山、火山の利用(発電、温泉、湧水、鉱山、石材、観光等)、噴火による災害と噴火予知について、項目を立てて1項目あたり2~3ページで説明する本。
 イエローストーン国立公園(アメリカ)地下の巨大なマグマだまりの破局的噴火を回避するためにマグマだまりまで地下10kmほど掘削して火山を冷却する計画が紹介されています(90ページ、120ページ)。グスコーブドリの伝記の「サンムトリ火山」爆破工作のような話ですが、こういうことが現に行われようとしているのですね。この本ではそういう計画があると書かれているだけなのでちょっと調べてみたら2017年にNASAがそういうことを提唱して、それに対してかえって危険だという批判もされているようで、2017年以後どうなったのかはわかりませんでした。もう少し詳しく中身を知りたいところです。なお、グスコーブドリの伝記では、冷害対策のためにブドリが「カルボナード火山島」を噴火させて二酸化炭素を放出させるということになっていますが、火山の大規模噴火ではむしろ火山灰等によって気温が下がることが紹介されています(88ページ等)。当然の話ですが…
 誤字脱字、変換ミス等、てにをは等も含めた言い回しの不自然さなどがとても多い本です。一々指摘する気にもなれないほどに。浅間山の「1783年の天明の噴火の噴出物総量4.5×108立方メートルで噴火指数は4でした」(72ページ)というの、「108」とあるのは当然10の8乗のはずですが、どうにかならなかったでしょうか。縦書きだから上付き数字が技術的に難しいのでしょうけど。


西川有司 日刊工業新聞社 2020年3月30日発行
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木星・土星ガイドブック

2020-06-29 21:11:26 | 自然科学・工学系
 ジュノー、カッシーニ等の近年の探査機による探査結果などを踏まえて、木星と土星、その衛星について解説した本。
 木星、土星や衛星の姿について説明されていることがどこまで確実なものなのかは、私には判断できませんが、探査機による木星と土星の衛星(現在では木星の衛星は79個、土星の衛星は82個確認されているとか)の写真が美しく、それを見るだけでも得した感のある本です。木星と土星の本星はガス惑星ということで分厚い気層/雲の外側しか見えず、探査機の写真でも宇宙望遠鏡の写真とそれほど違わないのですが、衛星は地表の様子がくっきりと見えて、感動的です(土星最大の惑星タイタンも、分厚い大気層があるので探査機本体からの写真はぼやけた感じですが、地表に降り立った「ホイヘンス」の画像で地表の様子が見えます)。
 木星の南半球に見られる「大赤斑」について、「1800年代後半には楕円の長径が約4万km(中略)、それが1980年頃には約2万3300kmになり、最近では今までで最も小さい約1万6500kmまで縮小した」とした上で「これは1年間に約1000kmのペースで縮小している計算だ」(46ページ)というのですが、どう計算したらそうなるのでしょう(長径で見るなら1桁違いでも合わなくて、1年間に約100マイルならなんとかよさそうではありますが)。88ページの「膠着円盤」は「降着円盤」の誤り。変換ミスですが、天文の専門用語の見落としは痛い。「はじめに」で編集者に謝辞を述べているのですが、出版社(編集者の所属会社)名を「恒星社恒星閣」とする変換ミスが見過ごされています。著者も、ですが、編集者、そこ気づかないですか。


鳫宏道 恒星社厚生閣 2020年2月10日発行
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ルポ老人受刑者

2020-06-28 22:05:37 | ノンフィクション
 老人受刑者の刑務所・医療刑務所(今では「成人矯正医療センター」とかいうらしい)での処遇や、更生保護施設(今は「自立更生促進センター」というらしい)や民間の支援組織等の業務を取材して紹介した本。
 施設・団体のご厚意で取材させてもらっているためだろうと思いますが、施設はどこも清潔で快適、食事も思ったよりも質がよい、担当は誠実で親切、守秘義務も含めた職業倫理観が高いというトーンで一貫しています。別ルートでの取材で受刑・処遇の現場に問題点があるというような指摘はありません。よかれ悪しかれそういう本として読むべきでしょう。
 所持金もほとんどなく出所し、再就職もほとんどできず、窃盗や無銭飲食を犯して再入所というスパイラル現象の問題を何か所かで指摘していて、そういう問題提起の意図はあるのだと思いますが、刑務所・更生保護施設・支援組織の人々は一所懸命やっている(多くの関係者がそれぞれの個人としては一所懸命やっているということは事実だと思いますが)というトーンなので、管理(規則正しい生活)を嫌う元受刑者が更生保護施設にもとどまらず短絡に再犯に走るという元受刑者の自己責任的な色彩の印象が残ります。
 受刑者専門の求人誌を発行する試みの紹介(164~174ページ)など民間から受刑者の社会復帰を支援する動きが見られることは、この重苦しい難しい問題に少し希望を感じさせてくれます。簡単にはいかないでしょうけど、そういう動きが育っていってくれるといいなと思います。


斎藤充功 中央公論新社 2020年5月10日発行
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ネットとSNSを安全に使いこなす方法

2020-06-27 00:02:14 | 実用書・ビジネス書
 子ども(中高生)向けに、インターネットやSNSを利用するときのリスクや注意点を説明する本。
 基本的に、優しくかみ砕いて説明していて、技術的な点よりも心がけや対処法に重きが置かれ、読みやすくできています。
 イギリスでの2016年の出版物を訳したもので、日本での問い合わせ先(役所の窓口ばかりですが)が補充してありますが、法律は国によって違うけどという記載がいくつかあり、それでは読む側には日本ではどうなのという疑問というか戸惑いが残るのではないでしょうか。
 また、ありがちなやり方ではありますが、挿絵で「GOGGLER」(49ページ)とか「ツイッティング」(51ページ)、「ギューチューブ」(126ページ)などと、Googleやtwitter、You tubeをもじった(ちょっとだけ名前を変えた)記載をしています。そして、そうしている理由はどこにも説明されていません。この挿絵はネット上の書き込みに関する文章に挿入されています。また、この本では著作権問題も扱っています。読んでいる側からは、なぜ名前を変えなければならないのか、この本では何故名前を変えているのか、何の説明もなくこういうことをしているのは、Google等と記載してしまうと何か問題があり後ろ暗いからこうしているのか、また名前を少し変えれば何をやっても大丈夫なのか、この本の著者はそう考えているのかと、受け取られかねません。悪くすると、書き込みに関するところで相手の名前を少し変えておけばいいやという非常に安易な発想による挿し絵を入れていることを、悪口を書くときでも相手の名前を少し変えればいいってことかと受け取られる可能性さえあります。正しいネット利用を教えるという立場の本が、こういうやり方をしていることは大変残念です。


原題:STAYING SAFE ONLINE
ルーイ・ストウェル 訳:小寺敦子
東京書籍 2020年4月24日発行(原書は2016年)
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祝祭と予感

2020-06-26 21:21:18 | 小説
 「蜜蜂と遠雷」の後日談(芳ヶ江国際ピアノコンクールの入賞者によるコンサートツァーが行われている時期という設定)2編と前日談4編からなる短編集。
 前日談の方は、ナサニエル・シルヴァーバーグ(芳ヶ江の審査員、マサルの師匠)と嵯峨美枝子(芳ヶ江の審査員)のなれそめ、課題曲「春と修羅」の作曲にまつわるエピソード、マサルがナサニエル・シルヴァーバーグに師事するに至る経緯、ユウジ・フォン=ホフマンが風間塵を見いだした瞬間が描かれています。
 長編小説シリーズが完結した後に「外伝」が書かれるような、そういうイメージの作品集です。「蜜蜂と遠雷」を読んで、まだしばらくこの世界に浸りたい、余韻の楽しみたいという人のニーズに応えるもので、おそらくは作者もせっかくあれだけ作り込んだ世界をもう少し書きたいという思いで書いているのでしょう。当然のことながら、「蜜蜂と遠雷」を読んでいない読者には、何のことかわからない話です。
 この本を通じて、なぜか風間塵は、浜崎奏の言葉(会話)の中で1か所「風間くんも?」とある(156ページ)のと、ユウジ・フォン=ホフマンが名前を聞いたときに「Jinn。なるほど、精霊の名は彼にふさわしい。」とつぶやく(186ページ)以外は、すべて、会話体の、それも風間塵本人に呼びかけるときでさえ「風間塵」と表記されます。風間でも塵でもジンでもなく。他の人は、ほとんどが名(First name)で、残り一部は姓(Family name)で表記されているのに、何故なんでしょうね。
 本編ではマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、栄伝亜夜、風間塵とともに主要なコンテスタントとして扱われていた高島明石は、この短編集では一度も登場しません(明石に触れた場面もありません)。この短編集、1ページの字数も少なくて薄い。やっとこさなんとか1冊の単行本にしたという印象を持つ程度の分量です。作者に明石に対する愛/思い入れがあれば、もう1編短編を追加してもよさそうなものですが。


恩田陸 幻冬舎 2019年10月1日発行
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ノーマンズランド

2020-06-25 21:05:16 | 小説
 姫川玲子シリーズの長編第6作。
 北朝鮮拉致被害者の家族と元恋人が、拉致実行犯を捜し求めて長い年月を苦痛と焦燥、徒労感のうちに過ごす様子を軸に、殺人事件とそれを隠蔽しようとする政治家、警察内の一部勢力等を絡めた展開をしています。
 拉致被害者の家族らの悲しみと苦痛を描くのはいいのですが、拉致問題解決のために自衛隊の特殊部隊を密かに北朝鮮に侵入させて拉致被害者を奪還すべきだ、それしかない、そのためには憲法第9条が障害だ、だから憲法を改正すべきだという、ウルトラ右翼・ウルトラ過激派の政治主張を、拉致被害者の存在を利用して広めようという特殊な作品になっています。長編第5作の「硝子の太陽 R-ルージュ」に続けてこのシリーズをネトウヨ的な政治主張の広告塔に用いた作者は、姫川玲子シリーズを政治宣伝に捧げるつもりなのでしょうか。登場人物やその関係でシリーズの体裁は保たれているものの、姫川玲子自身、年齢が上がり、関係者が次々と死んだという設定もあってか、当初の勢いというか、感覚、閃きで走り出すこともなくなり、読んでいて、姫川玲子シリーズではあるものの、別に姫川玲子じゃなくてもいいんじゃないって感じますし、潮時でしょうかね。
 この作品の後に書かれた「歌舞伎町ゲノム」ではネトウヨ的な政治主張がないのは、作者がこの作品の後はそういう政治主張を卒業したのか、それとも短編集だから政治主張を展開する余裕がなかったというだけなのか、一応注目しておきたいところです。


誉田哲也 光文社 2017年11月20日発行
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歌舞伎町ゲノム

2020-06-24 20:05:54 | 小説
 歌舞伎町界隈で悪党らの被害を受けた者やその知人から依頼を受けて報復をする、自警団のような、「必殺仕掛け人」のような7人組「歌舞伎町セブン」の仕事ぶりなどを描いた短編集。
 このシリーズでは、2作目の「歌舞伎町ダムド」が、「新世界秩序」(NWO)とかいう権力に根を張った大組織を敵方に位置づけた上、「武士道ジェネレーション」(2015年7月)以降右翼の伝道師のようになっていた作者が、沖縄の米軍基地反対闘争は本土の左翼犯罪者の陰謀で裏には外国人がいるなどと政治的な主張をするもので、この調子じゃ続編にはつきあいにくいなぁを思っていたのですが、この作品では、NWOの名前は出てくるものの、名前だけで、事件等はふつうのワルたちが犯して、ふつうのワルたちを懲らしめる(って殺すんですが)ものばかりです。「名探偵コナン」のふつうの回(「黒ずくめの組織」に触れはするが黒ずくめの組織は動かない回)みたいな印象です。もっとも、最後の作品の終盤は、またそっちに行きかけてますが。初出が2017年秋から2018年にかけてのこの作品で、ネトウヨっぽい政治主張が出てこないのは、その手の路線に飽きて卒業してくれたのでしょうか。そうだといいのですが。


誉田哲也 中央公論新社 2019年1月25日発行
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文身

2020-06-22 21:42:58 | 小説
 「最後の文士」と呼ばれた無頼派作家須賀庸一の死後に、30年あまり前に須賀の妻詠子が殺鼠剤入りの麦茶を飲んで死亡した直後に発表された須賀の出世作となった「深海の巣」が妻を脅迫して遺書を書かせて毒殺したという内容だったことから父を憎み縁を切っていた娘山本明日美宛に須賀庸一名で送られてきた「文身」と題する小説原稿の中で、須賀庸一の小説はすべて15歳で死んだことになっている弟堅次が書いた原稿の内容を実行し、現実に実行したのに合わせて修正して完成させて「私小説」としての説得力を持たせていったものだと告白されたという設定の小説。
 「私小説」のどこまでが現実か、現実であるべきか、また小説とは何を何のために書くべきか、小説家とはどのような存在か、小説家の人生は小説にどこまで/どのように描かれるべきかなどの哲学的な問いかけが、娯楽小説の形で論じられています。終盤になってその問いかけがばたつく感じがあって、その前の小説家須賀庸一の半生的な記述の長さと、ちょっとバランスが悪い印象を持ちますが、最後で持ち直してうまくまとまるため、読後感はいいと思います。


岩井圭也 祥伝社 2020年3月20日発行
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夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま

2020-06-21 00:39:37 | ノンフィクション
 風俗営業や「援交」、親や親の愛人等による暴力、飲酒・喫煙、違法薬物等の最中にある少年・少女たちに取材して、そこに至る経緯や現在の環境、当事者の希望・感情等を報じた琉球新報の連載記事をとりまとめた本。
 小学校高学年からキャバクラで働き裏でデリヘルまがいのこともさせられたという事例(59~61ページ)や、高校生が知らずにピンサロの面接を受け客を取るように言われて拒否すると親に知らせると脅迫されしかたなく出勤すると店には中学生が数人いたという事例(69ページ)など、胸がつまります。他方で、風俗店とわかっていても家に帰りたくない、家では親の暴力が待ち構えているからと勤めを続けてしまう事例があるのは、さらに悲しいところです。
 急性アルコール中毒の搬送について、救急救命センター長が「県外では飲酒絡みで10代が搬送される事例はまれだ、小中学校の年齢ではほとんど聞かない」と述べ、搬送数自体の多さや低年齢層も一定数いることが沖縄の特徴だと指摘している(141ページ)とされていますが、それは沖縄だけのことなのでしょうか。琉球新報が沖縄県民に警鐘を鳴らせたいのはわかりますが、沖縄だけのことと捉えていいのか、気になります。


琉球新報取材班 朝日新聞出版 2020年3月30日発行
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成功する「準備」が整う 世界最高の教室

2020-06-20 00:02:03 | 人文・社会科学系
 アメリカ西海岸(カリフォルニア州、ワシントン州)に少人数制で生徒の自主的なグループプロジェクトを中心にして教師とは別にメンターを付けて各生徒の事情と個性を把握し教師は助言サポートを担うというような方針の高校「サミット」を経営する著者が、サミットを立ち上げるに至る経緯、立ち上げの試行錯誤、サミットの方針や教育スキル等を解説した本。
 知識詰め込み型ではなく、子どもの好奇心と自主性を引き出し、具体的に問題解決の工夫をさせることで知識や技能が身につくという指摘はその通りだろうと思います。
 懐疑的な/我が子さえよければの保護者たちとの軋轢については、さらりと書かれ無事に解決できたように読めますが、現実には本に書かれているよりも多大な苦労があっただろうと思います。
 高校教育の可能性は、大学の現実に制約されざるを得ません。大学入学二際して、高校からの推薦状の実質的な内容が比較的大きなポイントとなり、入学自体はそれほど困難ではない(卒業することが難しい)アメリカでは、高校が生徒の自主性・問題解決能力を伸ばしてその個別の能力を把握して具体的で詳細な推薦状を書けることが大学入学実現に大いに貢献することになるでしょうけれども、ペーパーテストの結果を重視する日本では、この試みが大学入学実績を上げ、また保護者の支持を得られるかは心許ないところです。


原題:PREPARED What Kids Need for a Fullfilled Life
ダイアン・タヴァナー 訳:稲垣みどり
飛鳥新社 2020年4月7日(原書は2019年)
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