伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

温室デイズ

2007-05-31 19:30:28 | 小説
 小学校の時いじめる側だったことに引っかかりを持ち中学でまっすぐに行動していじめの標的になる中森みちると、小学校の時いじめられた経験から中学で友人がいじめられるのをかばえずそれが引っかかって教室に行けなくなり別室登校する前川優子の2人の視点から描いた学級崩壊といじめをテーマにした小説。
 どこか不本意な思いを持ちながら行動する2人の視点が章ごとに入れ替わり、少しずつ変わっていくお互いの姿を映し出しています。
 見て見ぬふりをする担任の先生、不良になめられているスクールサポーター、頼りにならない学校。その中で積極的にパシリになることでネットワークを拡げていく斉藤君、厳格な父親の涙と柔軟な姿勢を見て学校に通い続けようと決意するみちる、自分に告白した不良少年のリーダーにカウンセリングを試みる優子。劇的な解決はなく、それぞれの少しずつ前向きな動きが卒業を前に少しの希望につながる。でも、そう変わるわけでもない。そんな現実的で、でも希望がないわけでもないしみじみとした思いでラストシーンを迎えます。
 明るくはないけど、負けないでってメッセージが伝わる作品ですね。


瀬尾まいこ 角川書店 2006年7月31日発行
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ひとりぼっちのジョージ

2007-05-31 07:12:11 | 自然科学・工学系
 島ごと(島によってはさらに地域ごと)に亜種の異なるガラパゴスゾウガメの中で、ガラパゴス諸島の北の果てピンタ島に残った最後の(と思われる)ピンタゾウガメの保護をめぐるお話。
 ひとりぼっちのジョージ(Lonesome George)と呼ばれるこのゾウガメの発見と保護、繁殖の試みと仲間捜しなどの話題に、ガラパゴス諸島の環境保護、絶滅危惧種の保護のあり方、近隣種と交配させることは是か?クローンは?といった話が交差します。ガラパゴスゾウガメの分布自体ゾウガメを食用に捕獲していた海賊等による移動の跡が見られるとか、ゾウガメの餌を横取りする外来種の山羊を掃討して(絶滅させて)ゾウガメを島に放す計画とか、ゾウガメを食用にする人々や、高く売れるナマコの漁を認めさせるために研究所を占拠してゾウガメを人質にしようとした地元民やその背後にいる資本家たち・・・。あるべき野生生物の保護とは何か、いろいろ考えさせられます。
 日本語サブタイトルの「最後のガラパゴスゾウガメからの伝言」はちょっとミスリーディング。最後のと書きたいなら「最後のピンタゾウガメ」と書くべきでしょう。
 タイトルの Lonesome Georgeは、この本とは関係ないけど、Incurious Georgeなんて呼ばれているホワイトハウスの住人の次のニックネームかと、つい思ってしまいました。


原題:Lonesome George
ヘンリー・ニコルズ 訳:佐藤桂
早川書房 2007年4月15日発行 (原書は2006年)
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アヴァロン

2007-05-30 08:09:28 | 小説
 中世研究家の両親にアーサー王伝説の登場人物ユリの乙女にちなんで名付けられた女子高生エレインが転校先のアヴァロン高校で巻き込まれた恋と陰謀を描いたラブコメ。
 主要な登場人物がみんなアーサー王伝説の生まれ変わりで、アーサー王伝説の展開にこだわってストーリーが展開します。そのあたり、アーサー王伝説が頭に入っていない日本の読者にはちょっとつらいし、例えばアーサー王伝説の故事と違ったからってそれがどうしたっていうのという気分になります。でも生まれ変わりながら善と悪が闘い続けるって、なんか輪廻転生って感じで、アメリカでもそういう感覚があるのかって、少し不思議。
 単純なラブコメとして主人公のエレインから流し読む分には、まあそこそこでしょう。でも、登場人物の造形をまじめに考えると、マルコの行動・殺意も、いい人に描こうとしていることだけはわかるウィルの人物像・考えも、そこここに違和感を残したまま。なんかしっくり来ないまま、ラブコメとしての落ちよりもアーサー王伝説にこだわっていることもあり、切れが悪いままで終わり、読後感は今ひとつ。


原題:AVALON HIGH
メグ・キャボット 訳:代田亜香子
理論社 2007年2月発行 (原書は2006年)
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一瞬の風になれ3 ドン

2007-05-27 10:16:03 | 小説
 3巻は新二たちが春野台高校陸上部の最高学年になって高校総体(インターハイ)への道を、地区予選、県大会、南関東大会と勝ち上がっていく過程を描いた完結編。
 3巻では、厚さは一番厚くなっていますが、最後のチャンスということもあり、わりとスムーズに勝ち上がっていき、新二ファンには安心・気持ちいい展開です。ただこのお話が部長になった新二の視点で語られているので、勝ち上がっていく新二たちと別に、黙々と辛い練習を続けていた仲間たちが頑張ってもわずかに届かなかったり力不足だったり故障したりで負けていく悔しさ・哀しさも同時に書かれています。読んでいてどちらかというとそちらの切なさの方が共感できたりもします。それがあるから、できすぎって感じの最後の新二たちの活躍も、素直に気持ちよく読めるのでしょうね。(1巻、2巻は2007年3月19日分に掲載)


佐藤多佳子 講談社 2006年10月24日発行
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地球進化学

2007-05-26 08:08:23 | 自然科学・工学系
 大学の地質学の教科書。
 タイトルに惹かれて読んでみましたが、地球の変動の歴史について書かれているのは最初の数ページだけで、大半はひたすら普通の地質学。
 前書きには「高校の地学を履修していないものにも、地球進化学の基礎を学べる教科書をめざして編集された」とありますが、この種の学者さんが「入門書」と題して書いた本、特に分担執筆の本の大半がそうであるように、その趣旨が徹底されているとは到底思えないできで、素人が読み流すのはとても辛い。地質学の、特に岩石の分類に興味がある人なら楽しく読めるかもしれないですが、そうでなければ手を出さない方が無難でしょうね。地球物理学の大局的な説明部分では勉強になりましたけど。


指田勝男、久田健一郎、角替敏昭、八木勇治、小室光世、興野純編
古今書院 2007年4月10日発行
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ドルチェには恋を添えて

2007-05-24 21:33:07 | 小説
 内気で口べただけど料理の腕は天才的なブルーノの、天性の味覚と美術センスを持つ尻軽の美人学生ローラとの恋を描いたロマンティック(舞台がローマだし・・・)グルメ小説。
 ブルーノが親友トマーゾの頼みでローラを口説くためにトマーゾの代わりに料理を作りそれをトマーゾの腕とセンスと信じたローラがトマーゾに溺れていくのをアンビバレントな気持ちで眺める前半、ブルーノはまるで聖人のよう。自分にはこんなことはできないなと思わせます。トマーゾとの友情とローラへの募る思いに悩み、嘘がばれてローラに嫌われ、トマーゾともけんかして傷心して都落ちするあたりから、たぶんほとんどの読者はブルーノファンになって読むと思います。そして、ブルーノが田舎で出会った天才料理人ベネデッタのかっこいいこと。知恵としたたかさとそして気っぷのよさに惚れ込んでしまいます。ここまでくると、お話としては行き先が見え、そうしないとストーリーとして成り立たないのはわかるんですが、ブルーノの立場に共感する読者からは、自信を与えてくれたベネデッタと別れるのは間違いだと強く思います。私ならローマになんか帰らない。どう見たってローラなんぞよりベネデッタの方が魅力的だと思うんです。
 まあ、ストーリーは読んでれば誰でも予想できるエンディングに突き進みますが、分厚さと意外性のない展開のわりには最後まで飽きずに読めました。


原題:The Food of Love
アンソニー・カペラ 訳:鹿田昌美
ヴィレッジブックス 2006年12月20日発行 (原書は2004年)
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窓のあちら側

2007-05-22 07:25:14 | 物語・ファンタジー・SF
 新井素子の80年代初期の中編を中心にしたSF短編集。
 読書日記をつけるようになってから短編集はほとんど読んでいないのですが(感想が書きにくいから・・・)、一世を風靡したサラサラ読める文体を今読んだらどう感じるかという興味が先に立って読んでみました。今では、軽い流れるような文体がエンタメ系小説のスタンダードですから、それになれた読者にはもちろん違和感はありません。でも。文が短い。今の標準で見ても。どうやったらこんなに短くできるの。ってくらい。
 小説としてのできはやっぱり「グリーン・レクイエム」ですが、「ネプチューン」の23世紀のまがまがしい茶色の海という設定がノスタルジーを感じさせました。私と同い年の作者は、小中学生時代を4大公害裁判や田子の浦のヘドロの報道を見ながら過ごしたはず。子どもの頃、科学が明るい未来を保証してくれるなんて思えませんでしたものね。別にその頃の延長で原発裁判やってる訳じゃないですが。
 それにしても、80年代初期ですから、学生時代にこんなの書いたんですね。近年の芥川賞の低年齢受賞よりすごい気がします。


新井素子 出版芸術社 2007年2月20日発行
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ジダン

2007-05-21 07:11:47 | ノンフィクション
 ジダンのワールドカップと引退に至る経緯を2006年ワールドカップ決勝の進行の中に過去や関係者のインタビューを織り交ぜながら書いた本。
 絶妙なトラッピングとボールが脚に吸い付いているようなドリブル、人間業とは思えぬフェイント、測ったようなパス、そして時としてどうしてそこにいるのかわからない絶妙のポジショニングで現れて決めるボレーシュート・・・。華麗なプレイで数々の伝説を残した、記憶に残るプレイヤージダン。アルジェリア移民の子でフランスの低所得者用団地で育ち、トッププレイヤーになった後も派手な社交生活をせずに比較的堅実・謙虚に過ごす姿勢が多くの人の共感を得てきたこともその伝説を強めてきました。
 2006年ワールドカップ決勝をストーリーの軸とした以上、当然に最後に待ち受けている頭突き事件については、特段の新しい解明はなくあいまいなままで、頭突き事件がジダンのイメージダウンにつながらず新たな伝説になったことを指摘して終わっています。そのあたり、読者としては不満は残りますが、サッカーファンがジダンと2006年ワールドカップを思い起こしてノスタルジーに浸るにはほどほどの本です。


原題:Ten Minutes to Glory
ルーカ・カイオーリ 訳:片野道郎
ゴマブックス 2007年1月10日発行 (原書は2006年)
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ギュスターブ・モロー[自作を語る画文集]夢を集める人

2007-05-20 07:47:05 | 人文・社会科学系
 19世紀の画家ギュスターブ・モローが生前耳の聞こえない母に自分の絵を説明するために作った筆談メモが1984年になって初めてフランスで出版されたものを元にモローの他の文章を配置して編集した画文集。元になるテキストはすべてモロー自身が書いたということですが、他の文章をどの絵に配置するかは著者が独自に判断しているので、著者はモローではないと扱います。
 モローの絵はキリスト教とギリシャ神話に題材を得た宗教画・物語絵がほとんどですが、独特の設定で装飾的・幻想的です。私が学生の頃、美術界での評価は高くなかったと記憶していますが、私はわりと好きでした。
 久しぶりにまとめて見ると、人物が少なくとも現代の基準では無表情(せいぜいちょっと不機嫌かちょっと驚きくらい)なこと、人物の体の中性的表現が目につきます。画風は違いますが、どこか寂しげな無表情の横顔はシャガールにも影響を与えたかとも感じます。
 そして画家自身が自分の絵に付した解説を読むと、改めてモローの詩人ぶり、哲学者ぶりを感じます。画家が期待していたイメージを先に読むと、どうしてもそれを描くことに成功しているかに関心が行って素直に見れません。私は単純に先に絵を見た方がいいかなと思いましたけど。きちんと読もうとするとけっこう難解な文章だったりしますし。


藤田尊潮 八坂書房 2007年2月28日発行
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プロ講師になる方法

2007-05-19 07:56:32 | 実用書・ビジネス書
 ビジネス系の講演会のプロ講師になるための、主催者受けのする営業やスピーチのテクニックなどをまとめた本。
 ビジネス系講演会のテーマは結局変革・革新だからその視点を必ず入れるとか、共感を得るためには成功例より失敗例が重要だとか、最初の5分が勝負とか、最初からまじめに聞こうとしている人は受講者の2割くらいとか・・・。わかっていても厳しい。どんなにいい話をしても寝る人は寝るとかの割り切りが必要って話もありますが。
 レジュメは詳しくしない、読み物資料は配らない(話を聞かないで読むことに集中してしまうから)、2時間くらいなら休憩は取らない(休憩後のモチベーション回復がしんどいから)とかは、やっぱりなあと思います。ビジネス系講演会を前提に書いているので弁護士の同業者向け講演会には当てはまらないかもしれないけど・・・。
 プロとしてやっていくことに主眼があるので、目が最終的には受講者よりも主催者に向いているところが、そりゃあそうなんでしょうけど、読んでいて寂しい。


安宅仁、石田一廣 PHP研究所 2007年4月9日発行
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