伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

震度7の生存確率

2017-03-20 20:23:33 | 実用書・ビジネス書
 防災教育の普及活動を行う一般社団法人日本防災教育振興中央会の代表理事(阪神・淡路大震災の被災者だそうです)と理事が、大地震で震度7の激しい揺れに襲われた場合、その瞬間に何をすることで生き延びる確率を上げることができるか、そのために日頃からどのようなことを考え準備すべきかを解説した本。
 冒頭の第1章が、さまざまなシチュエーションで震度7の揺れに襲われたときに取るべき行動を3択ないし4択で答える方式になっていて、ここがこの本のハイライトです。地震の瞬間に関する12問と日常の備え3問、地震後の避難3問で構成され、地震発災の際の12問の著者が評価した生存確率合計860%に対する読者の答えの合計確率で、生存確率の評価がなされます。私の回答は、760%で、評価は上から2つ目の「サバイバー」(生存の可能性が高い人)でした。もっとも、評価対象から外されている「日常の備え」が全然だめなので、現実の生存確率が高いとは言えないでしょうし、自分が車を運転しない関係で、車に乗車中の判断が低かったです。
 私たちが子どものころに繰り返し言われた、(教室で)地震が来たら机の下に潜り込むは、震度7では机ごと飛ばされるのでかえって危険で、窓(ガラス)や机等の飛んできて危ないものから離れてしゃがみ込むべきだそうです。同様に調理中の場合、ガスの火を止めようとすることは震度7では危険(止めるのは無理)な上に今は震度5強以上の強い揺れがあるとガスの供給が自動的にストップするので無意味なのだそうです。
 そのほかに、地震の時にけがをすると生存確率が大幅に低下する(救急車が来ないので平時なら死なない程度の怪我でも死ぬ可能性が高くなる、移動能力が落ちて危険を避けられなくなる。102~105ページ)、倒壊物の下敷きになるなどして筋肉の30%を3時間挟まれると筋肉が押しつぶされることで発生したカリウムやミオグロビン(筋肉中で酸素を貯蔵するたんぱく質)が救出の際急激に体内に回り「クラッシュ症候群」を引き起こして死に至る(116~117ページ)ということも頭に入れておくべきでしょう。クラッシュ症候群というのは初めて知りましたが、せっかく生きて救出されたのに、その救出で圧迫がなくなって死亡するって、あまりにも悲しい。
 そして、大災害に直面すると多くの人は動けなくなるのだそうです。震度7の揺れがあると物理的に動けなくなりますが、それだけではなく、心理的に日常の無意識の刺激→反応/行動のシステムが働かなくなることや麻痺がおこることで動けなくなり、70~75%の人は何もできなくなり、15%以下の人が我を失って泣き叫び、落ち着いて行動ができる人は10~15%程度だとか(123~126ページ)。大きな災害が起こったときは、事前の準備(情報の収集)と麻痺から覚める/覚ますため大きな声を出すことが大事だそうな(126~127ページ)。
 災害時のしゃがみ込みは、著者が「ゴブリン・ポーズ」と呼ぶ、片膝をつき(片膝とその足の先ともう片足の裏3点で体を支える)両手の拳を頭の上側につけて脇を締める体勢で行うべきだそうです。拳を握るのは、頭部への落下物に対して拳がクラッシュ(骨折する)ことでクッションになって頭部を守るのだとか…考えるだけで怖い/痛いけど。
 首都直下地震とその後の状況をシミュレーションした第4章も悲しくおぞましい記述が続きますが、そういったことも含めて、いろいろと直視すべきことがあると考えさせられました。


仲西宏之、佐藤和彦 幻冬舎 2016年12月15日発行

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新富裕層の研究 日本経済を変える新たな仕組み

2017-03-09 00:03:52 | 実用書・ビジネス書
 インターネットが基本的なインフラとなり、すべてのものやサービスがネットでやり取りされるようになった今、ネットのインフラを駆使すれば、自分で何かを作り出さなくてもすでに世の中に存在しているものをうまく集めてくるだけでビジネスを立ち上げられるようになっており、事業所や製品、従業員等を用意する多額の投資をする必要はなく、ただニーズを読み取った新たなアイディアがありそれを迅速に事業化できれば、新たな富を作り富裕層になることができるという、起業のすすめ。
 シェアリング・エコノミー、例えば Airbnb (民泊の仲介)、Uber (運送の仲介)が典型例として挙げられています。多数の一般人が保有している家(空き室)、自動車と提供者による空き時間の労働を利用して、利用希望者とサービス提供者(こずかい稼ぎ希望者)をマッチングして手数料を取るビジネスモデルです。サービスのための施設(宿泊施設や自動車)もサービスをする従業員も所持・雇用することなく、用意する施設はネット上の登録・予約システムだけ、それで相手にするのは客も提供者も分断され孤立した個人ですから力関係で優位に立ち好きなように立ち回れるという、経営者にとても都合のいいビジネスモデルです。客の立場からすれば、正体不明の個人の家に泊まったり、正体不明の人に自分や大切な荷物を運んでもらうことには相当なリスクがあります(民泊だと合鍵で侵入されたり、盗撮カメラが仕掛けられていたりしないでしょうか…)。「シェアリング・エコノミー」でない事業者の場合、著者が煩わしがる、起業の障害となる事業所の確保、施設への巨額の投資があればこそ、簡単には逃げられないから、評判を落とすようなまねはしないだろうという点で一定の信用を確保でき、また長期雇用の従業員にサービスさせるから従業員が悪事を働かないだろうと信用できるわけです(もちろん、リスクがゼロではありませんが、相当程度小さいと考えられるわけです)。シェアリング・エコノミーの事業者(仲介者)がサービスの質を維持しようと思えば、登録者を契約で拘束し、マニュアルを徹底しということになっていくでしょうが、そうなれば、サービス提供者(登録者)は実質的には雇用された労働者に近い拘束を受けながら、「個人事業者」として「業務委託」を受けているという形式(建前)故に労働者としての保護を受けられないということになりかねません。サービス提供者側は、言ってみれば登録型日雇い派遣という究極の不安定雇用の「業務委託」版です。労働者として保護されないのですから、日雇い派遣労働者よりもさらに保証/保障がない、それが「雇用によらない働き方」の正体です。シェアリング・エコノミーに限らず、著者はたびたび、これまでの起業では過剰雇用のコストが高い、日本の労働法制下では原則として解雇が禁じられている、と文句を言い、「タクシー代わりに自分の車を提供する個人は、あくまで個人の判断ということになりますから、どこまでが不当な労働なのかを決めることも難しくなります。」(66ページ)などと述べていることからして、まさに労働者としての保護を受けさせない形でサービス提供者を安いコストで使いこなすことが、著者がいう新たな起業/新富裕層の決め手とも言えそうです。
 「三木谷氏もベンチャー企業には労働基準法は適用すべきではないと発言して、物議を醸したこともあります。筆者自身もサラリーマンから起業家に転身した経験がありますから、この感覚は実感としてよく理解できます。事業が軌道に乗るまでの2年間は、毎日、深夜残業があたりまえであり、大晦日と正月以外に仕事を休んだ記憶はありません。」(29ページ)というくだりには、著者の姿勢がよく表れています。経営者として自分がどれだけ働こうがまたどのような考えで働こうが、それは自由です(私も、個人自営業者ですから、残業代請求事件の依頼者の大半よりも長時間働いていますが、それは自己責任だと考えています)。しかし、労働者にそれを求めることは筋違いですし、ましてや労働基準法を適用すべきでないなどという身勝手な主張を正当化する余地はまったくありません。過労死の事件とかがあると、自分はそれ以上働いていたが大丈夫だったなどと言いたがる輩がいますが、体力や適性は人によりさまざまだという当然のことも理解できず、他人の体力やストレスなどの事情に思いをはせる想像力もコミュニケーション力もないことを宣言しているだけです。こういう人物に雇用されている労働者や「個人事業者」として付き合わされている/こき使われている人はとても不幸だと思います。
 強欲な経営者にとって夢のような労働者いじめ/切り捨てを容易にする「新たな仕組み」を推奨し、ネットで用意できる他人の財産や労力を、仲介ビジネスで中間搾取して儲けようという幻想を振りまき、それが実現すれば使われる側に多くの不幸なものを生み出すというのが、著者の主張の先行きにある未来だと、私は考えてしまいます。


加谷珪一 祥伝社新書 2016年9月10日発行
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恥をかかないスピーチ力

2017-02-28 22:17:50 | 実用書・ビジネス書
 自己紹介、スピーチ、コメントのコツを説明した本。
 スピーチの基本として、最初に時間感覚を強調しています。人の話に対してどのくらいの時間まで許容できるかについて、「三〇秒まで 余裕で耐えられる。一分まで 『この話は面白くないな』と思い始めても、『まあいいだろう』と平静に受け止められる。二分まで 『この話はつまらない』とはっきり認定し始める。三分まで 『まだ続くのか』と嫌気がさしてくる。三分超 怒りを感じ始める。」(19~20ページ)というのが、珠玉の言葉という感じです。
 大きな会場で話すとき、聴衆のさまざまな人に視線を向けるということは、意識しますが、方向だけではなく距離感を持って、特定の人に声を届かせる、(後ろを向いていても声だけで)自分に話しかけられているように感じさせる、そのためにボールを投げるような感覚で(実際にボールを投げてみて練習するとも)(44~49ページ)というのは、思い至りませんでした。
 後半は個別シチュエーションになり技術的になりまた新鮮味が失われるきらいはありますが、スピーチの内容以前のところでまとめられている前半に学ぶべき点が多いように思えました。


齋藤孝 ちくま新書 2016年6月10日発行
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新築マンションは買ってはいけない!! 購入前に知っておきたい8つのリスク

2017-02-24 22:10:24 | 実用書・ビジネス書
 「住宅ジャーナリスト」の著者が、欠陥/手抜き工事問題をはじめとするマンション購入のリスク、今後の住宅事情を考えると賃貸マンションの供給過剰等により賃借料の低下・マンション価格の大幅な下落が予測されることなどを理由に、今新築マンションを購入することへの注意を喚起する本。
 施工ゼネコンの子会社であることが多いマンション管理会社が、欠陥工事が発覚した場合に、施工ミスを認めずに有償の追加工事を提案し、抗議する管理組合やマンション購入者に対し「あまり問題を大きくすると、このマンションで欠陥工事があったなどという、あらぬ噂が世間に広がります。そうなれば、資産価値に悪い影響が出ますよ。みなさんの大切なお住まいの査定価格が下がってもいいのですか?」という必殺の決めゼリフで抑え込むというエピソード(26~29ページ)、手抜き工事をしても大手ゼネコンは「優秀な弁護団を擁して」いずれも住民側が敗訴というエピソード(31ページ)、やはりそうかと思います。大企業のやりたい放題と、それを支える企業側弁護士の暗躍は腹立たしい限りですが。
 著者が勧めるマンション選びで、新築ではなく築10年あたりのマンションを選ぶ、その理由は築10年たって不具合が露見しないマンションは工事の精度が高いことが多くその後20年、30年しっかりした状態が保全されることが多いから、そして不具合が露見していないかは、マンション管理組合の総会議事録過去10年分を閲覧する、問題があれば総会で議論になっているはずだし、管理費の決算が赤字かどうかで管理費の滞納が多くないか、管理会社の言いなりか(管理費の水増し請求も)などがわかる(186~195ページ)というのは、なるほどと思います。


榊淳司 洋泉社新書 2016年3月18日発行
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医者が自分の家族だけにすすめること

2017-02-23 22:23:19 | 実用書・ビジネス書
 形成外科医の著者が、自分の「家族が…したら」という形で50のケースについて、自分の選択を説明する本。
 「自分の家族だけにすすめる」というタイトルに合うかはわかりませんが、解離性大動脈瘤で担当医から手術を強く勧められた80歳の父に対して「高齢者の開腹手術は、人体に計り知れないダメージを与えます。医師としてはそれでもすすめるべきなのかもしれませんが、家族として、息子として、私は手術をすすめることはしませんでした。本人が望まない手術は、よほどのことがない限り、本人の意思が尊重されるべきだからです」(134~135ページ)というあたりは考えさせられます。
 「病院の内部では、手術を失敗することが多いのは、『心づけをもらったとき』『紹介患者』『肉親の手術』と言われています」(243ページ)は、驚く半面、なるほどと思います。失敗できないと思うと冷静な判断ができなくなり、やらなくてもよいことをして失敗するのだそうです。弁護士の場合は、前2者(お金をたくさんもらったとか、誰かの紹介)はそういうことはまずないと思いますけど。「自分が当事者の場合は、冷静な判断ができなくなる」というのは、業界でよく聞きますが。
 X線検査、MRI、超音波検査などの読影能力は医師により異なるから経験の乏しい医師が人間ドックを担当すると非常に多い画像の中から情報を読み切れないだろう(223ページ)、内視鏡手術は医師の技量により手術結果が左右されることが多い(240ページ)としながら、「患者さんが病院内部の医療水準を知ることは困難と言わざるを得ません」(236ページ)。まぁ、そういうものでしょうね。弁護士業界も、そう言えば、そうとしか言えませんし…
 手術の際の局所麻酔で、硬膜外麻酔ならば手術後の痛みを感じることなく副作用の心配もほとんどないが、通常の麻酔よりも30分くらい時間がかかるので手術が多い大病院ではあまり行われていない、「もし、私や家族が腹部の手術を局所麻酔で受けるとしたら、必ず硬膜外麻酔を選択します」「もし、病院側が拒否するようなら、病院を替えてもいいとさえ思います」(240~242ページ)というのは、この本のタイトル通りの感じの情報ですが、そういうことがあるのですね。
 医療業界側の利害に沿って書いているように思えるところもあり、全部文字通りに受け取るべきかは疑問がありますが、健康問題・医療問題を少し冷静に見るのに読んでみて損はない本かなと思いました。


北條元治 祥伝社新書 2016年3月10日発行
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パフォーマンス・ブレークスルー 壁を破る力

2017-02-21 22:30:23 | 実用書・ビジネス書
 職場でのリーダー的な人物とその上司や部下、同僚の人間関係・コミュニケーション上の不調・トラブル・行き詰まりや、営業担当者などの顧客等へのアプローチなどについて、別の役割・キャラクターを演じることで改善するというプログラムを提供している著者が、事例を基にその実践を解説する本。
 現代社会では何でも知っている知識人であることに大きな価値が置かれ、わからないということは悪であるかのように扱われているが、知らないことがあるという自覚を受け入れることが現代のリーダーに求められることであり、それはリーダーはチームを未来に導くが未来に何が起こるかは当然誰も知らないから(63~67ページ)という説明には、うならせられます。知らないと認識するからこそ学びと成長のチャンスがあるわけですし。そして、デートに度々遅刻する夫に対し、遅刻したらその罰として5分間二人でダンスをするというルールを提案したアリシアのケース(142~143ページ)には目を開かせられます。遅刻を非難していらだつのではなく、自分が楽しいことをして二人で愉快になろうという発想の転換は、ほほえましくも素晴らしい。これぞ夫婦和合の秘訣。
 多数の改善事例を読んでいると、職場でのトラブル・不満のかなりの部分を占める職場での人間関係について、こうして改善していけたらいいのになぁ、と思えるのですが、紹介されている改善事例の具体的にうまくいったものには、著者らのチームが会社からあるいは上司側から依頼を受けたものが多く、上司側が態度を変えアプローチを変えることで改善しているというパターンが大半を占めています。おそらくはかなり高額の(弁護士以上の、かも)コンサルタント料を取る著者らのチームに依頼できるのは経営者やかなり高給取りのマネージャー・リーダーが大半を占めるという事情によるのでしょうけれど、上司と部下がうまくいかないときに、上司側が部下に配慮し変化するのであれば、部下側が上司を受け入れずに反抗を続けること自体難しいわけで、うまくいきやすいのはある意味で当たり前といえます。
 特に、「難しい場面での会話」と題する第9章(208~231ページ)では、冒頭に並べられる問題事例は多くが一労働者の立場での問題提起に思えるのですが、本文に入ると、一労働者の側で問題解決に挑むケースがあまり見られません。
 部下側から上司へのアプローチの事例は、新任の上級副社長マイケルが上司のカーソンに話しかけるという場面(244~247ページ)で自信を持ち間を取れというようなことや、無口なタイプのエドが攻撃的なシニアパートナーのウィリアムと話す場面(259~261ページ)でジョン・ウェインの物まねをして威張った態度をとることでリラックスするくらいで、一般の労働者の参考になると言えるかは疑問があります。後者などそのケースではたまたまうまくいったかもしれませんが、上司との関係をかえって悪化させかねないように思えますし。その他に労働者側で使えるかもしれないと思うのは、教師とモンスターペアレントの事例(232~242ページ)、セールスパースンと見込み客の事例(116~120ページ、243~244ページ)、コンサルタントとクライアントの幹部(223~228ページ)くらいです。
 全体として、労働者側が職場の人間関係上のトラブルに向き合うときに有効に思えるケースは少ないですが、そこにあまり期待せずに、うまくいかない人間関係一般の改善に向けたチャレンジとして読むと、何か使える場面があるといいなと思い、少し得した気分になれるかなという本です。


原題:Performance Breakthrough
キャシー・サリット 訳:門脇弘典
徳間書店 2016年10月31日発行 (原書も2016年)
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雑学の威力

2017-02-20 00:52:26 | 実用書・ビジネス書
 本業は漫画家だが、現在はテレビコメンテーター、クイズ回答者として知られる著者が、雑学の身につけ方、活かし方等を論じた本。
 「例えば、『遺伝子工学』について知っているよりも、雑学的知識のひとつとして、道端できれいな花を咲かせている植物の名前を知っていたほうが、人との会話を盛り上げるという点でははるかに有用です。もしくは、「宇宙工学」に精通しているよりも、夜空の星座に関して詳しいほうが周囲の人からのウケはいいでしょう」(5ページ)。確かに。言われている側の学問をしている人は悲しいでしょうし、今どき「夜空の星座」を見ることができる人が、少なくとも都会に、どれだけいるかは疑わしいところではありますが。「雑学の最大のいいところは、『人を傷つけない』ところです。仮に、話をしていて相手を不機嫌にしてしまうなら、それは雑学ではありません。その点だけは絶対に押さえておきたいポイントです」(36ページ)も、なるほど、とは思いますが、この書きぶりは何か嫌な経験があるのでしょうね (^^;)
 雑学を収集する作業を飽きずに継続するコツのひとつが、知識を得るたびに「あー、今日もひとつ頭が良くなったよね」と声に出して言うことで(78ページ)、「不思議なもので、実際に毎日のように繰り返して口にしていると、脳がその言葉を信じ込んでしまうのか、着実に一歩前進したような気になります。同時に刷り込んだ新たな知識の内容をそばにいるカミさんに伝えることで、より確実なものにできます」(126ページ)だそうです。なるほど。
 自宅で見つけたテントウムシが「ムーアシロホシテントウ」だったとか、クモが「アダンソンハエトリ」だったというエピソードで「日本の一般家庭に、外国からムーアさんやアダンソン博士なんていうお客さんが来ることはまずないでしょうから、虫とはいえ、しっかりと歓待してあげないと礼を失するというものです」(72ページ)って…『日本産原色クモ類図鑑』が常備されている「一般家庭」の方が珍しいんじゃないかと。
 「漫画を描いていればネタ切れはしょっちゅうですが、ネタが出てこないからといって連載を飛ばしたことは35年間一度もなく、最終的には必ず切り抜けることができているのです」(188ページ)は、ご立派。締め切りのある書面を多数抱え続ける仕事をする者として、その苦しさはよくわかります。博識の自信がそうさせるということとして書かれていますが、むしろ逆にそういう人だから雑学の収集を継続しひとかどの者になれるのではないかとも思います。
 全体としては、ビジネス書にありがちな、出版のコンセプトは明確でわかりやすいが書ける方法論に限界があり次第にページを増やすための水増し・こじつけが続き終盤にはだれてくる、ページ数をもっと減らしてコンパクトに抑えた方がいいのにねという読後感ではありますが、趣旨はなるほど感があります。


やくみつる 小学館新書 2016年4月6日発行
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さよならインターネット まもなく消えるその「輪郭」について

2017-02-08 21:17:48 | 実用書・ビジネス書
 レンタルサーバー事業や各種のウェブサービスの会社を経営しインターネットのプラットフォームを提供する側に立ち、2014年には東京都知事選挙に立候補しネット選挙を展開した著者が、インターネットの過去・現在・未来を語る本。
 基本的に、著者の経験談で自伝的エッセイという感じです。インターネットの初期、電話回線でその都度接続・切断し、モデムの「ピーヒョロヒョロ…」を聞いていた世代としては、懐かしい話が見られ、またSNSで「友達」からの投稿やシェアで送られてくる情報が基本的に方向性が同じで、それを見ていると世の中を見誤る(私の経験でも選挙など特定の陣営の側にいると身内の情報が多数流れてきているのに漬かっているうち勝っているように錯覚してしまうことが多々あります)というような話は、そうだよねと思うのですが、だからインターネットの利便性が減少したわけでも特に危険になったわけでもないと私は思います。確かに送られてくる情報だけ見ていたら心地よい幻想の世界に浸ってしまうのでしょうけれども、そもそも自分で積極的に情報を求めることで自らの知識や検討・検証能力を高めることができるのがインターネットの大きな魅力だと思うのです。近年のSNSの発達などにより、インターネット環境が誰もが顔なじみの田舎町のようになり、どこへ行っても知り合いに出くわし、監視されているような窮屈さを感じるとして、そこから外へ(リアルの世界へ)飛び出すことに救いを求めようというのは、著者がそうするのは自由ですし、ネット社会で息苦しさを感じている人にそういう道もあるよと示唆するのはいいと思うのですが、推奨すべき方向性と言えるか疑問を感じます。


家入一真 中公新書ラクレ 2016年8月10日発行 
 
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世界で大活躍できる13歳からの学び

2017-02-07 21:56:25 | 実用書・ビジネス書
 課題に対する答えをレゴブロックを使うなどして「見える化」し、その後調査して得た情報と課題に答えた時点での考えを比較して話し合い、それらの過程や結果を映像化してネット上遺してアーカイブ化して振り返ることができるようにするというような方法論で中学の英語教育を行い、日本で初めて「グローバル・ティーチャー賞」の最終候補となった著者が、教育論を語った本。
 日本の教育は、知識を「知っている」ことを目指し、「答えがすでにある問題」について速く正解を出すことには向いているけれども、世界では「理解すること」が重視され、学んだ知識をどう使うか、どう判断するかを聞いてくる、現状を分析して自分が知っている知識をフル活用して「最も正解に近い仮説」を立て、それを相手が納得するように伝えることを求めている、言い換えれば、日本では「勉強」に力を入れ、世界は「学び」を求めているというのです(46~47ページ、94~97ページ)。
 これって、法律相談について新聞・雑誌やネットでの「法律相談」と称する記事を見て一般の人が持つ誤解と、弁護士が現実に行っている(少なくとも私が行っている)法律相談の違いみたい。ときどき、法律相談を、文書で質問したら、それに対して既にある法律知識を当てはめてそれで回答が来るものと思って、手紙やメールを送ってくる人がいるのですが、本来の(少なくとも私がする)法律相談は、現実の紛争の具体的な事実関係とそれを裏付ける証拠を検討して、相談者にとってより望ましい解決をするために、仮に裁判になったら裁判官にどういう事実を説得できるか、その事実にさまざまな法律や裁判例、その他の知恵を出して、どういう結論が妥当だと裁判官に説得できるかを考えて、その見通しの下で、相手や相手方の弁護士に何を説得できるかなどを考え、どのように進める可能性があるか、そのために今後準備するべきことは何か等を考えていくものです。前提となる事実をどう考えるかでも具体的な証拠を検討し評価する必要がありますし、使えそうな法律や裁判例を考えるときも事実関係の細部まで検討しないと見誤る危険があります。最初から決まった1つの答えがあって法律の知識を当てはめればそれがわかるという性質のものでは、全然ありません(新聞や雑誌・ネットでの「法律相談」と称する記事の多くは、本来「法律豆知識」とでも呼ぶべきもので、とても「法律相談」などと言える代物ではありません。その手の記事のおかげで、どれだけ多くの人が法律相談を誤解しているか…)。この本で、勉強は一方的な個人プレー、学びは対話だと言っている(100ページ)のと同じで、対話のない(手紙とか。メールもそれに近い感じがします)法律相談なんて、私の感覚では、あり得ません。


髙橋一也 主婦と生活社 2016年11月7日発行
 
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作家の収支

2017-01-27 22:22:17 | 実用書・ビジネス書
 38歳でデビューして以後19年間に280冊ほどの本を書いた(まえがき)小説家の著者が、小説を出版したときの単行本、ノベルズ、文庫、ドラマ化・映画化による収益などについて語った本。
 これといった大ヒット作はなくマイナーな読者層を狙って書いているという著者が、大きな収益を得るために推奨しているのは、とにかく次々と出版すること。新刊が並んでいれば、過去の本もあわせて売れたりして長く売れるって。出版社が次々書かせてくれる、出版してくれること自体、売れてないと無理ですけど。
 原稿料が、小説でもエッセイでも、そしてどんな人気作家でも駆け出しの新人でも同じ、ものすごい傑作でもどうでもいいような駄作でも同じということに、著者は疑問を呈して(要するに不満なんでしょうね)います(29~31ページ)。弁護士の世界でも、会社の弁護士の場合はタイムチャージ(1時間当たりいくら)で新人弁護士(それでも1時間2万1000円とか)とベテラン弁護士(有名どころだと1時間5万円くらい)で単価が違うのですが、一般市民相手の法律相談とかだとどんな専門家の弁護士・ベテラン弁護士でもまったくの新人弁護士でもたいていは30分5000円(+消費税)です。かつては弁護士会の報酬基準がそうでしたし、弁護士会の報酬基準が公正取引委員会に競争制限だと言われて廃止された今でもほとんどの弁護士が自主的にその基準でやっています。専門の弁護士とまったくの新人弁護士では同じ時間相談しても、その質はまったく違うと思うのですが、そうは言ってもあまり高くすると一般市民の方が相談できなくなりますし…という配慮でそうなっているのだと思います。作家の原稿料の場合、出版社との力関係が大きいかもしれませんが、原稿料が高くなると文芸誌が作れなくなるし、というところで似たような話があるのかもしれません。


森博嗣 幻冬舎新書 2015年11月30日発行
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