伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

たそがれダンサーズ

2020-08-31 00:00:42 | 小説
 60歳定年時に再雇用を希望しないと言ったら引き留められなかったことに屈辱感を持ち、子どもの頃に捨てられた実父が認知症となって役所から連絡が来て時折面会に行かなければならないことに不満を感じていた田中がかかりつけの医師から適度な運動が必要と言われてその娘から社交ダンスの世界では男性が足りなくて困っていると懇願されてその気になり、社内政治をうまく泳いで部長になったが社長が交代して同期の者が取締役となって自分の先行きが暗くなり不満に思う川端が長年モテたいという思いと計算で検討していた社交ダンス教室通いを始め、IT企業を3年で辞めて会社を手伝うと言い出した息子を受け容れたが理屈ばかりで使い物にならないと舌打ちし続けている町工場の社長大塚が映画「Shall we ダンス?」を見てやってみたくなり、といったことで社交ダンスを始めた中高年初心者男性16名が、ダンスパートナーの妻を亡くしたばかりで失意に暮れる米山の下で社交ダンスの初歩の特訓を受けることとなり、それで社交ダンスにはまり…という小説。
 ダンスそのものだけでなく、日常生活への不満から社交ダンスへと逃げたり気晴らしが必要となったおっさんたちが、ダンスやダンス教室での人間関係を通じて、不満を持っていた家族や会社関係者との関係をも見直し、そちらの方での問題も改善されていくという展開が、小説だからではありましょうけれども、読んでいて心地よく思えました。


桂望実 中央公論新社 2019年9月10日発行
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ATMのトリセツ

2020-08-30 18:56:33 | 実用書・ビジネス書
 ATMについて基本的な事項、機器の特徴、メンテナンス・警備・現金装填等の管理、遠隔監視、顧客からの問い合わせへの対応等について、説明した本。
 入金された紙幣・硬貨を取り扱う部分には、入出金部(投入・受取口)、一時保留部(取引中止等の際の返却のため一時的に置いておく場所)、監査/鑑別部(紙幣・硬貨の真贋、金種、流通可能かの判断)、スタッカ(紙幣・硬貨の貯蔵場所)、リジェクト庫(流通不可と判断された紙幣等の格納場所)、取り忘れ回収庫(顧客が取り忘れて帰った紙幣等の格納場所)など様々なパーツが有り、まれに機内の搬送路などに紙幣が残留して正しい金額の紙幣枚数が手元に出ていないこともある(その場合は、一連の手続における詳細を説明した上、丁重にお詫びするように指示されています)ということです(166ページ)。ATMでトラブルがあって、入金や出金が中断したり、ましてや通帳やカードが機械に飲まれたままだと、その場で足止めされて長時間待たされることになります。私も一度だけですが、経験があります。運営会社側からすればどうしようもないのでしょうけれども、顧客側ではまったくの災難で、どうにかならないものかと思います。
 設置スペースとコストの問題などから、コンビニ型のATMでは通帳が利用できず硬貨も取り扱えないことが多く、顧客の要望では通帳利用を求める声が多いのですが、今後通帳や硬貨が利用できるATMが増加することは期待できそうにないようです。


日本ATM株式会社編著 一般社団法人金融財政事情研究会 2020年3月26日発行 
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みんなが知りたいシリーズ13 地下水・湧水の疑問50

2020-08-28 22:52:39 | 自然科学・工学系
 地下水・湧水の成り立ち、特徴、飲用・生活用水・農業用水・工業用水としての利用、歴史、地下水の汚染、地下水をめぐる法制度等をQ&A形式で解説した本。
 日本やイギリス(島国)では火成岩系の地質でミネラルが溶け出しにくく傾斜が急なために地下水の流速が速いことから軟水が多く、茶の成分をよく抽出するため緑茶・紅茶の文化が発達し、出汁が取りやすいのに対し、石灰岩質で地形が緩やかな大陸ヨーロッパでは硬水が多く硬水でも支障がないコーヒーが普及し、硬水を直接料理に使わずスープストックを使うなどの説明(154~157ページ)は興味深く読めました。
 地下水の権利については、伝統的に土地所有権に付随するもので土地所有者が地下水(井戸等)を自由に利用してよいというのが裁判所の立場です。この本では、その上で、1966年には地下水が共同資源であり、同一の帯水層中の地下水を利用する場合は、利益・損益の公平かつ妥当な配分の原則を示す判決が出されましたと紹介している(115ページ)のですが、どの裁判所の判決なのかも書かれておらず、注記されている参考文献は他の人の本(それも法律系の本でないことが一見明らか)です。調べてみると、ここでいわれている判決は、松山地裁宇和島支部の1966年6月22日判決で、この判決の後も、土地所有者が自由に利用できるという判決が多数出ていて、この判決が流れを変えたというわけでもないようです。ずいぶんとたくさんの人で分担して執筆しているのですから、法制関係は法律の専門家に執筆依頼した方がいいと思うのですが。


公益社団法人日本地下水学会編 成山堂書店 2020年6月28日発行
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レフトハンド・ブラザーフッド

2020-08-27 20:46:49 | 小説
 双子の兄海斗とともに幼なじみの七海に思いを寄せていたが兄がリードしていたことを知り(この設定と展開、「タッチ」か?)、兄に話があると言って兄をバイクの後ろに乗せて走行中に事故って、兄が死に、そのトラウマに悩むうちに兄が左腕に乗り移り兄と共存するようになったインターハイミドル級3位の高校生ボクサー岳士が、精神科医の治療により海斗が消滅することを嫌って家出中に、殺人事件の容疑をかけられて逃走し、真犯人を捕まえるために奔走するという、SFというよりはオカルト系でしょうね、ミステリー小説。
 設定の荒唐無稽さをどこまで我慢できるかと、読者サービス用に色気を盛った隣人桑島彩夏のキャラ設定と言動のいい加減さ(作りの粗さ)を我慢できるかが、評価の分岐点になると思います。謎解きや展開は、まぁ悪くないと思います。


知念実希人 文藝春秋 2019年3月15日発行
「別册文藝春秋」連載
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2020-08-25 22:19:47 | 小説
 パリで小説を書きながら書家を生業としている72歳の父澤凪泰治が1年前から「一過性健忘症」の発作を繰り返し、今自分がどこにいるのかわからないというヘルプコールを受けて度々仕事をキャンセルしてパリの街を探し回る30歳の語学学校講師澤凪充路(ジュール)が、幼いときに母が駆け落ちして事故死した相手のフランス人男性リシャール・マルタンの娘リリーと交際を続ける様子、父の家政婦たちとの悶着等を描いた小説。
 自分の父が死亡した原因を作った女性の子を訪ね、父の死の真相を知りたいと調査と議論を続け、逃げようとするジュールを追いかけて話を続け、堂々巡りをしてけんかをすることもしばしばだったリリーが、その相手ジュールに好意を持ち、デートを重ね、ジュールも好意を持ち交際するようになるという設定に、そんなことがあるのかなぁという違和感があって(知り合ってから事実を知ったのではなくて、リリーはそれと知ってジュールを探して会いに行き、ジュールは最初にリリーに事実を告げられたというのに…)、なかなか2人が恋仲になり、結婚を決意し、という展開に入って行きにくい思いをしました。
 妻が男と駆け落ちして事故死していなくなり幼い息子を育てるために決意して実践してきた父の姿と、その父が老いて健忘症に悩まされる姿を通じて、父子関係を考え味わうメインテーマでの読み味はいいと思うのですが。


辻仁成 集英社文庫 2020年7月25日発行(単行本は2017年5月)
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加害者家族を支援する 支援の網の目からこぼれる人々

2020-08-23 20:41:04 | 人文・社会科学系
 犯罪加害者家族を支援するNPO法人 World Open Heart 理事長の著者が、加害者家族が置かれている状況、支援の必要性等について解説した本。
 犯罪加害者の家族は、多くの場合、犯罪に関与もしておらず法的には何らの責任がなくても、マスコミの報道によりさらし者にされ、匿名のネット民や近隣住民等による嫌がらせを受けがちです。私も、25年ほど前に、犯罪被疑者(後日不起訴)の妻の勤務先をタイトルにした記事を書いた人権侵害常習犯の「週刊新潮」の記事のあまりの志の低さ、ルール無用の悪党ぶりに驚き、訴訟提起した経験があります(そのときの判決は、今でも犯罪事件の関係者についての報道が許される範囲についてのリーディングケースになっています…と思います)。
 この本は、その犯罪加害者家族に対する支援について、そういうわかりやすいケースのみならず、親が甘やかし続けたことで結果的に犯罪を助長したとか、親の虐待が犯罪性向を強めたとか、家族自身にも一定の責任があると考えられるようなケースも含めて、多様な加害者家族を支援すべきことを論じている点でユニークなものと言えます。
 著者は、情状証人としての証言等の際に家族のプライバシー保護や精神的負担軽減の配慮が足りない(26ページ)、情状鑑定に否定的でそもそも情状鑑定を理解していない弁護人が少なくない(33ページ)、家族を安易に情状証人にする(37ページ、39ページ)等、弁護士に対する批判を繰り返しています。活動の過程での経験に基づいた不満が多数あるのでしょうけれども、同時に弁護士の活動に対する期待の高さを示しているのかも知れません。私自身はもう15年あまり刑事事件はやっていませんので現実の業務には関わりませんが、一面では刑事弁護という観点からはそう言われてもというところもあり、他面では傾聴すべき点もあるのかなと思います。


阿部恭子 岩波ブックレット 2020年6月5日発行
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泣きかたをわすれていた

2020-08-21 20:43:00 | 小説
 子どもの本の専門店「ひろば」を経営する72歳の冬子が、10年前まで7年間にわたり認知症が進行する母親の介護と格闘しつつ母親との時間を愛おしく思う様子、「ひろば」の経営やスタッフへの思い、嫌がらせをする連中に対する思考の中での処理、かつて日々をともにした元全共闘と思われる塾講師で交通事故で死んだ男、女友達との付き合いなどを描いた小説。
 母親の介護については、著者自身がインタビューで自分の経験を書いたとしていますし、子どもの本専門店「クレヨンハウス」と年齢など、そのままの設定ですから、少なくとも読者に著者の実生活そのものと思われることを想定して書いているものとみられます。
 そうしてみたとき、著者が母親の介護をすることをフェミニズムへの裏切りと詰る友人との会話(30~36ページ)は、著者の主張、生き方をめぐり、著者自身歯がゆさを感じながらとも思いますが、読ませどころになっています。相手を原理主義・教条的と切り捨てずに、疲れながらも対話を続けようとするところに、著者の立ち位置が偲ばれます。終盤でもう一度、この友人の葛藤を描いてみせる(192~198ページ)ことが、理屈だけじゃないと、この友人に好感を持たせるか逆になるかは少し微妙ではありますが。
 子どもの頃に毎晩母親に絵本を読んでもらった「絵本の時間」を、著者は認知症の母親に絵本を読み「おかあさんと冬子の時間」として再現します。寝る間際に楽しみにしている子どもに絵本を読み聞かせることは、親にとって楽しみだと私は思いますが、認知症の人に読み聞かせるのはだいぶ違うと思います。そこには、「君に読む物語」のような、本人は楽しみだと位置づけているかも知れないけれど、端からは覚悟と悲壮感と敬意とよくやるよなという複雑な反応が待っていると思います。
 小説の構成としては、母親の介護に集中する前半に比べ、後半は様々なエピソードが時系列もテーマもまとめられない印象で綴られ、とりとめのない感じがします。しかし、この国の今を、シングルマザーの下で育てられ、子どもを持たない選択をし、政治的には反原発・反安保法制等のシンボルとなり、様々な点でマイノリティとして生きる著者の日常生活や思考のありように関心を持つ者には、興味深い作品です。おそらくはこのとりとめなさも、著者の思考と思いを感じ取らせるために敢えてそうしているのではないかとも思えます。


落合恵子 河出書房新社 2018年4月30日発行
「文藝」2018年春季号
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ラストライン3 迷路の始まり

2020-08-20 23:12:31 | 小説
 「ラストライン」から2年と少し経ち、52歳になった南大田署の刑事岩倉剛が、管内で通り魔殺人の被害者と見られていた島岡剛太が目黒中央署管内のマンションで殺害された経済評論家藤原美沙と男女関係にあったことを掴み、事件は意外な展開を見せ…という警察小説。
 主人公岩倉剛の最大の特徴として設定されていた驚異的な記憶力は、ほぼ影を潜め、申し訳程度に触れられているだけになります。もう一つの属性だった20歳年下の劇団女優の愛人を持つ点も、冒頭からその劇団女優がニューヨークにオーディションを受けにいって遠距離恋愛になってしまいます。こうなると、ただ妻と別居中で高校生の娘を持つ50代のオヤジ刑事の話というだけになってしまいます。
 そして、今回は、悪役をMETOなる謎の武器密輸組織にしてしまい、しかしながら登場する犯人はどこかチンケな中途半端な連中で、悪役としてキャラ立ちしていないし、またこういう寄せ集めで「謎の組織」ができるのか疑問に思えます。今回「迷路の始まり」というタイトルを選んだのも続編をこの謎の武器密輸組織との闘いとするつもりで、おそらくは岩倉剛の愛人をニューヨークに行かせたのも次作で「国際」組織との闘いの場がニューヨークになったりすることを予定してるのだろうと思いますが、悪役のキャラが作り込まれておらず、無意味に国際的な謎の組織なんていうのが相手になると、きっとつまらない作品になるだろうなとげんなりしてしまいます。


堂場瞬一 文春文庫 2020年3月10日発行
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ミルク・アンド・ハニー

2020-08-18 18:23:28 | 小説
 売れっ子脚本家の高遠奈津の2度の結婚と離婚、夫たちとのセックスレスと人より強い性的好奇心から満たされぬ体を他の男たちとのアバンチュールや買春で満たしあるいはなだめすかしていく姿を描いた官能小説。
 理解を示しているふりをしつつ奈津の稼ぎを当てにし、金に執着し離婚時にはさらに見苦しさを見せる夫たちの醜さ・浅ましさを描き出し、自ら稼ぎ夫が満たしてくれぬ体を持て余して不貞行為や買春をする女ばかりがなぜ糾弾されると抗議しつつ、そこは男性誌に連載されている小説ですから、主人公を結局は金銭管理ができず男に騙されるだらしない女で男の意向を先回りして忖度する女と位置づけ、最終的には強い絶倫男に屈服させ、中高年男性読者に媚びを売ることも忘れていません。
 若干の問題提起も見られますが、基本的には男性週刊誌用の娯楽性に重点を置いた官能小説(濡れ場の頻度かなり高い)です。


村山由佳 文藝春秋 2018年5月30日発行
「週刊文春」連載
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国宝 上下

2020-08-16 22:19:44 | 小説
 長崎の極道の親分のひとり息子で新年会の余興のために稽古を付けられて類い稀な才能を見いだされた立花喜久雄が父親を殺されて長崎を追われて関西歌舞伎の役者花井半二郎に引き取られ、半二郎の息子俊介とともに歌舞伎の女形として才能を開かせるが、後継者の指名、実力者による圧力・排斥等に翻弄され、雌伏の時を経て歌舞伎界の頂点に立つまでを描いた小説。
 歌舞伎についてのうんちく、演目、演技等についてのこだわりに比べて、登場人物の人間関係や行動についての書きぶりは端折りや先細りが目に付きます。俊介が喜久雄の情婦だった春江と出奔した経緯、その後10年間の様子など、ストーリーからして読者がいつかは書かれるものと期待する点が、ずいぶんとあっさり終わっています。序盤の展開から、どこで落とし前が付けられるのかと読者が待つ喜久雄の父親殺しが弟分の辻村の裏切りによるものだったことを喜久雄が知る場面とその時の喜久雄の反応も、最後まで先送りされた末に、これだけもったいぶってこれだけ?と思わせられます。


吉田修一 朝日新聞出版 2018年9月30日発行
朝日新聞連載
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