伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

名もない顔もない司法 日本の裁判は変わるのか

2007-12-30 21:18:15 | 人文・社会科学系
 日本とアメリカの裁判官と裁判制度を比較して論じた本。
 タイトルにあるように裁判官の個性についての考えと裁判官や裁判の公開についての考えが違うことを軸として論じています。アメリカでは裁判官に個性がありそれが裁判の進め方などに現れることを前提とし、裁判官の任命の手続が公開され、陪審制度を通じて市民が裁判と裁判官を直に知る機会があり、そういった情報の公開を通じて市民の裁判への信頼が高まるのに対して、日本では誰が裁判をしても同じ結果となることがよしとされ、裁判官の任命や個性についての情報はほとんど知られず市民と接触することもほとんどない。アメリカは透明性(公開と批判による誤りの修正)を重視し、日本は統一性を重視する制度と評価され、著者は日本の裁判制度が透明性を高めることが必要だと論じているわけです。日本の裁判所は判例法主義のアメリカよりも先例を重視している(17~18頁)という指摘もあります。
 さらにアメリカと同様に直接主義・口頭主義(法廷で証言されたことで判断するということ)を標榜しながら審理途中で裁判官が交代できることはアメリカ人には衝撃的(252頁)とか、裁判員制度導入に当たってアメリカで報道の影響排除のために取られている方策が日本では準備されていないことやアメリカでは陪審員に示すことが禁止されている被害者の意見や被告人の前科・性格についての証拠が裁判員は(陪審と異なり)量刑も判断するがために裁判員に示され事実認定の判断にも影響を与える危険等への懸念が示されています(306~310頁)。有罪・無罪の判断段階での被害者の積極的参加がアメリカでなら違憲審査で認められるとはまず考えられない(310頁)とも。
 著者の立場は穏健で比較的保守的と見え、視点はごく実務的なもので、弁護士の目からはやや政治や裁判所への遠慮ないし目配りが感じられはしますが、説得的な内容に思えます。司法改革と裁判員制度をめぐって考えるときの、少し全体からの視点を得るのにいいかなと思いました。


ダニエル・H・フット 訳:溜箭将之
NTT出版 2007年11月20日発行
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大人が知らない携帯サイトの世界

2007-12-29 17:03:44 | 実用書・ビジネス書
 携帯サイトと主として携帯電話でネットを利用するケータイ世代についてパソコン世代向けに紹介した本。
 著者によれば、10代から20代前半のケータイ世代はITリテラシーは高くなく技術には全くといってよいほど関心がなく、常に携帯電話が欠かせず、電話番号やメールアドレスについて意識が低く簡単に変更し、大多数はオタクはキモイと思っているそうです(22~33頁)。これはこれでステレオタイプ化した見方とは思いますが、番号ポータビリティ制度なんて番号変更にこだわりがないケータイ世代にはお金がかかるだけのあまり意味がない代物(28頁)という指摘はおもしろい。
 パソコン世代には画面が狭くて通信速度が遅くて高い魅力のないものだった携帯サイトが、ケータイからネットに入った(親に気兼ねなくネットに入れるツールがケータイだった)ケータイ世代には最初からネットはそういうものという意識で受け入れられ、携帯サイトはケータイ世代中心で利用され、パソコン世代と住み分けられていたものが、次第に両方からネット利用する人が多数派になって携帯サイトとPCサイトの融合が進んでネット文化の違う両者が衝突する機会が増えたということがこの本の問題提起になっています。で、日本では今後携帯電話からのネット利用が優位になっていき、またケータイ世代の社会人化でケータイ世代が顧客となることからパソコン世代がケータイ世代に理解を示していく必要があるというのが著者の結論。まあネット事業者としてはそうでしょうね。
 携帯サイトの問題サイト対策で「魔法のiランド」がやっている「アイポリス」ってスタッフがいちいちサイトを閲覧してチェックして管理者に注意してるんですね(197~198頁)。ご苦労様ですね。


佐野正弘 マイコミ新書 2007年9月14日発行
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アクティブレストで疲れをとる!

2007-12-29 16:48:40 | 実用書・ビジネス書
 疲労回復のために、ただ休憩するのではなく、ストレッチングやマッサージ、軽めの運動などで体を動かすことによってより速く有効に回復しましょうという本。
 運動による疲労からの回復は安静にしているよりも軽い運動をする方が速く回復するそうで、近時健康維持のために推奨されている乳酸性作業閾値(LT:運動を続けても血液中の乳酸濃度が上昇していかないレベル)の運動よりも軽い運動が適当だそうです(78~79頁)。
 体の部位別のセルフストレッチングやペアストレッチングが写真付きで紹介されているので参考になります。マッサージは体の先から中心に向かってやるんですね。どうも凝ったところをまず、往復でさすりたくなるんですが。


藤牧利昭監修 山海堂 2007年9月25日発行
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11センチのピンヒール

2007-12-28 22:15:50 | 小説
 見栄っ張りで人に弱みを見せたくないために友だちにも嘘ばかりついているアパレルショップ店員24歳女が、身から出た錆でショップも首になったりして追い込まれる中、6歳年下のひたむきな男子高校生の愛にほだされて素直になれて幸せをつかむというストーリーのケータイ小説。
 安月給なのにブランド品を買い続けて借金漬けになり、そのことも含めて友だちにも嘘ばかり言うわ、小金持ち男に振られても未練がましく連絡し冷たくされると高校生に電話して呼び寄せてセックスするわと、見栄えはよくても軽薄でダメな女を絵に描いたような主人公で、前半はいかにも嫌な感じ。終盤で、追い込まれて開き直り友だちに本当のことを打ち明けたところから急転直下素直になってハッピーエンドへという展開が、安直ですが、まあエンタメとしてはわかりやすくていいかというところ。
 でも借金で悩むなら、ご利用は計画的に、相談は早めに弁護士へ・・・コマーシャルでした(^^ゞ


LiLy 小学館 2007年12月1日発行
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やりたいことがわからない人たちへ

2007-12-27 20:33:58 | エッセイ
 やりたいことがわからないと悩む若者に向けた人生論。
 基本的に著者の言いたいことは、やりたいと思わなかろうがつまらないことだと感じていようが、今やっていること、今与えられている仕事、課題を全力でやれ、それにより力が付き評価も上がり、やりたいことを見つけてやり抜く力が身に付く、つまらないと思いながら人生を過ごしているとやりたいことも見つからないしやりたいと思ってもやる能力がないとあきらめることになるということ。一面の真理ではありますが、元マルクス主義者が転向してPHP研究所から出版している本だということを前提にすると、使用者に使いやすい都合のいい労働者を作り出すための奴隷の哲学とも読めてしまいます。
 こうだと論じては、例外に目を配りたいからか違うことを論じという調子で、論理の運びが今ひとつスッキリしない感じがしました。連載エッセイをとりまとめて一冊にしたのかと思って読んでたら、最後に書き下ろしって書いているし。そこここに書いていること自体は、使用者に都合がいいなあとは思いつつも、わかるのですが、全体を通じると、なんかわかったようなわからないような読後感でした。


鷲田小彌太 PHP文庫 2001年5月15日発行
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もっと深く「知りたい!」フィギュアスケート

2007-12-25 09:07:17 | 趣味の本・暇つぶし本
 フィギュアスケートについてのQ&A形式の入門書。スケートを習う人用の入門書ではなく専ら見る人向けだと思います。
 フィギュアスケートを見ていていつもわからないジャンプの種類の違い(でもルッツとフリップって跳ぶ前に体重が靴の外側のエッジにかかっているか内側のエッジにかかっているかだけの違いなんですね:28~32頁。それがわかっても見ていて区別できないでしょうね)とか、ルール(ジャンプが何回スピンが何回とか。宙返りも禁止されているんですね)とかが初心者向けに解説されていて、参考になりました。
 ジャンプもスピンも日本選手は左回りばかりなのは、民間のスケート場の大半で右回りが禁止されている影響だとか(64頁)。スポーツをめぐる文化の制約というか影響が意外なところで出てくるのですね。


阿部奈々美 東邦出版 2007年12月5日発行
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眷族

2007-12-24 08:50:45 | 小説
 大阪でゴム工場と不動産で財をなした在日朝鮮人の家系と、裸一貫からその家を切り盛りした日本人妻トメと、その子孫たちという設定で、血族の確執と結束、馴れ合い、不義、近親相姦等を描いた小説。
 純血と血の穢れということが、トメが見知らぬ男に強姦されて産んだ次男の家系を穢れた血としてその子孫が淫乱で不義の近親相姦を繰り返す宿命のように描かれているのですが、大黒柱のトメ自身が日本人ですし、不義の子ではないはずの孝治も異常性欲者ですから、何をもって穢れた血と言っているんだかという気にもなります。「穢れた血」(103頁)なんて単語を見ると松岡訳ハリー・ポッターをイメージしてしまいますし。
 登場人物が多くて、近親間での不義密通が続くので関係を覚えきれなくて、ちょっと読むのがしんどい。えぇ~っと、この人の父親は誰だったっけとか読み返すことが多くなって・・・。
 あえて日本人のトメを一家の大黒柱に据え、不義の子たちを中心に描くことで、金持ちの血族へのこだわりと財産への執着をパロディ化したのだろうと思います。それを、在日朝鮮人の家系という設定でやる必要があったのか、それが適切なのかについては、読んでいて疑問を感じましたけどね。


玄月 講談社 2007年11月26日発行
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獣王

2007-12-23 09:14:51 | 物語・ファンタジー・SF
 現実の団体とは関係ありませんといいながらどう読んでも上野動物園を舞台に、飼育係の男性が、動物を擬態して見つめ続けその後には決まってその動物が死ぬという不思議な女性客「キョウコ」を寮に招き入れて住まわせながら飼育し続けるというストーリーの怪奇小説。
 見つめ続けた動物に次第に変身していく人間の言葉を話せない女性に恋して一方的な会話を続ける飼育係の姿は、幻想というか妄想というか、それ自体哀しくもあり怪奇でもあります。
 終盤には輪廻・転生なのか、主人公のアイデンティティ自体が崩れるというか入れ替えもあり、幻想感というか不思議感が強まりますが、B級ホラーっぽい展開のため哲学的なムードにはあまりなりません。設定からして、場所が明らかに上野動物園であること以外は、全然現実感がないのですが、私としては主人公とキョウコのコミュニケーションの行く末で最後まで展開した方が読ませたかなという気がします。


黒史郎 メディアファクトリー 2007年11月30日発行
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青色賛歌

2007-12-22 14:50:26 | 小説
 28歳フリーターでホステスと同棲中の主人公が、就職活動と出ていった猫探しをするというストーリーの小説。
 フリーターをこっち、勤労者をあっちと捉えて、あっちをうらやんでいた主人公が、あっちの世界もあまり居心地がよくない、あっちの住人もこっちをうらやんでいたということに気づくということがメインテーマになっています。そういったことを、日常的なことに若干のハプニングが起こる程度の展開で、驚きの展開はなく重くなくかったるい感触で語り進めています。結論は、いかにものラストが示すように、まあ吹っ切ってか開き直ってか、自分らしく生きればってことなんでしょうね。
 それにしても横領して警察に追われながらでもサラ金なんかから逃げたらどんな目に遭わされるかってサラ金にはきちんと返す大西(122~123頁)って。一般人はサラ金にそんなに恐怖を感じているんですね。サラ金はもちろん、ヤミ金融だってサラリーマンに貸してくれるようなところは「そんな目」に遭わせることもないと思いますが・・・


丹下健太 河出書房新社 2007年11月30日発行
第44回文藝賞 初出「文藝」2007年冬号
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人口学への招待

2007-12-21 23:45:02 | 人文・社会科学系
 人口の変化とその社会経済等の要因との関係を研究する人口学についての解説書。
 かつては人口爆発が心配されていたのが嘘のように、今や世界人口の43%を占める国・地域で出生率は人口置換え水準を下回り少子化が進行しているそうです(109~110頁)。
 他産他死社会から少産少死社会への転換は、ヨーロッパでは産業革命により途上国では衛生教育の普及によりまず死亡率が下がるという形で進んだそうです(116~117頁)。乳幼児死亡率が下がることでたくさん産む必要がなくなり、長生きすることになりよき計画的な人生を考えるようになって出産をコントロールする(120~121頁)って、わかりやすいけど、人間ってそんなものなんでしょうか。
 戦後の少子化の原因についてはいろいろ論争中だそうですが、伝統的な家族志向の制度を維持して男女役割分業制が残っている国ほど出生率が低い、ヨーロッパで出生率が高いのは自由主義的・個人主義的志向を持つ国で、出生率が低いのは全体主義を経験した国、1980年代以降世界で非常に出生率の低い国は日独伊三国同盟の国で現在の低出生率は女性のリベンジ(これは小話)なんて話(203~207頁)は、考えさせられます。東アジアでは受験競争の厳しさが教育費負担の増大等から出生率低下を招いているのではという著者の仮説(207~210頁)も興味深いところです。
 OECDの研究で、日本については育児費用の負担を減らすために減税や児童手当の増額をするとか正規の保育施設を増加するという施策で合計特殊出生率を2.0くらいまで回復できる可能性があるという指摘がされている(258~260頁)ことは初めて知りました。是非ともそういう施策はケチらないで実行して欲しい。


河野稠果 中公新書 2007年8月25日発行
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