伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

生命はゲルでできている

2024-04-26 20:34:33 | 自然科学・工学系
 生物の体が細胞から細胞外マトリックス、血管、腱、靱帯、軟骨、筋肉、皮膚など様々な階層でゲル状の組織でできていること、その性質、利点などを説明した本。
 ゲル(ドイツ語読み:英語読みではジェル)の例にゼリーやこんにゃくの他に豆腐やゆで卵、炊いたご飯やゆでた麺などが挙げられ(2ページ)驚きます。物理では、物質の3態として気体、液体、固体の分類がなされ、物質はその3つに分けられると思っていましたが、考えてみると生物の世界ではそう分類できないものが大半だと気づきます。通常は柔らかい流動性のあるものでも変形し流動する間もないほどのごく短時間にことが起こると硬いもののように振る舞う(外力を跳ね返す)、極めて速く足を動かせば水上を駆け抜けることもできるもので、時間スケールの取り方で固体のような性質も液体のような性質も持ちうるという説明があり(11~14ページ)、ちょっと目からウロコの気分がしました。そういう原理で水上を走るトカゲが表紙に採用されています。
 さまざまな生物組織やそれを構成する化学物質、構造の説明は、かみ砕いてなされているようで、でもわかったようなわからないような感じのところが多くありました。ゲルについての研究はまだ日が浅く、わかっていないことがとても多いというのですが。
 いろいろと視野を広げてくれる刺激に満ちた本でした。


長田義仁 岩波科学ライブラリー 2024年3月14日発行

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

健康寿命をのばす食べ物の科学

2024-01-06 00:07:10 | 自然科学・工学系
 食品、食生活が健康に与える影響とその原因・機構に関する研究の現状等について解説した本。
 新書であること、序盤の語り口等から平易な本と思って読み始めましたが、中盤以降はカタカナ・英字の生化学物質名と構造式が頻出し、あぁ私はやっぱりこの分野(生化学)が苦手だったんだと再認識するハメになりました。化学物質とか亀の子(ベンゼン環)とかが苦手な人は220ページ以下のまとめだけ読むという方針が無難に思えます。
 私は、聞き慣れない生化学物質名が出てきたところで脳が固まってしまい/拒絶反応を起こし、説明内容の大部分が理解できていないので、たぶん私の理解不足なのだろうと思うのですが、母乳についての説明で「乳の源は血液で、乳一リットルをつくるのに血液四〇〇~五〇〇リットルが必要とされます」(206ページ)って、それでいいんでしょうか。母乳で乳児を育てれば授乳量は1日あたり1リットルくらいになるということですが、人間の体内の血液は通常5リットル程度といいますから、この記述だと、授乳中の母親は毎日全血液の100倍程度を消費し(乳に変え)ているということになりかねません。私の読み違いなら(なんといっても、私はこの本の説明のほとんどがちゃんとは理解できてませんから)それでいいんですけど…


佐藤隆一郎 ちくま新書 2023年4月10日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はたらく土の虫

2024-01-03 21:14:16 | 自然科学・工学系
 土壌中に生息する虫たちの生態を解説した本。
 著者自身は、体長0.5~2ミリメートルくらいの節足動物「トビムシ」の研究を専門としている(世界中でトビムシを専門とする生態学者は50人くらいだとか:3ページ)そうですが、土壌生物
には「分解者」のイメージがつきまとうがミミズやシロアリのような特に影響力が強い者以外は野外では分解作用の検出さえ難しく分解にどれくらい寄与しているとも寄与していないとも断言できないとか(2~3ページ)、人工的な培養器の中でいろいろな餌を同時に与えると強い好き嫌いを示すトビムシが自然条件下では消化管内容物に大きな差はなく菌糸や胞子、腐食など多様な餌が入っている(105~106ページ)など、観察が難しい土壌動物について確定的に明らかにされていることはまだ少ない(133ページ)という研究者としての悩みが語られています。
 「はたらく土の虫」というタイトル、ほのぼのとしたタッチの挿絵から、子ども向けの本のようにも見えますが、しっかり大人向けの本です。


藤井佐織 瀬谷出版 2023年11月30日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰

2024-01-02 21:47:25 | 自然科学・工学系
 東京や著者の住む市川市を中心に都会で生息する鳥たち、特にツバメ、スズメ、カラス、水鳥、ハヤブサ・タカ・フクロウ等の様子を解説した本。
 人間の傍で営巣することで天敵のカラスから守られるツバメ、人の傍ではあるがツバメほど人に近づかず人目に付かないところで営巣するスズメ、バブル後急増したが生ゴミなどの対策で2000年以後東京では激減したカラス、駆除されなくなりまた緑地保護の動きもあって都市への進出が見られる猛禽類などの様子が紹介され、鳥と人との距離が論じられています。
 カラー口絵ではカラフルなイソヒヨドリやカワセミが目を惹きます。カワセミが、きれいな水のない都会で生息しているということには興味を持ち、より詳しく読みたいところですが、カワセミ関係は2ページだけ(142~143ページ)で、著者の関心はそちらにはあまり向かず、ほとんどのページがそれ以外のツバメ、スズメ、カラス、猛禽類などに当てられています。その辺、学者らしいということでしょうか。


唐沢孝一 中公新書 2023年6月25日発行

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

津波 暴威の歴史と防災の科学

2023-12-23 22:08:54 | 自然科学・工学系
 津波被害の歴史を解説した本。
 津波研究者の手による研究書なのですが、時系列に沿った記述ではなく、また体系的な論述でもなく、著者の語る物語的な配列と流れで、過去の被害もインタビューに重きを置いた紹介をしていて、読み物風の構成・体裁になっています。
 現時点での日本の読者の目からは、津波というと東日本大震災を想起するのですが(原題の "TSUNAMI" からサザンオールスターズの歌を想起する人もいるかもしれませんが)、2011年の日本の津波被害に度々言及はしているもののそれを紹介した章はありません。海外の視点(著者の所属はオーストラリアとハワイ)からは東日本大震災は津波被害としては代表的なものではないということなのでしょう。1755年のリスボンの津波による経済的損害は2011年の津波で日本が被った経済的損害の約2倍と明記されている(224ページ)のを見ると、そう学ぶべきなのかと思いました。
 この本でエピソードを紹介する度、人間は歴史に/被害に学ばない、簡単に忘れてしまうという指摘が繰り返されています。肝に銘じておきたいと思いつつ、そういうもんなんですよねとも思ってしまいます。


原題:TSUNAMI The World's Greatest Waves
ジェイムズ・ゴフ、ウォルター・ダッドリー 訳:千葉敏生
みすず書房 2023年10月2日発行(原書は2021年)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不整脈 知って解消不安と疑問

2023-11-27 22:34:30 | 自然科学・工学系
 不整脈の種別、症状、原因、治療等について解説した本。
 不整脈は大きく2つに分類されますとして、頻脈性不整脈と徐脈性不整脈を挙げ(8ページ)、徐脈性不整脈は、1分間の心拍数が60回未満となるものとしつつ、徐脈でも運動時に心拍数が増えて必要な量の血液を送り出すことができれば問題はなく、問題となるのはふだんから心拍数が少なく運動をしても心拍数が十分増えない状態と説明しています(60ページ)。これに対し、頻脈性不整脈については、何らかの原因で1分間の心拍数が100回以上となるものとして、強い動悸やめまいや失神が起こったりするが、タイプによっては自覚症状が現れないこともあるとしています(34ページ)。頻脈性不整脈については「特に治療が不要なものから突然死を招くものも」と書かれ、日常的に頻脈(1分間100回以上)で自覚症状がない場合に気にしなくていいのか、どういう場合に「突然死の原因となる」というのか、読んでいてわかりません。日常的に1分間100回以上で増えていないならそれは「不整脈」じゃないということなのかもしれませんが、徐脈性の場合はもともと少なくて運動時も増えない場合こそが問題とされていることからすると、日常的に頻脈の場合が問題ないのかは判然としません。そのあたり、もっとはっきりと説明してもらわないと、不安と疑問が解消されないように思えます。


副島京子監修 別册NHKきょうの健康 2023年9月25日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人はどう死ぬのか

2023-11-26 20:46:16 | 自然科学・工学系
 外科医、麻酔科医として勤務した後外務省の医務官として海外勤務し、在宅医療クリニックで勤務した著者が、自己の経験に基づいて死の実情について語る本。
 下顎呼吸(顎を突き出すような呼吸)が始まると蘇生措置を施しても元に戻ることはまずなく(17~18ページ)、最後の段階では点滴は効果がないだけでなく心臓と腎臓に負担をかけ肺にも水が溜まり徒に患者を苦しめるだけ(46~47ページ)、酸素マスクも実際ほとんど意味はなく単に家族を安心させるためだけのパフォーマンス(47ページ)だそうです。「長生きを求めて病院にかかると、治してもらえる病気もある代わりに、何度も病院に通わされ、長時間待たされ、いろいろ検査を受けさせられ、不具合を見つけられ、その治療のためにまた病院からは解放されず、不安と面倒な毎日が続く危険が高いでしょう。病院にかかっても、死ぬときは死にます。そもそも医療は死に対して無力です。それなら自分の寿命を受け入れ、好き放題に残り時間を過ごしたほうが、よほど気楽」(132ページ)というのが著者の意見です。私も社会人になって以来、生命保険加入の際と歯医者以外病院にも検査にも行ったことがなく、著者の意見に共感します。単に聞きたい意見だけ聞く耳持つ状態というべきかもしれませんが。
 老衰死について、決して楽ではないと著者は釘を刺しています。それまで元気でいて急に衰えるわけではなく、死のかなり前から全身が衰え、不如意と不自由と惨めさに、長い間耐えたあとでようやく楽になれる、視力も聴力も衰え味覚も落ちて楽しみはなく、食べたら誤嚥して激しくむせ誤嚥性肺炎の危険にさらされ、関節痛に耐え寝たきりになって下の世話や清拭、口腔ケアなどを受け、体は動かせず呼吸も苦しく言葉も発するのも無理というような状況にならないと死ねないのが老衰死だというのです(134ページ)。言われてみればごもっともです。
 そういうことから癌で死ぬ方がましという話にもなるのですが、ここでも興味深い説明があります。癌の判定は最終的には生検(鉗子で腫瘍の一部を採取)して顕微鏡で見て行う(病理診断)のですが、癌細胞の塊をつついたらそのときに癌細胞が血流に乗って転移するんじゃないかという疑問を、私はずっと持っていました。医師である著者も同じ疑問を持ち、「何人かの医師に聞いてみましたが、いずれもその話には触れたくないと言わんばかりでした。いわばがん診断界のタブーです」(156ページ)というのです。まぁ、X線検査等も放射線被ばくによるリスクがあることがわかっていてもそのリスクよりメリットがあるという評価でやっているわけで、それと同様にリスクよりメリットがあるという評価なのでしょうけれども。もっとも、その検査被ばくについても、日本は検査被ばくによる発がんが世界中でダントツに多く欧米は全がん患者の1%前後であるのに対し日本は3%もある(150ページ)というのですが。また、病理検査で癌かどうかは判定できても進行の速さや転移するかどうかは顕微鏡では見分けられない(155ページ)とのことです。
 医療知識の点でも、死生観でも、さまざまに刺激を受ける本でした。


久坂部羊 講談社現代新書 2022年3月20日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南極アトラス 最新の地図とデータで見る過去・現在・未来

2023-11-24 23:07:18 | 自然科学・工学系
 南極の地理、気象、生態系、観測・居住の実情、探検の歴史、未来予測などをカラーの地図と写真を駆使して解説した本。
 地図も美しいのですが、衛星写真、特に「はじめに」の3枚などが息をのむほど美しい。
 知識としては、南極大陸周辺での結氷と融氷が海洋深層水の流れ:熱塩循環の原動力となっていること(99ページ)、南極海の「極前線」で冷たい海水と温かい海水が混ざり合う海域が地球上で最も生産性の高い(植物プランクトンの多い)海となっていること(102~103ページ)、南極海が温室効果による熱と二酸化炭素を吸収する世界最大のシンク(産業革命が始まってから人類が大気中に放出した余分な二酸化炭素の最大43%、温室効果で生じた熱の75%を吸収したと推測されるとか)であること(104~105ページ)など、南極海に関する部分が、私には興味深く感じられました。
 記述が、地図にしやすい分野に限定されています(例えば氷床コアの採取は、私としてはその分析結果の方が関心がありますが、採取場所と深さしか触れていない:42~43ページ)が、それでもさまざまな領域について知ることができ、勉強になりました。


原題:ANTARCTIC ATLAS
ピーター・フレットウェル 日本語版監修:渡邉研太郞、訳:藤井留美
柊風舎 2023年10月15日発行(原書は2020年)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

粒子線治療がしっかりわかる本

2023-11-23 21:56:32 | 自然科学・工学系
 癌の放射線治療のうち電磁波(X線)以外の粒子線による治療、現実には、陽子線(水素原子核)治療、重粒子線(炭素原子核)治療、ホウ素中性子捕捉療法について説明し、積極的利用を促す本。
 粒子線治療は精度の高い照射により癌を根治する一方で周囲の正常細胞に影響を与えず臓器を維持でき体への負担も少ないとされますが、癌が局所的で遠隔転移がない場合に行われ、その場合は手術の方が癌の制御の点で有効性が高いため、結局は癌が局所的で遠隔転移がなく手術が困難な場合か術後に取り残した癌の治療に利用され、保険適用がそのような場合や一部の癌に限定されているということのようです。消化管が放射線感受性が高いため腹部等での実施は慎重に行う必要があるようでもあります(66~67ページ)。
 保険が適用されない場合は、先進医療となる場合で「300万円前後」とさらっと書かれています(19ページ)。先進医療にもならない場合はさらにかかるということです。106ページから、日本で粒子線治療が受けられる26施設の紹介があり、各施設ごとに治療実績と治療費について書かれています(書いていない施設もあります)が、やはり先進医療の適用がある場合に300万円前後の数字が書かれています。治療実績が書かれている施設では、それぞれの施設により違いはありますが、前立腺癌が多くを占めている傾向にあります。前立腺癌では「限局性、及び局所進行性前立腺がんへの根治照射」に保険が適用される(72~75ページ)ことからでしょう。
 この治療に従事している人が積極利用を呼びかけたいという気持ちはわかりますが、現状では進行が遅く死亡率も低い前立腺癌で威力を発揮しているというのでは、そう言われてもねえと思ってしまいます。いくら癌だと言われても保険適用されなければ300万円以上と言われては庶民には手も届きません。保険の方、なんとかしてもらえないと…


公益社団法人日本放射線腫瘍学会広報委員会/粒子線治療委員会編著 法研 2023年9月26日発行

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラー図解 海底探検の科学

2023-09-30 22:50:22 | 自然科学・工学系
 海底資源(海底熱水鉱床、レアアース泥、コバルトリッチクラスト、メタンハイドレート等)探査を中心とする海底探査の技術と探査の実情の説明及び海底探査や海洋調査でどんなことがわかるかなどを解説した本。
 電磁波が速やかに減衰するために届かない水中で、光も届かず高圧の環境となる深海底での探査をするために技術的にどのような問題があり、それをどう乗り越えてきたかの説明は、知的好奇心に訴えるものがあり、勉強になりました。
 深海底のことは未解明のことが多く、海底探査・海洋調査によってさまざまなことがわかる期待があることは理解しますが、どうも全体としては、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究活動の必要性をPRする本という色彩が強く感じられました(著者は現職は大学教授ですが、元JAMSTEC技術研究主任)。


後藤忠徳 技術評論社 2023年7月11日発行
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする