伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

数学を使えばうまくいく アート、デザインから投資まで数学でわかる100のこと

2017-03-05 21:12:22 | 自然科学・工学系
 音楽や美術、文学その他の芸術・技術等において、数学が大きな役割を果たし、また果たしうるということについて論じた本。
 広範な分野について、数学的な検討がなされ、意表を突かれるというか、感心するというタイプの本です。
 しかし、それほど数式が羅列される場面はないとはいえ、論じられる数学的な議論を、きちんと検証する、正しいと納得できるまで読み込むことは、通常の読者には困難です。著者の議論/主張が、数学的に正しいかについては、本来はそれぞれの主張をていねいに追ってみる必要があるのでしょうけれども。
 例えば、正三角形の各頂点から各辺を半径とする円弧を描いた、要するに各辺を円弧で膨らませた形の「ルーロー三角形」と円の関係、実質的/技術的には両者を断面とする金属製のふたを製造する場合に必要な材料の量を論じているところで、「正三角形の一片の長さ、すなわち円弧の半径にして一定になる幅が
w の場合、ルーロー三角形が囲む面積は 1/2 (π-√3) w2 となる。幅 w の円盤だったら、その面積はもっと小さい 1/4πw2 となっただろう。このことから、一定の幅の蓋を作る必要がある場合、π-√3=1.41 のほうが 1/4π=0.785 よりも大きいため、断面が円形ではなくルーロー三角形をした蓋を使ったほうが材料の無駄を少なくすることができる。」と書かれています(64ページ)。いや、これ、いくらなんでもおかしいでしょう。普通に考えて「幅 w の円盤だったら、その面積はもっと大きい 1/4πw2 となっただろう。このことから、一定の幅の蓋を作る必要がある場合、1/2 (π-√3) =0.705 のほうが 1/4π=0.785 よりも小さいため」のはず。こういうのを見つけてしまうと、その数学的考察の正確性をどこまで信じてよいのか、不安になります。
 一つの記事の中にどれだけの誤植があるかを、2人の校正者に別々に校正をさせた結果から(統計的に)推定するという議論で、校正で見落とされている間違いの数は、1人目の校正者だけが見つけた間違いの数と2人目の校正者だけが見つけた間違いの数を掛け、それを2人ともが見つけた間違いの数で割ったものとなると論じています(208~209ページ)。これも、説明と数式を追っている分には、ほぉーっと思うのですが、おそらくその推定を利用するためには2人の校正者の能力と誠実さを前提にする必要があり(2人とも無能か怠惰だった場合、現実には大量の間違いを見落としていても、2人とも自分だけが見つける間違いは多くないため、推定は過少評価になると考えられる)、さらに現実には見つけやすい間違いと見つけにくい間違いがあるはずで、見つけにくい間違いは2人とも見つけられない可能性が高くなるので、現実には見つけにくいタイプの間違いの推定が過少評価になりやすいという欠陥を抱えているように、私には感じられました。
 後者で前提にされる「独立性」は曲者で、理論的にあるいは説明を受ける分には独立の事象と見えるものが現実には独立でないことがままあります。原発の大事故の確率は、さまざまな「独立」の事象の確率を掛け合わせることで、とても小さく計算されます。しかし、現実には独立している別々の機器が火事や地震で一気に故障したりしますし、検査や補修はいくつかの機能を不作動状態にして行いますのでそこに作業ミスが重なると予想外の機器不作動が同時に生じたりします。故障で運転状態がおかしくなることで運転員・作業員が動揺して通常なら考えにくいミスをするということもあり得ます。「独立」の事象を前提とする数学的考察は、原発事故の確率を現実より小さく見せるという役割を発揮してきました。数学的考察は、便利でまた説得力を持ちやすいものですが、そういった疑いの目/批判的検討が不可欠でもあります。


原題:You Didn't Know About Maths & The Arts
ジョン・D・バロウ 訳:松浦俊輔、小野木明恵
青土社 2016年11月15日発行(原書は2014年)
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フィールドで出会う哺乳動物観察ガイド

2017-02-22 23:22:01 | 自然科学・工学系
 日本における「幻の動物とその生息地(Fantastic Beasts & Where to Find Them)」。日本に生息する野生の哺乳類について、種別に、生息地、形態・特徴・他種との見分け方、生態(夜行性・昼行性、食性:草食系・肉食系・雑食系等、営巣場所・環境、繁殖など)、観察(どういうところで、どういう時間帯に観察しやすいかなど)、生息を確認できるフィールドサイン(食痕、糞、足跡など)などを解説しています。
 日本のモグラ分布図(23ページ)で、「モグラ類の種間競争は激しく、ふつう同所的に生息せず分布域は重ならない」「西日本に分布するコウベモグラと東日本に分布するアズマモグラは、勢力争いの真っただ中にいる。先に日本に広く分布していたのはアズマモグラだが、大型で体力のあるコウベモグラが後からやってきて、アズマモグラを駆逐しながら西から東進を続けている」「今後もコウベモグラは全国制覇に向かってさらに東進、北上していくと考えられている」って…暴力団の縄張り争いみたい。地中生活中心のモグラが、そんなにぶつかったり追い出されるものなんですかねぇ。ちょっと意外です。
 ニホンノウサギ、ユキウサギは、休息するときは、そこまで歩いてきた足跡上を数メートルか十数メートル戻って、そこから別の方向に横っ飛びして進み、その先で休むそうな(それを「止め足」というようです:119ページ)。動物アニメのような行動パターンですが、捕食者を欺くための知恵(進化論的には、そういう行動パターンをとる/習性を持つものが生き延びて子孫を増やしてきた)なんですね。
 トウキョウトガリネズミは、北海道の一部にしか生息していないのに、なぜその名がついたか。「発見者がエゾ(蝦夷)をエド(江戸)と書き間違えたことによる」(11ページ)って… (-_-;)


山口喜盛 誠文堂新光社 2017年1月23日発行
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脳は、なぜあなたをだますのか 知覚心理学入門

2017-01-08 17:10:09 | 自然科学・工学系
 外界の刺激を脳がどのように情報処理して五感による知覚・認識につなげていくか、その過程での錯覚、特に知覚刺激の操作により現実には肉体の移動がないのに移動しているように錯覚する現象(ベクション)の研究を専門とする著者が、人間の心について解説した本。
 「はじめに」で人間には自由意思はない、人間の行動はすべて環境からの刺激によって必然的に導かれたものという主張が展開され(9~10ページ)、それがこの本のキャッチになっています(本論でも第2章でそれを展開しています)。近年脳科学や心理学の本でよく見るこの議論を聞いていつも思うのですが、よくその例として挙げられる商品を購入する際に無意識のうちに宣伝で繰り返し接触(露出)している商品を選ぶとか、人間に対する評価が第一印象、顔の好き嫌いで決まる、選挙の投票もそれに左右されるというレベルの議論では、理解できますけど、著者はそれならば、この本の執筆、構成、論の運びすべてが著者の自由意思によるものではなく環境による刺激の結果だと考えているのでしょうか。自由意思はないという主張を突き詰めればそういうところまでいかないとおかしいですし、そうでなければ、どのような場合が自由意思によるものではなく、どのような条件(複雑さ、時間の長さ?)の行動が自由意思(行為者の思惟・思索の結果)によるのかを論ずるべきでしょう。
 本人の主観(気持ち、感覚の「質感」)は言葉では置き換えられず、共有できないという「クオリア」論(52~68ページ)は興味深く読めました。「君の名は。」を見て、瀧が三葉の体に入ったときついおっぱいを触ってしまうのを、瀧はただ触ってみたかったということかもしれませんが、男には知りえない、おっぱいが「ある」ことはどのような感覚なのか、おっぱいを「触られる」のはどういう感覚なのか、「言葉」では分からない(聞いてもわからない)直接的な感覚を持つ機会として、自分が瀧の立場だったら絶対やるよねと思っていました。ついでにHのときに女がどう感じるかも…といったら、「男とHするのに耐えられるか」と突っ込まれ、確かにそれは気持ち悪いと思いましたが。
 アンカリング効果(判断に当たり示された数値に、その数値が全く無意味な数値であっても、判断が影響を受ける)について、法の専門家52名に対して一定の事例についての量刑判断をさせ、その際に判断前にサイコロを振らせたところ、専門家が答えた量刑判断が振ったサイコロの目の大小と相関した(サイコロの目の数値の影響を受けた、引きずられた)という実験結果(189~191ページ)は、興味深いというか、恐ろしい。
 心理学の本の多くが実験の条件等を説明せずに結果だけを独り歩きさせていると、著者は指摘し、有名なつり橋効果(つり橋の上のような不安定な条件下で心臓がドキドキしている状態で異性を見るとその異性の魅力でドキドキしていると錯覚してその異性を好きになる)の実験の条件が揺れるつり橋は揺れるだけでなくて高さも非常に高く(水面から69m)揺れないつり橋は高さが低く(水面から3m)、標本(被験者)数はそれぞれ23と22で、好きになるという効果は女性インタビュアーが電話番号を書いた紙を渡し被験者が電話をした数が9と2ということから結論付けられている、そしてあまり知られていないが男性インタビュアーの実験も行われそちらでは電話をした被験者は揺れる方で2、揺れない方で1だったと紹介しています(201~203ページ)。心理学関係の本を読むとき、よく注意すべきだというこの指摘は、たいへん参考になります。


妹尾武治 ちくま新書 2016年8月10日発行
 
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朝起きられない人のねむり学

2016-12-24 20:53:06 | 自然科学・工学系
 睡眠外来の医師の立場から、睡眠一般の説明と、睡眠障害の診断と考え方などを説明した本。
 睡眠不足が続くと注意力が落ちていき、それは睡眠時間を8時間取る日(回復日)が1日あっても元の水準には戻らない:週末に寝だめしても効かない(19~21ページ)、人の体内時計の周期は24時間より少し長く(以前は25時間とか言われていたが最近の研究では24時間10分くらいだとか)体内時計を合わせるために朝光を浴びる必要があるが、それは「最低体温を記録した後」の光なので数時間は寝た後に朝の光を浴びる必要がある(43~53ページ)などの説明が目を引きます。う~ん、やっぱり寝だめは効かないのか、昼夜逆転生活はまずいのか…しかし…
 一般的な説明は統計でなされていますが、この本の特徴は、その人にとってのベストな睡眠時間は人それぞれだとしている点にあります。ヒトにはなぜか4時と14時ころに眠くなる時間帯があり、そこからすると午前中には眠くならないようになっていると考えられる、それを基準に考えると午前中に眠くなるのは無理をしているからで、午前中に眠くならないような睡眠時間が、その人に必要な睡眠時間だとしてます(81~89ページ)。自分の体からのサインを無視しないようにとも。
 なるほどと思い、勇気づけられるところも多いのですが、近年、平日に夜更かしして(終電近くまで事務所で仕事をする、あるいは自宅で深夜までホームページの記事を書く)土曜日昼過ぎまで寝て回復する(それですっきりして午後事務所でまとまった書面を起案する)という生活を続けている私には、寝だめは効かないとか、午前中眠くならないと言っても(土曜日は午前中は起きてないし)…とか、また悩ましく思えます。


神山潤 新曜社 2016年6月1日発行
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その〈脳科学〉にご用心 脳画像で心はわかるのか

2016-11-01 00:15:34 | 自然科学・工学系
 fMRI(機能的磁気共鳴画像法)により得られた脳スキャン画像に基づいて、被験者が一定の思考等を行ったときに脳が活性化する(酸素消費量が増える)部分を特定し、それにより一定の思考等を行う脳の部分を割り出して、脳スキャン画像から被験者の思考等を評価判断するという脳科学の試みについて、現時点での科学的評価を行うとともに、脳科学を標榜するビジネスの問題点を指摘する本。
 fMRIの脳スキャン画像の評価では、人間の心理的作業の複雑さを正しく分解・解析できているか疑問があり、ニューロン(神経細胞)の活性化から酸素消費量の変化までのタイムラグなどもあって、一定の心理的作業をつかさどる脳の場所の特定自体容易ではないこと、実験の統計的な評価での問題もあり、死んだ鮭の脳のスキャン画像で統計処理をして評価すると脳の小領域が活性化したかのような結果が出た(47~56ページ)などの指摘があり、なるほどと思いました。
 この本の表題からは、以上のような理系的な(科学的な)説明がテーマかと思ったのですが、それは第1章までで、あとは、脳科学を標榜するビジネスへの警鐘と裁判での利用への批判が中心となっています。そういう意味では、自然科学系の本ではなく、社会科学系の本と分類すべきかなとも思いました。
 終盤は、特に、「脳科学」の成果を利用して刑事裁判での減刑や無罪(自由意思がなかったのだから責任を問えない)の主張をする弁護士への批判が中心となっています。それも脳スキャン画像の解釈に誤りがあるとか、脳スキャン画像に関する現在の科学技術水準からそこまでを読み取ることはできないという科学的な指摘に基づく批判ではなく、刑事責任のあり方というような哲学的な観点からの批判に相当程度踏み込んでいるように思えます。私が弁護士だからかもしれませんが、精神科医と心理学者がする批判としては、専門知識に基づくものを超え、価値観が先行したものと思えます。著者の専門性からは第1章までにとどめるべき本ではなかったか(でも著者はむしろその後を書きたかったんでしょうけどね)と思います。


原題:BRAINWASHED The Seductive Appeal of Mindless Neuroscience
サリー・サテル、スコット・O.リリエンフェルド 訳:柴田裕之
紀伊国屋書店 2015年7月10日発行(原書は2013年)
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「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める

2016-08-08 00:55:33 | 自然科学・工学系
 癌を始め、さまざまな病気からの回復のために栄養管理が大切であり、病院が適切な栄養を与えることで感染症の防止や手術後の予後の改善ができることを論じた本。
 タイトルの「癌」の場合、癌細胞は糖を大量に消費する上に筋肉のタンパク質を分解し脂肪細胞から脂肪を血中に放出させるサイトカインを放出するために、癌患者は筋肉が細り体脂肪も減ってあっという間にやせていくが、医者は栄養を入れると癌が大きくなるなどといって栄養補給に積極的でない、その結果、患者は栄養障害になり歩行や自力排泄、食事ができなくなり、免疫機能が衰えて感染症にかかる、癌患者の8割以上は癌そのものではなく感染症で死亡しているというのが、著者の主張です(12~15ページ、34~37ページ)。
 なるほど、ではどのように栄養を摂ればいい、何を食べればいいのかと思うと、そこは著者らが工夫した栄養剤の投与(ただし、可能なら経口、できるだけ経腸)ということで、患者側からは医療機関任せになってしまうのが残念です。
 他方で、癌の最終段階では細胞が栄養や水分を受けられなくなり、栄養や水分を投与しても細胞が使うことができず、そのまま腹水や胸水、全身のむくみになって患者はかえって辛くなってしまうため、投与量を減らすギアチェンジが必要になるそうです(86~87ページ)。専門領域になるとなかなか判断が難しそうです。
 この本では、癌の話は、ある種「つかみ」でもあり、癌以外のさまざまな病気の治療、回復、退院後の生活に、入院中の栄養管理が大きく影響することが論じられています。人間の自然治癒力、免疫機能を考えれば、当然とも思えますが、医者がそのことを認識するようになったのは最近のことで、十分な栄養管理が行われていない病院も多いようです。
 著者は、患者と顔を合わせたらまず握手をして挨拶を交わすようにしている、握手をするだけで相手の握力や体温、皮膚や脂肪の状態、爪の状態、場合によっては心の状態までわかるといっています(94~95ページ)。専門家はあらゆるところから情報を得て判断の基礎にしているというわけです。これは、弁護士業務でも当てはまりますので、よくわかります。弁護士の場合、相談者の手を握りはしませんが、相談者と会話をすることでさまざまな情報を引き出し、その表情や声の調子、会話の「間」なども意識しながら相談者の話の行間を推測してさらに質問をして事実関係を見極めていくという作業をしています。そういう観点からも、メールで済まそうとせずに、現実に関係書類を持って面談した方が、遥かに深く効果的な相談ができるもので、顔を合わせてのコミュニケーションの大切さは、人間のことを扱う業務では共通しているなぁと実感します。


東口髙志 光文社新書 2016年5月20日発行
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失われてゆく、我々の内なる細菌

2016-07-23 19:50:20 | 自然科学・工学系
 肥満、若年性糖尿病(Ⅰ型糖尿病)、喘息、花粉症、食物アレルギー、胃食道逆流症と食道の腺癌、セリアック病(グルテン:小麦アレルギーによる腸の不調、下痢・腹痛等)、クローン病(炎症性腸疾患から腸閉塞に至る)や潰瘍性大腸炎、自閉症、湿疹等の近年の急速な増加が、抗生物質の多用・濫用による常在細菌の消失によるものではないかという問題提起をして、抗生物質の過剰投与に警鐘を鳴らす本。
 人の身体の細胞は30兆個ほどであるのに対して人の身体に住む真菌・細菌は100兆個に達し、人は消化や代謝、人体に必要な物質の産生に当たってこれらの常在細菌の助けを受け、免疫も常在細菌に左右されている。常在細菌の構成は1人1人異なり、人はそれを経膣分娩による出生の際に母親から引き継ぎ、キスや性行為等の接触(広くは電車のつり革からなども含め)により他人と一部交換を続けているとか(もっとも他人から受けた細菌は、数日もすれば駆逐され元に戻るそうです:37ページ)。キスやセックスが常在細菌を一部交換する行為といわれて、常在細菌まで一部共有するほど仲がいいのだと喜べるか、気持ち悪いと思うかは、人生観によるのでしょうか、相手との関係性によるのでしょうか。
 朝起きたときに息の匂いが強くなっているのは、歯肉頸部に住む嫌気性菌が、睡眠中の呼吸が口腔ではなく鼻腔経由で行われるために睡眠中は口腔内の換気量が減って増殖し、揮発性化学物質を産生するためだそうです(31ページ)。なるほど、歯磨きを朝食後ではなく朝起きてすぐにするよう勧める見解はそういうことに基づいているのでしょうね。
 著者は、近年胃潰瘍・胃癌の原因とされて忌み嫌われているヘリコバクター・ピロリ菌についての自身の研究から、胃常在菌のヘリコバクター・ピロリ菌が高年齢者では胃潰瘍・胃癌の原因となる一方で、胃食道逆流症とその結果として生じる食道の腺癌を防ぎ(135~142ページ)、ピロリ菌感染と喘息や花粉症・アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎の発症が逆相関になっており、ピロリ菌が免疫系に影響を与えてこれらの発症を予防しているのではないか(143~154ページ)と述べています。医師がピロリ菌を始め病原性が認められた細菌(多くは常在細菌)を駆除するために抗生物質を過剰投与することで、常在細菌が死滅して人体に有用な(必須の)作用が失われたり、常在細菌が死滅した隙に通常ならば常在菌に阻まれて人体で広範に増殖できない人体に有害な細菌が増殖し、あるいは抗生物質耐性を持つ異種株が広範に増殖することになって、新たな疾病・感染症が増え、また抗生物質耐性菌が広範に出現することを憂いています。しかも抗生物質は疾病の治療のみならず、なぜか家畜に投与すると肉量が増える効果があるので畜産家が大量購入・大量投与しており、自らが抗生物質の投薬を受けていない人までが食物を通じて抗生物質を体内に取り込むことになっている、近年の身長・体重の急速な増加の原因の一つは抗生物質の影響ではないかとも。著者は、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」になぞらえて、この事態を「抗生物質の冬」と名付けています。
 他の原因も含めた複合的な機序が予測され、このテーマが話題を呼べば当然に製薬会社からの否定を目的とした研究を含めさまざまな反論が行われるでしょうし、真相の解明には多くの困難が待ち受けているとは思いますが、貴重な問題提起として受け止めておきたいところです。


原題:MISSING MICROBES
マーティン・J・ブレイザー 訳:山本太郎
みすず書房 2015年7月1日発行(原書は2014年)
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糖尿病は薬なしで治せる

2016-07-02 23:14:57 | 自然科学・工学系
 国立がんセンターの疫学部長だった著者が重度の糖尿病と宣告され(ヘモグロビンA1cが12.8%って)、薬を使わずに食事と運動だけで治すと決意して、10年にわたり血糖値をコントロールして健康に過ごしてきた経験を語る本。
 食事制限は、カロリー制限なので、とにかく油脂を避けて量を減らす、そのためには「おいしいものを少しずつ」ゆっくり食べるがポイントだそうです。おいしいものを少しずつという言葉は魅力的に思えますが、脂身がダメ、甘い果物もダメというのは、寂しいですね。
 運動は、食後30分程度歩くのが一番いいそうです。激しい運動をすると、肝臓がグリコーゲンを分解してブドウ糖にして血中放出するのでかえって血糖値は上がるとか。なるほど。でも朝食や昼食後はふつうに歩くけど、夕食後はなかなかねぇと思います。
 糖尿病の原因は、遺伝や生活習慣だけではなくて、ダイオキシン特にかつて広範に用いられたPCBが体内に残留していると糖尿病になりやすいそうです(113ページ)。それに笑うと血糖値が下がるとも(160ページ)。
 人間の身体の不思議は、まだ解明されていないことが多数ありますが、力を抜いて自然体で健やかに暮らせれば、と思います。


渡邊昌 角川oneテーマ21 2004年9月10日発行
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女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?

2016-06-22 00:00:29 | 自然科学・工学系
 NHK・Eテレの科学情報番組「すイエんサー」のチーフ・プロデューサーが、ティーンズ雑誌のモデルから選抜された女子中高生で番組のリポーターを務める「すイエんサーガールズ」が大学生との勝負で勝ったことを自慢し、そのすイエんサーガールズの知力を高めたのは番組で培った「グルグル思考」であるとして、これからの世の中には「グルグル思考」が必要だと主張して、番組でスタッフらが苦労した7つの力なるものを披露し蘊蓄を語る本。
 率直に言って、すイエんサーガールズが大学生と闘う場面を紹介する第1章、第9章、第10章は面白い。それは、著者が力説するガチンコ勝負だからです。それは、別に、雑誌モデルのアイドル中高生のすイエんサーガールズでなくても、ロボット選手権などの類でも同様の、一つの目標に向けて工夫し試行錯誤する様の美しさ、迫力、すがすがしさへの共感によるものだと思います。ただ、東大生とのバトルで言えばペラペラの紙でおもりを支えるブリッジの強度を作れと言われれば、蛇腹構造かパイプを作るのはごくふつうの思考だと思いますし、京大生とのバトルの紙に推進力を与えずにまっすぐ落としたときの滞空時間を稼げと言われればそのまま(絨毯状)か風車状を考えるのはごくふつうの思考だと思います。ふつうの思いつきを大仰に褒めそやす書きぶりは読んでいて白けます。
 それ以外の番組で扱った「難問奇問」を「7つの力」に分類して偉そうに語る章は、あまりにも的外れで読むのが苦痛でした。著者は、つかみの東大生とのバトルで、すイエんサーガールズの知力、試行錯誤を褒めそやし「無理難題に対し、ヒントもなく誰かが導いてくれることもなく、ただひたすら考えるしかない、というロケの中で、きわめて無駄にも思えるような膨大な思考をグルグルと巡らせていく。このグルグル思考の鍛錬が、すイエんサーガールズがこれほどまでの戦績を挙げるパワーを生んでいるに違いない」(49ページ)と述べています。それにもかかわらず、著者の力の入ったすイエんサーガールズの知力の源の分析とはまったく逆に、番組での進行は、「正解」のない問題に対してノーヒントで試行錯誤するのではなく、途中で「手がかり」が与えられています。著者が言う「7つの力」はすイエんサーガールズが自力で(自分の「知力」で)試行錯誤して独自の正解にたどり着く力ではなく、番組のスタッフが特定の1つの「正解」と決めつけた結論に、番組のスタッフが与えた手がかりに沿ってたどり着くという、番組のスタッフの思考回路を読む力に過ぎません。他人の意向、他人の心を読む力は、社会生活上は必要でしょうけれども、それは著者が偉そうに語る「知力」でも試行錯誤でもありません。ありふれたマニュアル族的な洞察力です。「針の穴に糸をすーっと簡単に通したい!」という問題(153ページ~)で、ふつうに裁縫をした経験があればたぶんふつうに知っている(少なくとも私は子どもの頃から知っている)糸を固定して針の方を糸に近づけるという「正解」を見いだすために、スポーツジムが手がかりとされ、ランニングマシンは自分が動かなくてもマシンの方が動いて走ったことになるということに気づいて、そこで初めて針と糸を逆転させればと気づいて、「スゴ技」を見つけ出すには「寄り道する力」が大切だと力説する必要がどこにあるのでしょう。ランニングマシンで走らせなくても、針と糸でごくふつうに試行錯誤させた方がよほど速くわかると思います。「プリンをお皿にキレイに移したい!」(124ページ~)も、番組スタッフが正解としたやり方は、「へぇっ」とは思いますが、たぶん「地球儀」を手がかりにすることでそこに思考を拘束するのではなく、ふつうに試行錯誤させれば、もっと幾通りものより簡単なやり方が見つかると思います。せめて番組の進行を淡々と説明するにとどめて、それに「7つの力」が必要だとか、「7つの力」がなぜ重要かなどの著者がご託を並べるところはカットして欲しいなと思いました。


村松秀 講談社現代新書 2016年3月20日発行
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21世紀の脳科学 人生を豊かにする3つの「脳力」

2016-06-03 23:49:59 | 自然科学・工学系
 人間が進化の過程で、一人では生きてゆけない故に保護者から放置されることを苦痛と感じ他方保護者(親)は我が子の世話をすることを報酬(喜び)と感じ社会的つながりを持つという「つながる」脳力、他者と協力し集団をスムーズに運営するために他者の心を理解し共感する「心を読む」脳力、自分自身が外部の価値観や信念に従って考え行動することで社会の調和を作り上げる「調和する」脳力という人間が社会を形成し協力することに資する3つの脳力を獲得してきたということについて、心理学の実験等を紹介しながら解説する本。
 人間が何もせず休んでいるときに、「脳は空き時間を使って、もっぱら社会について考えているのだ。私たちが意識するしないにかかわらず、脳は社会から受け取った情報を処理(そしておそらく再処理)して、社会的に考え、社会的に行動する準備をしているのかもしれない。長年の知識に新しい体験を組み込んで、友だちや友人どうしの関係や、自分と彼らとの関係について考え直したり、いろいろなやりとりから新しい情報を引き出して、他者の心の状態を読み取る法則をアップデートしたりする」(31ページ)、このような脳のデフォルト・ネットワークを働かせることで人間は社会性を獲得し高め、社会生活をうまく行えるようになるのだそうです。ボ~~ッとしている時間が大切だということですね。電車の中でも寸暇を惜しむように読書にいそしむ私は…ましてや電車の中でも寸暇を惜しんでスマホをいじり続ける人々は…


原題:SOCIAL : Why Our Brains Are Wired to Connect
マシュー・リーバーマン 訳:江口泰子
講談社 2015年5月20日発行(原書は2013年)
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