伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

17万人をAI分析してわかった最強チームの条件を1冊にまとめてみた

2023-02-27 22:08:59 | 実用書・ビジネス書
 著者が経営する会社が「数千万円を投じて」815社17万人の行動履歴を収集し、それを4種のAIサービスと専門家で分析し、成果を出し続けている社員や組織に共通のコミュニケーション・パターンを見出し、うまくいっていない組織でも再現確率が高い方法を抽出して、職場で試してみて「意外に良かった」と思ったら続けてみることを提唱する本(はじめに:4~5ページ)。
 著者自身がそういう位置づけをしているのですし、また書かれている内容からしても、この本は、結果を出せていないチームが結果を出せるような人間関係を作るためのtips(ヒント)集というようなタイトルがふさわしく、「最強チームの条件」というのは違うように思えます。
 たくさんのデータを検討分析したという話が繰り返され、数字は出てきてもその裏付けデータはほとんど書かれていない(まぁ数千万円投資した情報資産ということですからね)のですが、大量の会議データ(2.7万時間の会議と繰り返されています)を分析した結果、「東京五輪組織委員会の元会長が『女性がいると会議時間が延びる』という旨の発言していましたが、そのようなデータはありませんでした」(240ページ)と断言しているのが爽快かなというところです。


越川慎司 大和書房 2022年12月25日発行
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ルポ副反応疑い死 ワクチン政策と薬害を問いなおす

2023-02-26 20:16:16 | ノンフィクション
 新型コロナワクチン接種後異変を生じて死亡する「副反応疑い死」について、事例と統計等からワクチン接種との因果関係を検討し、医師や行政、製薬会社の対応等を取材し論じた本。
 副反応以前に、新型コロナワクチンの感染予防効果について、変異株の発生により、その効果は薄れ、なんと30~49歳、65~69歳では、未接種者の方が、2回目接種済・3回目接種済の者よりも10万人あたりの新規陽性者数が少なくなっているというのです(33ページ)。厚労省は、発症と重症化の予防には効果があると説明している(33~35ページ)ようですが、そうだとしても、感染が防げないなら他人にうつすリスクの低減にはならないわけで、ワクチン接種はあくまで自分が重症化しないためということになります。ワクチン接種を拒否する人を、他人のことを考えない我が儘な者のように言い立てるのは、少なくとも誤りということですね。
 大学の法医学教室で解剖され解剖医が原死因を「ファイザー社製新型コロナワクチン接種」と判断して死体検案書に記載した事例について、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が因果関係について「情報不足等で評価できない」(γ判定)としたケースが紹介されています(54~67ページ)。PMDAがワクチン接種との因果関係を否定できない(α判定)とした死亡例は2022年10月末現在1例もなく、99%以上がγ判定、残りは因果関係を否定したβ判定なのだそうです(71ページ)。そのPMDAの収入の82%以上が製薬会社からの収入だとか(86ページ)。できすぎで笑えますね。
 新型コロナワクチンの有効性や、接種後の死亡者の厳密な意味での死因の科学的検証については、判断しかねますが、それをおいても、行政が自己の政策・方針の妨げとなったり責任追及されかねない都合の悪い情報は無視し隠蔽するという体質、それに企業の利害が絡むときのわが国の実情の救いがたさは実感できます。


山岡淳一郎 ちくま新書 2022年12月10日発行
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「情報自由法」で社会を変える! 情報開示最強ツールの実践ガイド

2023-02-25 22:48:00 | 人文・社会科学系
 沖縄タイムズ特約通信員でもあるイギリス人ジャーナリストの著者が、自らの取材の過程でアメリカの政府機関に対して情報自由法(FOIA : Freedom of Information Act)による請求を行ってきた経験に基づいて、情報の開示を得た実例を紹介し、日本のジャーナリストと市民に対して、情報自由法を利用してアメリカ政府に対する情報公開請求を推奨する本。
 アメリカでも官僚たちの抵抗はあり、請求する側の工夫と強い意志と粘り強さが必要であることが、著者の請求の実例の紹介から読み取れます。日本の情報公開法も、アメリカの情報自由法と規定自体はそれほど変わらないのですから、情報公開請求の実践でアメリカ並みの開示を求めていくことが必要なのでしょう。著者はそういうことも言っているのだと思いますが、日本の市民に対してもアメリカの情報自由法を武器にしようと呼びかけているのは、ジャーナリストとしての実践でも日本政府への請求はあまりに労多くして実りなしという判断でしょう。
 著者の情報開示請求で明らかにされたケースに、福島原発事故時に福島原発付近で作戦行動した米軍車両が放射能で酷く汚染されたが、除染は被災地から遠く離れた米軍基地で行われ、米軍は三沢基地と厚木基地で放射能汚染水を基地の下水道に捨て、そのことを地元自治体に通知しなかったということなどがあるそうです(46~47ページ)。トモダチ作戦の裏側ですね。
 著者は、自分の経験に基づき、情報公開請求をする際の工夫や注意点を繰り返し助言し、巻末には請求の書式も掲載しています。英語に抵抗がない/自信がある人ならやってみたくなるかもと思います。


ジョン・ミッチェル 訳:阿部小涼 
岩波ブックレット 2023年1月11日発行
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感情教育

2023-02-24 23:49:41 | 小説
 横浜の産院で国吉喜和子と名乗る妊婦に産み捨てられて乳児院で育ち、建具職人田川菊男と運送会社でパート勤めの田川千代夫婦の養女となり、養父の酒乱・暴力に苛まれて高校卒業後デザイン専門学校に行き建築の仕事をこなしながら、中学以降無数の男たちと肉体関係を続け、7つ年上の施工業者水沢耕一に求められるままに結婚して娘れいを産んだ水沢那智と、愛知県豊田市内の寺の住職の娘だが寺を嫌ってホステスを続け次々と男を替えていく池田喜和子に産まれ、ヤクザの親分や寺に預けられながら育ち、物心ついたときから同性に恋心を抱き男性には性的関心を持てないフリーライターの池田理緒が、理緒の取材の過程で出会い、恋に落ちるという官能恋愛小説。
 親の愛に恵まれない子ども時代を送ったということが背景事情となっているのだとは思いますが、那智にしても理緒にしても、とりわけ2人が出会ってからの感情、思い込みが強すぎて、引いてしまいます。恋愛小説、恋愛感情は、第三者から見れば理解できない、引いてしまうくらいでこそ、のめり込めるのでしょうけれども。恋愛小説というよりも官能小説と位置づけた方がいいほどに性的なシーンがふんだんに出てくるので、そういう系統の雑誌に連載した(毎号何か性的な描写が欲しいというニーズがあった)のかと思いましたが、書き下ろしらしい(ネット情報、裏付け確認してません)というので驚きました。


中山可穂 河出文庫 2022年11月20日発行(講談社文庫2002年、単行本2000年)
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激変する弁護士 文系エリートの実態と失敗しない選び方

2023-02-23 20:57:47 | 実用書・ビジネス書
 弁護士経験30年以上の匿名弁護士が弁護士業務と弁護士業界の実態について説明し、「失敗しない弁護士選び」と題して弁護過誤について著者の思うところを述べた本。
 「経済的には弁護士の収入の多くが、社会的強者や『勝ち組』からの収入であって、弁護士の業界を経済的に支えているのは、社会的強者や『勝ち組』である。社会的弱者や『負け組』の代理人になる弁護士の仕事は収入につながりにくく、それらだけでは法律事務所を維持することが難しい。」(36ページ)というのはそのとおりです。私は「庶民の弁護士」を名乗り、基本的に企業・事業者からの事件依頼は受けないことにしています(ただし、法テラス事件を除いて、庶民だから弁護士費用を特別に安くするということはしません)が、そういう弁護士はほとんどおらず、現に事務所経営は苦しいです。この議論は、ふつう、それでも自分はもっぱら社会的弱者のために頑張るという方向ではなくて、従来は別の事件で稼いでその余力で社会的弱者の事件をやっていたのに、マスコミと経済界が主導した「司法改革」で弁護士が増えてその余力がなくなったという方向で議論されます。
 弁護士は裁判が終わればその事件には無関係となるからやってられるのだし、依頼者と同じレベルで悩んでいたら神経が持たない(37~38ページ)というのもそのとおりで、弁護士が依頼を受けるのは事件についての裁判や交渉で、その人の人生を引き受けることはできません。ときどき自分への同調や共感を求める(重視する)依頼者がいますが、依頼者と同じ感情を持ったら事件を見誤ります(第三者として冷静に見て見通しをつけるのが弁護士の仕事であり能力です)し、つきあいきれない(実際、そういうことを求める人ほどとても共感できない事件であることが少なくない)ので、私はお断りしています。
 このようにほぼ同じ経験年数の弁護士として、納得できる内容も多々ありますが、他方でこの著者の書きぶりには違和感を持つ部分が多くあります。弁護士が他人事として受けるからやっていられるという上記の記載を「弁護士の無責任」と題したり、「失敗しない弁護士選び」と題して書かれている弁護過誤の多くの部分が現実に弁護過誤というには無理があったり少なくとも弁護士に責任追及しても認められる可能性がないものと思われるのに、弁護士に対して何らかの不満を持つ者が読めば自分も弁護過誤の被害者に違いないと誤解するような書き方がなされています(少なくとも弁護士の目からはそのように見えます)。著者が匿名にしているのは、弁護士業界の内情を暴露したから弁護士業界で村八分になりかねないからではなく、この本を読んで自分も弁護過誤の被害者だと言ってくる相談者の相談や依頼を自分は受けたくないからではないかと思います。こういうミスリーディングな本をあえて書く以上は、それを読んで被害者感情を募らせた読者への応答も自分の責任ですべきではないかと思います。それを逃げるために匿名で書くのは、無責任だと、私は思います。
 30年以上の弁護士経験があるという著者の記述で、弁護過誤関係以外の日常業務に関しても、いくつか弁護士としては違和感があります。前半では弁護士にとって金にならない事件として労働事件が挙げられていますが(後半ではその列挙の中から労働事件が省かれていますが)、労働事件は、私が(多数)経験するところでは、とても労力がかかる事件ではありますが、勝訴した場合に報酬が取れない/少ないと分類する事件ではないですし、労働者側で勝訴する割合が低い事件でもありません。「弁護士は書面の量が多い方が依頼者から報酬をもらいやすい」(87ページ)、「弁護士が作文に費やす時間が多ければ多いほど、それは弁護士費用の額に反映し、弁護士に依頼する市民の経済的負担が大きくなる」(91ページ)というのですが、会社側の弁護士はタイムチャージ(1時間いくら)のことが多く、書面を厚くすれば報酬が増えるし、私の経験上会社側の弁護士がムダに分厚い書面を出してくることに辟易していますが、一般市民の依頼で受任する弁護士は最初に決めた着手金と結果に応じた報酬金をもらう契約がふつうですから、書面をどれだけ分厚くしても弁護士費用は増えません。この著者は、自分は町弁だという装いをしていますが実は会社側の代理が中心なのか、それとも一般市民からもタイムチャージで報酬を取っているのでしょうか。とても不思議です。逆に、国や自治体は基本的に争うから弁護士においしい仕事を提供してくれる(76ページ)というのですが、私が(敵方の弁護士からですが)聞く限りでは行政の出す弁護士費用はとてもけちくさいようなんですけど。さらに交通事故の加害者側からの依頼は「金にならない」から(被害者向けに派手な広告をしている)弁護士が広告をしない(166ページ)というのですが、交通事故の加害者側は保険会社が弁護士をつけるので広告する意味がないから広告しないもので、保険会社の依頼は1件単価は低いけど数が多く経営が安定するのでやりたい弁護士が多いがすでに特定の事務所が握りしめていて食い込めないのが実情だというのが弁護士業界にいればふつうの理解だと思います。これらは、ふつうに長年弁護士業務をしていればわかっているはずのことですから、弁護過誤についての書きぶりと合わせて、著者が何かやさぐれて弁護士全体か一部の弁護士に変に怨みを持ったのか、読者に誤解を与えることも意図してかあるいは意図したのでなくても注意を払わずに書かれているように見えます。
 また、刑事事件で「上告理由書」の提出を忘れた弁護士の話が紹介されています(190ページ)が、刑事事件で提出するのは「上告趣意書」で、「上告理由書」は民事裁判の用語です。民事裁判で控訴理由書の提出期限について裁判所から連絡は来ないと明記されています(190ページ)が、私の経験上、東京高裁からFAXされてくる期日調整の照会書には、それまでに控訴理由書が提出されている場合以外は必ず、控訴理由書の提出期限は○月○日ですと記載されています。「大都市と田舎の両方で30年以上弁護士をし、さまざまな経験をした」(244ページ)著者のいる/いた地方では高裁はそれを書かないというのでしょうか。控訴理由書の提出を忘れれば重大な弁護過誤であり(221ページ)というのですが、民事裁判の控訴理由書の提出期限については、それに遅れても、上告理由書とは異なり制裁はなく、控訴却下にはなりません。私は期限は厳守していますが、私の経験上(こちらが被控訴人で、相手方が控訴理由書を出すとき)、控訴理由書の提出期限に遅れて出してくる弁護士は少なくありません。どこまで本気で書いているのかわかりませんが、悪いけど、弁護士経験30年以上の弁護士が書いたものとしては雑に過ぎる印象です。


宮田一郎 共栄書房 2021年1月25日発行
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暮らし・お金・老後…おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください!

2023-02-21 20:16:53 | 実用書・ビジネス書
 独身女性が、職場・仕事、恋愛・結婚、生活、家族、老後などで遭遇する心配ごと、困りごとについて、関係する法律や制度を挙げて若干の説明をして考えるヒントというか入り口を示す本。
 冒頭で予想外のトラブルが起きたときどうしたらいいのかなと思案するところに「大丈夫、そんなときに味方になってくれるのが法律や制度です!」(2~3ページ)と登場したわりには、法律や制度を超えた領域に口を出してみたり(例えば災害への備え:127~129ページ、保険選び:186~187ページ)、紹介されている相談者のケースでは法律が味方になりそうにないものが多々あります。後者の点は、著者がわりと堅実な回答をしていると評価できますが、「おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください!」というタイトルも含めたこの本が読者に与える期待とはズレている感じがします。項目ごとに「あなたを守ってくれる法律」という囲みで条文が引用されていますが、本文に照らしてその条文が相談者を守ってくれないことも少なからずありますし、難しい条文もかみ砕かずにそのまま引用されているのも不親切な感じがします。著者の回答を前提に本作りをするなら、法律と制度で心配ごとをすべて解決できるかのようなキャッチとコンセプトではなく、おひとりさまが堅実に心配ごとを減らして生きるために法律と制度を正しく学びましょうというような体裁にすべきでしょう。編集者の企画と著者の意向にずれが生じたのを編集者が無視して自分の考えを押し通して出版してしまったのではないかと思います。
 著者の回答は比較的穏当な線のものが多いのですが、相談者にとって解決になっていないものも多くなっています。私の専門領域の労働問題が最初に出てきますが、そこでの回答は、法的には闘えない、諦めるか会社と相談してみろというニュアンスで終わるのがほとんどで、まぁ挙げられているケースからすればそういう答になるとは思いますが、それならなんのためにこの本を書いているのか、労働者のためではなくて会社のために書いているのかと思ってしまいます。冒頭の漫画(18~19ページ)を見ても「女の敵は女」みたいな問題設定なのも気になりましたし。


上谷さくら 学研プラス 2022年10月11日発行
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タコのはなし その意外な素顔

2023-02-20 22:42:38 | 自然科学・工学系
 タコの生態等についての解説書。
 タコについての研究は進んでおらず、著者自身も元々の研究対象はイカであったが同じ頭足類として興味を持ち、イカ以上に研究者が少なく研究の必要性を感じて研究するようになったと書いています(まえがき、あとがき)。
 タコは海中で生活しておりその自然界での観察が容易でないこと、250種ほどのタコがいるのに、研究の中心は欧米の学者により主としてチチュウカイマダコ(マダコは世界中に分布していてすべて同一種と考えられていたが、日本のマダコはマダコの標本種とは別種と判明したのだそうな:31~32ページ)について行われてきたため、これまでに研究で明らかになったことやタコの特性と考えられてきたこと、例えば視覚の発達、学習能力、触覚の機能、単独性等が多くのタコに共通するものなのかについても再検討の必要性があるとのことです。
 著者は、タコの社会性/単独性について、さまざまな実験・研究を示し、タコが必ずしも他のタコと別行動をしたり他のタコを排斥しようとしない場面を挙げつつ、それが種の特性によるのか、実験環境の特性によるのかなど、まだ判断できずにいることを述べています。アメリカで通常は同種同士の接近行動が観測されないカリフォルニアツースポットタコにMDMA(いわゆるエクスタシー)を投与すると近隣の同種他個体に腕を伸ばして触ろうとする行動が見られた(151~152ページ)などという先進的な/ラディカルな実験結果も紹介されています。全体としては、身近に思われるタコについてもその生態等はほとんどわかっていないということを再認識するという本だと思います。


池田譲 成山堂書店 2022年11月18日発行
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英語談話標識の姿 ちょっとまじめに英語を学ぶシリーズ5

2023-02-19 20:35:33 | 実用書・ビジネス書
 英語表現で、話し手が聞き手に対して自分の発話の内容・趣旨を正しく理解するように、文脈に応じて話し手の態度表明、感情表出、情報価値、談話構造、対人関係等に聞き手の意識を向けさせる合図と位置づけられる「談話標識」、多用される言い回しとしては、actually、after all、all right、also、anyway、at least、by the way、frankly、furthermore、however、I mean、in addition、incidentally、in conclusion、in fact、in other words、kind of、look、mind you、nevertheless、now、of course、OK、on the contrary、on the other hand、so、sort of、still、then、therefore、well、you know等(5ページの例示)などの使い方とそのニュアンス等について解説し論じた本。
 学者による研究という体裁ですが、言葉、それも現代の口語表現のことですので、それほどきちんと整理しきれるものではなく、どちらかと言えば、こういう使い方もある、同じ言葉でもいろいろなニュアンスを込められるということを例文を読みながら感じ取るというか、ふ~ん、そういう表現があるんだねと感心するという本だと思います。
 例文は現代小説と映画が多く、体感的には小説ではシドニー・シェルダンとエリック・シーガルが多く、映画では「プラダを着た悪魔」が多く引用されているように思えました。私の好みとしては、ジョン・グリシャムがわりとあって、あぁこの場面かなと思えるのが楽しく、そういう点ではハリー・ポッターシリーズからの例文がまったくないのが残念でした。
 ところで、同じ例文が複数回引用されているのに、違っているのはどうよと思いました。同じ引用文中の「~was, well, a story」が26ページでは「1つの作り話だ」と訳され、126ページでは「1つの物語になっている」と訳されています。話されている文脈のなかでの微妙なニュアンスを検討する本で、その前提となる文脈・文意の理解にズレがあるとしたら、その検討が適切か不安を感じます。同じ引用文の英文が、56ページでは「 " I must (略)as you know well.」で、164ページでは「"Yes, I must(略)as you well know.」とされています。原典からの引用が、少なくともどちらかは間違いなわけで、原典のチェックがその程度となると、他の部分の引用の精度にも疑いが生じます。例文自体が正しくなかったら、その中での「談話標識」のニュアンスの解釈にも影響しかねません。私が発見したのはごくわずかな箇所ではありますが、ちょっと大丈夫かと思ってしまいます。


廣瀬浩三、松尾文子、西川眞由美 ひつじ書房 2022年11月25日発行
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消費者法

2023-02-18 21:51:58 | 実用書・ビジネス書
 当事者対等を前提として契約関係等を規律する民法に対して、事業者・企業等との間で知識や情報収集力・交渉力等で圧倒的に弱い消費者の契約関係や商品・サービス利用における安全性の点で消費者を保護する一連の法体系について解説した本。
 消費者法の分野は、労働法と並んで、当事者の力関係に差があることを理由として民法原理を修正する必要があるもので、庶民の弁護士としてはよく知り使いこなさなければならないものですが、新規立法や法改正が頻繁にあり、付いていくのがたいへんな分野でもあります。久しぶりに領域横断的な本を読んで、知らなかった法改正が多数あることを知り、勉強になるとともにちょっと冷や汗でした。
 それにしても、当事者対等、自己責任を基本原理とする民法を修正する必要があるから制定整備されている消費者法の分野でも、自立支援なる概念が導入され、電子取引の進展から世間的には納得されやすいにしても特定商取引法の各種の書面交付義務が「電磁的方法」(電子メール等)でよいこととされていく(2021年改正法:施行は2023年6月15日を超えない範囲で政令で定める日、現時点で未定)などは、事業者側の便宜を優先して消費者保護を後退させるもので、嘆かわしいところです。
 5人の分担執筆ということから、その自立支援を好ましく評価したり、判断力が弱い者に投機的取引などのリスクの高い取引を勧誘することを違法とする適合性原則の強化を顧客の自己決定の機会を奪い取引から排除するものとする評価をする者とそれと反対の価値観を持つ者の論調の違いを感じます。まぁそれはそれで興味深く読めますけど。


宮下修一、寺川永、松田貴文、牧佐智代、カライスコス・アントニオス 有斐閣ストゥディア 2022年11月10日発行
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虚ろな革命家たち

2023-02-16 21:42:20 | ノンフィクション
 学生運動を知らない世代1992年生まれ30歳の週刊誌記者である著者が、50年前の山岳ベースリンチ殺人事件(連合赤軍事件)の中心人物であった森恒夫の足跡をたどるというノンフィクション。
 本の装丁からは小説かと思いましたが、週刊誌記者らしく、現地を訪ね(ただし、50年前のことであることと、事件記録ではなく出版物や手記類を頼りにしていることから、現地を正確には特定できずに終わっている)、関係者にインタビューして(やはり50年前のこと故、事実についての言及はあいまい)、手探りで森恒夫の経歴、人柄や性向を描き出し、事件当時の考えや心情を推測していくスタイルのノンフィクションとなっています。
 描かれている理論的ではあるが人を引っ張っていくタイプではなく責任感はある体育会系というような森恒夫像は、事件関係者の間ではもともとそのように受け止められていた(事件記録を読んだ私もそのような印象を持っていた)ものですが、世間というか、否定的に描きたいマスコミによって異常性あるいは未熟さ(あるいは「狂気」)が強調されてきたなかで、若い記者が取材により描いたという点で新たな価値があるのでしょう。


佐賀旭 集英社 2022年11月30日発行
2022年開高健ノンフィクション賞受賞作
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