伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

漫画を描く 凜としたヒロインは美しい

2024-03-30 22:44:30 | ノンフィクション
 漫画家里中満智子が、作品を描く姿勢、これまでに描いてきた作品やこれまでの人生などについて語った本。
 里中作品については子どもの頃~若い頃に読んだ記憶があり、タイトルも覚えていなかったのですが、「男のことばなんか信用しちゃいけない 男にとって行動が第二 ことばは第三の価値しかない」(149~150ページ)というのを読んで、これは読んだことがあると覚えていました。発行年を見ると、私が中学生のときです。で、作者はこの台詞を書いたとき、第一の価値を考えていなくて、あちこちから第一の価値は何だという質問が来て困ったと告白しています(149~150ページ)。そうだったのか…当時、この第一の価値について答える台詞(本文ではタネ明かしをせずに、151ページの絵で答えを示しています)、わりと感動した覚えがあるのですけど。
 さまざまな個性と主体性を追求してきた作者の姿勢にはもともと共感を覚えていました。この本で説明されているところでそれが強められたところもありますが、スペースシャトルの搭乗ツアーにポンと1000万円払って申し込んだ話(197~199ページ)とか政府や自治体の委員とかの話は、功成り名を遂げるとそうなるものとは思いますが、私にはちょっとねというところでした。


里中満智子 中央公論新社 2024年1月25日発行
日本経済新聞「私の履歴書」
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インタビュー大全 相手の心を開くための14章

2024-03-25 21:30:14 | ノンフィクション
 インタビューで相手から話を聞き出す、特にこれまで明かしていなかったことを聞き出すための準備や会話での心がけやテクニックを解説した本。
 あくまでもインタビューに応じた基本的には話をしたい人から友好的に聞き出すという条件でのことですので、私たちが裁判で行う尋問とは場面や条件が異なるのですが、自分と相手ですいすいわかって進めてしまうと第三者が聞いた(読んだ)ときにわかる話になっていない(相手の言葉にできていない=大事なところが相手の言葉として記録に残っていない)というミスに注意(141~143ページ)とかは、証人尋問などにも通じる話です。
 そういう点以外でも、尋問の場以外でもさまざまな場面で情報を聞き取るしごとには、心がけとしてためになりそうなところが多々ありました。


大塚明子 田畑書店 2024年2月20日発行
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剱の守人 富山県警察山岳警備隊

2024-03-08 21:28:55 | ノンフィクション
 剱・立山エリアを中心に山岳救助に取り組む富山県警察山岳警備隊に同行取材して、訓練、パトロール、救助の実情、歴史や装備、隊員やサポートする人々の様子などを綴ったノンフィクション。
 人の命がかかった仕事で、それ故に時期を問わず緊急出動を余儀なくされる、その仕事自体が足場の悪さ、雪や霧などの厳しい環境の下で、谷底に落ちたり滑落した人を救い出し負傷者などを背負ったりして山小屋などまで運び送り届けるという危険があり体力を消耗するものなのですから、ただただ頭が下がります。救助要請があった場合だけでなく、登山者の様子を把握して遭難していないかを気にして積極的に確認作業をしている(もちろん、いつもしているわけではないでしょうけど)ことまで書かれていて驚きました。
 2021年10月末に立山に行き、登山はまったくしませんでしたが、室堂の賑わいや雪深さ、霧などは体感しました。そのときは存在も気づきませんでしたが、室堂警備派出所などにここで書かれている人たちが詰めていて活動していたのだなぁと感慨深く思いました。


小林千穂 山と渓谷社 2024年1月10日発行
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ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

2024-02-15 22:53:34 | ノンフィクション
 著者が大久保2丁目、百人町に居住して生活しながら見聞きした外国人、日本人住人や商店主、従業員らの話や生活状況などを綴ったノンフィクション。
 著者自身は長らくタイに居住してきて東南アジアや南アジアの下町が住みやすいと感じているもので、基本、アジアからの移民に親和的ですが、元週刊誌記者・ジャーナリストのためか、外国人を嫌い交わらない日本人の実情にも度々触れる配慮をして、よくいえばさまざまなことがらや人々に目を配り、悪くいえば八方美人的な書きぶりです。
 大久保、新大久保は、韓流ブームの聖地、コリアンタウンという印象が強いですが、そうなったのは2000年頃からと古い話ではなく、しかも2011年の福島原発事故でそれまで外国人の中で多数派だった中国人・韓国人が避難して、入れ替わりにベトナムやミャンマー、インド、ネパールなどからの移民が増え、国際色豊かになっているとのことです。
 外国人に対して不安や不気味さを感じる日本人が多いと思いますが、外国人から見ると「日本は、実はこわい国だ。ヤクザでもない一般人が、いきなりブチ切れて怒鳴ってきたりする。ささいなミスで激怒し、肩がぶつかっただけで睨まれる。僕も10年のタイ暮らしから帰ってきたばかりの頃は、本当にこわかった。日本人とは、なんと好戦的な人々かと思った。立場の弱い外国人はとくに、日本人のパワハラの餌食になりやすい」(260ページ)というのは目からウロコです。


室橋裕和 角川文庫 2024年1月25日発行(単行本は2020年9月、辰巳出版)
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完全版 袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落

2024-01-20 23:06:09 | ノンフィクション
 2023年3月に事件発生から実に57年を経て再審開始決定が確定した死刑冤罪事件袴田事件の1審で無罪を確信しながら他の2人との多数決に敗れて泣く泣く死刑判決を起案した主任裁判官であり、その後まもなく裁判官を辞め、2007年にそのことを公表した熊本典道元裁判官のその後を取材して書いたノンフィクション。
 裁判官を辞めて弁護士になり、安田火災(現損保ジャパン)の顧問弁護士として年収1億円以上を得て豪遊していた時期もあるのに、弁護士も辞め生活保護を受けるに至ったという経緯・原因は、著者の取材開始時には本人が高齢となり記憶も怪しい状態だったこともあり、「ボクには、正直よくわからない。端緒が袴田事件にあったことに何の疑いもないが、それが後に人生を破綻させるまでの影響をもたらしたかどうかは答えられない。そもそも熊本自身がよくわからないと言う転落の原因が、他人のボクにわかろうはずもない」(200ページ)とされています。え~と…このサブタイトルからして、それがテーマの本じゃないんですか、これ?
 日本の刑事司法の現状や問題点、袴田事件の捜査と裁判の問題を感じ取るにはいい本だと思いますが、焦点を当てた熊本元裁判官の人物像と人生については、今ひとつ何が言いたいのか、何のために書いているのかが判然としないという感想を持ちました。
 なお、この本の中で何度か紹介されている袴田事件と熊本裁判官を描いた2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」についてはこちらで書いています。


尾形誠規 朝日新聞出版 2023年8月30日発行
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ルポ無縁遺骨 誰があなたを引き取るか

2024-01-13 23:54:58 | ノンフィクション
 有名人であっても家族・親族がいても遺骨の引き取り手がなく自治体が保管して埋葬するケースをとっかかりに、終活、身寄りのない高齢者の処遇をめぐる問題、無縁墓、墓じまい等の関連する話題を取材して報じた本。
 「無縁遺骨を追った連載ルポを朝日新聞ではじめ、死の『ダイバーシティ(多様性)』ともいえるカオスに足を踏み入れた」(235ページ)と著者があとがきで述べているとおりの本だと思います。
 最初の方で書かれている引き取り手のない遺体/遺骨を行政が保管して苦慮している姿は、映画で見た「アイ・アムまきもと」(2022年、阿部サダヲ主演)の世界(映画の原作というかアイディアはイギリスの話だったのですが)が既に日本でそれ以上の状態だったことを意味しています。ちょっと驚きました。


森下香枝 朝日新聞出版 2023年11月30日発行
朝日新聞連載

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ルポ大学崩壊

2023-10-14 22:54:57 | ノンフィクション
 独立行政法人化と運営費交付金の削減、国立大学法人法改正による学長選考方法の自由化などによって独裁化と政府による支配が進む国立大学の惨状、私立学校法の改正で(学長・総長ではなく)理事長がトップとなり理事長の思うがままに運営できることになったことで私物化が促進された私立大学の惨状、多発するハラスメント、有期雇用職員の雇止め、非常勤教職員の雇止め等の雇用破壊、文科省役人の天下り等の実情を報じた本。
 最初に紹介されているのが、吉田寮自治会に対して訴訟提起して立ち退きを求め、タテカン(立て看板)を一方的に撤去して学生・教職員組合と対立している私の出身校京都大学です。私が在学していた頃には、まだノーベル賞受賞者輩出などよりも「反戦自由の伝統」を誇りに思う風潮があったのですが、落ちぶれ変わり果てた姿に悄然とします。
 有期雇用の職員や教職員の雇止めに関しては、裁判上、雇止めが有効とされる(労働者敗訴)ケースが相次いでいます。それは、労働契約の条項や規則、担当業務の差替えなどを工夫して、おそらくは使用者側の弁護士の入れ知恵で大学側がうまく立ち回っているためです。判決文を読んでいるとため息が出ますが、裁判所にはそういった大学側の小ずるい手法が今のところ効いています。こういったやり方は、短期的には大学側=使用者側の勝利となっていますが、このような状態が続けば、大学での有期雇用が、「大学」という言葉/ブランドが与えるイメージとは異なり、極めて不安定な労働者・研究者にとって割に合わないものだということがいずれは世に知れ渡り、大学は有能な人材を確保できなくなると、私は憂いているのですが。


田中圭太郎 ちくま新書 2023年2月10日発行

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70歳からの正しいわがまま

2023-10-06 21:02:33 | ノンフィクション
 終末期に在宅で過ごす患者の訪問医療を行う著者が、訪問医療での自らの経験を語り、死にゆく姿ではなく、他人の考えに従うのではなく、自らの考えに基づいてギリギリまで生きたいように生きて行く患者たちの姿を見て、そのような生き方、死のあり方を勧める本。
 70にして矩を踰󠄁えよ、70歳になったら人として分別ある行動をとる、なんてことにとらわれる必要はもはやないのではないか。わがまま三昧、他人に多少眉を顰められたとしても、やりたいことをやりたいようにやっていい、やるべきだと私は思う(187ページ)というのが、この本の基本メッセージとなっています。周りの人は迷惑かもしれないけれど、死が迫っているのだし、構わない、そんなこと構ってられないということでしょうね。
 ただ、時折思うのですが、死ぬときに幸せか後悔しないかが、それまでの人生がどうであったかを打ち消してしまうほどに決定的なものなのか、それもまた悲しいなという気がします。


平野国美 サンマーク出版 2023年4月20日発行
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女性不況サバイバル

2023-10-03 21:13:36 | ノンフィクション
 コロナ禍の下で、元々低賃金・不安定雇用を強いられてきた女性労働者が、夫セーフティネット(働けなくなっても賃金が下がっても男性に扶養してもらえるだろうという偏見から対策がサボられる)、ケア軽視(ケア労働は家庭で女性がただでやっているような労働だから高い賃金を払うなどの必要はない)、「自由な働き方」(フリーランスは自己責任だから労働者並みに保護する必要はない)、「労働移動」(失業しても転職して別のところで収入を得ればいいから手厚く保護する必要はない)、世帯主主義(コロナ禍の下での給付金等は、「迅速な支給」のために世帯主に支給する)、強制帰国(技能実習生は妊娠したら雇止めとなっても技能実習ができないから在留資格が更新されず強制帰国となって雇用終了)という6つの仕掛けによって、さらに苦境に追い込まれたことを批判的に紹介するとともに、それと闘って成果を上げた事例を紹介する本。
 昨今の日本政府の政策や企業の姿勢への批判、それと闘うことを諦めるな、闘って勝っているケースがあるというメッセージはいいと思います。
 ただ労働者側の弁護士としては、実際にはもう少し労働者側が闘えているところがあると感じています。第1章で中心的に論じられているシフト制の労働では、近時の裁判例でも、私の実感でも、契約書上労働時間が明記されず時給だけしか定められていない場合でも、現実のシフト指定(週の労働日の日数、1日の労働時間)が数か月程度概ね一定であれば、その後に使用者側の都合でシフトを減らされたら、減らした指定が無効でその分の賃金を払えと裁判所は判断すると思います。使用者の好き嫌いでのシフト削減なら賃金全額、コロナ禍での業務縮小が合理的と考えられる場合でも労働基準法第26条の休業手当6割分は十分にいけると思います。それは裁判ではということではありますが、裁判をすればそうなるのだからという交渉も可能でしょう。
 フリーランスについても、契約書上は自営業者への業務委託でも労働の実態によっては労働者と判断されることがあります。有期契約労働者の雇止めに対しても、近年使用者側の巻き返しが強く裁判所も揺れ動いていますが、過去に数回更新しているケースでは民間なら十分闘えるケースが多くあります(公務員:会計年度任用職員と、派遣労働者については、裁判所が頑なに救済を拒否しているのでかなり厳しいですが)。
 そういったところで、労働者側の弁護士の目からは、この本のニュアンス以上に労働者側が闘って勝利できる場面も多いと感じていますので、諦めないで欲しいなぁと思います。


竹信三恵子 岩波新書 2023年7月20日発行
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報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち

2023-10-02 23:16:10 | ノンフィクション
 容疑者の殺害も辞さない「麻薬戦争」を推進するドゥテルテ大統領と次いで大統領となったマルコス・ジュニア政権下のフィリピン、プーチン政権下のロシア、習近平政権下の中国、内戦下のイエメンとシリア、エルドアン政権下のトルコ、皇太子(現首相)がジャーナリスト殺害を指示した疑惑が報じられているサウジアラビア、国軍によるクーデター後のミャンマーでの政権に都合の悪い報道をした記者の殺害や逮捕、いわゆる民主主義国での機密情報やフェイクニュース規制を理由とする記者・報道機関への捜索などの状況をまとめた本。
 昨今の世界の状況をおさらいするにはいい本だと思いますが、あらゆることがらについて上には上がというか下には下があるわけで、記者が次々殺されたり逮捕されている事例を並べてしまうと、少なくとも表立った形では殺されたり逮捕されていない日本の状況はまだましじゃないかという印象を与えかねません。最後に日本の状況についても、国境なき記者団の報道の自由度ランキングで安倍政権以降いわゆる先進国で例外的なほど低迷している事情を情報公開のお粗末さ、特定秘密保護法、高市発言等を挙げて述べているのですが、いかんせん迫力不足というか及び腰に見えてしまいます。もっとも、それは、日本ではまだ殺されたりするわけじゃないんだからこの程度の政権の圧力でビビったり忖度しないでもっと頑張れるだろうという形で報道側に返っていく話かと思います(映画「妖怪の孫」「分断と凋落の日本」で、ニューヨークタイムズの記者が指摘していることです:映画「妖怪の孫」についてはこちらで、「分断と凋落の日本」については2023年6月6日の記事で紹介しています)が。


東京新聞外報部 ちくま新書 2023年8月10日発行

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