伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

恥をかかないスピーチ力

2017-02-28 22:17:50 | 実用書・ビジネス書
 自己紹介、スピーチ、コメントのコツを説明した本。
 スピーチの基本として、最初に時間感覚を強調しています。人の話に対してどのくらいの時間まで許容できるかについて、「三〇秒まで 余裕で耐えられる。一分まで 『この話は面白くないな』と思い始めても、『まあいいだろう』と平静に受け止められる。二分まで 『この話はつまらない』とはっきり認定し始める。三分まで 『まだ続くのか』と嫌気がさしてくる。三分超 怒りを感じ始める。」(19~20ページ)というのが、珠玉の言葉という感じです。
 大きな会場で話すとき、聴衆のさまざまな人に視線を向けるということは、意識しますが、方向だけではなく距離感を持って、特定の人に声を届かせる、(後ろを向いていても声だけで)自分に話しかけられているように感じさせる、そのためにボールを投げるような感覚で(実際にボールを投げてみて練習するとも)(44~49ページ)というのは、思い至りませんでした。
 後半は個別シチュエーションになり技術的になりまた新鮮味が失われるきらいはありますが、スピーチの内容以前のところでまとめられている前半に学ぶべき点が多いように思えました。


齋藤孝 ちくま新書 2016年6月10日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

経済学のすすめ 人文知と批判精神の復権

2017-02-27 22:46:23 | 人文・社会科学系
 「経済学のすすめ」というタイトルながら、特に現在の日本の経済学者、大学の経済学部の現状を批判し、文学・哲学・歴史学などの人文学を基礎とし(それらの一般教養を前提に)批判的精神をもった「モラル・サイエンス」としての経済学を志向すべきという、「あるべき」または著者としては「本来の」経済学の繁栄/復興を期待したいという本。
 行政や企業からの経済学者への委託研究は、企業行動を正当化し府省益にかなう結論を導く「研究」を期待するもので、計量経済モデルの予測の信ぴょう性はいたって心もとないが、しばしば悪用されてきた。温暖化対策をめぐる議論で通産省が珍重した炭素税の導入が経済成長率を有意に低下させるという計量経済モデルに関しても、「計量経済学のプロである私に言わせれば『低下させる』という結論を導くモデルを作れと言われれば作れるし、『上昇させる』という結論を導くモデルを作れと言われれば作れる。にもかかわらず、数式とコンピュータにたぶらかされやすいマスメディアの記者たちは複雑な数式の並んだモデルを見ると、一片の恣意性も入り込む余地のない『科学的』なシミュレーション装置のように思い込む。」(140ページ)という話、原発の安全性等をめぐる電力会社やメーカーの「解析」と共通性を感じます。
 日本では「学会誌のほとんどが、また大学の紀要までもが『査読付き』を名乗るようになった。」「公募への応募者を評価する際に、業績(論文)リストに並ぶ各論文の掲載誌が査読付きか否かを記入することが、応募者に義務付けられる。」「こうした公募制と査読制の導入は、一見、教員選考をフェアにするかのようだが、実のところ、教員選考をアンフェアにする元凶となった、と私は見る。」「実際、名ばかりの査読付き雑誌が少なくない。」(133ページ)、「日本の経済学者には、思想信条に無頓着な者が多いため、また審議のテーマに関わる専門的(医療・エネルギー・環境等についての)知識が総じて乏しいため、法学部出身の官僚が無理やりつくる『カラスは白い』という屁理屈を鵜呑みにしがちである。」(145ページ)、「経済学者がテレビ番組に出演する頻度もまた、日本が群を抜いて多いだろう。そんなわけで、日本の経済学者には、老若を問わず、論考を世に問う機会がふんだんに、否、ふんだん過ぎるほど多く用意されている。査読付き専門誌に論文を書く暇もなく、多くの経済学者がマスメディアで自説を披露している。その大部分が、時の政権や産業界に媚びへつらう内容の論考である。」(195ページ)などの指摘は、興味深いところです。


佐和隆光 岩波新書 2016年10月20日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ナミヤ雑貨店の奇跡

2017-02-26 00:19:46 | 小説
 当初は子どもたちから冗談半分の悩み相談を受け、その後大人からの深刻な相談もなされるようになり、それに答えるのが老後の生活の張り合いとなっていた1979年の雑貨店主浪矢雄治と、ナミヤ雑貨店に当時人生相談をした相談者たち、浪矢雄治亡き後32年たち廃屋となったナミヤ雑貨店に逃げ込んだ窃盗犯3人組のもとになぜか送られてくる1979年のオリンピック選手候補「月のウサギ」、魚屋を継ぐか音楽に賭けるかを悩む「魚やミュージシャン」、昼の雑用と水商売を掛け持ちし水商売一本にするかを悩む「迷える子犬」の相談の手紙が32年の時空を超えてつながるSF風短編連作小説。
 子どもたちの悩みにとんちで答える(一休さんみたいな)やりとりをしていたら、大人の深刻な相談を受けるようになってしまい、自分が戸惑い悩む浪矢雄治の姿に共感を覚えます。人の悩みを受け止めて、自分が背負い込んでしまうことの責任感・重さは、独特のものです。私は、弁護士として、あくまでも法的に解決するのならば、裁判所ではどうなるということに限定して答えますし、その答えは法律や裁判に関する専門知識と経験に基づいていますので、その範囲である限り一定の自信を持てますが、素人が他人の人生についてその方向性を示そうというのですから、まじめな人であればそれこそ自分が悩み重圧に押しつぶされてしまうでしょう。その点について、真剣に対応しようとする浪矢雄治と、悩まない不良青年敦也らを対比させているのも、巧みに思えます。
 独立に無関係に登場したかのような人々が、次第に密接に絡んで来て、あぁこういう布石というか関係だったのかと味わい深く思えるという趣向です。東京まで電車で(特急でも)2時間かかる小さな町の寂れた雑貨店に相談の手紙を直接持ってくる人たちなのですから、まぁ狭い世界の住人であることは当然で、互いに知り合いでももともと不思議はないわけですが。
 映画化されるという情報があったので(映画の公開予定は2017年9月でまだ7か月も先ですが)読んでみて、短編連作と知ってどうなることかと思いましたが、最終的に全体が絡まり、いろいろしんみり余韻が残るので、映画にするのはそれほど困難ではなさそうです。とりあえず期待しておきましょう。


東野圭吾 角川文庫 2014年11月25日発行(単行本は2012年3月)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

オードリー・ヘプバーンの言葉

2017-02-25 22:11:51 | エッセイ
 著名な女優であり、晩年はユニセフの特別親善大使として活躍したオードリー・ヘプバーンの生きざまに焦点を当て、オードリーの言葉を紹介しその背景を語った本。
 6歳の時に両親が離別し父親に捨てられたことを「父に捨てられたことは、私の一生で、最もショッキングな事件でした。」(118ページ)と語るオードリー。栄養失調になりやっと生き延びた戦時の苦難やバレリーナになる夢破れた挫折、(さらには2度の離婚)などを超えて、父親が見捨てて去ったことが打撃を与えたということを見るにつけ、父親の責任の重さを痛感します。
 そして、オランダで第二次大戦期を過ごしたオードリーが、「私たちはすべてを失いました。家も、家財も、お金も。でもそんなことはどうでもいいのです。肝心なのはただひとつ。私たちは生きのびた、ということです。」(124ページ)と述べ、その体験から「ナチスに関しては、聞いたり読んだりする恐ろしいことを、割り引いて考えてはいけません。それは、想像をはるかに超える恐ろしいことなのです。」(120ページ)と語り、のちに「私は、ユニセフが子どもにとってどんな存在なのかはっきり証言できます。なぜなら私自身が、第二次世界大戦の直後に、食料や医療援助を受けた子どものひとりだったのですから。」(162ページ)と言い、湾岸戦争中のユニセフの会議で戦争が終結したらイラクの子どもたちに何ができるかが議論されているとき、戦争が終結したらでは遅い、「このような戦争を引き起こした不正に対して抗議するのがユニセフの義務ではないでしょうか。」と発言した(176~177ページ)というエピソードと構成は素晴らしい。この国を戦争へと駆り立てようとする連中が政権を取りマスコミを牛耳って黙らせている今、このような本が多くの人に読まれるといいなと思います。


山口路子 大和文庫 2016年8月15日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

新築マンションは買ってはいけない!! 購入前に知っておきたい8つのリスク

2017-02-24 22:10:24 | 実用書・ビジネス書
 「住宅ジャーナリスト」の著者が、欠陥/手抜き工事問題をはじめとするマンション購入のリスク、今後の住宅事情を考えると賃貸マンションの供給過剰等により賃借料の低下・マンション価格の大幅な下落が予測されることなどを理由に、今新築マンションを購入することへの注意を喚起する本。
 施工ゼネコンの子会社であることが多いマンション管理会社が、欠陥工事が発覚した場合に、施工ミスを認めずに有償の追加工事を提案し、抗議する管理組合やマンション購入者に対し「あまり問題を大きくすると、このマンションで欠陥工事があったなどという、あらぬ噂が世間に広がります。そうなれば、資産価値に悪い影響が出ますよ。みなさんの大切なお住まいの査定価格が下がってもいいのですか?」という必殺の決めゼリフで抑え込むというエピソード(26~29ページ)、手抜き工事をしても大手ゼネコンは「優秀な弁護団を擁して」いずれも住民側が敗訴というエピソード(31ページ)、やはりそうかと思います。大企業のやりたい放題と、それを支える企業側弁護士の暗躍は腹立たしい限りですが。
 著者が勧めるマンション選びで、新築ではなく築10年あたりのマンションを選ぶ、その理由は築10年たって不具合が露見しないマンションは工事の精度が高いことが多くその後20年、30年しっかりした状態が保全されることが多いから、そして不具合が露見していないかは、マンション管理組合の総会議事録過去10年分を閲覧する、問題があれば総会で議論になっているはずだし、管理費の決算が赤字かどうかで管理費の滞納が多くないか、管理会社の言いなりか(管理費の水増し請求も)などがわかる(186~195ページ)というのは、なるほどと思います。


榊淳司 洋泉社新書 2016年3月18日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

医者が自分の家族だけにすすめること

2017-02-23 22:23:19 | 実用書・ビジネス書
 形成外科医の著者が、自分の「家族が…したら」という形で50のケースについて、自分の選択を説明する本。
 「自分の家族だけにすすめる」というタイトルに合うかはわかりませんが、解離性大動脈瘤で担当医から手術を強く勧められた80歳の父に対して「高齢者の開腹手術は、人体に計り知れないダメージを与えます。医師としてはそれでもすすめるべきなのかもしれませんが、家族として、息子として、私は手術をすすめることはしませんでした。本人が望まない手術は、よほどのことがない限り、本人の意思が尊重されるべきだからです」(134~135ページ)というあたりは考えさせられます。
 「病院の内部では、手術を失敗することが多いのは、『心づけをもらったとき』『紹介患者』『肉親の手術』と言われています」(243ページ)は、驚く半面、なるほどと思います。失敗できないと思うと冷静な判断ができなくなり、やらなくてもよいことをして失敗するのだそうです。弁護士の場合は、前2者(お金をたくさんもらったとか、誰かの紹介)はそういうことはまずないと思いますけど。「自分が当事者の場合は、冷静な判断ができなくなる」というのは、業界でよく聞きますが。
 X線検査、MRI、超音波検査などの読影能力は医師により異なるから経験の乏しい医師が人間ドックを担当すると非常に多い画像の中から情報を読み切れないだろう(223ページ)、内視鏡手術は医師の技量により手術結果が左右されることが多い(240ページ)としながら、「患者さんが病院内部の医療水準を知ることは困難と言わざるを得ません」(236ページ)。まぁ、そういうものでしょうね。弁護士業界も、そう言えば、そうとしか言えませんし…
 手術の際の局所麻酔で、硬膜外麻酔ならば手術後の痛みを感じることなく副作用の心配もほとんどないが、通常の麻酔よりも30分くらい時間がかかるので手術が多い大病院ではあまり行われていない、「もし、私や家族が腹部の手術を局所麻酔で受けるとしたら、必ず硬膜外麻酔を選択します」「もし、病院側が拒否するようなら、病院を替えてもいいとさえ思います」(240~242ページ)というのは、この本のタイトル通りの感じの情報ですが、そういうことがあるのですね。
 医療業界側の利害に沿って書いているように思えるところもあり、全部文字通りに受け取るべきかは疑問がありますが、健康問題・医療問題を少し冷静に見るのに読んでみて損はない本かなと思いました。


北條元治 祥伝社新書 2016年3月10日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

フィールドで出会う哺乳動物観察ガイド

2017-02-22 23:22:01 | 自然科学・工学系
 日本における「幻の動物とその生息地(Fantastic Beasts & Where to Find Them)」。日本に生息する野生の哺乳類について、種別に、生息地、形態・特徴・他種との見分け方、生態(夜行性・昼行性、食性:草食系・肉食系・雑食系等、営巣場所・環境、繁殖など)、観察(どういうところで、どういう時間帯に観察しやすいかなど)、生息を確認できるフィールドサイン(食痕、糞、足跡など)などを解説しています。
 日本のモグラ分布図(23ページ)で、「モグラ類の種間競争は激しく、ふつう同所的に生息せず分布域は重ならない」「西日本に分布するコウベモグラと東日本に分布するアズマモグラは、勢力争いの真っただ中にいる。先に日本に広く分布していたのはアズマモグラだが、大型で体力のあるコウベモグラが後からやってきて、アズマモグラを駆逐しながら西から東進を続けている」「今後もコウベモグラは全国制覇に向かってさらに東進、北上していくと考えられている」って…暴力団の縄張り争いみたい。地中生活中心のモグラが、そんなにぶつかったり追い出されるものなんですかねぇ。ちょっと意外です。
 ニホンノウサギ、ユキウサギは、休息するときは、そこまで歩いてきた足跡上を数メートルか十数メートル戻って、そこから別の方向に横っ飛びして進み、その先で休むそうな(それを「止め足」というようです:119ページ)。動物アニメのような行動パターンですが、捕食者を欺くための知恵(進化論的には、そういう行動パターンをとる/習性を持つものが生き延びて子孫を増やしてきた)なんですね。
 トウキョウトガリネズミは、北海道の一部にしか生息していないのに、なぜその名がついたか。「発見者がエゾ(蝦夷)をエド(江戸)と書き間違えたことによる」(11ページ)って… (-_-;)


山口喜盛 誠文堂新光社 2017年1月23日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

パフォーマンス・ブレークスルー 壁を破る力

2017-02-21 22:30:23 | 実用書・ビジネス書
 職場でのリーダー的な人物とその上司や部下、同僚の人間関係・コミュニケーション上の不調・トラブル・行き詰まりや、営業担当者などの顧客等へのアプローチなどについて、別の役割・キャラクターを演じることで改善するというプログラムを提供している著者が、事例を基にその実践を解説する本。
 現代社会では何でも知っている知識人であることに大きな価値が置かれ、わからないということは悪であるかのように扱われているが、知らないことがあるという自覚を受け入れることが現代のリーダーに求められることであり、それはリーダーはチームを未来に導くが未来に何が起こるかは当然誰も知らないから(63~67ページ)という説明には、うならせられます。知らないと認識するからこそ学びと成長のチャンスがあるわけですし。そして、デートに度々遅刻する夫に対し、遅刻したらその罰として5分間二人でダンスをするというルールを提案したアリシアのケース(142~143ページ)には目を開かせられます。遅刻を非難していらだつのではなく、自分が楽しいことをして二人で愉快になろうという発想の転換は、ほほえましくも素晴らしい。これぞ夫婦和合の秘訣。
 多数の改善事例を読んでいると、職場でのトラブル・不満のかなりの部分を占める職場での人間関係について、こうして改善していけたらいいのになぁ、と思えるのですが、紹介されている改善事例の具体的にうまくいったものには、著者らのチームが会社からあるいは上司側から依頼を受けたものが多く、上司側が態度を変えアプローチを変えることで改善しているというパターンが大半を占めています。おそらくはかなり高額の(弁護士以上の、かも)コンサルタント料を取る著者らのチームに依頼できるのは経営者やかなり高給取りのマネージャー・リーダーが大半を占めるという事情によるのでしょうけれど、上司と部下がうまくいかないときに、上司側が部下に配慮し変化するのであれば、部下側が上司を受け入れずに反抗を続けること自体難しいわけで、うまくいきやすいのはある意味で当たり前といえます。
 特に、「難しい場面での会話」と題する第9章(208~231ページ)では、冒頭に並べられる問題事例は多くが一労働者の立場での問題提起に思えるのですが、本文に入ると、一労働者の側で問題解決に挑むケースがあまり見られません。
 部下側から上司へのアプローチの事例は、新任の上級副社長マイケルが上司のカーソンに話しかけるという場面(244~247ページ)で自信を持ち間を取れというようなことや、無口なタイプのエドが攻撃的なシニアパートナーのウィリアムと話す場面(259~261ページ)でジョン・ウェインの物まねをして威張った態度をとることでリラックスするくらいで、一般の労働者の参考になると言えるかは疑問があります。後者などそのケースではたまたまうまくいったかもしれませんが、上司との関係をかえって悪化させかねないように思えますし。その他に労働者側で使えるかもしれないと思うのは、教師とモンスターペアレントの事例(232~242ページ)、セールスパースンと見込み客の事例(116~120ページ、243~244ページ)、コンサルタントとクライアントの幹部(223~228ページ)くらいです。
 全体として、労働者側が職場の人間関係上のトラブルに向き合うときに有効に思えるケースは少ないですが、そこにあまり期待せずに、うまくいかない人間関係一般の改善に向けたチャレンジとして読むと、何か使える場面があるといいなと思い、少し得した気分になれるかなという本です。


原題:Performance Breakthrough
キャシー・サリット 訳:門脇弘典
徳間書店 2016年10月31日発行 (原書も2016年)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

雑学の威力

2017-02-20 00:52:26 | 実用書・ビジネス書
 本業は漫画家だが、現在はテレビコメンテーター、クイズ回答者として知られる著者が、雑学の身につけ方、活かし方等を論じた本。
 「例えば、『遺伝子工学』について知っているよりも、雑学的知識のひとつとして、道端できれいな花を咲かせている植物の名前を知っていたほうが、人との会話を盛り上げるという点でははるかに有用です。もしくは、「宇宙工学」に精通しているよりも、夜空の星座に関して詳しいほうが周囲の人からのウケはいいでしょう」(5ページ)。確かに。言われている側の学問をしている人は悲しいでしょうし、今どき「夜空の星座」を見ることができる人が、少なくとも都会に、どれだけいるかは疑わしいところではありますが。「雑学の最大のいいところは、『人を傷つけない』ところです。仮に、話をしていて相手を不機嫌にしてしまうなら、それは雑学ではありません。その点だけは絶対に押さえておきたいポイントです」(36ページ)も、なるほど、とは思いますが、この書きぶりは何か嫌な経験があるのでしょうね (^^;)
 雑学を収集する作業を飽きずに継続するコツのひとつが、知識を得るたびに「あー、今日もひとつ頭が良くなったよね」と声に出して言うことで(78ページ)、「不思議なもので、実際に毎日のように繰り返して口にしていると、脳がその言葉を信じ込んでしまうのか、着実に一歩前進したような気になります。同時に刷り込んだ新たな知識の内容をそばにいるカミさんに伝えることで、より確実なものにできます」(126ページ)だそうです。なるほど。
 自宅で見つけたテントウムシが「ムーアシロホシテントウ」だったとか、クモが「アダンソンハエトリ」だったというエピソードで「日本の一般家庭に、外国からムーアさんやアダンソン博士なんていうお客さんが来ることはまずないでしょうから、虫とはいえ、しっかりと歓待してあげないと礼を失するというものです」(72ページ)って…『日本産原色クモ類図鑑』が常備されている「一般家庭」の方が珍しいんじゃないかと。
 「漫画を描いていればネタ切れはしょっちゅうですが、ネタが出てこないからといって連載を飛ばしたことは35年間一度もなく、最終的には必ず切り抜けることができているのです」(188ページ)は、ご立派。締め切りのある書面を多数抱え続ける仕事をする者として、その苦しさはよくわかります。博識の自信がそうさせるということとして書かれていますが、むしろ逆にそういう人だから雑学の収集を継続しひとかどの者になれるのではないかとも思います。
 全体としては、ビジネス書にありがちな、出版のコンセプトは明確でわかりやすいが書ける方法論に限界があり次第にページを増やすための水増し・こじつけが続き終盤にはだれてくる、ページ数をもっと減らしてコンパクトに抑えた方がいいのにねという読後感ではありますが、趣旨はなるほど感があります。


やくみつる 小学館新書 2016年4月6日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話

2017-02-19 12:16:30 | 人文・社会科学系
 日本の性の通史をつくるという企画で、日本史の中での性にまつわるエピソードを紹介した本。
 混浴について、「エロの歴史」というくくりで位置付けています(56ページ等)が、出雲風土記のころから(それ以前も)を論ずるのに、混浴だから大行列だったと評価するのはどうかなと思います。その頃そもそも男女別の風呂があったのか、混浴だからではなく、温泉自体が珍しく人気だったということではないのか、疑問に思えます。ペリーの報告書で「ある公衆浴場での光景だが、男女が無分別に入り乱れて、互いの裸体を気にしないでいる…」と「侮蔑」しているとされています(249~250ページ)が、入浴者が「互いの裸体を気にしないでいる」のならば、入浴者は「エロ」の気持ちを持っていないということではないのか、周りが、お上が、後世の人間が、勝手に淫乱だ、けしからんと言っているだけなんじゃないかとも思えます。
 「性」の問題とは別に、「庶民の生活史という点からいえば、源平の争いが始まった時から徳川幕府が成立するまでの400年以上、ズーッと戦国時代であった。なぜならその400年間、庶民の家は焼かれ、田んぼは軍勢が移動する際に踏み荒らされて、まるで津波に襲われた後みたいに使い物にならなくなったからである。」(167ページ)として、勝った軍勢が庶民から強奪し家を焼き払い人さらいをして奴隷として売り飛ばした様子(167~168ページ)、多くの日本人が奴隷として海外に売られたこと(182~183ページ)などが紹介されています。日本史の英雄として位置づけられている戦国大名たちが、庶民を虐げ強奪する残虐で小汚い権力者だという視点を持たせてくれるという点で、興味深いところです。


下川耿史 幻冬舎新書 2016年3月30日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加