伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

先生が足りない

2023-06-23 22:15:54 | ノンフィクション
 公立小中学校等での教員の欠員の実情とその増加について、朝日新聞と文科省の調査、現場の声の取材、文科省と自治体(教育委員会)等の見解などを紹介しながら報じた本。
 この本で問題としている教員不足は、正規教員は受験倍率が低下しているものの1倍を切る状態にはなく、一応不足しているわけではないが、小泉政権下の三位一体改革で正規教員の人件費に充てられていた財源を使途を緩めて地方に移譲した結果正規教員の人数と給与を削減して非正規教員枠を増やした自治体が多くなり、正規教員だけでは学校がまわらなくなり、非正規教員が多数必要となったところ、その非正規教員が足りないというものです。そしてその足りなさ具合は学校はそれを外部に明らかにしたくない(知られれば保護者その他から非難される)し、否応なく誰かが無理をしてその業務をして多くはなんとかすることもあり、明確になりにくいということがあって、ややわかりにくく歯切れが悪くなっています。
 この国で、教員のみならず横行している規制緩和や経済界の意向に沿った「改革」で、正規教員は長時間労働(働かせ放題で、教員には残業代さえ払わない)で疲弊し、心身を病んでリタイアしたり希望者の全体数が減少し、低賃金で首を切りやすい非正規労働者の雇用を増やしてみたもののそのような実態が続けば、教員免許を持つ者が低賃金不安定雇用を希望するはずもない、という当然に予想されることを無視してきたツケというほかないと私は思います。
 小中学校の問題とは別に、大学で有期契約の研究者や職員を増やして3年とか5年で雇止めにするケースが近年裁判でよく争われ、使用者側の弁護士がさまざまな知恵を駆使した成果として雇止めが有効とされる判決が多数出ています。このような状態が続けば、大学での有期雇用というものが極めて不安定な労働者に圧倒的に不利な雇用であることが知れ渡り、大学は近い将来有為の人材を確保できなくなるだろう、と私は危ぶんでいるのですが…
 著者は、朝日新聞で記事にしたときに子供たちの声の取材が足りなかったと反省し、この本の原稿を書く段階で取材したと「あとがき」で書いています(144~145ページ)。その取材結果は39~44ページで紹介されていて、それ自体はリアルなものですが、新聞記者が出版のために必要と考えて取材してこれくらいの数しか取材できないのかということの方に驚きました。


氏岡真弓 岩波書店 2023年4月12日発行

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2 コメント

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Unknown (樹)
2023-06-30 20:30:06
先生が足りない?
最近の日本は教師の質がサガリ放題で、嘆かわしい。
わたくしも日本在住のころは教諭でした、昔の先生は
教える立場を理解してましたよね。それがいまごろの日本は性的行為が自由に出来ると軽蔑に値する先生が多くて、まともな良識のある先生が足りないのでは?

日本の教育関連のニュースを見るのが恐ろしいですよ。
ちなみにわたくしは弁護士さんのことを先生と呼ぶ日本スタイルにはなじめません。なので各弁護士さんに、先生呼びはしたことないです、(^^ゞ
コメントありがとうございます (伊東良徳)
2023-06-30 23:43:03
樹様
コメントありがとうございます。

私は非違行為を犯した労働者の代理をして解雇無効を取るのが仕事ですが、まだ性犯罪を犯した教師の事件は経験がありません。
単に報道を見ただけですが、一昨年「売春女性教師は懲戒免職相当か?」という記事を書きました。
https://www.shomin-law.com/essayBaishunmenshoku.html

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