伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

電力・ガス自由化の衝撃! 暮らしも価格も大きく変わる

2016-07-27 22:04:17 | 実用書・ビジネス書
 住宅用エネルギー管理システムなどのエネルギー供給を含めたさまざまなサービスの提供を行う民間企業(エンコアード株式会社)のCEOとマーケティング本部長が、電力自由化とガス自由化が進んだ場合の将来像の明るい側面を述べて、自社の事業を含む電力自由化・ガス自由化の先にあるさまざまなサービス/事業をピーアールする本。
 電力自由化が2016年4月に始まったことから書き始めていますが、その具体的な内容に関する説明はわずかで、基本的には、その先の予想というか願望を、展開しています。電力自由化自体、発送電分離がきちんと行われるのか、骨抜きにされるのではないかということがまず気になるところですが、そういった問題意識は皆無で、明るい未来像だけが語られています。
 前半では、通信機能を持つ電力計スマートメーターへの切替が説明され、賛美されていますが、スマートメーターの機能は、使用電力量の送信(電気料金の請求・徴収)、電気供給の停止・再開の遠隔操作、住宅用エネルギー管理システムを通じてピーク時の電気使用制御(エアコンの運転を弱める、充電等の抑制)、事業者へのデータ(ビッグデータ)の提供(84~88ページ)って、要するにすべて電力会社の都合で顧客の電気使用をコントロールできるとか顧客の情報を利用したり売却できるってことばかり。消費者にはいいことなんてない。スマートメーターと、住宅用エネルギー管理システムで、電力会社やエネルギー管理サービス会社に包括的に生活やその情報を握られ抑え込まれた、無自覚な奴隷のような生活を強いられる事態を明るい未来のように描かれるのには辟易します。
 毎日新聞出版の出版なのでもう少しジャーナリスティックなものかと錯覚しましたが、事業者による自己の営業分野のピーアールの域を超えるものではないと思いました。


チェ・ジョンウン、本橋恵一 毎日新聞出版 2016年5月30日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル

2016-07-26 23:16:58 | 実用書・ビジネス書
 顧客へのアンケートからチラシ、DM、ホームページ等でのアピール材料を得てそれを実践する方法を説明した本。
 顧客へのアンケートを、すでにリピーターになっていたり、値引きなしで利用したり、高額の利用をしている顧客を対象として行うという点が、この著者の一番の着眼点で、その点はなるほどと思いました。値引きをして初めて利用した客や不満を持っている客に聞いても、「改善点」や「不満」を聞くことになり、それでは問題点の改善はできても長所・強みを伸ばすことができず、コストをかけて結局中途半端なものしかできない、現在の競争下ではアピールできる強みを磨くことが必要で、それはすでにファンになっている顧客からどこがよかったかを聞くべきだというのです。
 そして1枚アンケートでは、基本として、利用前の悩み(顧客のニーズ→広告のターゲット層)、自社を知った媒体(今後力点を置くべき広告媒体)、知ってから利用を決めるまでの不安(利用の障害の除去)、他社を選ばず自社を選んだ決め手(自社の強み=広告のポイント)、利用後の感想(顧客の声として利用)の5つの質問を行い、それを広告に反映させるということです。
 さらに、商品の説明が多すぎる、文字数をもっと少なくすべきではという意見に対して、商品のよさが伝わっていない広告が多い、そして商品をきちんと説明することで自社の商品に合わない顧客が来ないようにすることが大切だ(商品は悪くないのにそれを好まない客が誤解してやってきて合わないと悪口を書かれるくらいなら合わない客が最初から来ないようにした方がいい)と返している(248~252ページ)のも、なるほどと思います。
 シンプルで理にかなったコンセプトで、応用範囲が広そうです。


岡本達彦 ダイヤモンド社 2016年6月23日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ネメシス 復讐の女神 上下

2016-07-24 19:40:11 | 小説
 酒での失敗を繰り返しアル中からの脱却を目指している荒くれ者のオスロ警察警部ハリー・ホーレが、銀行強盗がATMからの現金の手渡しが遅いといって窓口行員スティーネ・グレッテを射殺した事件と、ハリー自身がかつての恋人アンナ・ベーツェンの部屋を訪れ意識を失って自宅に戻った夜に左利きのアンナが右手に銃を握って頭を撃ち抜かれた死体で見つかり警察は自殺と判断した事件の謎を解くべく奔走する警察アクション小説。
 この作品で、ハリーの相棒となる新人の刑事ベアーテ・レンを、生まれてこの方見た顔をすべて記憶しているという特殊な能力を持つという、同じ北欧のミステリー作家スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」のリスベット・サランデルを彷彿とさせる設定にしながら、ベアーテが冷静な判断力・推理力を持つが、度々顔を赤らめる初心な女にして、ハリーと敵対するイケメン警部トム・ヴォーレルと肉体関係を持ち続け、しかしトムからハリーの情報を要求されてもそこは裏切らないという今ひとつスッキリしない中途半端なキャラにしているところが、読み味を悪くしていると思います。
 事件の真相については、作者としては捻ったつもりなのでしょうけれども、なんだ結局そこへ持っていくのという印象で、ハリーの突撃肉弾戦的な進行とあわせて、ミステリーとして考え抜かれた構成に納得するというよりは、荒くれ捜査官のアクション小説かなぁという読後感を持ちました。


原題:SORGENFRI
ジョー・ネスボ 訳:戸田裕之
集英社文庫 2015年7月25日発行(原書は2002年)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

失われてゆく、我々の内なる細菌

2016-07-23 19:50:20 | 自然科学・工学系
 肥満、若年性糖尿病(Ⅰ型糖尿病)、喘息、花粉症、食物アレルギー、胃食道逆流症と食道の腺癌、セリアック病(グルテン:小麦アレルギーによる腸の不調、下痢・腹痛等)、クローン病(炎症性腸疾患から腸閉塞に至る)や潰瘍性大腸炎、自閉症、湿疹等の近年の急速な増加が、抗生物質の多用・濫用による常在細菌の消失によるものではないかという問題提起をして、抗生物質の過剰投与に警鐘を鳴らす本。
 人の身体の細胞は30兆個ほどであるのに対して人の身体に住む真菌・細菌は100兆個に達し、人は消化や代謝、人体に必要な物質の産生に当たってこれらの常在細菌の助けを受け、免疫も常在細菌に左右されている。常在細菌の構成は1人1人異なり、人はそれを経膣分娩による出生の際に母親から引き継ぎ、キスや性行為等の接触(広くは電車のつり革からなども含め)により他人と一部交換を続けているとか(もっとも他人から受けた細菌は、数日もすれば駆逐され元に戻るそうです:37ページ)。キスやセックスが常在細菌を一部交換する行為といわれて、常在細菌まで一部共有するほど仲がいいのだと喜べるか、気持ち悪いと思うかは、人生観によるのでしょうか、相手との関係性によるのでしょうか。
 朝起きたときに息の匂いが強くなっているのは、歯肉頸部に住む嫌気性菌が、睡眠中の呼吸が口腔ではなく鼻腔経由で行われるために睡眠中は口腔内の換気量が減って増殖し、揮発性化学物質を産生するためだそうです(31ページ)。なるほど、歯磨きを朝食後ではなく朝起きてすぐにするよう勧める見解はそういうことに基づいているのでしょうね。
 著者は、近年胃潰瘍・胃癌の原因とされて忌み嫌われているヘリコバクター・ピロリ菌についての自身の研究から、胃常在菌のヘリコバクター・ピロリ菌が高年齢者では胃潰瘍・胃癌の原因となる一方で、胃食道逆流症とその結果として生じる食道の腺癌を防ぎ(135~142ページ)、ピロリ菌感染と喘息や花粉症・アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎の発症が逆相関になっており、ピロリ菌が免疫系に影響を与えてこれらの発症を予防しているのではないか(143~154ページ)と述べています。医師がピロリ菌を始め病原性が認められた細菌(多くは常在細菌)を駆除するために抗生物質を過剰投与することで、常在細菌が死滅して人体に有用な(必須の)作用が失われたり、常在細菌が死滅した隙に通常ならば常在菌に阻まれて人体で広範に増殖できない人体に有害な細菌が増殖し、あるいは抗生物質耐性を持つ異種株が広範に増殖することになって、新たな疾病・感染症が増え、また抗生物質耐性菌が広範に出現することを憂いています。しかも抗生物質は疾病の治療のみならず、なぜか家畜に投与すると肉量が増える効果があるので畜産家が大量購入・大量投与しており、自らが抗生物質の投薬を受けていない人までが食物を通じて抗生物質を体内に取り込むことになっている、近年の身長・体重の急速な増加の原因の一つは抗生物質の影響ではないかとも。著者は、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」になぞらえて、この事態を「抗生物質の冬」と名付けています。
 他の原因も含めた複合的な機序が予測され、このテーマが話題を呼べば当然に製薬会社からの否定を目的とした研究を含めさまざまな反論が行われるでしょうし、真相の解明には多くの困難が待ち受けているとは思いますが、貴重な問題提起として受け止めておきたいところです。


原題:MISSING MICROBES
マーティン・J・ブレイザー 訳:山本太郎
みすず書房 2015年7月1日発行(原書は2014年)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

「りぼん」おとめチック♡ワールド 陸奥A子

2016-07-21 23:46:05 | 趣味の本・暇つぶし本
 1970年代後半から80年代初頭、私の学生時代の少女漫画雑誌「りぼん」で、田渕由美子、太刀掛秀子とともにおとめチック漫画を先導した陸奥A子の漫画や「りぼん」の付録の写真と、作品や当時の事情の解説、編集者等の関係者や陸奥A子ファンたちの回想と、本人インタビューで構成したムック本。
 当時、私は、竹宮惠子とか、山岸凉子とか、恋愛ものでも私が恋愛根性ものと呼んでいた里中満智子とか、より少女漫画らしい精神的な深みを追求するシリアスでストーリー性のあるものを好んでいましたが、今読み返してみると、陸奥A子の作品は容姿端麗でもセクシーでもない(身体はほとんど棒状)「等身大」の若い女性が、はにかみパニクりながらも思うことをしれっと言っている、力を抜きながらも「待ち」でもないスタイルが女性読者の共感を得たのだなぁと思います。
 少女漫画を卒業してからの絵は今回初めて見ましたが、いろいろ彷徨ったようで、画風を確立するに至る苦しみ・悩みが忍ばれます。


外舘惠子 河出書房新社 2015年9月30日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

はじめての不倫学 「社会問題」として考える

2016-07-20 22:16:37 | 人文・社会科学系
 プロロ-グによれば、「既婚の男女が、不倫の誘惑に抗うためにはどうすればいいか」について考え、不倫を個人の問題ではなく社会の問題と捉えた上で、「不倫ワクチン」を開発する実験としての論を提唱するとされている本。
 プロローグでは、さらに「不倫の問題は心理学をかじった自称カウンセラーだけの手に負える代物ではない。社会の問題を個人の心理の問題に還元することは百害あって一利なしだ。」(5ページ)と心理学的アプローチを非難しています。心理学的アプローチを総括すると、夫婦で話し合ってどういう関係を築きたいのかを決めていき納得した関係を築けということだが、夫婦で話し合いができないから悩んでるんだろうと断罪しています(52~53ページ)。
 それでありながら、あれこれ持って回った検討をした挙げ句、この本の結論的なものは、不倫を防ぐことはできないから、夫婦関係が破綻に至らないように、セックスフレンドを作って不満を解消するか、婚外セックスを夫婦が互いに容認する(オープンマリッジ型)、社会的に婚外セックスを期間と回数を限定してシステム化して容認すべきというもの。オープンマリッジ型の解決は、著者自身がプロローグで心理学的アプローチに対して非難したこととどう違うのか、不倫を防ぐことができないという結論なら、プロローグの最初で提示した「不倫の誘惑に抗うためにはどうすればいいのか」という問題設定は一体何のためだったのか、システムとして婚外セックスを認めろって、現在は不倫したいと思ってない人にも婚外セックスを勧めるということになるわけですけど、著者の問題意識は一体どこを向いているのか、全体として論理がめちゃくちゃで、看板に偽りだらけに思えます。
 タイトルは「はじめての不倫」学(ニュアンスとしては不倫の勧めか…)なのか、はじめての「不倫学」なのか、読む前はちょっとドキドキしました。著者の主観は後者、でも結論はむしろ前者かも。どちらにしても「学」と呼ぶには、客観性、議論の根拠やデータの信頼性のレベルが保証されていなさすぎるように思えますが。


坂爪真吾 光文社新書 2015年8月20日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

労働法実務解説12 不当労働行為と救済 労使関係のルール

2016-07-19 20:50:12 | 実用書・ビジネス書
 日本労働弁護団の中心メンバーによる労働法・労働事件の実務解説書シリーズの不当労働行為・労働委員会関係の部分。
 2008年に刊行された「問題解決労働法」シリーズの改訂版です。
 労働者側の弁護士としての立場から、労働者側での闘い方、主張の軸とすべきことを指摘していますが、裁判例については、親子会社、グループ企業、関連会社の中での使用者(団体交渉の相手方等)の判断基準について、従来労働委員会が親子会社等のケースでは実質的支配力・影響力を基準として判断してきたのに朝日放送事件・最高裁判決(平成7年2月28日)以後は最高裁が判示した「雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件当について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」という基準を形式的に適用して判断する傾向にあり、使用者の範囲が狭められていること(69~74ページ)、昇給考課差別の場合にいつまでの考課(査定)を労働委員会で対象にできるかに関して、同一の不当労働行為意思による場合は各年度の査定が継続する行為として一体として扱う労働委員会命令が多くあったのに紅屋商事事件・最高裁判決(平成3年6月4日)が各査定に基づく最終の賃金支払日から1年(各査定は個別)としたことが労働委員会の実務に大きな影響を与えたこと(104~105ページ)以外は、最高裁判決への明確な批判は見られません。思ったよりも、イデオロギー的ではなく、実務的に手堅い印象です。


宮里邦雄 旬報社 2016年4月11日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

休職・復職 適正な対応と実務

2016-07-18 20:02:34 | 実用書・ビジネス書
 労働者がメンタルヘルス不調を含む私傷病によって就労が困難になった場合の傷病休職を中心に、各種の休職と休職からの復職、復職できないままに休職期間満了となった場合の(当然)退職・解雇等の問題について、裁判例を紹介しつつ、使用者側(企業側)の弁護士である著者の立場からの私見を交えた企業側へのアドバイスをまとめた本。
 著者の見解は、比較的強硬な使用者側の立場からのものですが、後半では、使用者企業の労務担当者からの質問が無理筋で、著者がそこまでは無理とたしなめる答えも目に付きます。法的素養というか人権意識に乏しい企業の担当者や経営者の意識はそんなもので、使用者側の弁護士も悩ましいという思いの一端が表れているというところでしょうか。
 私傷病休職していた職種の限定がない労働者からの復職申し入れの際に、従前の業務を十分にこなせるほどには回復していないが別の業務であれば可能という場合に、労働者側で従事することが可能な業務を特定する必要があるか、言い換えれば使用者は労働者が指摘した業務についてのみ現実にその労働者に従事させる可能性を検討すればよいかという問題が、最近よく話題になります。片山組事件の最高裁判決(平成10年4月9日判決)は21年間現場監督をしてきた労働者がバセドウ氏病の診断を受けて、現場監督はできない、事務作業ならできるといったら、使用者から自宅待機を命じられて賃金が支払われなかったので賃金請求をした事案で「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」と判示しています。使用者側の弁護士は、ここで最高裁が「その提供を申し出ているならば」と判示したことを捉えて、労働者側で自ら遂行可能な社内業務をある程度指摘する必要があるなどとする傾向にあり、この本でもそういう立場を取っています(166ページ)。しかし、最高裁の片山組事件判決は休職からの復職申出の事案ではなく賃金請求の事案ですから、労務の提供(口頭の提供)が要件となるために提供を申し出ていることがポイントになっていると考えられ、復職の申出でも最高裁がそれを求めるかどうかはまだ判断されていないと考えられますし、片山組事件では、せいぜい現場監督はできない、事務作業ならできるというレベルのことしか認定されていないけれどそれで足りるとされているわけですから、労働者からの「特定」は、肉体労働はできない、事務作業ならとか、夜勤はできない、日勤ならとか程度で十分と見るべきです。さらに、片山組最高裁判決後、この法理を初めて休職の事案に適用した東海旅客鉄道(退職)事件・大阪地裁平成11年10月4日判決では、「そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思表示をしている場合には、使用者から指示される配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。」と判示しています。この判示からすると、労働者側からの従事可能な業務の特定は実質的には不要と解されます。現実的に見ても、零細企業なら別ですが、大企業では、労働者からは自らが従事可能な業務全般を把握することは困難であることからも、そのように解することが適切だと思います。しかし、この本では、東海旅客鉄道事件の大阪地裁判決をこの問題の重要な判決と位置づけつつ(165ページ)、この判決を紹介するに際して、この判示の直前で止めて、この判示は紹介していません(189~192ページ)。
 全般的には、判決の紹介で事例の紹介がきちんとなされていることなど、法律実務家向けにはよい本だと思うだけに、このような姿勢を取っていることは残念に思えました。


渡邊岳 労務行政 2016年4月15日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

後妻業

2016-07-04 00:03:51 | 小説
 脳梗塞で倒れた老人中瀬耕造が酸素マスクを外されたり水を注入されて誤嚥性肺炎になるなど不審な事態が続いた後病院で死亡し、その少し前から内妻として耕造のマンションに通っていた武内小夜子が、耕造の娘2人に公正証書遺言を示して、耕造の遺産は家1軒を除きすべて遺贈を受けたと宣言し、驚く娘たちが妹の同級生だった弁護士守屋に相談し、守屋が依頼した元警察官の探偵本多の調査で、武内小夜子が結婚相談所の経営者柏木亨と組んで資産家の老人を次々と食い物にしてきたことがわかり…という展開のミステリー小説。
 前半で武内小夜子と柏木亨の悪辣さと意地汚さがよく描かれ、悪役がはっきりし、これが追いつめられていく様を楽しむエンターテインメントになっています。柏木が金をケチり人を切り捨てることで結果として本多を利して追いつめられていく様子が、爽快でもあり、金の切れ目が縁の切れ目かという虚しさ/世知辛さも感じます。
 悪役を追いつめる役に弁護士が出てくるのも、同業者としては少し爽快感がありますが、守屋弁護士の発言には、弁護士実務としてはちょっとどうかなぁと思う面が多く、同業者としては、うれしい面と悲しい(恥ずかしいとも)面が相半ばする感じです。


黒川博行 文藝春秋 2014年8月30日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

「自分の働き方」に気づく心理学 何のために、こんなに頑張っているんだろう…

2016-07-03 00:07:20 | エッセイ
 ニッポン放送のテレフォン人生相談のパーソナリティを長らく務める著者による仕事と生きがいについての人生論的エッセイ。
 この本の多くの部分で言っていることは、自分の基準を持ち、社会に他人に認められたいという姿勢ではなく、自分が持って生まれた能力や与えられた条件、仕事を受け入れて、努力し、足るを知る人が、生きがいを感じ充実した人生を送ることができるということだと思います。社会的承認の欲求、人に認められたい、ほめられたいという欲求は「退行欲求」なのだそうです(31ページ)。そういう一方で、「『人はどうでもいい』というのはまず何よりも社会への帰属意識がない。つまり劣等感が深刻な人々である。冷たい利己主義者である。冷たい利己主義者が働いていることの意味、生きていることの意味を感じることはできない。」(200ページ)とも言っています。
 タイトルに「心理学」の語を用いていますが、心理学の実験等の引用はありませんし、学問的な記述はなく、著者の人生論雑感みたいなフレーズが、「哲学的」という感じではなく「詩的」に並んでいます。私としては、「人生論的エッセイ」と位置づけるしかないかなと。
 他人の言葉が自説の根拠として、出典の明示もなく思いつき的に引用される部分が多く、文章として鼻につくのが、字数のわりに読むのに時間がかかった原因と思います。


加藤諦三 青春出版社 2016年6月5日発行
コメント
この記事をはてなブックマークに追加