伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

生存賭博

2016-11-05 20:32:30 | 物語・ファンタジー・SF
 ドイツ中部の山岳地帯に塩でできた怪物「月硝子」が夜に大量に出現し人々を殺戮して夜明けには消えるようになり、月硝子が出現する区域を高く硬い壁で囲いその中で一攫千金を狙う貧しい者たち10人を閉じ込めて月硝子の攻撃をしのいで最後に生き残った1人に高額の賞金を与え、中継を見る都市の住人や全世界の者たちが生き残る者は誰かを賭ける「生存賭博」を実施するようになった都市で、10歳の時に月硝子に襲われるところを「姉」に助けられて以来目にしたものを瞬時に記憶し忘れることができず記憶を随時引き出せるという特殊能力を獲得し今は闇の賭け屋(ブックメイカー)として生きる琉璃=アンナ・ミュンヒハウゼンが、外界から侵入し賭けの最中に月硝子を粉砕した「騎士」、街のギャングと癒着した警察の中でギャングたちに反感を持つ対月硝子特別出動課の者たちとともに、ギャングのボスらと、「騎士」の正体とその背後の組織と生存賭博の存続などをめぐり争うという仕立てのSF小説。
 ギャングたちの賭博の寺銭が25%、「つまり賭ける側の期待値は七五%になるので、かなりの額を胴元側にボラれることになる。」(44ページ)という記述は、当然、日本の競馬・競輪・競艇の還元率が約75%であることを意識して、ボッてるよねぇと言っているのでしょうね。サッカーくじは約50%、宝くじに至っては約45%というのは、もう皮肉る気にもなれない水準ということなんでしょうね。
 月硝子の猛威と殺戮への恐怖感が、後半では「姉」への思い、特殊能力の謎ときとゲームの要素が強くなりすぎて薄れてしまうのが、それらの謎解きやゲームが読ませどころなのだとは思いますが、私には少し興ざめでした。


吉上亮 新潮文庫 2016年5月1日発行
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タラ・ダンカン12 魂の解放 上下

2015-09-12 18:12:59 | 物語・ファンタジー・SF
 魔術が支配する「別世界」の人間の国「オモワ帝国」の世継ぎの18歳(12巻時点)の少女タラ・ダンカンが、様々な敵対勢力の陰謀や事件に巻き込まれながら冒険するファンタジー。
 12巻では、悪魔の惑星ブーリミ・レミを攻撃していた、悪魔の魂を吸い上げてエネルギーとしている謎の彗星が行方をくらましたため、その目的は彗星がまだ破壊されていない悪魔の宝を探しに行ったとみたリスベス女帝が、タラ・ダンカンと仲間たちに先回りして悪魔の宝を回収することを命じ、タラとその仲間たち、同行する悪魔の王アルカンジュらが宇宙船で悪魔の宝の隠し場所に向かい、その先で冒険を重ね…という展開をしています。
 著者は、公式サイトのFAQ(現在はこちら)で「マジスターの正体は最後の巻で明かされるわ。そこでダンヴィウを殺した理由もわかるはずよ」と予告していました。しかし、12巻でも、マジスターの正体は結局は明確にされず、「ダンヴィヴを殺した理由」など、どこにも触れられていません。ストーリー展開から、すでにマジスターの正体など、読んでいてあまり興味も持てませんでしたし、ダンヴィヴの死に関してはすでに7巻で明らかにされていましたから何の意味もないのですが、読者に予告したことを平気で無視する著者の姿勢には、とりわけ子ども向けのファンタジーであることを考えれば、失望を禁じ得ません。訳者があとがきでその点について著者に聞いたところを示して言い訳をし、付録の「別世界通信21号」(12巻下付録)の編集長インタビューでフランスの出版事情の「おおらかさ」を語らせて言い繕おうとしていますが、第1巻時点から10巻で完結と言っていたのを途中で12巻に延長した挙げ句、第12巻で完結したのは「第1期(第1サイクル)」だと言い出したことと合わせ、著者の姿勢には不誠実さを感じます。
 ラストについても、収拾が付かなくなって大きな力を持ち出して全部それで解決できることにしてしまうご都合主義的なもので、ファンタジーなんだから、もともとが論理を超えた設定・展開なのだからということで大目に見てよいレベルなのか、私には疑問に思えます。公式サイトのFAQで「10巻分のシナリオはすでに私の頭の中にある」と言ってきたにしては、緻密さ、論理性を欠き、積み上げてきたストーリーは何だったのかと思えます。
 タラと仲間たちを見守ってきた、12巻を読み続けた愛読者には、それぞれのキャラへの愛着とその成長を読むという点では、そこそこに満足できるかとは思いますが。


原題:TARA DUNCAN L’ULTIME COMBAT
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子、加藤かおり
株式会社KADOKAWA(メディアファクトリー)
2015年8月7日発行(原書は2014年)

11巻は2014年8月17日の記事で紹介しています。
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沈黙の書

2015-07-23 23:53:41 | 物語・ファンタジー・SF
 「夜の写本師」「魔道師の月」等の作品群で独特の存在感を示す作者が、「コンスル帝国」建国前の戦乱の時代を生きた青年「風の息子」ヴェリルが殺人を嫌いながらさまざまな場面で敵兵と戦い、付きまとう「長い影の男」と問答・心理戦を繰り返し、生まれ故郷風森村の仲間たちを思いながら、戦乱の世で平和と希望を目指す姿を描いたファンタジー。
 「魔道師の月」で、純粋な悪意としての「暗樹」を登場させ、敵対者として描いていたのに対し、この作品で主人公ヴェリルに付きまとう「長い影の男」は悪意そのものではなく自身も悩みを持つ一歩引いた誘惑者と位置づけられます。あわせて「黒い獣」「黒い靄」「黒い風」「赤黒の雲」などが邪悪さを象徴していますが、統一した敵対者ではありません。現実にヴェリルを縛り突き動かす者も、どこか場当たり的に変わっていく印象です。この作品では、強力な敵との戦いというよりは、仲間たちを平和に暮らしたいと考えるヴェリルが持って生まれた魔法の力ゆえに「運命」に翻弄され、本意に反して敵兵を殺戮せざるを得ない状況に追い込まれ、自己嫌悪に陥り悩み葛藤する姿をテーマとしています。
 ただ、あれこれ悩んだ末の結末/ヴェリルなりの(あるいは作者なりの)解決策が、言葉を持たぬ「蛮族」の侵略に結束して戦うことで文明人間では同盟的な平和が訪れるということ、要するに外敵を設定してその外敵を「鬼畜」と評価することで達成されるというのでは、現実世界にも多い排外主義政治家の言説レベルで、がっかりします。これだけむごたらしく殺戮を描き、ヴェリルを悩ませるのであれば、もっとすっきりした平和か、より高度な思慮の結果が欲しいと思いました。


乾石智子 東京創元社 2014年5月23日発行
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魔道師の月

2014-09-17 23:38:06 | 物語・ファンタジー・SF
 「夜の写本師」で親友の妹を助けられなかった魔道師キアルスが、失意のうちにさまよいコンスル帝国で辿り着いたイラネス神殿の管理者カーランの導きで約400年前の世界に迷い込みそこで知った情報を元に、コンスル皇帝を唆す「純粋な悪意」の存在である「暗樹」と戦うファンタジー。
 「夜の写本師」でキアルスが、親友の妹であるオイルの領主の娘を失った後、姿を変えて後の世界に生まれ変わるまでの間を埋める位置づけになりますが、それ以上の連携はなく、キアルス以外の登場人物は重なりません。魔道師がいる世界という設定と、昔の世界に入り込むというパターンが共通しているという程度で、「夜の写本師」の続編というよりは世界観を共通にする別の作品として読んだ方がいいでしょう。
 最初にコンスル帝国の皇太子の寵愛を受ける魔道師レイサンダーのエピソードで18ページ、それと関係なく登場したキアルス(あるいはキアルスとカーラン)のエピソードで59ページ話が展開した後、唐突に400年前の世界のテイバドールのエピソードが132ページ続きます。読んでいてちょっとこれは何だと思います。「指輪物語」でフロドが行方不明のままで延々と話が進むのと似たような印象もありますが、それをやるにしてももう少しキアルスで展開してからじゃないかと思います。巻頭に「コンスル帝国版図」という地図があるのですが、これがテイバドールのエピソードを始め、その後の多くのページで登場する地名がこの地図中になくて、役に立ちません。後になってこの地図からはみ出した地域なのだとわかりますが、当分は、時代が違うから村落とかの位置や名前が変わっているのかと戸惑いながら読み進めることになります。そのあたり、不親切感が漂います。
 「暗樹」と、魔道師が抱える「闇」をテーマとしているのですが、人間が誰しも抱える闇の部分という捉え方を示しながら、他方で「純粋な悪意」としての「暗樹」を登場させ、暗樹が唆すことで持ち主が凶暴化・暴君化し破滅に至るという設定をすることは悪意を人間の外に置いて本来は善意の人間が操られるというイメージとなります。ある意味では、さまざまな悪意、さまざまな闇の存在を考えさせられるとも言えますが、悪意と闇の位置づけが、人間のうちにあるのか外にあるのか中途半端な感じがしました。


乾石智子 東京創元社 2012年4月25日発行

「夜の写本師」については2014年8月23日の記事で紹介しています
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夜の写本師

2014-08-23 00:59:05 | 物語・ファンタジー・SF
 右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきた宿命を背負った少年カリュドウが、養母の女魔道師エイリャと幼なじみの少女フィンを、城砦都市エズキウムを護る世界一の魔道師と呼ばれる魔道師長アンジストに目の前で殺され、書物やお札を通じて呪いをかける「夜の写本師」として修行を積み、アンジストへの復讐を図る呪術・魔術系ファンタジー小説。
 読み味としては、最初はゲド戦記の雰囲気に思えたのですが、次第にハリー・ポッター風に収斂して行って終わるという印象を、私は持ちました。中盤の第4部でカリュドウが背負った過去の女魔道師たちの非業の死と怨念を「月の書」に吸い込まれて体感していく展開は、ハリー・ポッターの「ペンシーブ」(松岡訳では「憂いの篩」でしたっけ)を思い起こさせますし、相手を殺して自らの魔力を強めていく魔道師長のイメージはやはりヴォルデモートですしね。
 女魔道師を殺し続けるアンジストの支配の下女性差別意識の強いエズキウムの街という設定で、実力のある同僚ヴェルネを配し、終盤で「あたしたちは魔道師にはならない。あなたが言うように、闇に侵されるようなことはしない。けれど、魔法を無効化し、魔道師と対等になることができる。この意味わかる?女は男のもつものをもたないけれど、女にしかもてないものをもって男と対等になることができる。それと同じ。互いに虐げもしないし、侵しもしない。否定もしない。その土壌から、理解しようと手をさしのべること、尊びあうこと、助けあうことが生まれると思う。あたしたち、きっと変わるわ」(282ページ)と高らかに宣言させています。アンジストに対抗する女の力、女の魔術を強調していることも含めて、フェミニズム的な側面を読み取ることもできますが、ヴェルネの花は咲かず、カリュドウの思慕の対象となるフィンはか弱く、その死に責めを負うべきセフィヤは大きな存在たり得ず、読後にしっかりとした印象を残す提起には感じられませんでした。
 1000年の時間を超えて、登場人物も増やした結果、アンジストとカリュドウと2人の仲間の生まれ変わりを追うだけで手一杯になり、本来魅力的に育てられる脇役たちには手が届かなかったかなと感じました。


乾石智子 創元推理文庫 2014年4月11日発行 (単行本は2011年4月) 
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タラ・ダンカン11 宇宙戦争 上下

2014-08-17 20:40:01 | 物語・ファンタジー・SF
 魔術が支配する「別世界」の人間の国「オモワ帝国」の世継ぎの18歳(11巻時点)の少女タラ・ダンカンが、様々な敵対勢力の陰謀や事件に巻き込まれながら冒険するファンタジー。
 11巻では、煉獄にあったはずの悪魔の惑星6つが別世界にワープしてきて、悪魔の王アルカンジュは別世界を攻撃するつもりはないと言明するが、アルカンジュの父の前王ヴァッシュはアルカンジュの弟ガブリエルに命じて着々と陰謀を進め、悪魔の侵略を確信したオモワ帝国の女帝リスベスが地球の人間界にこれまで隠し続けてきた魔術師と別世界の存在と悪魔たちの危険を知らせたところ、マジスターが地球を守ってやるから地球の全軍の指揮権を引き渡すよう要求し…という展開をし、悪魔の世界に潜入したタラたちの見聞を通じて悪魔の世界の内部事情や路線対立を中心に描いています。10巻に引き続き主として悪魔の世界を描くことで当初10巻完結と宣言していたのを2巻分引き延ばしたのではないかという印象を持ちます。11巻下の終わりで例によって急展開の「続く」がありますが、黒い彗星の正体が11巻の最後で明かされてしまっていることからして、12巻の冒頭で11巻最後の危機は軽く処理されて12巻は別の展開になるんじゃないかと、私は予想します(2014年9月18日発売予定の原書12巻のタイトルが「最後の希望」ですから、11巻最後の危機が人類の大ピンチとなりタラが最後の希望というパターンもあり得ますが、このストーリーをあっちこっちへ何度も大展開させるのが好きな作者が1巻まるまるかけてそういうまっすぐな展開をするとは私には思えません)。
 シリーズ開始から10年がたち読者の年齢層が上がりタラも18才になったことを反映して、11巻ではシリーズ初めてのセックスシーンも登場し、リスベスからタラにセックス禁止令が出されます。マジスターと訣別してドラゴッシュを選びながらマジスターから自由になれないセレンバと、惑うセレンバを一途に思い続けるドラゴッシュの悩ましい大人の関係も、ちょっと切ない。こういう関係がこのシリーズの中心的な読者層の中高生女子にわかるんだろうか。
 11巻で発明好きのおじいちゃんムールミュールとムールミュールより頭2つ分背が高い熟年のアマゾネス軍団の元司令官ヘーグル5のカップルが登場します(67~71ページ)。男性の方が大幅に背が低いカップルがファンタジーや恋愛小説に登場すること自体珍しく、高齢者の愛情表現も合わせて、微笑ましく思えました。


原題:TARA DUNCAN , LA GUERRE DES PLANETES
ソフィー・オドゥワン=マミコニアン 訳:山本知子、加藤かおり
メディアファクトリー 2014年8月1日発行 (原書は2013年)

10巻は2013年8月29日の記事で紹介しています
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ヴァンパイレーツ14 最後の海戦

2014-06-19 21:10:04 | 物語・ファンタジー・SF
 海賊船(ディアブロ号・タイガー号など)とその属する「海賊連盟」、血を吸う相手を殺さないようルール化している吸血海賊船(ヴァンパイレーツ)ノクターン号の「ノクターナルズ」と、ノクターン号に反旗を翻して独立したヴァンパイレーツのシドリオたち、ディアブロ号とノクターン号に命を救われた双子の兄弟コナーとグレースの運命で展開するファンタジー。
 日本語版14巻は、原作の完結編である6巻の後半で、日本語版としても完結となります。
 これまで不死身で、殺しても再生してきたシドリオらヴァンパイレーツ軍団の攻勢を、人間たちの海賊連盟と数で劣勢のノクターナルズがどうしのぎ、勝利を得ることができるのか、戦乱を終わらせるためには双子のどちらかが死ななければならないという予言はどうなるのか、という点が読者の関心の的になります。その点では、完結させるためには仕方がないとは言え、終盤でのヴァンパイレーツ、シドリオの滅び方はあっけない印象で、不死身の生命力が強調されてきた経緯からするとあまり納得できませんでした。海賊同盟・ノクターナルズ側の「切り札」も、もちろんもともとがヴァンパイアのファンタジーですから荒唐無稽な設定ですが、それを前提にしてもあんまりというか安直な感じがします。ヴァンパイアと人間のハーフの「ダンピール」という存在の特性や能力についてもきちんとした位置づけ・説明を欠いている印象が強く、困ったら新しいことができるようにしているように思えました。
 シドリオ軍を強くし過ぎ、ダンピールとか予言とか風呂敷を拡げたために収束が難しくなり、無理無理終わらせたというように、私には感じられました。


原題:VAMPIRATES:IMMORTAL WAR
ジャスティン・ソンパー 訳:海後礼子
岩崎書店 2014年2月28日発行 (原書は2011年)

13巻は2013年11月19日の記事で紹介しています。
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炎路を行く者 守り人作品集

2014-04-15 22:14:08 | 物語・ファンタジー・SF
 「精霊の守り人」に始まる「守り人シリーズ」の中で、もう1人の主人公になる皇子チャグムを「蒼路の旅人」で捕らえチャグムを政治家として成長させるキーパースンとなるタルシュ帝国の密偵アラユタン・ヒュウゴ(ここまで書いても、守り人シリーズの愛読者・ファン以外にはちんぷんかんぷんですよね)の少年時代を描いた「炎路の旅人」に、ジグロと用心棒流れ旅を続ける15歳の頃のバルサを描いた短編「十五の我には」をセットした守り人シリーズ番外編。
 タルシュ帝国の侵略時にタルシュ兵に母と妹を惨殺され自らも命からがら抜け出し追われる身で下町で働き生きる目的を見失った少年ヒュウゴが、タルシュ帝国内部の権力闘争と政略の中で立ち回る男の誘いを受け、タルシュ帝国の支配を受け入れてのし上がる商人や貴族らの姿を見て、王族の楯となる武人だった父の忠誠心や犠牲は何のためだったのかと疑い苦しむ様を描く「炎路の旅人」は守り人シリーズのメインストーリーからは外れていますが、作者の力の入りよう、分量、タイトルの付け方から見ても「旅人シリーズ」の1冊の風格です。武人生まれのヒュウゴが主人公ですが、庶民の中で命の恩人となった父娘への恩義と思いを持ちながら生きる様子が好ましく思えます。
 作者は、「蒼路の旅人」の前にこの「炎路の旅人」の構想を得たけれども、これを先に書いてしまうとヒュウゴの出自が予め知れてしまいまた読者がヒュウゴに親近感を覚えてしまうので「蒼路の旅人」でチャグムの気持ちで読めなくなるために、お蔵入りさせていた、それを中編に書き直すことで日の目を見させたと、作者があとがきで語っています。バルサ、チャグムの2人を主人公とする守り人シリーズ(「旅人」2作を含む)では脇役のヒュウゴだけで1冊にするわけには行かないけれど、守り人シリーズが完結したのちの番外編・外伝ならばよいだろうということでしょう。しかし、「炎路の旅人」を1冊の単行本にしないためにセットされた「十五の我には」は、既に充分な判断力のある大人のバルサにも未熟の時代があったという当たり前だけれども忘れられがちなことを示し守り人ファンの好奇心を満たす力はありますが、バルサの少女時代/ジグロとの流れ旅は既に「流れゆく者」でも書いていますし、取って付けた感が否めません。
 いずれも大人になった後のヒュウゴとバルサを知っているからこそ、読む気になる/好奇心を満足させられる、守り人シリーズ既読者/ファン向けの作品で、守り人シリーズを読んでいない人にとっては作品としての完結感がない(エピソードでしかない)のでお薦めしません。


上橋菜穂子 偕成社 2012年2月発行
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ヴァンパイレーツ13 予言の刻

2013-11-19 21:08:47 | 物語・ファンタジー・SF
 海賊船(ディアブロ号・タイガー号など)とその属する「海賊連盟」、血を吸う相手を殺さないようルール化している吸血海賊船(ヴァンパイレーツ)ノクターン号の「ノクターナルズ」と、ノクターン号に反旗を翻して独立したヴァンパイレーツのシドリオたち、ディアブロ号とノクターン号に命を救われた双子の兄弟コナーとグレースの運命で展開するファンタジー。
 13巻では、海賊船への襲撃を重ね100隻を奪ったシドリオたちヴァンパイレーツ軍団に対抗するために同盟を組んだ海賊連盟とノクターナルズが、グレースのいるサンクチュアリを野戦病院化して重傷者を回復させて戦列に戻すとともに、ヴァンパイレーツへの逆襲を計画し訓練を重ね、ヴァンパイレーツ軍団に奪われたディアブロ号の奪還を企て、シドリオたちは海賊側の戦闘員が減らないことを訝しんでサンクチュアリにスパイを送り込み、シドリオの子を孕んだローラはますます残虐に襲撃を続け…という展開になります。
 プロローグで、500年前にモッシュ・ズーが戦乱の時代の訪れと「戦をもたらす者の子どもとして生まれ」た双子の登場、ノクターナルズに勝利をもたらすことができるのはこの双子だけで、戦乱を終わらせ調和をもたらすためにはこの双子のどちらかが死ななければならないことを予言したことが紹介され、原書の前作で不死のダンピール(ヴァンパイアと人間のハーフ)だとわかったコナーとグレースが死ぬ運命を示して読者に緊張感を与えています。
 13巻の最大の驚きは、これまでジコチュウのわがまま坊やだったムーンシャインがヴァンパイレーツの餌食となったモロッコ・レイスの遺言で奪われたディアブロ号の船長に指名され成長を見せるところでしょう。母親のトロフィー・レイスだけは相変わらずですが、この成長で海賊連盟の結束が深まり安定感が出て来ます。
 日本語版13巻は、原書第6巻(原題:IMMORTAL WAR)の前半部分にあたり、原書のほぼ半分を翻訳したところで、ぶっつり切れて終わっています。ストーリーの区切りに思えるところはなく、本としての終わりの体裁もついていません。前から繰り返し言っていますが、日本語版を販売政策上分冊にしたいのなら、最初から上下とかにして分冊であることを明確に表示した上で同時に発売すべきだと思います。それもしないでこういう中途半端な途切れ方をした本を発売するの、出版社は恥ずかしくないんでしょうかね。


原題:IMMORTAL WAR
ジャスティン・ソンパー 訳:海後礼子
岩崎書店 2013年10月31日発行 (原書は2011年)

12巻は2013年7月29日の記事で紹介しています。
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悪魔と私の微妙な関係

2013-08-31 22:52:55 | 物語・ファンタジー・SF
 生物多様性助成機構なる独立行政法人に勤める熱意のない一職員にして、裏稼業でバチカン非公認のエクソシストとして怪しげな一見してやくざ風の自称神父のヨセフとともに悪魔払いのアルバイトを続けている真崎皓乃(これで「あきの」なんて読めないでしょ、ふつう)27歳が、職場に突然登場した外資系ファンド出身の凄腕の上司に振り回され、職場の同僚たちが悪魔に取り憑かれる騒ぎに対応していくオカルト系ファンタジー小説。
 悪魔払いのストーリーと、皓乃と5年交際して長すぎた春を感じた義斗との結婚話が並行して進んでいきますが、ストーリーとは必ずしも関係ない独立行政法人の職員たちの事件への対応ぶりがいかにもお役所らしくて、いらだたしくも思えますが笑えます。荒唐無稽な話ですが、そういうところが妙に現実っぽくて、不思議なバランス感がありました。
 悪魔払い、最初だけ「エッケ・クルーケム・ドミニ」(主の十字架を見よ)ってラテン語で始めて後は全部日本語って、それらしく見せるっていう観点からでもかえって嘘くさいように思えますが。


平山瑞穂 文藝春秋 2013年6月20日発行
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