伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

掬えば手には

2022-11-30 21:35:37 | 小説
 芸術家系の家族の中で何をやっても平均点で自分には個性がないと悩み、中3の10月に入学したときから不登校だった女の子が初めて学校に来たがクラスのみんなの前で固まってしまったのを見て学生服を脱ぎヨレヨレのドラえもんTシャツを見せて雰囲気を変えそれを機にその子がクラスに入れたことなどから、「人の心の中を読み取れる」能力があると自覚した19歳の梨木匠が、バイト先のオムライス店に後からバイトで入ってきた常磐冬香が完全に心を閉ざしその気持ちが全然読めないことをなんとかしたいと思い…という青春小説。
 人の心が読めると自負しているのに、大学で毎日必ずどこかで会う河野悠に、毎日出会うことを「これも奇遇だよな」と言い(125ページ)、「みんなはエスパーだとか、人の気持ちが読めるとかはやし立ててたけど、私はどこがだって思ってた」(81ページ)なんて言われるのは、梨木の天然キャラなのかと思いますが、読み手としてはもどかしさを感じます。


瀬尾まいこ 講談社 2022年7月4日発行
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ひと

2022-11-29 18:23:43 | 小説
 高2の11月に調理師だった父を交通事故で失い、鳥取大学の学食に勤める母を残して東京に出て法政大学経営学部に入学したが大学2年の秋に母が急死し、残された遺産200万円程度のところへ、遠縁の親戚から母に金を貸していたと言われて50万円をむしられ、大学を中退して下宿付近の砂町銀座商店街の惣菜屋に勤め始めた柏木聖輔20歳が、勤務先や商店街の人の人情、大学時代のバンド仲間との友情、東京で再会した高校のクラスメイト八重樫青葉が滲ませる郷愁と淡い恋心にほだされつつ、新たな人生に向かっていくハートウォーミング系小説。
 聖輔が経済的に恵まれない中で、父親の歩んだ道を振り返り偲びながら、節約した生活を送りつつ堅実な道を模索する姿が清々しく、金をむしるためにつきまとい続ける遠縁の親戚や、青葉に拒否されてもあきらめない高飛車な慶大生などのいやなヤツに悩まされても多くの善き人に囲まれて救われていく様に、わりと素直に入れ共感できました。
 最終ページ、めくって1行のレイアウトが印象的で心に残ります。1行なら真ん中にどんと置くというあざとさではなく、たまたま1行はみ出したかのようにプツッと終わっているのがいい感じだなぁと思いました。


小野寺史宜 祥伝社文庫 2021年4月20日発行(単行本は2018年4月)
2019年本屋大賞第2位
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建設業法のツボとコツがゼッタイにわかる本[第2版]

2022-11-28 20:46:42 | 実用書・ビジネス書
 建設業法の規制等に関する行政庁への届出等の総務サイドでの対応について解説した本。
 建設業が29の業種ごとに許可があり、経営業務の管理責任者、専任技術者(営業所ごと)、主任技術者・監理技術者(現場ごと)を置く必要があり、さまざまな書類の作成・提出義務があることが具体的に説明されています。施工体制台帳と添付書類(元請業者)、再下請負通知書(下請業者)など、建設業者が作成保存すべき書類(施工体制台帳はその一部は帳簿の添付書類として保存義務があるとのことです:278ページ)に何があり、何が記載されているかを知っておくことは、事件によっては、弁護士業務にも役に立つかもしれません。
 建設業許可の要件の1つに健康保険・厚生年金・雇用保険の法令上の適用事業所のすべてについて加入事業所として届出をしていることが挙げられ(建設業法施行規則第7条第2号)、公共工事の受注に必要な経営事項審査でそれら社会保険への加入状況に加えてワーク・ライフ・バランスに関する取り組みも評価されるというあたり、事業者に法令を遵守させるために行政はいろいろやっているのだなと改めて感心しました。
 細かい項目に分けたQ&A的な解説で、建設業法の規定やガイドライン等を示して(直接の根拠条文が示されないところもあり、ムラがある感はありますが)説明され、どうなっているかやどうすればいいかは読んでわかるようになっています(引用されている条文等は読む気になれないことも多いかと思いますが)。通読するには同じことの繰り返しが多い感じがしますが、それは必要な項目だけ拾い読みするのが普通の利用法だと思われますので仕方ないでしょう。
 丁寧に説明しているのだとは思いますが、例えば主任技術者・監理技術者に求められる資格一覧表というのが201ページと210ページに掲載されているのですが、下図の赤枠の部分は「4000万円以上」の間違い、青枠は分ける必要なく同じというのが、表自体を見てもわかります。

念のために、引用されている原典ではこの本のようにはなっていません。

 また、建設業法違反の指示処分例として「山梨県F社」(株式会社双葉電気)の処分原因を「無許可事業者等との下請契約」としています(332ページ)が、これは記載されている処分の原因を読めば、F社が契約した相手が無許可事業者であったことではなく、F社自身が特定建設業の許可を受けていないのに特定建設業者でないとしてはいけない金額・規模の元請業者としての契約をしたことが処分原因であることがわかります。
 単純なミスなのでしょうけれども、そして分厚い本の端から端までチェックするのは大変なのだとは思いますが、こういうところの雑さというか誤りに気がつかないところを見てしまうと、建設業法の規定について十分に理解されているのか、やや不安を覚えてしまいます。


大野裕次郎、寺嶋紫乃 秀和システム 2022年9月23日発行(初版は2020年6月)
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企画書・提案書の作り方 100の法則

2022-11-27 22:29:16 | 実用書・ビジネス書
 相手に読まれ、理解され、採用される企画書を作成するための方法論と、自分で企画書を作成してプレゼンすることのビジネス上あるいはキャリアアップのためのメリットを述べる本。
 ビジネスや企画の情報源として「飲み屋を侮ってはいけません。隠れた情報源なのです」(86ページ)として、行きつけの飲み屋の常連などの人脈の活用をいうのは、おじさん世代の意地かなという気がします。
 プレゼンの練習の重要性を説き「ぶっつけ本番のプレゼンは絶対にやってはいけません」(224ページ)と言われています。う~ん、反省。で、「余裕の会場入り」ができなければ、プレゼンの質は落ちる(226ページ)と題して、著者の経験で札幌でのプレゼンで踏切事故のため「プレゼン開始ギリギリで会場に駆け込むといった状態で、あまりよいプレゼンができなかったことをいまだに覚えています」(227ページ)と述べています。もちろん、余裕を持って会場入りしようという心がけは大切ですが、事前に練習も十分しているのなら当日の会場入りがギリギリになっても余裕でピシッとしたプレゼンを決めてみせるのがプロじゃないかとも思えます。


齊藤誠 日本能率協会マネジメントセンター 2022年7月30日発行
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犬がいた季節

2022-11-26 23:25:08 | 小説
 四日市市内の県内有数の進学校八稜高校、通称「ハチコウ」に迷い込んでいたところを拾われてそのまま校内で飼われることになった犬「コーシロー」の面倒を見る「コーシローの世話をする会」(略称コーシロー会)の中心メンバーの3年生時の様子を、昭和63年度、平成3年度、平成6年度、平成9年度、平成11年度そして令和元年度と飛び飛びに描いた短編連作。
 進学校の3年生、受験生の青春模様が描かれているのですが、それぞれの話の最初と最後がコーシローの目から見た描写になっていて、コーシローには人間には感じられない恋心が分泌する匂いがわかるという設定になっているところが秀逸です。年度ごとに主人公が交代して全体としては群像劇ではありますが、第1話の主人公のパン屋の娘塩見優花と国内最高峰の美大を目指す早瀬光司郎は、その後も少しずつ顔を出し、この2人のスッキリ踏み切れない切ない恋愛感情が通しテーマとも言えます。そのもどかしさと切なさが読みどころでしょうね。
 八稜高校は近鉄富田山駅の隣(10ページ、191ページ)というのですが、近鉄には「富田山」駅はなくて、近鉄名古屋線で近鉄四日市から4駅目の「近鉄富田」駅の隣に県立四日市高校(通称四高:しこう)という作者の出身校があります。作者は、1969年生まれという生年だけが公表され、遅生まれで一浪していれば第1話と同じ昭和63年度の高3生になりますが、いずれにしても塩見優花・早瀬光司郎とほぼ同じ時期・場所で過ごしていて、土地勘と時代の風潮がリアルに描かれ、思い入れも十分なのだと感じました。


伊吹有喜 双葉社 2020年10月18日発行
「小説推理」連載、2021年本屋大賞3位
 
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探偵の現場

2022-11-25 22:48:19 | 実用書・ビジネス書
 総合探偵社株式会社MR代表者の著者が、不倫調査を中心とする探偵業務の実情について解説した本。
 事例の紹介が興味深いところですが、第1章「不倫する人の末路」で紹介されている7ケースのうち2ケースでは調査対象者は不倫をしていなかったというもので、これにそういうタイトルを付けるのは羊頭狗肉というべきでしょう。でも、そういう事例の方が読んでいて感じるところはあり、別のところで紹介されている帰りが遅くなることが続いて疑われた夫が実はお金がなくて妻を新婚旅行に連れて行けなかったことを負い目に思っていて知人のバーの店主に頼まれたのを機会にバーテンのバイトをして金を貯めて妻にサプライズの旅行をプレゼントしようとしていた(112~114ページ)なんて話は胸が熱くなります。当然、この本では触れていませんが、それを疑った妻がその調査にかけた費用が夫が妻のためにとバイトで稼いだ額を大幅に上回るであろうことに思いを致せば、もっと泣けてくるわけですが。
 探偵調査の実際として、張り込み(151~162ページ)、尾行(163~170ページ)、聞き込み(171~174ページ)などの様子が書かれていて、ふ~んというか、ご苦労様だなと思います。探偵が使うスマホ用のガジェットランキング(根拠はなし)第2位に「ソーラーパネル付きリュック」が挙がっているあたりも、大変なんだろうなと思いました。
 関係ないでしょうけど、この著者の名前、あと掛布とバースがいたら1985年のタイガース日本一の「ニューダイナマイト打線」やん、と関西出身者としては、思ってしまいます。


岡田真弓 角川新書 2020年2月10日発行
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世界標準のデータ戦略完全ガイド

2022-11-24 21:25:56 | 実用書・ビジネス書
 データの収集・分析技術が飛躍的に進化した今、企業は、自社の業務の進め方や運営方法を「なぜ」変えるべきか(データ戦略の目的)をきちんと意識した上で、意思決定プロセスの改善、顧客と市場の理解、より優れたサービスの創出、より優れた製品の創出、業務プロセスの改善、データの収益化の6つの領域/活用目的を検討して、データの活用に向けて戦略を立てるべきだと論じた本。
 基本的に企業にデータ活用戦略を勧め、すでに(既存の顧客等から)取得している内部データに加えて外部データの購入等による活用、担当者の育成またはスカウトなどを論じていますが、最後の章ではSDGsに絡めて、企業でない個人にとっても重要だととってつけています。
 企業側でない一個人の読者にとっては、すでにさまざまな事業者がデータを分析して提供し、あるいは企業のデータ利用のために提供しているサービス内容の紹介と、今ではネットを利用するだけで、スマホを持っているだけで、Apple Watchを付けているだけで、さらにはネットにつながれた「スマート家電」(テレビであれ冷蔵庫であれ洗濯機であれトイレであれ)を利用しているだけで、いかに詳細で大量の個人情報を気づかぬうちに収集されているかの説明が勉強になりました。Facebook や Instagram にアップした写真は、顔認識システムや製品認識システムで誰がいつどこでどのような状況でその製品を利用したかの情報として把握されるとかいう説明には、認識を改めました。
 アマゾンが2019年にリストラをする際に生産性の低い従業員をAIにより特定して解雇した(人間による修正はなかった)というエピソード(38ページ、177ページ)、あるIT企業(企業名は紹介されず)の契約社員が人事部のミスで解雇扱いとなり自動システムで解雇処理がされてそれを上書きする手段もなかったためにその契約社員は退職することになったというエピソード(254~255ページ)が衝撃的でした。一体労働者をなんだと考えているのか。
 著者は具体的な導入へのプロセス・方法を説明しているつもりのようですが、私には抽象的な話に見え、今ひとつイメージできませんでした。表紙見返しには「大企業も中小企業も実行できるデータ戦略の決定版教科書が上陸!」と書かれ、その下の第2パラグラフで「アイスクリーム店を例にデータ戦略を考えることで、戦略の基本から策定、実践方法まで一気に学べます」とされているのですが、アイスクリーム屋の例は16に及ぶ章のうち第9章で触れられた後は忘れ去られているようです(忘れた頃に再度言及するのかと思って読んでいましたが、最後まで顧みられませんでした)。


原題:DATA STRATEGY 2ND EDITION
バーナード・マー 訳:山本真麻
翔泳社 2022年8月30日発行(原書も2022年)
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トコトンやさしい下水道の本[第2版]

2022-11-23 20:09:21 | 実用書・ビジネス書
 下水道のしくみ、下水を運ぶ装置(下水管、汚水ます等)、下水を浄化する装置・処理方法、下水道の運営システム、下水道システムの有効活用、災害対応等について解説した本。
 原則として1項目を見開き2ページ(右側がテキスト、左側がイラスト等)で説明しています。下水道については、私は汚水(し尿、生活排水、工場排水)と雨水は一体で扱われている(合流式)と認識していたのですが、最初の方で「昭和30年代までの下水道は」合流式下水道による整備が進められてきたが、昭和45年に水質汚濁防止法などができ、汚水と雨水を別の下水管で流す「分流式下水道による整備が進められてきました」(14ページ)とあり、えっそうすると今では雨水と汚水は別が主流なのかと思い驚きました。しかし、合流式で下水道網をつくった地域で簡単に分流式にできるということはなく、例えば東京は今でも合流式ということになります。そういった点に象徴されるように、概念的な説明はあるのですが、では具体的にどこはどうなっているという説明がなく、今ひとつ実情がわかった気持ちになれません。
 新しい技術や今後の計画の話が多く説明されているのですが、下水道に関していえば、老朽化した下水管の工事だとか、トイレの排水管の詰まり(ぼる業者の跳梁)、排水ますや下水管の所有関係・利用関係をめぐる近隣の紛争などの現実に困った話だとか、近年のゲリラ豪雨等での雨水氾濫だとかの現状で対応できていないところが目につき気になるところで、それなのに将来の夢みたいな話ばかりされても読んでいてピンときませんでした。この本でも、「湖沼や三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)などの閉鎖性水域では、いっこうに水質改善が進んでいません。令和2年度の水質基準(COD:化学的酸素要求量)の達成率は。湖沼で52.8%、三大湾で63%とたいへん低い水準となっています」(126ページ)というのですし、もっと、今できていないところ、切実に問題になっているところを、どうしてそうなっているのか、現実にどう対応しているのかについて、地道に書き込んで欲しかったなと思います。


高堂彰二 日刊工業新聞社B&Tブックス 2022年9月26日発行(初版は2012年10月16日)
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女たちのポリティクス

2022-11-22 22:48:09 | エッセイ
 イギリス在住のコラムニストの著者が、2018年~2020年にかけて、話題になった女性政治家や女性に関わる政治情勢を取り上げて、現在のトピックス、経歴あるいは経緯を紹介し、コメントしたもの。
 取り上げられた政治家や情勢は、テリーザ・メイイギリス首相(2回)、アンゲラ・メルケルドイツ首相、ニコラ・スタージョンスコットランド自治政府首相(スコットランド国民党党首)(2回)、アレクサンドラ・オカシオ=コルテスアメリカ下院議員、マリーヌ・ル・ペンフランス国民連合党首ら右派勢力のトップたち、ジャシンダ・アーダーンニュージーランド首相、女性政治家への罵倒・威嚇、トランプアメリカ大統領(に非難された非白人女性議員たち)、キャロライン・ルーカスイギリス緑の党初代党首、ルース・デイヴィッドソンスコットランド保守党党首、エリザベスイギリス国王、イギリスの女性議員の事情、サンナ・マリンフィンランド首相、稲田朋美自民党幹事長代行、蔡英文台湾総統らコロナ禍対応で成果を上げた女性指導者たち、ブラック・ライブズ・マター運動を立ち上げた女性たち、小池百合子東京都知事、マーガレット・サッチャーイギリス元首相、カマラ・ハリスアメリカ副大統領。読んでいると改めてさまざまな女性政治家が台頭し、活躍していることを知ることができます。著者がイギリス在住であることからイギリスの政治家と政治情勢が中心となることは当然なのでしょうけれども、庶民層・貧困層を基盤とし、反緊縮の立場から新自由主義に批判の声を上げ続けている著者が日本の雑誌に書いたもので、取り上げられている日本の政治家が稲田朋美と小池百合子だけで、野党側、リベラル側の登場人物ゼロというのは、寂しいところです。


ブレイディみかこ 幻冬舎新書 2021年5月25日発行
「小説幻冬」連載
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理数探究の考え方

2022-11-21 22:17:59 | 自然科学・工学系
 2018年の高校学習指導要領改訂で新たに「理数科」という教科が設けられ、「理数探究基礎」「理数探究」が選択科目として登場したのを機に、その教科書の1つの編集委員長をしている著者が、理数科教育の必要性を説いた本。
 理数科教育が有用だというのはわかるのですが、理科4科目のどれか1つでも学ばないままに高校を卒業させることは危険だ(57ページ)とか、大学入試は全科目必須が目標(53ページ)、大学入学試験というのはなるべく多くの科目を使って筆記試験をすることが最良のいい人を選ぶものだということになる(55ページ)、理科を専門にした(博士号取得者の)教師をつくれ/増やせ(58ページ)と言われると、理数系学者の利害に偏った主張に聞こえますし、他の国との比較を論じるようにいっている(12ページでは)第2章「日本の理科教育あれこれ」も外国の紹介はあまりなく日本の現在の理科教育がダメだと文句を言うところばかり目につきます。私としては、そういうことは大幅にカットして、もっとタイトルの「理数探究の考え方」自体についてより具体的な事例・問題に即して積極的に展開して欲しかったと思います。著者としては、十分に具体例を挙げてちゃんと説明してるだろうといいたいのでしょうけれども。

「老人社会とはどういう状態か」と題して、上の表を「国立社会保障・人口問題研究所が推計したわが国の人口の変遷です」と紹介しています(94ページ:私が国立社会保障・人口問題研究所のサイトで確認した限りでは、2016年9月19日のプレスリリースは見当たらず、将来推計人口の報告書も2017年発表のものはあっても2016年版というのは見当たらず、何が原典なのか私にはわかりませんが)。そこで「この図の『扶養』というのは、働き盛りの(15歳~64歳)の1人が高齢者を何人扶養できるか、という数字です」と書かれています(95ページ)。その説明だけ聞いても逆(正しくは、高齢者1人を働き盛り何人で扶養しなければならないか)だということは、普通に理解できるでしょうし、数字の意味を考えれば、「扶養」欄の数字が15~64歳を65歳以上で割って出したものですから、65歳以上1人あたりの15~64歳の人数であることは明白で、数学の素養があれば間違いようがありません。それに年を追って数字が減っていくのですから、著者のように考えれば、働き盛りがどんどん楽になることになってしまいます。この表の数字を一体どう読んだらこの説明が出てくるのでしょうか。理数科では統計が必要(59ページ、72ページ等)という人に統計数字をこの程度に扱われると、信用性を疑ってしまいます。
 小学校の入試問題の紹介で、軽い順にタヌキ<猫<花=犬=猿<ウサギと判断できるときに「3番目に重い動物」を問う設問について著者は「3番目に重いのは猫になります」と何ら疑問も呈することなく述べています(89ページ)。いや、犬と猿が2番と3番で(どちらも2番ということでしょうけど)、猫は4番目でしょうって、私は思います。こういうの、問題作成者のミスだと思いますし、この設問で、戸惑いながら「犬」か「猿」と答えた小学生にこの人は躊躇なく間違いだと言い放つのでしょうか。それが見えないとしたら、問題作成者側の視点だけでものを見て受験者側の視点に立てない、とても視野の狭い教育者だと感じます。
 学会発表は「まだ論文になっていないと書いてあったら、信用度はガクッと落ちます。また単なる宣伝であることも多いのです」(163ページ)、「まだ論文として未発表のデータを知り合いの研究者から聞いた(こういう時には、『ビックリするようなデータで、あなただけに教えます』と言うのが常套手段です)、などというのは最低の信頼度です」(164ページ)という、学者情報の評価は、なるほどと思いました。


石浦章一 ちくま新書 2022年10月10日発行
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