伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

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そういう生き物

2017-10-24 23:57:32 | 小説
 学生の時に所属していた研究室の元教授の下に通う今は薬剤師の原田千景と、勤め先の叔母が経営するスナックで千景と再会して千景の部屋に転がり込んだ高校の時の同級生まゆ子を中心に、元教授の孫の小学生や千景の同僚、元同級生らが絡んでいく小説。
 千景の、一方であっけらかんとした性行動とセックス観と、他方で元教授に寄せる想いと諦め/少し冷めた目線、軽やかさと引きずった白けぶりが作品の基調をなしています。大上段に構えずに、性同一性障害を含めた様々な性のあり方にふわっとした優しいエールを送る作品です。そういうところ、読み味というか、読後感がいいです。


春見朔子 集英社 2017年2月10日発行
すばる文学賞受賞作
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祖母の手帖

2017-10-15 18:14:27 | 小説
 熱烈に思いを寄せた相手とは続かず、娘の奔放さを不安に思いさらには一族の恥と呪う母親から戦災で疎開してきた男と結婚するよう無理強いされ、愛のない結婚生活を続ける主人公が、流産の末その原因が腎臓結石と診断されて医師のすすめで温泉療法を行い、その逗留先でやはり結石を持つ片足が義足の妻子ある帰還兵と知り合い、惹かれてゆくという官能恋愛小説。
 主人公と夫の夫婦関係が、スタート時点で主人公が「わたしはあなたを愛していないし、ほんとうの妻には決してなれないだろう」と言い、夫も「心配はいらない」と答えた、彼の方も彼女を愛してはいなかったのだ(10ページ)と描かれ、新婚1年目に主人公がマラリアにかかり夫が献身的に看病をした(11~12ページ)が、二人は同じベッドで離れて寝て触れあうこともなかった(13~14ページ)ところ、ある夜主人公が夫に売春宿に通うのはやめるように言い自分が売春宿の女と同じサービスをすると言い出し(22~23ページ)それからは肉体関係を結びながら、「祖母は、愛というのはなんておかしなものなんだろう、といつも思った。愛は、ベッドをともにしても、優しくしたりよい行いをしたりしても、生まれないときには決して生まれない。一番大切なものなのに、どんなことをしても呼び寄せることができないなんて、ほんとうにおかしなものだと思った。」(25~26ページ)と設定され描かれています。そのサービスのリストには女体盛りとか犬のまねとかノーパン喫茶のメイドのような屈辱的なものがあり(それでも主人公は帰還兵にそれを「誇らしげに」挙げたというのですが:60ページ)、夫に「もう売春宿に行く必要がなくなったわけですが、わたしのことを愛していますか」と聞いたが夫は主人公の方を見ずに一人で微笑みらしきものを浮かべ、彼女のお尻を平手で軽くたたいただけで質問にはまったく答える素振りも見せなかった(63~64ページ)という状態で、その夫婦関係に満足できない主人公の焦燥感、愛への渇望感が、ポイントになっています。
 語り手は、主人公の息子の娘という設定で、当然知らないはずの主人公の若かりし頃の話を、伝聞形ではなく直接見たように語り、読んでいてわかりにくいというか違和感があります。回想の形もなく時期は行きつ戻りつし、しかも後半ではときどき語り手がいつの間にか主人公の妹になっていたりする(同じ章の連続するパラグラフで、主人公を「祖母」と呼んでいたのがその次のパラグラフでは何の断りもなく主人公を「姉」と呼んでいたりします)のも混乱を招きます。


原題:Mal di pietre
ミレーナ・アグス 訳:中嶋浩郞
新潮社(クレストブックス) 2012年11月30日発行 (原書は2006年)
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ホームズ四世

2017-09-20 20:39:39 | 小説
 シャーロック・ホームズの孫がイギリス人と日本人のハーフで日本で私立探偵をしており、その息子が父の探偵事務所で働いていたが曾祖父の名が重荷になって探偵をやめ、女性嫌いだった曾祖父とは反対に多くの女性とデートすることが好きなためホストになっているという設定で、店の太客の女性社長の失踪について調べるうちに事件に巻き込まれ、推理を働かせて次々と生まれる謎を解いていくというミステリー小説。
 ホストという設定と女性好きの性格設定から柔らかめの展開で、無理無理にでもどんでん返しを二重三重に仕掛けようというサービス精神は豊かで、それなりに楽しく読めます。
 設定は荒唐無稽で謎解きも強引な印象があり、本格ミステリーとして読もうとすると辛い感じではありますが。
 雑誌の連載のため、章の継ぎ目で繰り返しがうるさい感じがします。単行本化するときにもう少しきれいに直してくれるといいのですが。


新堂冬樹 講談社 2016年8月9日発行
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計画結婚

2017-09-19 22:31:34 | 小説
 幼い頃から突出した美貌とプロポーションに恵まれ正義感が強く売られたけんかは買わずにいられない性格で人と群れず友人が少ない久曾神静香が、横浜港をクルージングする客船で船上結婚式を挙げ、そこに呼ばれた級友の佐古怜美との意地を張り合いながら続いた友情のエピソード、静香が怜美との仲を取り持った美容師桜田祐介との三角関係、妹が結婚詐欺に遭いその詐欺師を追い詰めるうちに新郎にたどり着いた警察官の怨念、静香の婚活に4年付き合って新郎を紹介した結婚相談所の相談員の述懐、ウェディンドレスフェチの趣味が高じて結婚式代理出席のアルバイトを続けて新郎側で代理出席したライターの戸惑いなどを通じて、静香の結婚式の一日を描く連作短編。
 静香と怜美の意地を張り大げんかをして絶縁状態になりながらも続く友情のエピソードを語る第1章、研究者の生活を続けながら芽が出ず一歩引いて尽くすタイプの妻美登利が不憫に思え結婚相談所の相談員に転身し妻との関係に悩みその後妻が末期癌とわかって苦しみ抜く富永の心情を語る第4章が泣かせます。
 全体としては、男女のもつれの青春小説が、結婚詐欺師を追う警察官が登場する第3章からサスペンスに変化し、最終的には恋愛サスペンスのような形で収束します。静香のキャラが立っていることもあり、読み味はわりとよかったと思います。


白河三兎 徳間書店 2017年2月28日発行
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真夜中の炎

2017-09-17 18:05:27 | 小説
 ワシントンDCで起きた「ワシントンDC殺戮事件」でターゲットにされたデルヴォー一族の生き残りジャックと、人気政治ブログ「エリア8」の主筆ジャーナリストのサマー・レディングの、幼なじみで学生時代に1週間Hしまくり後破局したカップルが、再会して焼けぼっくいに火をつけながら「ワシントンDC殺戮事件」の犯人を追うという官能サスペンス小説。
 ポートランドの元SEAL(アメリカ海軍特殊部隊)出身者が作った警備会社ASIのメンバーが美貌の有能な女性と恋に落ちつつその女性を狙う危険な敵と対決するというパターンを踏襲してきた「真夜中」シリーズの前作「真夜中の秘密」での「ワシントンDC殺戮事件」と生き残ったイザベル・デルヴォーの話の続きで、イザベルの兄ジャックという元SEALでもASIでもない人物(CIAの工作員)を主人公にして、周りにASIの構成メンバーとその彼女たちを配するという発展形というか変形ですが、マッチョでタフな男が美貌の有能な女性を危険から守る、エンドレスのセックスにふけるという点は同じです。ここがやっぱりこのシリーズの肝 (^^;)
 今回の敵は、中国人民解放軍の秘密(サイバー)部隊で、アメリカ合衆国乗っ取り作戦だとか。今ではロシアより中国の方が嫌われてるんでしょうね。
 369ページ2行目の「フェリシティに紙を見せた。」のフェリシティ、393ページ最終行の「待て、とイザベルに合図した。」のイザベルは、どちらもサマーの間違いでしょう。原書の誤りか翻訳の誤りかはわかりませんが、その場にいない人物の名前が出てきたら読んでいておかしいと思うはず。通し読みしてないんでしょうか。


原題:MIDNIGHT FIRE
リサ・マリー・ライス 訳:上中京
扶桑社ロマンス 2016年12月10日発行 (原書は2015年)
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四時過ぎの船

2017-09-10 19:36:55 | 小説
 システムエンジニアとして関東で稼働する全盲の兄浩を同居してサポートするためと言って、30歳近くなりながら働かずにニートでいる稔が、福岡住まいの母美穂が、死んだ養母佐恵子の一人住まいしていた離島の「古か家」の物(遺産)を整理するのに付き合わされ、祖母とのおぼろげな想い出や昔の友人との邂逅等に浸り記憶を呼び戻されながら、現在の屈折した思いと将来への不安を、「やぜらし」いが避けるべくもないあるものとして受け入れていく様子と、稔が中学のときに一人で佐恵子を訪れた際のすでに認知症が進んだ佐恵子の様子を交差させた小説。
 稔たちの片付けと母美穂、その叔母であり実は母という敬子、旧友の卓也らとのやりとりなどの時間経過の中で、稔が屈折した思いから、人生には様々なうっとうしいけれども受け入れざるを得ないことが数多くあることを悟り受け入れる気持ちになる心の変化を描いた作品だろうと思います。十数年前の生前の、しかし認知症が進んだ佐恵子の心情を挟むことで、なんとなく稔の変化を自然にする効果があるような気もしますが、理論的には、それは佐恵子のエピソードで、稔はそれを知るわけでもないのですから、関係がないわけです。そのあたりの、なんとなくと、理屈に合わないの間で、十数年前の佐恵子のエピソードが意味があるのかどういう意味を持つのかを、あえて巧みと評価するか、据わりの悪さを感じるかで、評価が分かれる感じがします。
 この作品のキーワードとなる「やぜらしか」は長崎・熊本(あるいは鹿児島とも)の方言ということですが、佐恵子(老人)の言葉の一部を除けば、会話は基本的には博多弁で書かれていて、私(1983年8月~1984年11月の実務修習を福岡でやりました)には、会話自体が懐かしく思えました。


古川真人 新潮社 2017年7月30日発行
「新潮」2017年6月号、第157回芥川賞候補作
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アカガミ

2017-09-09 18:07:37 | 小説
 2030年の近未来の日本で、出生率は極限まで落ち、若者は恋愛やセックスに関心を持たなくなり、若者の自殺者が年間10万人を突破し精神科・心療内科に通う若者は400万人を超え、30代以上の者だけが(限りなく)性欲を持ち続けているという状況の下で、国家公務員としてセックスワーカーであるとともに性に関する研究を続けるログの研究サンプルの若者ミツキが、ログの紹介で国が運営する正体不明のプロジェクト「アカガミ」に応募しそのレールに乗せられ、そこで配偶者候補者としてあてがわれたサツキと共同生活をしていくという展開の小説。
 そもそも異性に性的な関心を持たずに育ったミツキとサツキが、国によって選択され引き合わされた(悪くいえば統一教会みたいに)相手に、当初は見捨てられたくない(「チェンジ」されたくない)という思いと不安に駆られ、次第に相手に恋心を抱きつつ不器用に振る舞う様子は、いかにも初々しく微笑ましい。
 しかし、それが国の思惑で国に完全に管理された形で展開する「家族計画」に無抵抗に順応することであることに思いを致すと、不気味に気持ち悪く思えてきます。
 そのあたりの違和感、ギャップ感がこの作品のテーマかと思いました。
 初出は「文藝」2015年冬季号で、一括掲載で連載小説ではないのですが、ログが主人公のように思える冒頭から、もっぱらミツキ主体の中盤の展開に至り、終盤ではサツキの視点へ移行するなど、構想にブレがある印象を持ちました。


窪美澄 河出書房新社 2016年4月30日発行
 
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クラウド・ガール

2017-09-08 00:25:02 | 小説
 著名な作家だった母と大学講師の父の間に生まれた、父に愛着を持ち続け妹からはファザコンといわれ母に愛されたかったという欲求を持て余し複雑な思いを持つ大学生の理有と、浮気性のイケメン男と同棲状態にあるシスコンの高校生杏の姉妹が、母が行きつけだった美容室のオーナー美容師広岡、母が集めていたぬいぐるみ「ベスティ」が置かれていた喫茶店でバイトする光也らと関わり合いながら、父母の過去への思いなどをぶつけていくという展開の小説。
 著名な作家だった母の言葉として「可哀想な人とか、社会的弱者を主要人物において悲惨な状況やストーリーを書いて、読む者の感情を著しく揺さぶるような小説には、誠意が感じられない」と書いています(155ページ)。作者の信条なんでしょう。いわゆる社会派とか(昔の言葉だと「プロレタリア文学」だとか)言われる人が嫌いなんでしょうね。
 終盤で、姉妹間で、過去にあった事実、父母への評価が矛盾対立し、事実と幻想/妄想の境が曖昧にされていきます。おそらくは、そこがテーマで、真実を突き詰めることの不可能性/不要性をいい、自身の持つ幻想/妄想と折り合いをつけながら、過去に囚われずに生きていこうというようなことを言いたいのかなと思いました。


金原ひとみ 朝日新聞出版 2017年1月30日発行
「朝日新聞」2016年9月1日~12月30日連載:う~ん、記憶にない (^^;)
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湯を沸かすほどの熱い愛

2017-08-25 21:56:17 | 小説
 夫が蒸発し(愛人の元に走り)家業の銭湯を休業してパートで働いている「幸の湯」の女将幸野双葉が末期癌で余命幾ばくもないことを宣告され、高校でいじめに遭い抵抗できずにいる娘安澄、愛人に置き去りにされた9歳の娘鮎子と2人暮らししていた夫一浩らと「幸の湯」の営業を再開し、これまでの人生で積み残していた難題にチャレンジするという小説。
 同名の映画の原作、なんですが、2016年10月10日初版発行で文春文庫への書き下ろしというのですから、映画(2016年10月29日公開)を撮り終えてか撮りながら書いたはず。でも、映画で私の胸に刺さった、双葉が末期癌を宣告されてさすがに落ち込み「幸の湯」の浴槽で打ちひしがれ、安澄から「お腹すいた」と電話があり、わかった超特急で帰ってカレーを作ると答えたら、安澄から少し待てるから急がないで気をつけて帰ってきてと言われるシーンは小説には登場しません。また、映画では、繰り返し登場した思わせぶりな、幼子と必ず迎えに来るという母との会話も、小説では、ミスリーディングな用い方はしないで終盤にストレートに一度出てくるだけです。
 そういう若干の違いはありますが、基本的に、映画同様に、双葉の苦労の多い人生とその中でけなげに前向きに生きる姿に打たれる作品です。


中野量太 文春文庫 2016年10月10日発行
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俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない

2017-08-23 23:52:37 | 小説
 主人公の「俺」がある日目が覚めると若い女の体に乗り移っていた、という今どきでは「君の名は。」パターンで始まり(やっぱり女に乗り移った男は鏡を見ながらおっぱいを揉んでしまう (^^ゞ)、その後眠りに落ちる/意識がなくなる度に別人に乗り移り別の日に目覚め続けるという設定で、それが殺人事件を機会に自分に課せられた事件を未然に防ぐためのミッションだと気がついた主人公が試行錯誤していくというSFサスペンス小説。
 荒唐無稽な設定で、もちろんなぜ他人の体に乗り移ることができる/いつの間にか乗り移ってしまうのかの科学的な説明は皆無ですし、入り口がいかにも「君の名は。」のパクりの印象で、その後しばらく連日の不条理な乗り移りの描写が続き飽きる感じがします。そこを乗り越えられるかが、第一関門というところでしょう。
 毎日別人に乗り移り続ける中で、自分は本当は何者かを悩み、そもそも自分とは何か、アイデンティティとは何かを相対化して考え、さらには別人の目で対人関係を世間を見ること、ついには別人の目から自分を見ることで、自我や対人意識、対社会の意識を見つめ直し、寛容と柔軟性を獲得していくところが読みどころだと思います。


水沢秋生 光文社 2017年7月20日発行
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