伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

僕らのごはんは明日で待ってる

2017-01-15 20:39:22 | 小説
 仲のよかった兄が病死し殻にこもりたそがれている男子高校生葉山亮太が、体育祭で勝手に割り当てられた米袋ジャンプでコンビを組んだことを契機に同級生の体育委員上村小春から告白されて交際を始め、大学進学の意思がなかった葉山は上村が受験する女子大に一番近い大学を受けて入学し、人がすることを気にしない葉山は心が広いと誤解されて学内では「イエス」と呼ばれて人気者になり、上村と癖のある会話を交わしながら順調に交際を続けるが、2年たったところで上村から特に理由もなく別れようと言われ…という青春恋愛小説。
 葉山のいい加減さと上村の気まぐれ/ひねくれぶり、その組み合わせの会話で読ませている感じです。「米袋が明日を開く」「水をためれば何かがわかる」「僕が破れるいくつかのこと」の3話がストーリーとしても連続しているのに、最後の「僕らのごはんは明日で待ってる」が話が飛んで、名前の表記も「上村」から「小春」になっています。執筆の時期がずれているのかと思いましたが、初出は季刊誌「GINGER L.」(ジンジャーエール。だそうだ)の1、2、4、5号で連続しています。飛んだところは気(構想)が変わったのか、書けなかったのか。青春恋愛小説としては、その間を書いてほしいと思うのがふつうの読者じゃないかと思うんですが。
 ジャニーズのアイドルグループ Hey!Say!JUMP のタレント主演で映画化され、それが2017年1月7日封切で、その前日の朝日新聞夕刊の映画欄で主演女優のインタビュー記事があって、それを見てからその原作を図書館でネット予約したら、なんと予約待ちなしですぐ来てしまいました。いや、現在公開中の映画の原作本って予約数十人(数百人のときも)で数か月待ちがふつうでしょ。この映画の主要な観客層の若年層は公立図書館で本なんて借りない?それ以前に本なんて読まない?


瀬尾まいこ 幻冬舎文庫 2016年2月25日発行(単行本は2012年4月)
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手のひらの音符

2017-01-14 01:07:53 | 小説
 地道に質の良い商品を作るという方針を貫く服飾会社に勤める45歳独身のデザイナー瀬尾水樹が、上司から自社の半年後の服飾業からの撤退を知らされ、将来を憂いているとき、中学高校の同級生堂林憲吾から自らの才能を見出して専門学校への進学を勧めてくれた恩師の美術教師の入院を知らせる電話があり、故郷の京都に見舞いに行き、堂林から京都の職人のネットワークで伝統技術を生かした洋服を作り産業の再生につなげたいという構想を聞かされ、非現実性を感じつつ惹かれるという「現在」と、行方不明の幼馴染森嶋信也との悲喜こもごもの「過去」の回想を組み合わせつつ展開する中高年青春ノスタルジー小説。
 貧しさの中で、困った人や病気の家族を抱え、懸命に働き家族を支えて生きる者たちの悲しさ、苦しさとささやかな喜びが描かれ、読んでいて楽しくはないけれども、庶民の弁護士としては好感を持ちます。
 過去の回想、かつての、30年近く前の思いが、心の支えとなり、現在の苦境の打開策につながるという展開は、現実の世界では、幻想への逃避につながりかねないものですが、大人のファンタジーとして、そういうのもありかなと思います。


藤岡陽子 新潮文庫 2016年9月1日発行(単行本は2014年1月)
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スイム!スイム!スイム!

2017-01-13 23:28:25 | 小説
 アテネオリンピック、北京オリンピックで水泳の100m、200mの金メダリスト、北京のインタビューでの「コトバにできない」(≒何にも言えねえ)が流行語大賞という、北島康介がモデルとしか考えられない「本作品はフィクションです」「人物の設定等は作者によるものであることを申し添える」(末尾)お調子者のビッグマウス「西山大輔」が、ロンドンオリンピックの予選落ち後「全日本水泳協会」の引退勧告を蹴って切り捨てられ、世界選手権の日本代表選抜でも敗れ、リオデジャネイロオリンピックに出場するために、新たな種目となる「混合メドレー」に水泳界のはぐれ者を集めて全日本代表チームに挑むというスポーツエンタメ小説。
 はぐれ者チームでエリートチームに挑むというエンタメの王道(よくある設定とも)、練習には勤勉(でないと金メダルなんて無理)だがわがままでお調子者でハチャメチャな主人公のキャラ設定、話をつなげる/広げるために新たなキャラを開拓しつつもほぼ最初に予想された選手選考、こういうテーマならまぁこうなるだろうという予想できるストーリー展開、なんですが、それだからこそ安心して読めるというところが、この作品のよさなのかなと、思います。
 やたらとスポーツ根性ものの話が出てきて、「あしたのジョー」が意識されている、もしやと思って、著者の年齢を見ると、私と1つ違いの同年代。やっぱりそうだったのね。


五十嵐貴久 双葉社 2016年5月22日発行
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神酒クリニックで乾杯を

2017-01-10 23:40:19 | 小説
 当直中に泥酔して患者を死なせたと報じられて職を失った若手外科医九十九勝己が、絶対治療したことを知られたくないVIPの手術をする秘密のクリニック「神酒クリニック」に就職し、腕は一流だが問題を抱え社会に居場所がない癖のあるメンバーたちとともに事件に巻き込まれ活躍するミステリー小説。
 外科手術の腕は超一流で格闘能力に長け冒険好きの院長神酒章一郎、美貌と巨乳とセクシーさで男を翻弄し声帯模写が得意な元劇団員の産婦人科・小児科医夕月ゆかり、顔面の表情筋の微細な動きから人の心を読み取る精神科医天久翼、目にしたものは一瞬ですべて記憶する手先の器用なうつの内科医・麻酔医黒宮智人、天然ボケキャラながらハンドルを握ると人が変わるスピード狂の看護師一ノ瀬真美、と個性的なキャラをそろえ、いずれも過去を持ちその過去はこの作品の段階では謎という設定で、最初からシリーズ化が想定されています。
 登場人物の能力やキャラ設定は現実離れしていますが、浮世離れした性格がコミカルに扱え、夕月ゆかりのお色気と一ノ瀬真美の天然ぶりがたぶん男性読者には心地よく、ストーリー展開、謎解きも小気味よく、読み物としてはいい線を行っていると思います。


知念実希人 角川文庫 2015年10月25日発行
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ハルコナ

2016-11-30 22:16:41 | 小説
 花粉耐性がなく防護服暮らしを強いられるが周囲の花粉を消滅させる特異体質の「対抗花粉体質者」と対抗花粉体質者を保護管理する「公共改善機構」、防護服で歩行する対抗花粉体質者を介助するサポーター、対抗花粉体質者と公共改善機構を嫌悪する環境保護団体などが存在する世界を描くSF的青春小説。
 一種のSFで、その原因が全く説明もされないのですが、その空想的な部分が、周囲の花粉を消滅させ、それで花粉症患者は楽になるというレベルの特殊能力で、設定自体がしょぼい。このしょぼい設定に、「公共改善機構」などという大仰な組織を登場/君臨させているのは、役所/行政機構への皮肉なりパロディなのかと思いますが、徹底して環境保護団体を敵視/危険視/戯画化/揶揄している姿勢が作者のスタンスをより表しているように見え、体制内のぼやけた世界観の中での最後は話者/主人公の藤呼遠夜の隣人の対抗花粉体質者花園晴子への身の回り数メートルの世界の思いに集約されてしまう物語だと思います。
 裏表紙の「世界を敵に回してもハルコを守りたい」に惹かれて読んでしまったのですが、SFにするならせめてもう少し大きな物語を構築して欲しかったなと思いました。「世界を敵に回しても」は、仕事がら気になってしまうフレーズです。弁護士にとっては、「世界を敵に回しても」は、理念的にはいざとなれば背負わねばならないスローガンですが、その場合述語は「守らなければならない」か「のために闘わなければならない」で、義務的な悲壮感に満ちたイメージです。「守りたい」という心情でこの言葉が使えるならば、幸せなのですけれども…


秋田禎信 新潮文庫 2016年7月1日発行
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境遇

2016-11-23 00:07:10 | 小説
 児童養護施設で育ち生みの親を知らない境遇が同じことを知り親友となった相田晴美から励ましのために教えられたエピソードをもとに書いた絵本「あおぞらリボン」で絵本大賞新人賞を受賞して時の人となった高倉陽子と、新聞記者となりその陽子にインタビューをしている晴美の前を、陽子の息子裕太のスイミングスクールの方を見ながら歩く不審な女性が通り過ぎ、その日裕太が行方不明となり、脅迫状が届き、陽子は韓国へ出張中の夫の親友岩崎と晴美とともに裕太を探し犯人の要求と真相を追うが…というミステリー小説。
 読者を引っ張り続ける筆力はさすがだと思います。しかし、ラストの大逆転は、プロットとしては必然だとは思うのですが、人間ドラマとしてはどうでしょうか。私は、むしろ最後の大逆転がない方が、人間像として深みを感じるのですが。生まれ・血縁や、さらには育ち・環境も合わせた境遇を乗り越え、解き放たれて人格形成することを、作者自身が信じていない/そこにリアリティを感じられない、制約があるのでしょうか。
 最後の大逆転を置いたことで、その前後で急速に毒が抜けてしまい、さらにはその後にとどめのような蛇足ともいえる小さな逆転がつけられ、真っ白なエンディングにつながります。高倉陽子をあまりにも世間知らずの善人に構築してしまったために、作品全体が漂白されてしまったような気がします。
 おかげで暗くならずに読め、後味が悪くはない、のですが…


湊かなえ 双葉文庫 2015年10月18日発行(単行本は2011年10月)
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迷いアルパカ拾いました

2016-11-03 22:26:40 | 小説
 楓ケ丘動物園の飼育員たちが騒動に巻き込まれる動物園ミステリーシリーズの第3弾。
 楓ケ丘動物園にアルパカが迷い込み、時を同じくして楓ケ丘動物園のアイドル七森さんの大学時代の友人が失踪し、謎を追う桃本らの周囲に不審な男たちや監視の目が…という展開です。
 今回はミステリーの規模と中身が飼育員たちの動きや関心とマッチし、作品としてしっくりとくる感じでした。
 主人公の桃本と七森さんの関係が、前作では七森さんが桃本の鴇先生への秘めた思いを疑い嫉妬する風情だった(「ダチョウは軽車両に該当します」77~78ページ等)のが、桃本の鴇先生への思いを理解し応援するように(54~55ページ)変化していて、なんだかあっさりと落ち着く方向になっています。
 話としてはまとまってしまったのか、その後ペースが鈍り、続編は別冊文藝春秋324号(2016年7月号)にフクロモモンガさんの短編(証人ただいま滑空中)が掲載されたところで、書籍化はしばらく先になりそうです。


似鳥鶏 文春文庫 2014年7月10日発行
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ダチョウは軽車両に該当します

2016-11-03 00:09:49 | 小説
 「午後からはワニ日和」の続編の動物園ミステリー。
 今回は、市民マラソンでのダチョウの暴走、鴇先生の前職をめぐり、事件と謎が展開します。
 主人公の桃本、ミステリアスな獣医鴇先生、桃本に思いを寄せる楓ケ丘動物園のアイドル七森さん、不思議で不気味な服部君らのキャラが、前作より書き込まれこなれてきた感じで、のびのびとした筆致が読み心地がよい。桃本がひそかに思いを寄せている様子の鴇先生がますますかっこいい。
 ミステリー部分は前作よりも陰謀のスケールが大きくなり、面白いともより荒唐無稽感が強まったともいえます。
 基本は、登場人物のキャラとそれぞれの人間関係の絡みを楽しむ作品とみた方がよさそうです。


似鳥鶏 文春文庫 2013年6月10日発行
 
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午後からはワニ日和

2016-11-02 22:20:49 | 小説
 楓ケ丘動物園の「アフリカ草原ゾーン」の動物たちの飼育係の桃さんこと桃本らがイリエワニの盗難、ミニブタの盗難と続く事件に遭い、その謎を解くというスタイルの動物園ミステリー。
 不安が募ると折り紙を折り続ける楓ケ丘動物園のアイドル七森さん、年齢不詳で武闘派の獣医鴇先生、爬虫類館担当で変態趣味の不気味な服部君らのキャラクターと、それぞれが桃さんに寄せる微妙な思いと思惑・人間関係で読ませています。
 動物と動物園トリビアも織り交ぜられ、その方面からも興味深く読めます。
 もっとも、ミステリー部分は、ちょっとなんだかなぁという感じ。
 あと、初出「別冊文藝春秋」294~297号と記載されているのに「本書は文春文庫オリジナル作品です。」ってどういう意味なんでしょう。


似鳥鶏 文春文庫 2012年3月10日発行
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武道館

2016-10-29 19:07:03 | 小説
 武道館ライブを目指す売り出し中のアイドルユニットの心情を描いた青春小説。
 生きていく上での選択、自分が選択する以前に周りから定められ/期待されている選択、「正しい選択」をしようとして何が正しいのかを思い悩み戸惑いためらう姿、予め正しいとわかる選択などない、「正しかった選択」にするのだという吹っ切り、といった自分の意思での選択をめぐる問いかけをテーマにしています。アイドルとしての生きざまだけでなく、「その欲をかなえるために、まず無料でできる選択をするようになったのは、いつからだったろう。」(114ページ)と、一消費者としての選択にも疑問を投げかけています。「だけど、無料で手に入るものとはつまり、全員が同じように手に入れられるものだ。」「そんな銀河の中に、自分を、自分だけを形成してくれるものは、あるのだろうか。」(114ページ)はどうでしょうか。ある意味であまりこだわりのないことがらであれば質を犠牲にしても無料のものを選ぶというのも、その人の選択だし、有料だから、高いからそれに見合った質が確保されているとも言えず、自分がその質を見極められるなら質と価格をにらんで選択することもありだと思います。ただ自分にとって重要なことで、質を見極める目がないときに、それでいいのかなぁとは、思いますけど。業界人としては、人生かかったような事件で、数千円とか1万円くらいの相談料を惜しんで無料の法律相談とかさらにはネット情報を自分でいいように判断して対応するのはどんなものかなと。その人にとってたいしたことじゃないからそうしてるんだと思うことにしていますけど。
 アイドルのファンの姿を「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」(166ページ)と問題提起しています。ネットの世界では、後者の人たちが多いのだろうという書きぶりです。それは、アイドルのファンということに限らず、ありがちで、そういう投稿を見るにつけ、悲しくなるのですが。


朝井リョウ 文藝春秋 2015年4月25日発行
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