伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

函館グルメ開発課の草壁君 お弁当は鮭のおにぎらず

2024-04-27 22:55:45 | 小説
 新卒早々に一人暮らしをすることになった山谷水産開発課に配属された下戸の新入社員草壁佑樹が、2年先輩の優しい笑い上戸の中濱直に勧められて料理SNSアカウント「イチイさんのお弁当箱」を見ながら毎日自炊してお弁当を作るようになり…という青春お仕事お料理恋愛小説。
 終始幸福感に満ちた職場と私生活の描写が続き、基本的に穏やかで暖かい、あるいは羨ましい心情と、少しのうるうる感・胸キュン感を持ちます。
 裏表紙の紹介でも「草壁は“ある疑問”を抱き…」とされているように、イチイさんの正体をめぐりミステリーっぽい扱いがされていますが、そこはちょっとどうかなと思いました。


森崎緩 宝島社文庫 2023年7月20日発行
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放課後ミステリクラブ2 雪のミステリーサークル事件

2024-04-23 22:54:37 | 小説
 夏に「金魚の泳ぐプール事件」を解決した神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)のミステリトリオが、冬に雪の積もった校庭に描かれたミステリーサークルの謎を解明することを真理子先生に頼まれる、放課後ミステリクラブシリーズ第2弾。
 雪が積もる中、周囲にまったく足跡がなく、ミステリーサークルを描いた者はどのようにして描き、どのようにそこから立ち去ったのか、ある意味、ありがちなトリックのパターンですが、そこそこ楽しめます。しかし、雪に描かれたミステリーサークルの白(雪)と黒ないし茶色(地面)が、真理子先生が見た11ページのイラストと美鈴がポラロイドカメラで撮影した25ページで逆になっているのはちょっと…これ、謎解きにも絡むと思うのですが。
 人物紹介ページのイラストで、1巻ではなかった辻堂天馬のシャツのズボンからのはみ出しを指摘しています(153ページ)。キレすぎて可愛げがないので少しボケさせないといけないと思ったのでしょうか。


知念実希人 ライツ社 2023年10月30日発行
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放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件

2024-04-22 21:53:33 | 小説
 小学4年生の神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)の通称「ミステリトリオ」は、名探偵辻堂天馬が真理子先生が困っていた事件を解決したことから、校舎の4階奥のかつて倉庫だった部屋を部室として使えるようになり「ミステリクラブ」と称して放課後を過ごしていた。そこに夜間に学校のプールにたくさんの金魚が放たれる事件が起こり…という児童向けミステリー小説。
 深刻・悲惨な事件を起こさずに楽しめるミステリーというコンセプトの作品です。小学4年生にして大人向けのミステリを読み、シャーロックホームズ張りのコートを着た名探偵辻堂天馬が左手を挙げて指さし「僕は読者に挑戦する」と言って謎を解く姿は、名探偵コナンのイメージ。浴衣のままで木登りをして枝から枝に飛びうつるという天真爛漫な美鈴のキャラが、引き立て役ながら微笑ましく生きているように感じました。


知念実希人 ライツ社 2023年6月28日発行
2024年本屋大賞9位(児童書としては初めてのノミネート作品)
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真夜中のパン屋さんシリーズ

2024-04-14 19:37:24 | 小説
 海外赴任中に事故死した妻暮林美和子の遺志を継いで、会社を辞めて三軒茶屋の住宅街付近に午後11時から翌朝5時までを営業時間とするパン屋「Boulangerie Kurebayashi」を、夫の海外赴任中に美和子に横恋慕していたイケメンの腕のいいパン職人柳弘基の協力を得て開いた暮林陽介の元に、美和子を頼って恋多きシングルマザーの指示で転がり込んだ高校生の篠崎希実をめぐり、店のメンバーやクセの強い常連客や希実とその母の関係者などが繰り広げる騒動を描いた小説。
 タイトルやイラストから、恋愛小説かお仕事小説と見て読み始めましたが、どちらかと言えばライトミステリーという趣の作品でした(最後の方で恋愛小説的な要素も出てきてはいますが)。ネグレクトやひきこもりをテーマにしつつ、人の心の優しさと暗さ(ねじれ・僻み)を描くヒューマンドラマという方がいいかなとも思います。
 営業時間を午後11時から翌朝5時までという設定で、第1巻のタイトルが「午前0時の…」ですから(それも全巻文庫書き下ろしですし)、最初から6巻組の構想だったと思われます。しかし、第1巻から第4巻までは1年足らずで出ていたのが、第4巻のあと第5巻まで2年5か月空いて、第6巻は「外伝」とか後日談ぽくなっているのを見ると、構想の変化というか見直しがあったのかなと思います。そのあたり、創作の難しさを感じてしまいました。


大沼紀子 ポプラ文庫

午前0時のレシピ 2011年6月5日発行
午前1時の恋泥棒 2012年2月5日発行
午前2時の転校生 2012年12月5日発行
午前3時の眠り姫 2013年10月5日発行
午前4時の共犯者 2016年3月15日発行
午前5時の朝告鳥 2017年6月15日発行
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同志少女よ、敵を撃て

2024-04-09 21:05:08 | 小説
 モスクワ近郊の人口40人の小さな村イワノフスカヤの猟師の娘セラフィマが、18歳になった1942年2月、ドイツ軍兵士に母エカチェリーナを狙撃され村人を皆殺しにされ自らも殺されそうになったところを赤軍に助けられ、赤軍兵士を率いていた女性イリーナに連れられて女性狙撃兵訓練学校に組み入れられて、母を狙撃したドイツ軍狙撃兵とナチへの復讐に燃えて狙撃兵として独ソ戦に従軍するというアクション小説。
 戦争の中でのドイツ軍、赤軍を通じた女性への蔑視、女性に対する暴行・虐待がテーマとなっていて、後半になるほどその比重が大きくなっていく印象です。それをストレートに感情表出する主人公セラフィマに対し、冷徹な姿勢を貫くイリーナの抑えが、物語の進行と読後感を締めているように思いました。
 戦争を舞台にしたアクションものなのでそうならざるを得ないのでしょうけれども、残虐なシーンが多くあまりにも簡単に人が死ぬ描写に辟易し、哀しい気持ちで読む場面が続き、私は爽快感は持てませんでした。


逢坂冬馬 早川書房 2021年11月25日発行
第11回アガサ・クリスティ賞受賞作
2022年本屋大賞受賞作
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カケラ

2024-03-29 22:16:44 | 小説
 テレビ番組でコメンテーターなどを務める売れっ子の論客で元ミス・ワールドビューティー日本代表の美容外科医橘久乃が、小学校時代の太った同級生横網八重子の娘吉良有羽が自殺した原因を調べるために関係者に面談した際の聞き取りの形式で横網八重子と吉良有羽の周囲と様子を描き出して行くミステリー小説。
 久しぶりに読んで、あぁこの人はこういう構成、こういう文体の人だったなぁと思い起こしました。聡明で美人の橘久乃に対してあからさまに持ち上げる人、敵愾心を露わにし辛辣に非難する人の物言いを、作者は自分がそういう人に向ける気持ちで書いているのか、自分がそういう視線を受けているという思いで書いているのか…
 最後にこの小説のモデルとなっている美人女医(そう明記されているので)が「解説」を書いています。それはそれで珍しい趣向ではあるのですが、ミステリーなのですから解説者が架空/虚構の人物でその「解説」も作品の一部だったというオチの方がしゃれていると思います。


湊かなえ 集英社文庫 2023年1月25日発行(単行本は2020年5月)
「小説すばる」連載
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言いわけばかりの私にさよならを

2024-03-27 23:08:17 | 小説
 中学最後の大会で相手チームのエースのスパイクを自分がブロックできなかったことを自分のミスで負けた、自分には才能がないんだと悲観して高校ではバレーボール部を避けて帰宅部となっていた白河鈴乃が、向かいに住む男子バレー部2年のエースでストイックにトレーニングを続ける一ノ瀬隆二に惹かれ、放課後や朝に一緒のトレーニングするようになり、隆二の科学的な探究に基づく鍛錬と知識に圧倒されながらバレーボール部への復帰を決心するというスポーツ恋愛小説。
 スポーツ根性ものとしての側面と、恋愛小説、難病もの、兄弟愛の要素が絡み、読んでいて興奮と哀感を持ちます。鈴乃自身、そして隆二の弟達也のひねた感情・態度が表されながら、基本的に素直さ・まっすぐさを感じさせる作品で、読後感はいいです。
 あとがきで才能がないことを理由にあきらめるな、成功に必要なのは長期的かつ効率的な訓練だと書かれていて、作者からの強いメッセージとなっています。


加賀美真也 角川文庫 2023年11月25日発行
 
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教誨

2024-03-26 21:24:04 | 小説
 10年前に当時8歳の自分の娘と5歳の近所の子どもを殺害したとして死刑に処せられた三原響子の身元引受人と登録されていたために遺骨と遺品の受け取りを求められた遠縁の32歳吉沢香純が、響子の郷里の本家に遺骨の引き取り・埋葬を求めに訪れるが断られ、途方に暮れつつ、事件の真相、特に響子の動機・心情を知ろうと奔走するという小説。
 濃密な閉塞した人間関係の中で、生きづらさを感じ追い込まれて行く様子に涙し、見て見ぬ振りで手を差し伸べる者のいない状況にも哀しみを感じます。世間から非難を浴びる死刑囚と犯罪のそういった部分を描き出そうとする作者の思いが沁みました。


柚月裕子 小学館 2022年11月30日発行
「STORY BOX」連載
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四月になれば彼女は

2024-03-24 16:18:09 | 小説
 3歳年上の獣医坂本弥生と都心のタワーマンションの28階に住み、同棲して3年でセックスレス2年の状態で1年後の4月に結婚式を挙げることを決めた精神科医藤代俊の元に、大学3年生だった9年前に別れた元カノ伊予田春のウユニ湖畔からの手紙が届き、学生時代を回想する藤代の1年を描く小説。
 恵まれた境遇にあるがマリッジブルーの青年藤代の視点からのノスタルジーを描いたもので、藤代の生き様・人生観に共感できるかどうかが作品の評価に影響すると思います。私は、春にしても、また藤代の先輩の大島にしても(あるいはその妻にしても)もう少し描き込んで欲しかったなと思いました。私には、藤代よりもはるかに魅力的な人物に思えるので。
 タイトルは、ストレートにサイモン&ガーファンクルの有名な曲から。学生時代の合宿で大島がギターを手に歌っている場面(88ページ)から引いているのですが、他人の有名な作品を自分の作品のタイトルにしてしまえるセンス、私には理解できません(章タイトルとかで使うのはよく見られますし:私もやってますし…違和感ないのですが、作品自体のタイトルにするのは)。冒頭にウユニ湖畔からの手紙、その後もプラハから、アイスランドからの手紙を置き、もういかにも映像化を最初から意識しているような作品を書ける人・境遇だからなんでしょうね。


川村元気 文春文庫 2019年7月10日発行(単行本は2016年11月)
「週刊文春」連載

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センセイの鞄

2024-03-23 21:16:26 | 小説
 高校時代に国語を習った30歳あまり年上の教師松本春綱と駅前の一杯飲み屋で再会した37歳の大町ツキコが、特に約束もない居酒屋での遭遇を続けるうちにさまざまな思いを持ち逢瀬を重ねて行く高年恋愛小説。
 酒をつぐのがうまい(1滴もこぼれない:43ページ)巨人ファンの60代後半のセンセイと、酒をよくこぼすアンチ巨人のツキコの不器用な恋愛というか、古風で不器用なおっさんにアラフォーの女性が恋心を抱いて迫って行くという構図が、切ないというか、高年齢のおっさんの心にヒットします。「おいしいコーヒーのいれ方」がジャンプ読者層の青年たちのニーズ・幻想に奉仕する設定とストーリーだったのと同様、おっさん読者層の幻想・妄想に奉仕する作品なんでしょうね。


川上弘美 文春文庫 2004年9月10日発行(単行本は2001年6月:平凡社、月刊「太陽」=2000年12月休刊 1999年7月号~2000年12月号連載)
谷崎潤一郎賞受賞作

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