伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

ジウⅠ・Ⅱ・Ⅲ

2017-03-30 00:12:57 | 小説
 警視庁特殊犯捜査2係で犯人説得を担当していた門倉美咲巡査27歳が、人質立て籠もり犯の指示で下着姿になったところを雑誌記事にされて所轄に異動されながらも、その犯人が児童誘拐事件の共犯であることがわかり捜査本部に派遣され、捜査1課の切れ者刑事東弘樹警部補と組んで捜査を進めるうち、連続誘拐事件の主犯として浮上したジウと呼ばれる美少年を追うことになり、他方、門倉の同僚だった武闘派でその戦闘能力を買われて特殊急襲部隊(SAT)に異動した伊崎基子巡査25歳は謎の勢力に次第に引き寄せられ…という展開の警察アクション小説。
 優しく涙もろく、しかし正義感が強く無鉄砲なところもある門倉美咲と、厭世的で自暴自棄で尖がった伊崎基子の対照的な性格の2人のヒロインと、切れ者で直情的で女心に鈍感な東弘樹のキャラで読ませていますが、特定の犯罪者(敵役)で3巻も引っ張っているうちに謎の美しくも怪しい敵キャラのジウも色あせ、展開が次第にち密さを失い大味で荒唐無稽になります。2巻から登場する「私」ことミヤジのストーリーでは、最初から命があまりにも簡単に奪われますし、3巻の歌舞伎町封鎖事件などは、もう戦争の趣で、人の命の重さなど無きに等しく描かれます。この作品で、いったい何人が殺されているのか、数える気にさえなれませんが、殺人・残虐行為に対する慣れ・感覚の鈍麻・諦め・無力感・無関心が、この作品の帰結というか読後感となるように思えます。
 大仰に展開して見せたものの、権力内部に根を張る「新世界秩序(NWO)」なる敵は、警察内部でも権力の中枢部とまでは言えず、表に出るジウもミヤジもどこか巨悪と呼ぶには似つかわしくなく、中途半端な、悪くするとちゃちな印象を持ちます。
 大きな展開部分での「陰謀」ないしは巨悪との闘いというテーマが読み物として現実感に欠けながら壮大とも言えないために、爽快な読後感を持てず、結局は、門倉の東に寄せる思いや伊崎の捨て鉢な生き様へのハラハラ感の方を読むべき作品だろうと思います。


誉田哲也 中公文庫
ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係【SIT】 2008年12月20日発行(単行本は2005年12月)
ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊【SAT】 2009年1月25日発行(単行本は2006年3月)
ジウⅢ 新世界秩序【NWO】 2009年2月25日発行(単行本は2006年8月)
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ケモノの城

2017-03-27 23:02:24 | 小説
 長期監禁とその間のレイプ・暴行・拷問、被害者の親族を巻き込んだ恐喝、殺人、死体遺棄を繰り返す犯罪者と、その正体を追いきれない警察という設定で、現代社会の闇を描いたと思われる警察小説。
 読んでいて、作者の出世作の「ストロベリーナイト」もそうでしたが、犯罪/犯罪者の鬼畜の所業ともいえる残忍さ、グロテスクさを描き出す想像力というかおぞましさへのキャパシティには驚きます。その原動力が、犯罪/犯罪者への憎しみなのか、作者の趣味/嗜好なのか、心配になってしまうほど。
 グロテスクな犯罪、本当に腹立たしい憎むべき犯罪者を描き出しながら、「人間は、怖いのではないか。自分が被害者になるのはむろん怖いが、同じくらい加害者になるのも怖いことだ。自分の中にも犯罪の芽はあるかもしれない。今は大丈夫でも、でもいつ、自分も犯罪者になってしまうか分からない。だから知りたいのではないか。自分と犯罪者の何が違うのか。犯罪者になる者とならずに済む者と、その境界線はどこにあるのか。そして一番怖いのは、その境界線がないことだ。」(200ページ)と担当警察官に考えさせています。そのあたりの人間の心の闇、がテーマと考えるべきでしょうか。
 ミステリーとしては、最後にもちろん捻りを入れるんだろうな、と思いながら読むのですが、その捻りに無理があるというか捻りの根拠となる作為の動機が描かれず、エンディングも「藪の中」的な終わり方で、もやもや感が残ります。
 「武士道ジェネレーション」(2015年7月)の「東京裁判史観」/「自虐史観」批判から、この作者がいつからそのような方向に踏み出したかに興味を持ちましたが、2014年4月のこの作品では、(長期間の取調べで被疑者が疲れ果てて罪を認めるのをそういった捜査手法が冤罪を生むと主張する学者や弁護士がいると、人権派弁護士を非難している217ページあたりは、警察の協力を得ないと書けない警察小説の作者が警察寄りの視点になるのはふつうとして)「領土問題というのは、攻められる側が諦めたときに終わりがくるのだと思う。当然といえば当然だ。攻める側、領土がほしい側はいつまででもちょっかいを出し続ける。手に入るまで、しつこくしつこく。それに疲れて『もういいや』と思ってしまったら。攻められる側、領土を守る側は終わりだ。負けが確定する。」(125ページ)という記述が唐突に入るのが目につく程度です。たぶん尖閣諸島や竹島を想定して書いているのでしょうけど、この記述だと北方領土でロシアから見た日本政府を表現したものともいえて、まだニュートラルと考えることもできるレベルです。


誉田哲也 双葉社 2014年4月20日発行
「小説推理」2013年6月号~2014年2月号連載
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ジョイランド

2017-03-24 20:54:45 | 小説
 1973年、当時ニューハンプシャー大学の学生だったデヴィン・ジョーンズが、アメリカ南東部のノースカロライナ州「ヘヴンズベイ」の遊園地「ジョイランド」で夏休みのアルバイトをして夏休み終了後も勤務を続けながら、幽霊屋敷「ホラーハウス」でカップル客の女性リンダ・グレイが殺害された事件とその後ホラーハウスに出るという幽霊の噂の謎に好奇心を持ち…という設定のサスペンス青春小説。
 「ミステリー」としては、幽霊屋敷での事件/アクシデントを始め重要な部分ではっきりせず、また超常現象的な描写だけで合理的な説明なく終わっている印象が強く残ります。
 むしろ、「まだ女を知らない21歳」(11ページ)の主人公が、恋人のウェンディ・キーガンに浮気されて失恋し、ジョイランドでマスコットキャラクターのハッピーハウンド(犬)のハウイーの着ぐるみを着たパフォーマンスなどをしながら傷を癒し、バイト仲間の女学生エリン・クックと知り合うがエリンはバイト仲間のトム・ケネディと恋仲になり、通勤途上のビーチで顔を合わせる筋ジストロフィーの少年マイク・ロスとともに佇んでいる美貌の母アニー・ロスは険しい態度を取り…という「礼儀正しい若者に女はものにできない」(13ページ)青春グラフィティとして読むのが正解と思える作品です。


原題:JOYLAND
スティーヴン・キング 訳:土屋晃
文春文庫 2016年7月10日発行(原書は2013年)
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武士道ジェネレーション

2017-03-21 23:56:26 | 小説
 武士道シックスティーン、武士道セブンティーン、武士道エイティーンと続いた剣道青春小説武士道シリーズの磯山香と西荻早苗の高校卒業後を描いた続編。
 大学でも剣道一筋で教職課程も単位が取れず就職できないで桐山道場に居残る磯山と、膝の負傷で剣道をリタイアしながらつてをたどって東松学園高校の事務職員となり桐山師範の遠戚の沢谷充也と結婚した早苗の掛け合いで話が進行します。
 以前から続く剣道青春ものとしての味わい、展開は維持されていますが、この作品で作者は、東京裁判批判、「自虐史観」批判を展開し、「民間人虐殺を行わなかった日本」(46ページ)とまで述べ、「アメリカは東京大空襲で少なくとも十万人、広島への原爆投下ではその年内に十四万人、長崎では七万人を死亡させている」(46ページ)と言っています。この点は、この1か所だけではなく、繰り返し執念深く登場し(42~51ページ、213~215ページ、216~224ページ、319~323ページ)、作者が確信をもって、この作品を通じてこの考えをアピールしようとしていることが読み取れます。警察もので名を挙げた作者が、犯罪の加害者/犯人を憎み加害者の検挙等による解決を志向し、犯罪者を非難しその残忍さを描くことは理解できます。しかしその作者の視界には、アジアの人々の被害は入らない/見えないのでしょうか。被害者の数は、歴史の記録としては重要でしょうけれども、被害者自身やその関係者にとっては、犠牲者が1人であってもかけがえのない命です。南京大虐殺の被害者の数が過大だと声高に言う作者は、では20万人ではなく10万人なら、あるいは5万人なら殺されてもかまわない、「虐殺ではない」というのでしょうか。日本への空襲を戦時国際法違反だと非難する作者は(私は、アメリカ軍の空襲を批判すること自体は正しいと考えていますが)、日本軍が行った重慶爆撃は「なかった」というのか、民間人が犠牲にならなかったというのか、いったい何をもって日本軍が「民間人虐殺を行わなかった」などというのか、私の目には、作者が、日本人の命は大切だが、アジアの人々(朝鮮人、中国人)の命はどうでもいいと言っているように見えます。


誉田哲也 文藝春秋 2015年7月30日発行
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荊の城 上下

2017-03-16 23:33:23 | 小説
 ロンドンの西、メイデンヘッドの町の近くのマーロウという村の古城に伯父と住む巨額の資産の相続人だが結婚するまでは相続財産を自由にできない娘モード・リリーの存在を知り、モードを騙して結婚しその後はモードを精神病院に入れて財産を自分のものにしようという詐欺師リチャードの計画に誘われ、モードの侍女となってリチャードのアシストをすることになった17歳の孤児の掏摸スーザン・トリンダー(スウ)が、侍女として過ごすうちにモードに好意を持ちついには性的関係を持ってしまい、揺れる心に悩まされながら計画を進めるうちに予想外の事態に陥るという展開のミステリー小説。
 スウの側からの第1部、同じ場面をモードの側から見る第2部、再びスウが舞い戻る第3部の3部構成になっています。予想を裏切る巧みな展開ではありますが、下巻に入ると特に重苦しい雰囲気が強まります。第1部がスウの視点で入りますので、ふつうの読者はスウの側で読み進めると思うのですが、そういう心情では、第3部は陰鬱な思いが続き、次第に読み進むのがつらく感じられてきます。そんなに悲しい思いをさせなくていいんじゃないの、と私は思ってしまいます。モードへの愛憎を重ね、後半恨み続けるスウを見るのがしんどく思え、ラストの展開に、正直なところそういう気持ちになれるか疑念を抱き、すっきりしませんでした。
 孤児スウの育ての親、スウが母ちゃんと呼ぶサクスビー夫人の実の子と長年育てた子への思いも、重要なポイントになっています。血は長年共有し積み重ねた思い出よりも重いのでしょうか。その点も考えさせられますが、私の感覚とは違うなぁと思いました。
 この作品を原作とした韓国映画「お嬢さん」では、後半のスウを悲しませる重い部分、サクスビー夫人の立ち回りなどをカットして、ハッピーで痛快に仕上げています。重厚さ、人生の悲哀を感じさせる味わいをなくしたともいえるでしょうけど、私には、この作品を読んで、こういう展開にして欲しかったなぁと思ったストーリーで、娯楽作品としては映画の方がよかったかなと思いました。


原題:FINGERSMITH
サラ・ウォーターズ 訳:中村有希
創元社推理文庫 2004年4月23日発行(原書は2002年)
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硝子の太陽N-ノワール

2017-03-10 22:38:55 | 小説
 フリーライターの上岡慎介が殺害された事件をめぐり、新宿ゴールデン街のバー「エポ」経営者陣内陽一ら「歌舞伎町セブン」メンバー、元警視庁捜査一課刑事の新宿署刑事課強行犯捜査第一係長東弘樹らに勝俣、姫川らが絡む警察周辺小説。
 姫川玲子シリーズかと思って読んだのですが、基本は「ジウ」シリーズ→「歌舞伎町セブン」→「歌舞伎町ダムド」の続編で、それに姫川玲子シリーズから勝俣と姫川がちょっとだけ登場する「コラボ小説」だそうな。シリーズを順に読み進む読者を想定しているようで、かつての「事件」、過去のしがらみのある謎の敵対者、あれこれの経緯が、そこここに登場し、シリーズを読んでいない読者にはちょっと辛い。
 ミステリーや刑事ものというよりは、「歌舞伎町セブン」の仲間を奪われての復讐ものと読んだ方がいいと思いますが、クライマックスとなるべき部分が、初期に見せる歌舞伎町セブンのポリシーとも整合しない感じがするし、それならそれで徹底すればいいのに、なんか中途半端な感じがします。事件の解決というか、真相の解明という点でも、まだ別の事情や事件が示唆され、さらに続編を書くということなんでしょうけど、すっきりしない印象です。
 沖縄問題/反基地闘争/米兵の犯罪糾弾の世論などについて、デモや世論の高揚を目的のためなら手段を選ばぬ左翼犯罪者による陰謀/デマによるものとし、沖縄にも米軍駐留を望みそれにより生活している者がいることを強調するというところがこの作品の基本的な設定となっています。作者が、沖縄闘争/左翼への執念深い敵意を持っているのか、左翼嫌いの読者に媚びているのか…


誉田哲也 中央公論新社 2016年5月15日発行
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怒り 上下

2017-03-02 00:41:53 | 小説
 八王子郊外の新興住宅地で発生した壁に血で「怒り」の文字が残された夫婦惨殺事件の容疑者山神一也が逃走潜伏し続け、それを追う刑事たち、手配写真と似た特徴を持つ出自不明の若者の周りで殺人犯ではないかという疑いを持ちながらその正体不明の若者とかかわる千葉/東京/沖縄の人々を描く小説。
 体裁は、殺人事件の捜査を軸としたミステリーですが、ミステリーとして読むよりも、自らと関係がない事件とその報道を契機に身近な者を疑い、信じきれないことに憔悴しやりきれなく思い後悔する心情、自分をそのままに信じ受け入れてもらえない者の悲しみといった人間の情を読む作品だと思います。出自/過去/その他の事情を隠し、また自己の内心を語らないまま、すべてを信じ受け入れてくれないと、嘆くのは、甘えではないか、それを丸ごと受け入れなければ親として(洋平の場合)、恋人として(優馬、北見の場合)関係を維持できないというのでは浮かばれない/やってられないという思いもありますが。
 まったく落ち度のない夫婦が惨殺され、その殺人事件の真相も明らかにならないという設定で体感治安の悪化を印象付け、沖縄では自分が経営する民宿で基地問題を語り那覇にデモに行く辰也の父を客が聞き飽きて逃げ出し息子の辰也に疎ましがられる存在として描き、辰也にそんなことをしても変わらないと言わせ、米兵のレイプ被害を受けた女子高生泉には告訴しない「私はそんなに強くない」と言わせる。沖縄の運動に冷ややかな視線を送り、闘わない者の闘わない理由の方に同調のサインを送る、なんかいやらしさを感じるなぁと思ったら、読売新聞朝刊の連載小説だそうな。掲載媒体への媚でしょうか。


吉田修一 中央公論新社 2014年1月25日発行
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ナミヤ雑貨店の奇跡

2017-02-26 00:19:46 | 小説
 当初は子どもたちから冗談半分の悩み相談を受け、その後大人からの深刻な相談もなされるようになり、それに答えるのが老後の生活の張り合いとなっていた1979年の雑貨店主浪矢雄治と、ナミヤ雑貨店に当時人生相談をした相談者たち、浪矢雄治亡き後32年たち廃屋となったナミヤ雑貨店に逃げ込んだ窃盗犯3人組のもとになぜか送られてくる1979年のオリンピック選手候補「月のウサギ」、魚屋を継ぐか音楽に賭けるかを悩む「魚やミュージシャン」、昼の雑用と水商売を掛け持ちし水商売一本にするかを悩む「迷える子犬」の相談の手紙が32年の時空を超えてつながるSF風短編連作小説。
 子どもたちの悩みにとんちで答える(一休さんみたいな)やりとりをしていたら、大人の深刻な相談を受けるようになってしまい、自分が戸惑い悩む浪矢雄治の姿に共感を覚えます。人の悩みを受け止めて、自分が背負い込んでしまうことの責任感・重さは、独特のものです。私は、弁護士として、あくまでも法的に解決するのならば、裁判所ではどうなるということに限定して答えますし、その答えは法律や裁判に関する専門知識と経験に基づいていますので、その範囲である限り一定の自信を持てますが、素人が他人の人生についてその方向性を示そうというのですから、まじめな人であればそれこそ自分が悩み重圧に押しつぶされてしまうでしょう。その点について、真剣に対応しようとする浪矢雄治と、悩まない不良青年敦也らを対比させているのも、巧みに思えます。
 独立に無関係に登場したかのような人々が、次第に密接に絡んで来て、あぁこういう布石というか関係だったのかと味わい深く思えるという趣向です。東京まで電車で(特急でも)2時間かかる小さな町の寂れた雑貨店に相談の手紙を直接持ってくる人たちなのですから、まぁ狭い世界の住人であることは当然で、互いに知り合いでももともと不思議はないわけですが。
 映画化されるという情報があったので(映画の公開予定は2017年9月でまだ7か月も先ですが)読んでみて、短編連作と知ってどうなることかと思いましたが、最終的に全体が絡まり、いろいろしんみり余韻が残るので、映画にするのはそれほど困難ではなさそうです。とりあえず期待しておきましょう。


東野圭吾 角川文庫 2014年11月25日発行(単行本は2012年3月)
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淡雪の記憶 神酒クリニックで乾杯を

2017-02-09 23:22:02 | 小説
 VIPが秘密裏に治療を受ける秘密のクリニックの一癖も二癖もあるメンバーたちが患者に関する事件の謎を解くミステリー「神酒クリニックで乾杯を」の続編。
 都内で発生したビル爆破事件と、その爆弾製造に関与したと目される記憶喪失の謎の女性をめぐり、神酒クリニックの面々が得意の能力を発揮します。今回は、看護師一ノ瀬真美がスピード狂のほかに美術(印象派)オタクであることが判明します。
 キャラ設定のコミカルさ、ストーリー展開の軽快さなど、手慣れた感じで、読み物としては快く読めますが、ミステリーとしては、もともと予想しやすい筋の上に、第1作を読んでいると、クセも読めるので、先がだいたい見えてしまうのが少し残念。先が読めても、キャラの味わいと会話のコミカルさで、まぁそこそこ楽しめる作品だとは思いますが。


知念実希人 角川文庫 2016年4月25日発行
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イノセント

2017-02-06 00:19:57 | 小説
 性的虐待を受けて育ち優しい夫と死に別れた薄幸の美貌の美容師徳永比紗也と、函館で比紗也を見初めた軽薄なモテ男のイベント会社社長真田、回転ドアで手を挟まれたところを比紗也に救われた自らの「内なる声」と過去の罪に悩む神父如月が、すれ違い絡み合う恋愛官能小説。
 見た目のよい中身はなく軽薄で身勝手な「俺様男」と、誠実に尽くす押しの弱いタイプの男に追われ慕われという設定は、ありがちな韓流ドラマのよう。そして、そういう場合、ヒロインは、押しの弱い性格のいい誠実な男ではなくて、性格の悪い俺様男を選ぶというのも、ありがちなパターン。男性読者には、やるせない思いがあります。
 性的虐待等の過去のためではありますが、心を開かず、見てくれがよく男好きがするという同性からは嫌われるタイプのヒロインと、軽薄で中身がなく外見がよくてモテる俺様男というやはり同性からは嫌われるタイプの男の組み合わせは、男性読者からも女性読者からも受けが悪いのではないかと思います。
 性的虐待を受けたヒロインの行く末は、希望を持てるというべきなのか、如月の普通にはあり得ないような献身があって初めてそのような結末に至るというあたり、むしろ現実には絶望的というべきなのか、類似の経験を持つ読者はどう感じるのか、気になるところです。作者が、性暴力をめぐりその作品ごとにその扱い・評価に大きな振れ幅を見せているように、私には感じられます。「RED」に続き、官能小説的な色彩が強くなってきているその表現とあわせて、作者の姿勢とターゲットが気になります。


島本理生 集英社 2016年4月30日発行(「小説すばる」連載)
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