伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

淡雪の記憶 神酒クリニックで乾杯を

2017-02-09 23:22:02 | 小説
 VIPが秘密裏に治療を受ける秘密のクリニックの一癖も二癖もあるメンバーたちが患者に関する事件の謎を解くミステリー「神酒クリニックで乾杯を」の続編。
 都内で発生したビル爆破事件と、その爆弾製造に関与したと目される記憶喪失の謎の女性をめぐり、神酒クリニックの面々が得意の能力を発揮します。今回は、看護師一ノ瀬真美がスピード狂のほかに美術(印象派)オタクであることが判明します。
 キャラ設定のコミカルさ、ストーリー展開の軽快さなど、手慣れた感じで、読み物としては快く読めますが、ミステリーとしては、もともと予想しやすい筋の上に、第1作を読んでいると、クセも読めるので、先がだいたい見えてしまうのが少し残念。先が読めても、キャラの味わいと会話のコミカルさで、まぁそこそこ楽しめる作品だとは思いますが。


知念実希人 角川文庫 2016年4月25日発行
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イノセント

2017-02-06 00:19:57 | 小説
 性的虐待を受けて育ち優しい夫と死に別れた薄幸の美貌の美容師徳永比紗也と、函館で比紗也を見初めた軽薄なモテ男のイベント会社社長真田、回転ドアで手を挟まれたところを比紗也に救われた自らの「内なる声」と過去の罪に悩む神父如月が、すれ違い絡み合う恋愛官能小説。
 見た目のよい中身はなく軽薄で身勝手な「俺様男」と、誠実に尽くす押しの弱いタイプの男に追われ慕われという設定は、ありがちな韓流ドラマのよう。そして、そういう場合、ヒロインは、押しの弱い性格のいい誠実な男ではなくて、性格の悪い俺様男を選ぶというのも、ありがちなパターン。男性読者には、やるせない思いがあります。
 性的虐待等の過去のためではありますが、心を開かず、見てくれがよく男好きがするという同性からは嫌われるタイプのヒロインと、軽薄で中身がなく外見がよくてモテる俺様男というやはり同性からは嫌われるタイプの男の組み合わせは、男性読者からも女性読者からも受けが悪いのではないかと思います。
 性的虐待を受けたヒロインの行く末は、希望を持てるというべきなのか、如月の普通にはあり得ないような献身があって初めてそのような結末に至るというあたり、むしろ現実には絶望的というべきなのか、類似の経験を持つ読者はどう感じるのか、気になるところです。作者が、性暴力をめぐりその作品ごとにその扱い・評価に大きな振れ幅を見せているように、私には感じられます。「RED」に続き、官能小説的な色彩が強くなってきているその表現とあわせて、作者の姿勢とターゲットが気になります。


島本理生 集英社 2016年4月30日発行(「小説すばる」連載)
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真夜中の約束

2017-02-05 21:29:29 | 小説
 「真夜中の復讐」のラストでローレンとジャッコの前に重傷を負って現れ「助けて、オビ=ワン・ケノービ。あなただけが頼りなの」と言って意識を失ったローレンの命の恩人「フェリシティ」と、ジャッコの同僚の元アメリカ海軍特殊部隊(SEAL)の衛生兵でかつて深手を負い骨の相当部分が金属で置き換えられている「メタル」が、惚れあい、爛れた関係を持ちながら、メタルが勤務先の警備会社ASIのメンバーの協力を得て、フェリシティを狙う敵と戦うアクション官能小説。
 基本的に、前作「真夜中の復讐」のジャッコとローレンをメタルとフェリシティに置き換え、女性の境遇の設定を変え、敵をスケールアップしたもので、おおむね同じテイストの作品だと思います。


原題:MIDNIGHT PROMISES
リサ・マリー・ライス 訳:上中京
扶桑社ロマンス(文庫) 2016年1月10日発行(原書は2015年)
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真夜中の復讐

2017-02-05 21:10:28 | 小説
 アメリカ海軍特殊部隊(SEAL)隊員だったメンバーが設立運営している警備会社ASI(アルファ・セキュリティ・インタナショナル)の幹部社員ジャッコが、ASIの社長の妻であるインテリア・デザイナーのスザンヌがお気に入りにしている画家ローレン・デアに一目惚れし、欲情し、ローレンが人目に付くことを避け続ける原因となっている過去を探り、ローレンを付け狙う悪役と戦うという、アクション官能小説。
 肉体派で下半身が先行するマッチョ男が、美貌のインテリ女性に一目惚れし、高嶺の花と思われたが、執念深い敵に追われ逃げ続け他人(男)と深い関係を持てなかった事情もあり、相手も憎からず思い、思いを遂げるという、ガテン系男性読者の憧れ/妄想を満足させる作品というべきか、深窓の令嬢系の女性が逞しい男と肉体関係を結び、守ってもらいたい願望と性的満足/恍惚感を得るという女性読者のお姫様的願望を満足させる作品というべきか…
 ローレンの知的水準の高さを強調し、ジャッコがローレンを尊重する前半は、フェミニズム色も意識したかと思えましたが、終盤でローレンの致命的ともいえる判断ミスを設定しているあたり、知的な女性も結局は十分な判断力を持たないと言っているようで、基本は男性読者向けかなと思えました。時にはミスを犯す私をそれでもきっちり守ってくれる頼れる男性、への願望を満たすという意味で女性読者を狙っているのかもしれませんが。


原題:MIDNIGHT VENGEANCE
リサ・マリー・ライス 訳:上中京
扶桑社ロマンス(文庫) 2015年10月10日発行(原書は2014年)
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おいしいは正義

2017-01-26 23:12:34 | 小説
 3代続いた警察一家に生まれ、刑事となったが過去の事情で交通課勤務となっているいちご大福に欲情する/いちご大福にしか欲情しない倒錯性癖を持つ警察官杉元新一が、幼馴染の刑事三國健次郎に頼まれて通り魔事件の捜査の手伝いをするうちに、被害の第一発見者のさすらいの/ホームレスフードジャーナリスト松樹いたるの好奇心と知識・人脈に絡めとられながら、事件の真相解明に突き進むミステリー仕立ての恋愛小説。
 主人公は、パソコンが得意という設定ながら、ミステリーではおなじみのハッカーではなく、パソコンのスキルはふつうレベル(パソコンが普及してから生まれてきた今どきの若者は、むしろスマホの普及でふつうのパソコンは使えない人が増えているようなので、今どきの若者のレベルからは「パソコンが得意」なのかもしれませんが)。なぜか幼馴染の健次郎にまで異様に丁寧な言葉遣い、いちご大福に欲情することもあわせ、読んでいて今ひとつ主人公の視点に入りにくい(後半でそういうふうになった事情も説明されてはいるのですが)。
 ミステリーとしては、ちょっと飛んで外れた挙句に最後は予想されたところに帰り、中盤でそういう外し方をせずにうまく回り込んで最後は別のところへ持って行ってもらう方がいいんだけどなぁと感じました。好みの問題かとは思いますが。
 基本は、ちょっと外れた2人の恋愛ライトノベルと位置付けて読むべき作品だと思います。


松田未完 SKYHIGH文庫 2016年10月25日発行
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僕らのごはんは明日で待ってる

2017-01-15 20:39:22 | 小説
 仲のよかった兄が病死し殻にこもりたそがれている男子高校生葉山亮太が、体育祭で勝手に割り当てられた米袋ジャンプでコンビを組んだことを契機に同級生の体育委員上村小春から告白されて交際を始め、大学進学の意思がなかった葉山は上村が受験する女子大に一番近い大学を受けて入学し、人がすることを気にしない葉山は心が広いと誤解されて学内では「イエス」と呼ばれて人気者になり、上村と癖のある会話を交わしながら順調に交際を続けるが、2年たったところで上村から特に理由もなく別れようと言われ…という青春恋愛小説。
 葉山のいい加減さと上村の気まぐれ/ひねくれぶり、その組み合わせの会話で読ませている感じです。「米袋が明日を開く」「水をためれば何かがわかる」「僕が破れるいくつかのこと」の3話がストーリーとしても連続しているのに、最後の「僕らのごはんは明日で待ってる」が話が飛んで、名前の表記も「上村」から「小春」になっています。執筆の時期がずれているのかと思いましたが、初出は季刊誌「GINGER L.」(ジンジャーエール。だそうだ)の1、2、4、5号で連続しています。飛んだところは気(構想)が変わったのか、書けなかったのか。青春恋愛小説としては、その間を書いてほしいと思うのがふつうの読者じゃないかと思うんですが。
 ジャニーズのアイドルグループ Hey!Say!JUMP のタレント主演で映画化され、それが2017年1月7日封切で、その前日の朝日新聞夕刊の映画欄で主演女優のインタビュー記事があって、それを見てからその原作を図書館でネット予約したら、なんと予約待ちなしですぐ来てしまいました。いや、現在公開中の映画の原作本って予約数十人(数百人のときも)で数か月待ちがふつうでしょ。この映画の主要な観客層の若年層は公立図書館で本なんて借りない?それ以前に本なんて読まない?


瀬尾まいこ 幻冬舎文庫 2016年2月25日発行(単行本は2012年4月)
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手のひらの音符

2017-01-14 01:07:53 | 小説
 地道に質の良い商品を作るという方針を貫く服飾会社に勤める45歳独身のデザイナー瀬尾水樹が、上司から自社の半年後の服飾業からの撤退を知らされ、将来を憂いているとき、中学高校の同級生堂林憲吾から自らの才能を見出して専門学校への進学を勧めてくれた恩師の美術教師の入院を知らせる電話があり、故郷の京都に見舞いに行き、堂林から京都の職人のネットワークで伝統技術を生かした洋服を作り産業の再生につなげたいという構想を聞かされ、非現実性を感じつつ惹かれるという「現在」と、行方不明の幼馴染森嶋信也との悲喜こもごもの「過去」の回想を組み合わせつつ展開する中高年青春ノスタルジー小説。
 貧しさの中で、困った人や病気の家族を抱え、懸命に働き家族を支えて生きる者たちの悲しさ、苦しさとささやかな喜びが描かれ、読んでいて楽しくはないけれども、庶民の弁護士としては好感を持ちます。
 過去の回想、かつての、30年近く前の思いが、心の支えとなり、現在の苦境の打開策につながるという展開は、現実の世界では、幻想への逃避につながりかねないものですが、大人のファンタジーとして、そういうのもありかなと思います。


藤岡陽子 新潮文庫 2016年9月1日発行(単行本は2014年1月)
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スイム!スイム!スイム!

2017-01-13 23:28:25 | 小説
 アテネオリンピック、北京オリンピックで水泳の100m、200mの金メダリスト、北京のインタビューでの「コトバにできない」(≒何にも言えねえ)が流行語大賞という、北島康介がモデルとしか考えられない「本作品はフィクションです」「人物の設定等は作者によるものであることを申し添える」(末尾)お調子者のビッグマウス「西山大輔」が、ロンドンオリンピックの予選落ち後「全日本水泳協会」の引退勧告を蹴って切り捨てられ、世界選手権の日本代表選抜でも敗れ、リオデジャネイロオリンピックに出場するために、新たな種目となる「混合メドレー」に水泳界のはぐれ者を集めて全日本代表チームに挑むというスポーツエンタメ小説。
 はぐれ者チームでエリートチームに挑むというエンタメの王道(よくある設定とも)、練習には勤勉(でないと金メダルなんて無理)だがわがままでお調子者でハチャメチャな主人公のキャラ設定、話をつなげる/広げるために新たなキャラを開拓しつつもほぼ最初に予想された選手選考、こういうテーマならまぁこうなるだろうという予想できるストーリー展開、なんですが、それだからこそ安心して読めるというところが、この作品のよさなのかなと、思います。
 やたらとスポーツ根性ものの話が出てきて、「あしたのジョー」が意識されている、もしやと思って、著者の年齢を見ると、私と1つ違いの同年代。やっぱりそうだったのね。


五十嵐貴久 双葉社 2016年5月22日発行
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神酒クリニックで乾杯を

2017-01-10 23:40:19 | 小説
 当直中に泥酔して患者を死なせたと報じられて職を失った若手外科医九十九勝己が、絶対治療したことを知られたくないVIPの手術をする秘密のクリニック「神酒クリニック」に就職し、腕は一流だが問題を抱え社会に居場所がない癖のあるメンバーたちとともに事件に巻き込まれ活躍するミステリー小説。
 外科手術の腕は超一流で格闘能力に長け冒険好きの院長神酒章一郎、美貌と巨乳とセクシーさで男を翻弄し声帯模写が得意な元劇団員の産婦人科・小児科医夕月ゆかり、顔面の表情筋の微細な動きから人の心を読み取る精神科医天久翼、目にしたものは一瞬ですべて記憶する手先の器用なうつの内科医・麻酔医黒宮智人、天然ボケキャラながらハンドルを握ると人が変わるスピード狂の看護師一ノ瀬真美、と個性的なキャラをそろえ、いずれも過去を持ちその過去はこの作品の段階では謎という設定で、最初からシリーズ化が想定されています。
 登場人物の能力やキャラ設定は現実離れしていますが、浮世離れした性格がコミカルに扱え、夕月ゆかりのお色気と一ノ瀬真美の天然ぶりがたぶん男性読者には心地よく、ストーリー展開、謎解きも小気味よく、読み物としてはいい線を行っていると思います。


知念実希人 角川文庫 2015年10月25日発行
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ハルコナ

2016-11-30 22:16:41 | 小説
 花粉耐性がなく防護服暮らしを強いられるが周囲の花粉を消滅させる特異体質の「対抗花粉体質者」と対抗花粉体質者を保護管理する「公共改善機構」、防護服で歩行する対抗花粉体質者を介助するサポーター、対抗花粉体質者と公共改善機構を嫌悪する環境保護団体などが存在する世界を描くSF的青春小説。
 一種のSFで、その原因が全く説明もされないのですが、その空想的な部分が、周囲の花粉を消滅させ、それで花粉症患者は楽になるというレベルの特殊能力で、設定自体がしょぼい。このしょぼい設定に、「公共改善機構」などという大仰な組織を登場/君臨させているのは、役所/行政機構への皮肉なりパロディなのかと思いますが、徹底して環境保護団体を敵視/危険視/戯画化/揶揄している姿勢が作者のスタンスをより表しているように見え、体制内のぼやけた世界観の中での最後は話者/主人公の藤呼遠夜の隣人の対抗花粉体質者花園晴子への身の回り数メートルの世界の思いに集約されてしまう物語だと思います。
 裏表紙の「世界を敵に回してもハルコを守りたい」に惹かれて読んでしまったのですが、SFにするならせめてもう少し大きな物語を構築して欲しかったなと思いました。「世界を敵に回しても」は、仕事がら気になってしまうフレーズです。弁護士にとっては、「世界を敵に回しても」は、理念的にはいざとなれば背負わねばならないスローガンですが、その場合述語は「守らなければならない」か「のために闘わなければならない」で、義務的な悲壮感に満ちたイメージです。「守りたい」という心情でこの言葉が使えるならば、幸せなのですけれども…


秋田禎信 新潮文庫 2016年7月1日発行
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