伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ジュゴンの上手なつかまえ方

2014-09-30 20:28:03 | 自然科学・工学系
 著者によれば「そのことを研究しているのは世界中でも私しかいない」(2ページ)というジュゴンの鳴き声研究のため、定置水中録音(受動的音響観察)の試行錯誤と、定置水中録音ではどのジュゴンが鳴いているのかわからない(どのような属性を持つ個体がどういうときに鳴いているのかわからない)という問題を解決しようと個体に観測機材を装着してバイオロギング(行動追跡研究)を行う目的で個体の発見・追跡・捕獲をする過程を説明した本。
 小型船で呼吸のために浮かび上がるジュゴンに近づき、3回目(以降)の呼吸のタイミングを狙って2人の捕獲係が尾びれに飛びつき2人の保持係が前肢を捕まえるという「ロデオ法」による捕獲が描写され、それなりの迫力が感じられます。大きくておとなしいジュゴンならではの研究方法といえます。
 全般に著者の研究対象の鳴き声研究の成果はあまり説明されず、研究の経緯やフィールドワークの苦労話が中心の本です。鳴き声は、ピヨピヨピヨという短い鳴き声(チャープ)の後にピーヨ等の長い鳴き声(トリル)が続く形態が多いそうで、著者は最初の短い鳴き声の繰り返しが発生個体への注意を集めその後の長い鳴き声で何かを伝達しているのではないかと推測しています。鳴き声の1例は、著者のサイトで公開されて聞くことができます(こちら)。
 名護市嘉陽周辺(要するに辺野古の米軍基地建設予定地)に住みつく雄のジュゴンとその対とも見られる雌のジュゴンと子のジュゴンについての研究も紹介されています(15~20ページ)。スーダンでの研究に際してジュゴン保護のために漁業を禁止すべきかについては、「私はまだ答えられない。いつか答えられる日が来るとも思わない」(112ページ)という著者は、「私たち研究者にできるのはジュゴンの生態を調べることだけだ。むしろそれ以上はする権利がないとも思う」(109ページ)と述べ、辺野古のジュゴンについては黙しています。
 そういう政治的な部分は避けてジュゴンのユーモラスな様子と研究者の愚痴交じりの世間話を楽しめる人の暇つぶしにはむいているかなと思います。


市川光太郎 岩波科学ライブラリー 2014年8月26日発行

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