伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

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クスリを飲まずに、血圧を下げる方法

2017-11-14 01:12:31 | 実用書・ビジネス書
 患者が勝手な判断で薬をやめてはいけない、あくまでも医師と相談しながら薬を減らせという前提の下で、減塩と運動で高血圧を改善しようと論じる本。
 血圧についても、減塩についても、一般に言われているよりも厳しいライン(高い目標)を要求していて、著者の言うとおりにしたり、それで医者の手から逃れるのは厳しい印象です。人間ドック学会が高血圧の判断基準値を上げた(高血圧と評価される人を減らした)のを厳しく批判し(114~115ページ)、第5章(102ページ~)では、高血圧の恐ろしさをこれでもかこれでもかと書き立てています。医学界の基準ではたいていの人が何か不健康な要素を抱えている(医者に行けって言われている)ように思えてしまいますが、それがより高じた感じです。「私にいわせれば、血圧を測らない人は『人生を捨てているようなもの』です」(30ページ)って、そこまで言うか?
 生活習慣で、正座が血圧を上げる、和式便所も同じ(78~81ページ)というのは、意外でした。「ご自宅のリフォームを考えるなら、まずトイレを洋式にしましょう」(81ページ)って、医者に言われるか・・・ふくらはぎは下肢の静脈を圧迫してポンプのように血液を心臓に送り出す役割を持っているのでふくらはぎを刺激すると血圧を下げることができるそうです(97~99ページ)。そういうところは、へ~って感心しましたが。


渡辺尚彦 健康人新書(廣済堂出版) 2016年4月27日発行
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講座労働法の再生3 労働条件論の課題

2017-11-12 20:15:53 | 人文・社会科学系
 日本労働法学会が労働法学の理論的到達点を示すとして出版した「講座」シリーズ(「労働法講座」1956~1959年、「新労働法講座」1966~1967年、「現代労働法講座」1980~1985年、「講座21世紀の労働法」2000年)の第5弾「講座労働法の再生」の第3巻。「賃金」「労働時間」「労災」の3分野13本の論文で構成されています。
 学者の分担執筆で、それぞれの関心に応じて、専ら政策論・立法論を語るもの、裁判例を分析して実務の現状を語るもの、その論や裁判例のリサーチ・分析の精度も様々です。
 どちらかというと学者さんが書いたもの、それも分担執筆のものは弁護士の実務にあまり役立たないし、読み物としても今ひとつと思って避けてきたのですが、現在、私が最終編集責任者の第二東京弁護士会労働問題委員会編の「労働事件ハンドブック」の3年ぶりの全面改訂作業中なので、新しい本でもあり視点を変えてヒントを得ようと読んでみましたところ、特に第4章の「企業年金」と第8章の「多元的な労働時間規制」(変形労働時間制等)で、私自身が現実の裁判では経験していない問題について多数の裁判例がありそれが分析・整理されていて、刺激になりました(ハンドブックの編集で参考にさせてもらいました)。
 学者さんの論文も、あまり食わず嫌いしないで読もうかなと、思えました。まぁ業界人以外にはハードルが高いかなと思いますが。


日本労働法学会編 日本評論社 2017年6月10日発行
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貧困のハローワーク

2017-11-07 07:31:12 | ノンフィクション
 各種の非正規労働者やブラック企業の正社員、フリーター、ホームレス、生活保護受給者16名と著者の短期アルバイト経験を合わせ、現代日本のワーキングプアと無職者の生活状況をレポートした本。
 安倍政権のいう「求人増」が、不安定・肉体労働の求人増と正社員・事務系の求人はほとんどなくあっても中高年の就職は無理という実情が、悲しいほどわかります。
 使用者側がひどい労働条件を押しつけ労働者を使い捨て状態で酷使している現状に慄然とします。今よりもさらに使用者側がやり放題にすることができる法改正の提案が目白押しで、それを推進する政党の国会議員が衆議院で8割を占めている現状が、いかに恐ろしいことかを改めて感じます。
 「風俗があったからわたしも子どもも生き延びてこられたのは事実ですよ」(35ページ)、労働基準法無視、暴力も頻繁の風俗業界(男性)についても「こういう仕事で助けられたという人が多いのは事実だ」(127ページ)、ホームレスを囲い込んで生活保護を受給させ保護費の大半をむしり取る貧困ビジネスについて「こうした業者がホームレスの人たちの生活改善につながっているという側面も否定できない」(203ページ)などというのは、この国のセーフティネットの欠落・欠陥、まさしく政治・社会保障の貧困を痛感させるところですが、そういう主張を含む本ではないようです。
 この本の中で、借金を抱えた人の話が出ると、「頼ったのは法テラスで、そこで自己破産と免責の申し立てをするように指導された。そうは言っても費用が掛かる。40万円と言われましたね。(略)大学時代の友人のお兄さんが弁護士だった(略)分割で引き受けてくれまして」(43ページ)って・・・いや、「遊興費や賭け事で作った借金ではない」(43ページ)で資産がなかったら破産手続は同時廃止手続で済み費用は裁判所に納める官報公告費が1万0584円と法テラス利用の場合弁護士費用(官報公告費以外の実費込み)が15万2600円(借りた相手がとても多いときは増額になりますがこの人は債権者6社(42ページ)なのでこの金額)を(法テラス利用なら弁護士がだれであっても)月5000円~1万円の分割払いなんですけど。それから申立から自己破産の決定と免責の許可が出るのは4~6か月後(43ページ)とされていますけど、この人の現住所は東京都練馬区(36ページ)ですから管轄は東京地裁で、東京地裁では同時廃止の事件の破産手続開始決定は申し立てたその日、免責決定は2か月後ですけど。「遊興費や賭け事で作った借金」だったり20万円以上の資産があったりして破産管財人がつく手続なら、管財人への「引継予納金」20万円が追加になり、その引継予納金が一括納付できないときは債権者集会や免責決定が4か月後になりますが。そういう情報は、きちんと調べて正確に書いて欲しいなぁと思います。こういうのを読んで自己破産も無理って誤解してさらに悲惨な状況に陥る人が出ないために。


増田明利 彩図社 2016年10月12日発行
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口述労働組合法入門

2017-11-05 23:12:19 | 実用書・ビジネス書
 日本鋼管(現JFEスチール)の労務担当としてもっぱら会社の利益を代表して労働組合と対応し、特定社会保険労務士となっている著者が、使用者側の立場で労働組合法について解説した本。
 労働組合法の解説に関しては多くの部分ではオーソドックスな説明ですし、紹介している判例も一般によく知られているものを使用者側に不利なものも紹介してバランスを取っています(労働組合に加入していない/除名されたとか脱退した労働者を会社は解雇するという「ユニオン・ショップ協定」が別の労働組合に加入した者や自ら新たな労働組合を結成した者に対して解雇義務を定める部分は無効とした判例として三井倉庫港運事件・最高裁1989年12月14日第一小法廷判決を紹介している(69~70頁)こと自体は、オーソドックスなものですが、著者の立場を考えると、その7日後に最高裁が同じ判断を示した日本鋼管事件の判決に触れないのはどうかなと思いますけど。労使協調の第一組合と方針が違うとして総評系の組合に移籍した労働者を日本鋼管が労使協調の労働組合とのユニオン・ショップ協定を理由に解雇したが、それが無効とされたという事件には触れたくないということなんでしょうね)。
 しかし、説明の中でも、また挟まれている「労務屋の横道」というコラムでも、度々戦闘的な労働組合を批判し、労働者のためにもならないとこき下ろし、労使協調の労働組合を高く評価している下りが目につきます。著者は、労使協調路線の労働組合との対応の経験で、「労働組合のことを思って労働組合の役員の方に諸々アドバイス」してきたが「専ら、よりよき労働組合になってもらいたい、立派な労働組合の役員になってもらいたいという気持ちから」で「組合を誹謗中傷する意思も組合弱体化を意図したことも一切ありません」として、「皆さん、こういう労使関係は労働組合法違反でしょうか?」と問いかけています(250ページ)。経営者側は、いつもそう言うんですよね。著者はそのすぐ前に、「家族経営でうまくいっている」と考えるワンマン経営者について「でも、そのように思われているのは、社長さん、あなただけではないですかといいたくなることもあります」と釘を刺している(243ページ)のですけど、人間、自分のことは見えなくなるものですね。
 労働法の体系上、多数派労働組合と労働協約を締結すればそれによって労働条件を切り下げることができます。その労働組合が労働者の4分の3以上を組織していれば、非組合員に対してもその労働条件切り下げが適用できます。使用者からすれば労使協調の闘わない労働組合を育成し手名付けることができれば、労働条件の切り下げもやり放題です。労働者にとっては使用者の言いなりになる労働組合はむしろ敵とさえ言えます。近年、使用者側で、労働法のこういった点を利用し、使用者に対して、労働組合を敵視するのではなく、うまく利用しようと呼びかけるものが増えています。この本もそういう立場から書かれています。著者が度々労使自治の尊重をいうのも、労使協調路線の労働組合が権利を放棄して使用者にすり寄るのを規制して無効というのはけしからんということに尽きます。
 「はじめに」で「労働組合頑張れとエールを送りたい」(2ページ)などと、労務屋に見くびられていることが、この国の労使関係の現状をよく反映していると言えるでしょう。


小西義博 公益財団法人日本生産性本部生産性労働情報センター 2017年5月31日発行
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リアリズム・チャレンジ 紙切れ1枚からはじめる写実への挑戦

2017-10-25 02:04:40 | 趣味の本・暇つぶし本
 折り目としわのある紙、2つに切ったマッシュルーム、ちぎったトランプを精密に描写するコマ抜き動画をYouTubeにアップして話題になったイラストレーターが、6つのテーマ(陰影を描き分ける、色を加える、複雑な表面、透明な物、金属の表面、工業製品)合計30点の写実画を描き、その過程を解説した本。
 著者は、すべて透明水彩絵の具と色鉛筆、ガッシュ(不透明水彩絵の具)の白で写実画を描き、原則として、鉛筆で輪郭を精密に描いて、透明水彩絵の具でベースカラーを塗り、薄く明るい色から少しずつ濃く暗い色へと水彩絵の具・筆で可能な範囲を描き込み、細部は色鉛筆で描き込んで行き、最後にガッシュの白でハイライト(最も明るい部分、光っている部分)を入れるという手順を取っています。その過程を見せながら、水彩絵の具では薄めて塗り乾かすと自動的に輪郭が濃く描かれることや、影とハイライトで絵のリアリティが劇的に変化することを実感させています。
 透明なものや光るものの描かれる過程を見ていると、自分もやってみたいなぁという気持ちが生まれますが、しかしものすごく根気のいる作業だろうなぁとも思います。いつかたっぷり時間ができたら・・・と思うと、いつまでもできないんですよね (^^;)
 著者の作品のほとんどで、対象物はかなり写真に近く仕上がっているのに、影は「面」にし切らずに「線」を残しています。たぶん、やろうと思えば、写真とほぼ同じ「面」の影にできるのでしょうけれど、そうしてしまうと写真と変わらなくなってしまうので、あえて影を完全にしないことで、これは絵なんだとわからせようとしているのでしょうね。


原題:The Realism Challenge Drawing and Painting Secrets from a Modern Master of Hyperrealism
マーク・クリリー 訳:森屋利夫
マール社 2017年7月20日発行 (原書は2015年)
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そういう生き物

2017-10-24 23:57:32 | 小説
 学生の時に所属していた研究室の元教授の下に通う今は薬剤師の原田千景と、勤め先の叔母が経営するスナックで千景と再会して千景の部屋に転がり込んだ高校の時の同級生まゆ子を中心に、元教授の孫の小学生や千景の同僚、元同級生らが絡んでいく小説。
 千景の、一方であっけらかんとした性行動とセックス観と、他方で元教授に寄せる想いと諦め/少し冷めた目線、軽やかさと引きずった白けぶりが作品の基調をなしています。大上段に構えずに、性同一性障害を含めた様々な性のあり方にふわっとした優しいエールを送る作品です。そういうところ、読み味というか、読後感がいいです。


春見朔子 集英社 2017年2月10日発行
すばる文学賞受賞作
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労働基準監督署の仕事を知れば社会保険労務士の業務の幅が広がります!

2017-10-22 18:45:52 | 実用書・ビジネス書
 元労働基準監督署長で、現在は退官してコンサルタントの著者が、社会保険労務士向けに労働基準監督署の業務の実情を解説する本。
 労働基準監督署は、労働基準法違反や労働安全衛生法違反をしている使用者に対して、違反を調査して指摘し、是正を指導・勧告するという権限と職責を持っています。私のような労働者側の弁護士の立場からすれば、労働者の権利を守るための重要な存在で、特に弁護士費用をかけたくない労働者、裁判を行いたくない労働者には、もちろん労働基準法違反があるケースについてですが(したがって、解雇等の相談は無理)、労基署に相談・違反申告することを勧めることもままあります。
 しかし、この本を読んでいると、労働者の権利を守るという姿勢からはずいぶんと遠い様子に驚きます。労基署から「長時間労働の抑制・過重労働による健康障害防止の自主点検結果報告書」の提出を求められた事業主に対する社会保険労務士の対応として、回答しないと立ち入り検査が入ることも多いから報告書は出した方がいいというのはいいですが、法違反があるときの回答内容については「あまりにも違反の程度がひどい場合には、多少粉飾するという考え方もあるね。」と、虚偽回答を勧めています(19ページ)。労働者が交通事故を起こして会社が損害を受け労働者が退職する場合にそのまま退職することを許す事業主はまれであり弁償するまで残りの賃金を支払わないからなとなることもある、「もちろんこれも労働基準法違反ですが、弁償の話を棚上げして労働基準法違反を説いても、事業主は納得しないでしょう」(62ページ)って・・・交通事故のような場合、そもそも労働者への損害賠償自体制限的に見る裁判例が多いですし、会社が損害賠償請求できる場合でも賃金から差し引くことは労働基準法24条違反です。使用者の明確な労働基準法違反を、使用者を責めずに労働者が悪いと言わんばかりの対応を容認する本を労働基準監督署長だった人物が書いているのは、それこそが到底納得できません。さらにこの著者は、経営者が賃金を支払わないときは経営不振でもない限り労働者に何らかの非難すべき事情があることが少なくない、このような事情を丹念に聞き出そうとしない職員は信用できません(62ページ)、「『どうしてクビになったのですか?』と聞くと、『わからない』と答える労働者がいます。こうした態度は、筆者の経験では『私が会社に対して悪いことをしでかしてしまいました』と同じ意味です」(65ページ)と、基本的に労働者は悪いやつだという先入観を持って労働基準監督行政を行ってきたことを露わにしています。こういう人が労働基準監督署長だったというのを知ると、労働基準監督署に期待をすることはできなくなります。また、労働者が資格を取ったり留学するための費用を会社が出したとき、労働者がすぐにやめたらその費用を返せと会社が言うことがありますが、それは違約金の定めまたは損害賠償額の予定として労働基準法16条違反となる可能性があります。現に裁判でそう判断された例があります。会社側はそれを回避するために、留学費用や資格取得費用を会社が負担するのではなく貸し付けたことにするという姑息なやり方をするようになってきていますが、労基署がそういうやり方をするように指導しているというのです(71ページ、117ページ)。労基署は労働者の権利を守って会社の労働基準法違反を指摘するのではなく、会社の利益を守るためにまるで会社の顧問弁護士のように労働基準法をすり抜ける道を指導しているということでしょうか。


村木宏吉 日本法令 2017年3月20日発行
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祖母の手帖

2017-10-15 18:14:27 | 小説
 熱烈に思いを寄せた相手とは続かず、娘の奔放さを不安に思いさらには一族の恥と呪う母親から戦災で疎開してきた男と結婚するよう無理強いされ、愛のない結婚生活を続ける主人公が、流産の末その原因が腎臓結石と診断されて医師のすすめで温泉療法を行い、その逗留先でやはり結石を持つ片足が義足の妻子ある帰還兵と知り合い、惹かれてゆくという官能恋愛小説。
 主人公と夫の夫婦関係が、スタート時点で主人公が「わたしはあなたを愛していないし、ほんとうの妻には決してなれないだろう」と言い、夫も「心配はいらない」と答えた、彼の方も彼女を愛してはいなかったのだ(10ページ)と描かれ、新婚1年目に主人公がマラリアにかかり夫が献身的に看病をした(11~12ページ)が、二人は同じベッドで離れて寝て触れあうこともなかった(13~14ページ)ところ、ある夜主人公が夫に売春宿に通うのはやめるように言い自分が売春宿の女と同じサービスをすると言い出し(22~23ページ)それからは肉体関係を結びながら、「祖母は、愛というのはなんておかしなものなんだろう、といつも思った。愛は、ベッドをともにしても、優しくしたりよい行いをしたりしても、生まれないときには決して生まれない。一番大切なものなのに、どんなことをしても呼び寄せることができないなんて、ほんとうにおかしなものだと思った。」(25~26ページ)と設定され描かれています。そのサービスのリストには女体盛りとか犬のまねとかノーパン喫茶のメイドのような屈辱的なものがあり(それでも主人公は帰還兵にそれを「誇らしげに」挙げたというのですが:60ページ)、夫に「もう売春宿に行く必要がなくなったわけですが、わたしのことを愛していますか」と聞いたが夫は主人公の方を見ずに一人で微笑みらしきものを浮かべ、彼女のお尻を平手で軽くたたいただけで質問にはまったく答える素振りも見せなかった(63~64ページ)という状態で、その夫婦関係に満足できない主人公の焦燥感、愛への渇望感が、ポイントになっています。
 語り手は、主人公の息子の娘という設定で、当然知らないはずの主人公の若かりし頃の話を、伝聞形ではなく直接見たように語り、読んでいてわかりにくいというか違和感があります。回想の形もなく時期は行きつ戻りつし、しかも後半ではときどき語り手がいつの間にか主人公の妹になっていたりする(同じ章の連続するパラグラフで、主人公を「祖母」と呼んでいたのがその次のパラグラフでは何の断りもなく主人公を「姉」と呼んでいたりします)のも混乱を招きます。


原題:Mal di pietre
ミレーナ・アグス 訳:中嶋浩郞
新潮社(クレストブックス) 2012年11月30日発行 (原書は2006年)
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恋の法廷式

2017-10-10 00:57:16 | エッセイ
 著者が傍聴した刑事裁判の中から、恋愛が絡む事件での検察官、弁護人、被告人の様子を採り上げたエッセイ集。
 私も娘が一度行きたいというので、東京地裁で一日、法廷傍聴をしたことがありますが、自分に利害関係がない事件というのは気楽に見ていられるし岡目八目で弁護士の法廷活動が第三者からどう見えるのか(見える人にはどれくらいあらが見えるか)わかって興味深い反面、事件そのものにそれほど興味が持てずに下手な尋問が続くと眠くなるものです。私が行ったとき準強姦の事件で被告人質問があって、1時間ほどの間に、これまでの人生で経験したことがないほどの頻度で「セックス」という単語が女性検事の口から出続けて赤面しました。ものを書くためとはいえ、その種の事件の傍聴を続ける著者の熱意には、頭が下がると言いますか・・・
 内縁の妻は見捨てないという項目、「夫が罪を犯したとき、妻は離婚するか否かを考えるが、そこには世間体が絡んできやすい。」「内縁の妻の多くはそれがない。判断の基準は、刑務所にいる間、寂しさに耐えて待つに値する愛の深さがあるかどうかである。」(85~86ページ)。至言かも。そして逮捕されたあと、これまで身近にいたけれど恋愛関係になかった人が毎日面会に来てくれて愛が芽生え結婚の約束をしたというケース(256~259ページ)。こういうところ、微笑ましいと思う。もちろん、犯罪を犯した後の人生、そんなに甘いもんじゃないと思うけれど。この本で取り扱っている事件の被告人の大部分の行動や主張が、身勝手で一方的な思い込み、一般人にはとても理解できない勝手な論理に満ちているのですが、そういう微笑ましいケースもあるのが、ちょっとホッとします。


北尾トロ 朝日文庫 2017年8月30日発行
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親権と子ども

2017-10-08 22:26:59 | 実用書・ビジネス書
 親権の内容と性質、離婚の際の親権者の決定、監護権者の指定、養育費、面会交流、虐待と親権(親権の停止、喪失)について解説した本。
 親権は、権利とされていますが、2011年改正で「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」とされたように、子どもの養育される権利がその本質で、親にとっては子に対する義務の側面が強く、子の監護や教育に対して不当に介入する者(国や社会)に対して介入を拒む(排除する)権利という点で権利性を有するものです。
 離婚の際の親権者の決定や監護権者の指定、面会交流等では、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされています。少子化を反映して親権や面会交流が争われるケースが増えていますが、親権者が母親となるケースは今なお増え続けていて2015年には母親が親権者となった割合は84.3%に及んでいます(78~79ページ)。無原則な「母親優先」に批判がなされ、父親が親権を求めて争うケースが増えている中で、母親が親権者となる割合が増え続けているのはややショッキングでもあります。
 親権と虐待についての第3章は、虐待を繰り返す父母に対して児童相談所が子どもを保護し里親に委託する事例を紹介しています。このあたり、自戒を込めてではありますが、確かにここで挙げられているケースを読めば、虐待に心が痛みこのような親から子を保護するのは当然だと思いますが、現実の事件では「客観的事実」が明確とは言えず、行政側がそう認定したといってもそれがどこまで確実なのか、権力の行使を無批判に賞賛していてよいのかが問われます。弁護士の中でも、民事介入暴力(暴力団対策)や犯罪被害者の権利、女性の権利(両性の平等)、子どもの権利等の領域では、警察の取り締まりの強化を求める意見が強く優勢になりがちで、簡単にそう言っていいのかと思う場面が多々あります。虐待を放置してよいということにはもちろんならないのですが、弁護士として、悩ましいところです。


榊原富士子、池田清貴 岩波新書 2017年6月20日発行
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