雨が降ってきたので蝉様は動揺してベランダの下に移動
わたくしも洗濯物を取り込もうとベランダに突撃
と、わたくしのおまたをすり抜けわたくしの書斎に蝉様が
嵐避け光に突撃
「元より大泥坊の事でございますから、こう云う事には昔から、慣れ切っているのでございます。」
「極楽ももう午に近くなったのでございましょう。」
セミがあの有りったけの声をふりしぼるように鳴きさかっているのを見ると、獲るのも躊躇させられるほど大まじめで、鳴き終ると忽ちぱっと飛び立って、慌ててそこらの物にぶつかりながら場所をかえるや否や、寸暇も無いというように直ぐ又鳴きはじめる、あの一心不乱な恋のよびかけには同情せずにいられない。よびかける事に夢中になっていて呼びかける目的を忘れてしまったのではないかと思うほど鳴く事に憑かれている。実際私はセミが配偶者を得たところを見た事が無い。
――高村光太郎「蝉の美と造形」
そういう一途な恋の叫びで配偶者にも嫌われている輩が、わたくしの書斎に闖入するとは蝉様とて許せぬ。でもちょっと怖いから一緒に勉強することにした。