宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宙域散歩 バックナンバー目次

5622-12-31 | Traveller

 ロールプレイングゲーム『トラベラー』の、《第三帝国》の膨大な世界設定を紹介していくシリーズです。特段の断りがない限りは、これらの設定は全て帝国暦1105年時点のものとして記述しております。
 なお、文章には私の意訳・誤訳・誤解・曲解が過分に含まれ、推測による記述や、非公式設定をあえて取り込んだ部分もありますので、その点をあらかじめご理解いただいた上でご利用ください。
 Bon voyage!

第1回 268地域星域 概要編詳細編(スピンワード・マーチ宙域)
第2回 トリンズ・ヴェール星域(スピンワード・マーチ宙域)
第3回 モーラ~ルーニオン間(スピンワード・マーチ宙域)
第4回 グリッスン星域(スピンワード・マーチ宙域)
第5回 『Pirates of Drinax』特集1 ドリナックス王国(トロージャン・リーチ宙域)
第6回 『Pirates of Drinax』特集2 アウトリム・ヴォイド(トロージャン・リーチ宙域)
第7回 トビア星域(トロージャン・リーチ宙域)
第8回 ヴィラニ・メイン1 ヴォーダン星域(ヴランド宙域)
第9回 ヴィラニ・メイン2 アナルシ星域(ヴランド宙域)
第10回 ヴィラニ・メイン3 ヴランド(ヴランド宙域)
第11回 ヴィラニ・メイン4 シイグス・プリデン星域付近(ヴランド・リシュン宙域境界)
第12回 ヴィラニ・メイン5 グシェメグ宙域
第13回 パクト星域(ダグダシャアグ宙域)
第14回 シュドゥシャム(コア宙域)
第15回 キャピタル(コア宙域)
第16回 カムシイとレファレンス(コア宙域)
第17回 ソロマニ・リム宙域・概要編
第18回 リム・メイン1 ハーレクイン星域(ソロマニ・リム宙域)
第19回 リム・メイン2 ヴェガ自治区(ソロマニ・リム宙域)
第20回 テラ(ソロマニ・リム宙域)
第21回 ソル星域(ソロマニ・リム宙域)
第22回 リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺(ソロマニ・リム宙域)
第23回 リーヴァーズ・ディープ宙域 前編後編ライブラリ
第24回 カレドン星域(リーヴァーズ・ディープ宙域)

番外編1 SuSAG(メガコーポレーション解説)
番外編2 フローリア人とフローリア連盟(群小種族解説)
番外編3 ソロマニ・リム戦争概史
番外編4 仮死技術と二等寝台
番外編5 「人類」総まとめ

(※記載した情報は予告なく修正される場合があります)
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星の隣人たち(4) ソード・ワールズの歴史

2017-03-30 | Traveller
「これは私見だが、ソード・ワールズ住民との初接触の報告書を一言でまとめるならこうだ……『彼らはきっと厄介者となる』」
―― ブレンハイム・オート=ムボー卿(初代アンドゥリル駐在帝国大使)


 太古種族期のソード・ワールズ星域に人類がばら撒かれた痕跡はありません。しかし、この星域の多くの星々の太古種族期以前の地層からは生命の痕跡すら見つからないことから、太古種族が広く大規模な惑星改造を行って人類の移植に適した環境を創り出そうとしていた可能性は十分考えられます。
 太古種族の滅亡後の約30万年間、数少ない例外(※エクスカリバーの第3衛星には「わずか」2万年前の謎の遺跡が存在します)を除いて知的種族がこの星域で活動した記録はありません。やがて隣の星域のダリアン人が宇宙に乗り出すと、ソード・ワールズ星域の星々は彼らに探査され、-1270年から各地に科学研究や資源採掘の基地が建設されました。しかし-924年に巨大フレアによってダリアン文明が壊滅すると、これらの基地は放棄されました。中にはグングニル星系の製薬施設のように100年ほど生き延びたものもありましたが、やがて職員の子孫たちは死に絶えました。
 -800年頃のソード・ワールズ星域は、再び静まり返っていました。

 -400年代後半、ソロマニ・リム宙域にあったOEU(Old Earth Union, 古き良き地球連盟)は、牛飼座星団(Near Bootes Cluster)との軋轢や、体制派と革命派による内戦で内憂外患の状態にありました。-420年、体制派のソード級輸送艦グラムは4万人の兵士を乗せ、遠征軍の一艦艇としてテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)を離れました。この時乗せられていたのは、第8スカンジナビア陸戦軍団、アジッダ植民地連隊、ゲルマン猟兵3個大隊、その他工兵連隊などの支援部隊、という編成でした。遠征の目的はチェルノーゼム(同 1836)の攻略でしたが、惑星降下戦の最中に革命派の救援艦隊が到着し、数で不利となった遠征軍は重力井戸の内側で無謀なジャンプを試みました。そのほとんどは消息不明となりましたが、輸送艦グラムと6隻の駆逐艦や護衛艦のみがジャンプに成功しました。そして、惑星に取り残された第146海兵隊連隊などの降下部隊の運命は、また別の物語となります。
(※チェルノーゼムは牛飼座星団に属する星系なので、この戦いから牛飼座星団とOEU革命派が手を組んでいた側面が見えてきます)
 彼らはテラに帰投する途中で、体制派が内戦に敗れ、更にチェルノーゼム遠征軍の全員が戦争犯罪人として追われていることを知らされました。彼らは体制派の残党である軽巡洋艦ロバート・ザ・ブルースなどと合流しながら、包囲網の隙間を突いて逃げ延びました。

 敗残兵たちは、次に何をすべきかという問題に直面しました。従う祖国を失った結果、命令系統は不安定となり、偶発的事件によって陸軍と海軍の兵士たちの間には亀裂が生じ、集団全体が危機に瀕していました。いくつかの議論を経て、上級将校たちは自分たちがもはや軍隊ではなく「即興の植民船団」であると位置付けました。両軍の将校から構成された「グラム協議会(Gram Council)」の誕生です。
 協議会は、適切な惑星を見つけてそこに落ち着くことを決議し、物資の温存のために「新たな家」に到着するまで兵士たちを冷凍睡眠させました。斥候隊はマジャール宙域に入植先の候補を見つけてきましたが、革命派による残党刈りにいずれ発見される恐れから、人類圏から完全に離れることを決めました。

 とある小国家の首都ウー(マジャール宙域 0203)にて、彼らは小規模アスラン氏族フアオヘイリーユ(Faoheirlyu)の特使と連絡を取りました。フアオヘイリーユ氏族は当時、アロアイェイ氏族(Aroaye'i)に従属するワハトイ氏族(Wahtoi)の臣下でしたが、ワハトイが敵対氏族と戦争中のアロアイェイの支援に掛かりきりのため、フアオヘイリーユは独立氏族ロイフト(Roilhtyo)の略奪を抑えることができませんでした。グラム協議会はこの状況を利用し、フアオヘイリーユの傭兵となることで人類宇宙からの脱出を図ったのです。
 フアオヘイリーユは地上戦力を必要としていなかったので、護衛艦が戦っている間、兵士は冷凍寝台に横たわったままでした。その間協議会は、来るべき脱出の日に備えました。商船を雇い入れて密かにテラに潜入させ、船団の構成員の家族を呼び込みました。これらの「新人」はあらゆる年齢層のあらゆる職種に及び、特に協議会は健康で若い女性の確保に力を入れました。更に、1万人を冷凍寝台で運べる中古のアスラン植民船など、新植民地を築くための機材を購入しました(※その中にはウー産のミニファント(miniphant)の冷凍受精卵も含まれ、初期開拓で役畜として大いに活躍しました。役目を終えた今でもATV代わりに騎乗されることがあります)。幸いにも、これらの代金を支払うに十分なロイフト氏族の船を拿捕できたからです。
 アロアイェイが和睦するまで、グラム協議会はフアオヘイリーユを守り続けました。こうすることで、臣下を守ってやれなかったワハトイに「貸し」を作ったことになるのです。ワハトイは彼らに恩賞として土地を提供しようとしましたが(アスランなら最高の栄誉です)、協議会は代わりにアスラン領内の自由通行権を求めました。結果的にアロアイェイの助けを得て、それは実現されました。
 -404年中頃に彼らはアスラン領内に入り、様々な氏族との折衝や急襲などで数週間の停泊を度々強いられたり、大裂溝(Great Rift)の走破に1年を要したりしたものの、-401年末には当時のアスラン領のコアワード端、リフトスパン・リーチ宙域とトロージャン・リーチ宙域との境界付近に彼らは到達しました。

 しかし土地に対する執着心を考慮すると、アスラン領近辺も安住の地とはいえませんでした。なるべくアスランから離れようとした彼らは、やがてスピンワード・マーチ宙域にたどり着きました。そこで新天地となりうる世界を探査しましたが、候補こそ見つかったもののどれも理想的には見えませんでした。
 -400年の末頃、探査を続けつつ彼らは宙域座標1223へジャンプを行いましたが、何とか到着こそしたものの輸送艦グラムのジャンプドライブがとうとう破損してしまったのです。しかし、修復をしながらも護衛艦が星系内や近隣星系を探査すると、テラに似た環境を持つ世界が(不思議と)複数見つかりました。協議会は、もはや危険を冒してジャンプする必要を認めませんでした。
 -399年127日(西暦4122年8月22日)、彼らは船の名を取って「グラム」と名付けた惑星にようやく降り立ちました。そしてゲルマン神話で名剣グラムを振るった英雄にちなんで、主星をシグルズ(Sigurd)、伴星をシグムンド(Sigmund)としました。

 グラム協議会は、初期探査で隣の星域のダリアン人の存在に気付いていましたが、文明再建期にある彼らを助けるよりも、彼らから星々を「先取り」することを選びました。グラムからジョワユーズ、コラーダ、ティソーン、フルンティングに小さな植民地が次々と建設されていきました。
 それから協議会は、中央集権型の経済こそが発展に必要だとして全ての宇宙船と機材の国有化を宣言しました。建前上は民主主義と自由社会を唱えはしましたが、実質的にグラムは抑圧的な寡頭政治となりました。そしてこれらを正当化するために(本心かどうかはともかく)、周辺世界を植民地化して恒星間大国となることこそが、あらゆる敵から我ら「ソード・ワールズ人」を守る唯一の道だと人々に説きました。
 当時のグラムの入植者は20代~40代が多く占めていたため、人口は急速に成長しました。しかし入植者の多くが元軍人だったこともあって、男女比はやや男性に偏りがちでした。協議会は母体保護の観点から女性が危険な仕事を免除されることを認め、これが現在の男性上位社会の起源となりました。実際は入植初期では全てが危険な仕事だったので、女性も「男の仕事」を任うことが多かったのですが。

 入植開始直後、巡洋艦ロバート・ザ・ブルースはテラに残った家族と連絡を取り、可能であればグラムに呼び寄せるためにアスラン領に向かいました。この巡洋艦自体はテラから帰還中に消息を絶ちましたが、以後ワハトイ氏族の助けを借りてテラからソード・ワールズ星域に入植希望者が次々とやってきました。
 ちなみに、-200年頃にフアオヘイリーユ氏族がワハトイ氏族に反旗を翻したことで、ワハトイが背負っていたグラム協議会に対する「借り」も消滅し、テラとの繋がりも断ち切られました。

 住民の連帯と出産奨励によって、-300年にはグラムは40万以上、4植民地も3万ずつの人口を数えるほどになっていました。人口増加分の多くはデュランダル、ディルヌウィン、エクスカリバー、ホヴズ、サクノス、ティルヴィングの入植に振り向けられました。

 -292年、ゾダーン商人がグラムを訪れて交流が始まりましたが、決して密なものではありませんでした。ゾダーン領との距離の問題もありましたが、交流の加速によってゾダーン文化に自分たちが圧倒されるのではないかとグラム側が恐れたのもあります。
 -265年にはマイアのダリアン人探査船がティソーンを訪れています。この当時、グラムの人口は60万人、初期4植民地は20万人ずつ、6つの新植民地は計40万人(その多くはサクノス)になっていました。しかしマイアの人口はソード・ワールズ全体よりも多く、ゾダーン人と同様にダリアン人にも彼らは警戒心を抱いて交流はほとんど行われませんでした。とはいえ近隣星域に恒星間国家が存在するという事実は、彼らに軍備拡張を急がせました。

 -265年から-232年にかけてグラムの経済は、政府の中央統制に対して自由化を求めた政治運動によって混乱していました。新植民地は建設されませんでしたが、グラムからより住みやすい他星系への人口流出は続きました。特に経済成長著しかったサクノスへは多く移り住み、-232年にサクノス初の恒星間宇宙船が進宙した時には、ソード・ワールズ総人口240万人に対してグラムは80万人、サクノスは50万人となっていました。
 それから30年間、新たな植民地化の波が起こりました。ナルシル、アンドゥリル、オルクリスト、スティング、バイター、ビーターはこの頃にサクノスから入植され、グラムと違って伝承や神話ではなくテラの(そしてソード・ワールズの)人気古典作品の中から名付けられています。一方で-200年から-186年にかけては、モーグレイ(現グングニル)、オートクレール(現ミョルニル)、イセンファン(現マーガシー/ヴィリス星域)がグラムから入植されています。

 -187年にはサクノスの経済力はグラムを凌駕し、星域内の一大勢力に押し上げられていました。そして2年間の紛争の末にサクノスはグラムを破り、ソード・ワールズ初の恒星間政府「サクノス統治領(Sacnoth Dominate)」を建国しました。-164年にはダリアンと国交を樹立しましたが、孤立政策は変わらず、交易も深まりませんでした。
 -149年からは約10パーセク圏内の周辺星域に探査隊が送り込まれ、入植地や前哨基地がボウマン、カリバーン、ダインスレイヴ(現サウルス/ヴィリス星域)、ドラグヴァンデル(現テナルフィ/ルーニオン星域)、エリクセン(現タルスス/268地域星域)、ホディング(現ドーンワールド/268地域星域)、イグリイム(現スチール)、リューシン(現アスガルド/ヴィリス星域)、スコフニュング(現ガン)、タヌース(現ガーダ=ヴィリス/ヴィリス星域)に築かれました。


(クリックで拡大)

 しかし-104年、サクノスとグラムの緊張は「ティルヴィング事件」(※両国の艦艇がティルヴィング軌道上で衝突した事件)をきっかけに「最初の革命戦争(War of the First Rebellion)」に発展し、最終的にエクスカリバーの戦いでグラムに敗れたサクノス統治領は-102年に崩壊しました。統治領はグラム連合(Gram Confederation)、サクノス連邦(Sacnoth Confederacy)、ホヴズ会議(Hufud Assembly)に分かれましたが、それぞれ交戦と停戦の繰り返しは収まることなく、-88年には3国とも恒星間国家としての体は失われていました。
 その後の時代は、後に北欧神話になぞらえて「大いなる冬(Fimbulwinter)」と呼ばれる停滞期となりました。ソード・ワールズの各世界は内戦で造船能力を失い、丁重に保存された数少ない宇宙船による接触を除いて星間交流は途絶えました。星域外の前哨基地や入植地の多くは放棄されるか、滅びました。

 -11年になると、グラムは宇宙船建造能力を回復しました。他星系もほぼ同時期に宇宙に復帰すると、それから数十年間のソード・ワールズ星域は、グラム同盟(Gram Alliance)、サクノス自治領(Sacnoth Dominion)、ナルシル=アンドゥリル二重君主国(Double Monarchy of Narsil and Anduril)、ティソーン連盟(Tizonian League)、トレイリング会議(Trailing Assembly)による「五国時代(The Five States)」に入りました。そしてこの頃、ソード・ワールズの総人口は2億人に達しています。
 53年、帝国偵察局の偵察艦「赤毛のエイリーク(Erik the Red)」がソード・ワールズと接触し、五国は巨大国家の存在を知ります。当時の帝国国境はソード・ワールズから遠かったので両者にとってあまり良い貿易相手ではありませんでしたが、やがてデネブ宙域への帝国の影響力が増すと貿易は拡大し、73年には帝国の巨大企業シャルーシッド社がバイターまで定期交易路を確立します。この影響は、贅沢品輸出でディルヌウィンがトレイリング会議の主導権を握り、コラーダがティソーン連盟の長になるほどでした。
 グラムとサクノスの緊張関係は、98年に実際に開戦するまで昔のままでした。5年間に及んだグラム=サクノス戦争の末に両者が疲弊したのを見て、周辺の三小国は二大国の打倒を企てました。アンドゥリル星系のエルダー島に三国の首脳は密かに集い、星域を自分たちで三分することで合意しました。更にグラムやサクノスで多数の叛徒集団を影から支援し、それぞれが独立国を築くよう扇動しました。
 104年には「旧大国」は双方とも完全に小国分裂状態となり、それを見るや三国は平和維持の名目で介入を行いました。締結されたマグヌスタッド条約(Treaty of Magnusstad)により、三国統治(Triple Dominion)の成立と、グラムやサクノスに誕生した数々の中小国の「独立」が保証されました。とはいえ中小国に軍艦を保有する権利は与えられず、三国に星系防衛を委ねる形となりました。
 新三大国は他国よりも上に立とう(もしくは他国を蹴落とそう)とお互いに出し抜き合ってはいましたが、それでも旧二大国を決して蘇らせてはならないという思いでは一致していました。彼らはそれぞれグラムやサクノスの別勢力を支援し、冷戦状態を維持することに神経を注いでいました。

 142年に帝国の外交使節団はディルヌウィンとアンドゥリルとコラーダ(※いずれも三国の当時の最大勢力です)を訪問し、ダリアン方面にも向かいました。147年には正式な外交関係に発展し、その3星系に帝国の大使館が置かれています(ダリアンとも翌年に国交を樹立しています)。
 212年、コラーダで熾烈な内戦が発生しましたが、ディルヌウィンと二重君主国は異なる側を支援したので合同軍による介入もできなくなりました。4年後には内戦は核戦争に発展し、惑星は荒廃しました。内戦前のコラーダは人口約1億の、ソード・ワールズ星域で最も重要な世界でしたが、たった一晩で推定人口100万人未満の第4勢力にまで落ちぶれてしまいました。ディルヌウィンと二重君主国は、コラーダの残された資産の分割で対立を深め、217年には星域は再び分裂状態に陥りました。その際、スティングはバイターやスチールと共にトレイリング会議から離脱しています。
 マグヌスタッド体制の崩壊は同時に、条約に縛られていたグラムやサクノスの再軍備を可能としました。この時、グラムの4国とサクノスの6国が軍艦の建造を開始しています。

 217年から604年までは「泡沫諸国時代(Squabbling States Era)」と呼ばれています。この400年間のソード・ワールズ星域は、小国が誕生しては拡大し、他国と衝突しては併合と分裂と滅亡を繰り返していました。
 コラーダの核戦争後、コラーダ海軍は工業力の低下から維持ができずに解散の危機にありました。そこでスヴェン・ダンヤルソン大提督(Grand Admiral Svein Danjalsson)は、ある腹案を実行に移しました。彼はティソーンに艦隊を移動させて政権を奪い、その領土を自分のものとしたのです。しかし100年もの間後進世界であったティソーンは、災い転じてこの簒奪によって主要国に返り咲いたのです。
 後の世に「スヴェン大帝(Svein the Great)」として知られる彼は、配下の艦隊を他のソード・ワールズ世界への征服ではなく、荒廃した星域内でティソーンの通商路を確保するために用いました。217年にはティソーンの鉱石と他星系の商品との交易が始まり、その20年後には、ティソーン商船は他のソード・ワールズ国家と流通量で肩を並べていました。
 この平和政策は、スヴェン1世の孫娘であるエストリド(Estrid)が281年に38歳で事故死するまで続けられました。18歳で彼女の後を継いだダンヤル2世(Danjal II)は、一転して拡張政策に打って出ます。コラーダ、フルンティング、イセンファン、クーノニックを支配下に置くと、彼は皇帝に即位して「ティソーン帝国(Tizon Empire)」が誕生しました。285年にはモーグレイを攻撃して翌年征服し、オートクレールも287年にそれに続きました。
 しかし、周辺星系が288年に防衛同盟として「王国連合(United Jarldoms)」を結成したため、帝国の拡大は停止しました。以後帝国は、征服した星の内政に力を注ぐことになります。

 グラムもサクノスも、過去の栄光を忘れたわけではありませんでした。両世界では統一の機運が盛り上がり、364年にはサクノス諸国連邦(Federated States of Sacnoth)が結成され、それを見たグラムでも371年にグラム共和国(Gram Republic)が建国されました。しかし両国は恒星間利権をめぐってすぐに衝突し、388年の王国連合解散のきっかけとなってしまいました。
 391年、ティソーン帝国はジョワユーズに侵攻して実効支配を目論みましたが、帝国の予想よりも早くグラム共和国がティソーンに宣戦布告すると(※当時グラムはジョワユーズを保護領としていました)、オートクレールとコラーダを攻略し、ジョワユーズに救援艦隊を送りました。結局3年後にティソーンはグラムに講和を申し入れ、その条件としてコラーダ、オートクレール、ジョワユーズはグラム共和国領とされました。そして、弱体化したティソーン帝国からはモーグレイが離脱し、グラムの属領となりました。

 400年代に入ると、ソード・ワールズ世界では北欧神話の現代版である「アース信仰(Aesirism)」が爆発的に広まりました。これは特にティソーン帝国で皇帝崇拝(※ティソーン帝国では皇帝を半神として崇めさせていました)への反発と信者の政治的団結を引き起こし、弾圧によってかえって信者を増やしていきました。468年にはフルンティング、イセンファン、オートクレール、モーグレイの4星系で相次いで革命が発生し、それぞれミスティルテイン、グリダヴォル、ミョルニル、グングニルといった「剣ではない」名前に改称されました。
 4星系の市民はアース信仰に人生を捧げ、「アース同盟(Aesir Alliance)」を結成して100年間ティソーン帝国に抵抗し続けました。しかし575年にはフルンティングが陥落し、続く3年で他の3星系も征服されました。ティソーン帝国は星系名を元に戻し、20年をかけて領土の再統合を試みましたが、フルンティングとイセンファンではうまくいったものの、オートクレールとモーグレイでは抵抗が続きました。
 後に、604年にティソーン帝国が滅ぶとアース信仰は旧同盟の星系で蘇りましたが、ティソーン皇帝という明確な敵を失ったアース信仰はかつてのようには盛り上がりませんでした。しかしその精神はソード・ワールズ中に広まっていきました。

 さて、383年にホヴズはスティングを征服して(同時に国号を「ホヴズ王国(Kingdom of Hofud)」と改め)、マリアンヌ女王(Hertugin Marianne)(※Hertugin(男性:Hertug)は直訳すると公爵となる貴族の地位ですが、ソード・ワールズでは国王と同等に扱われます)はバイターに逃げ延びて亡命政府を樹立しました。419年にホヴズはバイターにも進出し、それからバイターでは20年にも及ぶ激しいゲリラ戦が展開されました。
 ホヴズは435年に「根本的な解決」を目指し、バイター住民に銃を突き付けて集めてはホヴズ領内の星々に強制移住させました。この後判明したことですが、正確な移住人数がわからないのをいいことに、密かに移住船ごと虐殺すらもしていました。からくも移住を逃れた人々は荒野に潜みました。
 2年後、バイターの過激派はホヴズのヨハン2世の長男であるヤール・ビルイェル(Jarl Birger)を暗殺しました。ヨハン2世は報復として、叛徒が潜んでいると思われる大森林を生物兵器で攻撃するよう命じました。それから1年半に渡って数千トンの生物化学兵器がバイターで使用され、生態系の破壊によって多くの命が奪われました。
 「塩撒き(Saltsaar)」と呼ばれたこの蛮行は周辺国の怒りを買い、サクノスとグラムの黙認(ソード・ワールズ史で両星が同じ側に立った稀有な例です)の下でディルヌウィン盟約(Dyrnwyn Compact)がホヴズを制圧しました。これによりグラムはビーターを、ディルヌウィンはホヴズ、スティング、バイターを得ました。バイターの生存者はスチールに移住して独立し、他のメタル・ワールズの領有権を主張しました。

 バイターで起きた残虐行為は、ソード・ワールズ諸国の政治的統合を目指す政治運動を生み出しました。444年、レオナード・トーステンソン(Leonard Torstensson)は著書『同族(Fraender)』において、全てのソード・ワールズ星系は相互防衛のための「連合」の枠組み内でそれぞれ独立すべき、との考えを記しました。すぐに連合主義政党(Confederalist)が星域内各地で設立されましたが、それが実を結ぶのはもっと先になります。

 470年、第三帝国はヴィリス(※270年にモーグレイから入植されるも、286年のティソーン帝国によるモーグレイ征服を機に統治者の名を取って改称独立)、ガーダ=ヴィリス(※290年にヴィリスから再入植)を含めた星々を「アーデン伯爵領(現ヴィリス星域)」として保護領化し、576年には正式に編入しました。この星域を自国領と考えていたソード・ワールズ人はこの措置に怒り、ゾダーン主導の外世界同盟(Outworld Coalition)に加わる理由の一つとなりました。

 589年に開戦した第一次辺境戦争(First Frontier War)をソード・ワールズ人は、第三帝国に占拠された「失われた領土(Vilse Markniren)」を奪い返す絶好の機会と捉えていました。しかし現実には各国政府の足並みが揃わず、その機会をみすみす見逃しているようにも見えました。当時のソード・ワールズは、二重君主国、ディルヌウィン盟約、グラム共和国、サクノス(※532年に統一政府が誕生したので「連邦」が外されました)、スティング王国(Kingdom of Sting)、ティソーン帝国によって分けられていたのです。
 592年、5つの海軍(※サクノスと二重君主国は合同軍のため)はこの問題を話し合い、「連合」軍事政権で第三帝国に相対することにしました。各国政府は解体せずに連合海軍がその上に立つ形を採ったものの、結局彼らに第三帝国を攻める度胸はありませんでした。代わりにアントロープ星団(Entropic Worlds)の内戦を口実に占拠をしたものの、そのことが中立だったダリアン連合を第三帝国との同盟に走らせました。帝国=ダリアン同盟は両面からソード・ワールズに圧力をかけ、帝国が多くの軍艦を戦線に割くことなくソード・ワールズに二正面作戦を強いました。
 戦争は長引き、ようやく604年に全ての交戦勢力は講和に同意しました。ダリアンすら失った世界の奪還を諦めるほど、各国は疲弊していました。

 ところで、585年にアスランのイハテイ(第二の息子)艦隊がダリアンを訪れたのは有名な話ですが、その前年に彼らがナルシルを先に訪れていたことはあまり知られていません。しかし二重君主国を構成するナルシルには余った土地がなく、アンドゥリルは新たな政治派閥が誕生することを嫌い、そして何よりもソード・ワールズ人とアスラン双方の強すぎる自尊心が相互理解を阻みました。
 かくしてアスランはナルシルを去りましたが、この時彼らを受け入れていれば、その後の歴史は全く違うものになっていたでしょう。

 戦後、連合海軍の軍事政権は現在の六国連合体制から「個々の独立星系の上に単一の連合国家」の体制に移行させることを決め、「第二統治領(Second Dominate)」を建国させました。これはかつてのサクノス統治領の継承国として統一の正当性を主張するためですが、グラム、ナルシル、サクノスが拒否権を持つ政治機構はかなり不安定でした。加えて、ティソーン海軍は合流を拒んでティソーン帝国を支えることにしました。
 他の4海軍はそれを鎮圧するために即座に動きました。物量で劣っていたティソーン帝国でしたが、しぶとく戦いを続けて降伏まで3年を要しました。旧ティソーン帝国領のうち、オートクレールやモーグレイは彼らが望むようにミョルニルとグングニルと名を変えて自由を謳歌しました。

 615年、第二統治領は再編された外世界同盟に加わり、内戦中の第三帝国からヴィリス星域を奪い返そうとしました。第二次辺境戦争開戦直後はそれはうまくいっていましたが、第三帝国のアルベラトラ・アルカリコイ大提督がゾダーン戦線を膠着状態に持ち込むと、彼女の部下のツァイコフ提督(Admiral Zaitkov)はソード・ワールズ戦線で一方的に統治領軍を攻め立てました。620年には何と11星系が陥落しています(右図参照)。この時点でアルベラトラ大提督はゾダーンと講和し、そのまま帝国中央に向かうと内戦を終結させました。
 こうしてソード・ワールズの大敗で第二次辺境戦争は終わりましたが、ナルシル艦隊の司令官デニソフ提督(Admiral Denisov)は最後まで投降を拒否し、ボウマン星系の秘密基地を根拠地にして戦後も7年間戦い続けました。彼のしたことはつまりは組織化された海賊行為にすぎませんが、彼の誇り高き不屈の物語は今もソード・ワールズ海軍で伝統的に(美化されて)語り継がれています。
 一方で第三帝国は、頑ななソード・ワールズに対してアントロープ星団の返還を認めさせることができませんでした。最終的に625年に国境線は戦前に戻されて戦後処理はようやく終わりました。帝国による占領は、単に反帝国感情を増幅しただけでした。

 600年代後半になると第二統治領は中央集権化を強め、サクノス政府は統治領の傀儡と化しました。698年、統治領政府が提出した世界間貿易綱領に対してグラム・ナルシルが共同で拒否権を発動したものの無視されたため、グラムはアンドゥリル、コラーダ、デュランダル、ジョワユーズ、ナルシル、ティソーン、ティルヴィングと共に「第二の革命戦争(War of the Second Rebellion)」で統治領を打倒し、グラム共同体(Gram Coalition)を建国しました。
 しかしそれも788年までで、ダリアン連合が単独奇襲でアントロープ星団を奪還したことで権威は失墜しました。政権崩壊後はナルシル、サクノス、デュランダルによる「三極同盟(Trilateral Alliance)」が代わって台頭しましたが、星団の再奪還どころか、共同歩調すら取れない政治運営がなされました。
 相互不信から三極同盟は848年に解消され、しばらくは2~3星系規模の小国家が乱立しました。また、849年にはイセンファンが第三帝国の属領となるべく請願を行い、いわゆるソード・ワールズからとうとう離れました。

 852年、グラムが影響力を再び拡大して周辺星系をまとめあげ、現在に至る「ソード・ワールズ連合(Sword Worlds Confederation)」を建国しましたが、この裏には資金面などでゾダーンの関与があったと噂されています。反グラム感情を和らげるために首都はジョワユーズに置かれました。
 ようやく誕生した連合でしたが、978年に中央政府が加盟世界の内政に過度に干渉したことから分裂危機を迎えます。サクノスがティルヴィング、ビーター、ディルヌウィン、デュランダル、ホヴズと共に連合離脱の構えを見せ(※『Spinward Marches Campaign』掲載の図では国境線が引かれているので、事実上分裂状態だったのかもしれません)、グラムやナルシルといった政権中枢星系ですら大衆運動は3年間続きました。最終的に、連合加盟星系の自治権を大幅に強化するように連合憲章を改正することで落ち着きを取り戻しました。ちなみにこの時一方では、議会や官庁のための新都市建設を名目にして連合首都がグラムに遷されています。
 この「憲章危機(The Constitutional Crisis)」によってソード・ワールズ連合は第三次辺境戦争に参戦できませんでしたが、983年にはイセンファン政府に対して連合への加盟を打診し、再併合しています。

 900年代の終わり頃、グラム、ナルシル、サクノスの三大工業星系では労働者の不満が限界点を超えていました。上流階級の様々な醜聞が次々と明らかになり、連合全体の中産階級で改革の機運が盛り上がったのです。この時の民衆の拠り所はアース信仰に影響された「復古主義」でした。入植初期の(美化された)グラムどころか、古代テラの「ヴァイキング時代」にまでも社会規範の手本が求められ、社会進出していた女性たちは再び「女の仕事」に押し込められていきました。

 1082年に勃発した第四次辺境戦争では、連合加盟星系は連合軍の形でまとまり、アントロープ星団を奪い返しました。ダリアン連合も反撃してきましたが、クーノニックを占拠するので精一杯でした。帝国はこの戦争でイセンファンを占領し、1087年に現在のマーガシーと改称して正式に併合しました。
 1098年にはジョワユーズの諸国の対立から星系政府が崩壊し、内戦に突入しました。連合政府は外部からの干渉を防ぐために世界を封鎖し、1105年現在も戦いは終わる気配を見せません。

 ソード・ワールズ連合は外世界同盟の一員として、来るべき「第五次辺境戦争」に備えて艦隊の再編を急いでいます。ナルシル艦隊、ジョワユーズ艦隊、グラム艦隊、サクノス艦隊の4艦隊が実際に砲火を交えた時、それは連合の破滅となるのでしょうか、それとも栄光の未来の入口となるのでしょうか……?


【付録】 文中の「剣」について
●歴史・神話伝承由来の剣
0921 フルンティング(Hrunting):古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する剣。
0922 ティソーン(Tizon):11世紀後半のレコンキスタで活躍したカスティーリャ王国の貴族エル・シドが使った剣。「ティソーナ(Tizona)」とも。
1020 イセンファン (Isenfang):伝承上のヴァイキングの剣(らしい)。読み方は間違っている可能性あり。
1022 コラーダ(Colada):エル・シドが用いたとされる剣。
1121 オートクレール(Haulteclere):シャルルマーニュの家臣として有名なオリヴィエが持つの剣の名。
1123 ジョワユーズ(Joyeuse):中世フランスのシャルルマーニュが所持していたとされる剣。
1217 アロンダイト(Aroundight):円卓の騎士ランスロットの剣、とされているが出典は定かではない。
1221 モーグレイ(Morglay):イギリス伝承のサー・ベヴィスの剣。
1223 グラム(Gram):北欧神話ニーベルンゲン伝説における英雄ジークフリートの愛剣。
1225 エクスカリバー(Excalibur):アーサー王伝説のアーサー王が持つとされる剣。
1320 ダインスレイヴ(Dainslaf):一度鞘から抜かれると生き血を吸うまで納まらないと言われた魔剣。
1324 ティルヴィング(Tyrfing):北欧の古エッダやサガに登場する魔剣。
1325 ベリサルダ(Balisarda):シャルルマーニュ十二勇士の一人、ロジョロの持つ名剣。
1329 カラドボルグ(Caladbolg):ケルト神話のアルスター伝説に登場する剣。
1424 ガラティン(Galatine):円卓の騎士ガウェインの剣、と後にされた。
1429 スコフニュング(Skofnung):これで斬られると付属する治癒石以外では傷を治せないとされる剣。
1430 カリバーン(Caliburn):エクスカリバーの別名。
1519 リューシン(Lyusing):伝説上の英雄ラグナルが持っていた2本の剣の1つ…らしい。読み方は間違っている可能性あり。
1522 ディルヌウィン(Dyrnwyn):アーサー王伝説に登場するストラスクライドの王リデルフ・ハイルの愛剣。
1523 デュランダル(Durendal):フランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄ローランが持つ聖剣。
1524 ホヴズ(Hofud):北欧神話の神ヘイムダルの剣。英語読みしたものが「ホフド」。
1826 ドラグヴァンデル(Dragvandel):おそらく「ドラグヴァンディル(Dragvandil)」が正しい。古アイスランド叙事詩『エギルのサガ』に登場する剣。

●ヴィラニ伝承由来の剣
1118 タヌース(Tanoose):英雄マシュディイケ(Mashdiikhe)が悪魔を打ち払った魔法の剣「ダヌウズ(Danuuz)」が訛ったもの。
1529 イグリイム(Igliim):伝説的英雄「守り手ダアルウシンナギ(Daaluusinnagi the Defender)」が持っていた剣の名。そもそもイグリイム自体が「鋼鉄」という意味。
2035 アキ(Aki):戦士王ゴロシュ(Golosh)が持つ剣の名。

●創作作品由来の剣(サクノス系入植地)
0927 ナルシル(Narsil):『指輪物語』のドゥーネダインの上級王エレンディルの剣。
1026 アンドゥリル(Anduril):ナルシルが鍛え直されたもの。
1126 オルクリスト(Orcrist):『ホビットの冒険』に登場する、ドワーフ族の王トーリン・オーケンシールドの剣。
1325 サクノス(Sacnoth):ロード・ダンセイニの小説『サクノスを除いては破るあたわざる堅砦』に登場する魔剣。
(※初期探査の際に探査隊がサクノスと命名したものの、歴史や神話上の剣から取る命名規則に反していたのでグラムで物議を醸し、ベリサルダと改名されました。しかし後に入植地がグラムに肩を並べる存在となると、公然とサクノスを名乗るようになりました。サクノスから入植された星系が全て創作作品由来なのも、グラムへの当て付けの意味合いがあります)
1424 ビーター(Beater):『指輪物語』に登場するグラムドリングのこと。オーク語では「なぐり丸」。
1525 スティング(Sting):『ホビットの冒険』『指輪物語』に登場する剣。「つらぬき丸」とも。
1526 バイター(Biter):オルクリストの別名。「かみつき丸」とも。

●剣ではないもの(アース信仰の星系)
0921 ミスティルテイン(Misteltein):バルドル神を死に至らしめたヤドリギのこと。ただし、『フロームンド・グリプスソンのサガ』では同名の剣が登場する。
1020 グリダヴォル(Gridarvol):トールが女巨人グリーズから借りた杖。
1121 ミョルニル(Mjolnir):北欧神話のトール神が持つ鎚。
1221 グングニル(Gungnir):北欧神話の主神オーディンが持つ槍。

●その他
シグルズ(Sigurd):シグムンドの息子。父の形見(※物語によっては妖精から直接与えられる)の剣「グラム」を振るう。
シグムンド(Sigmund):北欧神話に登場する英雄。グラム星系で彼が伴星となったのは、おそらく彼が持っていた時点では剣に「グラム」と名付けられていなかったからか?
ギンヌンガガプ(Ginnungagap):北欧神話で、世界創造の前に存在していた空虚な裂け目のこと。

●不明
1119 スヴァヴァソルム(Svavasorm)
1531 ホディング(Hoding)

 ここに記載がないものは、鉱物かおそらく人名です。


【参考文献】
GURPS Traveller: Sword Worlds (Steve Jackson Games)
Sword Worlds (Mongoose Publishing)
Sign & Portents #80 (Mongoose Publishing)
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星の隣人たち(3) 接触!ダリアン人

2017-03-15 | Traveller
ダリアン人の身体的特徴
 太古種族によってテラの約半分の表面重力の惑星に連れてこられたダリアン人は、30万年の間にその体を高く、細く変えていきました。純血のダリアン人の身長は2.1~2.3メートルに達し、ソロマニ人など他人類の血が混じっていても2.0~2.2メートル程になります。平均体重は男性78キログラム、女性は73キログラムですが、これはソロマニ人なら36キログラム程度しかないのと同じです。
 ダリアン人は皮下脂肪層が薄く、寒さに弱いように見えます。しかし彼らは摂取した食べ物を栄養や熱に変える能力に優れていて(食事量さえ確保できていれば)寒さを苦にしないだけでなく、その代謝能力は日頃減量に勤しむソロマニ人やヴィラニ人女性の羨望の的となっています。同時に、飢餓に強く発汗も少ないという特徴も持ち合わせています。
 遺伝的に低重力に適応したことはすなわち、高重力世界への入植には不利となるということです。生活のあらゆる面での不快感どころか、心肺機能への過負荷が寿命を縮める場合すらあります。この問題には医薬品の常用や、脆弱な骨格を支えるための外骨格機器の装着で対処されています。
 ダリアン人の肌は金色か灰色がかった黄色ですが、これは日焼けすることなく紫外線から体を保護するために有効です。また、白もしくは銀色の髪の毛も熱を反射するためにあります。ただしソロマニ人の血を引くダリアン人は濃い肌や髪の色をしている場合があります。
 自然と調和して生活していた期間が長かったためか、彼らは帝国人と比べて視力・聴力・反射神経に優れていて、特に印象的である尖った耳と合わせて「エルフ(古代テラの伝承に出てくる妖精)」の異名を持たせる理由になっています。加えて、母星のレトロウイルスの影響で高地の高濃度オゾン環境でも生活することができます(黄金時代にそれが解明されたので、ソロマニ人入植者たちもレトロウイルスの接種で同様の特性を得ています。よって現在のダリアン連合に住む全人類はこの特性を持ちます)。
 ダリアン人の約4割が両手利きまたは左利き(※両手利き2割・左利き4割・右利き4割とする統計もあります)のため、彼らの装置設計はどちらの手でも利用しやすいようになっています。これは解剖学的には、ダリアン人は左右の脳を両方とも均等に扱えることを意味し、彼らの優秀な数学的才能や創造性・歌唱力の高さもこれによるものです。
 彼らの骨盤は男女双方ともヴィラニ人より広いため、梁などの狭い場所での歩行は苦手としていますが、決して平衡感覚が劣っている訳ではありません。

ダリアン人の人生と家庭
 ダリアン人の妊娠期間は44週で、新生児は比較的脳が多い状態で生まれてきます(そして前述の骨盤構造が安全な出産を助けます)。そのため言語能力や運動能力は急速に発達し、出生後12週程度で走ることが可能になります。
 22歳から40歳ぐらいまでが彼らの身体的全盛期です。その後は緩やかに衰えていきますが、先天的な抗酸化体質によって温暖かつ低重力環境に居住しているのなら軽く100年は生きることができます。一方、寒冷地や高重力環境では心身に負担がかかって寿命が60年まで縮む場合がありますが、抗老化剤(アナガシックス)による寿命延長は可能です。
 ちなみに、晩年のダリアン人の多くは肉体的には健康でも骨粗鬆症に苦しみます。

 ダリアンは一夫一婦制の社会ですが(興味深いことにダリアン文化に染まったアスランも一夫一婦となっています)、結婚するまでは性交渉も含めて様々な相手と関係を持つことが奨励されています。そしてその中から(異性に限らず)最良の伴侶を決めたら、その後は終生添い遂げるのも特色と言えます。彼らの寛容さと我慢強さゆえに離婚は非常に稀で、感情を出さないのが美徳なので情熱的な結婚生活というのもあまり聞かれません。
 各家庭は平均2~3人の子供を持ち、子の姓は父親のものが生涯受け継がれますが(婚姻による変更もありません)、代わりに母親は子に「幼名(birth name)」を付ける権利を持ちます。ちなみに彼らの名前は「姓・名」の順で、その前に称号が足される場合もあります(※社会身分度10+)。また幼名とは別に成人後に自ら決めて名乗る「選択名(taken name)」があり、成人は姓と選択名を合わせて名乗ります(他人から姓だけで呼ばれることもありません)。「姓・幼名・選択名」の3つが揃って書き込まれるのは身分証明書ぐらいです。
 子供たちは年長者や地域社会に敬意を持つように、感情を殺して知識を蓄えるように教えられます。ダリアン人の子供たちは5歳(約6標準年)で公教育が開始され、以後12年間に渡って幅広く教育を受けます。子供たちの憧れの職業の定番は冒険家や軍人ではなく、研究者、学者、哲学者、教師です。
 やがて14歳(16.2標準年)の青年になると、自立に向けての準備が始まります。青年期の反社会的行動は、自分が社会の一員として他者との関係なしに生きられないことを理解するまで衣食住から切り離される形で罰せられ、それでも更生しないようであれば文字通り野垂れ死にするまで社会の恩恵には一切与れません。これは帝国人から見れば残酷なようですが、彼らが数千年間の生き残りの知恵から編み出した手法であり、実際には死に至るようなことはほぼありません(多くは死ぬ前に亡命を選びます)。
 成人年齢は大学を卒業する17歳(19.7標準年)で、この時点で家を出て自立することが求められます。そこから徴兵されるか就職するか大学院に進むかを選択し、約半数の若者が特定分野の学問を更に極めようとします。自立したとはいえ家族の絆はそのまま維持されて、老齢の両親は子や孫から面倒を見られるのが普通です。

ダリアン人の食事
 彼らは「楽園」の時代からずっと新鮮な野菜や果物を好んで食べていますが、その時代でも狩った野生動物の肉で栄養を補っていました。現代のダリアン人は全ての生命を尊重していますが、畜産による食肉は普通に行われています。ただし無闇な虐殺や、残酷な手法による屠殺は避けています。
 またダリアン人は工場で人工肉を量産できる技術力を持ちながら、ほとんどの人は有機的に育てられていない肉を拒みます。

ダリアン人の社会
 ダリアン人は家族よりも大きな集団への帰属意識に乏しく、特に恒星間国家の一員という意識は希薄です。しかしメイギズ以降に星系ごとに築かれた文化や習慣に多少の差異こそありますが、連合加盟星系の文明水準は驚くほど均一です。また、ダリアン人、ソロマニ人、アスランと種族が異なっていても同じ「ダリアン市民」と考えられます。全ての市民は平等に扱われ、職位の上下はあまり重要視されないので、経営幹部が平社員と友人関係となるのは別に珍しくありません。
 ダリアン人は科学研究に限らず何事にも徹底して完成度を追い求めます。加えてダリアン社会は協調性も重んじるので、仮に仲間を踏み台にして個人が大きな成果を挙げたとしても、集団全体で成し遂げたものより価値は落ちるとみなされます。
 ほとんどのダリアン人は仕事を愛していますが、余暇も大事にしています。彼らにとって最大の関心事は知識の追求で、趣味として大学に通い直して専門分野を更に極める者も少なくありません。他者と議論をするにしても、それは政治ではなく科学に関することです。また、旅行も好まれていて、ダリアン連合最大の産業が実は観光業なほどです。芸術は娯楽でも重要な役割を持ち、生の演劇や演奏会は非常に人気があります(逆にホロ映画などの「人工的な」ものは好まれません)。更に共同娯楽として、聴衆も参加する即興演劇や集団舞踊も人気があります。その反面、スポーツは娯楽としては地位が低く、集団競技はあくまで楽しむ程度に留まり、長距離走のような個人競技はむしろ精神修行の領域です。
 ダリアン社会は他者に対して非常に寛容的と知られていますが、彼らの忍耐にも限界はあります。窃盗・傷害・研究不正などの犯罪は無慈悲に処罰されますし、それは観光中の異国人であっても例外ではありません。彼らは平和主義者ですが、戦争を避けるための交渉が失敗に終われば、彼らは自身が持つ卓越性が科学面に限られないことを証明してみせます。
 ダリアン人にとって宗教とはあくまで哲学的命題であり、他種族で宗教団体が担うような活動(慈善行為や心理相談)は、それに応対する団体組織や親族関係で賄われます。ダリアン社会は多様性と寛容を重んじる一方で、個人の哲学と政治的信念とは厳格に区別されていて、特定の哲学が政治勢力となることを忌避する傾向があります。

ダリアン人の言語
 メイギズ以前は各盆地由来の5言語を公用語としていたダリアン人ですが、メイギズ以後はズローズ語(Te-Zlodh)が標準語となりました。なぜならメイギズからの大多数の生存者がズローズ(※の海底都市)に居たからです。
 ズローズ語は現在全てのダリアン人が話せますが、各世界ごとに訛りや方言が存在します。また、ソロマニやアスラン言語からの借用語も取り込まれています。
 ちなみに、ダリアン連合内のアスランは社会に同化する一方で自らの言語は守ってきましたが、近年では交易面を考慮してダリアン語(もしくは加えて銀河公用語)を学ぶようになってきています。

ダリアン人の技術
 星図に記された「TL16」の字に期待を膨らませてダリアンを訪れた観光客は、現地で大いに面食らうことになります。TL16は過去の遺物となっていて、実際に市場で流通しているのはジャサント産のTL13程度の製品がほとんどです。連合内の他の星系では生産基盤があまり整っておらず、それ以上の水準の物品は主に帝国からの輸入品となります。ただし兵器と造船の分野では質の高いTL15のものが製造されています。
 ダリアンの製品は人間工学に基づいた曲面で構成されているのが特徴です。そして修理が容易になるようにモジュール構造で作られていて、数十年分の修理保証を付けて販売されるのでかなり高価です。しかしこれは苦難の時代での資源節約から生まれた文化です。帝国からの輸入品は安価ではありますが、ダリアン人には「使い捨ての粗悪品」という悪い印象があります。
 もう一つの特徴は、あらゆる回路が電磁波から保護されていることです。それが例え電気髭剃りのような小物であってもです。

通信技術:TL14
 全盛期のダリアン人は中間子技術を通信に利用し、兵器転用はしていませんでした。技術を取り戻した現在でもそれは変わらず、星系内には中間子による軍事通信網が張り巡らされ、加えて旧式ながら信頼性の高い光ファイバーで二重化されています。一方でメイギズ以降に通信衛星が廃れたため、個人通信は低軌道距離(500km)の範囲内で、ただしそれでは大量の電力を消費するので実際はその10分の1程度に抑えて直接通話が行われています(※『トラベラー』の無線通信は、携帯電話普及以前のトランシーバー的なものが想定されているので注意が必要です)。
 ダリアン連合の通信網を独占するズローライル社(Zloril)は最近、自動応答サービスを開始しました。これは事前に利用者の容姿や個性をコンピュータに取り込んでおいて、通話を求められた際に仮想上の「自分」が高度なシミュレーションに基づいて応対(丁重に断るなど)をしてくれるものです。

電子技術:TL14
 前述した通り、ダリアンの電子回路は電磁波に耐えられるように防護されています。導電回路は廃れ、電磁波に強い結晶演算装置(crystal processors)を光ファイバーで結ぶやり方が採用されています。必然的にダリアン製のコンピュータはスピンワード・マーチ宙域で最も頑丈となりましたが、帝国製のコンピュータとは互換性がありません。データの格納についても複数のホロクリスタルに多重保存するのは当然で、政府機関や大学のコンピュータは地下数十キロメートルにある深度保管施設に中間子通信(に加えて光ファイバー)で送って複製データを保管しています。
 ダリアン人は製造業や建設業でロボットを活用していますが、それらは特定の用途に特化されたものです。汎用ロボットや擬生物型ロボットは非効率的とみなされ、鉱業や農業分野でも自律型ロボットは利用されていません。軍事用ロボットも乗っ取りの懸念から禁止されています。

エネルギー技術:TL15
 メイギズ以前のダリアン人は、大気汚染や原子力事故の反省から無公害の核融合技術への傾斜を加速させ、最終的には反物質炉の実用化一歩手前まで漕ぎ着けていました。しかし主星テーニス軌道上の施設はメイギズの際に消滅し、マイアの実験炉は電磁波による停止後に再起動をかけたところ爆発四散しました。
 メイギズ以後の各植民星系は様々な手段(水力・陽光・地熱・風力など)で電力を調達して、核融合炉の復旧が可能になるまでしのぎました。その間、節電技術は大いに発展しています。現在ではあらゆる電力は核融合炉から賄われ、ダリアン製の核融合炉は市場で最も小型化されていることで知られています。

医療技術:TL14
 ダリアン人の存在は生態系にとってそもそも異質であったため、彼らは医学を発展させる必要もなければ、発展させるヒントにも欠けていました。やがてダリアン人が惑星環境に馴染むと病に冒されるようになりましたが、本格的に医学が進歩したのはソロマニ人の到来以降です。彼らが持ち込んだ衛生学や抗生物質の概念は、ダリアン人にとって革命的でした。
 やがて遺伝子工学の発展によって植物由来の有益な医薬品の開発が進み、それらの品種の多くは(※植民星に移植されていて)メイギズを生き延びました。現在では多くの病気が新生児時の予防接種によって克服され、臓器や薬用植物のクローンを作るための装置は連合政府が資金を出して各世界に置かれています。

輸送技術:TL14
 ダリアン連合の多くの世界では、貨物輸送に地下鉄道が(地上を大型の物体が行き来するのは美しくなく、環境にも悪いと考えているのです)、個人輸送に反重力機器が用いられています。メイギズの悲劇の経験から反重力機器は滑空翼と一体化し、急に機能を停止しても無事に着地できるように設計されています。海では未だに帆船が見かけられますが、これは趣味で使われているものです。
 ダリアン製の宇宙船は宙域内で最も進歩していると言われています。ソロマニ様式に似ているのは元々ソロマニ人の宇宙船から技術を得たことに由来しますが、ダリアン人自身もソロマニ式の設計を好んで導入しています。デイリーエンやマイアの造船所はTL15艦船を造ることができ、ジャサントではほとんどの民間用のTL13船舶が製造されています。彼らはその気になればジャンプ-6の船も造れますが、国家規模が小さいので需要はジャンプ-3以下に集中しています。
(※GDW版とマングース版で貨物輸送に使われる「tube」の解釈が異なっているような気がします。アメリカ英語では「管・筒」ですから未来想像図にありがちなあのチューブ鉄道になりますが、これはイギリス英語では「地下鉄」の意味なので、そちらの方向性で設定が補強されてしまった感があります)

武器技術:TL15
 ダリアンはありとあらゆる最先端の兵器を製造・輸出しています。これらは極めて高価ですが、その信頼性と耐久性は一級品です。さすがにTL16の武器の入手は無理ですが、磁気ライフル、バトルドレス、フュージョンガンといった帝国では入手が難しい兵器ですら購入可能です。これらはあくまで輸出品なので一般のダリアン市民は所有が禁止されていますし、製造元が直接に国境外で商品を引き渡すよう厳重に管理されています。


【参考文献】
Alien Module 8: Darrian (Game Designers' Workshop)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
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星の隣人たち(2) ダリアン人の歴史

2017-03-07 | Traveller
 ダリアン人も他の人類と同じく、太古種族によって約31万年前にテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)からダリアン(スピンワード・マーチ宙域 0627)へ移された100人以下のホモ・サピエンスの子孫です。太古種族の真の目的は今となっては謎ですが、彼らはダリアン人が快適に過ごせるように惑星デイリーエン(Daryen)を大規模に改造し、生態系を調整しました。結果、デイリーエンの大地は高山山脈に隔てられた5つの盆地に全て分けられ、大型の捕食者はおらず、空気は澄み、危険な病原体もない文字通りの「楽園」がダリアン人に与えられました。ダリアン人は太古種族をオンソライック神(god Onsorik)として、後々まで崇めました。
 太古種族による最終戦争(Ancient's War)の前までに、ダリアン人は5つの「楽園(the Orchard)」ごとに集落を築いていたことが考古学研究からわかっています。樹林は実に人類好みの食料を実らせると同時に人々の住居ともなり、中心部にある直径2000メートルの「炎の窪み(Flame Pit)」の存在は住民に暖を取らせ、火を起こす必要すら感じさせませんでした。強いて難を言えば、水の確保のために毎日遠出しないといけない程度でした。
 そして最終戦争が始まるとオンソライック神こと太古種族は、(ダリアン人が好意的に解釈するなら)戦争の惨禍からこの星を守るために自ら去りました。どうやらデイリーエンに目立つ文明の人工物が無かったために無人の原始世界と思われたことが、この星が戦争による消滅を免れた理由のようです。オンソライックがその後どうなったかは誰もわかりませんが、少なくともダリアン人は神による「実験」から解き放たれました。

 「楽園」の中で古代ダリアン人は(一部テラから導入された)野生生物を狩り、果実を集めて、人口を増やしていきました。安全な環境の中では織物や陶器の技術開発程度で事足りたため、彼らは自由時間を文化を育むことに割きました。歌、舞踏、運動といった集団娯楽が花開き、哲学が高められました。
 やがて「楽園」が約100万人と推計される人口維持の限界に達すると、彼らは社会に適合しない者を排除するようになりました。諍いを起こした者、心を病んだ者がまず除かれ、やがて高齢者すら救われることがなくなりました。「楽園」での生活は、次第に殺伐としていきました。

 最終戦争から10万年が過ぎた頃、火山活動の活発化により「楽園」の木々は姿を消していきました。必然的に食料が不足し、多くの人々は他の「楽園」を探して荒野に向かっていきました。ダリアン人は自力で火を起こす術を身につけるなどして新たな環境に順応はしましたが、(※おそらく人類の持つ常在菌が変異した)病原菌によって致命的な疫病が広まりました。この頃2つの「楽園」が完全に滅び、社会秩序が崩壊した古代ダリアン人はついに「楽園」を放棄して各地に拡散していきました。
 次の10万年間、ダリアン文明は狩猟文化、遊牧文化、耕作文化を繰り返し、人口を増やしては各地の生態系を崩し、新たな疫病によって滅ぶこともしばしばでした。しかしそれらのことから学んだ彼らは文明の回復速度を徐々に早め、ようやく安住の地を見つけました。河川や海岸の整備を行い、水運によって居住地間が結ばれ、ようやく文明を取り戻したのです。

 畜産と輪作によって都市化が促進され、人口は持続可能な形で増加し始めました。人々は土地を求めて盆地から山岳地帯に生息圏を広げていくと、やがて凍てついた高山を経て赤道沿い3つと南極側の盆地の文明を結ぶ踏破路を発見しました。全く異なる言語、習慣、伝統を持つ文明同士の接触は、初めは畏怖や誤解を乗り越えて平和的な関係が構築されたものの、後に軍事的拡張と報復攻撃による虚しい戦争の時代に移っていきました。山岳の道は交易ではなく征服に用いられ、それが何千年も続きました。しかしながら、短い平和の期間には兵士の代わりに商人、学者、哲学者がその道を行き来しました。
 そんな-23000年頃、哲学王と称されるデーライアー・レイペット(Derir Lipit)は「全ての生命は自らの本質に従って生きる権利を持つ」という後々まで繋がる最初のダリアン哲学を提唱しました。しかし1000年後にはその考えもいくつかに分派し、例えばある隠者は「全ての生命は生きていなければならない」と他の生命を殺めることを厳格に戒めました。そして彼の信奉者たちは果実だけを食べ、枯れ木だけを焼き、羊毛だけを着ました。一方で別の地での解釈は柔軟で、「人は食物連鎖の最上位に位置しているが、殺すのは食べる時だけに限る」として、全ての生き物を動物も含めて「人道的に」扱いました。こういった哲学の深化の末、偉大なるノーテイン・テイリーズ(Notan Taledh)は2つの考えを統合したライボ律法(Rimb Law)を定めました。

「獣は捕食によって生きるが、人は理性を持ち生産で生きる。したがって、捕食者として生きる者は獣と同じであり、人としての本質を成し遂げていない。人は労働のために、もしくは食料のために獣を扱うかもしれないが、残酷に処してはならない。ましてや、人が人を捕食してはならない」

 このようにテイリーズは、合理性こそが人間の本質だと教えていました。生物の本能や感情はより低く見られ、それに囚われることは許されませんでした。ダリアン社会は哲学校に基づき、禁欲や平静が重んじられるようになりました。しかし自らの表現が他者に害を及ばさない限りは、自由な感情表現は許されました。現在でもテイリーズの生命尊重哲学は生きていて、平和主義も普遍的ではないにしろ敬意は払われています。
 テイリーズはまた、ダリアン人最初の法律を公布しました。テイリーズ法典(Taledh Code)は犯罪の定義、刑罰の定義、処罰の際の道徳的指導の3つから成り、犯罪の定義として テイリーズは他の生命を傷付ける可能性のある行為を犯罪と定めました。そしてそれが本当に害を引き起こしたのなら実の罪、可能性に留まったのなら虚の罪とし、実の罪のみを処罰の対象としました。また罪の重さは償える能力にも比例し、同じ罪でも裕福な犯罪者は貧しい犯罪者より多く罰金を払い、屈強な者は病弱な者より長く服役しました。このテイリーズ法典も、何世紀にも渡ってダリアンの法体系に多大な影響を与えました。

 デイリーエン最大の海洋である北極海に面する氷に閉ざされた地、ズローズ盆地(Zlodh Basin)には-16000年頃に文明が再興し、他の4文明との交流はその1000年後となりました。沿岸部は不凍とはいえ、その厳しい気候ゆえにズローズのダリアン人は技術面で素早く進歩していきました。海で食料を確保するために航海術を磨いた彼らは、やがて広範囲に海上交易を展開するほどになりました。
 ダリアンで最初の大帝国、ズローズ帝国が興ったのはこの海の沿岸でした。ズローズ帝国は科学的な神権政治に基づき、彼らの持つ磁針と天文学を用いた航海術は迷うことなく遠距離を進むことを可能としました。当初操船を任されていただけの海の聖職者たちは、やがて政治を動かすようになり、陸地をも権限に収めました。しかし聖職者は実際には統治を担わず、帝国の交易に欠かせない影の皇帝として振る舞いました。そして教団の思惑に従うように、より迎合的な皇帝に取り替えられていったのです。
 聖職者たちは科学を神秘とみなし、教団の外には漏らしませんでした。一方で合理的な探究心をもって、彼らは世界の多くの仕組みを解き明かし、実用的な天候予測、より難解な数学、高度な造船技術が得られました。更に彼らの科学的探求心は他の盆地への探検の資金提供を促し、探検隊は教団に新しい情報や科学知識をもたらしました。聖職者たちは伝道も兼ねて、各地の住民に教育を施しては信者を増やしていきました。
 彼らは世界がズローズ帝国の下で統一されることを目論んでいましたが、そうなる前に彼らは技術革新を扇動しすぎていたことに気付きました。忠実な信者たちは従来の枠を超えた新しい概念や思想を次々と生み出し、科学の新発見は燎原の火のように広がって帝国の支配構造を揺るがしました。中央集権的だった帝国は、徐々に権威主義的でないいくつかの小国に分割されていきました。
 -10000年頃には羅針盤や印刷術、建築学などが発展し、その頃には衰えていた教団はデイリーエン各地に点在する哲学校に姿を変えていました。ダリアン人は持ち前の好奇心で数千年間、生物学、天文学、数学に加えて、倫理や社会学や心理学といった社会科学も発展させていきました。-1511年までにデイリーエンはTL3になっていましたが、彼らの科学理論はTL8~9の段階にまで達していました。
 この時まで、世界は平穏に包まれていました。

 その頃のダリアン人が知るはずもないことですが、遥か彼方の宇宙では激動が続いていました。第一帝国と地球連合の恒星間戦争の末に-2204年に建国された第二帝国でしたが、暗黒時代への流れを食い止めることはできませんでした。-1776年に第二帝国が崩壊した後に続く250年間の無秩序と混乱は星間交易と経済を破壊し、新政府が誕生しては消えるを繰り返しました。この時代の市民が現状を逃れようとするのは自然なことでした。
 元々テラのトルコで創業し、当時はディンジール(ソロマニ・リム宙域 1222)に拠点を置いていたソロマニ人商社のイッツェン(Itzin)の経営者は、恒星間貿易の崩壊を見て新世界への移住を決め、従業員とその家族にも同乗する機会を与えました。-1520年に35隻の輸送船と10隻の護衛艦によるイッツェン艦隊が、ディンジールから大裂溝(Great Rift)に向けて出発しました。艦隊は旧第二帝国領を進み、-1516年にヴランド(ヴランド宙域 1717)に到達、その後はコリドー、デネブ、スピンワード・マーチといった当時は未開拓の宙域に向かいました。-1513年に一旦サクノス(スピンワード・マーチ宙域 1325)に艦隊は停泊すると、そこを拠点に周辺星系の念入りな調査が行われました。当時のスピンワード・マーチ宙域でもいくつかの世界(アルジン、ヴェインジェン、ゾダーン入植地など)は有人でしたが、その中で彼らが移住の候補に選んだのが、人口がそれなりに多く、ソロマニの技術を保つ可能性の高いデイリーエンでした。
 まず惑星は軌道上から探査され、次に偵察隊が送り込まれました。古代ダリアンの文明を結んだ山岳地帯の未踏地に秘密裏に基地が建設され、世界と社会の十分な分析を行ってから、ようやくソロマニ人たちは自分たちの存在を明らかにすることにしました。
 -1511年、イッツェン艦隊の人々はライボ盆地に姿を現しました。ダリアン社会が世俗的なことを理解していたので、彼らは「空から神として降臨する」のではなく、地上から訪問することを選びました。実際、ダリアン人から見たソロマニ人は、他所からの単なる移住希望者の集団に過ぎませんでした。しかし単なる移住者と違ったのは、ソロマニ人が持ち込んだ高度な技術の物品や知識が貿易材として機能したことです。ソロマニ人はそれらを積極的に交換し、多くの知己と資産を得ました。一方のダリアン人は熱意をもって来訪者から急速に技術を吸収し、広範囲な科学基盤を得ました。ダリアン人が新技術に馴染んだのを見て取ったイッツェン艦隊の指揮官は、ダリアン人との対等な協力関係を結ぶことを決めました。
 ダリアン文化とソロマニ科学の相乗効果は爆発的でした。ダリアン人が技術水準と産業基盤を急速に高めるのに、多くの時間は必要ありませんでした。

 イッツェン艦隊の3万人程のソロマニ人は、ダリアン社会に取り込まれることを当初から決めていました。ダリアン人の遺伝形質が自分たちより優性であることが確認されたからです。-1400年頃には婚姻によってソロマニの血はダリアン人の血筋に吸収されましたが、ソロマニ人がもたらした技術と理論を完全に理解したダリアン人は、彼ら自身の高い数学的能力を用いて論理的な結論を導き、それを超えて飛躍を始めました。
 当初ダリアン人は、イッツェン艦隊が残した船を利用して宇宙に出ることを検討しましたが、何十年も放置された宇宙船は稼働せず、宇宙を知る世代も既に亡くなっていました。しかし彼らは軌道上に係留されたままの艦船を解析する計画に立て直し、30年後には独自の偵察艦隊を他星系に派遣するまでになっていました。ダリアン圏(Darrian Group)に属するスプーム、マイア、コンダリア、ロジェ、イリウム、ルーレ、アングルナージュ、エクトロン、ラバーヴ、494-908は、-1395年~-1370年に探査されています。
 初期の探査はジャンプ-1の制約があって母星から数パーセク内に留まりましたが、やがてジャンプ-2の開発と燃料貯蔵量の増加によってその範囲は広がり、探査の末期には一部の船にはジャンプ-3が搭載されていました。-1270年にはダリアン人の到達範囲は半径20パーセクに達しています。ダリアン人は将来の広大な植民地候補の存在を知り、徐々により深い科学的調査に移行しました。

 探査隊が近隣星系を調査している間、ダリアン人の科学者は反重力技術や電子工学、磁気や放射線といった物理学の研究に情熱を傾けていました。高度な数学は直感的把握を助け、その進歩は驚異的でした。宇宙に対する彼らの理解は飛躍的に増加し、デイリーエンでは工業化が加速しました。ダリアン文明がTL3からTL10へと跳躍するのはあっという間でしたが、その間にも原子力発電所の事故、薬品や化学物質の予期せぬ副作用、環境破壊による汚染など、技術革新の負の側面も増大していました。ダリアン人の多くは、技術の進展が必ずしも良いことばかりではないことを学び始めていました。
 そんな中ゴールギー・ルーレ(Ghorge Rorre)は、技術によって汚染されていない新世界を求める運動を興し、やがて何万人もの支持者による資金援助によって彼の名を冠したルーレ星系(0526)に集団移住を行いました。そこではソロマニ人到来以前のTL3を越える技術開発を禁止し、環境保護を推進し、宇宙港の外で住民は農場を営みました。ルーレ産の農産物はその目新しさから市場で高く評価されましたし、牧歌的な雰囲気から観光地としても成功したようです。
 環境破壊の教訓は母星のダリアン人にも影響を与えていました。彼らは資源を惑星内から星系内へ、そして星系外へと求め始めました。軌道上には星系内資源の精製施設が建設され、ダリアン人の入植に向かないとされた星には採掘場が置かれて輸送船団が母星と行き来していました。今でも残っている遺構としては、ドゥバーレ(0830)の露天鉱山やタルチェク(1631)のガス精製所が挙げられます。

 ダリアン人は探査こそ広範囲に行い、無人の惑星を何十も発見しましたが、それら全てに入植できる程の人口も必要性もありませんでした。探査終了後のダリアン人は近隣世界の科学分析に注力し、-1250年~-1100年にはダリアン圏の11世界を徹底的に調査した上で、その星の生態系や鉱物資源を研究するための科学施設を各地に設置しました。同時に、長期滞在における心理的・生理学的影響も調査されました。
 それらの調査結果を基に何百もの開拓者が入植地を建設していき、数十年後には食料自給が可能な水準に達しました。しかし、依然として技術機器の多くはデイリーエンから購入するしかなく、デイリーエンが求める農産品の輸出に収入を頼るしかありませんでした(ルーレの植民地は母星からの自立を果たしていましたが)。

 ソロマニ人の来訪から400年が過ぎ、ダリアン人はTL14に到達していました。それは、彼らにあと400年の平穏な時間があればTL22~23に到達していたであろう、と言われるほどの躍進ぶりでした。ダリアン社会は研究と開発に邁進し、ある意味で傲慢でした。神の領域に挑むべく彼らは急ぎ、倫理面で疑わしい分野にも踏み込み始めました。研究は反物質生産、生命工学、物質転送原理、人工知能、超能力の分野にも及んでいました。星系探査も進められましたが、それも主に研究目的でした。研究こそが当時のダリアン社会の全てでした。
 -1000年頃、TL16になっていたデイリーエンの統一政府は主星テーニス(Tarnis)の調査研究計画を開始しました。というのも、スピンワード・マーチ宙域各地への遠征で得られたデータを検証すると、星の放射出力の面でテーニスのそれは理論値と実測値に不安な乖離が生じていたのです。
 -950年と-944年に並行して、主星内部を解明する2つの計画が進められました。主星近くの小惑星帯の基地から運営されるエブー(Abh)計画(直訳するとアルファ計画)と、北極海の海底都市のズローズ大学から運営されるウーズ(Udh)計画(オメガ計画)です。前者はデータを遠隔測定するために、保護したセンサーを直接恒星内部に送り込むもので、後者はスーパーコンピュータと新開発の中間子技術を応用して遠方から主星を観測し、恒星の寿命に関するデータを集めました。
 -925年には、エブー計画は恒星そのものに耐える最初の無人探査機(probe)の開発を完了しました。その探査機は約8分間高熱に耐え、深度18000キロメートルに達して焼滅しました。
 翌年、外殻を改良した2号機がテーニスに打ち込まれて深度30万キロメートルに達し、膨大な量のデータを送信し続けました。それは天体物理学者たちを喜ばせましたが、それも恒星の異変の兆候を示すデータが送られるまででした。探査機を停止させる決定が下される前に、恒星の表面下で猛烈な膨張が起こり、宇宙空間に星間物質を放出し始めました。
 巨大な爆発の最初の影響は、ガンマ線バーストでした。それは超新星爆発に比べれば微々たるものでしたが、それでも星系規模では恐るべき被害を与えました。光速で飛来した放射線は破壊的な電磁パルスとなって、星系内全ての電子機器を破壊しました。宇宙空間ではあらゆるコンピュータが故障し、宇宙船の乗組員や軌道施設の人々は暗闇の中で急性放射線障害を起こして即死しました。デイリーエンでも反重力機器は墜落し、自動運転の乗り物は急停止するか燃料が切れるまで動き続けました。コンピュータ上のデータは消滅し、大気中の通信電波も使用不能になりましたが、そもそもそれを送受信する機械も沈黙していました。ものの数秒で、TL16社会は石器時代に逆戻りしてしまいました。
 しかし、最悪の事態はこの後だったのです。テーニスから発せられた巨大フレアは時速30万キロメートルで宇宙空間を進み、わずか3週間でデイリーエンの公転軌道を通過しました。社会基盤の復旧に忙殺されたダリアン人は近付いてくる己の運命を知らず、自身を守ることができませんでした。フレアが直撃した瞬間、圧倒的なエネルギーによって地表気温は局地的に摂氏250度に達して、浅い海は蒸発し、森林や草原は燃え、3日間をかけて猛烈な嵐が吹き荒れました。地表のほぼ全ての生命は死に絶え、生き残ったダリアン人は地下施設や深海都市に閉じ込められていた約2割の人々だけでした。その生存者も、ほとんどが天候災害や放射線障害や飢餓などで数週間以内に死亡し、かつて数十億を数えた人口は数十万人にまで激減しました。極わずかな生存者たちは、この恐るべき災害を「大混沌」を意味する「メイギズ(Maghiz)」と呼び伝えました。
 メイギズの余波はデイリーエンに留まりませんでした。ガンマ線バーストは星系内全ての人工施設どころか、周辺6パーセク以内のダリアン人植民地をも順に襲いました。事前警告を受けて到達予定日がわかっていても、全ての電子機器を電磁波から守ることはできませんでしたし、そもそもそれができるほど植民地には資源も機材も足りなかったのです。


 メイギズ以前のダリアン植民地は、あらゆる面を全てデイリーエンに依存していました。重機を造る程度の工業能力は有っても、極小回路や先進的な医薬品、そして何よりもTL16の社会基盤を維持する能力に欠けていました。加えて植民地では科学情報のデータベースも整備されておらず、それぞれの世界では専門家の脳内に蓄えられていたものが全てでした。特に、宇宙船の新造は不可能となってしまいました。
 メイギズに続く20年間、デイリーエンとその植民地は細々とした通信や交易を行ってきましたが、宇宙船の老朽化に伴ってそれも難しくなり、-905年に全てのダリアン人入植星系はそれぞれ独自の道を歩むことを決めました。残った艦船は等しく分配され(※この時デイリーエンが秘匿していたTL16艦隊が約1300年後に発見されます)、-860年には世界間の交流は完全に停止しました。
 それから「長い夜」の間、それぞれのダリアン人星系は生き残りに苦心しました。彼らの禁欲主義傾向は、この苦難の時代に培われたのです。彼らの技術力は電子化前に戻り、ハイテク機器のほとんどは廃棄されるか、博物館に保管されました。

 -275年、マイア(0527)はTL10に回復していました。研究者たちは博物館に保管されていた宇宙船を調べ、自らの技術と産業基盤で新しくそれを建造できることに気が付いたのです。修復されたジャンプ-1の貨物船が探検隊として各地に進発した後、マイアは他のダリアン人植民地や母星デイリーエンとの交流を再確立し、4年後には自力建造した宇宙船によって新時代の幕を開けました。
 再建されたダリアン圏は、再接触計画を実施したマイアが必然的に主導することになりました。メイギズからの回復が遅れていたデイリーエンは遅れて-238年に相互友好条約に加わったため、ダリアン人の母星として尊重はされたものの実権は失いました。ちなみに、この年をダリアン連合(Darrian Confederation)は建国年としていますが、148年に正式に成立するまでは星系政府同士の緩やかな集合体に過ぎませんでした。

 再び宇宙に戻ったダリアン人が最初に発見したことは、自分たちに「隣人」が居たことです。-399年にソロマニ人が隣の星域に到着し、ダリアン圏から7パーセク離れたグラム(1223)に入植していました。グラムのソロマニ人たちは、予備探査で再建途上にあったダリアン文明の存在に気付いてはいましたが、彼らは自分たちだけの社会を築きたいと考えて接触は試みず、代わりに星域内の無人星系への入植を加速させました。
 やがて入植地にティソン、オルクリスト、スティングといった宝剣の名を冠し、「ソード・ワールズ人(Sword Worlders)」と名乗るようになった彼らは、-200年には星域全体の無人世界のほとんどを植民地化し、-186年にサクノス統治領(Sacnoth Dominate)を建国しました。なお、ダリアン人とソード・ワールズ人との接触自体は-265年にマイアの探査船によってなされていましたが、両者の公式な外交関係が樹立されたのは-164年になってからです。

 ゾダーン人も新たな隣人となりました。実は彼らは遥か昔の-2500年頃にスピンワード・マーチ宙域に進出していましたが、ダリアン人の探査隊はゾダーン人と接触することはなく、ゾダーン人も2000年間に渡ってリムワード方面よりもグヴァードンやプロヴァンス宙域方面に目を向けていました。
 -187年になってようやくゾダーン人の商業探検隊がダリアン人と接触し、以後双方は有意義な貿易関係を構築しました。ダリアン人は試作品を分析して再現することに熟達していましたし、ゾダーン人はダリアン人に製造や加工を行わせて購入した方が自分たちがするより利益になったからです。
 しかし20年後、ダリアン人は実は100年前からゾダーン人がソード・ワールズ人と交易をしていたことを知ります。何とゾダーン人は荒廃したダリアン世界を知っていて意図的に避けていて、それどころか長きに渡ってダリアン人の観測を続けていたのです。ダリアン人は、ではなぜゾダーン人が「長い夜」に苦しむ自分たちを人道的に助けなかったのか疑問に思いました。いくつかの分析の後、ゾダーン人がダリアン人を脅威に感じていたことが判明します。太古種族を除いた既知の文明で、誰もかつてのダリアン人が到達した技術水準に至っていないことがその理由と考えられました。
 それからダリアンとゾダーンの関係は相互不信から急速に冷え込み、現在に至っています。

 最後にやって来た隣人は、第三帝国でした。国境を押し進めてスピンワード・マーチ宙域まで来た彼らは、54年にマイアでダリアン人との接触を果たしましたが、その後ソード・ワールズ星域で内戦(グラム=サクノス戦争)が発生したために継続訪問は中断されました。帝国がダリアン圏との公的外交接触を行うのは、内戦終結後の148年まで待つことになります。
 帝国の到来により、スピンワード・マーチ宙域の本格的な開発が始まりました。巨大文明との接触は製品や資源取引の市場を産み出しましたし、ダリアン圏は工業化された星々の安定した政体として帝国の宙域統治にとっても理想的でした。帝国市場を巡ってソード・ワールズとの競争は自然に起こりましたが、ダリアン圏はソード・ワールズより市場規模が小さくても良質の製品を生産していましたし、ソード・ワールズの政情の不安定さも長期契約においてダリアンに有利に働きました。

 ダリアン連合は同種族による経済的連携を目指して結成されましたが、その主な目的は自衛でした。ゾダーンとの規模格差を考えれば、外部からの援助なしに自らを守り切れるとは思えなかったのです。
 隣のソード・ワールズとは経済的に競合相手であり、また彼らはダリアン人を軽蔑していたこともあって、交流関係は不安定でした。ダリアン人にしてもソード・ワールズ人は、メイギズさえなければ本来自分たちの入植地となっていたであろう星々を「横取り」したように映っていました。
 これら2つの仮想敵を考慮すると、打てる唯一の手段は帝国との連携でした。とはいえ当初ダリアン連合は、帝国とは経済面での関係を深めつつも軍事的には中立政策を採用しました。400年代になるとより抑止力の強化の必要性を感じ、新兵器の研究配備を加速させました。
 500年代に入り、宙域の情勢は更に不安定さを増しました。ゾダーンとソード・ワールズは対帝国同盟に入るよう打診してきましたが、ダリアンは中立政策を維持しました。その間にも防衛計画の見直しを続け、細心の注意を払っていました。
 589年、十年来続いていた国境問題が激化し、ついにゾダーンはヴァルグルとソード・ワールズと共同で帝国に攻め込みました。ダリアン人はこの時でも中立を守ることが最善と考えていましたが、ソード・ワールズが事態を一変させました。
 戦前のソード・ワールズはいくつかの政府に分立していましたが、開戦によって海軍の下に統一政府を作って団結しました。更にソード・ワールズ海軍は、ダリアンが中立を宣言しているにも関わらずアントロープ星団(Entropic Worlds)を593年に占拠し、そこにある鉱山を奪い取りました。これにより(※加えてゾダーン海軍による領域侵犯事件もあって)参戦の機運が高まり、ダリアン連合は帝国側についてソード・ワールズを両面から挟む形で戦いに加わりました。
 後に「第一次辺境戦争」と呼ばれるこの戦争は604年に終結しましたが、残念ながらアントロープ星団はダリアンに返って来ず、星団がソード・ワールズ国内の反体制派の流刑地として使われているのを黙って見ているしかありませんでした。

 第一次辺境戦争は、ダリアン社会のもう一つの転換点でもありました。軍事力整備が急がれていた開戦直前、ダリアン圏に新たな種族が訪れました。新たな土地を求めるアスランのイハテイ(第二の息子)艦隊がやって来たのです。
 イハテイらは自分たちの武力を売り込む絶好の相手を見つけ、領土奪還に燃えるダリアン人との利害が一致しました。アスランはダリアン正規軍に組み込まれた他、アスラン系傭兵部隊も雇用されてダリアン軍と合同で戦いました。宇宙ではダリアンの戦艦とアスランの巡洋艦が肩を並べていました。
 アスランは第一次辺境戦争に続く帝国内戦の時代もダリアンを守り、第二次辺境戦争(615年~622年)ではゾダーンに対して帝国軍やダリアン軍と共に戦いを続け、特にアスランの通商破壊船団はゾダーンやヴァルグル領の奥まで潜り込みました。
 彼らのダリアンに対する忠誠心は、金銭ではなく彼らにとって最も価値を持つもので報われました。ロジェ(0427)とアングルナージュ(0425)に広大な土地を得た彼らは、やがてダリアン社会の一員として迎えられ、アスランの方も社会に溶け込んでいきました。

 第二次辺境戦争でソード・ワールズが帝国に領土の半分を奪われる大敗を喫したにも関わらず、アントロープ星団がダリアンに返還されることはありませんでした。帝国が領土奪還のために何もしてくれないことに苛立ったダリアン人は、788年に電撃的にアントロープ星団を武力で奪還しました。この衝撃によって当時の統一ソード・ワールズ政府が崩壊し、不安定な三国同盟に移行しました。ダリアンはアントロープ星団に作られていた何千もの矯正収容所を廃止し、ダリアン連合への亡命を希望するソード・ワールズ人を喜んで受け入れました。積極的なインフラ投資も実り、星団は凍てついた鉱業の星から生産性の高い製造業の星へと変貌していきました。
 800年から826年にかけて、帝国は恐慌に駆られた超能力弾圧を開始しました。ダリアン連合は元々超能力には寛容でしたが、同盟国との関係に配慮してあくまで表向きは抑制的になりました。
 848年にソード・ワールズ星域の三国同盟が崩壊し、4年間の内戦に突入しました。当初ダリアン人からは歓迎されていましたが、政治学者は内戦の末により中央集権的な政府が誕生するのではないかと危惧し、実際にソード・ワールズ連合(Sword Worlds Confederation)の建国でそれは証明されました。

 第三次辺境戦争(979年~986年)では、ダリアン連合は直接参戦するのではなく、帝国軍の後方支援に徹しました。その休戦後、ダリアンは新設計の巡洋艦の建造をアントロープの造船所で始めましたが、それはソード・ワールズ連合側には挑発行為であるように見えました。加えて、帝国がクォー(0808)に新たに海軍基地を設置したことで、両陣営の緊張は更に増しました。クォー基地を将来の脅威とみなしたゾダーンは、ジュエル・クロナー両星域での奇襲攻撃に打って出て、第四次辺境戦争(1082年~1084年)が勃発しました。
 その開戦を口実にしてソード・ワールズ軍はアントロープ星団に攻撃を仕掛け、甚大な被害を受けたダリアン海軍は撤退を余儀なくされました。その際、刑務所星系トーメント(0721)に収監されていた凶悪犯がソード・ワールズ軍によって故意に「解放」され、以後ダリアン領内では海賊攻撃が頻発するようになりました。特に物流や補給網には深刻な影響が出て、停戦までに領土奪還を果たせなかった理由の一つとなったのです。この戦争では代わりにクーノニック(0822)をソード・ワールズから奪還はしましたが、アントロープ星団を失ったことによる求心力の低下は否めず、停戦後すぐにノニム(0322)とコンダリア(0528)が連合から脱退しています。
 この10年でダリアン海軍は、ゾダーンやソード・ワールズからの新たな侵略に備えて帝国からTL15艦艇の提供を受けています(※1012年にもライトニング級巡洋艦2隻を譲渡されています)。ダリアン連合は帝国との緊密な同盟国ではありますが、ダリアン人の間では帝国のストレフォン皇帝にアントロープ星団奪還への意欲が見られないことへの失望の声も聞こえています。
 ダリアンは現在の星図にTL16として記載されていますが、一般的に入手可能な物品はTL12程度です。メイギズの反省から急進的な科学技術の開発は行わず、物品が壊れた場合も新製品の購入ではなく再生利用が社会で重んじられているからです。依然として各地にTL16の施設はありますが、その多くは機能しない観光遺跡であり、技術の複製も戒められています。


(※「デイリーエン」の銀河公用語読みが「ダリアン」です。Traveller5以降「デイリーエン人」の方が正式名称となったようですが、混乱を招かないためにここでは「ダリアン人」を使用しました。また、ダリアン星域の星系名は明らかにダリアン語(Te-Zlodh)ではないため、帝国偵察局が付けた星系名に「翻訳されて」いるのは間違いありませんが、現地でどう呼ばれているかどうかの設定は見当たりません(※唯一の例外が人名由来のルーレですが、ゴールギー・ルーレはおそらくソロマニ人の家系の末裔です))


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #14 (Game Designers' Workshop)
Alien Module 8: Darrian (Game Designers' Workshop)
Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
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ぶらりTL11の旅(4) 『星々を我が手に(These Stars Are Ours!)』暫定レビュー

2017-03-06 | Alternative Universe
(※プレビュー版を基に文章をまとめたので、製品版との差異がある可能性があります)

 Stellagama Publishingから発売された『星々を我が手に(These Stars Are Ours!)』は、2D6 Sci-Fi OGLことCepheus Engine向け(当然ながらトラベラーシリーズも含めて)の設定集です。著者はかつてSpica Publishingで『Outer Veil』を発表したOmer Golan-Joel氏とRichard Hazlewood氏のコンビを主に、挿絵やデッキプランはトラベラー系宇宙船アートと言えばこの人、Ian Stead氏が担当しています。

 Golan-Joel氏が10年間温め続けたというこの設定、3年ぐらい前からその片鱗を見せ始めてついに発売に至ったという経緯があります。この『These Stars Are Ours!』は『Visions of Empire』という一大宇宙史構想の序章にあたる部分で、西暦2260年の地球近傍星域を舞台にしています。

 時は21世紀。人類はそれほど宇宙に興味を示さず、2043年に有人火星探査を行った程度でした。しかし2082年、太陽系の外から「彼ら」はやって来たのです…!
 突如としてレチクル星人(Reticulan)の大きな円盤型宇宙船が地球の大都市上空に現れました。彼らはレチクル座ゼータ星の知的種族であり(見た目は完全にリトルグレイです)、超光速航法技術で既に半径10パーセク規模の、いくつもの知的種族を従える星間帝国を築き上げていました。やがて彼らと地球との間には先進技術導入や星間貿易の推進などの条約が結ばれて、地球も独立国家の集まりから地球連邦管理局(Earth Federal Administration)の治める一極体制に変わりました。しかし、実はレチクル星人の傀儡政権に過ぎないEFAに反発した人々は地球防衛委員会(Terran Defense Committee)を結成して地下抵抗活動を開始し、EFAも「メン・イン・ブラック」と呼ばれる連邦保安機構(Federal Security Apparatus)がTDCの弾圧に向かいました。
 地球人には自治権こそあったものの、実際にはレチクル星人の支配下にありました。EFAは市民の自由を抑圧する一方、近隣の9星系に人類入植地を拡大していきます。
 レチクル星人による植民地支配が始まってから150年が過ぎた2232年、EFAによる不公平な税負担と弾圧に対し、ついに人類は蜂起します。地球や植民地で反乱の火の手が上がり、反乱勢力は団結して地球連合共和国(United Terran Republic)を標榜します。レチクル帝国は反乱の鎮圧を試みますが、反乱に呼応してレチクル帝国の支配下にあった一部種族も反旗を翻し、UTRと手を結びました。加えて、レチクル帝国側も一枚岩でなかったこともあり、2258年にレチクル帝国の前線拠点だったケイド星系の陥落をもって、レチクル側は停戦とUTRの独立を認める屈辱的な講和条約に署名しました。

 ということで、ゲーム『XCOM2』やドラマ『V ビジター』のその後を描いたかのような世界観で、特にATU(Alternative Traveller Universe)でも珍しくジャンプドライブを地球人が自力開発するのではなく外宇宙から新技術がもたらされる、というのが興味深い点です。そのおかげで地球人のTLは12~13程度まで進歩しています。
 『These Stars Are Ours!』は、そんな宇宙で生きるための情報が満載です。200頁超の本書には、今(西暦2260年)に至るまでの詳細な歴史、UTRの統治形態・軍組織、巨大企業、犯罪組織といった設定から、異星人も含めたキャラクター作成ルール、宇宙船のデッキプラン(中にはレチクル星人の600トン拉致船(Abductor)なんてものも)、各星系の詳細設定込みの星域図、12人のパトロン、ニュースサービスまで含まれています。プレビュー版では詳細不明でしたが、どうも超能力やサイボーグ化も解禁されているようです(レチクル支配時代に兵士の生体実験も行われてたらしいですし…)。

 さて、反乱を成功させて新国家を樹立させた地球人ですが、そんな宇宙でプレイヤーキャラクターは何をすればいいのでしょうか。いや、新国家を守るためにやらねばならないことは山ほどあります。経済浮揚のためには貿易商人が必要ですし、植民地の拡大のためにはまず探査をしなくてはなりません。UTRは良くも悪くも寄せ集め集団なので中には不心得者もいるでしょうし、宇宙海賊への対処も悩みの種です。味方になってくれた色々な異星人ともうまく付き合っていかなくてはなりません。そして何よりも、レチクル星人がこのまま黙って見ているはずがありません。「野蛮人」への逆襲の機会を伺って諜報戦を仕掛けているかもしれないのです…。
 つまり、従来のトラベラー型冒険は何でもできてしまうのです。新国家の勃興期らしく、かなり勇ましいイケイケな雰囲気が設定から伝わってきます。宇宙に危険は多いですが、可能性はもっと多いのです。立て人類の男女よ、地球の子らよ…星々を我が手に!
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