宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

レビュー:『Mindjammer: Dominion』

2017-01-20 | Alternative Universe
 『Mindjammer』は、2009年に旧FATEシステムの『Starblazer Adventures』(※宇宙戦艦ヤマトではなく、英国のSF小説原作のRPG)で遊ぶ一世界設定として世に送り出され、2011年には小説版が発売されました。そして現行のFate Coreシステムに載せ替えた新版ルールは2014年に発売され、2015年にはEnnie賞(ベストルール部門)にもノミネートされています。
 『Mindjammer: Traveller Edition』は、2015年末にシナリオ本『City People』への投資をKickstarterで募った際に合計1万ポンド到達の特典として企画されたものです。これは文字通り『Mindjammer』をマングース版トラベラーのシステムに載せたもので、資金募集締め切りの約1年後となる2017年1月11日に、マングース版第2版コアルール対応まで成されて無事発売されました(しかも当初予定の288ページが384ページにまで増やされています)。

 この『Mindjammer』は、今から15000年後もの超未来を描く「トランスヒューマン・スペースオペラ」です。その技術水準は、トラベラー流のテクノロジー・レベルで言うならTL15~18が標準技術、TL19~21が最先端技術という、従来の帝国設定を遥かに超えた宇宙となっています。肉体に機械を埋め込み、遺伝子を組み替えるのも当たり前です。この時代の宇宙船は自意識を持ち(※Fate Core版ではプレイヤーキャラクター化も可能と聞きます)、重力からエネルギーを得られるので燃料補給は必要なく、遅くても100G加速(!)で宇宙を駆け巡ります(ただし超光速に入るにはお約束の重力100倍圏ではなく、星系のヘリオポーズを脱しないといけないらしいので、100G加速でも52時間(※この速度と距離になるとウラシマ効果が発生して主観で50時間)かかります)。
 しかし、人類が太陽系を脱したのがようやく1万年前なのはともかく、超光速航法の開発に至ってはわずか200年前なのです! それまでの人類は光速以下で宇宙に広がっていったので、結果それぞれの星々は全く別々の文化を持つことになりました。また、遺伝子改良などで入植先の惑星の環境に合わせて自らを改造していったので、今や「人類」と言えどもその亜種は多岐に渡っています。加えて、数々の知的異星種族との接触(や交戦)も行われています。超光速航法の開発によって、サブタイトルに掲げられた「第二宇宙紀(Second Age of Space)」の再接触の時代が訪れても、その差異を埋めるのは容易なことではありません。
 『Mindjammer』のテーマは、こういった文化や種族の摩擦を乗り越えて文明の光を宇宙に灯し、再び恒星間社会を再結集させるべく努力を重ねるところにあります。まあそんな堅苦しく考えずに、従来のトラベラー型冒険に勤しんでもいいのですが。

 『Mindjammer』最大の特徴が「マインドスケープ(Mindscape)」の存在です。超能力と精神世界とサイバー空間が一体となったかのようなマインドスケープには、マインドスケープ・インプラントを埋め込むだけで誰もが簡単に出入りできます(そしてインプラントを埋め込むのは当たり前です)。マインドスケープは通信手段であり、膨大なデータ(これには記憶どころか感情や自意識すら含まれます)の格納庫であり、仮想空間でもあります。市民同士はマインドスケープで結びつき、マインドスケープから技能の助力を得、時にはマインドスケープを通して攻撃も行われます。
 キャラクターは耐久力に等しいテクノサイ・ポイント(Technopsi Point)を持っていて、超能力ポイントと同じように一定のポイントを消費して様々なことが行えます。なお、テクノサイには超能力と違って「距離」の概念はなく、相手のIDを知っているか何らかの手段で相手を捜査して識別できれば、どこに居ようとテクノサイの対象にすることができます。一番穏便な使い方としては、仲間がどこに居ようと思考投射(Thoughtcasts)で連絡をつけることが可能なので、もはや「このシーンに君はいないだろ」とプレイヤーを分断するレフリー術は時代遅れです(笑)。

 さて、今回の『Dominion』はクイックスタートルールと導入シナリオがセットになって無料で提供されたもので、早い話が「お試し版」です。ただしクイックスタートルールと言っても、そのルール部分はマングース版第2版コアルールに依存しているので、単体でのプレイは無理です(とはいえ第1版コアルールやCepheus Engineでもどうにかなるとは思いますが…)。
 内容は、コアルールからの変更・追加点、そして作成済みサンプルキャラクター4名を使用した30ページにも及ぶ導入シナリオ「ドミニオン」です。辺境の惑星ヤンドの惑星図込みの詳細な設定や、独特な宇宙船のデッキプランも含まれており、なかなかの読み応えです。

 この惑星ヤンド、UWPこそCA96738-Bとされていますが定義が変わっているので鵜呑みにはできません。直径は旧地球(Old Earth)の2倍、質量は14倍もあるスーパーアースで、重力は何と3.5G。辺境世界なのでTL11の初期星間技術とCクラス宇宙港ではありますが、その宇宙港も「軌道エレベータに支えられたオービタル・リング」なのですから、これが田舎扱いとはさすが超未来。
 ここに居住するヤンド人(Yand)は人類ではありますが旧地球からの直接の入植者ではなく、別の植民星から災害で追われた移住者だと彼らの神話は伝えています。彼らは軌道上に居住して地表の農業植民地を監督していましたが、やがて地上に降りた者たちは高重力と汚染大気に適応したモングート族(Mongute)に分化しました。また、軌道上のヤンド人たちも1000年をかけて軌道居住区を「マンダラ(Mandala)」と呼ばれる軌道リングにまで拡大していきました。
 そして現在のヤンドは地理的要因から敵対しあう大国同士の駆け引きの場となっており、シナリオ「ドミニオン」も敵国(の属国)の工作員に拉致された自国のサイフォース能力者を時間内に奪還するミッションになっています。

 なにぶん従来の常識が通用しない世界設定なので未だに把握に四苦八苦しているのですが(汗)、遺跡探検も再接触も未踏星系探査も交易も戦争も何でもできそうな懐の広い設定なので、レフリーとプレイヤーがしっかり把握できれば十分楽しめそうではあります。もはや魔法と区別のつかない技術文明で遊んでみたい、という方にお薦めです。

(※ただ、相互に共通認識が出来たのであればFate Core版の方が回しやすそうな気もしますが…。トラベラー版のメリットは、キャラシートにデータとデータとデータを書き込まなくてはならないことによって、独特の世界観を「視覚化」することにあるので)
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