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論文)フィトクロム相互作用因子による光屈性の制御

2013-08-28 21:59:12 | 読んだ論文備忘録

PIF4 and PIF5 Transcription Factors Link Blue Light and Auxin to Regulate the Phototropic Response in Arabidopsis
Sun et al.  The Plant Cell (2013) 25:2102-2114.
doi:10.1105/tpc.113.112417

フィトクロム相互作用因子(PIF)は、光形態形成におけるシグナル伝達を担うbHLH型転写因子である。最近の研究では、PIFは種子発芽、高温応答、避陰反応、概日時計の制御にも関与していることが知られている。また、PIF4PIF5 を過剰発現させたシロイヌナズナ芽生えは青色光照射による胚軸の光屈性が低下することが報告されている。中国科学院 遺伝学発生生物学研究所Li らは、シロイヌナズナpif4 変異体、pif5 変異体の芽生えは光屈性応答が強まり、pif4 pif5 二重変異体は単独変異体よりも強い応答性を示すことを見出した。よって、PIF4とPIF5は胚軸の光屈性に対して冗長的に負の制御を行なっていることが示唆される。光屈性に関与しているフォトトロピン光受容体PHOTOTROPIN1(PHOT1)のT-DNA挿入変異体phot1 は光屈性が見られなくなるが、phot1 pif4 pif5 三重変異体もphot1 と同じ応答性となることから、PIF4とPIF5は光屈性シグナル伝達においてPHOT1による青色光受容の下流で機能していることが示唆される。芽生えを青色光照射するとPIF4PIF5 の発現が誘導され、この発現誘導はphot1 phot2 二重変異体でさらに強まることから、PHOT1とPHOT2は青色光照射によって誘導されるPIF4PIF5 の転写を抑制していると考えられる。青色光照射によるPIF4PIF5 の発現誘導はphyA 変異体では減少しており、この発現誘導はPhyAによって正に制御されていると考えられる。したがって、フォトトロピンとフィトクロムは青色光によるPIF4PIF5 の発現誘導に対して異なる作用を示す。青色光照射によるPIF4PIF5 の発現は、光屈性において光受容が行なわれているとされている胚軸先端部において見られた。以上の結果から、PIF4PIF5 は負のフィードバック制御によって光屈性を微調整する青色光応答遺伝子であることが示唆される。オーキシン応答マーカーDR5rev:GFP を発現させた芽生えに青色光を照射すると、胚軸の光の当たっていない側でDR5 活性が強くなるが、PIF4 を過剰発現させた芽生えではDR5 活性の不均等分布は起こらなかった。よって、PIF4は胚軸の光屈曲をもたらすオーキシンの不均等分布を抑制していると考えられる。PIF4 過剰発現個体は子葉でのDR5rev:GFP の発現が野生型よりも弱いことから、PIF4はオーキシンシグナル伝達を抑制しているものと思われる。PIF4 過剰発現個体は、オーキシン処理によるDR5:GUS レポーターや、オーキシン応答マーカー遺伝子のIAA5GH3 -like の発現誘導が野生型よりも弱くなっていた。また、オーキシン(2,4-D)処理による胚軸伸長が、pif4 pif5 変異体では促進され、PIF4 過剰発現個体では抑制されていた。したがって、PIF4、PIF5はオーキシンシグナル伝達を負に制御しており、このことが光屈性に影響を及ぼしていると考えられる。オーキシンのシグナル伝達はAux/IAAによって負に制御されており、Aux /IAA ファミリー遺伝子のIAA19IAA29 のプロモーター領域にはPIFタンパク質の結合するG-boxモチーフ(CACGTG)が含まれている。クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイやゲルシフトアッセイから、PIF4はIAA19IAA29 のG-boxモチーフに直接結合することが確認され、IAA19IAA29 の転写産物量はPIF4 過剰発現個体では野生型よりも多く、pif4 pif5 二重変異体では少ないことがわかった。したがって、PIF4はIAA19IAA29 のプロモーター領域に結合して、これらの遺伝子の転写を活性化していると考えられる。PIF4 を過剰発現させたiaa19 iaa29 二重変異体は、オーキシン処理によるDR5:GUS レポーターの発現が野生型と同等となり、光屈性も示した。よって、PIF4によるオーキシンシグナル伝達や光屈性の制御にはIAA19とIAA29が関与していると思われる。青色光照射による光屈性応答は、IAA19IAA29 の過剰発現個体では野生型よりも弱く、iaa19 iaa29 二重変異体では強くなっていた。したがって、IAA19とIAA29は胚軸の光屈性を負に制御していることが示唆される。転写活性化因子のAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF7)は、光屈性の正の制御因子であり、IAA19はARF7と物理的相互作用を示してARF7の活性を阻害することが知られている。そこで、IAA29もARF7との相互作用を示すかを酵母two-hybridアッセイによって調査したところ、IAA29はARF7のC末端側ドメインと相互作用をすることがわかった。また、ルシフェラーゼ相補イメージング(LCI)アッセイによってARF7とIAA19、IAA29は生体内において相互作用を示すことが確認された。暗所育成芽生えに青色光を照射すると、照射15分後にはIAA19IAA29 の一過的な発現抑制が見られ、60分後には発現が最小となるが、その後は発現が上昇していった。この青色光によって誘導されるIAA19IAA29 の発現量はpif4 pif5 変異体では野生型よりも低く、PIF4、PIF5は青色光照射によるIAA19IAA29 の発現制御に対して正の効果がると考えられる。ARF7 の発現は青色光やPIF4/PIF5による制御は受けていなかった。青色光照射によるIAA19IAA29 の発現誘導量は、arf7 変異体では野生型よりも低く、この発現誘導にはARF7も関与していることが示唆される。以上の結果から、PIF4、PIF5は、光屈性における光シグナルとオーキシンシグナルとの間を仲介する転写因子として機能していると考えられる。

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