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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)サイトカイニンによる花器官サイズの制御

2011-03-15 20:53:33 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin Regulates the Activity of Reproductive Meristems, Flower Organ Size, Ovule Formation, and Thus Seed Yield in Arabidopsis thaliana
Bartrina et al.  The Plant Cell (2011) 23:69-80.
doi:10.1105/tpc.110.079079

シロイヌナズナにはサイトカイニンを分解するサイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ(CKX)をコードする遺伝子が7つあり、それぞれ発現領域、細胞内局在、生化学的性質が異なる。ドイツ ベルリン自由大学Schmülling らは、そのうち5つ(CKX2CKX3CKX4CKX5CKX6 )についてT-DNA挿入により機能喪失したホモ系統を確立したが、それらの変異体では形態変化が観察されなかった。そこで、様々な二重変異体ホモ系統を作出したところ、ckx3 対立遺伝子を含む二重変異体では花の数が増え花序分裂組織の活性が高まることがわかった。特に、ckx3 ckx5 二重変異体において強い変化が見られたことから、この二重変異体について詳細な解析を行なった。ckx3 ckx5 変異体は野生型よりも大きな花序分裂組織を形成するが、分裂組織表面の細胞は小さいことから、細胞数の増加が分裂組織の肥大をもたらしていると考えられる。一方、CXK1 を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナは花序分裂組織が非常に小さくなった。よって、CKX3CKX5 は花序分裂組織の大きさと活性を負に制御していることが示唆される。ckx3 ckx5 変異体ではしばしば長角果の茎での並び方が不規則となった。これは分裂組織の肥大により原基を形成する位置もしくは時期を制御するシグナルに異常が生じたことによるものと思われる。ckx3 ckx5 変異体の茎は野生型よりも太く、これはサイトカイニンが影響していることが知られている形成層の活性増加によるものと思われる。ckx3 ckx5 変異体花序では生物活性のあるtrans -ゼアチンおよびtrans -ゼアチンリボシドが野生型の約4倍含まれており、CKX3CKX5 は花序のサイトカイニン量を調節することで分裂組織活性を制御しているものと考えられる。ckx3 ckx5 変異体の花は野生型やckx 単独変異体の花よりも大型化していた。これはサイトカイニンが花器官成長過程の細胞分裂の期間を延長させて細胞数が増加したことによると考えられる。ckx3 ckx5 変異体の雌ずい群は野生型の約2倍多く胚珠があり、胎座の活性が高いことが示唆される。変異体の雌ずい群は胚珠が密に詰まっており、そのために変形した胚珠が見られた。変異体の長角果は野生型よりも長く、種子数が多く、全種子生産量は野生型植物よりも55%増加していた。CKX3 転写産物は花序分裂組織や花分裂組織の中心部で検出され、これはWUSCHELWUS )の発現部位と一致している。しかしながら、CKX3 の発現は花の発達過程においてWUS の発現時期よりも遅い。CKX5 は花序の茎や花の前形成層で強く発現し、花序や花の分裂組織でも弱い発現が見られ、雌ずい群の発達過程では胎座において発現が見られた。ckx3 ckx5 変異体の茎頂分裂組織ではWUS の発現している領域が拡張しており、サイトカイニンはWUS 発現領域の大きさを、そしてWUS 発現量を制御していることが示唆される。シロイヌナズナの根の維管束の形成過程においてサイトカイニンシグナルを阻害することが知られている偽リン酸転移タンパク質をコードするARABIDOPSIS HISTIDINE PHOSPHOTRANSFER PROTEIN 6AHP6 )の変異体ahp6 は、花序分裂組織が僅かに大きくなるが、ahp6 変異とckx3 変異、もしくはckx3 ckx5 変異を組み合わせるとさらに花序分裂組織が大きくなり、花原基数も増加した。しかしながら、花の大きさや雌ずい群当りの胚珠数はckx3 ckx5 変異体とckx3 ckx3 ahp6 変異体の間で差が見られないことから、AHP6はこれらの形質の制御に関与していないと考えられる。

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