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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ブラシノステロイド生合成調節因子

2011-03-31 23:04:22 | 読んだ論文備忘録

CESTA, a positive regulator of brassinosteroid biosynthesis
Poppenberger et al.  The EMBO Journal (2011) 30:1149-1161.
doi:10.1038/emboj.2011.35

ブラシノステロイド(BR)の生合成は植物体内のBR量を調節する機能を担っていることが知られているが、その制御機構は明らかではない。オーストリア ウィーン大学マックス ペルーツ研究所(MFPL)Poppenberger らは、シロイヌナズナT-DNA挿入優性変異体cesta-Dces-D )を単離した。この変異体は芽生え胚軸の成長がよく、ロゼット葉は葉柄・葉身が長く、鋸歯があり、外側に向かって曲がって上を向き、cestaのような形となる(cestaはスペイン語でバスケットの意で、ここではバスク地方で行なわれている球技ペロタで用いるラケットのようなものを指している)。ces-D 成熟個体は腋芽がよく発達して二次ロゼットを形成して多くのロゼット葉と花序をつける。また、花成と老化が野生型よりも遅くなる。ces-D 変異体においてT-DNAは第1染色体上のbHLH転写因子をコードする遺伝子(At1g25330)の5'非翻訳領域の翻訳開始点から152 bp上流に35Sエンハンサーエレメントを開始コドンに向けて挿入されており、挿入部位には6塩基の欠失が見られた。ces-D 変異体でのAt1g25330 遺伝子の発現は野生型よりも高く、At1g25330 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナはces-D と類似した表現型を示した。よって、CES の過剰発現がces-D 変異体の表現型をもたらしているといえる。bHLH転写因子はシロイヌナズナゲノムに160以上あり、CESはbHLHサブファミリー18に属するbHLH075と命名されている。CESと相同性の高いホモログにbrassinosteroid enhanced expression 1(BEE1)とBEE3があり、これらはBR初期応答遺伝子に属し、互いに機能重複してBR応答の正の調節因子として機能していることが知られている。よって、CES もBRシグナルに関連したbHLH転写因子をコードしていることが推測される。CES は植物体のすべての器官で発現しており、特に若い組織や維管束での発現が強い。そしてこの発現パターンはCPDROT3 といったBR生合成酵素遺伝子の発現領域と重複している。ces-D 変異体のBR量を測定したところ、3-デヒドロ-6-デオキソテアステロン(6-Deoxo3DT)、6-デオキソティファステロール(6-DeoxoTY)、ティファステロール(TY)の含量が減少し、6-デオキソカスタステロン(6-DeoxoCS)、カスタステロン(CS)といった生合成経路後半の代謝産物の含量が増加していた。また、ces-D 変異体ではBR生合成に関与するDWF4CPDROT3 の転写産物量が増加していた。T-DNA挿入によりCES が機能喪失したces-1 変異体は、成熟個体ではBR欠損の表現型は示さないが、芽生えでは胚軸が短く、DWF4ROT3 転写産物量が減少しており、24-epiBLを添加することで胚軸伸長が回復した。以上の結果から、CESはBR生合成の正の調節因子として機能していると考えられる。ces-D 変異体において発現量が変化している遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析したところ、370遺伝子の発現量が上昇し、572遺伝子の発現量が減少していた。さらにces-D 変異体において発現量が上昇する遺伝子のプロモーター領域にはbHLHタンパク質が結合することが知られているG-boxモチーフ(5'-CACGTG-3')が見られた。ces-D 変異体において発現量が上昇し、プロモーター領域にG-boxモチーフを含んでいるCPD 遺伝子やCYP718 遺伝子についてクロマチン免疫沈降試験を行ない、これらの遺伝子プロモーター領域のG-boxモチーフにCESが結合することが確認された。CESタンパク質は核内に分散して局在しているが、BR処理をすると核内で斑点状に局在することがわかった。このCESタンパク質の斑点状の局在は、BRシグナルを恒常的に活性化するビキニン(Bkn)処理によっても観察されることから、この現象はBRシグナルによって制御されていると考えられる。bHLHタンパク質は二量体を形成することから、酵母two-hybrid法によりCESのタンパク質相互作用を調査したところ、CESはCES、BEE1、BEE3と相互作用することが確認され、BiFC法によりCESとBEE1は生体内においても相互作用することが示された。CESはBIN2によってリン酸化されることがin vitroキナーゼアッセイにより確認されたが、リン酸化はCESのDNA結合能に変化を起こさないことから、このリン酸化はBES1やBZR1とは別の意味があると考えられる。

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