非国民通信

ノーモア・コイズミ

非正規雇用を取り巻く現実と世迷いごと

2012-03-27 22:43:00 | 雇用・経済

初職場「正規」は結婚率高く=28~42歳の男女1万人余調査―厚労省(時事通信)

 学校を卒業したり中退したりした後に、初めて就いた仕事が正規の社員や職員だった人は、非正規の人と比べて結婚する割合が高くなっていることが21日、厚生労働省が公表した「21世紀成年者縦断調査」で分かった。同省は「安定した雇用、収入が期待できる正規の社員、職員に卒業後すぐに就くことが、結果的に結婚にも有利に働いた可能性がある」としている。

 調査は2002年10月にスタート。毎年、同じ人を対象に質問票を郵送している。9回目となる今回は10年11月3日に実施し、当時28~42歳だった全国の男女1万3063人から回答を得た。

 今回は、初めて就いた職を尋ねた03年調査時点で、正規か非正規かが判明した男女1万77人を分析。正規だった人のうち、男性は66.7%、女性は74.7%が結婚していた。一方、非正規で結婚したのは、男性が40.5%、女性は59.4%にとどまった。 

 

 こういう「その後」までを追った調査には好感が持てますね。その場限りで投げっ放しのいい加減な調査も目立ちますから。何はともあれ、卒業もしくは中退後に初めて就いた仕事が正規か非正規かで、結婚割合に大きな差が出たことが伝えられています。最初はフリーターでも後に正社員として働くようになる人もいるわけですが、一口に正社員と言ってもピンキリです。新卒ならば「マトモな」会社の正社員として働く人が多い一方で、元フリーターや派遣社員を正社員として雇うところとなると、どうしてもブラック色の濃いところになりがちなのでしょう。結局、新卒時点での差は挽回されないと言うことです。社会が成熟すればするほど人生が決まるタイミングは後になると何度か書いてきましたが、日本の場合は卒業/就職の時点が決定的な転機になるようです。

 

契約社員も上司も追い詰める“改悪法”の実態
ホントに困っている人たちの声に耳を傾けているか(日経BP)

 そう。3月16日、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会が、小宮山洋子厚労相に答申した労働契約法改正案の要綱についてだ。同じ職場で5年を超えて働く有期契約のパートや契約社員について、本人が希望した場合に契約期間を限定しない「無期雇用」、すなわち、正社員に転換することが盛り込まれた。
 
 現在の労働契約法は有期雇用について、1回の契約で働ける年数を原則3年以内と定めているが、契約更新を重ねた場合の上限規定はない。それを改めて、新たに有期雇用の通算期間の上限を5年に設定し、それ以上は「正社員へ」との道筋を示したわけだ。

 

 さて労働者派遣法の改正に関しては「野放し状態を堅持する」との結論が下された一方、「有期雇用の通算期間の上限を5年に~」という指針もありました。元より現行の派遣法では派遣契約期間に定めのない政令26業務というものがあって、まぁホワイトカラーの派遣の場合はだいたいがここに該当するもので、私自身も26業務「しか」やったことがないのですけれど、3年以上の長期にわたって契約が更新されたことは一度もありませんし、そんなに長く同じ職場での契約更新が続いた人は知り合いに一人もいません。パートや契約社員を含めたって5年とは暢気な話に思えますが、民主党ではその辺が限界なのでしょう。ともあれ、雇用形態の如何に関わらず3年なり5年なりの期間にわたって任せるべき仕事が存在するなら、それは臨時的な雇用ではなく恒常的な雇用、即ち正規雇用にしても変わらないわけです。しかし、非正規への置き換えが自己目的化している人にとってはその限りではありません。全ては雇用主の御心のままにと信じている人からすれば、なんであれ雇用に規制を設けるのは許しがたい冒涜に映るようです。

 

 例えば、リーマンショックの後、連日メディアで取り上げられた「派遣切り」。その「派遣切り」を防ぐという名目で、製造業への派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案が2010年の通常国会に提出されたことがあった。
 
 ところが、「派遣社員」を守るためのルールであったにもかかわらず、派遣社員の労働市場は安定するどころか、「雇ってもらえない」ようになってしまった。多くの企業が派遣社員を減らし、パートやアルバイトを増やしたのだ。
 
 2009年で108万人だった派遣社員は、96万人にまで減少。一方、パートやアルバイトは、1153万人から1192万人に増加した。さらには、「派遣切り」と非難されることへの危惧が、円高や節電といったほかの要因以上に製造業の海外進出に拍車をかけているとの指摘もある。
 


 言うまでもなく、製造業派遣(それから登録型派遣も)を原則禁止する規定は案として存在しただけで最終的には削除されました(シナリオ通りの展開と言ったところでしょうか)。案に含まれていただけで法律として施行されたことがない規定の影響で派遣社員が減ったと訴えるのも奇妙な話です。加えて、ここに挙げられた数値はいかがなものでしょう、「108万人だった派遣社員は、96万人にまで減少」「パートやアルバイトは、1153万人から1192万人に増加」したことが伝えられています。派遣は12万人減ったのに対し、アルバイトは39万の増加、合計ではむしろ雇用が増えているわけです。もちろん、正規雇用の増減を考えなければ意味がないところではありますが、ともあれ非正規カテゴリの中では間接型の雇用から直接雇用へとシフト傾向が見られると言えます。

 しかるに、この数値を元に「派遣社員が雇ってもらえないようになってしまった」などと引用元の作文には書かれています。いったい、どういう考え方をしたら、そういう結論に到達できるのでしょうか。初めに結論ありきでものを書いているとそうなってしまうのかも知れませんけれど、せめて印象操作に走るなら派遣社員の減少分だけを提示するなどの細工をした方がいいように思います。繰り返しますが、引用元で挙げられたデータでは「雇用は増えている」、しかも「直接雇用が」増えているのですから。持ち出されたデータを元に考えるなら、派遣規制は有効に作用していると結論を出した方が自然なくらいです(繰り返しますが、正規雇用から非正規雇用へのシフトという側面を勘定に含めない限り正確なことは言えません)。

 

 さらに、「不満がある」と答えた人にその理由を尋ねたところ、トップは、「頑張ってもステップアップが見込めないから」(42.0%)、次いで「いつ解雇・雇止めされるかわからないから」(41.1%)、「賃金水準が正社員に比べて低いから」(39.9%)となっている。
 
 つまり、厚労省の作業部会が参考にしたという「契約社員の実態調査」から考えても、即座に改善が求められるのは、正社員との格差問題と言っても過言ではない。

 

 そして輪をかけて理解に苦しむのが、この行です。有期雇用契約であることに起因する「いつ解雇・雇止めされるかわからないから」が41.1%を占めているにも関わらず、どうやったら「即座に改善が求められるのは、正社員との格差問題」との結論に飛躍できるのでしょうか。まぁ、初めに結論ありきで書いている人にとって、着地点は決まっているものなのだとは思います。確かに正社員との格差もまた問題であり即座の改善が求められますけれど、だからといって非正規であるが故の安易な雇い止めのリスクの問題を後回しにすることが許されるのか、賃金格差の問題を重視するフリをして非正規雇用の問題をどこかに追いやろうという意図の見え見えなお為ごかしには、苛立ちを覚えるばかりです。正規化か格差是正かの二者択一を迫るのは悪質なミスリーディングでしかありません。

 そもそも非正規で働く人も千差万別です。たとえば旦那が正規雇用で自分はあくまで家計扶助的な立場で働きたい人と、自分の稼ぎで暮らさなければならない人、前者であれば派遣やパートなど非正規雇用は使い勝手がいいのかも知れませんが、後者にとっては全く別です。あるいは、まだ若くて責任を負わされる職よりは楽な仕事でいたい人と、トウが立ってきて将来への目途を付ける必要を感じている人、前者であれば派遣や契約社員は悪くない選択しかも知れませんけれど、後者にとっては全く違うわけです。そして「ホントに困っている人たち」とは、それぞれ前者と後者のどちらなのか? 派遣法を本来の趣旨に戻すことへ頑なに反対している人たちが目を背けているのは、その辺です。

 しばしば、というより私の個人的な経験からすれば「必ず」ですけれど、派遣でもアルバイトでも「できるだけ長く働いて欲しい」と当初は言われるものです。しかし、切られるときは切られます。そして毎回、もっと若い人が代わりに雇われたりしますね。私と同姓代のいわゆる氷河期世代にはいまだに「中高年は若年層に席を譲れ」的な主張を繰り広げる人がいますが、派遣社員の世界で氷河期世代といったらむしろ年寄りの部類、より若い人に席を譲らされる年代ですから! それはさておくにしても、まだ若く経験に乏しい人の中には、「できるだけ長く働いて欲しい」との派遣先企業の声を本気にして、派遣法の規定がなければ「永遠に非正規のまま」雇い続けてもらえると信じているナイーブな人も少なくないと思います。一方で、齢を重ねて切られることに慣れている人もいることでしょう。後者であれば、非正規でいる限り必ずや切り捨てられるときがあると理解しているものですが(正規雇用だって切られるときは切られるというのはさておき)、前者は違います。その違いが、派遣法改正への反応を「割る」ことにも繋がっているはずです。

 育休取得者のせいで「正直者」が犠牲を強いられると説くような論者にとっては(参考)、正社員に育休の権利を行使されるより、非正規雇用で勤務時間を減らして子育てをしてもらいたいというのが本音なのかも知れません。育休取得に周囲の理解がなく、それでいて子供に手間がかかるとあらば正規でフルタイムの就職は至難、ならば非正規で……みたいな流れが期待されているわけです。こういうところで非正規雇用のニーズは作られ、そうした人々の回答結果から「非正規雇用を望む人も多い」みたいな調査結果が作られるものでもあります。しかし、それでは「ホントに困っている人たち」は埋もれてしまうのではないでしょうか。相異なる立場の人が回答した結果を均質化して「非正規雇用を望む人も~」といった結論が出されることによって、非正規では困る人の存在は隠されてしまいます。もちろん、調査する側は意図して隠しているのかも知れませんけれど!

 

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