非国民通信

ノーモア・コイズミ

他の自治体でも探せば出てくる気がする

2021-12-26 22:56:34 | 社会

ケースワーカーが精神障害がある男性に「知能が足んない」 市が陳謝(朝日新聞)

 東京都八王子市の30代のケースワーカーの男性職員が、精神障害がある男性(41)から相談を受けた際、「自殺未遂したからって容赦しねえぞ」「知能が足んない」などと発言していたことがわかった。男性は20日、市に対応改善などを求める意見書を提出。市は陳謝した。

 男性の代理人弁護士らによると、男性は11月、受給する生活保護の法解釈などをめぐって市役所窓口で職員と話した後、パニック発作を起こし、庁舎内で自殺を図った。12月1日、男性は改めて市に電話し、職員とのやりとりを録音した。

 職員は「何、うそついてるんだよ。いい加減にしろよ、お前よう」「自殺未遂したからってな、容赦しねえぞ」と繰りかえした。「自分に頭が足んないって分かってるんだったら、おとなしくしてなよ」「知能が足んないってことだよ」とも述べた。凶悪犯罪者と男性を結びつけるような発言もあった。

 職員は生活保護受給をめぐる収入認定についても、「自殺未遂しようと何しようが変わんない」として、誤った解釈を押し通した。

 男性は「間違った説明をされた上、人格を否定され、あおられ、精神的苦痛を感じた」と話す。市側は「申し訳ない発言だった。あらためて職員に対して研修を行いたい」と述べた。(高田誠)

 

 色々と思うところはありますが、この30代のケースワーカーは正規職員なのか非正規なのかも気になりますね。生活保護の打ち切りや申請の拒絶など、水際作戦の成果次第で次年度の契約が左右される立場であったなら、同情しないでもありません。生活保護の給付を阻止できず自治体の財政に損害を与えたとして、評価を下げられ職を失う非正規職員も結構いるでしょうから。

 「市は陳謝した」「職員に対して研修」云々とのこと、生活保護受給者を巡る処遇であれば、これぐらいが相場のようです。過去には小田原市で職員が生活保護受給者を罵倒する文面の入ったグッズを製作・販売し、受給者訪問時の着用も10年ばかり続けていたなんてことがありました。これが問題視されるようになったのは2017年のことですが、市はグッズを製作した職員を処分しない方針を表明するなど、生活保護受給者相手であれば許される、というのが行政の認識なのだと思われます。

参考、【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。(稲葉剛公式サイト)

 この小田原市でも当時、生活保護制度について誤った説明を市の公式ホームページに掲載しており、上記のグッズ製作が報道され問題視されてから慌てて正しい記載に修正するなどあったようです。小田原固有の問題でないであろうことは、今回の八王子の事例からも窺われます。虚偽の説明を行ってでも生活保護は退けたいというのが自治体の統一見解なのでしょう。

 何らかの事件で関係者の「人となり」が報道されることはよくあります。しばしば被害者側の故人が、ちょっと気持ち悪いレベルで肯定的に持ち上げられていたりするものですけれど、今回のケースワーカーの場合はどうだったのか興味深いところです。水際作戦のエースとして市からは高く評価されていなかったか等々、報道各社にはそこまで突っ込んで欲しい気がします。

 なお「知能が足んない」と市の担当者が受給者を評価しているわけですが、本当にそうであるならば生活保護受給にふさわしいと言えます。有能なら就職してくださいという話になりますが、逆なら拒む理由はないでしょう。ただ、実際には代理人弁護士を立てたり発言を録音したりと、それだけの行動力があって始めて生活保護受給にたどり着けたんだろうな、という解釈も出来ます。

 本当に無能なら、役所の窓口を突破できないのが現状です。結果として生活保護水準以下の──健康で文化的な生活を送るには無理のある──賃金で働く人もいれば餓死する人もいる、これが我が国の社会保障です。そして行政サイドが水際作戦に励む一方、民間でもあれやこれやと不正受給のエピソードを語り伝えては生活保護受給者の社会的評価を貶めていくことで、行政を間接的に支えてきたとも言えないでしょうか。

 先日は、まず日本は「普通の資本主義」を目指すべきと書きました。我が国の普通ではない資本主義の特徴の一つに著しい失業率の低さが挙げられます。日本という不思議の国では、不況なのに失業率は低いまま、失業率は低いけれど国民の所得水準は高くない、完全雇用に等しい状況が続く期間ですらGDPも給与も全く伸びない等々、資本主義の常識は全く通用しないのです。

 原因の一つに、生活保護水準を下回る低賃金の仕事が市場に溢れており、そこで働く人が多いことが挙げられます。中には生活保護の申請を申請を拒まれた人もいる、生活保護受給者に向けて作られたネガティブなイメージを信じ、そうなりたくないと思って、より取り分の少ない職を選んでしまった人もいることでしょう。取り敢えずこれが健全であるとは、私は思いませんね。

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新しい資本主義

2021-12-19 22:28:46 | 政治・国際

 我々は独自の世界を建設している。新しい理想郷を建設するのである──とは、ポル・ポト政権下で唱えられたスローガンとして知られています。まぁ、独自であることと新しさに関しては、かけ声倒れとならず達成されたと評価できるのではないでしょうか。なにしろスターリン時代のソ連や毛沢東時代の中国ですら、民主カンプチアには及ばないですから。

 ドナルド・トランプ前大統領も「新しさ」という面では認められるべきと言えます。日本の政治家の中にはトランプの先駆者と呼びうる人物が少なからず思い当たりますが、少なくともアメリカ大統領の歴史の中でトランプは今までに例のない、すなわち新しい政治家でした。冷戦の精神から脱却できない古いバイデンとは対照的ですね。

 ただ「新しい」という言葉は総じて肯定的なニュアンスと結びつけられます。とりわけ政治の場では、古いものは断罪され、新しいものに置き換えられることが良いことであると、そう受け止められているものではないでしょうか。だから自分が良くないと思うものは古いものと位置づけ、あくまで良いものとして新しさを求め続ける人もいるわけです。

 岸田首相は「新しい資本主義」を提唱しています。では、その対になるものは何なのでしょう。「今の」そして「日本の」資本主義が進むべき進路として「新しい資本主義」が掲げられているものと思われますが、では現代日本の資本主義は「古い」ものなのでしょうか。何がどう新しいのかも問われますが、そもそも新しければ良いのか、という話もあります。

 紛争国を別にすれば、日本以外の国はGDPだけではなく賃金水準も中長期的には上昇を続けてきました。30年前に日本と肩を並べていた先進国も、30年前は一人当たりGDPが日本の十分の一以下だった途上国も、日本と同様に少子高齢化が進んでいる国も、いずれも経済成長を続け国民の所得も増えています。それがグローバルスタンダードというものなのでしょう。

 一方の日本は、ほぼ4半世紀にわたりGDPが横ばいを続け、給与水準に至っては主要国中で唯一の低下を見せています。もちろん紛争国など日本と同様の低成長国は存在しないでもありません。ただ内戦が勃発したわけでもないのに成長しない国は日本だけとも言えるわけで、これは間違いなく独自の、そして前例がないという意味では新しさすら醸し出すものです。

 たぶん、日本は既に独自の世界を建設してしまったのだと思います。我々は今、橋本龍太郎や小泉純一郎、竹中平蔵の思い描いた新しい理想郷の中に生きているのではないでしょうか。改革の旗の下、グローバル化と戦い続け諸外国とは異なる独自の資本主義を築き上げた、その結果が世界に類を見ない賃金水準の下がり続ける成長しない国家です。

 この状態から生み出される「新しい資本主義」がどうなるのか、現時点では今ひとつ具体的なビジョンが見えません。ただ私には、まず「普通の資本主義」を目指すべきのが先決であるように思われます。他の国のように成長する、他の国のように賃金が上がる、他の国と同じような当たり前の資本主義に辿り着くのがまずは第一歩となるはずです。

 マルクスにしても、「新しい」世界である共産主義は、資本主義の後に来るものと位置づけていました。だから八十年代後半の日本や北欧の福祉国家等こそが、むしろ共産主義に近いと評価されることもあったわけです。しかるに共産主義を掲げる勢力が権力を掌握したのは専ら資本主義の段階において立ち後れていた国ばかりで、その結実は単なる党独裁であり、マルクスの理想から遠いものだったのは言うまでもないでしょう。

 何事も階段を飛び越えては実現できない、新しいステージに進めるのは資本主義のトップランナーになってこそ、なのかも知れません。では今の日本に「新しい」資本主義の段階に進む能力があるのかどうか、私は大いに疑問です。それは資本主義を飛び越えて共産主義へのジャンプを目指した国と同じで、どこかに歪みは出るものであり、まずは「普通の」資本主義に追いつくことが先決であるように思います。

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アビガン、タミフル、放射能、ワクチン

2021-12-12 22:39:13 | 社会

 「(タミフルを)5日間ほど飲み放題飲んだ。異常言動に走るかも知れないが、大きな心で受け止めてほしい」──とは、2007年の当時は飛ぶ鳥を落とす勢いであった宮崎県知事・東国原英夫氏の言葉です。このタミフルについては服用した児童が窓から飛び降りて死亡するなどの事例が報告されたことから、飲むと異常行動を引き起こすとのイメージが幅広く定着、自治体の首長などの間でもそれが共通認識となっていました。

 実際のところ、子供やインフルエンザなど高熱を発しているケースでは一定の確率で異常行動は見られ、その頻度がタミフル服用によって増加することはない、タミフルを飲んでも飲まなくても異常行動を起こす可能性は変わらないことが現代では判明しています。しかるに世間一般の認識はどうでしょうか? 今でもタミフルに関して、そのまんまの認識でいる人は少なくない気がします。

 

コロナ患者にアビガン不適切投与、厚労省が指導 千葉の医療機関(朝日新聞)

 千葉県いすみ市の公立病院「いすみ医療センター」で8~9月、新型コロナウイルスの治療薬としては未承認の抗インフルエンザ薬「アビガン」が、厚生労働省が定めたルールに反する形で、自宅療養中のコロナ患者90人超に処方されていたことがわかった。厚労省は11月25日付で同センターに状況報告などを求める指導をした。健康被害は確認されていないという。

 アビガンは昨年10月にコロナ治療薬として承認申請されたが、明確な有効性が示されないまま審議が継続中。医療従事者の間でも評価が定まっていない。

 このため、コロナ患者への投与は「観察研究」という枠組みで実施されている。厚労省は、研究名目で、患者の同意を前提に、投与状況が管理しやすい入院患者に限って使用を認めている。動物実験で胎児に奇形が出るおそれがあるとされ、妊娠可能性のある女性や妊娠させる可能性がある男性への使用には注意が必要だからだ。観察研究をまとめる藤田医科大によると、7月1日時点で、全国869医療機関で約1万5千人に投与されている。

 

 個別の事例によってマイナスのイメージを負わされたタミフルとは対照的に、プラスのイメージを付与されたのがこのアビガンです。言うまでもありませんが、新型コロナウィルス感染から回復した人の中にアビガンを投与された人がいたことから、ある種の人々の間でコロナの特効薬として信奉されるようになったものです。ただアビガン投与の有無によって回復程度が異なると判断できる材料はなく、コロナ治療薬として公的な地位を得るには至っていません。

 「犯罪者の98%はパンを食べている」なんてジョークがあります。犯罪者の98%がパンを食べているという客観的事実はありそうなものですけれど、しかし犯罪とパン食の間に因果関係を求める人は稀でしょう。ただ、容疑者の自宅にゲームやアニメが発見されれば、そこに犯罪との関連を認定する人は少なくありません。結局のところは「人の選択次第」とも言えます。

 あるいは反ワクチンのように、諸々の症例の原因をワクチン接種の副反応によるものだと「特定」する人もいます。人体とは何もしていないように見えても、どこか悪くなっていくものですが、そうした症状を化学物質のせいにしたり放射能のせいにしたり、自己診断して結局は医療ネグレクトになっている人もいるわけです。それはいつも食べているパンのせいかもしれないし、思いもよらぬ原因が別にあるかも知れないのですが、何を原因とするかはしばしば個人の信条に左右されがちではないでしょうか。

 コロナに限らず、安静にしていれば病気が治ることは少なくありません。鰯の頭でもレメディと称した砂糖玉でも、治るときは治ります。ただ、民間療法や代替医療を信奉するあまり、逆に適切な医療から遠ざかるケースも散見されるだけに、鰯の頭や砂糖玉のように無害に見えるものですらもが時には危険になってしまうこともあるようです。

 ましてやアビガンのように顕著なリスクも確認されている薬剤の評価ともなれば、その利用には慎重になってしかるべきでしょう。(他に手の打ちようがないので)ものは試しでアビガンを使ってみた──というコロナ対応の最初期段階では許されても、その投与によって有意な差が見いだせていない状況で自宅療養患者にまでアビガンを処方というのは、医療従事者としての資質が疑われる振る舞いです。

 まぁ代替医療の推進者の中にも、本物の医師免許保有者は結構いますので、そういうものなのかも知れません。歯科医療の世界など医者それぞれが独自理論を持っていたりするのも当たり前だったりしますし、人命優先の医師もいれば延命色の強い治療の打ち切りを患者にささやく医者もいます。2011年の原発事故当時も、このレベルの放射線量では影響が確認できないと説明する人もいれば、脅威を煽ることに専念する医師もいました。

 放射「能」で不妊になる、胎児に影響が出ると、盛んに喧伝する人が10年前は非常に多かったのですが、そうした言動を真に受ける人もまた多かったと記憶しています。翻って胎児に奇形が出るおそれがあると公式に認められているアビガンをコロナ治療薬として待望している人も目立ったのは、なんとも奇妙な話ではないでしょうか。

 放射能で生殖機能が侵されると信じていた人と、コロナはアビガンで治ると信じている人、これはどこまで重なるのか興味深いところです。少なくとも私が10年来フォローしている、放射線の影響を適切に評価していた人は軒並み、アビガンの効能には懐疑的ですし、ついでにワクチンについても投与のメリットが上回るとしています。その正反対の人も結構いて、患者の側からアビガンを所望するケースも多少はあったのでしょうね。

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若手(47歳)

2021-12-05 22:48:16 | 政治・国際

47歳泉さん、やってくれるかな 参院選へ「女性登用、響いた」 立憲新代表(朝日新聞)

 決選投票の末、立憲民主党の新代表に選ばれたのは47歳の泉健太氏だった。議席を減らした衆院選から、来夏の参院選に向け、どう党勢を立て直すのか。参院選の立候補予定者や地方議員からは「若さ」や「発信力」に期待する声が相次いだ。一方、街の人々からは、代表選を通じて、立憲が目指す方向性が見えなかったとの指摘も出た。

(中略)

 都連幹事長代理の西沢圭太都議は泉新代表について、「党の若手の代表。リーダーシップと発信力がある。若返って、刷新感もある。変わったんだなと思ってもらえるのではないか」と期待を込めた。

 来夏の参院選では泉氏が党の顔となる。参院長崎選挙区(改選数1)に立候補予定で県連副代表の白川鮎美氏は泉氏を支持したという。「若さもあるし、党役員のジェンダー平等を進める点が心に響いた」と話した。

(中略)

 立憲民主党青年局の下部組織で、学生や若手社会人でつくる「立憲ユース」に所属する東京大4年の小林鷹義(たかとも)さん(26)は、代表選を会場で見守った。若者や学生の意見を政策に生かす仕組みを作り、若手候補者の発掘や育成を求めたいという。

 

 さて立憲民主党の新代表には下馬評通り候補者中の最年少である泉健太氏が選ばれました。とにもかくにも「若さ」への高い期待が窺われますけれど、党の支持層「以外」からはどうなのでしょうか。消費税増税を決めた当時の総理大臣と経済産業大臣の政策的な誤りを徹底的に糾弾する姿勢の一つでも打ち出すようなら話は別ですが、そこまでの抜本的な変革姿勢は見られないだけに、イメージ作りの勝利と思えないでもありません。

 しかし47歳の「若手」ってのも不思議な話です。45歳を定年にしたいと宣うサントリーの社長にも財界筋からは結構な賛同者がいたことから分かるように、ほとんどの職場では47歳ともなれば年齢を理由としたリストラ候補に入ってくるわけです。転職活動でもしようものなら、現実的な選択肢は重労働低賃金で未来ある若者からは敬遠されるような職種ばかり、47歳とはそういう年齢なのです。

 「永田町の常識は世間の非常識」とはよく言われますけれど、その最たるものは年齢意識でしょうね。47歳が若手と見なされるなんて政治の世界くらい(後はせいぜい若者から見捨てられた限界集落ぐらい)のもの、外の世界では中高年として疎まれるはずの世代の人間を若手と呼んで持て囃しているのですから、国民との意識の乖離は言うまでもありません。

 なお立憲民主党は支持層が中高年に大きく偏っている政党でもあります。支持基盤は中高年にあるのに、党の看板は「若手」で良いのかという論点もあるでしょうか。ただ、有権者の半分は女性でも当選する議員に占める女性の比率は至って低いものです。立民を含めた有力政党に女性候補が少ないことも一員ですが、有権者は必ずしも自分と同じ属性を重視しないことが分かります。

 女性の有権者が女性の候補者に投票するかと言えばその影響度は小さいように、年齢もまた然りです。高齢者であれば高齢の候補に、若者であれば若手の候補に投票するかと言えば、そんなことはないわけです。人事採用や性風俗店の指名と同じで、結局は若い方がイメージは良い、中高年を支持基盤とする党であっても若手を看板にして刷新をアピールしていくのは有効でしょう。

 後はまぁ、会社の人事や異性からの目線とは裏腹に「自分では若いと思っている」中高年も多いと思います。客観的には年寄りでも自己評価は「若者」、そういう人が「若手」の政治家に共感するという図もあることでしょう。それが現実を直視した政策への誘導に繋がるか、もしくは精神的な満足感を優先した政策を押し上げていくかと言えば──後者になるのが今までの通例ではあります。

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