非国民通信

ノーモア・コイズミ

捏造はお家芸みたいなものではありますが

2012-03-29 23:36:43 | 社会

 大阪市職員、リスト捏造認める 「労組告発したくて」(朝日新聞)

 昨秋の大阪市長選で前市長の支援者拡大を職員労働組合が徹底させる内容の職員リストが捏造(ねつぞう)された問題で、架空の文書を作成した疑いがもたれていた市交通局の非常勤嘱託の男性職員が27日、同局の事情聴取に対し、捏造を認めたことが分かった。職員は「文書を大阪維新の会の市議に持ち込んだ」とも話しているという。取材に対し、同局が認めた。同局はこの職員を27日付で解職するとともに、刑事告発を検討する方針。

 捏造と判明した文書「知人・友人紹介カード配布回収リスト」について、男性職員は27日、交通局の調べに「誰かに作成を依頼されたものではなく、自分が作った」と説明しているという。

 動機については、昨秋の市長選では職場内で労組による紹介カードが配られているのを目撃したと主張。そのうえで「ひどいと思い、何かしらの形で告発したいと思った。正義感からやったがだめなことをしてしまった」「明るみに出れば、騒ぎになると思っていた」などと話しているという。文書を送った維新市議については「以前から面識があった」と説明しているという。

 

 さて、橋下率いる維新の会が市職員労組に噛みついていたわけですが、そのネタ元になっていた内部告発文書は捏造であったことが伝えられました。永田メール事件を思い出しますね。信憑性の低いネタを手に、自信満々で相手に迫れる神経が私には信じられないのですけれど、それくらいの無神経さがなければ当選できないのが議員の世界なのでしょうか。小泉純一郎は「鈍感力が大事」と語りましたが、自分たちに不都合な事実には一切目もくれずに平然としていられる、そういう感覚こそが有権者にアピールするものなのかも知れません。

 なにはともあれ、大阪市交通局の調査によって捏造であったことが明らかになりました。維新の会には情報の真偽を判断する能力がない、維新の会の主張がいかに世論の共感を呼ぼうとも、まずは自分で事実関係を調べてみる必要があるということを、よくよく示しているようにも思います。しかしまぁ、刑事事件に喩えるならば容疑者が自らの調査で真犯人を捜し出したみたいな状況なわけです。何ともドラマチック――という以前にお寒い状況ではないでしょうか。組織的な調査や反論ができない個人が標的にされていたら、橋下一派によって言いがかりを付けられたまま、名誉回復されることもなく職を追われていたであろうことも考えられます。ポピュリズム系の首長なり自衛隊なり体罰を振るう教師なり、世間の支持さえあれば法律を逸脱した行為までもが容認もしくは期待されがちな時代の空気を如実に表しているようです。

 

非常勤職員、捏造・流出認める 市長選リスト 交通局、解雇へ(産経新聞)

 一方、橋下徹市長は27日、報道陣に対し、この職員と大阪維新の会にリストを“内部告発”した人物との同一性について「客観的証拠からすれば高い蓋(がい)然(ぜん)性(確率)で認められる」「維新はもう当然視しているんだろう」と述べ、職員が維新にリストを提供したとの認識を示した。

 一方、維新市議がリストをもとに、市議会で交通局と労働組合が不適切な政治活動をした可能性を追及したことについては「何も追及しなかったら捏造の事実すら出てこなかった。捏造ということで組合のぬれぎぬをはらしたのだから問題ない」と話した。

 

 なお橋下曰く「何も追及しなかったら捏造の事実すら出てこなかった。捏造ということで組合のぬれぎぬをはらしたのだから問題ない」とのこと。この人の非論理にはなかなか付いていけないものがあります。ある意味で議論に強いのも、そういうところから来ているのかも知れませんね。常識が通用しないわけですから。ともあれ、橋下理論を実践するなら、例えば私が橋下の女性問題とか金銭問題を捏造して、それを民主党とか脇の甘そうな党に情報提供する、この創作ネタを元に市議会や週刊誌上で橋下が攻められることになっても、結果的にガセと判明すれば「何も追及しなかったら捏造の事実すら出てこなかった。捏造ということで市長のぬれぎぬをはらしたのだから問題ない」ということになるのでしょうか。

 一方で捏造に手を染めた人は「(労組を)何かしらの形で告発したいと思った」と話しているそうです。その人が見たことが事実であるなら、あるがままに伝えれば良さそうなものですけれど、敢えて捏造という手段に頼ったのは、創ることでしか証拠「みたいなもの」を提示できなかったものと推測されます。今回の捏造犯は非常勤嘱託の職員とのころ、ルンペンプロレタリアートは革命に非協力的みたいなニュアンスのことをマルクスは語っていたとされますが、まぁ確かにそうだな、と思わないでもありません。むしろ所得が低い人ほど、国民をより貧しくする政治家、政策を支持する傾向がないでもないですし(近年の日本では反労働者の立場を取る政治家ほど「改革」を称するだけに錯綜しているところはあるにせよ)。

 前市長の平松と橋下の関係は、首相で言えば橋本龍太郎と小泉純一郎に似ている気がします。つまり、政策的には同一路線上にあるけれど、それを実現させる「手法」の面で大きな変化があるわけです。「たばこを吸いながら『この仕事は僕に合わないから』みたいな人は、大阪市から出て行ってくれ」と宣った平松前市長(参考)が橋下とは異なる志を持った政治家であるとはとうてい思えないですし、人件費削減の実績なら平松だって十分なのではないでしょうか。そうした橋下の先駆者たる平松市政下で非正規に甘んじてきた一人が今回の捏造犯と言えなくもなさそうですが、しかるに彼が憤りを感じる相手は、人件費削減を推し進め、非正規(非常勤)への置き換えを断行する政治家ではなかったようです。

 ちょっとばかり猟奇的な殺人事件などが起こると、しばしば容疑者の書棚が漁られます。ゲームソフトとかアニメとか、漫画でもエロ関係が見つかると、決まってそれが大きく取り上げられるものです。その手のフィクションが容疑者を犯行に至らしめたみたいな、暗黙裏の誘導が繰り返されてきたわけです。じゃぁ、今回の捏造犯の場合はどうなのでしょうか。もちろん違法行為になってしまいますけれど、こういう人の書棚も漁ってみたらどういう結果になるのか興味深いところです。

 お笑いダイヤモンドとかプレジデントとか、ああいう自称経済誌の類とかでも読むのかな、と思わないでもありません。まぁ書籍で読まないまでもweb上で見たとか、あるいはそこで連呼される類の主張を受け売りする経済知ったかぶりブログの熱心な読者だったとか。とにかく自分が(非正規雇用に甘んじるなど)冷遇されているのは、雇用主以外の誰かが悪いからだ、もっと雇用主が自由に振る舞えるようになれば、無能なあいつらを解雇して自分にチャンスが与えられるのだと、そう信じ込まされている可哀想な人も少なくありません。フィクションは現実に影響を与えるものだと、強く思います。世間では性表現や暴力表現だけが影響を与えるかのように誤解されていますが、むしろ上述の自称経済誌やAERAに東京新聞などの煽りメディア、聖書にコーランといった類の方がよほど人々を狂気に駆り立て、我々の社会を脅かしてきたのではないでしょうか。まぁ、捏造犯の書棚に関しては私の知るところではなく純然たる憶測ですけれど、労組に対する奇妙な被害妄想を持つ人もいる、そういう人間が育った背景も考えられてしかるべきではないかという気がします。

 

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Unknown ()
2012-03-30 00:38:03
丁寧な議論や意見の異なる者同士による調整、そういった手続きを面倒で邪魔なものとして扱い、追い風を受けている時の指導者にそれらをすっ飛ばして好きなようにやってもらいたがる風潮と今回の事件は根っこは同じなのだろうなと思っています。議会制民主主義において議会人が議会で行動する際に負うべき責任とそれに付随する手続き、それらを軽い気持ちですっ飛ばしてしまう感覚が維新の会の人達から強く感じます。

昨今、有権者がしばしば単なる面倒なものとして排除しようとしているものが、実は民主主義が正常に機能するために必要不可欠なものなのではないか、そのことを今回の件を通じて有権者自身が考えたほうがいいのではないかと感じています。

民主主義のコストを払おうとしなくなった社会は、いずれかその重いツケを払わされる羽目になると思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-03-30 22:21:32
>毛さん

 水道代は不満を言わずに支払い、公務員削減を叫びつつも公安部門の予算が増えることには無批判な日本人ですが、民主主義はタダだと思っているのでしょうね。時に民主主義が足かせになることがあろうとも、独裁や専制を防ぐためには必要なことでもあるはずですが、まぁ理解されていませんし、政治家も民主主義のコストを理解させることより、民主主義のコストを理解しない有権者に媚びることを選びがちなのが何とも……
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Unknown (プチ左派)
2012-03-30 23:10:58
>ルンペンプロレタリアートは革命に非協力的みたいなニュアンスのことをマルクスは語っていたとされますが

前回のエントリーと重なるところがあるのですが、今は非正規でも単独で入れるユニオンが存在し、不当解雇などには動いてくれます。
ところがこれに登録する人が意外なほど少ないのだそうですね。労組=正規社員=非正規の敵とでも思いこんでいるのか、それともそこまで知恵が回らない(要するにマスコミ発信情報ばかり呑み込んでいるため)のか、いろいろ考えてしまうのです。
ましてや自分を苦しめているのは正規社員ではなく雇用側だということも分かって欲しいものです。

非正規で不満を持つ人も、待遇を改善したくば労組という存在を知り、これを味方につけ、自ら動くという主体性をもってほしいものですね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-03-30 23:31:41
>プチ左派さん

 どこぞやの自称経済誌の教義を堅く信じて労組を敵視する一方で、人事権を握っているのは雇用主だってことを頭から葬り去っている感じの人も少なくないんですよね。他所で書いたことでもありますが、他人を「罰する」為には威勢が良くとも、己の利益のためには何もしようとしない、強いて言えば「悪い奴」をやっつければ好転するかのような夢を抱くばかりとか、まぁお寒い状況です。
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正義感ねえ (ユルカラ)
2012-03-31 06:24:02
捏造の動機は労働組合を摘発するための「正義感」だったとのこと。
やったことの愚かしさは横に置いておいて、その動機から世間に賞賛されてしまうのでしょうね。自衛隊の艦船と中国の漁船の衝突画像の流出も、「良くぞやった」的な声も少なくなかったような記憶があります。まあ、あちらは事実を公開した、こちらはニセモノを捏造したという違いはありますが。
いずれにせよ、他のことで公務員が(今回は非正規雇用ですが)決まりや良識に背くことをすれば、大騒ぎで袋叩きなのに、自分たちの気に入らないヤツを叩くためなら何をしても許すという風潮があるのでしょうね。
そのうちその鉾先が自分に向かう日が来るかもしれないということが、なぜ想像できないのでしょうかね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-03-31 12:54:53
>ユルカラさん

 海保の場合も情報漏洩ですから「普通の」公務員がやったら叩かれそうなところですけれど、何か別の「悪者」を攻撃するためであれば「正義」になってしまう、でもその「正義感」が自分の憎む相手を咎め立てしたいという欲望でしかないようにも思えるんですよね。それは誰にとっても危ういことのはずなのですが。
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海保でしたね (ユルカラ)
2012-03-31 20:19:54
自衛隊ではなかったですね。さりげなく訂正いただいてありがとうございます。お恥ずかしい。
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