非国民通信

ノーモア・コイズミ

銃後の盛り上がり

2022-03-28 00:43:20 | 政治・国際

 さて先日はゼレンスキー大統領が日本の国会で(オンラインではありますが)演説を行い、予定調和的な喝采を浴びました。市民を戦場に駆り立てる指導者を英雄視する人々の存在には、アメリカとの開戦に踏み切った当時の日本の世論も似たようなものであったろうなと感じさせられるばかりです。まぁ物事を考える習慣がない人には、全てはロシアが悪いで片が付くものなのでしょう。

 これに先立ってゼレンスキー氏はアメリカ議会でもオンライン演説を行い、「真珠湾攻撃を思い出せ」と訴えたことが伝えられています。どちらかと言えば真珠湾攻撃に至る前、日本が北京と南京を制圧しても日中戦争は終了するどころか泥沼化していったことの方が現代への教訓になりそうな印象ですけれど、アメリカ人の情に訴えるなら真珠湾は今でも定番なのかも知れません。

 輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち──かつて大日本帝国ではこのように言われていたそうです。前線で撃ち合う人々こそが真の兵隊であり、兵站を担う人は兵隊にあらずと軽んじられていたことが分かります。もっとも、この辺の感覚は現代にも受け継がれているわけで、例えば防弾チョッキなど軍需物資の供与もまた戦争参加であると理解している人はどれだけいるでしょうか?

 殺傷能力を持つ兵器の供与でないから戦争参加ではない……などと考えている人がいるとすれば、それは戦前の兵站軽視の思想を現代に受け継いでいるだけだと言うほかありません。戦場に必要なのは銃や弾薬だけではない、燃料や食料その他の装備品諸々が揃って漸く、戦争が可能になるのです。武器を送らなくても戦争への協力は出来る、そこで一方にのみ肩入れするのであれば、これはもう参戦しているのと同じです。

 「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と日本の憲法には定められています。しかるに武力「以外」の解決手段を探る前に、交戦中の国家の一方に軍事支援を開始しているわけです。まぁ現代でも兵站は戦争にあらずと考えている人にとっては、今の日本が行っていることも平和のためになるのでしょう。NATO陣営さえ勝利すれば、日本の視界に収まっている国にとっての平和は保たれますから。

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勝利と平和

2022-03-23 22:38:36 | 政治・国際

 ……こちらは中国政府スポークスマンのツィートですが、先般このブログで書いたことを図にすると上記のようになります。まさしく日本を含む西側陣営の視野の範囲を示したものであり、この地図に載っている国の意見こそが「国際社会」の声として伝えられているわけですね。しかるに本当の多数派は、日本が仰ぎ見て「いない」側にこそあります。

 「国際社会が一丸となって」ロシアの侵攻に反対していると思い込んでいるとしたら、その人は西側のメディアに騙されています。反ロシアで盛り上がっているのは日本が仰ぎ見ている一部の国でしかなく、実際のところ多くの国はずっと落ち着いているわけです。もし反ロシアで盛り上がっている国が世界の全てであると勘違いしているのなら、その無知と驕りこそ正されるべきものでしょう。

 

南ア大統領、NATOを非難 ウクライナの紛争「回避できた」(ロイター)

[ヨハネスブルグ 17日 ロイター] - 南アフリカのラマポーザ大統領は17日、ウクライナにおける戦争について北大西洋条約機構(NATO)を非難し、ロシア非難の呼び掛けに抵抗すると表明した。

ラマポーザ大統領は「NATOが、東方への拡大が地域の不安定化を招くという内部の指導部や当局者からの長年にわたる警告に注意を払っていれば、戦争は回避できたはずだ」と言明した。

 

 軍事侵攻という「結果」は理由なく起こったものではありません。「原因」は当然ながら存在しますし、それが外交上の失敗にあることは明白です。にもかかわらず「結果」だけを非難し「原因」に目を向けないとすれば、そうした人々が平和に資することは未来永劫ないでしょう。結果だけを非難し原因に対処しない者は、単に何かを糾弾しているだけであり、糾弾すること自体に満足していると言えます。

 軍事的な手段へと至る前に外交的な解決を図ることは可能ですし、いざ事態が始まってしまった後からでも外交的な解決は可能です。にもかかわらず開戦前から外交的解決を放棄し、ひたすらロシア非難に邁進している人々が追求しているのは、結局のところ「平和」ではなく「勝利」なのです。まぁ自陣営の立場からしか物事を見ないのであれば、勝利=平和には違いありません。

 もっともウクライナ政府側も、最近は少しばかり目が覚めてきているようにも見えます。「国際社会」という名の一部の国家から軍需物資は次々と送られてくる、義勇兵の名目で外国人兵士も一定数が入り込んでいるものの、ウクライナが戦場であり続けることに変わりはないわけで、そこに何か感じるところもあったのではないでしょうか。

 結局のところNATO陣営が勝利するとしてもダメージを負うのは専らウクライナです。この現実を今さらながらに理解し始めたことで、ゼレンスキー側の態度の変化に繋がっている節が窺われます。NATOは反ロシアではあるけれども、親ウクライナとは限らない、ウクライナのために血を流してはくれない……それが理解されて漸く、交渉が成り立つようになった、と。

 ちなみにNATOとウクライナの関係は、台湾におけるそれにも当てはまるように思います。とりわけバイデン政権に替わってからは台湾を中国にけしかけるような動きもまたエスカレートするばかりですが、「国際社会」が反中国になったとしても、それがすなわち親台湾になるとは限らないわけです。

 台湾と中国が争うことをアメリカが望んだとしても、では台湾が被害を被らないように守ろうとする動きがあるかと言えば、間違いなく今のウクライナと同じような扱いとなることでしょう。ウクライナと同じような──NATO陣営から支援を受けても結局は自国が血を流す──事態を恐れるなら、台湾政府なども外交姿勢を考える必要があります。

 そして日本もまた、自分たちが見てきた「国際社会」の声だけに耳を傾け自陣営の勝利を平和と信じ続けるのか、これまで目を向けてこなかった数多の国とも協調を目指すのかを問われているわけです。従来通りにNATO陣営の勝利を平和と同一視している限り、「天下統一」のための争いは避けられません。それが平和に繋がるのかどうか、平和を口にする人ほど考える必要があるでしょうね。

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西側の価値観

2022-03-20 21:37:13 | 政治・国際

 総じてレイシストは「自分は差別主義者ではないが……」と前置きしますし、反ワクチンもまた「自分は反ワクチンではないが……」という枕詞を使います。同性愛の嗜好を隠している人ほど表面ではムキになって同性愛を否定する傾向があるとも言われますし、しきりに中国への挑発を繰り返しているバイデン米大統領も「冷戦を望んでいない」と口にするわけです。何かを否定することは、往々にして否定していることの正しさを示すものでもあります。

 

EU、難民受け入れの「二重基準」否定(時事通信)

【3月19日 AFP】欧州委員会(European Commission)のマルガリティス・スキナス(Margaritis Schinas)副委員長は18日、欧州連合(EU)はウクライナとシリアからの難民の受け入れにダブルスタンダード(二重基準)は設けていないと主張した。

(中略)

 EUはウクライナ難民を一時保護し、滞在許可や医療や教育を受ける権利、就労の権利を認めている。

 一方、2015年にシリアなどから100万人以上の難民が欧州にたどり着いたときには、こうした保護措置が自動的に適用されることはなかった。

 

 ロシアの侵攻開始以来こうした二重基準は至る所で発揮されており、アジアからの難民を入管で拘束したまま死亡させるなど常習犯の日本ですら、ウクライナからの難民であれば特別待遇での受け入れを開始しています。こうしたウクライナへの優遇措置を我が国の政府は「人道的」なものと称しているわけですが、真の難民と認められるためには肌の色や「どちらの陣営に属しているか」ということの方が本人の境遇よりも重要であることがよく分かります。

 イギリスを筆頭に西側諸国ではロシア人の資産凍結や資格剥奪が進められています。とても法治国家とは考えられない一方的な処罰と言うほかありませんが、ロシアと同じ土俵で互角以上に張り合うべく頑張っているのでしょう。なかでも槍玉に挙げられているのが「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの新興財閥関係者で、これが軒並みプーチンと関係が深いものであると少なからぬ国から一方的に認定されているわけです。

 このオリガルヒが誕生したのはエリツィン時代でした。エリツィン政権下では国有資産の不正な私物化が進み、ロシアという国家全体が貧困化する中で巨万の富を築く人が続出したわけです。エリツィンは自身を取り巻く財閥に利益を誘導し、財閥は政権を支える、西側諸国はロシアを弱体化させてくれるエリツィンを支持する──ロシアを敵視する国から見て平和な時代はそうやって築かれました。

 潮目が変わったのはプーチン政権に替わってからで、エリツィン時代とは反対に財閥の力を弱めることでロシア国内の支持を集めるようになりました。政府に口を出し続けて潰されるオリガルヒもいれば、政治への関与を諦めて資産だけを保ち続ける人もいるのが現状ですが、後者の政治への関与を止めた「単なる金持ち」が今、西側諸国では標的とされているわけです。エリツィン時代に不正を働いてきた人々には違いありません。ただ罰されるべきとしたら今ではないでしょう。

 中には完全な不採算事業であり、営利行為として成り立っていないサッカークラブの所有にまで一方的な剥奪処分が下されているケースもあり、これを見るとイギリスなどは法治国家であることを捨てたと評価せざるを得ないと感じるばかりです。まぁ、犯罪者であれば人権は不要、極悪人には法律など適用されないと考えるのと同じようなものでしょうか。敵性国民が標的ならば、全てが許される──それが西側の価値観というものです。

 ウクライナにも外交的妥協は必要ではないかと問う声は僅かながらもあります。しかしながら、こうした指摘に「降伏しろというのか!」と、いきり立つ人の方が現状は明らかに多数派です。同様に「国がなくなる!」と叫ぶ人と、それに賛同する人も少なくありません。77年ばかり前に「それで国体の護持が出来るのか!」と吠えていた人々と全く同じ感覚でいるのでしょう。

 国家のために国民が犠牲になることが当然視されるとしたら、それは全体主義と呼ばれるものです。しかし日本を含む西側陣営で人々が求めているのは外交的妥協を含む早期和平なのか、あくまでロシア側を完全に斥けるまでの徹底抗戦なのか、後者が優勢であるならばそれは一億玉砕の精神が今なお継承されている証左というほかありません。厭戦機運が高まる社会は健全ですが、人々を戦場に駆り立てる方向で盛り上がっているとしたら、その社会は危険です。

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ロシアに負けていない

2022-03-13 21:40:55 | 政治・国際

FB、ロシア兵への暴力呼び掛けを一時容認 ウクライナ関連のみ(ロイター)

[10日 ロイター] - 米メタ・プラットフォームズは、傘下のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「フェイスブック」と写真共有アプリ「インスタグラム」で、ウクライナ侵攻への抵抗という趣旨に限って、一部の国でロシア兵とロシア人への暴力を呼び掛ける投稿を容認する方針だ。メタがヘイトスピーチに関する規約を一時的に変更することを伝える社内向け電子メールの内容を、ロイターが10日に確認した。

メタは、ロシアのプーチン大統領ないしベラルーシのルカシェンコ大統領の死を求める投稿についても期間・地域限定で認める。その場合の条件として、こうした投稿に他の標的が含まれていないことと、投稿された場所および投稿方法が信頼できることが挙げられている。

規約の一時変更が適用されるのはラトビア、リトアニア、エストニア、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ロシア、ウクライナという。

 

 この報道、タイトルは「ロシア兵」と限定しているように見えますが本文を見ると「ロシア兵とロシア人」が対象とのことです。戦地であるウクライナに限定されるものですらなく、周辺国にも幅広く対象を広げることも伝えられるところですが、いかがなものでしょう。中東地域でイスラエル兵やイスラエル人への暴力呼びかけを容認する、みたいな規約変更は聞いたことがありませんので、取り敢えず例外的なものであることは間違いなさそうです。

 

なぜパレスチナ人選手は“戦争反対”バナーの前に立たなかったか?「誠実さもなければ、公平さもない」(GOAL)

「つまり、正義と公平の問題でしかない。サッカーと政治を混ぜないルールだと言っていたのに、ヨーロッパのある国で起きたことで、サッカーと政治を混ぜてもいいということになった。誠実さもなければ、公平さもない」

 

 これまでサッカーと政治は別というのが大原則とされ、パレスチナの選手が試合の場で抗議をの声を上げることは許されていませんでした。しかし今回は対応が全く異なり、西側諸国を中心に従来のルールがねじ曲げられているわけです。そこに誠実さや公正さが完全に欠如していることは言うまでもないでしょう。パレスチナが侵略を受けているときは選手の口を塞いでおきながら、ウクライナが攻め込まれたとあらば選手たちに拳を突き上げさせるのですから、都合のいい話です。

 暴力革命というと一概に否定する人が多いですが、この暴力革命の直近の成功例こそ2021年のウクライナの政変です。私自身は暴力革命を必ずしも否定するものではありませんが、しかし暴力革命を真っ向から否定しているつもりの人ほど、ウクライナの現体制に親和的であったりはしないでしょうか。暴力革命を否定するなら、ウクライナで2014年に起こったような選挙によらない体制転換は、当然ながら封じ込めの対象とならなければ筋が通りません。

 一方で住民投票によって決まったはずのクリミア半島のロシア編入は断固として認めない国が多いわけです。トランプ支持者は自陣営が負けたら選挙に不正があったと主張しますが、そうでない人も西側陣営の不利になるような選挙結果は認められないのでしょう。一方でロシア国内におけるプーチン大統領のそれなりに高い支持率に関しては、むしろ正当なものと認める人が多い、だからこそ(プーチンを支持した)ロシア人にも責任がある、とする論調に繋がっている節があります。

 

ロシア侵攻に沈黙するウクライナ代表元主将をサッカー協会が永久追放 コーチで雇用のロシア側は擁護(スポニチ)

 ウクライナ・サッカー協会は11日、元同国代表主将で144試合の代表最多出場を誇るアナトリー・ティモシュチュク氏(42)に事実上の永久追放処分を科した。

 侵略国であるロシアの1部ゼニトでコーチ職を続け、ロシア非難のメッセージを発信することもなく沈黙を続けているとし、同氏に対しては同協会の倫理委員会が「ウクライナ・サッカーのイメージを傷つけ、倫理とフェアプレー規定に反している」として処分を答申。協会側は懲罰委員会による審査でコーチ資格やシャフタル・ドネツクで活躍した現役時代の国内タイトルのはく奪を決めた。代表チームの選手登録から除外するとし、出場経歴が抹消されるとみられる。また、ウクライナ国内でのサッカーに関する活動を生涯禁じると発表した。

 

 かつては日本でも戦争に協力しないのは非国民だと言われたようですが、この辺は現代でも変わらないようです。鬼畜米英の米英の部分がロシアに変わっただけなのでしょう。ウクライナ人が必ずしもウクライナの現体制に賛同しているとも思えませんし、それは思想信条の自由の範疇と言えますが、しかし反ロシアの旗を掲げないとウクライナ人ですらも糾弾されてしまうことをこの例は示しています。西側陣営ならば全てが許されるとしたら、そこに正義はありません。

・・・・・

 ロシアに向けられた様々な制裁措置やそれに同調する団体や民間企業によるロシア排除は、ロシア政府やロシア軍ではなくロシアの民間人を広く対象とするものでした。ダメージを受けているのはロシアに暮らす普通の人々、ロシア国籍のスポーツ選手や文化人であり、それはロシア軍の攻撃がウクライナの民間人を巻き込むようになるのに先んじて始められたことでもあります。民間人への攻撃なら西側陣営だって負けていません。

 ロシアから撤退した企業の資産を接収する云々とも伝えられるところですが、既に西側諸国ではプーチンと関係が深いと一方的に認定された人の資産凍結や資格剥奪が始まっています。先手を打っているのは我々の陣営です。そしてロシアもまた外国人義勇兵を募るとも伝えられますが、ウクライナはとっくに戦場へ投入しているわけです。何一つとして遅れは取っていない、ロシアに負けていないな、と思うばかりですね。

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不公正さは際立つ

2022-03-10 22:17:10 | 政治・国際

ウクライナ避難民を受け入れへ 首相、ポーランドとの電話協議で表明(朝日新聞)

 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、岸田文雄首相は2日夜、ポーランドのモラビエツキ首相と電話で協議し、国外に避難したウクライナ国民を、日本が受け入れることを表明した。協議後、首相官邸で記者団に明らかにした

 

 先週はウクライナ避難民を日本が受け入れると岸田総理大臣が表明したそうです。なんでも新型コロナウイルス対応の水際対策からも別枠で入国を認める方針らしく、厚遇ぶりが目立ちます。これまで難民としての受け入れを認められず日本の入管で拘束されたまま死亡してしまった人が怨霊となって出てきそうな話に感じますけれど、世の中はそういうものなのでしょう。

 

焦点:ウクライナ脱出図る留学生、立ちはだかる人種差別や資金難(ロイター)

ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以来、100万人以上の難民がウクライナを脱出したが、足止めを食らっている人々もまだ多い。特に目立つのが、脱出に必要な飛行機や資金、人のつてを自国政府や家族に頼れない外国人留学生だ。

人種差別によって出国がさらに難しくなっている、と語る学生もいる。ソーシャルメディアを見ると、アフリカやアジア、中東出身者が国境警備隊に暴行を受け、バスや列車で乗車を拒否される動画が目に入る。そのかたわらで白人は乗車を許されている。

アデビシさんは、トムソンロイター財団に対し「賄賂をゆすり取られるので、ぼくらが避難するには大金が必要だ」と語った。

「ウクライナ西部にたどり着くのに600ドル払わされた学生たちもいる。国境では人種差別もあると聞いた。それは戦闘が始まる前からぼくらが経験していたことだ。黒人への態度は違う」と述べた。

アデビシさんの送金アプリは機能しなくなり、クレジットカードは引き出し限度額に達してしまったという。

ウクライナ外務省はツイッターで、出国時の審査で差別は行われていないとし「全ての国籍の人々に対し、到着した順に対応するアプローチを適用している」とした。

しかし、インド人のタンメイさん(24)は、自身の兄弟がウクライナを出国しようとした時に、同国の国境警備隊から暴行を受けたと話す。

タンメイさんは、インドのデリーから取材に答え「ポーランド国境近くの警備員がぼくの兄弟を乱暴に押し、スーツケースを放り投げた。兄弟とその友達に『出ていけ』とわめきながらだ」と語った。

「兄弟によると、そのウクライナの警備員たちは(白人の)人々は通している。つまり『白人じゃないやつの命など価値が無い』というわけだ」──。

 

 冒頭に引用した報道では「ウクライナ国民を、日本が受け入れる」と書いてあります。これが首相の発言なのか記者の補正によるものなのかは分かりませんが、こちらの報道で苦境を伝えられているアジアやアフリカ、中東からの留学生が視野に入っていないことは間違いないでしょう。ウクライナ「住民」が置かれている状況はウクライナ国籍の有無によって左右されるものではありません。しかし、白い肌のウクライナ人と、アジア人やアフリカ人の扱いの違いは歴然としています。

 冷戦の終了後も軍事侵攻を受けた国は少なからずある中で、間違いなくウクライナは特別に扱われています。それは言うまでもなく侵攻する側が属している陣営の違いによるものですが、侵攻される側の地域に住む住人からすれば納得のいく理由ではないでしょう。シリアやパレスチナ、イラクやアフガニスタンの住民が今のウクライナを見て何を思うかは興味深いところです。

 かつてNATOの空爆を受け民間人にも多数の犠牲を強いられたセルビア(当時はユーゴスラヴィア)に至ってはロシアを支持するデモまで起こっているそうです。理由は色々とあるでしょうけれど、自分たちが軍事侵攻を受けたときとウクライナが軍事侵攻を受けたときの、歴然たる扱いの差に憤るところは当然あるはずです。戦争支持はさておき、このような不公正への怒りの声は大いに頷けると言えます。

 

ロシア留学中のバレリーナSOS ウラジオストクで足止め(神奈川新聞)

 先行きは不透明で不安は尽きない。買い物などでクレジットカードを利用しているが、米大手がロシアでの業務を相次いで停止。志賀さんは「カードもインターネットもいつまで利用できるかわらかない。家族とも連絡が取れなくなるのでは」と声を落とした。

 

 ちなみに苦境に陥っているのはウクライナ住民だけではなく、民間人を標的に含めた経済制裁を受けるロシア「住民」でもあります。「西側」からの制裁は当然ながら、軍事施設を限定的に標的にすることもなければ、ロシア国籍の有無を条件とすることもない、ロシアに住んでいる人を遍く標的とするものです。その中には日本からの留学生もいる、日本人であっても制裁の影響を被るわけです。まぁ、こっちは公平な話なのかも知れませんね。

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NATOは勝利する

2022-03-06 22:28:37 | 政治・国際

 昨今のロシアとウクライナを巡る問題で私は何度かキューバ危機を引き合いに出しました。かつてソ連のミサイル基地がアメリカと対立するキューバに建設され、一触即発の事態となったわけですが、お互いの喉元に位置する国を自国の軍事同盟に組み込むという点では、ウクライナのNATO加盟も同じ意味を持っていることは明白と言えます。

 キューバ危機に関してはソ連側の譲歩──ミサイル基地の撤去で最終的な衝突は回避されました。ウクライナのNATO加盟を巡っては「各国には安保政策を自ら決める権利がある」等と宣う人もいるわけです。しかしキューバ危機の時点でそれを主張する人はどれだけいたのでしょうか? カストロ自身は、間違いなくミサイル基地の建設を望んでいたはずです。

 客観的に見ればキューバ危機は「相手の喉元に刃を突きつけることを止める」ことで解決したと言えますが、アメリカ側に偏った見方をする人にとっては「ソ連(ロシア)に対して一歩も妥協しないことで勝利した」のかも知れません。私はウクライナを巡っては前者こそが唯一の解決法と信じていますけれど、日本とNATO諸国では後者が信じられているのでしょう。

 ウクライナでは18歳~60歳までの男性の出国が制限され、国家総動員でロシアへの抵抗を続けています。ともすると日本では美談のように語られがちで声援を送る人も多いですが、同じことをカストロやフセインが行ったなら、間違いなく非難囂々です。客観的に見れば同じことでも、どちらの陣営に属しているかで(西側諸国における)受け止められ方は逆転します。

 ロシアに関する報道には疑わしいものが多い、ともするとアメリカなりウクライナなりのプロパガンダをそのまま垂れ流しているような印象すら受けるところです。そうした中で最も疑わしいのはロシアの「脅威」に対するものであったのかも知れません。エリツィンの暗黒時代を脱して以来、ロシアはNATOを脅かす存在として扱われてきました。しかし実態はどれほどのものでしょう?

 結果的にはロシアとウクライナの戦争状態となっていますが、プーチンが意図していた標的はウクライナではなかったはずです。キューバ危機におけるアメリカとの交渉相手がキューバではなく背後にいるソ連であったように、ロシアが交渉相手と見なしていたのはウクライナではなくNATOであり、その盟主であるアメリカだったはずです。

 ロシア軍が侵攻を開始した当初、キエフは数時間の内に陥落すると伝える報道すら少なくありませんでした。それが「キエフは数日中に陥落する可能性」などとトーンダウンし、むしろ戦況は膠着するばかりです。プーチンとしては短期間で首都を制圧し、ウクライナではなくNATOとの交渉を始める思惑であったことでしょう。しかし、事態は民間人まで巻き込む泥沼へと突入しています。

 もしロシアが本当にNATOが言うほどの脅威であったのなら、ウクライナを一蹴して戦争と呼ばれる前に決着が付いていたわけで、それがプーチンの計画でもあったと考えられます。ところが現実にはそれだけの能力がない、NATOとの交渉に臨む以前にウクライナの抵抗に押し止められている有様です。ロシアの実力がどれほどのものか、それは明らかと言えます。

 NATOが拡張を続ける大義名分としてロシアは強大な「敵」である必要がありました。ロシアが弱いのであれば、どうしてNATOは拡張しなければならないのでしょうか? だからロシアはずっと強大な存在として扱われてきたわけです。そしてプーチンもまた、それを信じてしまったように思います。

 これだけNATOから大きな脅威として扱われている以上、自国は本当に恐ろしい存在なのだと、そうロシア側が思い込んだとしても驚くには値しません。結果として、ウクライナを速やかに制圧してNATOとの有意に交渉を進める──そんな青写真が描かれていたのではないでしょうか。しかし、実は脅威たり得るほどの能力がなかった結果としてウクライナとの泥仕合に推移してしまったと……

 ロシアがありのままに扱われてきたのなら、そうした勘違いは起きなかったかも知れません。ただロシアを脅威として扱うのを止めることは、NATOの存在意義を失わせるものです。軍事同盟を際限なく拡張していく正当性を担保するためには、ロシアを現実よりも強く、現実よりも恐ろしい存在として扱い続けなければならなかったわけです。

 結果としてウクライナがロシア軍を退けたとしても、自国が戦火に焼かれた時点でウクライナもまた敗者です。どれだけNATO諸国と日本から声援を送られたとしても、失われたものが戻ってくることはありません。自陣営の勝利と美酒に酔えるのは、ウクライナの外から手を振っている人たちだけです。

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小話3:日本人にとっての「世界」

2022-03-03 23:10:22 | 編集雑記・小ネタ

 本日も引き続き、ロシアを取り巻く小さな話題を取り上げます。

 

ブラジル大統領、ロシア制裁を拒否 ウクライナ人は「コメディアンに命運託した」(CNN)

(CNN) ブラジルのボルソナーロ大統領は27日、ウクライナのゼレンスキー大統領を批判し、ブラジルはウクライナ問題で「中立的な態度をとる」として対ロシア制裁を行わない考えを示した。

(中略)

ウクライナでの大虐殺の可能性を問われると、「大虐殺と言うのは言い過ぎだ」と述べ、ロシアがウクライナ東部ルガンスク、ドネツク両州の親ロシア分離派の支配地域を独立国家と認めた動きを擁護した。

 

 さてトランプ元大統領の外交姿勢を受け継ぐ現役のブラジル大統領の発言がこちらです。まぁウクライナの現在を指して大虐殺と呼ぶのは、過去に発生した実際の大虐殺を矮小化するものではあるでしょう。何かと筋の通らない人物でもありますが、一貫して偏った方向に進み続ける信念の人よりも、出鱈目な人の方が偶発的にマトモなことを言うケースもあります。

 先月25日の国連安保理では、ロシアへの非難決議に対して中国とインド、及びUAEが棄権し賛成票を拒みました。ともすると日本の報道では「世界中が」反ロシアで一丸となっているように見えますが、中国にインドという世界最大の人口を抱える国、そして南米随一の大国であるブラジルはロシア包囲網にはあまり関心がないようです。

 中国とインド、ブラジルにロシアを加えた4国は、2000年代初頭にBRICs等と呼ばれて持て囃されたことがあります。ロシアは開戦前から既に後退気味であった気はしますが、他は着実に世界での存在感を増してきた国です。日本人が仰ぎ見る国は軒並み反ロシアの旗を掲げているのかも知れませんけれど、日本が目を向けていない国の方が少なくとも人口規模の面では多数派です。

 「西側」の一員であることを追い求めてきたという点では、ウクライナよりも日本の方がずっと一貫しています。日本人にとっての世界の意思とはアメリカの意思であり、それに反する国家は世界の敵として扱ってきました。しかし日本が眼中に入れていない国の中にはNATO加盟国と思惑を異にする国も多く、そうした国も世界における重要な地位を占めているわけです。

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小話2:EU加盟の条件

2022-03-02 22:48:08 | 編集雑記・小ネタ

 昨日に続いて、ロシア関係で気になったことを少し取り上げていきます。

 

ウクライナのEU加盟を支持、欧州委員長が明言(ロイター)

[ワシントン 27日 ロイター] - 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は27日、ウクライナのEU加盟に対する支持を明言した。

ユーロニュースのインタビューで「(ウクライナは)やがてわれわれの一員になる。われわれの仲間であり、加盟を望む」と述べた。

 

 純然たる軍事同盟であるNATOに比べればEU加盟は少しだけ平和的に見えないでもありませんが、どうしたものでしょうか。EUなんかに加盟してもドイツに搾取されるだけではないかというのはさておき、「西側」の一員であることを求めるウクライナの現方針には合致するのかも知れません。ただ、このタイミングでEUが支持を明言するのが適切であるかは別の話です。

 言うまでもなくEU加盟には諸々の条件があります。加盟を申請している国は少なくないですけれど、EU側が突きつける条件をクリアするのは容易でなく、門前払いの状態が続いているケースもあります。そしてウクライナもまたEUが要求する財政規律や統治体制など備えているはずもなく、普通に審査されれば加盟を断られるのが当然です。

 ところが今回、EU側から明確に「加盟を望む」と迎え入れの意向が公然と示されているわけです。EU加盟に当たって何が最も重要な基準となるのか、それが明らかになったと言えるでしょう。難民の受け入れに消極的として槍玉に挙げられることも多い我が国も、ウクライナからの難民であれば受け入れを進める考えだと岸田首相も表明しています。何が基準になっているか実に明確ですね。

 

EU加盟手続き、「ウクライナと同様の扱いを」 トルコ大統領(AFP)

【3月2日 AFP】トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は1日、同国の欧州連合(EU)加盟手続きについて、ウクライナと同様に扱うよう求めた。

 エルドアン氏は首都アンカラで会見し、「ウクライナに示している思いやりをトルコにも見せてほしい」と訴えた。

 

 そしてトルコのエルドアン大統領が上記のように述べています。トルコと言えば地中海と黒海をつなぐ海峡においてロシア軍用艦の通過制限を発表したばかりですが、これはロシアではなくEUに向けたメッセージと見る他ないでしょう。長年にわたってEU加盟を拒まれてきたのがトルコです。ウクライナと同様に歓迎される用意は整った──言い分としては筋が通っています。

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小話1:制裁の順番

2022-03-01 22:17:20 | 編集雑記・小ネタ

 まとまったテーマのある話にならないのですが、ロシア関係で気になったことを少し取り上げていきます。

 

米欧、プーチン氏らの資産凍結 国家元首への制裁は異例(共同通信)

 【ブリュッセル、ワシントン、ニューヨーク共同】米英カナダの各国政府と欧州連合(EU)は25日、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領とラブロフ外相らに制裁を科すと発表した。国家元首が制裁を受けるのは異例。ウクライナ情勢が悪化する中、さらに強力な制裁を求める声が出ていた。ロシアの反発は必至。

 米財務省によると、プーチン、ラブロフ両氏のほか、ショイグ国防相やゲラシモフ軍参謀総長の米国での資産が凍結された。

 

 こちらはプーチン他ロシアの政府要人の米国での資産が凍結されたという報道です。なんでも「国家元首が制裁を受けるのは異例」なのだとか。昨今のロシアへの対応には色々と公正性の面で問題があると感じるものも多いですけれど、これに関してはどうなのでしょう。「異例」と言われるからには、取り敢えずロシア相手でもなければ滅多に行われることのない厳しい対応なのだと推測されます。

 問題は、これが「さらに強力な制裁を求める声」が出た後の話だと言うことですね。真っ先に国家元首への制裁が行われたのではなく、最初にロシア国民を幅広く巻き込むような諸々の制裁があったわけです。その後「さらに強力な制裁を求める声」が出て国家元首への制裁に至る……つまりは制裁の順番として国家元首は二の次であったことが分かります。

 国家元首こそが真っ先に責任を問われる立場であり、対立する国家からの制裁を受けるにしても当然ながら第一の候補であるべきだと私には思われるところです。しかし、それは少なくとも「米英カナダの各国政府と欧州連合」の常識とは異なるのでしょう。NATOの対応としてはまず相手国民を巻き込む制裁措置がスタートであり、国家元首への制裁はあくまで追加なのですから。

 その辺の「制裁」の優先順位が国際平和に有効であるのかどうかも大いに疑問を感じないでもありません。ただ、この制裁の順番は有用性を考慮したものではないのでしょう。たぶん、どこの国も資産家は大事にするものなのだと思います。制裁は庶民を巻き添えにするものから開始され、対立する国であろうとも富裕層の資産に手を付けるのは最後の手段、だからこそ「国家元首への制裁は異例」になってしまうわけです。

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