「安倍政治は白鵬の相撲に似ている」とは、野田元首相の言葉です。曰く「白鵬は覇道、邪道の相撲になっている。安倍政権も覇道、邪道、外道の政治だ」とのこと。こうした発言は野田佳彦自身や、その所属してきた政党の外国人観を端的に表すものでもありますが――歴代最高の実績を更新し続ける白鵬と、歴代最長の在任期間に到達した安倍晋三、果たしてどの程度まで釣り合うのでしょうか。
先日は、この安倍総理がついに退任の意向を表明しました。後任が誰になるか不安は尽きません。安倍総理と言えば毎年、改憲への決意を表明していたわけですが、歴代最長の在任期間があったにもかかわらず特筆するほどの動きはありませんでした。私としては、やる意義に乏しいことをやらなかったことを肯定的に評価していますけれど、安倍晋三が本当にやりたかったことに期待していた人々からすると、どうなのでしょうね。
北朝鮮との拉致問題もまた歴代最長の在任期間の中で目立った成果のない分野であったと言えます。それでも拉致被害者の関係者とは一貫して良好な関係を築けている様子がうかがわれますので、「結果を残す」ということは必ずしも支持をつなぎ止める上での必須要件ではないのかも知れません。結果を残すよりも共感を呼ぶこと、より精神的・理念的な類の方が重要なのだと思います。
一方で経済政策に関しては、21世紀の日本の首相の中では最も「害のない」政治家であったと肯定的に評価されるべきでしょう。21世紀以降の歴代総理大臣(及び橋本龍太郎)の破滅的な経済政策に比べれば、どっちつかずのアベノミクスは、崖から転げ落ちることを止めたという点で重要な転換でした。それがこの先どうなるか、国民にとって最重要課題と言えます。
「お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ」と、こちらも元首相である麻生太郎の発言です。新型コロナウィルスによる死者が欧米諸国と比べて少ないことを指してのコメントですが、日本よりも人口当りの死者が少ない中国や韓国と比べてどうなんだろうと思わないでもありません。それはさておきここで重要なのは、死者数が(欧米より)少ないことの原因を「民度」に求めていること、決して安倍総理のリーダーシップに求めていないことです。
韓国の文在寅大統領も、ブラジルのボルソナロ大統領も、新型コロナウィルス対策では大いに存在感を発揮しました。結果は正反対ですけれど、いずれも大統領がリーダーシップを発揮した結果として支持率は上がったようです。まぁ日本でも小泉純一郎のように、経済を失墜させても支持を高めた例はあります。成功か失敗かは、あまり重要ではないのでしょう。それに比べて安倍総理は、新型コロナウィルス対策において存在感が希薄なままであったと言えます。
東日本大震災の後、当時の首相であった菅直人は日本各地の原発を急停止させ西日本に未曾有の電力危機をもたらしました。こうした行動力、決断力は安倍晋三を凌駕するものです。世論の反発を見て政策を引っ込め、それを選挙目当てと野党に批判されてきた安倍晋三には、とうてい真似の出来ない振る舞いと言えます。ただ、菅直人と安倍晋三のどちらが安全な政治家であったかは、議論するまでもないでしょう。
菅直人は、自分は原発に詳しいと称して緊急事態の最中でも現場への介入を厭いませんでした。新型コロナウィルスの感染拡大が続く中で、ついに最後までリーダーシップを発揮することのなかった安倍晋三とは対照的です。一方で安倍晋三時代の「結果」は、それほど悪くないものだとは思います。自身が先頭に立って支持率を高めることには失敗していますが、政治の介入により感染拡大を招いた国も少なからずありますので。
会社でも、余計なことを始めて組織を混乱させる人罪ほど、人事の評価は高かったりしないでしょうか。逆に、余計なことをしない無害な人財ほど、蔑ろにされてはいないでしょうか。政治家の評価もまた似たようなところがあるように思います。安倍総理は最後に自身の評価を高めることに失敗したと言えますが――その後継者が、自身の評価を高めるプロフェッショナルになったりしないか、今から不安でなりません。