ロシア軍と通じている? 住民同士で不信感 ウクライナ東部(AFP BB)
【11月13日 AFP】ウクライナ東部ドネツク州スビアトヒルスク。がれきの中で配給の食料を受け取る人の列には、絶対に顔を合わせまいとしている2人の住民がいた。
リュドミラ・オルロワさん(61)はAFPに対し、エウドキヤ・ヤロワヤさん(76)に裏切られたと涙を浮かべて語った。「この町が(ロシア軍から)解放される4日前、9月7日でした。彼女はロシア兵に、私が自分の車をウクライナ軍に使わせていたと言ったのです」
(中略)
6月、スビアトヒルスクがロシア軍に占領された時、親ロシア派で当時のウォロディミル・バンドゥラ町長は「解放者」が来たと歓迎し、ロシア国旗を掲げて会見を開いた。9月にウクライナ軍が町を奪還すると姿を消し、現在は国家反逆罪で指名手配されている。
日本の報道を見ている限り、ウクライナ人は一人の例外もなくゼレンスキー体制の信奉者でロシアとの戦争継続を支持しているように見えますが、実態はいかほどのものでしょうか。日本も先の大戦中は現在のウクライナと同じく翼賛体制が敷かれており、自国の戦争に対して批判的な人々の声は封殺されていたわけです。しかし戦中の日本も現代のウクライナも、権力によって抑え込まれているだけで本当は自国の政府に賛成していない人もいることでしょう。
以前に触れましたが、ウクライナはソヴィエト体制下でロシア系住民の居住地域を組み込み版図を拡大させてきました(参考、ウクライナ拡張の歴史)。それだけに反ロシア派だけではなく、親ロシア派もまたウクライナ人の中には多いわけです。そして本来は親ロシア派もまたウクライナ国民であり同国民として等しく尊重されなければならないはずですが、西側のメディアは反ロシア派だけをウクライナ人として伝えてきました。このような報道を、プロパガンダと言います。
日本は与野党で方向性の一致する部分も多く、滅多に政権交代が起こることもないなど諸外国に比べると政治的な対立の少ない国と考えられます。国民も基本的に親米一色でロシアに勝つまで戦争を支援する方針でブレがありません。しかし余所の国はどうなのでしょうか。ウクライナでも親ロシア派が選挙に勝って政権を握ることはなんともありましたし、反ロシア派が政権を握ったケースでは「選挙に負けたけれど暴動で覆した」こともあるわけです。もう少しウクライナ国内の「異論」にも注目して良いと思いますね。
2020年のアメリカ大統領選では選挙に負けたトランプ候補の支持者が議事堂に乱入するなんてこともありました。結果的にあれは恥ずべき事態として処理されましたが、やっていることはウクライナのオレンジ革命やマイダン革命と大きく異なるものではないはずです。違うのは、少しばかり計画性に欠けたことぐらいですね。ウクライナで親ロシア派の政権を崩壊させた暴力革命は、NATO陣営にとって好都合であるが故に肯定されていますけれど、もう少し客観的になるべき時が来ているのではないでしょうか。
アメリカでも民主党と共和党、バイデンとトランプとで政治的な距離はあります。今回の戦争がロシアとNATOとの争いであってウクライナは舞台に過ぎないことを理解しているバイデン及び民主党と、ロシアとウクライナの二国間対立にアメリカが余計な出費を強いられているかのように勘違いしているトランプ及び共和党とでは、当然ながら外交方針も異なるわけです。正しく現状を認識しているのは前者である一方、結果的に平和に貢献するであろうものは後者という印象ですが、いずれにせよ両陣営の関係は世界中に影響を及ぼします。
これはヨーロッパ諸国でも似たような対立があり、アメリカを盟主と仰ぐ伝統的な政治家は自陣営勝利のためウクライナへの軍事支援を惜しまない立場を取る一方、新興の右派はウクライナの戦争のために自国が負担を引き受けていると現状を解釈し、結果的に和平志向の主張を繰り出している傾向も見られるわけです。日本の場合は前者が圧倒的多数派を占め、本当の意味で平和志向の左派は極少数派に止まり、後者に相当する結果的な和平路線の右派もいないと言えますが、もう少し我が国にも政治的な多様性が欲しいですね。
なお先日はポーランド領にミサイルが着弾し人的被害も出たとのことで、これはウクライナの迎撃ミサイルによるものとする説が有力です。最終的には「ロシアのせい」という結論に持ち込まれると考えられますが、現地のポーランド人はどう思っているのでしょうか。例えるなら、北朝鮮が打ち上げた粗大ゴミを迎撃しようとした韓国のミサイルが対馬あたりに着弾したようなものです。日本ですと、これ幸いに韓国叩きに盛り上がる人が結構な勢いを持ちそうな気がします。
韓国ですと左派が日本との戦後問題を厳しく問う一方で、右派は反・北朝鮮の同志として日本に融和的な傾向があります。では日本の右派はと言いますと、政治家レベルでは反共の同盟相手として韓国寄りの人がいないこともありませんが、国民レベルではむしろ逆の立場を取っている人が多いわけです。北よりも韓国を非難したい人の声が大きくなり、政治家がそれに媚びることは十分に考えられます。
話をポーランドに戻しますと、伝統的な政治家であればやはりNATO陣営の勝利のため、多少の犠牲は容認することでしょう。自国民がウクライナ発のミサイルに巻き込まれても、ロシアに勝つまで態度を改めることはないと言えます。しかし自国第一主義を掲げる右派がポーランドでも勢いを増すようであれば、「ウクライナの戦争のために自国民が犠牲になった」と結果を許容しない方向に傾いていくことも考えられます。
ましてやウクライナ西部は第二次大戦の結果としてウクライナ領に組み込まれたものであって、歴史的にはポーランド支配の方が長い地域です。一見すると反ロシアで堅く手を結んでいるように見えるポーランドとウクライナですが、一方の側から関係が崩れていく、という未来もまたあり得ると言えます。まぁNATO陣営の結束が崩れてくれれば結果的には世界規模での争いが避けられますので、それはそれで良いことには違いありません。