非国民通信

ノーモア・コイズミ

国民もまた間違っている

2023-01-29 23:14:49 | 社会

コロナ5類移行「賛成」46% 内閣支持率横ばい 毎日新聞世論調査(毎日新聞)

 毎日新聞は21、22の両日、全国世論調査を実施した。政府が新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同等の扱いにする検討をしていることについては、「賛成」が46%で、「反対」の41%を上回った。

 年代別で見ると、50代以下では「賛成」が「反対」を上回ったが、60代以上では逆転し「反対」が「賛成」を上回った。感染「第8波」が続いているさなかでもあり、高齢者層は扱いの変更に不安を感じているようだ。岸田文雄首相は20日、新型コロナの感染症法上の位置付けを今春、季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行する方針を表明していた。

 政府が新型コロナ対策として、中国本土からの入国者への水際対策を強化したことについては、「妥当だ」との回答が52%に上り、「さらに強化すべきだ」も37%あった。「強化しすぎだ」は7%、「わからない」は4%だった。中国での感染拡大を受け、日本政府は2022年12月、中国本土からの入国者らを対象に水際対策を強化した。中国政府は事実上の対抗措置として、日本人への査証(ビザ)の発給手続きを停止している。

 

 新型コロナの感染症法上の位置づけを5月8日から5類に移行すると政府の方針が示されました。今なお感染者数は高水準にあり、医療機関からは悲鳴も聞こえるところですが、感染症対策を緩和していくことについては支持の方が多いようです。衛生で効率的な社会に適応する人もいれば、不衛生で非効率的な社会で幅を利かせていた人もいますので、こうした「コロナ前に戻そう」とする動きはいわばバックラッシュの勝利と考えられます。

 この2年間あまりはインフルエンザが流行することはありませんでした。マトモな感染症対策さえ行われれば、インフルエンザの流行を防げることが証明されたわけです。そんなインフルエンザが再び流行の兆しを見せているのは、世の中の感染症対策が緩んでいること示す証拠と言えます。いずれ「精神的な」免疫を身につけるだろうと新型コロナの拡大当初に私は書きましたけれど、我々の社会は感染症のリスクに鈍感になってしまったのでしょう。

 私の場合であれば、特に後遺症などがなかったとしても1週間も寝込むようなことがあれば大損害です。でも1週間ぐらい病気療養に費やしたところで痛くも痒くもない、そんな暇人も実は多いのかも知れません。あるいは行動制限緩和で、症状さえ軽ければ外出を控えずに済むと考えている人も多そうです。ウィルスをまき散らすことに罪悪感を覚えない、5類への移行はそんな人々にパスポートを渡すことにもなるに違いありません。

 いずれはインフルエンザと同様に症状があっても満員電車に乗り込んで通勤する人が普通に出てくる、感染リスクの高い行動を取る人ほどマスクは付けないのが当たり前になると予想されます。本当はマスクを嫌がるような人ほどマスクを付けさせておく必要があるのですが、それが出来なくなる以上は個人単位での「自衛」だけが対抗手段になることでしょう。政府も回帰を目指す「コロナ前」は、周囲を憚らずゲヘゲへ咳き込む人と机を並べることを強いられてきましたけれど、そんな日々が「取り戻される」のかも知れません。

 また国内において感染症対策の緩和が世論の支持を得ている一方、中国からの入国者に対する水際対策の強化については「妥当だ」との回答が52%に上り、「さらに強化すべきだ」も37%と伝えられています。多くの日本人はコロナウィルスを恐れていない一方、中国からの入国者に関しては強い警戒を抱いていることが窺えます。世論とはそういうものであるにせよ、日本人同士でコロナウィルスを感染させることには無頓着であるにも関わらず、中国人からの感染は嫌がっているとしたら、その意味するところは何なのでしょうか。

 ウクライナを舞台にしたロシアとNATOの戦争が始まって以来、二重基準を隠さない国も増えてきた印象があります。全数把握を簡略化した日本はマシな方で、新型コロナの感染者数把握を止めてしまった国も少なくありませんが、そうした国でも中国にだけは正確な感染者報告を求め、中国からの入国者に限定して厳しい水際対策を取っているわけです。自国民同士の感染拡大や、欧米からの感染者流入は気にしない、しかし中国から来るものは脅威と見なす、それが当たり前のこととして受けいられていると言えます。

 昔から、アメリカ側に立っている国こそが自由で民主的な国であり、アメリカが敵視している国を悪と見なす基準は日本を含む西側諸国に存在していました。ただ、それがこの1年でエスカレートしているところはないでしょうか。中国が相手であれば、公平性を欠く入国制限措置を執っても当然であり、もっと強化すべきであると疑問を持つことなく考えている人が多いことを世論調査結果は示しています。しかし、それは防疫の面だけではなく人間としても正しい選択ではありません。

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野党の存在意義

2023-01-22 22:58:24 | 雇用・経済

連合岐阜、今井瑠々氏を批判 自民への転身「断じて許されない」(朝日新聞)

 4月の統一地方選で、岐阜県議選多治見市選挙区(定数2)に自民党推薦で立候補することを表明した今井瑠々(るる)氏(26)について、前回の衆院選で推薦した連合岐阜の筒井和浩会長は17日、「断じて許されない行動であり、強く非難する」とする談話をホームページで公表した。

 今井氏は2021年の衆院選岐阜5区で、立憲民主党から全国最年少の25歳で立候補して落選。その後も同党の総支部長として活動していた。

 立憲民主党が17日、離党を申し出ていた今井氏を除籍処分としたことを受け、筒井会長は「組織・組合員の皆さん、投票いただいた皆さんへの裏切りであり、いかなる理由を説明されても到底理解できない。私たちは今井氏の行動に負けるわけにはいかない」と批判した。

 

 元・民主党候補が自民党への転身を表明したことで一部では動揺が広がっています。事実上の支持母体である連合も「断じて許されない行動であり、強く非難する」などと宣っているわけですが、どうしたものでしょう。そもそも連合自体が前回の参院選では必ずしも全面的な民主党支持ではなかった、選挙区によっては自主投票を呼びかけるなど、自民党への接近と解釈される動きも見せていたはずです。それは民主党サイドから許される行動だったのでしょうか。

 民主党と連合との亀裂は、枝野派と共産党との選挙協力が発端でした。そもそも連合とは労使協調の理想を追求すべく、共産党の影響力が強い組合を排除することで形成された組織です。連合とは統一教会と並ぶもう一つの勝共連合であり、「連合は共産党の影響を排除するために闘ってきた」と明言してきました。枝野派の進めた共産党との選挙協力は、単に共産党に道を譲らせるだけで共産党を利するものではないとしても、連合の許容できるものではなかったわけです。

 だから今井氏も、連合会長の発言と歩調を合わせて反共を理由に掲げて離党するのであれば、少なくとも連合から非難されることはなかったような気がします。もっとも枝野派が泉派に変わって以降は共産党との選挙協力もトーンダウンしているだけに、別の何か戦略的な理由付けが必要になるでしょうか。とは言え今井氏からすれば低迷の続く党の支援に不信を抱いてきた以上、今さら民主党から非難されても構わない、大した影響力を持たない連合ごときに何を言われようが気にならないところはありそうです。

 

立憲のホープが電撃転身 今井瑠々氏、自民に心が傾いたきっかけは(朝日新聞)

 「自民党から県議選に出たいのですが、選択的夫婦別姓の問題など、自民党とは考え方の違いがあります。どう思いますか」

 そう切り出した今井氏に、古屋氏は応じた。「大いに歓迎しますよ。自民党は多様性の党ですから」

 

 実際のところ、政権を奪取できる見込みの乏しい野党にいるのと、政策面で一致がなくとも与党の内部に入るのと、どちらが政策実現に近いのかは私も分かりません。取り敢えず今井氏は自民党の内部に入った方がまだしも希望があると考えたのでしょう。そもそも選択的夫婦別姓に関しては民主党が先の政権交代の前夜に取り下げた代物であって民主党執行部に実現への意思があるかどうか疑わしいですし、今井氏の鞍替えは正解に近いのではないかと思います。

 先日も書きましたが、日本は政治的な対立が少ない国です。自民党への失望が高まれば当て馬として野党に投票する人が一時的に増えますが、たまに政権交代が起こったところで日本の政策に抜本的な方向転換が起こるかと言えば、決してそのようなことは起こりません。政権交代は単純に与党への批判の高まりを受けて発生するに過ぎず、野党側の(与党とは異なる)政策が期待されてのことではないと判断できます。過去に民主党が政権を取っても政策面で目立った変化がなかったのは、そうした民意を理解してのことでもあったのでしょう。

 むしろ自民党政権が続く中で変化が起こると言いますか、近年の相対的に大きな変化としては第二次安倍内閣の経済政策を挙げたいです。これは橋本龍太郎以来のマイナス方向に一貫した経済政策を出鱈目な方向へと修正するもので、部分的には良い部分もあったと私は評価しています。そして次なる大きな変革は、まさに目の前で行われている岸田内閣での軍拡路線です。アメリカの衛星国として、世界を陣営によって分断する方向へと舵が切られているわけですが、そのツケをどのように支払わされるのかは考えられねばなりません。

 ここで野党側が意見を異にしているようだと希望は持てるのですが、主立った野党はいずれもアメリカ陣営に属しているかそうでないかで敵と味方を隔てる外交感覚を自民党と共有しています。意見が分かれているのは軍備拡張の財源を何に求めるか、ぐらいです。そうした面では緊縮財政に走りかねない野党の方がむしろ危ういとすら感じざるを得ません。現政権への批判が高まることは当然ですが、では野党第一党や第二党が立場を強めれば事態が改善されるかと言えば、そうなっていないところに日本の政治の問題があります。

 こうした中では、野党の中で議席の拡大を目指すよりも、与党入りして与党自身を変えていくことの方に可能性を見出す人も一定数いるのではないでしょうか。件の今井氏の場合も、そのような判断を下したと解釈できるように思います。今の民主系諸政党や維新が果たしている役割は、政権与党への批判票が自民党とは方向性の異なる政党に流れないようにするための受け皿でしかありません。むしろ自民党内の派閥対立の方が政策の転換に影響力を持つとすら言えるでしょう。

 まぁ野党の唱える増税への反対自体は影響力を強めて欲しいとは思います。ただ、単に与党とは違うことを主張してみただけなのか本気なのかは問われるべきです。例えば10%への消費税増税を決めたのは民主党であって、その施行時期が自民党政権下であったに過ぎません。民主党系諸派は、自らの与党時代に決定した消費税増税が誤りであったと公式に認めて国民に謝罪し、消費税増税を決めた当時の総理大臣と経済産業大臣を強く糾弾するぐらいの姿勢は見せるべきでしょう。その程度のことすら出来ないなら、単に与党批判で点数稼ぎのため増税反対を口にしているだけと判断されるべきです。

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野党共闘

2023-01-22 21:27:56 | 政治・国際

甲府市長選で現職の樋口氏が3選 自民、立憲、公明、国民が推薦(朝日新聞)

 甲府市長選は22日投開票され、無所属現職の樋口雄一氏(63)=自民、立憲、公明、国民推薦=が、共産党地区委員の早田記史氏(39)と映画監督の松井忠弘氏(55)の新顔2人を破り、3選を決めた。8年間の実績を強調し、幅広い支持を得た。

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野党共闘

2023-01-22 21:27:13 | 政治・国際

社説:長岡京市長3選 まちの「将来像」明示を(京都新聞)

 15日に投開票が行われた長岡京市長選で、自民、立憲民主、公明、国民民主、社民各党の推薦を受けた無所属現職の中小路健吾氏が、共産党推薦の無所属新人を大差で下し、3選を果たした。

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負けて広がった領土

2023-01-15 21:54:28 | 政治・国際

 現代における中国の領土は万里の長城を大きく超えて北方に広がっています。これは漢人の勢力が北方を侵略していった結果かと言えば、一部にはあるかも知れませんが大半は真逆です。つまり北方の騎馬民族が漢人を征服し、そこに新たな王朝を開いた結果として、北方の騎馬民族が支配していた地域を含む広大な中国が出来上がったわけです。もし宋王朝や明王朝が女真人の侵攻をことごとく跳ね返していたのなら、中国の国境は今よりもずっと南側にあったことでしょう。

 かつてイギリスは、フランス西北部のノルマンディー地方を支配していました。これはイギリスがフランスを侵略して奪ったものかと言えば、やはり全くの逆です。攻め込んだのはフランスであり、ノルマンディー公ギョーム2世がイングランドを征服してイングランドの新たな王に即位した結果として、ノルマンディー地方をも領有するイギリスの王朝ができあがったわけです。もしイングランドの旧王朝がノルマン人を斥けていたのなら、ノルマンディー地方をイギリスが領有することは当然あり得なかったと言えます。

 そして現在において広大な領域を支配しているウクライナの場合です。ロシアとの係争地となっている東部地域や南部地域がどうしてウクライナ領になったかと言えば「ボリシェヴィキに負けたから」ですね。昔年のロシア帝国が崩壊するとキエフを中心にロシアからの分離独立を図る勢力が決起し、当初は優勢に戦うも後ろ盾になっていたドイツが敗れると反転攻勢を受け、ハリコフを拠点とするボリシェヴィキ勢力によってキエフが占領された、その結果として今に至ります。

 分離独立派の拠点であるキエフと、ボリシェヴィキ側の拠点であったハリコフやオデッサを含む広大な地域はウクライナ・ソビエト社会主義共和国として成立し、現代もロシアとの国境はこれを引き継いでいるわけです。しかしキエフ勢力がボリシェヴィキの侵攻を跳ね返していたのなら、その後の歴史はどうなっていたでしょうか? 当然ながらハリコフやオデッサがウクライナ領に入ることはない、リヴォフやクリミア半島がウクライナに譲り渡されることもあり得ません。もしウクライナがボリシェヴィキに勝っていたのなら、ウクライナの領土は現代の半分以下だったことでしょう。

 ボリシェヴィキ政府の究極の目標は世界革命でもありましたが、現実的な目標としてまずは旧・ロシア帝国内部の社会主義化が第一でした。ウクライナは言うまでもなく、グルジアやアルメニアも然り、紆余曲折はあれどバルト三国も然りです。ただロシア帝国の中で例外的に、フィンランドは社会主義化されることなく独立を維持してきました。これは勿論ソヴィエト政権の意向ではなく、フィンランドが共産党勢力を斥けた結果です。

 決してフィンランドもモスクワから無視された存在ではありませんでした。ロシア革命の後にはフィンランド国内でも革命勢力が立ち上がりフィンランド社会主義労働者共和国を建国してもいます。ただフィンランドの場合は白軍とドイツ軍による反攻を受け、早期に滅亡してしまう結果に終わりました。ただソ連政府が旧ロシア帝国領であるフィンランドを放棄したつもりはなく、独ソ戦に先立ち改めてフィンランドを共産圏とするため侵攻を開始したわけです。

 この場合も当初はソ連との戦いを優勢に進めるものの、例によって後ろ盾となっているドイツの敗戦が濃厚になるやフィンランドは劣勢に陥ります。ただカレリア地方等をソ連に割譲することで早期の休戦を結び、フィンランドは独立を保つ形になりました。この時に定まった国境線はソ連崩壊後も続いているわけですが、もしフィンランドが共産化されていたならどうだったでしょうか? 現在のロシア領であるカレリア地方は、元々フィンランド社会主義労働者共和国の支配地域です。もしフィンランドがソ連邦の構成国であったなら、カレリア地方はフィンランドのものであり、ソ連崩壊後も同様であったことでしょう。

・・・・・

 負けたことで大きく領土の広がった国もあれば、侵攻を押し止めたことで何も得なかった国もあります。もしロシア帝国の崩壊後にウクライナがボリシェヴィキを撃破し、キエフを中心とした小さな独立国を構成していたのなら、今のような争いはなかったかも知れません。実際には敗れたからこそウクライナの領土は東へ西へ南へと大きく広がったわけですが、ウクライナは広大になるとともに多民族国家にもなった、その結果として親ロシア派と反ロシア派の対立を国内に抱えることにもなりました。果たしてどちらに転ぶのが正解であったのか、歴史にifはないと言いますけれど、一つの分岐で運命が変わるその行く末には思いを巡らせずにいられません。

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旗幟鮮明

2023-01-08 23:11:03 | 社会

 新型コロナウィルスの週間感染者数で日本が世界最多と発表されることは珍しくなくなりました。重傷者数も死者数も増えていますので、より一層の警戒を強めるべき事態であること自体は確かです。ただ本当に日本の感染者数が世界最多であるかは疑わしいところでもあります。欧米では既に感染者数の把握を放棄していることが多く、そうした国々からは過少報告された不正確な数値しか出てこないわけです。日本もまた全数把握については簡略化が進んでおり必ずしも実態を正しく反映しているとは言い切れませんが、おそらく世界最多までは届かないでしょう。

 感染者数把握の放棄が世界的な潮流となっている一方、どういうわけか中国に関しては数値が正確でないと自国を棚に上げて非難する人が多かったりします。それぞれの国が報告してくる感染者数が信用ならないのはアメリカもイギリスもウクライナも同じはずですけれど、中国にだけ正確な把握を要求しているのは理不尽な話と言うほかありません。

 加えて空港などでの水際対策に関しても、大半の国が検疫を行わなくなっているにも拘わらず中国からの入国者に限っては厳しい検査対象になる、連日のように陽性者数が多数発覚したと伝えられています。アメリカからの便だって真面目に調べればいくらでも陽性者は見つかることでしょう。日本から国外に出た人だって同じです。しかし多くの国が警戒の対象としているのは専ら中国からの便に限った話で、このような対応は中国政府から非難されても当然です。

 新型コロナウィルスの流行当初も、中国からの入国に関しては非常に厳しい対応が取られていました。結果として初期(武漢型)のコロナ株が日本に入ってくることは皆無に近かったのですが、しかるに欧米経由の変異株は当たり前のよう日本に到達し、流行が始まりました。この結果として起こった社会の変化には良いものも多く結果オーライと感じるところがないでもないのですけれど、防疫という面では偏った対策が失敗を招いたことを反省すべきではないでしょうか。

 ウクライナを舞台とした戦争への対応でも同様ですが、何かへの対策と言うより「立場を明らかにする」ことが先決になってしまっている節もあるように思います。どの国を無警戒なままにとどめておくか、どの国を警戒対象に定めるか、それは必ずしも実際のリスクに応じたものではなく、それぞれの国の「好き嫌い」や「アメリカに臣従しているか」という基準の方が幅を利かせているところがあるわけです。

 なお新型コロナウィルスだけではなく、日本ではインフルエンザも久々に流行の兆しを見せているそうです。新型コロナウィルスの感染拡大以来、その対策の副産物としてインフルエンザの感染者は極小に押さえられてきました。しかるべく公衆衛生の基準を引き上げていけば、新型コロナはともかくインフルエンザに関しては十分に流行を防げることが明らかです。そのインフルエンザが流行していると言うことは、すなわち我々の社会の感染症対策が緩んでいることを意味します。

 コロナ以前はインフルエンザと疑われる症状があっても公然と出歩く人が多かった、周囲を憚らずゲヘゲへとウィルスをまき散らし、会社にも皆勤を続けて頑張る自分をアピールするのに余念のない人も目立ったわけです。新型コロナの流行のおかげで、そうした迷惑な人々が表に出てくることを押し止められるようにもなったはずですが、その辺の箍は着々と外れているのでしょう。

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを、インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げようとの意見も日に日に強まっています。いずれインフルエンザと同様に、コロナの疑いのある人も平然と満員電車に乗って出社、机を並べて仕事をせざるを得ない日々が訪れるのかも知れません。ただ、そうなってもなお中国への警戒だけは緩めない、国内向けには「ただの風邪」扱いしておきながら、中国から入国するコロナ陽性者だけは重大な危険因子として扱う、そんな未来が予想されますね。

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戦時下の報道

2023-01-01 22:56:30 | 政治・国際

 年の瀬は少し時間が出来ましたので、久々にブルガーコフの著作を読み返しています。このブルガーコフについては10月にも少し触れましたが(参考)、「帝国主義者で反ウクライナ的」とのレッテルを貼られ、氏を記念した博物館はウクライナ全国作家同盟によって閉鎖の圧力に晒されているそうです。ソ連時代には体制を否定的に描いているとして表舞台から斥けられていた人でもあるのですが、こうして二重に弾圧される人も滅多にいないのではないでしょうか。

 ブルガーコフはキエフ生まれのキエフ育ちで、生誕時には「ロシア帝国」籍、長じて後は「ソヴィエト連邦」籍となりました。日本国籍の中にも東北人や九州人がいるように、ソ連国籍の中にも区別はあると考えられますが、現代においてブルガーコフの排斥に動いている人々に言わせると氏は「ロシア人」なのだそうです。ある種の人々にとってそれは自明の理なのかも知れませんけれど、極右層の得意な在日(非日本人)認定と似たような勢いを感じますね。

 結局のところ私が読んだ限りブルガーコフの著作に帝国主義への傾倒や反ウクライナ要素を見出すことは出来ませんでした。もちろん全ての著作を読んだわけでもないですので探せば見つかる可能性はありますが、理由は別のところにあるのでしょう。それはすなわちブルガーコフがウクライナ語ではなくロシア語で作品を書いていたから、です。

 もっともこれはブルガーコフに限ったことではなく、同じくウクライナ生まれの先達であるゴーゴリを筆頭に、専らロシア語で著作を残した文化人は少なくありません。今でこそ政治的な理由でウクライナはロシアとは全く別の国家として扱われますけれど、当のウクライナ出身者の中には広義のロシア人としての帰属意識を持ち、ウクライナをロシアの一地域として認識している人も少なくなかったわけです。

 日本という国もまた東国と西国には少なからぬ文化的な違いもあり、縄文系と弥生系の民族的な違いもある、「倭人」もいれば「蝦夷」もいる、いわゆる標準語と各地の方言とでは意思疎通が困難な場面だってあります。それでもなお関西人も関東人も同様に「日本人」として認識されているのですが、こうならなかった可能性もあったのではないでしょうか。「国際社会」の思惑次第ではロシアとウクライナのように日本が分割されて定義される世界線だってあり得たように思います。

・・・・・

 かつてウクライナでは民主的な選挙によって親ロシア派と目される大統領が当選したこともありました。その大統領が暴力革命によって追放された後も、ゼレンスキー体制下で活動を禁じられた政党うあ身柄を拘束された政治家が一定の得票を得て議席を確保していたわけです。そしてウクライナの保安庁が「裏切り者」として追跡している対ロシア協力者の存在もまた当のウクライナ政府によって明確に示されています。

 ウクライナ人の中には反ロシア派もいれば親ロシア派もいる、それは自明のことです。しかるに我が国(恐らくは他の西側諸国も同様と思われますが)における問題として、メディアもまたウクライナ人の声を選別している、それが何ら批判を受けることなく許容されている点が挙げられるのではないでしょうか。一部の体制に都合の良い声だけに全国民を代弁させている、それはすなわち第二次大戦中と変わらないものだと私は思います。

 日本の大手メディアに登場するウクライナ人は例外なくゼレンスキー翼賛体制の支持者であり、ロシアに勝利するまで戦争を継続することへの賛意を露にしています。私の見ていない番組だって多々ありますけれど、おそらく自国政府を批判するウクライナ人が全国紙やキー局に登場したことはないでしょう。これは決して存在しないからではなく、メディアが拾い上げる声を選別した結果でもあります。

 第二次大戦中の報道もまた、「勝つまで」戦争の継続を支持する声だけが選別して伝えられ、それが国民の総意とされていました。ただ本当は当時の日本国内にも戦争に反対の人はいた、自国の政府に批判的に早期の終戦を何よりも優先する人だっていたはずです。あくまでメディアに登場しなかっただけのことと言えますけれど──現代のウクライナを巡っても同じことが繰り返されてはいないでしょうか?

 戦争継続ではなく停戦を望む、自国の大統領を公然と批判する、反ロシア派の支配に抵抗するウクライナ人だって存在しているのですが、そうした人々の声を我が国のメディアは完全に封殺してきました。一方の陣営を鼓舞するための戦時報道としては教科書通りの振る舞いと言えますけれど、社会の公器としてはいかがなものかと思うばかりです。

・・・・・

 本当に平和を望むのであれば、NATOのプロパガンダに沿ったロシア非難ではなく、もっと別のものに批判の目を向けるべきでしょう。一見すると岸田内閣の軍備増強路線に否定的であるかに見えるメディアですら、露骨な偏向報道によってロシアを悪玉に仕立て上げており、戦争への備えを強めるほかないとの判断へと国民を導いています。かつて日本の戦争を賛美してきたメディアは今、別の国の戦争を支持するよう活動していると言うほかありません。

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