非国民通信

ノーモア・コイズミ

統一地方選挙の結果

2023-04-30 23:29:30 | 政治・国際

 ようやく統一地方選挙も終わりまして、住環境に恵まれた人はこれで選挙カーに悩まされずに済むと胸を撫で下ろしているところでしょうか。私の住む地域は相変わらず喧噪が絶えず、選挙カーの有無ごときでは何も変わっていません。ともあれ結果を振り返ってみることとしましょう。

衆院補選 千葉5区  34歳の女性候補が55歳の男性候補に勝利
衆院補選 和歌山1区 41歳の女性候補が57歳の男性候補に勝利
衆院補選 山口2区  31歳の男性候補が69歳の男性候補に勝利
衆院補選 山口4区  38歳の男性候補が71歳の男性候補に勝利
参院補選 大分    56歳の女性候補が67歳の男性候補に勝利

 こうしてみると今回の補選で女性の政界進出が進んだ、議員の若返りも進んだと言えるでしょうか。当選に必要な地盤・看板・鞄を既に得ている先行者が議席をキープし続ける反面、有権者の共感は若い方が得やすいところもあるように思います。また党の公認候補者に選ばれさえすれば、むしろ女性の方が票を集めるとも言えそうです。男女比が大きく偏り高齢化も顕著な日本政界ですが、性別と年齢の面では是正に向かっているのかも知れません。もっとも若い議員が増える、女性の議員が増えることで世の中が良くなるかと言えば、そこは全く別の問題になりますが。

 世間の注目度の高い国政選挙の陰で、我が町の市議会議員選挙も行われました。先日も書きましたとおり無投票を免れただけで大半の候補は当選する選挙ですし、その結果で何かが変わることもないでしょう。数十人の候補者の主張を斜め読みした限りでは、どれも似たようなきれい事を並べており大して違いは見つけられませんでした。もっと日頃の議員活動に注視していれば、選挙向けのアピールと実際の活動の矛盾などにも気づけるのかも知れませんが、国政と比べて地元の政治は情報源が限られますし。

 ただ一応は無投票を免れましたので、落選した人もいるわけです。当選する人の方が圧倒的多数派である地方の市議会議員選挙で落選するのはどのような人か、逆に興味深くも思えます。行動力だけはあるけれど常軌を逸している感じの候補もいて、その落選は致し方ないと言えます。一方で落選した人の中には「至って普通の」候補者もいて、当選した有象無象の地方議員と掲げた主張は大差ない、それなのに集まった票だけが少ない人もいました。他の候補と同等の票を得られても良さそうなのに何故、という思いはあっても良さそうです。

 もちろん他の候補者と差別化できているわけでもありませんので、抜きん出て多い票を集める理由はなかったかも知れません。しかし票が逃げる理由もなかったはずです。それでもどうして票が集まらなかったのか、政党の公認がなければ不利になることもありますが、一方で事実上の公認を隠し無所属をアピールする政治家の方が圧倒的な支持を集めてきたケースも目立ちます。政策面では他の候補と似たり寄ったりでも、若さや無党派をアピールすれば支持は集まりそうなもの、それでも何故か落選した人もいる、選挙の世界は世間で考えられているよりずっと複雑な力学が働いているのかも知れません。

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投票だけはしましたが

2023-04-23 23:14:55 | 政治・国際

 「選挙カーがうるさい」と聞く度に、選挙カーごときでうるさいと思えるような住環境を羨まずにはいられない私ですが、不動産価格はデフレの時代から一貫して上がり続けるばかりで色々と絶望的です。この選挙カー、反発こそ買ってはいるものの票がマイナスになることはないと言いますか、集票面ではプラスに繋がっているとの研究報告もあります。いくら嫌われても「マイナス1票」なんて誰も投じることは出来ない以上、とにかく名前を売った方がプラスなのでしょう。

 私の住む自治体では無投票こそ免れましたが、候補者が定数を大きく上回ることはなく、落選する人は至って少数です。数十人の候補者がいて、それとほぼ等しいだけの議席がある、この状況で票を投じる一人を選ぶというのも真面目に考えれば難しい話です。国政ともなれば世間の注目度も高く候補者についての情報も容易に入手できますが、反対に地元の議会のこととなりますと第三者のメディア報道ではなく本人の活動報告でも見に行かなければ何も分かりません。候補者数は多いのに情報は少ない、近いほどに距離がある、それが地方議会選挙のイメージですね。

 市政において何か明白な争点でもあれば盛り上がるところもあるのでしょうけれど、政治家の金銭問題を巡っての争いはあっても政策そのもので議会が分断されている様子はありません。市を二分するような争いがあっても嬉しくはないですが、かと言って何もないと選挙の意義も相応に低下してしまう、それが投票率にも結びつくわけです。まぁ先日も書きましたとおり私の住む街は人口流入が続き、至る所が子供で賑わっています。ならば現状のままでヨシと判断されているのかも知れません。

 政治家には政策と行動力の双方が望まれるところですが、実際のところは後者が優位になりがちでしょうか。まず議員としての活動にはバイタリティが大前提で、「行動力」のところで足切りされてしまう世界です。ミステリの世界には「安楽椅子探偵」みたいな概念もありますけれど、現実世界に「安楽椅子議員」はあり得ません。議員が好待遇であるかのように語る人がどれほど多くとも、自ら政治家になろうとするだけの行動力を示せる人は多くない、そういう世界なのです。

 私の住む街では迷路のように入り組んだ細い道をミニバンが埋め尽くしています。いつだって渋滞していますので選挙カーだけではなく緊急車両や暴走族もすぐには通り過ぎてくれません。そんな中でも子供達はたくましく叫び回り、工事の人たちが器用に隙間を縫って道路を掘り起こしています。徒歩なら駅まで30分のところをバスだと50分かかったりするわけですが、この状況を解決する方法としては「自家用車の禁止」が最適だと考えられます。

 実際にドイツでは首都ベルリンの中心部で自家用車の利用を禁止するための市民運動も行われているそうで、私の住む街でも同様の行動を起こしている議員がいるなら積極的に応援していきたいところです。ただ、自ら先頭に立つだけのバイタリティはありません。なんだかんだ言って政治家は大変な仕事だと思っています。今の政治家が良い仕事をしているとは全く思いませんが、では代わりに自分がやるかと問われれば、そんな面倒な仕事はゴメンだという思いもある、大体の国民はそういうものではないでしょうかね。

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子供の増える街

2023-04-16 23:04:25 | 社会

 先週は選挙でしたが、次週もまた選挙です。日程を決める側にも思惑はあるのでしょうけれど、2週間隔であれば投票日を統一した方が投票率も上がるような気がします。それはさておき私の場合は最寄りの小学校が投票所でして、選挙の度に足を運んでいるわけです。そこで気づいたのですが、1年生のクラスが一つ増えていました。

 これまで40人学級だったのが、今年度から35人学級に切り替えられたのでしょうか。その辺の事情までは知りませんけれど、単純に子供の数が増えただけなのかも知れません。周りはどこに行っても子供ばかり、至る所から子供の叫び声が聞こえてきますので、それだけ小学校に上がる子供も多いであろうことは必然です。

 しかるに統計上は少子高齢化が急速に進んでおり、日本全体で見ると子供の数が大きく減っているわけです。私の居住している地域では子供が増えていく一方であるだけに、子供の減っていく世界というのは想像するのも難しいのですが、いったい何が「日本全体」と「私の住む街」で違うのでしょうか。

 そもそも日本全体で見た場合は人口減少が続いている一方で、私の住む街は人口増加が続いています。では人口の減る地域と増える地域は何が違うのか、一つは「都心まで通勤できるか」ですね。私の住む街からでも頑張れば都内の企業に通勤できますし、総じて東京通勤圏は人口減少時代にも流入超過が続いており、人口増には「東京通勤圏」が最重要であると分かります。

 もっとも東京通勤圏の人口増は他地域の転出超過の結果でもありますから、「東京に通勤できるようにする」とことはミクロの対策にはなってもマクロでは無意味です。各自治体が住民を増やしたいのであれば、都心への通勤アクセスを改善することが最善と言えますけれど、それで特定の自治体の住民が増えることはあっても日本全体の人口減を止めることは出来ないわけです。

 そして子供の数についても、私の住む街はギリギリ東京通勤圏いわば「ギリ圏」でありつつ、東京に通勤できる以外の魅力が一切ないことから、地価は相対的に安いです。結果として子育て世帯が背伸びして戸建て住宅を買うにはちょうど良い価格帯に収まっている、子育て世代が後を絶たず流入するサイクルが出来上がっているものと考えられます。

 なんとか東京まで通勤できるけれど、他に魅力がないので地価が安く子育て世代でも手が出せる──そうした街作りは結果として子供で溢れる街に繋がりました。ただ言うまでもありませんが、これもまた他地域からの転出の結果でもあるわけです。似たような自治体運営によって子育て世代の流入する街を作ることは出来ても、それで日本全体の少子化を解決することに繋がることがないのは言うまでもありません。

 この辺は企業誘致と似たようなところでしょうか。自治体が助成金や税制優遇によって他地域から企業を進出させ、それが成功例として喧伝されることは少なくありません。しかし結局は他地域からの企業撤退とセットになっていることも多く、マクロの観点では助成金をばらまいただけ、企業への課税を減らしただけになりがちです。

 ともあれ人口流入が続き少子化とは無縁の我が街はミクロで見れば成功しているという評価になるのでしょうか。一応、次は市議会議員選挙ですので、こうしたミクロの成功を候補者がどう考えているか等は少し興味があります。まぁ、かろうじて無投票を免れただけで9割以上の候補者は当選する、なぜ立候補したのか常人の理解が追いつかないネタ候補ぐらいしか落選しない選挙ですので、あまり気にしても仕方ないのですが。

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AIと(自分の)仕事

2023-04-10 22:54:47 | 社会

 「AIに仕事が奪われる」とは昔から言われてきたことですが、実際のところはどうなのでしょうか。「AIで(お前らの)仕事が必要なくなる」と居丈高に語る人は数多くいる一方で、「AIで(自分の)仕事が片付くようになる」と希望を抱いてきた人は極めて稀なのではないか、というのが私の感覚です。

 昨今はChatGPTなど見栄えの良いAIが話題をさらい、他にも画像生成AI等はブレイクスルーを感じさせるものがあります。「AIに仕事が奪われる」云々は現実論と言うよりも、「お前らの仕事なんてAIで代替可能なんだ」というマウンティングの意味合いの方が強かったわけですが、少し時代が変わったのかも知れません。

 ここに来てAIの規制論が強まっているのは、「お前らの」仕事ではなく「自分の」仕事がAIによって奪われると感じる人が初めて出てきたからではないでしょうか。特に画像生成AIはクリエイティヴ系の職種にとって現実の脅威となっていると言えます。ただ写真が発明されても画家がいなくなったりはしないように、「変化」がもたらされることはあっても人類が労働から解放されることは考えにくいです。

 

霞が関のChatGPT活用 「積極的に考えていきたい」河野担当相(朝日新聞)

 河野太郎・国家公務員制度担当相は7日、「ChatGPT(チャットGPT)」などの最新のAI(人工知能)について、官庁での業務への利用を「積極的に考えていきたい」と話した。霞が関の働き方改革につながるとの期待を示したものだが、使い方によっては行政機関が持つ情報流出につながる懸念にも言及した。

 衆院内閣委員会で、自民党の平将明衆院議員の質問に答えた。平氏は国会答弁の作成やさまざまな書類の不備のチェックでの利用を提案。河野氏は「大量の情報を効率的に扱うことができる」などと応じた。

 

 欧米ではAI規制論が盛り上がっているだけに、「同志」である日本の政治家からの発言としては少し意外でした。ただ河野太郎は悪い意味で発想が民間企業的と言いますか、会社の偉い人的な感覚で「AIを活用すれば(あいつらのやっている仕事なんか)簡単に解決できる」と思い込んでいるだけの印象です。では実際の霞が関の官僚達はどうでしょう、ほぼ100%の官僚は「(自分の仕事は)AIには任せられない」と考えている気がします。

 インド人に道を尋ねると「知らなくても」教えてくれるそうです。「知らない」と返すのは相手に失礼で、たとえ知らなくともなんとかして相手に答えようとするのがインドの文化だとか。だから親切に道を教えてくれるけれど、合っているかは別問題なのだそうです。そして今のところchatGPTはインド人的で、「知らない」という代わりに適当な回答を捏造する傾向が見えないでもありません。

 chatGPT開発の裏にはインド人IT技術者の活躍があったのではと推測しますが、今のところ正確さを問われる分野でのAI利用は厳しいです。だからこそクリエイティヴ系の仕事など正解のない分野で真っ先に人間の仕事としての競合が起こっているとも考えられますが、いずれはAIが事実関係の正しさを判断できるような時代も訪れることでしょう。その先は多分、該当のAIを開発したのがどこの国か次第で賛否が分かれるものと私は予測します。

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野党共闘

2023-04-09 23:32:23 | 政治・国際

秋元克広氏3選確実 札幌市長選(北海道新聞)

 札幌市長選は9日午後8時に投票が締め切られ、無所属現職の秋元克広氏(67)=立憲民主党推薦、自民党札幌市支部連合会、公明党札幌総支部連合、国民民主党道連支持=が、いずれも無所属で、新人の元札幌市市民文化局長高野馨氏(64)、新人のNPO法人事務局長木幡秀男氏(62)=共産党道委員会推薦=を破り、3選を確実にした。

 

難波氏が当選確実 静岡市長選 共創の市政実現へ決意(静岡新聞)

 統一地方選前半戦の静岡市長選は9日、投開票が行われ、無所属新人の元副知事難波喬司氏(66)=自民、公明、立民、国民推薦=が当選を確実にした。

 難波氏は与野党と経済界有志、共産党を除く市議会全会派から後押しを受け、無所属新人の元県議山田誠氏(61)と共産党新人の党県常任委員鈴木千佳氏(52)を退けた。

 

神奈川県知事選挙 黒岩祐治氏が4選確実(神奈川新聞)

 第20回統一地方選前半戦の神奈川県知事選挙は9日午後8時で投票が締め切られ、現職の黒岩祐治氏(68)=自民、公明、国民民主各党の県組織、連合神奈川推薦=の4選が確実となった。新人で市民団体代表の岸牧子氏(66)=共産党推薦=ら3氏は及ばなかった。

 

現職の杉本達治氏が再選確実 福井県知事選挙2023(福井新聞)

 福井県知事選挙は4月9日午後8時に投票が締め切られ、無所属現職の杉本達治氏(60)=自民、公明、立憲民主党推薦=が再選を確実にした。

 福井県知事選挙は、再選を目指す無所属現職の杉本氏と共産党新人で党県書記長の金元幸枝氏(65)が17日間、政策を戦わせた。杉本氏は北陸新幹線県内開業効果の最大化や子育て支援の強化に取り組む姿勢を示し、金元氏は原発から再生可能エネルギーへの転換、北陸新幹線敦賀以西の計画凍結を主張してきた。

 

鳥取県知事選、平井伸治氏の5選確実(中国新聞)

 鳥取県知事選は9日投開票され、無所属現職の平井伸治氏(61)=立憲民主推薦=が5選を確実にした。自民、公明党の県組織が推薦した平井氏は、経済団体、労働組合などから幅広い支持を受け、共産党新人の福住英行氏(47)を圧倒した。5選は同知事選で最多になる。

 

島根県知事選、丸山達也氏の再選確実(中国新聞)

 島根県知事選は9日投開票され、無所属現職の丸山達也氏(53)=自民、立憲民主、公明、国民民主推薦=が再選を確実にした。選挙戦では人口減少対策を柱とする「島根創生」の実現を訴えた。中国電力島根原発(松江市)の2号機再稼働反対を全面的に主張した共産党新人の向瀬慎一氏(52)と、諸派新人の森谷公昭氏(67)は及ばなかった。

 

北海道知事選「野党統一候補」池田真紀氏が落選 出遅れは否めず(朝日新聞)

 北海道知事選で、元立憲民主党衆院議員で無所属新顔の池田真紀氏(50)の落選が確実となった。全国9道府県知事選で唯一の「与野党対決型」だった。リベラルが強いとされてきた北海道での当選はならなかった。

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明日は選挙です

2023-04-08 17:42:02 | 編集雑記・小ネタ

 よく「選挙カーがうるさい」という声を耳にしますけれど、あれは「自分は静かな場所に住んでます」という自慢だと受け止めています。

 選挙カーぐらい、可愛いものです。

 

工事の騒音に悔し涙を流しても共感は得られないよね

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洗脳教育の先を考えてみよう

2023-04-02 23:30:33 | 政治・国際

 先般も僅かに言及しましたが、1905年に日比谷焼打事件と呼ばれる暴動がありました。戒厳令が発され内閣の総辞職にも繋がる大規模な騒乱で、日露戦争後の講和条約に対する不満に端を発するものとされています。国民に向けては日露戦争の輝かしい勝利が喧伝されていた一方、実際にはそこまで有利な結果を取り付けられるほどの戦果はなく、日本人が望んだような形での領土割譲や賠償を得ることは出来なかったわけです。ロシアに大勝したはずが、得られた結果は微々たるもの──このギャップが国民の怒りに火を付けたのですね。

 この政府の宣伝と現実との差は、現代に至るも埋まっていないように思います。いわゆる北方領土を日本では「固有の領土」と呼び習わし、あたかも日本が領有権を持っているかのごときプロパガンダが流布しているのですが、現実と政府宣伝のギャップは日比谷焼打事件の当時と同レベルという他ありません。もちろん結論を出さなければならなかった日露講和条約とは異なり、北方領土に関してはいくらでも問題を先送りできます。永遠に国内向けの嘘を吐き続ける、というのが日本の選択になるのかも知れません。

 北方領土の「返還」という名の割譲は現実的ではありませんが、いつか北方領土が日本に「還ってくる」と信じる人々もいるわけです。巷の洗脳教育の中では最も成功した部類だな、と私などは思うところですが、では仮に領土割譲に成功した場合にどうするかを考えている人はいるのでしょうか。単純に領土の獲得を悲願にしているだけで、実際に支配地域が広がったら次は何が必要になるのか、という視点を持っている人は皆無に近い気がします。

 単純に日本側の都合だけを考えるとしても、そもそも北海道の東部ですら持て余しているのが現状です。インフラ維持が困難になっている地域よりもさらに遠方に位置する離島をどうやって運用するのか、というビジョンは当然ながら求められます。もちろん反ロシアのシンボルとして税金を注ぎ込む国策も可能ではあるのですが、「釣った魚に餌はやらない」よろしく領土を得るところまでは熱心でも、その先は冷淡になる国民の方が多いように思います。

 それ以上に私が疑問に思うのは、「今」北方領土に住んでいる人々をどうするのか、ということです。当たり前ですが日本が北方領土と呼ぶ島々にはロシア国籍を持つ人々が居住しています。もし南クリル諸島を日本に編入するのであれば、そこに住むロシア人の処遇も考える必要があります。多くの日本人は「北方領土は日本固有の領土」と無邪気にプロパガンダを信じているわけですが、自国の領土と言いつつも望んでいるのは仮想敵国から領土を奪うことだけで、「その先」に想像が及んでいないのではないでしょうか。

 昔年の大日本帝国の臣民には朝鮮半島や中国・台湾の人々も含まれ、それを含めて「進め一億火の玉だ」とのスローガンが唱えられていました。しかるに戦後は「朝鮮籍」や「中華民国籍」という日本国籍とは異なる扱いを受ける人々が作り出されました。同じ大日本帝国の臣民で日本に居住していてもなお、日本国籍が付与されなかった人がいたわけです。そして北方領土の問題も然りで、南クリル諸島が日本に割譲された場合に島民には日本国籍が付与されるのか、日本人と同等の権利が保障されるのか、疑問に思うところがあります。

 ソ連崩壊後の元・構成国の事例は参考になるかも知れません。例えばラトビアの場合、ロシア系住民には試験を課し、合格しない限りは国籍を付与せず、当然ながら選挙権も与えない姿勢を堅持しています。他にも教育現場でのロシア語利用を規制するなどあるわけですが、この辺は朝鮮学校を巡る我が国の扱いを見ればむしろ共感する人も多いでしょうか。人権という観点からはなんとも後進的と言うほかありませんけれど、アメリカ陣営、NATO陣営に服してさえいれば何をやっても民主主義国です。南クリル諸島が割譲された場合の住民の扱いも、ラトビアにおけるロシア系住民の扱いと同じぐらいが想定されます。

 ロシアの政治にも問題はありますが、一つ確実に肯定できるのは自国を「多民族国家」として意識していることです。結果としてロシア「連邦」内には複数の共和国が存在し、それぞれロシアとは異なる公用語や独自の憲法を有しています。一方の日本は、むしろ戦後になって単一民族神話が成立するなど自国を「日本人のもの」と捉える意識が強いです。しかし大日本帝国の時代から日本は多民族国家であり、今もなお日本にルーツを「持たない」人々が暮らしています。そこで北方領土を自国のものと主張するのであれば尚更のこと、「日本」の中の多数派ではない人々を公正に扱えているかどうかが問われるのではないでしょうかね。

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