非国民通信

ノーモア・コイズミ

ガザとドンバス、イスラエルとウクライナ

2023-12-31 22:24:53 | 政治・国際

 一口にネオナチと言っても、その定義の範囲は人によりけりでしょうか。対象を反ユダヤ主義やヒトラー崇拝に限定した狭義のネオナチ観もあれば、ナチス的な振る舞いとの類似性を根拠にした広義のネオナチ像もあるわけです。また一時はネオナチ組織として日本の公安からも認定されていながら、ロシアと戦っているからと言う理由で認定されていた履歴もろともホワイトウォッシュされたウクライナの武装勢力もあるなど、当人達の思想信条以上に政治的な都合が幅を利かせるとも言えます。

 もしナチズムの定義として「ユダヤ人を標的にすること」を絶対条件とするのであれば、イスラエルがそこに当てはまることはないのかも知れません。しかし国内主要民族の生存圏から異分子を抹殺していこうという思想をナチズムの要件とするのならば、イスラエルこそが現代におけるナチスの正統な後継者であると言うことが出来ます。80年前と現代で違うのは、ゲルマン人がユダヤ人になり、ユダヤ人がパレスチナ人に変わっただけのことですから。

 そしてキエフ政権には「2022年までは」ネオナチとして認定されていた組織が幅を利かせており、ナチスと協同してソ連と戦ったウクライナ人を国家の英雄として祀ってきた事実があります。そうしたウクライナを「非ナチ化する」ともロシアは主張しているところですが、これに関して「ゼレンスキーはユダヤ人(ゆえにナチズムではない)」と擁護する声も西側メディアから繰り返されてきました。しかしユダヤ人国家であるイスラエルこそが、「ナチス的な振る舞い」に最も忠実であることは意識されるべきでしょう。

 ガザとウクライナを巡って、欧米諸国は矛盾した態度を見せていると言われるところです。もちろん西側諸国のダブルスタンダードは今に始まったことではありませんけれど、これに関しては前提が違った批判にも見えます。そもそもガザとウクライナでは比較対象として立場が合わない、むしろ並べるべきはガザとドンバスであり、イスラエルとウクライナであるはずです。そしてこの流れでロシアと対比するものがあるとしたら、イランあたりではないでしょうか。

 2014年にウクライナではクーデターが起こり、投票によって選ばれたはずの大統領が追放されました。権力を握った反ロシア派武装勢力は国内のロシア系住民の弾圧に走り、ロシア系住民の多い東部ドンバス地方との内戦が始まります。このドンバス地方のインフラや住民の生活を支援してきたのがロシアで、そこから8年を経て直接介入へと至ったわけです。ガザに追いやられたパレスチナ人と立場が近いのはドンバスのロシア系ウクライナ人であり、同様にシオニスト政権と立場が近いのはキエフ政権であることは言うまでもありません。

 実際のところハマスによる反転攻勢が大きな成果を上げたとき、ゼレンスキーは真っ先にイスラエルへの連帯を表明しました。アメリカを後ろ盾とする陣営の同志であるだけではなく、思想信条の面でネタニヤフとは共感できるところもあったのでしょう。2022年までウクライナで何が起こっているか知らなかった人がそうであるように、それまでガザで何が行われていたか知らない人は、ロシアが/ハマスが戦争を始めたかのごとく勘違いしているわけですが、今に至る背景はもっと深いところにあります。

 ロシアは長らく、ドンバス地方住民の自治権と恩赦をウクライナに要求し続けてきました。結局のところキエフ政権の攻撃は止まずロシアによる直接介入が始まったのが2022年ですけれど、イスラエルとガザを巡っても同じことは起こるでしょうか。「国際社会」からの煮え切らない支援はガザにも送られていますけれど、これがパレスチナ人の抑圧された状況を解決することは考えにくく、最終的にはシオニスト政権をなんとかする必要があるわけです。そこでイランあたりが直接の軍事介入に踏み切るとしたら──それを上策とは思いませんが、大義はあると言いたいです。

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欧米諸国の思惑

2023-12-29 23:25:38 | 編集雑記・小ネタ

ウクライナ国外滞在者の動員案に波紋…1日6000人規模で出国の情報も(読売新聞)

 ロシアの侵略を受けるウクライナのルステム・ウメロフ国防相が21日、ドイツの大衆紙ビルトなどとのインタビューで国外に身を寄せているウクライナ人を軍に動員する案に言及し、波紋が広がっている。

 ウメロフ氏はインタビューで、外国に滞在している25~60歳の男性を対象に「招待状を送る」構想を明らかにし、「自分の国のために戦うことは罰ではなく名誉だ」と強調した。「自発的に来ない場合にどうするかは議論中だ」とも語り、応じない場合の罰則を検討する可能性を示唆した。

(中略)

 エストニア公共放送によると、エストニア内務相は「ウクライナが必要とするならば、(エストニアに滞在するウクライナ人を)見つけ出し、送還できる」と述べた。エストニア国内には、動員対象となるウクライナ人男性が約7000人いるという。

 

 一時はウクライナ軍の快進撃を伝える報道ばかりで、太平洋戦争の開戦当時も今も報道は変わらないなと感じたところですが、流石に現実を隠すことも出来なくなってきたのかウクライナ側の苦戦を伝える記事も増えてきました。元より成人男性の出国を禁じ国民を遍く動員対象としてきたキエフ政権ですけれど、ついに外国滞在者をも招集対象に含めるとのこと、ピークであった1993年の5,200万人から2021年には4,300万人まで減少した世界有数の人口流出大国だけに、なりふり構ってはいられないでしょう。

 それ以上に恐ろしいのはエストニアの「滞在するウクライナ人を見つけ出し、送還できる」との声明の方です。あたかもウクライナに手を差し伸べるかのごとく振る舞ってきたNATO諸国の思惑がどこにあるのか、この発言に集約されているように思います。欧米諸国は戦火を逃れようとするウクライナ人を助けたいのではなく、アメリカの覇権のために戦う傭兵としての役割をウクライナに負わせようとしているだけであり、そのためには国内のウクライナ人を戦場に送り込むことを躊躇しないわけです。イスラエルでは良心的兵役拒否を表明した国民を拘束するなどしているようですが、日米欧もそれに倣って良心あるウクライナ人を捕縛し、ゼレンスキーの元へ差し出すようになるのかも知れません。

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国からの金

2023-12-24 21:59:27 | 政治・国際

 さて自民党の政治資金問題は収まる様子がありませんが、では自民党に民主や維新が取って代われば世の中が良くなるのかと、その段階にまでは進んでいないのが現状でしょうか。立民は自民党以上に財務省寄り、維新は自民党以上にご都合主義ですから、この3党以外は泡沫候補しか立候補しない私の住む選挙区では苛立ちも募ります。多数決を基盤とする既存の政治制度にも色々と限界があるんじゃないかと、そう思わないでもないこの頃です。

 パーティー券収入が話題をさらう裏側で、やや影の薄い存在となっているのが官房機密費というもう一つの金の問題です。こちらは使途を隠すことが制度上は許されている代物で、マスコミ関係者や「文化人」の類いに政府から裏でばらまかれたものと疑惑を持って語られてきたものでもあります。まぁ日本及びアメリカ政府の代理人みたいな発言を続ける大学教員なんかも珍しくないところ、人によっては金品を受け取った結果としての発言もあるのでしょう。もちろん、本人が純粋に既存の体制を信奉している可能性は否定しませんが。

 日本及びアメリカ政府を擁護する発言が、「金を受け取った」メディアや大学教員の口から語られれば、一定の疑念を持つ人は当然いるはずです。あるいは政府方針に反対するデモの類いが、中国なりロシアなりの日米政府が敵視する国の支援によって行われたとすればどうでしょう。今度は逆の立場の人たちが挙って騒ぎ出すであろうことは疑う余地もありません。しかるに2013年から翌年にかけて起こったウクライナのクーデターには、アメリカ政府の高官が参加していたわけです。

 西側諸国が「マイダン革命」などと呼び習わしているクーデターにおいて、どれだけアメリカ政府からの資金援助があったかは定かでありません。ただ、その中には現在のアメリカ政府国務次官(2014年の時点では国務次官補)であるヌーランドが公然と参加していました。もし岸田政権の退陣を迫る大規模なデモが起こったとして、その中で中国政府の要人が反政府活動を鼓舞する演説を行っていたら、「日本人」はどう感じるでしょうか? ウクライナで起こっていたのは、そういうことです。

 少なくともクーデター政権が欧米諸国からの承認を得る上で、ヌーランドの参加は大きな役割を果たしました。選挙で勝利しながらも政権を追われたヤヌコーヴィチと暴力によって政府を転覆させたクーデター勢力、アメリカが後ろ盾に付いているのは後者であることを知らしめる役割をヌーランドは担っていたと言えます。同じクーデターでもミャンマーでは政権側が非難され反政府勢力が欧米から擁護されるわけで、結局のところ欧米諸国の判断基準は「どちらをアメリカが支持しているか」に尽きると言うほかありません。

 全米民主主義基金、というアメリカ議会が出資する基金があります。これは元々CIAが秘密裏に行ってきたものをオープンにした結果と言われ、アメリカに従わない国の反政府勢力を支援するために使われているものです。その支援先の一つに「香港衆志」が知られるところで、これは先般「一生(香港に)戻ることはない」と発言して話題を呼んだ活動家の周庭氏が創始者に名を連ねる団体でもあります。日本では持ち上げられるばかりの周庭氏ですが、事実として外国の代理人であることは理解されているのでしょうか?

 日本政府から金を受け取っている言論陣に対しては冷ややかな視線を向ける人でも、アメリカ政府から金を受け取っている人々に対しては、必ずしも同じ態度を見せるわけではないようです。官房機密費を受け取って政府与党を擁護するのは悪でも、アメリカの基金を後ろ盾に反政府活動に従事するのは「民主主義のため」の正しい行動と受け止めている人は多い、日本の大手メディアは自国の政府を批判することはあっても、アメリカの世界戦略には無批判に見えます。しかしバイデン政権がやろうとしているのは、台湾や香港を第二のウクライナにするための戦略であり、平和のため真に立ち向かうべき相手は何かと考えると、それはアメリカ意外には思い浮かびませんね。

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罪に問われることもあれば、問われないこともある

2023-12-17 21:43:29 | 政治・国際

江東区長選、元都部長の大久保朋果氏初当選 「政治の信頼回復」焦点(朝日新聞)

 区長選で違法ネット広告を流したとして捜査を受けた前区長の辞職に伴う東京都江東区長選が10日、投開票された。無所属新顔の元都部長、大久保朋果氏(52)=自民党、公明党、国民民主党、都民ファーストの会推薦=が、国政野党が推す候補ら新顔4人を破り、初当選を決めた。投票率は39・20%(前回48・86%)だった。

 同区長選は今年2度目。4月の前回は自民元衆院議員の木村弥生氏が初当選したが、東京地検特捜部の捜査を受けて10月に辞職を表明した。支援した地元選出の柿沢未途・自民衆院議員も捜査を受け、法務副大臣を辞任する事態に。選挙戦は「政治の信頼回復」が焦点の一つとなった。

 また、前回は木村氏ら自民側の有力2候補による争いが中心だったが、今回は3候補に与野党が分かれて対決する形となり、構図が一変した。

 

 さて国政では安倍派を中心とした政治資金問題に火が付いており、自民党にはこれ以上にない逆風が吹いています。日本人は政策面の誤りには寛容な一方で金の問題には厳しく、普通に考えれば野党側が圧倒的優位になりそうなところですが、結果はご覧の通り自民党候補の勝利でした。元より一度目の区長選は自民党系の候補同士の争いで野党候補は共産党系だけという地域ですから、志のない野党候補が入り込む隙はなかったのかも知れません。

 冒頭の引用でも触れられているように、この選挙は前区長による違法ネット広告の配信に端を発したものでした。立派な選挙法違反ではありますけれど、隠れて行われたものではない、むしろ不特定多数向けにアピールすべく問題の動画は流されていたわけで、どうして選挙が終わってから問題になったのか、少々疑問に感じないでもありません。サッカー選手であれば相手の反則は強くアピールするのが常識、ならば選挙でも対立陣営の不正行為は声高にアピールされても良かったはずです。

 もし不正が秘密裏に行われたものであったなら、それが発覚するまで時間を要したとしても仕方ないのかも知れません。しかし木村弥生前区長が広告費用を支払って放送した動画は、誰でも見ることが出来るものでした。選挙区外の住民にとってはいざ知らず、同選挙区で区長の座を争う対立候補陣営の目には止まっていても良さそうなものです。対立陣営が公職選挙法違反を指摘、違反のあった候補はその場で退場──という流れであれば、2回も選挙をしなくて済んだことでしょう。

 総じて政治家というものは、経済や科学、歴史や諸々に疎い傾向があります。ただ「選挙には詳しい」人ならば多いはず、少なくとも政治家を支えるスタッフの中には「当選させるためのプロ」がいるはずです。そんな選挙のプロ集団がどうして対立陣営の違反を投票日前に指摘できなかったのか、そのあたりが私には気になります。ライバルを追い落とす絶好のチャンスが誰の目にも触れる形で転がっていたのに、そこに食いつく人がいなかったのは何故か、と。

 ただ今回の違反、柿沢未途という法務副大臣も務めたベテラン議員の助言によるものとも伝えられています。今になってみると自爆行為にしか思えないものでも、その当時であれば「これぐらいは大丈夫」という判断が働いたのでしょうか。刑法犯の検挙率は地域や罪種によって差がありますが日本全体ですと50%程度、裁かれるものもあれば無視されるものもあるわけです。公職選挙法や政治資金規正法の違反も同様、「裁かれるものもあれば無視されるものもある」というのが政治のプロの感覚なのかも知れません。

 小田原市役所で生活保護受給者を誹謗、罵倒する分限の入ったグッズが職員の間で制作・販売されていたなんてこともありましたが、これが問題視されるのには10年の月日を要しました。医学部入試で男女の点数の扱いに差を付けているなんてのは一般向けの書籍にも書いてあったことですが、これが世間で大きく取り上げられるようになったのは最近のことです。東京パラリンピックの作曲担当である小山田圭吾氏による障害者「いじめ」も本人が武勇伝としてメディアに語ってきたことであり、それを隠そうとする動きは一切ありませんでした。SNSへの悪ふざけの投稿が一夜にして炎上することもあれば、長らくスルーされることもある、世の中はそういうものなのでしょう。

 それまでずっと取り沙汰されることのなかった政治資金問題が、閣僚就任と同時に騒ぎ立てられて辞任の最短記録を作った政治家もいます。不正があっても、その責を問われるかどうかは別問題なのかも知れません。今、渦中にある安倍派の議員達も選挙期間中に違法な有料広告を出した候補も、問題視されることはないだろうとの目算で動いていたのでしょう。そして恐らくは、現時点では何ら問題視されていない人の中にも、誰かがその気になれば大問題になるような違反を抱えているケースが多いのではないかと、そんな気がしますね。

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打つべき手は明らかなのだが

2023-12-10 21:30:40 | 雇用・経済

介護現場、働き始める人を離職が初めて上回る 担い手不足が危機的(朝日新聞)

 介護職から離職する人が働き始める人を上回る「離職超過」が昨年、初めて起きていたことが厚生労働省の調査でわかった。この傾向が続けば人手不足はいっそう深刻化する。高齢者数がほぼピークとなる2040年度までに介護職を69万人増やす必要があるとされるが、先行きは厳しい。

 厚労省の雇用動向調査によると、入職率から離職率を引いた「入職超過率」は22年に介護分野でマイナス1・6%に。マイナスは「離職超過」を意味する。慢性的な人手不足が続いてきた分野だが、離職超過となったのは今の方法で調査を始めた09年以来、初めて。

 

 いわゆる団塊ベビー世代が要介護者になる2040年度までには69万人の増が必要との目論みと伝えられていますが、早くも介護職員は離職超過に転じてしまったそうです。これまでは曲がりなりにも就業者を増やしてきた分野であったものの、その必然的な綻びは誤魔化し続けられるはずもなく、(まぁ介護に限らず日本の就業環境全般に言えることですが)根本的なところからの方針転換が求められていると言えます。

 日本国政府の経済対策の一環としては介護職の賃上げも含まれており、その額はなんと「月額6000円!」と一部で話題にもなりました。物価上昇に追いつくことが出来ていないとは言え、2023年の全産業平均では3.6%の賃上げが行われたとも報じられており、月6000円の賃上げですと他業種の賃上げには遠く及ばない、今まで以上に介護職員が経済的に厳しい状況に置かれることは避けられません。

 「賃金水準は何によって決まるのか」と考えたとき、比例関係にあるものの一つには「就職難易度」が挙げられます。就職が難しい仕事は給料が高く、就職が容易な仕事は給料が低い、もちろん例外はあるにせよ当てはまるケースは多く、介護職はまさに典型でしょう。(仕事を続けることは難しくとも)人手不足で就職することが容易な業界は、往々にして給料が低く抑えられている、それが当たり前のこととして社会に受け入れられている傾向があると言えます。

 もし仮に「社会的な必要性が高い」ことと給与水準が比例するのであれば、介護職は高級取りになる、逆にコンサルタントなどは最低賃金が当たり前になると考えられます。ところが往々にして社会的な必要性と給与水準は反比例する、世の中に欠かせない職種ほど低い賃金で募られているのが現状で、そこで志のある人々がより報われる仕事を目指せば目指すほど、介護職の従事者は不足し、社会を支えるインフラが維持できなくなるわけです。

 もし世の中に介護職がいなかったなら──年老いた両親は「現役世代」が自らの手で世話をしなければなりません。高齢者向けの福祉の縮小は、その子世代すなわち現役世代の自己負担増に繋がります。ただ現役世代のなかには「たまたま」親が元気でいるから何もしなくて済んでいる人、あるいは親の介護を別の兄弟や配偶者に押しつけている人も少なからずいるわけです。そうした人からすれば親の介護は他人事、介護職のありがたみなど理解できないのでしょう。

 高額報酬が約束されれば、性産業にだって人は集まります。周りが羨むような高給が保証されれば、介護職だっていくらでも人は集まるはずです。しかし現実は賃金抑制が続いています。単純な市場原理が働くならば需要が供給を上回るときは価格が上がる、不足する介護人員を獲得するべく給与水準は上がらねばなりません。しかるに「そうさせない」力が働いているのが現状と考えられます。

 公共性の高い分野に独立採算制の発想を当てはめようとすると、何が起こるでしょうか。どれほど社会的な必要性が高くても採算が合わないのであれば、人件費を筆頭にしたコストカットか値上げが選択肢になる、介護の場合は前者が選択されていると言えます。しかし、消防や警察、自衛隊はどうなのでしょう。彼らは、何の収益も上げていません。それでも世の中に必要と見なされているからこそ相応の賃金が設定されているわけです。では介護は? 世のため人のために働いているのならば採算性とは別の観点から給与水準が定められるべきと言えますが──我が国では一部の聖域を除けば公共サービスにも独立採算を求めたがるわけです。

 また人材確保の手段も給与水準による健全な市場競争によってではなく、「選択肢を奪う」ことが主流になっている節も見受けられます。もちろん志を持って介護職を主体的に選択する人もいるところですが、そんな奇特な人だけで必要数をまかなえるはずもありません。しかし給料は上げたくない、そこで「介護士か就職先がない」状況が作り出されれば、薄給のままでも「他に選択肢がないので仕方なく」介護職に応募してくる人も出てくる、それが現状ではないでしょうか。

 実際のところ、年齢を重ねるほど転職先や再就職先は限られる、ホワイトカラーでの就職は困難になります。シニア向けの求人は肉体労働ばかり、しかも低賃金のものばかりです。若い間であれば(少なくとも介護よりは)楽で給与水準の高い就職先が選択肢として普通に存在します。しかし世間の経営者が欲しがるのは若い人材ばかり、敢えて中高年を採用しようとする会社は多くありません。中高年でも採用してくれるような職種となると低賃金の職ばかりで、その一つが介護職になっているところは否定できないはずです。

 介護職の低賃金には様々な要因がありますけれど、それは意図して作られたものでもあるようにも思います。中高年は会社のお荷物と政財界がキャンペーンを繰り広げ、そうしてホワイトカラーの世界から追い出すことで介護職へ人を誘導しようとしている、これが政府や経済誌の言う雇用の流動化でありリスキリングなのではないでしょうか。介護職は一種の流刑地をも兼ねており、そうなると志のある若い介護士の賃金も巻き添えで抑制される、誰もが不幸になるような手口が国策として続いている印象です。

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同志国

2023-12-09 22:45:19 | 編集雑記・小ネタ

国家反逆罪に問われたウクライナ元国会議員、逃れたロシアで暗殺される…親露派の殺害相次ぐ(読売新聞)

 ロイター通信などによると、ウクライナの元国会議員でロシアのウクライナ侵略を支持し、国家反逆罪などに問われたイリヤ・キバ氏(46)が6日、露モスクワ州内で遺体で発見された。銃で射殺されたという。ウクライナ政府関係者によると、同国の情報機関「保安局」(SBU)の部隊が実行したと認めた。

 キバ氏は昨年2月、ロシアの侵略開始後、「ウクライナ国民は解放を必要としている」などとSNSに書き込んだ。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領への批判を繰り返し、昨年3月にウクライナ議会から議員資格を剥奪された。その後、ロシアに逃れ、市民権付与をプーチン大統領に求めていた。

 露国内や占領地域では親露派の政治家らの殺害が相次ぎ、ウクライナ情報機関の関与が指摘されている。11月8日には、ウクライナ東部ルハンスク州で自動車が爆発し、親露派の政治家が死亡した。

 

 大統領と政治上の立場が異なると言うだけで議員としての資格を剥奪され、あまつさえ暗殺されるという、なんとも非民主的な政体があるわけです。この独裁者に支配されたウクライナを「同志国」と呼び軍事支援を続けているのが我が国で、一人の国民として大いに恥じ入るほかありません。

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世界の奇跡

2023-12-03 22:08:37 | 雇用・経済
 
 こちらは世界の1人当たり名目GDP(IMFドル建て)の2022年と25年前の発表分を並べたものです(出典)。ドルベースですと円安の影響も受けるとは言え、昨今の通貨安は国の購買力低下を反映したものでもあります。日本の成長率は世界最低でこそありませんが、日本を下回るのは軒並み内戦国に限られ、政治的には世界で最も安定した国である日本がマイナス成長を記録したのは、まさに世界の奇跡とでも言うべきでしょう。
 
 もし4択式の試験で回答を全て埋めたにも関わらず0点を取る人がいたとしたら、その人は結構「分かっている」と考えられます。本当に何も分かっていない人であれば25%の確率で4択問題を当ててしまう、25点くらいは取れてしまうわけです。しかし正解を巧みに避けて0点を取るとしたら、それは理解があってこそと考えられます。
 
 そして日本の政財界は、まさに「分かっている」のではないかと私は思うのです。普通の国はどこも成長している、先進国も新興国も発展途上国も、アルゼンチンもギリシャも浮き沈みはあれど四半世紀という長いスパンで見れば成長しているのがグローバル化というもの、そんな中で内戦が発生したわけでもないのにマイナス成長を成し遂げるのは、むしろ難易度の高いミッションであり、それこそ素人には難しい代物と言えます。
 
 橋本龍太郎以来、こと経済政策に関しては歴代の首相が「負の一貫性」を持っていた、どのようにすれば経済成長を抑止できるかを理解し、着実に実行してきた結果として奇跡の低成長という結果に繋がったのではないでしょうか。ただ第二次安倍政権は少し異質で他の内閣よりも一貫性に欠けた、マイナス一辺倒でもなかったと私は評価しています。他の内閣は巧みに正解を避けて0点の経済政策を貫いたのに対し、安倍晋三は4択問題で25%程度は正解していた、と。
 
 いわゆる「アベノミクス」が成功に終わったとは言いがたいのですが、それは何が悪かったのでしょうか。最終的には金融緩和一本槍になったアベノミクスですが、この金融緩和を悪玉視する論者も多いです。金融緩和中心の経済政策で結果が出ないのならば金融緩和はダメだと、そう思うのは一見すると自然に見えるのかも知れません。しかし実際は「タイヤの一輪しか回さなかったから」ではないかと私は考えます。
 
 どれほどタイヤを前方向に回転させたところで、一つの車輪しか回っていないのであれば、車体は前進する代わりに同じ場所で回転するばかりです。実際のところ第二次安倍内閣発足当時は金融緩和だけではなく積極財政の姿勢も垣間見え、短期的には成功を収めていました。二つのタイヤを回せば、前に進めるのも納得です。しかるに民主党との合意に沿って消費税を増税、緊縮財政への転換で前方向に回転するタイヤは一つだけ、他の車輪は逆回転させている、これでは当然ながら前に進むことは出来ません。
 
 チグハグだった安倍内閣とは異なり、岸田内閣は一貫性を持って車輪を逆方向に回転させているかにも見えます。それだけに心ある人からの批判は絶えない、経済政策の転換に向けた真っ当な提言も市井に散在はしているところですが──どうにもアベノミクスと同様の欠陥を抱えている論者が多いようにも感じています。積極財政でも減税でも構造改革でも、結局のところ「一つの車輪だけ前に回転」させたところで、金融緩和一本槍で終わったアベノミクスと同じ結果が待っていると私は思うわけです。
 
 積極財政にも減税にも、そして正の方向であれば構造改革にも私は賛成しますが、どれも単体で経済を好転させることは出来ません。「金融緩和否定した積極財政」や「減税を否定した構造改革」では、片方の車輪を前に、もう片方の車輪を後方に回転させるようなものです。同じ場所で円を描くことは出来ても前に進むことは出来ない、単体では正しい政策を提言していても、一方で別の車輪を逆回転させようとするタイプの論者がまだまだ多い、日本の経済言論はまだまだグローバル水準に届かないなと感じています。全てが間違った経済政策を選ぶことが出来るなら、その逆を見出すのは至って簡単な気がするのですが……
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