非国民通信

ノーモア・コイズミ

どこの国を想定した法律か

2024-05-12 21:35:31 | 政治・国際

 私の勤め先では定期的に、社員とその親族が「外国政府または外国の団体から資金の提供を受けているか」調査が行われます。調査と言っても自己申告で回答させるだけですのでどこまで実態を把握できているのかは分かりませんが、企業としてそれを確認しておくことには意味があるのでしょう。例えば全米民主主義基金からの資金提供であれば何ら問題視はされないと考えられる一方、中国政府からの資金提供を受けていると申告したらどうなるのか、興味深いところです。

 他にも役務や物品の提供については親会社を通した調査が毎年あり、中国やロシア、イラン等の企業からの調達がないか報告が求められます。この辺は制度の改定があって特定国の事業者を指定したブラックリスト方式から、ホワイトリスト掲載国からの調達へと切り替えられているところなのですが、ホワイトリストに掲載されている「国」はNATO加盟国の他ではウクライナ、イスラエル、台湾など非常に覚えやすい分類が行われていました。このリスト、親会社が自身の判断で作ったのか、どこか別の国が作ったものをそのまま使っているのか気になります。

 

「セキュリティークリアランス」法律 参院本会議で可決 成立(NHK)

経済安全保障上、重要な情報へのアクセスを国が信頼性を確認した人に限定する「セキュリティークリアランス」制度の創設に向けた法律が、10日の参議院本会議で可決・成立しました。

セキュリティークリアランス制度は、漏えいすると日本の安全保障に支障を来すおそれがあるものを「重要経済安保情報」に指定し、これらの情報へのアクセスを民間企業の従業員も含め、国が信頼性を確認した人に限定するものです。

制度の創設に向けた法律をめぐっては、衆議院で、自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党が協議した結果「重要経済安保情報」の指定や解除の情報のほか、国が信頼性を確認する際の調査の運用状況を毎年、国会に報告することなどを盛り込んだ修正が行われています。

 

 さて与野党の合意によってセキュリティークリアランス制度が可決したわけですが、私の勤務先で自主的に行われているようなことが一定の強制力を持って政府主導で進められるようになるのでしょうか。「国が信頼性を確認」する基準は今ひとつ明らかにされていませんけれど、想像すること自体は容易ですね。むしろ明示していないことによって暗黙裏に、アメリカの意向にひれ伏さない国との関係を躊躇させる、という意味合いもあるのかも知れません。

 昨今は「経済安全保障」なる掛け声の下で一層のアメリカ依存とサプライチェーンからの中国外しが推進されています。端的に言えば古の「ブロック経済」を復活させる試みですが、これは当然ながら自由貿易の理念にも反しますし、世界経済の発展を妨げるものでもあります。もちろん利益よりも理念を重んじる我が国としては経済の発展よりも「アメリカの敵」と対決することを重要視するのでしょう。もっとも実際には孤立主義者であるトランプが政権を奪い返せば、はしごを外される未来が待ち受けているのですが。

 州じゃない方のジョージアことグルジアでは外国から資金提供を受けている団体を規制する「外国の代理人」法案を巡って激しい対立が続いています。類似した法律は他の国でも普通に見られるものの、グルジアはウクライナと並ぶNATOの標的であり、対ロシアの前線基地とすべく西側諸国から相応の工作が行われていると推測され、問題の法律が施行されれば欧米の支援を受けた団体による反ロ工作が難しくなる、そうした意味で強い反発があるようです。何でも野党側はこれを「ロシアの法律」と呼び、代案としてロシアからの資金提供を受けている団体を規制する法案を提出したとのこと。

 反対にロシアからの資金提供を受けた団体の活動が活発であったなら「外国の代理人」法案は受け入れられた可能性が高い、日本を含む西側諸国でも安全保障のための当然の法制度として肯定的に報道されたことでしょう。しかし実際にグルジアへ入り込んでおり法による規制の対象となるのは欧米が資金提供している団体であるとなると、それは途端に悪法として糾弾されるものとなるわけです。中国でも全米民主主義基金の資金援助によって設立された政治団体と創立メンバーである周庭氏を巡って一悶着ありましたが、この時に我が国のメディアは事態を公正に伝えてきたでしょうか?

 日本ではNTT法の改正なんかも議論されています。これによって日本政府による株式の保有規制が緩和され外国企業への売却も可能になると目されており、アメリカの投資ファンドの名前が噂されていたりするわけです。もしNTTの大株主となろうとしているのがアメリカ企業ではなく別の国の企業、要するに中国あたりの企業であったなら、間違いなく政府の方針も変わることでしょう。アメリカの企業が乗り出すならばNTT株を売り渡せるようにしておきたい、中国企業が出てくるならNTT株は外国には買わせないようにしたい──法律の条文には明示せずとも国によって扱いを変える、そんな準備が出来ているように思われます。

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