非国民通信

ノーモア・コイズミ

世界の奇跡

2023-12-03 22:08:37 | 雇用・経済
 
 こちらは世界の1人当たり名目GDP(IMFドル建て)の2022年と25年前の発表分を並べたものです(出典)。ドルベースですと円安の影響も受けるとは言え、昨今の通貨安は国の購買力低下を反映したものでもあります。日本の成長率は世界最低でこそありませんが、日本を下回るのは軒並み内戦国に限られ、政治的には世界で最も安定した国である日本がマイナス成長を記録したのは、まさに世界の奇跡とでも言うべきでしょう。
 
 もし4択式の試験で回答を全て埋めたにも関わらず0点を取る人がいたとしたら、その人は結構「分かっている」と考えられます。本当に何も分かっていない人であれば25%の確率で4択問題を当ててしまう、25点くらいは取れてしまうわけです。しかし正解を巧みに避けて0点を取るとしたら、それは理解があってこそと考えられます。
 
 そして日本の政財界は、まさに「分かっている」のではないかと私は思うのです。普通の国はどこも成長している、先進国も新興国も発展途上国も、アルゼンチンもギリシャも浮き沈みはあれど四半世紀という長いスパンで見れば成長しているのがグローバル化というもの、そんな中で内戦が発生したわけでもないのにマイナス成長を成し遂げるのは、むしろ難易度の高いミッションであり、それこそ素人には難しい代物と言えます。
 
 橋本龍太郎以来、こと経済政策に関しては歴代の首相が「負の一貫性」を持っていた、どのようにすれば経済成長を抑止できるかを理解し、着実に実行してきた結果として奇跡の低成長という結果に繋がったのではないでしょうか。ただ第二次安倍政権は少し異質で他の内閣よりも一貫性に欠けた、マイナス一辺倒でもなかったと私は評価しています。他の内閣は巧みに正解を避けて0点の経済政策を貫いたのに対し、安倍晋三は4択問題で25%程度は正解していた、と。
 
 いわゆる「アベノミクス」が成功に終わったとは言いがたいのですが、それは何が悪かったのでしょうか。最終的には金融緩和一本槍になったアベノミクスですが、この金融緩和を悪玉視する論者も多いです。金融緩和中心の経済政策で結果が出ないのならば金融緩和はダメだと、そう思うのは一見すると自然に見えるのかも知れません。しかし実際は「タイヤの一輪しか回さなかったから」ではないかと私は考えます。
 
 どれほどタイヤを前方向に回転させたところで、一つの車輪しか回っていないのであれば、車体は前進する代わりに同じ場所で回転するばかりです。実際のところ第二次安倍内閣発足当時は金融緩和だけではなく積極財政の姿勢も垣間見え、短期的には成功を収めていました。二つのタイヤを回せば、前に進めるのも納得です。しかるに民主党との合意に沿って消費税を増税、緊縮財政への転換で前方向に回転するタイヤは一つだけ、他の車輪は逆回転させている、これでは当然ながら前に進むことは出来ません。
 
 チグハグだった安倍内閣とは異なり、岸田内閣は一貫性を持って車輪を逆方向に回転させているかにも見えます。それだけに心ある人からの批判は絶えない、経済政策の転換に向けた真っ当な提言も市井に散在はしているところですが──どうにもアベノミクスと同様の欠陥を抱えている論者が多いようにも感じています。積極財政でも減税でも構造改革でも、結局のところ「一つの車輪だけ前に回転」させたところで、金融緩和一本槍で終わったアベノミクスと同じ結果が待っていると私は思うわけです。
 
 積極財政にも減税にも、そして正の方向であれば構造改革にも私は賛成しますが、どれも単体で経済を好転させることは出来ません。「金融緩和否定した積極財政」や「減税を否定した構造改革」では、片方の車輪を前に、もう片方の車輪を後方に回転させるようなものです。同じ場所で円を描くことは出来ても前に進むことは出来ない、単体では正しい政策を提言していても、一方で別の車輪を逆回転させようとするタイプの論者がまだまだ多い、日本の経済言論はまだまだグローバル水準に届かないなと感じています。全てが間違った経済政策を選ぶことが出来るなら、その逆を見出すのは至って簡単な気がするのですが……
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