ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

上原ひろみ@東京オペラシティ

2011-01-13 14:56:22 | ジャズ
HIROMI / PLACE TO BE

最後の曲。彼女はピアノに飛びつくように「Choux A La Creme」を弾き始めた。ステージ前方へ詰め寄せた観客達は手拍子や声援で応える。彼女は右手を大きく振って「もっと!もっと!」というジェスチャー。歓喜に包まれる観客達はリズムに合わせて「オイ!オイ!オイ!」とロックのような掛け声。いや、アレは完全にロックでした!

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昨年12月28日、東京オペラシティコンサートホールにて、上原ひろみさんのソロ・コンサートを観てまいりました! 私にとっては昨年見納めのコンサート。一年の最後を上原ひろみさんで締めると言う、何とも言えぬ幸福感を噛みしめながら会場へ向かいました。さらに初めて行く東京オペラシティ、なんかワクワクしましたね。そしてそのコンサートホール、入ると同時にピラミッドのように高い天井に圧倒されました。そして音響に優れた天然木を使用したという木目調の内観が美しくて。しかし私の座席は前から29列目、と言うより後ろから3列目と言う残念な席。でも後ろから眺めるからこそホールの持つ独特な雰囲気と共に上原さんのピアノが楽しめるんじゃないかと、自分を納得させながら開演を待ちます。ステージには静かに主を待つピアノが一台。

待つことしばし。いよいよ上原さんがステージに現れる。頭からスポッと被るような袖無しのセーター? いや、セーターと呼ぶにはあまりにも毛がもじゃもじゃしすぎている。そんなちょっぴりアニマルっぽい衣装で登場。そして客席に向かって深々と頭を下げる。ピアノの前にゆっくり座り、精神統一のように下を向く。その一瞬の緊張した時間の流れを引き継ぐように弾き始めた「Capecod chips」。ブルーノートのような狭いクラブでのダイレクトな音とはまるで違う、広い空間に広がるように響く音。上原さんは1曲目から驚異的な集中力で音を紡いでいく。跳ねる高音に纏わりつくような低音フレーズ。リズミカルに乗ったかと思うと突如リズムを切り裂いていく。一瞬のブレイクには「アン!」とか「ウン!」みたいな掛け声も聞こえてくる。そして中盤はブギのようなリズムでグイグイとローリングして行く。まさに上原ひろみワールド!

2曲目は「Berne,Baby,Berne」。お馴染みの唸り声を発しながらプログレッシヴなフレーズをもの凄い早さで弾くこの曲の疾走感には思わず身を乗り出さずにはいられません。圧倒的なテンションで駆け抜け、最後は前身でピアノに挑みかかるかのような勢いで鍵盤を叩き、その反動で両腕を上げる姿はまるでガッツ・ポーズをしているかのよう。続くエモーショナルこの上ない「Sicilian Blue」、危険度120%な感じの「BQE」、極上の“間”と“タメ”を味わった「Pachelbel's Canon」と、昨年のソロ・ライヴでも印象的だった曲が並びます。そしてMCは相変わらずフニャフニャな感じ。でもそのフニャフニャ感がある種の上原ブランドとして地に足がついてきた感じ。何となく笑いのツボも心得てきた様に感じましたし~。

前半ラストは「The Tom and Jerry Show」。私にとっては最も上原さんらしい曲。トムとジェリーの追いかけっこが、まるでジェットコースターのようにスピーディーに展開するこの曲。この曲を楽し気に弾く上原さんはホント素敵ですよね~。途中、減速してエレガントな雰囲気になって、ちょっと終わったような感じになる。でも終わりではなく、また追いかけっこが始まる。でもこの一瞬の間にお客さんがドワー!っと拍手をしてしまう。上原さんは次を弾くために身構えているのに拍手が収まらない。すると上原さんは「あれ?終わってないよ!」みたいな笑顔で客席を振り向く。客席から笑いがこぼれ、それを合図に第2ラウンドへ突入みたいな。この辺の呼吸も流石!

ここで前半終了。10分程の休憩を挟み第2部へ。ここまでの私の正直な印象、そりゃあ大好きな上原ひろみさんですから、素晴らしかったことは言うまでもありません。ですが曲順こそ違えど、新しいアルバムを出した訳でもないので、曲目やコンセプト自体は前回のツアーと同じですし、即興ベースとは言え、全体の印象としてはやはり予定調和的な印象もちょっぴり感じたりしたんです。前回は初のソロ・ピアノ・ツアーという新鮮さがありましたが、2回目という今回のツアーをどう聴かせるのか?どう見せるのか?その辺りも気になってたんですよね~。果たして後半はどうなるのか?


さて、第2部。結論から申しますと、特別な新しい趣向など何も無い、上原ひろみが真摯にピアノを弾く、ただそれだけ。でもただそれだけだからこそ、この第2部は特に“ピアニスト上原ひろみ”の凄みが伝わってきました。音に込める圧倒的な熱量と濃密な表現力で、あっさりとこれまでの印象を更新してくれましたね。ソロ・ピアニストとしての“自信”と言うか、“信念”のようなものを感じさせられました。特に「Brain」、「If」、「Old Castle,by the river, in the middle of forest」の3曲はこの日のハイライトだったのではないでしょうか?


その第2部。上原さんはピンクの可愛らしい衣装に着替えて登場。そして何やら精神分裂気味な音階で難解なフレーズを弾き始める。「Brain」です。こういう曲から始めるあたり、明らかに第1部とはモードが違う印象。まあ、とにかく上原さんの曲への入り方が凄まじい。いや、まるで曲が上原さんに憑依しているかの様でもある。そして「If」。先の「Brain」もそうなんですが、本来バンド・ヴァージョンとしてスタジオ録音が存在する曲を敢えてピアノ・ソロで演ってくれるというのは嬉しいですよね。でやっぱり、リズム解釈と言うか、“ノリ”の部分で明らかにバンド・ヴァージョンとは違う。私は正直な話、どうしてもフュージョン的に聴こえてしまうバンドによるスタジオ作の“ノリ”より、上原さん一人による“ノリ”の方が好きなんです。ピアノ・ソロによる「If」はそんな上原さん流の“ノリ”が顕著でしたね。前半はまるでピアノと戯れるが如く、自由自在にフレーズを繋ぎそして切る。時に跳ね、時にタメ、時に畳み掛ける。このリズム処理が五感を刺激するんですよ! そんなピアノ・ソロならではのフリーキーな“ノリ”に思わず観客から拍手が沸く。そしてその拍手でスイッチが入ったかの如くアグレッシヴなソロへと展開。まるで“戯れモード”から“戦闘モード”へギア・チェンジしたかの様。 一瞬にしてグワー!っとピアノの世界に入っていき、地下から一気に頂点へ登っていくような。そして頂点に達した瞬間にまたしても拍手喝采! 天晴でした。

つづく「Old Castle,by the river, in the middle of forest」この曲を聴くと、タイトルがタイトルなので、どうしても薄暗い森の中を迷っている雰囲気になるんですよね。川の流れる音に追いかけられて不気味な古城にたどり着くみたいな。幻想的且つちょっと怖いイメージ。多分違うと思いますが、個人的には勝手にそんな印象を抱いていて、この曲を聴くと、どうしても心が森の中へ行っちゃうんです。もちろんこの日もそうでした。しかも上原さんのエモーショナル極まりないソロが素晴らしすぎて、なんか不安と苦悩に満ちたような感情表現が、森の中を彷徨う私の心をさらにディープな世界へ誘ってくれた様な感じ。そしてこの曲に限ったことではないのですが、1曲の中での静と動、激しい部分とエレガントな部分など、そのベクトルの振り幅というか、景色の変化の鮮やかさに痺れましたね。

そして本編ラストはラスベガスを表現した3部作「Viva Vegas」。やはり圧巻は最後の「The Gambler」。客席が手拍子や掛け声で“当たり”を念じる一体感、それを嘲笑うように“外れ”を演じる上原さん。何度目かでついに当たった歓喜と高揚感。わかっていてもやられちゃうんですよね~。しかしピアノ・ソロでのこの一体感は、ある意味、快感です!

ホールをそんな一体感が包んだままアンコールへ。そんな熱気を静めるかのようにスローな「Place To Be」。素晴らしかったですね。これだけ熱い演奏を聴かされた後の「Place To Be」ですよ!まるで全てが淡い安らぎへ終息していくような。感動的でした。ここで終わっても凄く美しかったんですけど、観客は収まらない。2度目のアンコールは「I've Got Rhythm」。しかも前半部分はすっ飛ばして、いきなりテンポアップするところからアグレッシヴに弾きまくる。かなり荒っぽく弾いてましたけど、それもまた上原ひろみ! 最後の「弾ききった!」って感じの表情がまた良かったですね。

客電がつき、公演終了のアナウンスが流れ、半分以上のお客さんがホールを後にしても、前の方のお客さんは拍手を続け、声援を掛け続けている。わたしもちゃっかり前の方へ移動し手拍子に加わる。もう流石に出てきてくれないか?と思った頃、ステージにライトが灯される。「ウォー!」と盛り上がる観客達。その声援を受けて上原さんがまさかの再登場。そしてピアノに飛びつくように弾き始めた「Choux A La Creme」。観客の方を向きながら笑顔で煽るように弾く上原さん。手拍子と歓声で応える観客達。上原さんは右手を挙げて「もっと!もっと!」と言わんばかりに手招きをする。もう観客はリズムに合わせて「オイ!オイ!オイ!」みたいなロックなノリ。しかし曲中にこれ程まであからさまに客席にレスポンスを求める上原さんを初めて見ました。それはもちろん“足りない”のではなく、“この際だからお互い行くところまで行っちゃおうよ!”みたいな感じ。観客の高揚感は高まるばかりで、手拍子も大きくなる一方。ほぼ最前列付近で観ていた私も、ベース・ソロ的な部分は手拍子の音に掻き消されて良く聴こえない程でした。

一心不乱にピアノを弾く上原さんも素敵ですが、その一方で音楽を通じて客席とのコール&レスポンスをしっかりと実現させているところがまた素晴らしい。それにしても何というエネルギーでしょうね。たった一人で、ピアノ一つで、休憩とアンコール込みとは言え、3時間近くですからね。ホント天晴なピアニストです!


01. Capecod chips
02. Berne,Baby,Berne
03. Sicilian Blue
04. BQE
05. Pachelbel's Canon
06. The Tom and Jerry Show

07. Brain
08. If
09. Old Castle,by the river, in the middle of forest
10. Viva Vegas: Show City,Show Girl ~ Daytime in LasVegas ~ The Gambler

ーーーーーencoreーーーーー
01. Place To Be
02. I've Got Rhythm
03. Choux a la Creme


*写真は発売当時、上原さんにサインを頂いたピアノ・ソロ作「PLACE TO BE」。


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