ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

幸野ダム

2023-02-03 17:07:04 | 熊本県
2022年11月22日 幸野ダム
 
幸野ダムは熊本県球磨郡湯前町にある熊本県企業局が管理する灌漑・発電目的の重力式コンクリートダムです。
1949年(昭和24年)に熊本県により球磨川総合開発事業が着手されますが、熊本県企業局は同事業に発電事業者として参加し、1960年(昭和35年)に幸野ダムおよび市房第1~第2発電所が竣工しました。
幸野ダムは市房第1発電所(最大出力1万5600キロワット)の出力調整による水位変動を緩和するための逆調整池に加え、市房第2発電所(最大出力2400キロワット)でのダム水路式発電を目的としています。
また球磨川総合開発事業に合わせ熊本県営土地改良事業球磨川南部地区も着手され、幸野溝百太郎溝と言った江戸期を起源とする灌漑施設の整備が行われ、市房ダムの不特定利水容量により当ダムを取水ダムとして約1900ヘクタールの田畑への安定した用水供給が可能となりました。  

右岸ダム下から
ローラーゲート2門を備え、左岸(向かって右手)ゲートにはフラッシュボードがついています。


普段は天端の車両通行可能ですが、訪問時はゲート点検中のため通行止め&立ち入り禁止。


右岸湖岸の謎の遺構。


上流面
対岸に取水口と管理所があります。


左岸から。


独特の書体の親柱の銘板
高知の大橋ダムもこんな書体だったはず。


中央にゲート操作室が乗っかる独特のピア。
両手をだらりと下げたロボットみたい。


市房第2発電所の水利使用標識。


こちらは灌漑用水の水利使用標識。 
幸野ダムは取水ダムで、容量配分は市房ダムの不特定利水容量に依ります。 


下流から見た取水ゲート。 


この盛土の下に水路が流れています。 
下流の調節水槽で発電所と幸野溝へ分水されます。 
 

てっきりただの発電逆調整池だと思ったら、江戸期に起源をもつ幸野溝や百太郎溝と言った灌漑用水の取水も行っていました。
ちなみに『溝』と言うのは当地方で灌漑用水路のことを指し、幸野・百太郎両溝は世界かんがい遺産にも選ばれた由緒ある農業用水です。

2662 幸野ダム(1960)
左岸 熊本県球磨郡湯前町大字なし
右岸        同町岩野
球磨川水系球磨川
AP
21.2メートル
90.5メートル
326千㎥/112千㎥
熊本県企業局
1959年

市房ダム

2023-02-02 17:34:03 | 熊本県
2022年11月22日 市房ダム 
 
市房ダムは熊本県球磨郡水上村湯山の一級河川球磨川本流上流部にある熊本県土木部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
球磨川は日本三大急流の一つとされ、人吉盆地を貫流した先の下流部が狭窄となっていることから、豪雨の際のバックウォーター現象による洪水被害が絶えませんした。
また戦後の食糧難を受けての食糧増産や電力不足解消も喫緊の課題となっていました。
1949年(昭和24年)に熊本県は球磨川総合開発事業を採択、ダム建設は建設省(現国交省)が担い1960年(昭和35年)に竣工したのが市房ダムです。
ダムは球磨川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、熊本県企業局市房第1発電所(最大出力1万5600キロワット)および第2発電所(最大出力2400キロワット)での発電を目的とし、完成後に管理は熊本県に移管されました。
市房ダムは高知県の永瀬ダムや京都府の大野ダム、秋田県の皆瀬ダム、宮城県の大倉ダムなどととも建設省施工ののち県に移管されたダムの一つですが、市房ダムの竣工は特定多目的ダム法施行前になるため、分類としては兼用工作物と言う括りになります。 
また市房ダム建設に合わせ熊本県営土地改良事業球磨川南部地区も着手され、幸野溝、百太郎溝と言った江戸期を起源とする灌漑施設の整備が行われ、市房ダムの不特定利水容量により下流の幸野ダムを取水ダムとして約1900ヘクタールの田畑への安定した用水供給が可能となりました。  

一方、市房ダム完成後も球磨川の水害は絶えず、建設省により球磨川右支流川辺川へのダム建設事業が着手されますが、2009年(平成21年)に蒲島知事により事業中止が決定されました。
ところが、2020年(令和2年)7月豪雨、いわゆる球磨川水害を受けて県はこの方針を転換、2022年(令和4年)に流水型治水ダムとして川辺川ダム建設事業が再開されました。
『脱ダム宣言』や『コンクリートから人へ』などと言う甘い言葉による公共事業罪悪論が、結果手には誤りであった如実な証左と言えます。
 
放流設備はクレストローラーゲート2門と河川維持放流管1条
右手は熊本県企業局市房第1発電所。


副ダムは中央に切欠が入っています。


左岸から下流面
堤高78.5メートル、堤頂長258.5メートルと都道府県営ダムとしては中堅サイズ
水色のピアが鮮やか。


市房第1発電所の屋根にはくまモン
同じ県企業局の緑川第1発電所でも見られました。


水圧鉄管が堤体から突き出ています。


通常は天端は車両通行ができるのですが、訪問時は取水設備改修工事のため通行止め&立ち入り禁止。


熊本県土木部所管ダムですが、施工は建設省。


右岸の管理事務所
手前にインクラインがあるのですが、こちらも改修工事中。


ダムとしては珍しく、左右両岸にバス停があります。
左岸の国道388号線には『ダムサイト』バス停。


右岸の県道142号線には『市房ダム前』バス停。 


右岸ダムサイトのバットレス構造物
山留か?プラント跡か?


上流面
かまぼこ型の操作室が乗る特徴的なゲートピア
右手にはクレーンと分割式予備ゲートが積まれています。
ゲート左の取水設備は改修工事中。


ピアをズームアップ
ホイストクレーンを使った予備ゲート運搬装置は珍しい。


九州らしく竣工記念碑は金箔文字。


上でも書いたように球磨川水系の治水についてはダム建設の賛否が交錯し、川辺川ダムの事業化が大きく遅延、結果論ですがこれが2020年(令和2年)7月豪雨での被害激化につながったことは否めません。
一時期『コンクリートから人へ』などという甘い言葉に乗せられ公共事業全体を悪とするような風潮が蔓延しましたが、人の命は地球より重いとするならば防災事業はきれいごとでは済まないことを我々も改めて認識すべきでしょう。

追記
市房ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2661 市房ダム(1959)
熊本県球磨郡水上村湯山
球磨川水系球磨川
FNP

78.5メートル
258.5メートル
40200千㎥/35100千㎥
熊本県土木部
1960年
◎治水協定が締結されたダム

清願寺ダム

2023-02-01 17:50:06 | 熊本県
2022年11月22日 清願寺ダム
 
清願寺ダムは熊本県球磨郡あさぎり町の一級河川球磨川水系免田川にある農地防災・灌漑目的のアースフィルダムです。
あさぎり町の球磨川南岸一帯は広大な平地が広がり、球磨川を水源として古くから開拓が進められてきました。
しかし暴れ川である支流の免田川流域では洪水被害が多発する一方、山沿いの農地は水利に乏しく干ばつ被害が絶えませんでした。
そこで熊本県は1970年(昭和45年)に農林省(現農水省)の補助を受けた県営防災ダム事業およびかんがい排水事業免田川地区に着手、その中核施設として1979年(昭和54年)に竣工したのが清願寺ダムです。
清願寺ダムは免田川流域水田約500ヘクタールの農地防災および約300ヘクタールの水田・畑地への灌漑用水の供給を目的としており、当初は上村が、その後の町村合併により現在はあさぎり町が管理を受託しています。
清願寺ダムの堤高60.5メートルは日本のアースフィルダム最高となっており、日本ダム協会により日本100ダムに選ばれています。

先ずはダム下へと向かいます。
奥に堤体と洪水吐斜水路が見えます。
向って左(右岸)には放流管(常用洪水吐)吐口と利水放流設備があります。


右手トンネルが常用洪水吐からの放流口で、普段はEL266メートルを超える流入量はそのままここで放流されます。
一方左手は灌漑用放流設備で灌漑用水がここから用水路へと送られます。

堤体直下まで接近できないため、堤高60.5メートルの高さは実感できません。


さらにダム下へと向かいますが、フェンスがあり立ち入りはここまで。
見えるのは堤頂長199メートルの半分ほど。


左岸ダムサイトに上がります。
きれいに草が刈られた下流面は犬走を挟んで3段構成。
堤体保護のためでしょう、下流面の勾配は1:1.23と一般的なフィルダムよりも緩やかになっています。


天端は2車線幅の車道。


取水設備と常用洪水吐
取水設備は複式斜樋で取水口は水中にあります。
上部のゲートは予備ゲート。
右手の四角いゲージが常用洪水吐で、平時は常時満水位EL266メートルを超える流入量がここから放流されます。


右岸上流から
一見水位は低いですがこれで常時満水位。
総貯水容量330万2000立米のうち灌漑容量103万立米と堆砂容量34万4000立米分が貯留されています。
農地防災容量は有効貯水容量の7割近くを占め、容量だけ見れば防災メインのダムと言えます。


天端から洪水吐斜水路と減勢工を見下ろします。


非常用となる横越流式洪水吐。
この越流部が洪水時最高水位EL280.4メートルになります。


天端から見下ろすと堤高60.5メートルの高さを実感できます。
洪水吐を跨ぐ鉄管は灌漑用で、左手は調圧水槽。
ダム下の放流設備とは別系統で、ダムからは2系統で用水補給されるようです。


右岸から
上流面はコンクリートで護岸。


アースフィルダム堤高日本一もさることながら、それ以上に独特な取水設備や常用洪水吐、2系統の灌漑用放流設備など構造面での見どころも多いダムです。

(追記)
清願寺ダムには農地防災容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。

2674 清願寺ダム(1958)
熊本県球磨郡あさぎり町皆越
球磨川水系免田川
FA
60.5メートル
199メートル
3302千㎥/2958千㎥
あさぎり町
1978年
◎治水協定が締結されたダム