ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

南房総広域水道企業団大多喜浄水場・水資源機構房総導水路管理所見学

2024-03-09 08:05:15 | 施設見学
2024年2月26日 大多喜浄水場・房総導水路管理所見学

千葉県では地方自治体および一部事務組合(水道企業団)が管理する上水道用水目的のダムは15基あります。(廃止された富津市の小久保ダムは除く)。
さらに灌漑兼用を含むとその数は17基に達し、千葉県のダム総数に占める上水ダムの比率は34%にも及びます。
しかも17基のうち16基が南房総地域と呼ばれる房総半島南部の5市3町に集中しており、従前より南房総地域の水道事業についてもっと見識を深めたいと願っていました。
これを受けまず、今年1月に南房総のうち安房地区と呼ばれる館山市・南房総市・鋸南町の上水ダムを歴訪、その詳細を当ブログでアップしてきました。
2月にも1泊2日の日程で房総半島を再訪し、利根川の水を房総半島に供給する水資源機構房総導水路管理所、房総導水路の水を南房総各水道事業者に供給する南房総広域水道企業団、さらにいすみ市水道課が管理する上水ダム及び浄水場を見学する機会を得ました。
ここではそのうち南房総水道企業団大多喜浄水場及び水資源機構房総導水路管理所の見学について記載したいと思います。

まず最初に訪れたのが千葉県夷隅郡大多喜町にある南房総広域水道企業団です。
南房総地域では昭和30年代~50年代にかけて各自治体により水道事業が創設されますが、観光客の増加や水洗トイレ普及など生活様式の変化などにより水道需要は一段と増加、各事業者の独自水源では水道需要を賄うことが困難となってきました。
そこで南房総各自治体は水資源開発公団(現水資源機構)が事業を進めていた房総導水路に水源を求め、1990年(平成2年)に水道用水供給事業者として一部事務組合である南房総広域水道企業団を設立、1996年(平成8年)より給水が開始されました。
現在は南房総地域水道全水道使用量の約5割に当たる、日量最大4万2330立米の水を総延長171キロの送水管で南房総8水道事業者に給水しています。

房総導水路及び南房総広域水道企業団概要図
(南房総広域水道企業団ホームページより)
房総導水路は利根川上流ダム群や霞ケ浦などを水源とし、約100キロの導水路で京葉臨海工業地帯や房総半島各地に都市用水を供給する水資源機構の事業です。
南房総広域水道企業団はこのうち水資源機構が管理する東金ダム及び長柄ダムに水利権を確保しています。


南房総広域水道企業団送水管路
(同水道企業団ホームページより)


今回は事前に施設見学申請を行い職員様に大多喜浄水場を案内いただき、具体的な浄水の工程を見学、解説していただきました。
浄水の流れ(同企業団ホームページより)


26日午前9時
大多喜浄水場正門に到着。
インターホンで施設見学の旨伝え門を開錠していただきます。

浄水場の広景
奥に事務所棟があります。

事務所で挨拶を交わしたのち、職員様帯同で見学開始。
こちらは着水井
房総導水路から受水した原水がここに流入します。

グリーンの機械で粉末活性炭・塩素・硫酸を注入します。

水は粉末活性炭接触池を経て薬品混和池に送られます。
ここで凝集剤と消毒剤を注入し、活性炭への不純物吸着の準備を行うとともに消毒を行います。


フロック形成池
薬品混和池から受けた薬品の混ざった水をかくはん機でかき混ぜ不純物の固まりを作ります。
この固まりをフロックと言います。

沈殿池
フロック形成池から受けたフロックが浮遊する原水を自重で沈めます。
大多喜浄水場では太陽光によるカビや微生物の繁殖を抑えるため、遮光板が設置されています。 
一方沈殿したフロックは後述する排水池→濃縮槽→天日乾燥床に送られます。


急速濾過池
水を砂と砂利の層に通し、細かいフロックの汚れをろ過して透明できれいな水にします。
見た目にも原水よりも水がきれいになっているのが分かります。 


浄化された水は浄水池に貯留されたのち、送水管で各水道事業者に送水されます。
重機の奥の地下に約4200立米の水を貯留する地下浄水池があります。
大多喜浄水場では原水から上水になるまでの工程は約10時間。
これは浄水場によってまちまちですが想像していたよりも短時間できれいな水ができるのにちょっとびっくり。


こちらはエアチャンバー
ポンプの脈動を抑え安定した送水を行うための装置です。 


一方、沈殿池で除去されたフロックは排水池→濃縮槽を経て天日乾燥床に送られます。
こちらは濃縮水槽から送られたばかりの天日乾燥床。
濃縮されたとはいえまだ黒い泥水のような状態。


天日で乾燥させかなり水分が抜けた状態。


ほぼ乾燥しきった状態
原水にはこんなに不純物が混じってるんですね。
この汚泥は『脱水ケーキ』と呼ばれ、産業廃棄物として焼却処理されます。
焼却灰は従来はそのまま埋め立て処分されてきましたが、最近では建設資材として路盤材やコンクリート骨材、セメント原料などに再利用されることが多くなっています。
また有機物を多く含む脱水ケーキは発酵により肥料や土壌改良材として利用されます。


ここまで約1時間
ダムを単体として見るのではなく、水の流れをたどる中で改めて浄水場を見学した意義は大きいものがありました。
普段蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水ですが、実はそれがどのように作られているのか?いまさらながら大変勉強になりました。

最後に夷隅川にかかる水路橋
これはいすみ市や御宿町への送水管です。


このあと長南町の山内ダムに向かいますが、それはまた別稿で。
山内のダムの次に向かったのは大網白里町にある水資源機構房総導水路管理所。
こちらも事前にお願いして房総導水路事業についての簡単なレクチャーと大網揚水機場の見学をさせていただきます。


1962年(昭和37年)に利根川水系は『水資源開発水系』に指定され水資源開発公団(現水資源機構)による総合的な水資源の開発と利用が進められることになりました。
一方、房総半島では東京湾岸部が京葉臨海工業地帯として急速に発展するにつれ人口が急増し都市用水の需要は拡大の一途をたどります。
しかし大河がない房総半島内の水源ではこれらの需要を賄うことは不可能で利根川にその水源を求めることになります。
1970年(昭和45年)に利根川上流ダム群や霞ケ浦を水源とし、利根川から約100キロの導水路により房総半島各所に都市用水を供給する『房総導水路』が着工され、1997年(平成9年)の『南房総導水路』完成により同事業は竣工しました。
房総導水路概要図(水資源機構房総導水路管理所HPより)


しかし利根川の取水口から導水路南端の導水制御工までは最大で100メートル近い標高差があり、約100キロの導水路中に揚水機場が5か所、調整池ダムが2か所ある壮大な事業となっています。
これらの施設により京葉臨海工業地帯への工業用水、千葉市営水道・千葉県営水道・九十九里沿岸広域水道企業団・南房総広域水道企業団への上水道用水として最大毎秒8.4立米の水が房総導水路を通じて供給されています。
房総導水路断面図(水資源機構房総導水路HPより)


房総導水路管理所では導水路全般の管制を行うほか、隣接する大網揚水機場では約70メートルの揚水を行っています。
こちらは東金揚水機場からの吐口。


巨大な沈砂池の先にあるのが大網揚水機場
訪問前日のまとまった雨で水は濁っています。


揚水機場内。
3台のポンプが並び、毎秒最大13立米の水を74メートル揚水できます。
発電所は何度も見ましたが、揚水機場内を見るのは初めて。
渦巻き型のポンプは一見発電機にも似ていますが、こちらは電気の力で水を持ち上げる、一方発電機は水流で電気を作るという違いがあります。
 

ポンプの説明板。


これまでは水の流れを意識しつつも、どうしてもダムのみに焦点を当てた活動に終始してきました。
今回初めて浄水場と揚水機場を見学する機会を得ましたが、ダムはあくまでも点に過ぎず河川や水路を線、さらに集水域や受益地域を面とした立体的な視点で水の流れを辿る必要性を強く感じました。
今回は見学に至れませんでしたが、利根川の取水口や2基の調整池ダム、さらには水源となる利根川上流ダム群や霞ヶ浦についてもその水がどこに行き何に使われるのか?を意識して改めて訪問してみたいと思います。
最後に見学に対応していただいた南房総広域水道企業団及び水資源機構房総導水路管理所の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。