ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

一庫ダム

2024-04-24 08:00:00 | 兵庫県
2024年3月18日 一庫ダム
     3月19日 
 
一庫(ひとくら)ダムは兵庫県川西市一庫の一級河川淀川水系猪名川左支流一庫大路次川にある水資源機構が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
淀川主要右支流の猪名川は大阪・兵庫の住宅密集地や阪神工業地帯を貫流するため戦前よりその治水・利水は重要視され『河水統制事業』の対象にもなっていました。
戦後の水道需要増大に対処するため1962年(昭和37年)の「水資源開発促進法」により淀川水系では水資源開発公団(現水資源機構)により河川総合開発が進められることになりました。
淀川右支流の猪名川でも、流域での都市化の進展が著しく治水に加え急激に増大する利水需要に対応するため同公団により多目的ダム建設が進められ1983年(昭和58年)に竣工したのが一庫ダムです。
一庫ダムは一庫大路次川や猪名川の洪水調節(最大毎秒700立米の洪水カット)、安定した河川流量の維持と不特定用水への補給、大阪広域水道企業団及び兵庫県営水道を通じ大阪府及び兵庫県下7市2町への上水道用水の供給を目的としています。
また河川維持放流を利用して一庫発電所で最大1900キロワットの小水力発電を行っています。

一庫ダムは平日・事前予約限定ですが職員様案内による内部見学が可能です。
今回は3月19日に内部見学の予約をしましたが、前日の18日に時間の余裕があったので事前にダム全体を見学、翌19日に内部見学と2日連続での訪問となりました。
3月19日の記載のない写真はすべて3月18日のものとなります。
また見学の詳細については『一庫ダム 内部見学』の項をご覧ください。

川西市街から国道173号線を北上すると一庫ダムの標識があり、これに従うとダムに到着します。
まずはダム下から
堤高75メートル、堤頂長285メートル
減勢工のすぐ下流で一庫大路次川は右手に大きく蛇行します。


下流からの展望ポイントは多く、正面のほか左右両岸からダムを望めます。
非常用洪水吐のクレストラジアルゲート2門、常用洪水吐のコンジットラジアルゲート2門のほか、主管ゲート1条、分岐菅バルブ1条、維持放流バルブ1条、フラッシュ放流用として利水補助バルブを2条と多彩な放流設備を備えています。
昭和50年代のダムらしくコンジットゲートハウスはダムから前面に張り出しています。


こちらはクレストゲート直下の『赤橋』と呼ばれる管理橋からの写真。
これは内部見学での写真となります。
(2024年3月19日)


右岸からラジアルゲートをズームアップ
天端には巻き上げ機はなく、ゲートハウスはゲート横に位置します。


減勢工の副ダム。
減勢池からの放流用ゲートが2門あります。
副ダム堤頂に伸びるパイプはゲート開閉の際の空気管。


天端に上がります。
右岸ダムサイトの管理所裏手にある建設の碑。


天端は県道604号線
亀岡方面への抜け道になっておりそこそこの交通量があります。
親柱には『一庫ダム』の銘板、その上にはダム湖百選のプレート。


右岸湖畔にある艇庫
屋上は展望台になっています。
さすが兵庫、すごい落書きだと思ったら安食慎太郎という洋画家による壁画でした。


展望台から見た上流面
クレストラジアルゲート両側にはグリーンのコンジット予備ゲート
奥は選択取水設備
注目すべきはラジアルゲート上流側の溝
予備ゲート嵌め込み用の溝ですが、嵌め込みやすくするためか傾斜がついています。


天端を徒歩で往復します。
減勢工左岸手前側の建屋は放流設備
その先の白い建屋は管理用発電所
最大出力1900キロワットと一般水力並みの発電能力があります。

ダム湖は知明湖で総貯水容量は3330万立米
知明は貯水池奥の知明山から命名されました。
湖畔各所にキャンプ場や親水公園が整備されダム湖百選に選ばれています。
一庫ダムはこの冬以来記録的な渇水となっており、訪問時も貯水率40%割れでした。


左岸天端から
右手は取水設備


左岸から
対岸のエンジの建物が管理所。


左岸から上流面
グリーンのコンジット予備ゲートが鮮やか。
(2024年3月19日)


管理事務所と艇庫とインクライン。
(2024年3月19日)


上流から遠望
(2024年3月19日)


さすが水資源機構のダム
環境整備も素晴らしく事前予約ながら個人での内部見学も可能。
ただ、今期の一庫ダムは記録的な渇水に見舞われ一時貯水率は20%台まで落ち込みました。
訪問時も40%前後と厳しい運用は続いており、発災しない程度のまとまった雨が欲しいところです。

(追記)
一庫ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
1511 一庫ダム(2032)
兵庫県川西市一庫
淀川水系一庫大路次川
FNW
75メートル
285メートル
33300千㎥/30800千㎥
水資源機構
1983年
◎治水協定が締結されたダム

丸山ダム・丸山浄水場見学

2024-04-23 08:00:00 | ダム見学会
2024年3月19日 丸山ダム・丸山浄水場見学

3月中旬よりプライベートな事情で奈良の実家に帰省することになり、そのついでに近隣のダムを見学できないか?いくつか候補を思案していました。
その中で心に引っかかったのが兵庫県西宮市にある丸山ダムです。
このダムには2017年(平成29年)3月に訪問していましたが、ダム下や天端は立入禁止となっており貯水池上流側から遠望するのみでした。
そこで、事前にダムを管理する西宮市上下水道局にダム及び隣接する丸山浄水場の取材を申し込んだところ特別のご配慮で見学させていただけることになりました。
また兵庫県営水道を通じて西宮市に上水道用水を供給している兵庫県川西市の水資源機構が管理する一庫ダムについても同日での内部見学が叶い、3月19日は午前に丸山ダム・丸山浄水場、午後に一庫ダムをそれぞれ職員様同行で見学するという贅沢な一日となりました。
本稿では丸山ダム及び丸山浄水場の見学について記載したいと思います。
丸山ダムの概要については『丸山ダム』の項をご覧ください。

西宮市北部地区では1974年(昭和49年)の中国自動車完成を機に宅地開発が急展開し、これに対処するために西宮市水道局(現上下水道局)は1975年(昭和50年)に丸山浄水場を、1977年に(昭和52年)に丸山ダムを建設します。
しかし、その後も人口の増加がとどまらず1994年(平成6年)より水資源機構一庫ダムを水源とする兵庫県営水道多田浄水場からの受水が開始されました。
現在では西宮市北部への上水道用水の給水の9割は兵庫県営水道が担っており、丸山ダム及び丸山浄水場はサブ的存在となっています。
西宮市水道事業の概要図(西宮市水道ビジョンより)


これを踏まえたうえでダムと浄水場の見学をすることにします。
こちらは丸山浄水場入口。
当然のことながら関係者以外の立入りは禁止されています。


完成当時の西宮市水道局が改組され上下水道局になったため、門扉のプレートはまだピカピカ。


浄水場管理棟内に置かれたダム・浄水場の模型。


まずはダムへと向かいます。
実は船坂川沿いを進めばこの場所までは立入りが可能。
全く見れないダムではありませんでした。


丸山ダムの売りである紫のゲートもはっきりと見えます。


減勢工の副ダム
切欠きの下流にさらに小さな導流堤があります。
右手の穴はダム湖に隣接するゴルフ場からの水路。
ゴルフ場では除草剤を多用するため、飲料水の水源であるダム湖をバイパスしてダム下流に流下させます。


副ダムをズームアップすると小さなゲートがあります。
これは減勢池内の土砂を排出するゲートですが、近年は操作してないそうです。


こちらの細いパイプはかつて貯水池に隣接していたプールの排水用。
プールは廃止になったため、こちらも今は使われていません。


ここから先が立入り禁止エリア。


ダムと正対
堤高31メートル、堤頂長71メートル
手前の水路橋は取水設備から浄水場への水管。


ゲートをズームアップ。
これほど鮮やかな紫のゲートはほかには思い浮かびません。
強いてあげれば岩手の入畑ダム
あとは山形の月山ダムのコンジットゲートくらいか?


ついつい同じような写真を何枚も撮ってしまいます。


水路橋から
右手の建屋は放流設備で、下流域の利水需要に合わせて3本の放流管があります。
さらに奥には水位低下用のホロージェットバルブを装備。


もう一度ゲートをズームアップ。


放流設備をズームアップ。 


導流部の下部には穴を塞いだような跡
建設時の堤体内仮排水路の跡になります。

3本の放流管
今後下流域での田起こしや田植えが始まるとさらに放流量を増やすそうです。


水路橋から見た減勢池。


水路橋を渡りダムの右岸へ移動
これは取水設備からの管路
この後水路橋を経て浄水場へと続きます。 


右岸のフーチングを登ります。
堤高31メートルは基礎岩盤からの高さで、実際に上るのは20メートルほどか?
斜めの管理は上記プールからの排水管。
今は使われていません。


フーチングからの下流面。

天端に到着
完成当初は天端は開放されていたそうで、上下流面にフェンスが設けられています。
今も湖岸沿いに道路が通じていますが途中に門扉が設けられ一般の立入りは禁止。
奥の建屋はゲート操作室で止まっている車はメンテナンスの業者さん。


取水設備は3段の多段式
でも最近は操作をしていないそうです。


ゲート巻き上げ機。 


天端から減勢工を見下ろす。


ゲート操作室
台風や豪雨の際には職員さんはここに籠ってゲート操作を行うそうです。
治水協定の締結で事前放流が義務化されて以降は、『水道屋がダム屋にならなければいけない』とのこと。


下流面。


上流面
奥が上水用取水設備
手前は放流用の取水設備。


ちょっと見づらいが竣工記念碑。


諸元の銅板。


ダムから浄水場に戻ります。
こちらはエアチャンバー。
横にあるのは分割式の予備ゲート
主ゲートに比べて随分色あせています。


着水井
ダムから送られた原水が流入します。


フロック形成池
薬品を投入した水をかくはん機でかき混ぜ不純物の固まり(フロック)を作ります。
水中の羽根のようなものが撹拌機。


沈殿池
フロック形成池から受けたフロックが浮遊する原水を自重で沈めます。
沈殿したフロックはガントリーで定期的に排出されます。
正面の山上には丸山配水池があり、ここで浄水された水および兵庫県営水道から受水した水をブレンドして給水しています。


急速濾過池
水を砂と砂利の層に通し、細かいフロックの汚れをろ過して透明できれいな水にします。
 


濾過池の模型。


こちらは濃縮槽
排出したフロックをここで脱水して濃縮します。
丸山浄水場には天日乾燥床はなく、濃縮されたフロックは産業廃棄物として処理されます。

これにて丸山ダム及び浄水場の見学は終了
現在、丸山配水池から西宮市北部地区に給水する上水道用水の約9割は兵庫県営水道からの受水により、丸山ダム及び浄水場は事実上のサブ扱いです。
兵庫県営水道については従来は一庫ダムを水源とする多田浄水場からの受水に依っていましたが、青野ダムを水源とする三田浄水場からの送水管が新たに接続されより柔軟な水運用が可能となりました。
またサブになったとはいえ今年は一庫ダムが記録的な渇水に見舞われるなど、当面はセイフティーネットとして自己水源を維持する必要性は大きいように思われます。
一方で、人口減少時代となりいずれ水需要が大きく縮小するような事態に備え、中長期的には水道事業の合理化・広域化は不可避です。
その際、丸山ダム及び浄水場の立ち位置がどうなるのか?ダム愛好家としての立場から見るとやや複雑な気持ちにならざるを得ません。


最後に、案内していただいた職員さんの見送りを受けて浄水場を後にしました。
この後午後2時からは水資源機構一庫ダムの内部見学となります。


西宮市上下水道局では一般個人の見学対応はされておりません。
今回はダムマイスターとしての取材要請に対し特別のご配慮で見学の許可を頂けました。
改めて西宮市上下水道局および丸山浄水場の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。

丸山ダム

2024-04-22 08:00:00 | 兵庫県
2017年3月25日 丸山ダム
2024年3月19日
 
丸山ダムは兵庫県西宮市山口町下山口の二級河川武庫川水系船坂川にある西宮市上下水道局が管理する上水道目的の重力式コンクリートダムです。
阪神間に位置する西宮市は市域が南北に長く、南部の大阪湾沿岸部や六甲山麓は戦前より市街化が進み併せて水道事業の整備も進められてきました。
一方北部と呼ばれる旧有馬郡塩瀬村および山口村は実質的には飛び地状態で昭和40年代までは開発の手が届かない山村でした。
しかし、1974年(昭和49年)の中国自動車完成を契機に状況は一転、北部地区でも宅地開発が進められ人口は急増します。
これに対処するために西宮市水道局(現上下水道局)は当地への上水用水源及び浄水場建設に着手、1975年(昭和50年)に丸山浄水場が、1977年に(昭和52年)に丸山ダムが完成しました。
しかしその後も開発の手は緩まず1991年(平成3年)には計画人口1万5000人の西宮名塩ニュータウンが着工され、1994年(平成6年)より水資源開発公団(現水資源機構)の一庫ダムを水源とする兵庫県営水道多田浄水場からの受水が開始されました。
さらに渇水が多い一庫ダムを補完するため青野ダムを水源とする三田浄水場からの送水管も完成し、現在では西宮市北部地区における給水の約9割は兵庫県営水道からの受水により、丸山ダム及び丸山浄水場の立ち位置はサブ的存在となっています。

丸山ダムは天端、ダム直下、ダムサイトが立入り禁止となっており2017年(平成29年)3月の初回訪問時は上流から遠望するのみでした。
2024年(令和6年)3月の再訪時は事前に管理する西宮市上下水道局に丸山ダム及び浄水場の見学を依頼し、職員様同行での見学が叶いました。
見学の詳細については『丸山ダム・丸山浄水場見学』の項をご覧ください。
 
再訪時は関係者以外立入り禁止の丸山浄水場から丸山ダムに向かいました。
一般には国道176号線『名塩道路』丸山ダム北交差点を南に折れ丸山浄水場脇の道路を船坂川沿いに進むと丸山ダム下流まで立入りでき、売りである紫ゲートも望めます。
減勢工には副ダムがあり、副ダム直下にも導流堤があります。
副ダム右手の穴は貯水池に隣接するゴルフ場からの導水路。
ゴルフ場では除草剤を多用するため、飲用であるダム貯水池をバイパスしてダム下に流します。


ゲートを抜け立入禁止エリアへ。
堤高31メートル、堤頂長71メートル
やはり紫のゲートに目が向かいます。
手前の水路橋は取水設備から浄水場への水管。

 
ゲートをズームアップ。

 
水路橋から
向かって右手に放流設備があり、灌漑期等流域の利水需要に合わせて3本の放流管を装備
さらに、奥には水位低下目的のバルブがあります。

 
フーチングから天端へ上がります。
左岸上流から湖岸沿いに道路が通じていますが、途中に門扉があり一般の進入はできません。
向かいの建屋はゲート操作室で止まっている車はメンテナンス業者のもの。
完成当初は開放されていたこともあり、上下流面ともにフェンスが設置してあります。


取水設備は3段の多段式でハンドルが3本。


ゲート巻き上げ機。

 
天端から減勢工を見下ろす。

 
左岸から下流面。

 
上流面
奥は浄水場への取水設備
手前は放流用の取水設備。


ちょっと見づらいですがダムサイトの竣工記念碑。


諸元プレート。

 
ここからは初回訪問時、上流からの写真となります。
ダム湖は所在地の地名から『金仙寺湖』
総貯水容量は244万2000立米。
左岸に浮桟橋があり巡視艇が係留されています。
(2017年3月25日) 

 
ゲートをズームアップ
ゲート右手が上水用取水設備、左手が放流用取水設備。
(2017年3月25日) 

 
左岸はロックフィルの第2ダムになっています。
堤高が15メートル未満のため河川法上のダムではありません。
(2017年3月25日) 


金仙寺湖の石碑。
(2017年3月25日) 

 
今回はダムマイスターとして取材を申請し、当別のご配慮で見学が叶いました。
対応していただいた西宮市上下水道局丸山浄水場の皆様には厚く御礼申し上げます。

(追記)
丸山ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
1502 丸山ダム(0883)
兵庫県西宮市山口町下山口
武庫川水系船坂川
31メートル
71メートル
2442千㎥/2050千㎥
西宮市上下水道局
1977年
◎治水協定が締結されたダム

岬ダム

2024-04-20 08:00:00 | 千葉県
2017年2月 4日 岬ダム
2024年2月27日
 
岬ダムは千葉県いすみ市岬町鴨根の夷隅川水系海老川にある上水目的のアースフィルダムです。
旧岬町では1985年(昭和60年)に広域簡易水道として町営水道事業が認可され、その水源として1989年(平成元年)に竣工したのが岬ダムです。
当ダムと隣接する音羽浄水場の完成により計画給水人口1万3200人となる水道事業が開始されました。
その後の水道需要の増加を受けて、1993年(平成5年)の第1次拡張事業により南房総広域水道企業団からの受水が開始され計画給水人口は1万4000人まで増加しました。
2005年(平成17年)の3町合併によるいすみ市誕生に合わせて水道事業も統合され、現在はいすみ市水道課が管理を行っています。
2025年(令和7年)4月に 夷隅地域2市2町の水道事業統合が予定されており、当ダムや浄水場の運営は新たに設立される水道企業団が引き継ぐ予定です。

いすみ市水道課が管理する山田浄水場及び隣接する東ダム東第2ダム、音羽浄水場及び岬ダムはいずれも関係者以外立入り禁止となっています。
再訪時は事前にいすみ市水道課に取材申請を行い、職員様同行による施設見学が叶いました。
掲載写真はすべて立入り禁止エリアのものとなります。
今回の見学は特例であり一般個人の見学については対応されておりません。
その点、強くご理解いただきたいと思います。
掲載写真はすべて再訪時のものです。
  
下流から遠望
向かって左手が音羽浄水場になります。

 
右岸側の洪水吐と減勢工
岬ダムは既設の灌漑用溜池である鴨根堰を取り込む形で建設されました。
貯水池に灌漑容量の配分はありませんが、灌漑期には旧鴨根堰の水利権向けの放流義務があります。
この辺りの田植えは非常に早く2月から田起こしが始まりそれに備えてすでに放流が行われています。

 
ダムサイトおよび浄水場への入り口はチェーンが掛けられ関係者以外立入りできません。

 
右岸から下流面
堤高23.7メートル、堤頂長128.9メートル。

 
右岸ダムサイトの定礎石。

横越流式洪水吐。


上流面はロック材で護岸
ロック材の色の変わっているところが常時満水位
今年は少雨のせいで水位は低め。

  
取水塔
4段の多段式。

 
洪水吐減勢工と放流設備
奥は水位低下用放流設備
手前は灌漑用放流設備でこちらは受益農家が操作します。

 
洪水吐越しの浄水場。
完成は山田浄水場よりも13年遅い1989年(平成元年)
その分建屋も新しく近代的。

 
総貯水容量は54万1000立米
房総らしく濁っていますが南房総ほどひどくはない
ここには千葉県では珍しく白鳥が飛来するとか?
鳥関係の団体から開放要請があるそうですが、やはり人の口に入る水のため断っているそうです。

 

  
浄水場の上には配水池が2基あります。
左は岬ダムを水源とした配水池、右は南房総広域水道企業団からの水。

 
管理棟の中も見学
ダムの概要板。

 
左はダム完成当時の航空写真
右はダム建設前の鴨根堰の写真。


音羽浄水場では日量5000立米の水を配水しており、うち3400立米が岬ダムを水源とし、残り1600立米は南房総広域水道企業団から受水しています。 
最後に特別のご配慮で見学要請に応じていただいたいすみ市水道課および職員様には厚く御礼申し上げます。
  
3609 岬ダム(0828)
千葉県いすみ市岬町鴨根
夷隅川水系海老川
23.7メートル
128.9メートル
541千㎥/516千㎥
いすみ市水道課
1989年

東第2ダム

2024-04-18 08:00:00 | 千葉県
2017年2月 4日 東第2ダム
2024年2月27日
 
東第2ダムは千葉県いすみ市山田の夷隅川水系奥山田川にあるいすみ市水道課が管理する上水目的のアースフィルダムです。
旧大原町では1972年(昭和47年)に水道事業が認可され、その水源として1976年(昭和51年)に東ダム が完成し計画給水人口9080人として水道事業が開始されました。
その後の水道需要増加を受けた第1次拡張事業により1984年(昭和59年)に竣工したのが東第2ダムで、計画給水人口は12670人に拡大しました。
さらに1992年(平成4年)の第2次拡張事業により南房総広域水道企業団からの受水が開始され計画給水人口は2万650人まで増加しました。
2005年(平成17年)の3町合併によるいすみ市誕生に合わせて水道事業も統合され、現在はいすみ市水道課が管理を行っています。
2025年(令和7年)4月に 夷隅地域2市2町の水道事業統合が予定されており、当ダムや浄水場の運営は新たに設立される水道企業団が引き継ぐ予定です。

いすみ市水道課が管理する山田浄水場及び隣接する東ダム・東第2ダム、音羽浄水場及び岬ダムはいずれも関係者以外立入り禁止となっています。
再訪時は事前にいすみ市水道課に取材申請を行い、職員様同行による施設見学が叶いました。
掲載写真はすべて立入り禁止エリアのものとなります。
今回の見学は特例であり一般個人の見学については対応されておりません。
その点、強くご理解いただきたいと思います。
掲載写真はすべて再訪時のものです。

山田浄水場から 
奥が東第2ダム、右手が東ダム。

 
東ダム天端から
手前は汚泥(フロック)濃縮槽と天日乾燥床。


左岸ダム下の洪水吐減勢部から
手前のコンクリート内に山田浄水場への水管があります。
隣の鉄管は水位低下放流用。


ズームアップします。  


右岸から
堤体は犬走を挟んで2段
堤高21メートル、堤頂長115メートル
堤体の草刈はシルバーに委託
奥を洪水吐斜水路が流下します。

 
総貯水容量は20万1000立米
ダム便覧では流域面積4.4平方キロのうち大半の4平方キロが間接流域となっています。
完成当初は流域外からの揚水があったようですが、今はすべて自己流域での集水となっておりこれは誤りです。


左岸の横越流式洪水吐
左奥は取水塔。


天端からの眺め
ダムの左手から洪水吐斜水路が伸び、天日乾燥床の手前が減勢工になります。

 
東ダムと異なり天端はきれいに舗装されています。


洪水吐越しの上流面
東ダム同様ロック材で護岸されています。

 
横越流式洪水吐。


上流面にあるインクライン
こちらも東ダム同様今は使われていません。

 
取水塔への管理橋。


取水口は4段の多段式でハンドルが4基。
浄水場への取水は東ダムと交互に行い、取水操作は職員さんがここで手動で行います。


こちらは土砂吐ゲートへの階段。
ダム完成以来ほとんど使われておらず、今は操作できないだろうとのこと。

 
山田浄水場では日量4000立米の水を浄水・配水しており、そのすべては東ダムおよび東第2ダムから取水しています。
いすみ市全体では排水量の約5割を南房総広域水道企業団から受水していますが、山田浄水場に関しては自己水源からの取水で賄っています。
最後に特別のご配慮で見学要請に応じていただいたいすみ市水道課および職員様には厚く御礼申し上げます。
 
0685 東第2ダム(0830)
千葉県いすみ市山田
夷隅川水系奥山田川
21メートル
115メートル
201千㎥/185千㎥
いすみ市水道課
1984年

東ダム

2024-04-16 08:00:00 | 千葉県
2017年2月 4日 東ダム
2024年2月27日

東ダムは千葉県いすみ市山田の二級河川夷隅川水系上山田川にあるいすみ市水道課が管理する上水目的のアースフィルダムです。
旧大原町では1972年(昭和47年)に水道事業が認可され、その水源として1976年(昭和51年)に竣工したのが東ダムです。
当ダムと隣接する山田浄水場の完成により計画給水人口9080人となる水道事業が開始されました。
1984年(昭和59年)には第1次拡張事業により東第2ダムが完成、計画給水人口は12670人に拡大しました。
さらに1992年(平成4年)の第2次拡張事業により南房総広域水道企業団からの受水が開始され計画給水人口は2万650人まで増加しました。
2005年(平成17年)の3町合併によるいすみ市誕生に合わせて水道事業も統合され、現在はいすみ市水道課が管理を行っています。
2025年(令和7年)4月に 夷隅地域2市2町の水道事業統合が予定されており、当ダムや浄水場の運営は新たに設立される水道企業団が引き継ぐ予定です。

いすみ市水道課が管理する山田浄水場及び隣接する東ダム・東第2ダム、音羽浄水場及び岬ダムはいずれも関係者以外立入り禁止となっています。
再訪時は事前にいすみ市水道課にお願いして、職員様同行による上記施設の見学が叶いました。
掲載写真の多くは立入り禁止エリアのものとなります。
今回の見学は特例であり一般個人の立入りや見学は対応されておりません。
その点、強くご理解いただきたいと思います。
掲載写真はすべて再訪時のものです。

南総広域農道を南下し山田六区を右折すると東ダムに到着します。
こちらは東ダム南側に隣接する東第2ダムからの眺め
堤高22メートル、堤頂長175メートル
ダム下に汚泥(フロック)濃縮槽と天日乾燥床、右手高台には山田浄水場と配水池があります。

 
場所を変え左岸高台の山田浄水場からの眺め
右手が東ダム、左奥が東第2ダム

 
やや低い位置から
ダム下手前建屋が汚泥濃縮槽、その先が天日乾燥床。

 
これは右岸ダム下の仮排水路吐口
水管は水位低下放流用。

 
手前のオレンジ色のハンドルは水位低下放流のバルブ開閉用。
奥の水路は東第2ダムの洪水吐減勢部となります。
両ダムともに河川維持放流義務はなくあくまでも水位低下用の放流設備となります。

 
左岸の洪水吐斜水路

 
洪水吐導流部。

 
左岸の横越流式洪水吐。

 
上流から。


左岸湖畔にあるインクライン
今は使用されておらず厳密にはインクラインの遺構。

 
天端からダム下を見下ろすと
先述した汚泥濃縮槽と天日乾燥床が並びます。

 
天端と山田浄水場・配水池
高台に並ぶ建屋はまるで近世の山上城郭のよう
月山富田城!!

 
上流面はロック材で護岸
総貯水容量は45万立米。
ダム便覧には流域面積5.2平方キロのうち4平方キロが間接流域となっていますがこれは誤りで、東ダムについてすべて直接流域からの集水となっています。

 
取水塔
取水口は4段の多段式で、それぞれの操作用のハンドルが4つあります。
山田浄水場では東ダムと東第2ダムから交互に取水し、取水口の開閉は縮員さんが手動で行います。

山田浄水場では日量4000立米の水を浄水・配水しており、そのすべては東ダムおよび東第2ダムから取水しています。
いすみ市全体では配水量の約5割を南房総広域水道企業団から受水していますが、山田浄水場に関しては自己水源からの取水で賄っています。 
最後に特別のご配慮で見学要請に応じていただいたいすみ市水道課および職員様には厚く御礼申し上げます。
 
0672 東ダム(0829)
千葉県いすみ市山田
夷隅川水系上山田川
22メートル
175メートル
450千㎥/406千㎥
いすみ市水道課
1976年

山内ダム

2024-04-12 08:00:00 | 千葉県
2017年2月 4日 山内ダム
2024年2月26日
 
山内ダムは千葉県長生郡長南町山内の二級河川一宮川水系埴生川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
埴生川上流の山内地区は気候は温暖、地味も肥沃ながら水源となる埴生川の水量が不安定なうえに圃場整備も未着で非効率な稲作経営を余儀なくされていました。
そこで1997年(平成9年)に千葉県営かんがい排水事業山内地区が着手されその灌漑用水源として2004年(平成16年)に竣工したのが山内ダムです。
併せて圃場整備も進められ計約110ヘクタールの農地整備が実現し、効率的な稲作経営が可能となりました。
ダムの管理は長南町産業振興課が受託しています。
 
山内ダムには2017年(平成29年)2月に初訪、2024年(令和6年)2月に再訪しました。
ダムに通じる管理道路入口にはゲートが設けられ関係者以外立入禁止となっており、ダムは右岸下流側から垣間見えるのみです。
再訪時はダムを管理する長南町に見学を申請し、ダム便覧への記事掲載及び写真撮影を目的として立入許可を頂きました。
今回の見学はダムマイスターとしての取材の一環であり特例によるものです。
今後も部外者の立ち入りについては認められることがありませんので、その点はご留意いただきたいと思います。
また掲載写真はすべて再訪時のものとなります。
 
山内ダムに通じる管理道路入口
ゲートが設けられ関係者以外立入禁止。
 
ダムと正対
堤高21.6メートル、堤頂長99.8メートル
堤体は犬走を挟んで2段構成
右岸に残る地山を洪水吐斜水路が流下する特徴的な造形。
ダム下の寒緋桜がほぼ満開で、ちょっと立入禁止がもったいない気が?


左岸ダム下の放流設備
温暖な房総半島は田植えが早くこの辺りも3月初旬から灌漑期に
ダムの管理は長南町が受託していますが、灌漑期のバルブの操作は受益地区である山内地区が行います。

 
堤体と洪水吐斜水路の間に地山が残る独特の造形。
まるでスフィンクスの足のよう。

 
天端入口にも門扉があり職員さんに開けていただきました。


左岸から下流面
堤体の草刈も山内地区が行います。

 
左岸ダムサイトには記念碑と事業説明板が並びます
こちらは竣工記念碑。
農業ダムではおなじみの4文字熟語は『水潤豊実』。


事業説明版
WEBを検索しても山内ダムの情報はなかなか出てきません。
実はこれが一番見たかった?笑。


ダム下の眺め。


関係者以外立入できない天端ですが、2車線幅がありきれいに舗装されています。

 
総貯水容量は36万立米
約110ヘクタールの水田を潤します。
右手は管理事務所。

 
右岸の洪水吐。
斜水路手前に副ダムがあります。

 
上流面はコンクリートブロックで護岸。
房総の田植えは早く長南町でも3月には灌漑期が始まります。
田起こしに備えてほぼ満水。

 
右岸の横越流式洪水吐。

 
管理事務所と斜樋
職員の常駐はなく、日々の巡回のみ。


初回訪問時より構内の様子が気になっていた山内ダム。
今回は特別のご配慮で中を見学することができました。
堤体も含めてダム全体がきれいに整備され、受益農家にとって貴重な言灌漑用水源であること見て取れます。
対応していただいた長南町産業振興課には厚く御礼申し上げます。
 
3293 山内ダム(0825)
千葉県長生郡長南町山内
一宮川水系埴生川
21.6メートル
99.8メートル
360千㎥/340千㎥
長南町産業振興課
2004年

南房総広域水道企業団大多喜浄水場・水資源機構房総導水路管理所見学

2024-03-09 08:05:15 | 施設見学
2024年2月26日 大多喜浄水場・房総導水路管理所見学

千葉県では地方自治体および一部事務組合(水道企業団)が管理する上水道用水目的のダムは15基あります。(廃止された富津市の小久保ダムは除く)。
さらに灌漑兼用を含むとその数は17基に達し、千葉県のダム総数に占める上水ダムの比率は34%にも及びます。
しかも17基のうち16基が南房総地域と呼ばれる房総半島南部の5市3町に集中しており、従前より南房総地域の水道事業についてもっと見識を深めたいと願っていました。
これを受けまず、今年1月に南房総のうち安房地区と呼ばれる館山市・南房総市・鋸南町の上水ダムを歴訪、その詳細を当ブログでアップしてきました。
2月にも1泊2日の日程で房総半島を再訪し、利根川の水を房総半島に供給する水資源機構房総導水路管理所、房総導水路の水を南房総各水道事業者に供給する南房総広域水道企業団、さらにいすみ市水道課が管理する上水ダム及び浄水場を見学する機会を得ました。
ここではそのうち南房総水道企業団大多喜浄水場及び水資源機構房総導水路管理所の見学について記載したいと思います。

まず最初に訪れたのが千葉県夷隅郡大多喜町にある南房総広域水道企業団です。
南房総地域では昭和30年代~50年代にかけて各自治体により水道事業が創設されますが、観光客の増加や水洗トイレ普及など生活様式の変化などにより水道需要は一段と増加、各事業者の独自水源では水道需要を賄うことが困難となってきました。
そこで南房総各自治体は水資源開発公団(現水資源機構)が事業を進めていた房総導水路に水源を求め、1990年(平成2年)に水道用水供給事業者として一部事務組合である南房総広域水道企業団を設立、1996年(平成8年)より給水が開始されました。
現在は南房総地域水道全水道使用量の約5割に当たる、日量最大4万2330立米の水を総延長171キロの送水管で南房総8水道事業者に給水しています。

房総導水路及び南房総広域水道企業団概要図
(南房総広域水道企業団ホームページより)
房総導水路は利根川上流ダム群や霞ケ浦などを水源とし、約100キロの導水路で京葉臨海工業地帯や房総半島各地に都市用水を供給する水資源機構の事業です。
南房総広域水道企業団はこのうち水資源機構が管理する東金ダム及び長柄ダムに水利権を確保しています。


南房総広域水道企業団送水管路
(同水道企業団ホームページより)


今回は事前に施設見学申請を行い職員様に大多喜浄水場を案内いただき、具体的な浄水の工程を見学、解説していただきました。
浄水の流れ(同企業団ホームページより)


26日午前9時
大多喜浄水場正門に到着。
インターホンで施設見学の旨伝え門を開錠していただきます。

浄水場の広景
奥に事務所棟があります。

事務所で挨拶を交わしたのち、職員様帯同で見学開始。
こちらは着水井
房総導水路から受水した原水がここに流入します。

グリーンの機械で粉末活性炭・塩素・硫酸を注入します。

水は粉末活性炭接触池を経て薬品混和池に送られます。
ここで凝集剤と消毒剤を注入し、活性炭への不純物吸着の準備を行うとともに消毒を行います。


フロック形成池
薬品混和池から受けた薬品の混ざった水をかくはん機でかき混ぜ不純物の固まりを作ります。
この固まりをフロックと言います。

沈殿池
フロック形成池から受けたフロックが浮遊する原水を自重で沈めます。
大多喜浄水場では太陽光によるカビや微生物の繁殖を抑えるため、遮光板が設置されています。 
一方沈殿したフロックは後述する排水池→濃縮槽→天日乾燥床に送られます。


急速濾過池
水を砂と砂利の層に通し、細かいフロックの汚れをろ過して透明できれいな水にします。
見た目にも原水よりも水がきれいになっているのが分かります。 


浄化された水は浄水池に貯留されたのち、送水管で各水道事業者に送水されます。
重機の奥の地下に約4200立米の水を貯留する地下浄水池があります。
大多喜浄水場では原水から上水になるまでの工程は約10時間。
これは浄水場によってまちまちですが想像していたよりも短時間できれいな水ができるのにちょっとびっくり。


こちらはエアチャンバー
ポンプの脈動を抑え安定した送水を行うための装置です。 


一方、沈殿池で除去されたフロックは排水池→濃縮槽を経て天日乾燥床に送られます。
こちらは濃縮水槽から送られたばかりの天日乾燥床。
濃縮されたとはいえまだ黒い泥水のような状態。


天日で乾燥させかなり水分が抜けた状態。


ほぼ乾燥しきった状態
原水にはこんなに不純物が混じってるんですね。
この汚泥は『脱水ケーキ』と呼ばれ、産業廃棄物として焼却処理されます。
焼却灰は従来はそのまま埋め立て処分されてきましたが、最近では建設資材として路盤材やコンクリート骨材、セメント原料などに再利用されることが多くなっています。
また有機物を多く含む脱水ケーキは発酵により肥料や土壌改良材として利用されます。


ここまで約1時間
ダムを単体として見るのではなく、水の流れをたどる中で改めて浄水場を見学した意義は大きいものがありました。
普段蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水ですが、実はそれがどのように作られているのか?いまさらながら大変勉強になりました。

最後に夷隅川にかかる水路橋
これはいすみ市や御宿町への送水管です。


このあと長南町の山内ダムに向かいますが、それはまた別稿で。
山内のダムの次に向かったのは大網白里町にある水資源機構房総導水路管理所。
こちらも事前にお願いして房総導水路事業についての簡単なレクチャーと大網揚水機場の見学をさせていただきます。


1962年(昭和37年)に利根川水系は『水資源開発水系』に指定され水資源開発公団(現水資源機構)による総合的な水資源の開発と利用が進められることになりました。
一方、房総半島では東京湾岸部が京葉臨海工業地帯として急速に発展するにつれ人口が急増し都市用水の需要は拡大の一途をたどります。
しかし大河がない房総半島内の水源ではこれらの需要を賄うことは不可能で利根川にその水源を求めることになります。
1970年(昭和45年)に利根川上流ダム群や霞ケ浦を水源とし、利根川から約100キロの導水路により房総半島各所に都市用水を供給する『房総導水路』が着工され、1997年(平成9年)の『南房総導水路』完成により同事業は竣工しました。
房総導水路概要図(水資源機構房総導水路管理所HPより)


しかし利根川の取水口から導水路南端の導水制御工までは最大で100メートル近い標高差があり、約100キロの導水路中に揚水機場が5か所、調整池ダムが2か所ある壮大な事業となっています。
これらの施設により京葉臨海工業地帯への工業用水、千葉市営水道・千葉県営水道・九十九里沿岸広域水道企業団・南房総広域水道企業団への上水道用水として最大毎秒8.4立米の水が房総導水路を通じて供給されています。
房総導水路断面図(水資源機構房総導水路HPより)


房総導水路管理所では導水路全般の管制を行うほか、隣接する大網揚水機場では約70メートルの揚水を行っています。
こちらは東金揚水機場からの吐口。


巨大な沈砂池の先にあるのが大網揚水機場
訪問前日のまとまった雨で水は濁っています。


揚水機場内。
3台のポンプが並び、毎秒最大13立米の水を74メートル揚水できます。
発電所は何度も見ましたが、揚水機場内を見るのは初めて。
渦巻き型のポンプは一見発電機にも似ていますが、こちらは電気の力で水を持ち上げる、一方発電機は水流で電気を作るという違いがあります。
 

ポンプの説明板。


これまでは水の流れを意識しつつも、どうしてもダムのみに焦点を当てた活動に終始してきました。
今回初めて浄水場と揚水機場を見学する機会を得ましたが、ダムはあくまでも点に過ぎず河川や水路を線、さらに集水域や受益地域を面とした立体的な視点で水の流れを辿る必要性を強く感じました。
今回は見学に至れませんでしたが、利根川の取水口や2基の調整池ダム、さらには水源となる利根川上流ダム群や霞ヶ浦についてもその水がどこに行き何に使われるのか?を意識して改めて訪問してみたいと思います。
最後に見学に対応していただいた南房総広域水道企業団及び水資源機構房総導水路管理所の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。

指久保ダム・四和ダム ダム通信

2024-02-22 08:00:00 | ダム通信
2022年(令和4年)10月23日に青森県の指久保ダムを見学しました。
同ダムは敷地内への立ち入りが禁止されていますが、管理する青森県農林水産部のご厚意により、敷地内で撮影した写真を公開しない条件で内部見学させていただきました。
そういう事情から、このブログでも敷地内での写真はアップしていませんが、以来ダムを管理する職員さんとネット上での交流が続き定期的に写真を送っていただいています。
なかなか訪問できない遠方の青森のダム、しかも普段なじみのない豪雪地帯のダムでもあり、新たに「ダム通信」と言うカテゴリーを作り指久保ダムおよび一緒に管理されている四和ダムについて、職員さんから送っていただいた写真を紹介することにしました。

2024年(令和6年)3月
管理事務所はきれいに撤去されました。
ゲートの改修も完了、真新しい赤いゲートが雪に映えます。



2024年(令和6年)2月後半
四和ダム左岸にあった管理事務所の解体作業が行われました。
今年度末をめどに新しい事務所が建てられるそうです。
上2枚は解体直前の写真


解体後の写真。



2024年(令和6年)2月
年末年始の冷え込みで指久保ダムは例年よりも早く凍結しましたが、その後は暖冬が続き十和田地方は記録的な小雪となっています。

ダムの管理人さんから四和ダム改修工事の新しい写真を送っていただきました。
一昨年から実施されているクレストゲート交換工事はコンクリート吹付や塗装など最終局面となっています。
 


貯水池内では仮排水路を設け堆積土砂の排出や土砂吐ゲートの交換が行われています。
排砂により土に埋もれていた後藤川水路が8年ぶりに姿を現しました。






2024年(令和6年)1月
暖冬予報ですが、例年2月に完全凍結する指久保ダム湖はクリスマスに一度凍結。
いったん融けた後1月に再び完全凍結。
今年の十和田は寒い冬の様です。



2023年(令和5年)晩秋
改修工事中の四和ダムではゲート巻き上げ機の置換が終了。
貯水池内でも掘削作業が実施中。
 





2023年(令和5年)7月5日
指久保ダムの河川維持放流を利用した小水力発電所(最大出力194キロワット)が完成を迎えるとの連絡を頂きました。
発電所の事業者は土地改良区で、発電した電力は売電し土地改良区の運営資金に充てられるとのこと。
7月6日に竣工式典が行われますが、今回は特別に報道にも未発表の写真を送っていただきました。
地球温暖化が危惧されゼロカーボンが叫ばれる中、小規模ながら安定した発電が行える小水力発電は多くのダムで導入されており、今後もこの流れは続くでしょう。

発電機











2023年(令和5年)1月23日
年末年始と暖冬が続いていましたが、寒波襲来で指久保ダムも真っ白
ホワイトダムになりました。
積雪は30センチくらいあるそうです。


こちらは10月23日訪問時のダム天端からの写真
灌漑期が終わり水が抜かれています。
手前は取水設備、奥はダム湖に架かる後藤川大橋


初冠雪。


年が明け後
ダム湖にも雪が積もっていますが、年明け後の暖冬のせいか積雪量はそれほどでもないようです。


こちらは10月23日訪問の四和ダム
改修工事中で洪水吐の扶壁が刷新されています。
訪問当時は巻き上げ機は古いまま。


その後、竣工以来頑張ってきた巻き上げ機の取り換えが行われました。


見た目には『これ本当に動くのかしら?』と思えた巻き上げ機。


色鮮やかな新品と交換されました。




両ダムでは今後も様々な改修や設備の更新が予定されているようです。
季節の移ろいも含めて、今後も送っていただいた写真を逐次、ここでアップしてゆきたいと思います。

安房中央ダム

2024-02-20 08:00:00 | 千葉県
2016年2月21日 安房中央ダム
2024年1月28日
 
安房中央ダムは左岸が千葉県南房総市川谷、右岸が同市御子神の丸山川水系丸山川にある安房中央土地改良区が管理する灌漑目的のアースフィルダムです。
房総半島南端、館山市から南房総市にわたる安房中央地区は地味豊富ながら大河がないなど水利に乏しく安定した水源確保は地域農家の悲願となっていました。
これを受け1961年(昭和36年)に千葉県営かんがい排水事業安房中央地区が着手され1978年(昭和53年)に完了。
これにより灌漑用貯水池である安房中央ダムや基幹幹線水路が建設され、さらにその後の圃場整備事業により1988年(昭和63年)には1000ヘクタールを超える土地改良区域内全域の農地整備が実現しました。
 
安房中央ダムには2016年(平成28年)2月に初訪、2024年(令和6年)1月に再訪しました。
ダムの天端は関係者以外立ち入り禁止となっており下流から見学するのみですが、再訪時はダムを管理する安房中央土地改良区に立入をお願いし、職員様の案内で見学が叶いました。
掲載写真はすべて再訪時のものです。

ダム下から
堤高32メートル、堤頂長110メートルの均一式アース
洪水吐導流部は隧道のため斜水路はありません。

  
下流面はきれいに草が刈られています。
人手不足の中、草刈ロボットを使っているそうです。
ロボットが草を刈る様子を見てみたい。


貯水池は総貯水容量211万3000立米
農業専用ダムとしては千葉県内3番目の規模
手前のプールは堆砂を排出する際の乾燥用。

 
天端からの眺め
ダム下に民家が一軒。
ダムができる前はここが丸山川の流路でした。
ダム下には排出した土砂が積まれています。


インクライン
今は使っておらず正式にはインクラインの遺構。
右手に横越流式洪水吐、貯水池には取水塔。

 
改修工事が終わり貯水池は湛水中。
取水設備は表面取水塔
房総では一の沢堰山田溜池でこの手の取水塔が見られます。
水は房総らしく濁っています。
濁水は灌漑施設などへの負荷はかかりますが、稲作にとっては重要なミネラルを供給します。

 
左岸の横越流式洪水吐。


導流部はトンネル。
越流した水は丸山川に放流されます。


管理事務所
職員の常駐はありませんが、今回は職員様帯同の見学ということで開けていただきました。

  
水利使用標識。


土地改良区設立50周年の記念碑。

 
国道410号線を超えて丸山川に下ります。
向かって左手は洪水吐の減勢工
トンネルを抜けた後はジャンプ台になっており捻りが入ります。
機械室を挟んで右手は放流設備
灌漑用水と維持放流や水位低下放流の分水ゲートがあります。


洪水吐の減勢工
捻りの入ったジャンプ台は初見。

 
こちらは取水塔からの吐口
仮排水路を利用しこの奥にホロージェットバルブがあります。

 
こちらは灌漑用幹線水路
計約25キロの幹線水路で受益農地に用水を補給します。


向かって右手が灌漑用ゲート
左手が維持放流及び水位低下用放流ゲート。


ダムを案内していただいた土地改良区の事務局長さんは千葉県OBでダム管理技士の資格を持つダムのエキスパート。
地理や地質にも精通され、多面的な切り口でダムを案内していただき大変勉強になりました。
厚く御礼申し上げます。

(追記)
安房中央ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
0667 安房中央ダム(0236)
左岸 千葉県南房総市川谷
右岸      同市御子神
丸山川水系丸山川
32メートル
110メートル
2113千㎥/2096千㎥
安房中央土地改良区
1972年
◎治水協定が締結されたダム