世界変動展望

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学会が京都府立医大に再調査を要請! - 降圧剤論文撤回

2013-02-20 22:01:27 | 社会

『毎日新聞 2013年02月20日 東京夕刊

 京都府立医大のチームによる降圧剤「バルサルタン」 に関する臨床試験の論文3本が、「重大な問題がある」との指摘を受け撤回された問題で、日本循環器学会が吉川敏一・同大学長に対し再調査を求めていたこと が20日分かった。大学側は今年1月、捏造(ねつぞう)などの不正を否定する調査結果を学会に出していたが、学会は納得せず不信感を抱いている。

 問題になっているのは松原弘明教授(55)が責任著者を務め、09~12年に日欧の2学会誌に掲載され た3論文。患者約3000人で血圧を下げる効果などが確かめられたとする内容だ。昨年末、3本中2本を掲載した日本循環器学会が「深刻な誤りが多数ある」 として撤回を決めるとともに、学長に事実関係を調査するよう依頼した。

 しかし大学は調査委員会を作らず、学内の3教授に調査を指示。「心拍数など計12件にデータの間違いがあったが、論文の結論に影響を及ぼさない」との見解を学会に報告し、松原研究室のホームページにも同じ内容の声明文を掲載した。

 学会はこれに対し、永井良三代表理事と下川宏明・編集委員長の連名で2月15日付の書面を吉川学長に郵送した。(1)調査委員会を設け、詳細で公正な調査をする(2)結論が出るまで、松原教授の声明文をホームページから削除する−−ことを要請している。

 毎日新聞の取材に、学会側は「あまりにもデータ解析のミスが多く、医学論文として成立していないうえ、調査期間も短い。大学の社会的責任が問われる」と説明。大学は「対応を今後検討したい」とコメントを出した。

 バルサルタンの薬の売り上げは薬価ベースで年1000億円以上。多くの高血圧患者が服用している。【河内敏康、八田浩輔】 

[1]』

私も非常に怪しいと思っていたが、日本循環器学会は京都府立医大に対して撤回されたバルサルタン論文の再調査を依頼した。

[3]で、多数の誤りがあり、バルサルタンの有効性を示す結果から同学会は調査結果に抗議できないとまずいと述べた。同学会はそれを実施したのだから、それは評価できる。「調査期間も短い」と言及されているが、[4]によれば2012年末に調査実施、今年1月に調査結果を報告したのだから、調査は約1ヶ月。[1]で述べている調査は予備調査だと後の報道で判明したので、約1ヶ月は予備調査としては規定上標準期間[6]。私は同学会が自ら調査してもいいと思うが、なぜやらないのだろうか。

同大が再調査するかわからないが、仮に今後の調査で不正が発覚したら、学長を含め同大は社会的に責任をとらなければならない。普通に調査すれば不正と判断すべきものを、不正でないと判断したのだから、組織ぐるみで不正を隠蔽したと言われても仕方ない。こういう事例は珍しくないから第三者調査機関を常設し、実効的な規定を作って公正な調査制度を作るべきだと前から私は何度も主張している。

それにしてもこの事件はまだ不可解なことがあって、被疑者のMらは2011年12月にデータ流用で告発され調査委員会ができ調査が進められたことが明らかになっている。米国心臓協会(AHA)も昨年3月に懸念を表明し調査を依頼。私は当初バルサルタンの論文撤回はデータ流用事件の調査関連で新しい不正疑惑が見つかって撤回に至ったと思っていたが、日本循環器学会から別途告発されたからだった。

データ流用疑惑に関しては現在も調査結果が公表されていない。これはいくらなんでも遅すぎる。これで本当に不正がないのか?バルサルタン関連の同大の対応を考えても、非常に嫌な予感がしている。他にも三重大のAの事件や東大分生件Kらの事件、筑波大MやYらの事件、群馬大Kの事件は調査開始から1年以上経過しても何も公表がない。都合が悪ければ規定を無視するので、研究機関がこういう対応をするのも自浄作用がはたらいていないことの一つの表れなのだろう。

自浄作用を保障する機構をきちんと作らないといけない。

バルサルタンの有効性の研究についてはJikei Heart Study (統括責任者、望月正武 武蔵野大学メディカルセンター 院長 元東京慈恵会医科大学循環器内科教授、共同統括責任者、ビヨン・ダーロフ スウェーデン サールグレンスカ大学病院教授)も由井芳樹(京都大学医学部附属病院内科助教)から告発(2012.4.14)されている。こちらもどうなるのだろうか。

この事件はノバルティスファーマ社やMらは否定するかもしれないが、利益相反も問題になってくるかもしれない。大学や企業は組織ぐるみでできる限り隠蔽しようとするだろうから、小さく収まる可能性もある程度あると思うが、残念ながらこの事件は真相をきちんと突き止めれば、ただの捏造・改ざん事件では済まないだろう。東大MのiPS細胞臨床虚偽事件よりもずっと悪質なスキャンダル。なぜなら、東大Mの事件はほとんどの研究者が結果を信用していなかったので、学術的にはそれほど損害はなかったと思うが、バルサルタンは世界中で使われており、影響は非常に大きい。たくさんの人に使われる薬の有効性の研究を、研究者や企業の利益のために、わざと嘘のデータを作って発表するのは非常に悪質。さらに、大学の組織的隠蔽、企業と研究者・研究機関との癒着・・・、非常にひどいとしか言いようがない。

今後京都府立医大が不正を隠蔽し続けるかはわからないが、仮に不正を認めるとしたら、Mだけを解雇する又は辞任させ共著者、大学、企業は逃げのびる手段をとるだろう。完全な責任逃れが無理なら、わずかなダメージで幕引きにするのは常套手段だ。この問題は今後不正を繰り返さないためにも、絶対にこういう形で終結させてはならない。でなければ、反省がなく同じ事が繰り返される。

現行制度では不正を京都府立医大が調査する仕組みだが、当事者の同大に調査させても不十分な調査にしかならない可能性は非常に高い。そういう意味でも私は日本循環器学会が独自に調査すべきだと思う。別に同学会が調査することを禁止する規定はないだろう。

徹底した調査で真相究明してほしい。

読者の皆さんによくわかってほしいのは、学術界のこうした不正や隠蔽体質を放置しておくと次の被害者はあなたやあなたの家族かもしれないということです。医療、先端技術、環境政策などは我々の生命、身体、財産、生活に大きな影響を与えるものです。研究者等の利益のために不正が起きる、疑惑が浮上しても組織ぐるみでうやむやにする、不正を認定してもできる限り処罰範囲を狭くする、処分も不当に軽くする。こういうことを続けたら研究者や研究機関に反省がなく、同じ事が永遠に繰り返されます。次に不正が起きたときに生命、身体、財産、生活などに甚大な被害を被るのはあなたやあなたの家族かもしれません。今まさに被害を受けている人もいるはずです

そうならないようにするためにも、第三者調査機関を常設し、実効的な規定を作って公正かつ積極的に調査できる制度を作るように政治家や文部科学省などに要望を出した方がいいのではないでしょうか。一人では小さいかもしれませんが、集まれば大きな力になるはずです。

賛同いただける方はぜひ文部科学省や政治家に要望を出してください。

--
要望の投稿先

文部科学省
https://www.inquiry.mext.go.jp/inquiry28/

自民党
https://ssl.jimin.jp/m/contact

内閣府
https://form.cao.go.jp/cstp/opinion-0001.html

首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken_ssl.html
--

参考
[1]毎日jpの記事 2013.2.20
[2]京都府立医大の不正行為の対応規定 2013.2.20 閲覧
[3]世界変動展望 著者:"京都府立医大不正なし?- バルサルタン論文撤回" 世界変動展望 2013.2.7
[4]毎日jpの記事 2013.2.6
[5]本件に関する南郷栄秀のコメント 2013.2.20 閲覧
[6]各研究機関の規定だと予備調査が約1ヶ月、その後本調査が約3~5ヶ月。



14 コメント

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Unknown (一研究者)
2013-02-21 23:26:44
私も第三者による調査機関を常設すべきだと思うのですが、どうしたらそのような機関が設立できるとお考えですか?政治家にお願いすべきなのでしょうか?バリケードストがいいのでしょうか?私もなにか行動を起こしたのですが、どうしたらよいかわからないままでいます。
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回答 (世界変動展望 著者)
2013-02-21 23:55:12
あなたのように不正改善のために活動しようとする方がいらっしゃることは嬉しく思います。

私が行っているのは文部科学省に意見や要望を出したり、ブログで啓発活動をやっているくらいですね。それしか個人でやる方法は思いつきません。あなたがいうように政治家に意見を出したり、集団でデモのような活動をするのもいいかもしれませんね。

協力者がいれば、集団で署名活動等をして国に提出するかもしれません。第三者機関を作るべきだというのは、東北大I前総長の事件でネイチャーやJSTの第三者委員会(御園生委員会)が提言し、毎日新聞もF医師の事件で見解を述べていました。他にも週刊誌で主張されたケースもあります。複数の有力機関が同じ提言をしているのは大きいと思います。

個人がやれる活動は上のようなものだと思います。個人が声をあげたり、協力して活動すればきっと実現できるでしょう。

ただ、私は第三者調査機関ができるだけでは不十分だと思います。なぜなら、上の御園生委員会も第三者委員会でしたが不十分な調査だったし、ジャーナルの論文訂正や撤回理由を見ればわかるように、保身や訴訟リスクの回避のため不正をうやむやにした対処で終わらせることはたくさんあります。不正の対応規則を作っても本文で述べたように、そのままでは実効性がない問題も明白となりました。

中立の立場の人たちが調査するというのは調査の構造上最低限の要請で、不正の取り締まりのためには調査側がリスクや保身に負けず、もっと積極的かつ公正に調査を実現する実効的な仕組みが必要です。

そういうことも含めて個人が声をあげたり、協力して活動すればきっと実現できるでしょう。がんばってください。
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Unknown (zippy)
2013-02-22 12:41:52
いつも、問題点を整理してくださってとてもわかりやすいです。ありがとうございます。

文科省だけでなく、厚労省にも「国民の皆さまの声」を届ける事が出来るようです
https://www-secure.mhlw.go.jp/getmail/getmail.html

意見だけでなく、質問に関しては、原則担当課より回答することになっているようです。
一人ひとりの声は小さいものかもしれませんが、こちらへも送ってみましょうか。


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回答 (世界変動展望 著者)
2013-02-22 21:33:37
私も厚労省に要望を出しました。何もしないよりはいいでしょうから、不正改善をご希望ならぜひ要望を出すといいと思います。

ところで、柔道の暴行問題で法を改正して第三者調査機関を常設する動きが報じられました。体罰が大きく問題視され報じられたことも理由の一つですが、2020年に夏五輪を東京に招致するのに波及するのを懸念したという理由もあるでしょう。

研究界の組織的不正隠蔽や規定の実効性がない様は東北大I前総長の事件などでもうすでに国はわかっていると思うのですが、なぜ動かないのかよくわかりません。役人のやる気がないという問題だけでなく、政治家にとって利益がないからでしょうか。

不正経理については昨年の京大Tの事件で文科相が調査する仕組みを作ることを発言したので、文科省の独自調査や先日の厳罰化制度が実現したのだと思います。

研究不正の問題も大臣が動いてくれると少しは違うと思います。文科省等に要望を出すだけでなく、政治家に要望を出した方が少し効果があるかもしれませんね。大臣はどうやったら意見を受け取ってくれるのでしょうか。
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Unknown (zippy)
2013-02-22 23:08:08
そうでしたか
既に意見を送られていたのですね
役人が嫌いなのは、大声で何度も大勢で来る人達らしいですが・・・
大臣に直接届ける方法はわかりません

文科省や厚労省が不正経理や研究の厳罰化に踏み切ったのは、不祥事の報道以外に会計検査院の指摘ではないでしょうか。
http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/pdf/241003_zenbun_4.pdf

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回答 (世界変動展望 著者)
2013-02-22 23:57:37
厚労省に関してはあなたに言われてから要望を出しました。

会計検査院の指摘も重要な効果があったでしょう。研究不正取締りの法律ができたり、他の官庁から正式に要請があれば効果があるんでしょうね。

補助金適正化法には文科省の立ち入り調査の規定がありますが、私の知る限り一度も行われていません。東北大I前総長の事件等は絶対にやった方がいいと思いますが、やりませんね。

不正改善に向けてよい方法について知恵を出し合うのも有効な方法だと思うので、何か良い考えがあるならぜひコメントしてください。
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メールや手紙だしました (匿名希望)
2013-02-23 01:30:30
いつも沢山の事を教えて下さり、ありがとうございます。

研究不正やハラスメントにあい、大学や所属学会に相談しても解決しませんでした。私は下記の事をしました。

U+2460ハラスメントや研究不正は業務に関することと考え、厚労省の労働基準関係情報メール窓口にメールしました。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/mail_madoguchi.html

U+2461文科省は研究不正のメール窓口にメールしました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/fusei/index.htm

U+2462前々文科省と前厚労省の大臣の事務所、
選挙後に、いくつかの政党事務所に手紙を出してみました。

正直、何をどうすればよいのか、わかりません。でも、不正やハラスメントをなんとかしたくて、U+2460U+2461U+2462をしました。

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回答 (世界変動展望 著者)
2013-02-23 01:39:09
ご無沙汰しています。

個人でできる活動はこういったことでしょう。がんばってやっていきましょう。
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今日の新聞記事 (zippy)
2013-02-25 16:51:55
こんにちは
毎日新聞に「捏造医師に罰則を」という記事がありました
問題点や要望書の内容は、世界変動展望 著者様がかねてより主張されていた内容にかなり近いものがあると思いました。
著者様の声が届いたのでしょうか
もっと、声が大きくなると良いですね

http://mainichi.jp/select/news/20130225k0000m040096000c.html

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回答 (世界変動展望 著者)
2013-02-25 22:11:19
その記事を拝見しました。執筆者の久野華代記者の記事は昨年6月のF医師捏造事件関係で読んだことがあります。

その当時私のブログで紹介したことがあるのですが、私の主張にいくつか重なる部分があり、ひょっとして私のブログの影響を受けているのでは?と冗談で文章を書いたことがあります。勿論、それはうぬぼれで全然影響は与えていないと思いますが、私の主張と全国紙の主張が一致するのは、それだけ自分の分析や主張が客観的だったということで、嬉しく思います。

詳しくは明日付けの記事で紹介します。
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