『愛知県知事、公立高入試改革で見解
愛知県の大村秀章知事は21日の定例会見で、現行の志望校2校を選ぶ公立高校の入試制度「複合選抜制度」には課題が多いと指摘した上で、
見直しを含めた協議を始める意向を示した。県の教育のあり方を議論するため29日に発足する教育懇談会で議論を進める。
懇談会は、共立総合研究所の江口忍副社長や大学教授ら6人で構成。年度内に4~6回ほどの会合を開いて県の教育制度の現状や課題を協議し、問題点や対応策を知事に示す。
1989年度に導入された複合選抜制度は、中学生が志望校を2校選んで受験する。知事は会見で「『高校間の格差、序列ができた』という不満も聞き、複雑で人為的なシステムだ」と述べた。
さらに「内申点を取らないと志望校に行けず、物言わぬ中学生が出てしまう」と内申点制度にも疑問を呈した。ただ「多くの人に影響するので、すぐに変えられるものではない」として議論を深める意向を示した。
知事はこれまでも、選挙で選ばれた首長が教育の方向性を決めるべきだと主張しており、昨年12月には、橋下徹大阪市長から「教育改革」でも連携を図ろうと打診されている。 [1]』
ついに愛知県の複合選抜方式も改革されるようだ。複合選抜方式というのは簡単にいうと試験を2回やって2校受験できる制度、詳しくは[3]を見てほしい。この制度は愛知県だけで実施されている。この制度は公立高校を2校受験できる点がよいとされてきたが、高校間格差などの問題を生み出し、問題が指摘されてきた。
しかし、学校間格差や制度が複雑で入試事務が手間なことは制度開始前からわかっていたと思う。何を今更そんなことをいっているのだろうと少し思う。学校群制度([5])による公立高校、特に名門進学校の進学実績改善を目的([6])として複合選抜にしたのだから、学校間格差が広がることは導入前からわかっていた。入試を2回やれば制度が複雑で手間がかかることは必然だし当然わかっていた。何を今更と思う理由はこのことによる。愛知県は学力平均化がまずいので複合選抜にしたのにまた学力平均化の制度にするのか。制度運営が矛盾している。
学校群制度の時代に困っていたのが成績上位者ならば、複合選抜方式で困っているのは成績中位者、特に下位者やその学校の運営者たちだ。学校間格差のせいで中位、下位校の学力レベルはさらに下がり、多くの教育困難校を作ることになった。せっかく2校受験できるチャンスがあっても、不本意進学をしたくない等の理由で1校に受験校をしぼる現象が発生したり、下位校では中退者が多く出た[3]。そういう制度を改善したいというのが今回の複合選抜方式の見直し理由の一つだろう。新しい制度にするにせよ、成績上位者がまた苦情をいう制度にならなければいいと思う。
また驚くべきは、管理教育が盛んな愛知県が生徒を統制するための伝家の宝刀として使ってきた内申点の取り扱いを見直すことを大村知事が述べたことだ。「内申点を取らないと志望校に行けず、物言わぬ中学生が出てしまう」と大村知事は述べている。この問題に関してはかつて[2]で詳しく述べた。この記事はいろいろなところで議論され、特に愛知県の中学生やその保護者たちに愛知県の内申点制度の問題点として少なからず認知された。「内申で生徒をコントロールするのは間違いだ。」「内申制度で無個性な人間になるように人格形成される」「子供の頃から教師にゴマをすることを覚えさせる教育は間違っている」などいろいろ意見が出ている。
一部は反対した人がいただろうが、[2]の記事はネットで見る限り多くの中学生や保護者に賛同されたようだ。内申点に関する議論では[2]が基礎的な情報や見解として紹介され、議論に影響を与えているようで嬉しい。今回の内申点制度見直しを大村知事が言及した背景には愛知県の中学生やその保護者たちの内申点制度に対する不満や批判が数多くあったからに違いない。さらにその背景にあったのは[2]の記事などが愛知県の内申点制度の問題を彼らに投げかけ、彼らの多くから賛同を得たからだろう。こうやって記事を書いて多くの人が賛同し、制度が変っていくのを見ると、記事を書いて本当によかったと思う。私の記事がそこまで影響を与えたというのは大げさな見方だろうが。
ネットでは内申点をちらつかせて教師がいじめをする生徒を押さえつけ、いじめが起きない利益を生徒に与えられるので、内申制度は良いといった意見を述べた人もいたが、そういう使い方は間違ってると思う。[2]で述べたように内申点制度を改善する必要があると思う。
いずれにせよ愛知県の公立高入試制度や内申点制度は近いうちに変るようだ。大村知事の在任期間である2015年2月までには方針をまとめるつもりらしい。どうなるか注目している。
参考
[1]中日新聞web 2012.5.21
[2]世界変動展望 著者:"高校入試における内申点の取り扱いについて" 世界変動展望 2009.3.20
[3]「複合選抜入試」リーフレット
[4]複合選抜方式の狙い
[5]学校群制度:学校群単位で受験し、特定の高校を指定できなかった制度。人気校への一極集中を避け、受験競争の過熱防止、高校間の学力平均化を目的として1973年3月に導入。しかし、公立高校の進学実績が低迷したことなどから1988年3月で廃止。
[6]複合選抜方式の名目上の目的は
受験機会の複数化
学校選択の自由度の拡大
推薦入試の導入による学校選択尺度の多元化
というもの[4]。しかし、これは名目にすぎず、本当の目的は学校群制度で下がった公立高校、特に名門進学校の進学実績を改善すること。