世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

白紙・STAP論文:/3 「ヒロイン」膨らむ虚像 紹介教授の権威を支えに

2013-02-28 23:35:15 | 社会

毎日新聞 2014年07月05日 東京朝刊

 「ハルコの貢献は並外れたものだった」

 米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授がSTAP細胞論文の主要な共著者に宛てたメールがある。 日付は、英科学誌ネイチャーに論文が掲載される10日前の今年1月20日。論文発表にこぎつけた経緯と共に、愛弟子の小保方(おぼかた)晴子・理化学研究 所研究ユニットリーダーへの賛辞が書かれていた。

 バカンティ氏だけではない。小保方氏が師事した日本を代表する研究者たちも、小保方氏をこぞって「ヒロイン」に押し上げた。

 2008年のある夜、東京・四谷の天ぷら店に、ハーバード大の小島宏司准教授を囲む輪があった。小島氏 はバカンティ研究室を支える日本人医師。当時、早稲田大大学院生だった小保方氏は東京女子医大の看板教授、大和雅之氏の下で再生医療の研究を始めていた。 一時帰国した小島氏との会食に旧知の大和氏が小保方氏らを誘い、日本酒をくみ交わした。小保方氏は小島氏に「ハーバード大を見学したい」と伝え、留学が決 まった。

 小保方氏はその年に渡米すると、STAP細胞研究の源流となる実験を任された。渡米直後、最新研究の取りまとめを指示された際、「1週間で200本もの論文を読み込んで発表した」との逸話が残るなど、注目の学生となった。

 細胞の多能性を証明するマウス実験が必要になると、理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)の若 山照彦氏(現・山梨大教授)の門をたたいた。若山氏も小島、大和両氏と知り合い。大和氏が「偶然に次ぐ偶然」と話す縁がつながり、小保方氏は、神戸ポート ピアホテル(神戸市)にハーバード大の負担で1年近く滞在しながら研究を進めたという。その間に、STAP細胞由来の細胞が全身に散らばる「キメラマウ ス」の作製など、論文のための「データ」を蓄積していった。

 小保方氏にかかわった研究者たちは論文発表当時、「努力家」「怖いもの知らず」「プレゼンテーション上 手」と小保方氏の研究者としての資質を褒めた。今となっては自他ともに認める「未熟な研究者」だが、ベテラン研究者たちが研究のイロハを十分に指導した気 配はない。実態は、紹介元の権威や信頼関係を担保に、国内外の研究室を渡り歩いて膨らんだ評価だったといえる。

 今年1月の論文発表直前、緊張した面持ちの小保方氏が理研本部で野依良治理事長に会っていた。野依氏は 「彼女を守れ」と周囲に指示した。その場にいた理研幹部は「iPS細胞(人工多能性幹細胞)のような巨額予算がつき、プレッシャーがかかることを心配した ようだ」と振り返る。理研側も「ヒロイン」に大きな期待を寄せた。

 理研のある研究者は言う。「大学院時代の教育でその後の研究人生が決まる。その意味で小保方氏は不幸だったかもしれない。未熟さを見破れなかった指導者たちの責任は重い」=つづく