2006年5月に施行された会社法により、M&Aの選択肢が広がりました。
特に「対価の柔軟化」(2007年5月から施行)が認められたことにより、いわゆる三角合併も可能になりました。
旧商法において合併等の対価は、「株式」に限定されてきました。合併比率の調整のためにのみ「金銭による交付」が認められていたに過ぎませんでした。
売り手企業の株主にとって 上場企業の株式を合併の対価として得るのであれば、換金性に優れているため問題はありません。
しかしながら、買い手企業が非上場企業の場合は、対価として支払われる株式が、株式市場で流通できないものであり、換金性の意味で問題があることから合併は敬遠される傾向にありました。
また、買い手企業にとっても対価として新株を発行することは、第三者割当増資することと同じ意味であり、自社の持ち株比率に影響を及ぼすことから資本政策上も問題がありました。
しかし、「対価の柔軟化」として、対価が株式に限定されず金銭、社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他の財産(親会社の株式など)を用いることが可能になったことで、前述した問題は解消されました。
ここで、「親会社の株式」を対価として利用する場合、いわゆる「三角合併」となります。
つまり、「三角合併」とは、買い手企業が子会社を用意し、その子会社が売り手企業の株主に対し親会社である買い手企業の株式を交付することにより吸収合併するスキームです。
売り手企業は消滅しますが、売り手企業の株主は買い手企業の株主となることになります。買い手企業が、上場会社の持ち株会社であれば、売り手の株主にとっても換金性のある株式が交付されると共に買い手企業も子会社の持ち株比率を維持できます。
三角合併によって海外の企業が日本の企業を買収しやすくなり、そのために日本国内企業が海外の企業にますます侵食されていくだろうということはよく耳にする話だと思いますが、この三角合併は海外の企業のみに有利に働くだけでなく、国内企業にとっても様々な点でメリットが生じます。
上場企業にとっては、戦略的に業界再編や多角化を行う場合、有望な非上場企業をグループとして吸収するために三角合併を用いるケースが考えられます。
単体の上場企業が直接様々な企業再編スキームを用いて有望な非上場企業を取り込むことは、事業上のリスクを伴います。
しかし、持ち株会社を中心として、グループ内子会社を用いて合併することは、上場会社本体への直接的な影響を回避することができるため、M&Aがさらに行いやすくなります。
また、M&Aの活発化は、売り手の非上場会社側にとっても、事業承継対策の一つの方法として大きなメリットとなります。
また売り手企業の株主は換金性の高い上場企業の株式を入手できるため、相続税対策にもなります。オーナー企業の相続で問題になるのは、資産の大半が換金性のない自社株式であることだからです。
また、一般的な相続税対策は、自社株式の評価額を下げることが目的で、そのためには自社の企業価値を低くする対策がとられます。このようなことは、本来の企業経営からすれば、逆行するものです。
しかしながら、三角合併により上場企業に自社を売却する場合は、全く逆に企業価値の増加を考えればよいのです。つまり、適切な企業経営を行うほど相続対策上も良い結果が得られるのです。
つまり、企業価値が大きい良い企業ほど、買い手である上場企業にもメリットがあり、また、売り手企業にとって、割り当てられる株式は売り手の企業の価値に基づいて算定されるため、創業者メリットも大きくなるのです。
会社法の施行により事業承継の考え方やスキームも多様化し、今までの相続税対策のような発想のみでは対応できない点が増えてきていることに注意する必要があります。
なお、法人税法上は、三角合併は非適格と判断されるため、時価評価による譲渡損益が発生するという不都合がありましたが、平成19年度の税法改正によって、この点の問題は解消されることとなりました。
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