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行政財産の目的外使用許可の審査基準設定公表を怠った行政手続法違反(手続的瑕疵)故の処分取消

2012-04-30 15:12:15 | シチズンシップ教育
 Xさんは、那覇市の土地を、目的外使用することの許可を受けた形で長年使用してきました。

 ところが、Xさんは、ある意味、行政の都合に振り回され、結局、本来の目的のために使うからとして(今回の場合は、「当管理組合が貴社に対して、地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は、本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが、今般、当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い、当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが侵入する道路として、本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」として)、目的外使用の土地から追い出されようとしましたが、目的外使用許可の審査基準設定公表を怠った行政側の手続の瑕疵があり、結局、追い出されずに済みました。(処分の取消)。

 行政手続は、厳格に運用して行かねばならないという一例と思います。

 余談ですが、中央区で区道の目的外使用をして、「月島の渡しの碑」を建てていました。それを本来の道路の目的で使用するという話があったことを思い出します。


【事件の概要】港湾施設使用不許可処分取消請求事件 那覇地方裁判所判決/平成19年(行ウ)第14号(判決日付 平成20年3月11日)

Xは、冷凍農畜産物及び冷凍食品の保管業等を目的とする株式会社

Yは、地方自治法284条2項、港湾法33条に基づき、沖縄県、那覇市及び浦添市により港湾管理者として設けられた一部時事務組合。

1)Xは、昭和27年に那覇市○○(旧本店所在地)において、冷凍倉庫業等を営んでいたところ、施設の老朽化に伴い、新たな冷凍倉庫を建築する計画をしていた。
 ところが、那覇市は、昭和31年には同所付近において道路計画を策定していたため、Xは同所において新たな施設を建設することができなかった。

2)Xは、昭和61年、新たに冷凍倉庫を建築するための土地(別件土地)を選定確保し、設計料2000万円を支出して設計を完了し、同土地への移転計画の準備を進めた。
 他方、那覇市は、区画整理事業に伴い、事業施行地区内に社屋を有していたB会社との間で、この別件土地を同社移転先とする移転交渉を行っていた。
 そこで、那覇市は、Xに対し、別件土地を譲渡するよう要請し、Xは、別件土地への移転を断念し、指導に従って別件土地を譲渡した。那覇市とXとの間ではXの移転先について具体的な候補地をあげて交渉を行ったが、結局合意に達しなかった。

3)その後、那覇市は、昭和63年、Xに対し、Xの現在の本店所在地の土地を賃貸し、Xは同所に移転した。
 同時に、Xは、昭和63年から平成18年3月31日までの間、現本店所在地に隣接する那覇市の所有する行政財産(港湾施設)である本件土地を目的外使用の許可を得て、使用してきた。使用許可を得た土地は埋め立て予定地である。しかし、本店所在地の狭小を補うために相当期間かかるため、Xは埋め立て工事が完了して道路として使用するまでは、使用を認める条件付き使用許可と解し、本件土地上に機材置き場を建設し、地下に電源チャージ用の設備を埋設し土地上にアスファルトを敷いたが、那覇市は事実上黙認してきた。


4)この間、那覇市は、沖縄県及び浦添市とともに、Yを設け、Yは、那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した。


5)Xは、平成18年2月15日ころ、管理者に対し、本件土地について、同年4月1日以降の目的外使用(継続使用)の許可申請をしたところ、管理者は、同年3月22日ころ、Xに対し、平成18年4月1日から本件土地を本来の使用目的である公共用道路として使用するので、同年3月31日までに原状回復して引き渡すよう通知した。さらに管理者は、平成18年3月27日頃書面で、Xに対し、上記申請を不許可とする処分(「18年処分」)をした。この書面には、Xの前記申請について、「不許可とする。」とするのみで、不許可とする理由についても、行政事件訴訟法46条所定の手続教示もまったく記載されていなかった。

6)Xは、那覇地方裁判所に対し、平成18年9月5日、18年処分の取消しを求める訴えを提起したところ、那覇地方裁判所は、平成19年2月27日、平成18年不許可処分についても行政手続法8条等に違反することは明らかであるとして、18年処分を取り消す旨の判決を言い渡した。そして同判決は平成19年3月14日に確定した。

7)Xは、管理者に対し、平成19年3月5日ころ、あらためて本件土地につき港湾施設の使用許可申請(本件申請)を行った。

8)管理者は、Xに対し、3月8日付けで本件申請を不許可とする処分(本件処分)を行い、同月9日、Xに対し、本件申請を不許可とする旨及び行政事件訴訟法46条所定の手続教示を記載した「A組合港湾施設使用許可申請について(通知)」と題する書面を送付し、同書面は同月12日にXに到達した。同書面中には、処分理由として、「当管理組合が貴社に対して、地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は、本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが、今般、当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い、当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが侵入する道路として、本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」と記載されていた。
 また、管理者は、同年3月8日ころ、Xに対し、同月31日までに本件土地を原状回復した上でYに返還するよう求める旨の通知を再度行い、同通知は同月12日、Xに到達した。

9)Xは、本件処分後、Yが本件土地の賃料(月額10万1709円)の受領を拒否することが明らかであるとして、平成19年4月から平成19年7月分までの賃料を供託した。

【争点】
1、行政手続法の適用があるかの判断の仕方

2、行政手続法5条の趣旨は何か。
 裁量処分である行政財産の目的外使用許可の審査基準を設定していないことが、行政法5条違反になるか。名宛人でなく第三者が原告である場合でも、原告の保護法益と言えるか。

3、手続法5条違反は処分の取消自由となる「重大な瑕疵」といえるか。

4、手続法5条違反の瑕疵があるとき、紛争の解決のためには実体的な裁量の逸脱濫用審査もすべきか。(その場合、基準に反していれば裁量の逸脱濫用になるか、合致していれば逸脱濫用はないのか)

Xの主張:手続違反:審査基準を制定・公表していない。特段の事情はなく、処分の取消事由になる。
 裁量の逸脱濫用:那覇市との合意を組合も尊重すべき。道路使用は理由にならない。重大な損害を受ける。

Yの主張:手続違反はない:設定しないことも許される。5条違反が直ちに処分の取消自由にはならない。
 裁量の逸脱はない:同意していない。代替地として提供した事実はない。道路の必要が増大した。

【Xの訴訟選択】
処分取消 訴訟

【参照法令】
  (1) 地方自治法
   ア (公有財産の範囲及び分類)
    第238条 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(略)をいう。
     一 不動産
     (中略)
    3 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
    4 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。

   イ (行政財産の管理及び処分)
    第238条の4 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
     (中略)
    7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる
     (中略)
    9 第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。

   ウ (組合の種類及び設置)
    第284条 地方公共団体の組合は,一部事務組合,広域連合,全部事務組合及び役場事務組合とする。
    2 普通地方公共団体及び特別区は,(中略)その事務の一部を共同処理するため,その協議により規約を定め,都道府県の加入するものにあつては総務大臣,その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て,一部事務組合を設けることができる。(後略)

   エ (普通地方公共団体に関する規定の準用)
    第292条 地方公共団体の組合については,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,都道府県の加入するものにあつては都道府県に関する規定,市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあつては市に関する規定,その他のものにあつては町村に関する規定を準用する。

  (2) 港湾法
   ア (定義)
    第2条 この法律で「港湾管理者」とは,第2章第1節の規定により設立された港務局又は第33条の規定による地方公共団体をいう。
     (中略)
    5 この法律で「港湾施設」とは,港湾区域及び臨港地区内における第1号から第11号までに掲げる施設並びに港湾の利用又は管理に必要な第12号から第14号までに掲げる施設をいう。
     (中略)
     四 臨港交通施設 道路,駐車場,橋梁(りよう),鉄道,軌道,運河及びヘリポ―ト
      (中略)
    十一 港湾施設用地 前各号の施設の敷地
     (後略)

   イ (業務)
    第12条 港務局は,次の業務を行う。
     (中略)
    5 港務局は,国土交通省令で定めるところにより,その管理する港湾施設の概要を公示しなければならない。

   ウ (港湾管理者としての地方公共団体の決定等)
    第33条 関係地方公共団体は,港務局を設立しない港湾について,単独で港湾管理者となり,又は港湾管理者として地方自治法第284条第2項若しくは第3項の地方公共団体を設立することができる。
     (後略)

   エ (業務)
    第34条 港湾管理者としての地方公共団体の業務に関しては,第12条(中略)の規定を準用する。

  (3) 那覇港管理組合港湾施設管理条例(以下「本件管理条例」という。)
   ア (定義)
    第2条 この条例において「港湾施設」とは,港湾法(略)第12条第5項の規定に基づき公示された施設をいう。

   イ (使用許可)
    第3条 港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
    2 管理者は,前項の規定に基づいて許可をする場合には,条件を付することができる。
    (後略)

   ウ (目的外使用)
    第16条 港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる
    2 前項の使用期間は,1年以内とする。(後略)

  (4) 那覇港管理組合港湾施設管理条例施行規則
   ア (使用許可の手続)
    第2条 条例第3条第1項の規定により港湾施設の使用の許可を受けようとする者は,許可申請書を管理者に提出しなければならない。
    (後略)

   イ (継続使用)
    第4条 港湾施設を(中略)目的外使用している者が,許可期間満了後も引き続き使用しようとする場合には,当該期間満了15日前までに許可申請書を管理者に提出しなければならない。

○行政手続法
(審査基準)
第五条  行政庁は、審査基準を定めるものとする。
2  行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
3  行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。

(理由の提示)
第八条  行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2  前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。



【本判決】
第三
(2)行政財産の目的外使用許可の性質上、基準の設定公表の必要性は高い。

(3)目的外使用許可の審査基準の性質を考慮しても、設定公表を懈怠の正当事由とならない。

(4)行政手続法5条の趣旨
  8条理由の提示の趣旨
  →5条違反は、処分の取消事由になる。

**********判決全文***********

 主   文

 1 A組合管理者が原告に対し平成19年3月8日付けでしたA組合港湾施設の使用不許可処分を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
   主文と同旨

第2 事案の概要
   原告は,行政財産(港湾施設)である別紙物件目録1の各土地(以下「本件土地」という。)について,昭和63年に目的外使用の許可を受け,以後,これを継続して使用してきたが,平成19年3月に使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ,被告の管理者(以下「管理者」という。)は,同月8日付けでこれを不許可とする処分(以下「本件処分」という。)をした。
   本件は,原告が本件処分は行政手続法5条に反し違法であるなどとしてその取消しを求める事案である。
 1 本件に関わる各種規定
  (1) 地方自治法
   ア (公有財産の範囲及び分類)
    第238条 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(略)をいう。
     一 不動産
     (中略)
    3 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
    4 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。
   イ (行政財産の管理及び処分)
    第238条の4 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
     (中略)
    7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
     (中略)
    9 第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。
   ウ (組合の種類及び設置)
    第284条 地方公共団体の組合は,一部事務組合,広域連合,全部事務組合及び役場事務組合とする。
    2 普通地方公共団体及び特別区は,(中略)その事務の一部を共同処理するため,その協議により規約を定め,都道府県の加入するものにあつては総務大臣,その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て,一部事務組合を設けることができる。(後略)
   エ (普通地方公共団体に関する規定の準用)
    第292条 地方公共団体の組合については,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,都道府県の加入するものにあつては都道府県に関する規定,市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあつては市に関する規定,その他のものにあつては町村に関する規定を準用する。
  (2) 港湾法
   ア (定義)
    第2条 この法律で「港湾管理者」とは,第2章第1節の規定により設立された港務局又は第33条の規定による地方公共団体をいう。
     (中略)
    5 この法律で「港湾施設」とは,港湾区域及び臨港地区内における第1号から第11号までに掲げる施設並びに港湾の利用又は管理に必要な第12号から第14号までに掲げる施設をいう。
     (中略)
     四 臨港交通施設 道路,駐車場,橋梁(りよう),鉄道,軌道,運河及びヘリポ―ト
      (中略)
    十一 港湾施設用地 前各号の施設の敷地
     (後略)
   イ (業務)
    第12条 港務局は,次の業務を行う。
     (中略)
    5 港務局は,国土交通省令で定めるところにより,その管理する港湾施設の概要を公示しなければならない。
   ウ (港湾管理者としての地方公共団体の決定等)
    第33条 関係地方公共団体は,港務局を設立しない港湾について,単独で港湾管理者となり,又は港湾管理者として地方自治法第284条第2項若しくは第3項の地方公共団体を設立することができる。
     (後略)
   エ (業務)
    第34条 港湾管理者としての地方公共団体の業務に関しては,第12条(中略)の規定を準用する。
  (3) 那覇港管理組合港湾施設管理条例(以下「本件管理条例」という。)
   ア (定義)
    第2条 この条例において「港湾施設」とは,港湾法(略)第12条第5項の規定に基づき公示された施設をいう。
   イ (使用許可)
    第3条 港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
    2 管理者は,前項の規定に基づいて許可をする場合には,条件を付することができる。
    (後略)
   ウ (目的外使用)
    第16条 港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。
    2 前項の使用期間は,1年以内とする。(後略)
  (4) 那覇港管理組合港湾施設管理条例施行規則
   ア (使用許可の手続)
    第2条 条例第3条第1項の規定により港湾施設の使用の許可を受けようとする者は,許可申請書を管理者に提出しなければならない。
    (後略)
   イ (継続使用)
    第4条 港湾施設を(中略)目的外使用している者が,許可期間満了後も引き続き使用しようとする場合には,当該期間満了15日前までに許可申請書を管理者に提出しなければならない。
 2 争いのない事実等(証拠を挙げていない事実は,当事者間に争いがない。)
  (1) 当事者
   ア 原告は,冷凍農畜水産物及び冷凍食品の保管業等を目的とする株式会社である。
   イ 被告は,地方自治法284条2項,港湾法33条に基づき,沖縄県,那覇市及び浦添市により港湾管理者として設けられた一部事務組合である。
  (2) 事実経過
   ア 原告は,昭和27年に那覇市α×番37号(以下「旧本店所在地」という。)において,冷凍倉庫業等を営んでいたところ,施設の老朽化に伴い,新たな冷凍倉庫を建築することを計画していた。
     ところが,那覇市が同所付近において道路計画を策定していたため,原告は同所において新たな施設を建設することができなかった。
   イ 原告は,昭和61年,新たに冷凍倉庫を建築するための土地(以下「別件土地」という。)を選定し,同土地への移転の準備を進めた。
     他方,那覇市は,同市β地区の区画整理事業に伴い,同地区内に社屋を有していたB株式会社(以下「B」という。)との間で,別件土地を同社の移転先とする移転交渉を行っていた。
     原告と那覇市は,原告の移転先についても交渉を行ったが,結局,原告は,別件土地への移転を断念した(その理由については争いがある。)。
   ウ その後,那覇市は,昭和63年,原告に対し,原告の現在の本店所在地(以下「現本店所在地」という。)の土地を賃貸し,原告は同所に移転した。
     また,原告は,昭和63年から平成18年3月31日までの間,現本店所在地に隣接する那覇市の所有する行政財産(港湾施設)である本件土地を目的外使用の許可を得て使用してきた。
     なお,本件土地の所在地は,当初別紙物件目録2のとおりであったが,その後,別紙物件目録1のとおり変更された。
   エ この間,那覇市は,沖縄県及び浦添市とともに,被告を設け,被告は,那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した(弁論の全趣旨)。
   オ 原告は,平成18年2月15日ころ,管理者に対し,本件土地について,同年4月1日以降の目的外使用(継続使用)の許可申請をしたところ,管理者は,同年3月22日ころ,原告に対し,平成18年4月1日から本件土地を本来の使用目的である公共用道路として使用するので,同年3月31日までに原状回復して引き渡すよう通知した。さらに管理者は,同月27日ころ,書面で,原告に対し,上記申請を不許可とする処分(以下「18年処分」という。)をした。この書面には,原告の前記申請について,「不許可とする。」とするのみで,不許可とする理由についても,行政事件訴訟法46条所定の手続教示もまったく記載されていなかった。
   カ(ア) 原告は,那覇地方裁判所に対し,平成18年9月5日,18年処分の取消しを求める訴えを提起した(甲5)。
    (イ) 那覇地方裁判所は,平成19年2月27日,18年処分は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するとした上で,沖縄県が加入した一部事務組合である被告にも地方自治法292条により都道府県に関する規定が準用され,18年処分についても行政手続法8条等の適用があるところ,18年処分においてはその理由がまったく提示されておらず,18年処分が行政手続法8条等に違反することは明らかであるとして,18年処分を取り消す旨の判決を言い渡した(甲6)。そして,同判決は平成19年3月14日に確定した(甲7)。
   キ 原告は,管理者に対し,平成19年3月5日ころ,本件土地につき港湾施設の使用許可申請(本件申請)を行った(甲1)。
   ク 管理者は,原告に対し,同月8日付けで本件申請を不許可とする処分(本件処分)を行った。
     そして,管理者は,同月9日,原告に対し,本件申請を不許可とする旨及び行政事件訴訟法46条所定の手続教示を記載した「A組合港湾施設使用許可申請について(通知)」と題する書面を送付し,同書面は同月12日に原告に到達したが,同書面中には,処分の理由として,「当管理組合が貴社に対して,地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は,本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが,今般,当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い,当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが進入する道路として,本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」と記載されていた(甲1)。
     また,管理者は,同年3月8日ころ,原告に対し,同月31日までに本件土地を原状回復した上で被告に返還するよう求める旨の通知を再度行い,同通知は同月12日,原告に到達した(甲2)。
   シ 原告は,本件処分後,被告が本件土地の賃料(月額10万1709円)の受領を拒否することが明らかであるとして,平成19年4月分から平成19年7月分までの賃料を供託した(甲3の1ないし4)。

 3 争点及び争点に関する当事者双方の主張
  (1) 争点1(本件処分は,行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法かなど)について
   (原告の主張)
    本件処分には行政手続法が適用されるところ,管理者は,本件処分当時,行政財産である港湾施設の使用許可又は不許可(以下「使用許可等」という。)について審査基準を設けておらず,その公表もしていなかったから,本件処分は行政手続法5条に違反する。このように,行政手続法の規定する重要な手続を履践しないで行われた行政処分は,当該申請が不適法なものであることが一見して明白であるなどの特段の事情ある場合を除き,行政手続法に違反する違法な処分として,当然に取り消されるべきである。

   (被告の主張)
    否認又は争う。
    被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について審査基準を定めていなかったことは認める。
    しかし,当該許認可等の性質に照らし,法令の定めのみによって判断することができる場合には,別に審査基準を定めることを要しないところ,行政財産の目的外使用の許可のように行政庁に広範な裁量が認められており,その判断基準が,個々の事案に応じた適切な判断ができる程度に法令により定められているときには,別に審査基準を設定することを要しない。
    すなわち,当該行政財産(本件土地)についての目的外使用が本来の使用目的を害しないか否か,換言すれば,道路として将来使用する目的を妨げることになるか否かの判断は,被告の広い裁量に委ねられており,申請者にとっても,本件土地が将来道路として使用されることが妨げられるか否かを予見することは容易である。そうすると,本件土地に係る目的外使用の許可処分の性質上,地方自治法238条の4第7項の定めがあるのみであっても,判断基準としては十分であって,別に審査基準を設定する必要はない。したがって,地方自治法238条の4第7項の基準に基づいてされた本件処分は行政手続法5条1項及び2項に反しない。
    なお,地方自治法238条の4第7項は当然,一般国民に対して公開されているものである。
    仮に,本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできない。

  (2) 争点2(本件処分は,管理者の裁量権の濫用,逸脱があることにより違法か)
   (原告の主張)
   ア 次のイないしエの各事情にかんがみると,本件処分には裁量権の逸脱,濫用があり,違法であるので,取り消されるべきである。

   イ 原告は,旧本店所在地において使用していた施設の老朽化に伴い,同所に新たに冷凍倉庫を建築することを計画していたが,那覇市が昭和31年に道路計画を策定していたため,同所における新たな施設の建設を断念した。原告は,昭和61年,新たな冷凍倉庫を建築するために別件土地を確保し,設計料等に2000万円を支出して同所における新たな冷凍倉庫の設計を完了し,建築許可を得て,同所への移転の準備を進めた。
     しかし,那覇市は,争いのない事実等(2)イのとおり,Bとの間で,別件土地を区画整理事業における同社の移転先とする交渉を行っており,原告に対し,別件土地を譲渡するよう要請した。そこで,原告は,那覇市の指導に従い,同土地を上記会社に譲渡したので,原告が出捐した上記2000万円は,すべて無駄になった。
     原告は,昭和63年,那覇市から,別件土地の代替地として,現本店所在地を提示された。これに対し,原告は,同土地が狭小であったことから難色を示したところ,那覇市は,現本店所在地に隣接する西側海面が埋立予定地であるが,埋立ては相当な期間完了せず,それまでは道路として使用できないので,埋立工事が完了するまでは本件土地の使用を認めると約束して,原告に対し,上記提示を受け入れるよう要請した。原告は,那覇市に対し,埋立完了後直ちに明渡しを求められるのは困る旨述べたが,同市は,隣接する新たな埋立地を代替地として取得すれば良いと回答したので,原告は,那覇市との間で,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件として移転する合意をし,現本店所在地に移転した。そして,原告は,上記条件が履行されることを前提として,本件土地上に機材置場及び従業員用更衣室を建築し,地下に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源設備を埋設し,本件土地上にアスファルトを敷いて本件土地を使用していた。那覇市は,このことを事実上黙認し,原告は,現在まで約18年間,本件土地を保税蔵置場として使用している。
     那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した被告の管理者は,現在も埋立予定地の埋立てはされていないにもかかわらず,本件土地の使用について不許可処分(18年処分及び本件処分)をしたが,これは原告と那覇市との上記合意に反するものである。被告は那覇市から本件土地の管理を移管されたのであるから,被告も当然この合意を遵守すべき立場にある。

   ウ また,本件土地は,西側が海岸に面した行き止まりの土地である上,道路建設予定地にすぎず,埋立工事が完了し又は着工して初めて道路としての機能を有するものである。現在は埋立工事の着工すらされていないから,道路としての機能を有するものではなく,本件土地を道路として使用する必要性はない。

   エ さらに,原告は,現在,本件土地に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源施設を埋設しているため,本件土地には,常時,保税の大型冷凍コンテナが出入りし,冷凍コンテナが不在のときは,荷役資材200ないし300台を保管し,その余のスペースがある場合は営業用の4トントラック,軽自動車等11台の自動車が頻繁に出入りしている。
     仮に,原告が,今後,本件土地を使用することができず,本件土地を原状回復した上,返還しなければならないとすると,本件土地に埋設した物,建物及び資材の撤去費用に限っても多額の費用を必要とするのみならず,本件土地を保税蔵置場として使用できなくなるため,収入が極端に減少するなど,原告の存亡にかかわる重大な損害が生じる。

   (被告の主張)
    否認又は争う。
   ア 那覇市が原告を指導して原告が確保していた移転用地をBに譲渡させ,那覇市が原告に対し代替地を提示し,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件とする合意をしたとの原告の主張は否認する。
     原告は,那覇市がBとの間で区画整理事業に伴う同社の移転先として交渉を進めていた那覇市所有の別件土地について,原告の傍系会社であるD株式会社(以下「D」という。)が同土地を借用している以上,同社から転借すればよいと誤解し,那覇市から土地の使用許可を得ることなく独自に移転準備を進めたものにすぎない。その後,原告,那覇市,D及びBとの間で話し合いを重ね,原告の移転用地については,Bの用地問題が解決した後に処理することとされた。そして,原告は,昭和63年8月,Bの用地問題が解決したので,那覇市に対し移転用地問題の解決を要請し,那覇市は,同年10月,原告に対し,現本店所在地を提供したものであり,那覇市が原告の移転用地を譲渡させた際に代替地として現本店所在地を提供したものではない。

   イ 那覇市は,原告に対し,本件土地を道路として使用する必要性が少なかったから使用許可をしたが,その後,地域に多数の会社が立地し,交通事情が変化し,本件土地の道路としての必要性が増大した。また,本件土地の本来の使用目的は道路であり,道路として使用する必要性が生じた以上,道路として使用するのは当然である。

第3 判断
 1 争点1(本件処分は,行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法かなど)について
  (1) 被告は,沖縄県が加入した一部事務組合であるから,地方自治法292条により,都道府県に関する規定が準用され,被告にも行政手続法が適用される。また,被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について,審査基準を設定していなかったことは当事者間に争いがない。

  (2) 行政手続法5条1項は,「行政庁は,審査基準を定める。」として,行政庁に対し,審査基準,すなわち,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」(行政手続法2条8号ロ)を設定することを義務づけており,同条2項は,「審査基準を定めるに当たっては,当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」としている。また,同条3項は,「行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」として,審査基準の公表を義務づけている。
    以上の行政手続法5条の各規定は,行政庁に対し,できる限り具体的な審査基準の設定とその公表を義務づけ,行政庁に上記審査基準に従った判断を行わせることにより,行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,申請者の予測可能性を保障し,また不服の申立てに便宜を与えることにより,不公正な取扱いがされることを防止する趣旨のものであると解されるから,行政庁が判断の前提となる審査基準の設定とその公表を懈怠して,許認可等をすることは許されないと解するのが相当である。
    とりわけ,行政財産は,「普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産」(地方自治法238条4項)であって,その例外となる目的外使用の許可等については,特定の者に不当な利益を与えたり,又は特定の者が不当な不利益を受けたりすることがないようにするため,行政庁の恣意を排し,不公正な取扱いがされることを防止する必要が高く,審査基準の設定とその公表の必要性は高いというべきである。
    しかるに,上記のとおり,被告は本件処分当時,行政財産(港湾施設)の使用許可等について審査基準を設定しておらず,このため,これを公表することもなかったものであるから,本件処分は行政手続法5条に反するものであり,その取消しを免れないというべきである。

  (3) 被告は,行政財産の目的外使用の許可等については,地方自治法238条の4第7項の定めだけで判断することができ,別に審査基準を設定する必要はない旨主張する。
    しかしながら,上記のとおり,行政手続法5条にいう審査基準とは,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」であって,しかも,当該審査基準は,「当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」(行政手続法5条2項)ものである。そして,地方自治法238条の4第7項は,行政財産の目的外使用について,「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」との抽象的な定めをしているにすぎないのであって,本件管理条例も,「港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。」としているにすぎない。
    したがって,行政庁である管理者は,いかなる審査基準により,港湾施設の使用許可等を決定しているのかを,行政財産の目的外使用の許可等の性質に照らして,できる限り具体的な基準を定めなければならないというべきである。もとより,行政庁が行政財産の目的外使用の許可又は不許可を決定するに当たっては,様々な要素を考慮する必要のある場合も当然想定されるのであって,その性質上,行政庁の裁量を相当程度認める抽象的な基準を設定することにならざるを得ないと考えられるが,このことは,審査基準の設定とその公表を懈怠することを何ら正当化するものではない。
    なお,弁論の全趣旨によれば,沖縄県も,行政財産の目的外使用の許可等について行政手続法5条に定める審査基準を設定していなかったことが認められ,被告が上記審査基準を設定していなかったのも,その影響を受けたためと考えられる。しかしながら,被告の調査結果(乙1)によれば,滋賀県,兵庫県,愛媛県,三重県,大阪市,仙台市及び千葉県のうち,千葉県以外の地方公共団体は,上記審査基準を設定しており,千葉県がこれを設定していないのは,「条例又は規則において判断基準が言い尽くされているので,審査基準の設定が不要であるため」というのであるから,沖縄県が上記審査基準を設定していなかったことをもって,被告がこれを設定しないことが正当化されるということはできない。
    よって,被告の上記主張は採用することができない。

  (4) また,被告は,仮に本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできないと主張する。
    しかしながら,行政手続法5条の趣旨は前記(2)のとおりであるところ,「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」(行政手続法8条)のであって,この理由の提示が同法5条の審査基準の存在を前提とするものであることは明らかである。そして,法令上,理由の提示が必要とされる場合において,理由の提示は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであるから,理由の提示を欠く場合には,処分自体の取消しを免れないと解するのが相当である(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)が,その前提となる審査基準の設定とその公表を欠いてされた処分もまた,同様の趣旨により審査基準の設定とその公表を義務付けた行政手続法5条の規定に反するものであり,処分自体の取消しを免れないというべきである。
    よって,被告の上記主張も採用することはできない。

 2 以上のとおり,原告の請求は,争点2について判断するまでもなく,理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
    那覇地方裁判所民事第2部
        裁判長裁判官  大野和明
           裁判官  田邉 実
           裁判官  小西圭一
コメント
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取消判決や無効確認判決なしでも行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求ができる例。

2012-04-30 02:25:29 | シチズンシップ教育
 行政処分には、公定力があります。
 公定力とは、「特定の機関が特定の手続によって取り消す場合を除き、いっさいのものは、一度なされた行政行為に拘束される。」ということです。

 別のいいかたをすれば、「違法な行政行為も取り消されるまでは原則として有効である。」ということです。

 行政行為は、民法上の法律行為とちがって、それ自体がまず抗告訴訟などの手続によって取り消されて、はじめて、民事裁判を起こすことが可能になり、二重の手間がかかることになるのが、一般的です。

 ところが、以下の行政訴訟では、違法な行政処分を理由として、直接国家賠償ができることを示しています。



【事件の概要】
名古屋市長は、昭和55年度以降、法人Xの所有する倉庫が一般用倉庫に該当する物と評価してその登録価格を決定し、同市港区長は、同62年度から平成13年度まで、これに基づいて、本件倉庫に対する固定資産税及び都市計画税の賦課決定を行った。

Xは、賦課決定通り税額を納付。

ところが、同区長は、平成18年に至って、本件倉庫がより評価額の低い冷凍倉庫等に該当すると評価を改めたうえ、同14年度から18年度までの登録価格を修正した旨をXに通知し、これら各年度に係る固定資産税等の減額更正を行った。

Xは、平成14年度から同17年度までの固定資産税等について、納付済み税額と更正後税額の差額として389万9000円を還付された。

地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。都市計画税の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による。



【参照法令】
地方税法410条1項固定資産税の価格決定:市町村長は、前条第四項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年三月三十一日までに決定しなければならない。

→411条課税台帳登録:市町村長は、前条第一項の規定によつて固定資産の価格等を決定した場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない。

432条1項登録価格の不服申し立て:固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後六十日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後六十日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後六十日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から六十日以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない。

→434条2項審査決定取消訴訟:行政不服審査法第十条 から第十三条 まで、第十四条第一項ただし書、第二項及び第四項並びに第二十一条の規定は、前項の審査の申出の手続について準用する。

17条の5 2項5年経過後は取り消し変更できず過納金還付もできない。: 地方税の課税標準若しくは税額を減少させる更正若しくは賦課決定又は加算金の額を減少させる加算金の決定は、前項の規定にかかわらず、法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日まですることができる。

18条の3還付請求事項5年(固定資産税台帳保存期間は10年。):地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権(以下第二十条の九において「還付金に係る債権」という。)は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する。


【訴訟選択と争点】
昭和62年~平成13年度の過納金を取り戻すにはどのような救済手続によるべきか。


【選択された訴訟】
国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求


【本判決法廷意見】
5(1)・地方税法435条1項の手続審査申出制度は、価格修正手続で国賠責任を否定する根拠にはならない。
・ 金銭納付を直接の目的とした行政処分の場合、結果的に処分を取り消した場合と同様の経済効果が得られることになっても昭和36年判例法理が及ぶ。
・ 他に国賠を否定する根拠規定はない。

宮川光治補足意見
抗告訴訟と国賠請求とは、行政救済のための別個独立の手段。国賠請求は憲法17条を淵源とする制度であるから、法律上根拠なぢに、金銭給付・徴収処分について早期安定を優先させる理由はない。

金築誠志補足意見
1地方税法434条2項の排他的な短期間の前置手続を「登録価格の修正手続」と限定理解し、国賠請求で不服申立手続をとれなかった者を救済するべき。
2(1)職務行為基準説を採ると違法性判断をことにする。
(2)国賠請求では立証責任は原告にある。


【本判決の位置づけ】
課税処分についても最判36年法理(取消判決や無効確認判決を得ていなくても行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求はできる。)が適用される積極説を、最高裁として初めてとった。

【最高(二小)判昭36.4.21】:
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。」



********判決文全文*********
 主   文

 原判決を破棄する。
 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人河内尚明ほかの上告受理申立て理由について
 以下に摘示する地方税法及び固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)の規定ないし定めは,特に断りのない限り現行のものをいう。なお,昭和62年1月1日から平成18年12月31日までの間に施行された地方税法及び評価基準の改正の経緯については,説示に影響しないことから,その記述を省略する。
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を所有し,その固定資産税等を納付してきた上告人が,昭和62年度から平成13年度までの各賦課決定の前提となる価格の決定には本件倉庫の評価を誤った違法があり,上記のような評価の誤りについて過失が認められると主張して,所定の不服申立手続を経ることなく,被上告人を相手に,国家賠償法1条1項に基づき,上記各年度に係る固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償等を求めている事案である。
 2(1) 地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。なお,都市計画税(平成19年法律第4号による改正前の702条2項によれば,その課税標準である土地又は家屋の価格は,当該土地又は家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格である。)の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による(702条の8(平成5年法律第4号による改正前は702条の7)第2項)。
 (2) 市町村長は,原則として,評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないところ(地方税法403条1項,388条1項),評価基準は,木造家屋以外の家屋の損耗の状況による減点補正率を,原則として,非木造家屋経年減点補正率基準表(評価基準別表第13)によって求めるものとしている(第2章第3節五(ただし,平成12年自治省告示第12号による改正前においては同節三))。そして,平成20年総務省告示第680号による改正前の同表の7は,工場,倉庫,発電所,変電所,停車場及び車庫用建物について用途別に区分して経年減点補正率(家屋の構造区分に従い,通常の維持管理を行うものとした場合にその年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎とする減点補正率をいう。)を定めているところ,これを適用すると,一般用の倉庫等は,冷凍倉庫用の建物や塩素その他の著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受ける建物等(以下「冷凍倉庫等」という。)よりも高く評価されることになっている。
 3 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 平成18年度に至るまで,本件倉庫は,一般用の倉庫に該当することを前提にして評価され,昭和62年度から平成13年度までのその価格並びに固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」と総称する。)の税額は,第1審判決別表2の「実際の評価額及び税額」欄記載のとおり決定された(以下,これらの決定を併せて「本件各決定」という。)。上告人は,本件各決定に従って固定資産税等を納付してきた。
 (2) 名古屋市長から固定資産税等の賦課徴収に関し権限の委任を受けていた名古屋市港区長は,平成18年5月26日付けで,上告人に対し,本件倉庫が冷凍倉庫等に該当するとして,平成14年度から同18年度までの登録価格を修正した旨を通知した上,上記各年度に係る本件倉庫の固定資産税等の減額更正をした。その後,上告人は,同14年度から同17年度までの固定資産税等につき,納付済み税額と上記更正後税額との差額として389万9000円を還付された。
 (3) 上告人は,本件訴えの提起に至るまで,本件倉庫の登録価格に関し,固定資産評価審査委員会に対する審査の申出を行ったことはない。
 4 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求を許容することは,当該固定資産に係る価格の決定又はこれを前提とする当該固定資産税等の賦課決定に無効事由がある場合は別として,実質的に,課税処分を取り消すことなく過納金の還付を請求することを認めたのと同一の効果を生じ,課税処分や登録価格の不服申立方法及び期間を制限してその早期確定を図った地方税法の趣旨を潜脱するばかりか,課税処分の公定力をも実質的に否定することになって妥当ではない。そして,評価基準別表第13の7の冷凍倉庫等に係る定めが一義的なものではないことなどに照らすと,本件各決定に無効とすべき程度の瑕疵はない。
 (2) なお,評価事務上の物理的,時間的な制約等を考慮すれば,地方税法408条所定の実地調査は,特段の事情のない限り,外観上固定資産の利用状況等を確認し,変化があった場合にこれを認識する程度のもので足りるところ,本件においてそのような特段の事情があったといえるような事実がうかがわれないことなどからすれば,本件各決定が過失に基づいてされたということもできない。

 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と定めており,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは,当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。前記のとおり,地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。
 原審は,国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額に係る損害賠償請求を許容することは課税処分の公定力を実質的に否定することになり妥当ではないともいうが,行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない(最高裁昭和35年(オ)第248号同36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁参照)。このことは,当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており,その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば,結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。
 そして,他に,違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い。
 したがって,たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。
 (2) また,記録によれば,本件倉庫の設計図に「冷蔵室(-30℃)」との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ,これらの事情に照らすと,原判決が説示するような理由だけでは,本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。

 6 以上と異なる見解の下に,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各決定に際し本件倉庫を一般用の倉庫として評価したことは名古屋市長が上告人に対する職務上の法的義務に違背した結果といえるか否か,仮に違背していたとする場合における上告人の損害額等の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治,同金築誠志の各補足意見がある。

 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
 行政救済制度としては,違法な行政行為の効力を争いその取消し等を求めるものとして行政上の不服申立手続及び抗告訴訟があり,違法な公権力の行使の結果生じた損害をてん補するものとして国家賠償法1条1項による国家賠償請求がある。両者はその目的・要件・効果を異にしており,別個独立の手段として,あいまって行政救済を完全なものとしていると理解することができる。後者は,憲法17条を淵源とする制度であって歴史的意義を有し,被害者を実効的に救済する機能のみならず制裁的機能及び将来の違法行為を抑止するという機能を有している。このように公務員の不法行為について国又は公共団体が損害賠償責任を負うという憲法上の原則及び国家賠償請求が果たすべき機能をも考えると,違法な行政処分により被った損害について国家賠償請求をするに際しては,あらかじめ当該行政処分についての取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないというべきである。この理は,金銭の徴収や給付を目的とする行政処分についても同じであって,これらについてのみ,法律関係を早期に安定させる利益を優先させなければならないという理由はない。原審は,前記のとおり,固定資産税等の賦課決定のような行政処分については,過納金相当額を損害とする国家賠償請求を許容すると,実質的に課税処分の取消訴訟と同一の効果を生じさせることとなって,課税処分等の不服申立方法・期間を制限した趣旨を潜脱することになり,課税処分の公定力をも否定することになる等として,課税処分に無効原因がない場合は,それが適法に取り消されない限り,国家賠償請求をすることは許されないとしている。しかしながら,効果を同じくするのは課税処分が金銭の徴収を目的とする行政処分であるからにすぎず,課税処分の公定力と整合させるために法律上の根拠なくそのように異なった取扱いをすることは,相当でないと思われる。

 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 1 行政処分が違法であることを理由とする取消訴訟と,違法な行政処分により損害を受けたことを理由とする国家賠償訴訟とでは,制度の趣旨・目的を異にし,公定力も処分要件の存否までは及ばないから,一般的には,取消判決を経なければ国家賠償訴訟を提起できないとか,取消訴訟の出訴期間を徒過したときはもはや国家賠償請求はできないなどと解すべき理由はない。しかし,課税処分のように,行政目的が専ら金銭の徴収に係り,その違法を理由とする取消訴訟と国家賠償訴訟の勝訴判決の効果が実質的に変わらない行政処分については,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,不服申立前置の意義が失われるおそれがあるばかりでなく,国家賠償訴訟を提起することができる間は実質的に取消訴訟を提起することができるのと同様になって,取消訴訟の出訴期間を定めた意味がなくなってしまうのではないかという問題点があることは否定できない。
 このうち不服申立前置との関係については,固定資産の価格評価は,法的な側面,経済的な側面,技術的な側面等,専門的判断を要する部分が多く,専門的・中立的機関によって審査するにふさわしい事柄であり,また,大量の同種処分が行われるものであるから,固定資産評価審査委員会の審査に強い効力を与えて,その早期確定を図ることは合理的と考えられ,国家賠償訴訟によって同委員会の審査が潜脱されてしまうのは不当であるように見える。しかし,こうした問題は,取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり,同委員会を特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はないし,固定資産課税台帳に登録された価格の修正を求める手続限りの不服申立前置であっても制度的意義を失うものではないから,不服申立てを経ない国家賠償請求を否定する十分な理由になるとはいえない。特に,賦課課税方式を採用する固定資産税等の場合,申告納税方式と異なり,納税者にとってその税額計算の基礎となる登録価格の評価が過大であるか否かは直ちには判明しない場合も多いと考えられるところ,前記のとおり,審査の申出は比較的短期間の間に行わなければならないものとされているため,上記期間の経過後は国家賠償訴訟による損害の回復も求め得ないというのでは,納税者にとっていささか酷というべきである。本件各決定のように,市町村内の他の家屋の登録価格等を参照することができるような手続(地方税法416条1項)が設けられていなかった時期に賦課されたものに関してはなおさらである。
 2 取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,取消訴訟の出訴期間を延長したのと同様の結果になるかどうかは,取消しと国家賠償との間で,認容される要件に実質的な差異があるかどうかの問題である。
 (1) まず,国家賠償においては,取消しと異なり故意過失が要求され,また,その違法性判断について当裁判所の判例(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等)はいわゆる職務行為基準説を採っているから,この点でも要件に差異があることになる。もっとも,こうした要件上の差異が,実際上どの程度の結果の違いをもたらし得るかについては,見方の分かれるところかもしれない。しかし,取消しが認められても国家賠償は認められない場合があり得るということだけは,間違いなくいい得る。
 (2) 固定資産税の課税物件は膨大な数に上り,その調査資料を長期にわたって保存しておくことが困難な場合もあるのではないかと思われるので,課税処分から長期間が経過しても国家賠償請求ができるとした場合,立証責任の問題は,より重要かもしれない。
 課税処分の取消訴訟においては,原則的に,課税要件を充足する事実を課税主体側で立証する責任があると解すべきであるから,本件固定資産税についても,一般用倉庫として経年減点補正率を適用して評価課税する以上,本件倉庫が冷凍倉庫用のものではなく,一般用のものであることについて,課税主体である被上告人側に立証責任があることになる。これに対し,国家賠償訴訟においては,違法性を積極的に根拠付ける事実については請求者側に立証責任があるから,本件倉庫が一般用のものではなく,冷凍倉庫用のものであることを請求者である上告人側が立証しなければならないと解される。上告人側が同事実を立証することは,損害額を明らかにするためにも必要である。立証責任について,課税処分一般におおむねこうした分配振りになるとすれば,課税処分から長期間が経過した後に国家賠償訴訟が提起されたとしても,課税主体側が立証上困難な立場に置かれるという事態は生じないと思われる。
 3 以上のとおり,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めたとしても,不服申立前置の意義が失われるものではなく,取消訴訟の出訴期間を定めた意義が没却されてしまうという事態にもならないものと考える。

(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
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「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」の憲法学的実践、形式的平等と相対的平等、実質的平等

2012-04-29 02:29:57 | シチズンシップ教育

 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」

 憲法では、ご存知のように、第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
○2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
○3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
 と謳われているところです。

 平等の考え方を整理します。


自然的事実としての不平等が世の中には存在しています。

 能力や資質の差、環境の差、人格の差などです。

 もし、形式的平等のルール(A=B=C=D=E=F=G・・・・)を適用すると、能力のある人、資質のある人、そして、能力や資質をのばすための環境が整備されているひとが、高い成績をあげることができ、結果に大きな差が生じてしまいます。
 行きつく先は、格差社会です。

 今の世の中では、基本は形式的平等のルールです。
 入試、選挙権、運賃、消費税、法律が等しく適用されること、誰でもどんな職業にもつけるということなど。

 形式的平等のルールの長所は、分かりやすい、「公平」らしく見えるという点にあります。
 ただ、背後にある不平等を隠しており、格差を無視しています。

 行きつく先には、例えば、富裕層と貧困層の間の格差が広がり、貧困層が拡大し、貧困層から脱出困難な社会ができあがることにつながります。


 そこで、どうすればよいか。

実質的平等のルールの採用です。
 簡単に言えば、下駄を履かせ、機会を実質的に平等にすることです。

 累進課税を想像すればわかりやすいですが、同じレベルの収入のひとにかかる税率は同じですが、高い収入のひとにかかる税率は、高い税率を課しています。

 実質的平等の極端な例は、結果まで平等にすることです。(結果の平等

 この場合の短所は、「モラル・ハザード」が生じることです。
 がんばっても、がんばらなくても結果は同じですので、がんばる意欲がそがれる状態になります。

 例外のない平等を「絶対的平等」というのであれば、このような平等は、「相対的平等」すなわち「等しいものは等しく、等しくないものは等しくなく扱うべし」といいます。
 そして、このことが、平等原則となっています。


 再度、整理しますと、

形式的平等、ペアの概念として、機会の平等そして絶対的平等があります。

 それに対して、実質的平等、相対的平等が言われ、実質的平等を突き詰め過ぎると結果の平等となります。


 日本国憲法のもと、場面場面で、形式的平等と相対的平等、一部実質的平等が保障されています。

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老齢加算廃止 生活保護変更決定取消請求事件(最高裁合憲判決H24.2.28)行政法学的考察

2012-04-28 22:28:39 | シチズンシップ教育

【事件の概要】
Xらは、都内 生活扶助を受ける70歳以上で、老齢加算金を受けていた。

老齢加算は、高齢者の特別な事情のため、すなわち、高齢者の特別な需要,例えば観劇,雑誌,通信費等の教養費,下衣,毛布,老眼鏡等の被服・身回り品費,炭,湯たんぽ,入浴料等の保健衛生費及び茶,菓子,果物等のし好品費に充てられるものとして積算されていた。

平成15.12.16 厚労省社会保障審議会中間とりまとめ(老齢者に特別の需要はなく廃止の方向。ただし、激変緩和措置が必要)
ア 単身無職の一般低所得高齢者世帯の消費支出額について70歳以上の者と60ないし69歳の者との間で比較すると前者の消費支出額の方が少なく,70歳以上の高齢者について現行の老齢加算に相当するだけの特別な需要があるとは認められないため,老齢加算そのものについては廃止の方向で見直すべきである。
イ ただし,高齢者世帯の社会生活に必要な費用に配慮して,保護基準の体系の中で高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある。
ウ 被保護者世帯の生活水準が急に低下することのないよう,激変緩和の措置を講ずべきである。

生活保護法8条の生活保護基準改定(H16.3.2減額→平成18.3.31廃止)→生活保護法56条により生活保護変更決定

本件改定に基づき,所轄の福祉事務所長らは,Xらに対し,それぞれ老齢加算の減額又は廃止に伴う生活扶助の支給額の減額を内容とする保護変更決定=不利益処分をした(以下,「本件各決定」)。

【参照法令】
憲法25条
社会権規約9.11①
生活保護法 1条、3条、8条、9条、25条、56条

生活保護法
(最低生活)
第三条  この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

(基準及び程度の原則)
第八条  保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2  前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない。


【選択された訴訟】
不利益処分の取消訴訟

【訴訟における行政法上の争点】
*保護基準(厚生省告示)の法的性質
 委任立法説(園部逸夫)←委任規定がない。告示ではなく省令で定めなければならない
 規則説(根拠法規の処分用件を具体化した保護要否判定基準であり支給基準でもある。)

* 保護基準設定の裁量の趣旨は何か。

*保護基準不利益変更の裁量権逸脱濫用の司法審査方法:
 基準自体の合憲性審査→判断過程審査:考慮要素は何か
 適用の合理性審査→適用すれば不合理にならないか


【本判決】
第2 
1(1)不利益変更処分についての規定である法56条は、保護基準自体の改定には適用はない。

(2)特別の需要の存否と保護基準設定内容には高度の専門技術的な考察に基づいた政策的判断が必要である。

<根拠の判例>
【最高裁判例昭57.7.7 堀木訴訟 福祉障害年金と児童扶養手当の併給禁止条項】
憲法二五条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。

(3)裁量判断には、期待利益にも可及的に配慮した激変緩和措置の要否も含まれる。

(4)裁量の逸脱濫用と認められる場合
1)判断過程と手続の過誤欠落がある場合(過程審査)
2)期待利益や生活への影響(判断結果審査)
<判例該当箇所>
これらの経緯等に鑑みると,老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,

1) 当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,

2) 老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,

生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである。


2(1)あてはめ:中間取りまとめの意見は、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性あり、大臣の基準改定判断は、この意見に基づいてされた。→1)判断過程と手続の過誤欠落はない

(2)あてはめ:三年かけて段階的に廃止しており影響は相当程度緩和されている→2)生活に看過し難い影響を及ぼしたとはいえない

(3)結論:改定には裁量の逸脱濫用はない
      個別の不利益変更決定についても違法の事情はない。

【本判決の位置づけ】
判断過程と結果に着目する二重審査方法を採って、老齢加算廃止を内容とする生活保護基準改正に裁量の逸脱濫用はなく、基準を適用した保護変更処分に違法はないとした。

【本判決の検討課題】
*判断過程審査と結果に着目する二重審査という慎重な審査をした点。

*結果への影響を考慮要素とすべきか。

*諮問機関である専門委員会意見は、判断過程審査でどう位置づけられるか。


********判決文 全文*******
 主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

第1 本件の事実関係等の概要
 1 本件は,東京都内に居住して生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けている上告人らが,同法の委任に基づいて厚生労働大臣が定めた「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)の数次の改定により,原則として70歳以上の者を対象とする生活扶助の加算(以下「老齢加算」という。)が段階的に減額されて廃止されたことに基づいて所轄の福祉事務所長らからそれぞれ生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更決定を受けたため,保護基準の上記改定は憲法25条1項,生活保護法3条,8条,9条,56条等に反する違憲,違法なものであるとして,被上告人らを相手に,上記各保護変更決定の取消しを求める事案である。
 2 保護基準のうち,生活扶助に関する基準(以下「生活扶助基準」という。)の定めは,次のとおりである。
  (1) 生活扶助基準(別表第1)は,基準生活費(第1章)と加算(第2章)とに大別されている。居宅で生活する者の基準生活費は,市町村別に1級地-1から3級地-2まで六つに区分して定められる級地(別表第9)及び年齢別に定められる第1類と,級地等及び世帯人員別に定められる第2類とに分けられ,原則として世帯ごとに,当該世帯を構成する個人ごとに算出される第1類の額(以下「第1類費」という。)を合算したものと第2類の額(以下「第2類費」という。)とを合計して算出される。第1類費は,食費,被服費等の個人単位の経費に,第2類費は,光熱水費,家具什器費等の世帯単位の経費にそれぞれ対応するものとされている。なお,上告人らの居住地は,1級地-1又は1級地-2と定められている。
  (2) 平成16年厚生労働省告示第130号により改定される前の保護基準によれば,加算には,妊産婦加算,老齢加算,母子加算,障害者加算等があり,老齢加算に関しては,被保護者(現に生活保護法による保護を受けている者をいう。以下同じ。)のうち70歳以上の者並びに68歳及び69歳の病弱者について一定額が基準生活費に加算されて支給されていた。
    上記保護基準における生活扶助費の月額は,1級地-1又は1級地-2の居宅で生活する70歳以上の者の第1類費が1人当たり3万2400円又は3万1180円,第2類費が単身世帯で4万3520円又は4万1560円であったため,原則として,基準生活費の月額は,単身世帯で7万5920円又は7万2740円であった。また,上記保護基準において,1級地の居宅で生活する者の老齢加算の月額は1万7930円であった。
 3 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
  (1) 老齢加算は,昭和35年4月,70歳以上の者を対象に前年度に開始された老齢福祉年金を収入として認定することに対応して,これと同額を生活扶助に加算するものとして創設された。その際,老齢加算は,高齢者の特別な需要,例えば観劇,雑誌,通信費等の教養費,下衣,毛布,老眼鏡等の被服・身回り品費,炭,湯たんぽ,入浴料等の保健衛生費及び茶,菓子,果物等のし好品費に充てられるものとして積算されていた。
  (2) その後も,老齢加算の額は,老齢福祉年金が増額されるのに伴ってこれと同額が増額されていったが,昭和51年から,1級地における65歳以上の者に係る第1類費基準額の男女平均額の50%とすることとされた。
    厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は,昭和58年12月,加算対象世帯と一般世帯との消費構造を比較検討した結果,高齢者の特別な需要として,加齢に伴う精神的又は身体的な機能の低下に対応する食費,光熱費,保健衛生費,社会的費用,介護関連費等の加算対象経費が認められ,その額は,おおむね現行の老齢加算の額で満たされている旨の意見等を内容とする「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)」(以下「昭和58年意見具申」という。)を発表した。これを踏まえ,昭和59年4月以降,老齢加算の額は,第1類費に対応する品目に係る消費者物価指数の伸び率に準拠して改定されてきた。
  (3) 一般勤労者世帯の消費支出に対する被保護勤労者世帯の消費支出の割合は,昭和45年度には54.6%であったものが,同58年度には66.4%となっており,昭和58年意見具申は,生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達している旨の評価をした。上記割合は,その後はおおむね7割弱で推移していたが,平成13年度には71.9%,同14年度には73.0%に達した。
    このような状況の中で,財務省の審議会である財政制度等審議会の財政制度分科会は,平成15年6月,平成16年度予算編成に関する建議を提出し,その中で,老齢加算について,年金制度改革の議論と一体的に考えると,70歳未満受給者との公平性,高齢者の消費が加齢に伴って減少する傾向等からみて,その廃止に向けた検討が必要である旨の提言をした。同月,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」が閣議決定され,その中で,物価,賃金動向,社会経済情勢の変化,年金制度改革等との関係を踏まえ,老齢加算等の見直しが必要であるとされた。
  (4) 厚生労働省の審議会である社会保障審議会(厚生労働省設置法7条1項に定める厚生労働大臣の諮問機関)は,平成15年7月,その福祉部会内に,生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)を設置した。専門委員会の委員は,社会保障制度や経済学の研究者,社会福祉法人の代表者,地方公共団体の首長等によって構成されていた。
   ア 専門委員会においては,総務庁統計局が平成11年に実施した全国消費実態調査によって得られた調査票を用いて,収入階層別及び年齢階層別に単身世帯の生活扶助相当消費支出額(消費支出額の全体から,生活扶助以外の扶助に該当するもの,被保護世帯は免除されているもの及び家事使用人給料や仕送り金等の最低生活費になじまないものを控除した残額をいう。以下同じ。)等を厚生労働省が集計した結果(以下「特別集計」という。)や低所得者の生活実態に関する調査結果等が説明資料として提示された。特別集計によると,無職単身世帯の生活扶助相当消費支出額を月額で比較した場合,① 平均では,60ないし69歳が11万8209円,70歳以上が10万7664円,② 第-5分位(調査対象者を年間収入額順に5等分した場合に最も収入額の低いグループ。以下同じ。)では,60ないし69歳が7万6761円,70歳以上が6万5843円,③ 第-10分位(調査対象者を年間収入額順に10等分した場合に最も収入額の低いグループ。以下同じ。)では,60ないし69歳が7万9817円,70歳以上が6万2277円となるなど,いずれの収入階層でも70歳以上の者の需要は60ないし69歳の者のそれより少ないことが示されていた(なお,60ないし69歳に係る消費支出額では②が③を上回っていることからすると,生活扶助相当消費支出額において②が③を下回るのは,最低生活費になじまないなどの理由で消費支出額から控除される額が多いためと推察される。)。
     また,特別集計によると,第-5分位の70歳以上の単身無職者の生活扶助相当消費支出額が6万5843円であるのに対し,70歳以上の単身者の生活扶助額(老齢加算を除く。)の平均は,これより高い7万1190円となっていた。
   イ 専門委員会においては,社会情勢の変化を表すものとして,生活扶助基準の改定率,消費者物価指数,賃金等の推移を比較した資料が検討された。それによると,昭和59年度を100%とした場合の平成14年度における割合は,生活扶助基準が135.5%,消費者物価指数が116.5%,賃金が131.2%となっており,同7年度を100%とした場合の同14年度における割合は,生活扶助基準が104.3%,消費者物価指数が99.9%,賃金が98.7%となっていた。また,昭和55年と平成12年とを比較すると,一般勤労者世帯の平均並びに第-10分位及び被保護勤労者世帯の平均のいずれにおいても,消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)は低下していた。
   ウ 専門委員会においては,被保護高齢単身世帯の家計消費の実態を表すものとして,平成11年度における被保護者生活実態調査を基にした月ごとの貯蓄純増(同調査結果にいう「預貯金」と「保険掛金」の合計から「預貯金引出」と「保険取金」の合計を差し引いたもの),平均貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄純増の割合)及び繰越金(月末における世帯の手持金残高)を比較した資料が検討された。それによると,老齢加算のない世帯の貯蓄純増は9407円,平均貯蓄率は8.4%,繰越金は3万6094円であるのに対し,老齢加算のある世帯の貯蓄純増は1万4926円,平均貯蓄率は12.1%,繰越金は4万7071円となっており,いずれの数値も後者が前者より高くなっていた。
  (5) 上記(4)の検討等を経て,専門委員会は,平成15年12月16日,「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」という。)を公表した。中間取りまとめのうち,老齢加算に関する部分の概要は,次のとおりであった。
   ア 単身無職の一般低所得高齢者世帯の消費支出額について70歳以上の者と60ないし69歳の者との間で比較すると前者の消費支出額の方が少なく,70歳以上の高齢者について現行の老齢加算に相当するだけの特別な需要があるとは認められないため,老齢加算そのものについては廃止の方向で見直すべきである。
   イ ただし,高齢者世帯の社会生活に必要な費用に配慮して,保護基準の体系の中で高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある。
   ウ 被保護者世帯の生活水準が急に低下することのないよう,激変緩和の措置を講ずべきである。
  (6) 厚生労働大臣は,中間取りまとめを受けて,70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要があるとは認められないと判断して老齢加算を廃止することとし,激変緩和のための措置として3年間かけて段階的に減額と廃止を行うこととして,平成16年度以降,保護基準につき,平成16年厚生労働省告示第130号及び平成17年厚生労働省告示第193号によって老齢加算をそれぞれ減額し,平成18年厚生労働省告示第315号によって老齢加算を廃止する旨の改定をした(以下,これらの保護基準の改定を「本件改定」と総称する。)。
    本件改定に基づき,所轄の福祉事務所長らは,上告人らに対し,それぞれ老齢加算の減額又は廃止に伴う生活扶助の支給額の減額を内容とする保護変更決定をした(以下,これらの決定を「本件各決定」と総称する。)。
    なお,専門委員会が平成16年12月に発表した報告書は,生活扶助基準の水準は基本的に妥当と評価しつつ,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるなどと指摘しており,記録によれば,厚生労働省においては,その後も生活扶助基準の水準につき定期的な検証が引き続き行われていることがうかがわれる。

第2 上告代理人新井章ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1(1) 上告人らは,本件改定は,被保護者は正当な理由がなければ既に決定された保護を不利益に変更されることがないと定める生活保護法56条に反すると主張する。しかし,同条は,既に保護の決定を受けた個々の被保護者の権利及び義務について定めた規定であって,保護の実施機関が被保護者に対する保護を一旦決定した場合には,当該被保護者について,同法の定める変更の事由が生じ,保護の実施機関が同法の定める変更の手続を正規に執るまでは,その決定された内容の保護の実施を受ける法的地位を保障する趣旨のものであると解される。このような同条の規定の趣旨に照らすと,同条にいう正当な理由がある場合とは,既に決定された保護の内容に係る不利益な変更が,同法及びこれに基づく保護基準の定める変更,停止又は廃止の要件に適合する場合を指すものと解するのが相当である。したがって,保護基準自体が減額改定されることに基づいて保護の内容が減額決定される本件のような場合については,同条が規律するところではないというべきである。
  (2) 生活保護法3条によれば,同法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ,同法8条2項によれば,保護基準は,要保護者(生活保護法による保護を必要とする者をいう。以下同じ。)の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない。そうすると,仮に,老齢加算の一部又は全部についてその支給の根拠となっていた高齢者の特別な需要が認められないというのであれば,老齢加算の減額又は廃止をすることは,同項の規定に沿うところであるということができる。もっとも,これらの規定にいう最低限度の生活は,抽象的かつ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。したがって,保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し,最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては,厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。なお,同法9条は,保護は要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して有効かつ適切に行うものとすると規定するが,同条は個々の要保護者又はその世帯の必要に即応した保護の決定及び実施を求めるものであって,保護基準の内容を規律するものではない。また,同条が要保護者に特別な需要が存在する場合において保護の内容について特別な考慮をすべきことを定めたものであることに照らせば,仮に加算の減額又は廃止に当たって同条の趣旨を参酌するとしても,上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権に基づく高齢者の特別な需要の存否に係る判断を基礎としてこれをすべきことは明らかである。
  (3) また,老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要が認められない場合であっても,老齢加算の廃止は,これが支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来す側面があることも否定し得ないところである。そうすると,上記のような場合においても,厚生労働大臣は,老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮するため,その廃止の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否などを含め,上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。
  (4) そして,老齢加算の減額又は廃止の要否の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価や被保護者の期待的利益についての可及的な配慮は,前記(2)及び(3)のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であって,老齢加算の支給根拠及びその額等については,それまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基づいて高齢者の特別な需要に係る推計や加算対象世帯と一般世帯との消費構造の比較検討がされてきたところである。これらの経緯等に鑑みると,老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,① 当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,② 老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべきである。
 2(1) 前記事実関係等によれば,専門委員会が中間取りまとめにおいて示した意見は,特別集計等の統計や資料等に基づき,① 無職単身世帯の生活扶助相当消費支出額を比較した場合,いずれの収入階層でも70歳以上の者の需要は60ないし69歳の者のそれより少ないことが示されていたこと,② 70歳以上の単身者の生活扶助額(老齢加算を除く。)の平均は,第-5分位の同じく70歳以上の単身無職者の生活扶助相当消費支出額を上回っていたこと,③ 昭和59年度から平成14年度までにおける生活扶助基準の改定率は,消費者物価指数及び賃金の各伸び率を上回っており,特に同7年度以降の比較では後二者がマイナスで推移しているにもかかわらずプラスとなっていたこと,④ 昭和58年度以降,被保護勤労者世帯の消費支出の割合は一般勤労者世帯の消費支出の7割前後で推移していたこと,⑤ 昭和55年と平成12年とを比較すると第-10分位及び被保護勤労者世帯の平均のいずれにおいても消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が低下していることなどが勘案されたものであって,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはない。そして,70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る本件改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持するに足りない程度にまで低下するものではないとした厚生労働大臣の判断は,専門委員会のこのような検討等を経た前記第1の3(5)アの意見に沿って行われたものであり,その判断の過程及び手続に過誤,欠落があると解すべき事情はうかがわれない。
  (2) また,前記事実関係等によれば,本件改定が老齢加算を3年間かけて段階的に減額して廃止したことも,専門委員会の前記第1の3(5)ウの意見に沿ったものであるところ,平成11年度における老齢加算のある被保護者世帯の貯蓄純増は老齢加算の額に近似した水準に達しており,老齢加算のない被保護者世帯の貯蓄純増との差額も月額で5000円を超えていたというのであるから,3年間かけて段階的に老齢加算を減額して廃止することによって被保護者世帯に対する影響は相当程度緩和されたものと評価することができる上,厚生労働省による生活扶助基準の水準の定期的な検証も前記第1の3(5)イの意見を踏まえて生活水準の急激な低下を防止すべく配慮したものということができ,その他本件に現れた一切の事情を勘案しても,本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者世帯の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼしたものとまで評価することはできないというべきである。
  (3) 以上によれば,本件改定については,前記1(4)①及び②のいずれの観点からも裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
    したがって,本件改定は,生活保護法3条又は8条2項の規定に違反するものではないと解するのが相当である。そして,本件改定に基づいてされた本件各決定にも,これを違法と解すべき事情は認められない。原審の判断は,正当として是認することができ,論旨は採用することができない。

第3 上告代理人新井章ほかの上告理由について
 1 上告理由第1点及び第2点について
   生活保護法は,健康で文化的な最低限度の生活の保障という憲法25条の趣旨を具体化した法律の規定として,3条において,生活保護法による保護において健康で文化的な生活水準を維持することができる最低限度の生活が保障されるべき旨を定めており,8条2項において,保護の基準がこのような最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであるべき旨を定めているところ,前記第2の2において説示したとおり,厚生労働大臣が老齢加算を数次の減額を経て廃止する保護基準の改定として行った本件改定は,このように憲法25条の趣旨を具体化した生活保護法3条又は8条2項の規定に違反するものではない以上,これと同様に憲法25条に違反するものでもないと解するのが相当であり,このことは,前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかというべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,論旨は採用することができない。
 2 その余の上告理由について
   論旨は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反をいうものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
   よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)
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築地市場移転候補地豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄(汚染証拠隠滅)差止め裁判の意義

2012-04-27 17:31:28 | 築地を守る、築地市場現在地再整備
 コアサンプル廃棄差止め控訴審の第1回公判が4月26日東京高等裁判所で行われました。

 公判において、梓澤和幸弁護士(弁護団代表)は、口頭弁論をなされ、裁判官に、この裁判の意義と重要性を訴えかけられました。

 築地市場移転において、東京都は、都民消費者や市場関係者に十分な説明や、合意形成をすることなく、移転の計画を推し進めています。
 このような東京都の「都民不在&市場関係者不在の姿勢」は、土壌汚染問題だけでなく、土壌汚染地である土地の購入のあり方、市場の施設整備計画のあり方、環状二号線工事のあり方、中央区との鮮魚マーケット構想のあり方など様々な場面で出ているのではないかと感じています。
 豊洲土地購入の問題についても、住民監査請求や「公金支出金返還訴訟」というもうひとつの裁判で東京都を追及しているところです。おかしなことには、おかしいとはっきりと東京都に申し伝えていく所存です。


 コアサンプルの裁判の意義はなにか。(なお、この裁判は、法律の専門雑誌『判例時報』(2139号)にも取り上げられ、法曹界でも注目をされています。)

 端的に言いますと、東京都は、「ないものをある」(すなわち「ない“連続した不透水層”をある」)といい、その「ある」がゆえに汚染は一定の深さで留まると“仮定の結論付け”をし、そして、その「ある」ことを前提に、土壌汚染対策が立案されました。結果、一定の深さ以下(連続した不透水層が「ある」とする深さ以下)の汚染は放置されることになってしまいます。もし、コアサンプルを廃棄されてしまうと、「ないものをある」とした東京都側の“偽り”を覆えすことができる唯一の証拠がなくなってしまいます。
 ひいては、不十分な土壌汚染対策の下、そこに生鮮食料品をあつかう市場の建設を許してしまうこととなり、と同時に、大切な私たちの財産、歴史と伝統のある築地市場を失ってしまいます。
 土壌汚染地への移転をくい止め、食の安心安全と市場で働く方々の健康を守るという意義がコアサンプル裁判にはあるのです。

 土壌汚染地での市場の開場は、決して許されるべきことがらではなく、この点から必ずや、築地市場移転計画は白紙撤回できるものと信じています。

 次回、第二回裁判は、7月です。ご注目いただけますと幸いです。
                        

<次回以降の裁判日程>

コアサンプル廃棄差止め控訴審 第2回公判
日時:平成24年7月26日(木)午後2時~
場所:東京高等裁判所 822号法廷


公金支出金返還請求裁判 第9回公判
日時:平成24年5月30日(水)午後4時30分~
場所:東京地方裁判所 522号法廷
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医薬品ネット販売権利認める 東京高裁逆転判決H24.4.26薬品安全流通確保するための規制の在り方とは

2012-04-27 13:30:02 | 医療
 平成24年4月26日東京高裁で重要な判決が出されました。
 大事な判決は、ほかにも出されていますが、医師としては、こちらを見逃してはならないものです。

 薬品の安全流通を確保するために、どのような規制が許されるべきか、検討を深めていかねばなりません。

 事件の詳細をしるため、第1審判決を見てみます。
 (今回の判決文はまだ、アップされていません。)




*******第1審東京地方裁判所の情報、最高裁ホームページより******
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80734&hanreiKbn=05

事件番号

 平成21(行ウ)256



事件名

 医薬品ネット販売の権利確認等請求事件



裁判年月日

 平成22年03月30日



裁判所名

 東京地方裁判所  




分野

 行政



判示事項

 1 医薬品のインターネットによる通信販売を行う事業者らが,薬局開設者又は店舗販売業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与を行う場合は第一類医薬品及び第二類医薬品の販売又は授与は行わない旨の規定並びに前記各医薬品の販売又は授与及び情報提供は有資格者の対面により行う旨の規定を薬事法施行規則に加える改正省令が違法であるとしてした,前記各医薬品を郵便等により販売することができる地位にあることの確認を求める訴えが,適法とされた事例

2 薬局開設者又は店舗販売業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与を行う場合は第一類医薬品,第二類医薬品の販売又は授与は行わない旨の規定並びに前記各医薬品の販売又は授与及び情報提供は有資格者の対面により行う旨の規定を薬事法施行規則に設ける改正省令と憲法22条1項





裁判要旨

 1 業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与を行う場合は第一類医薬品及び第二類医薬品の販売又は授与は行わない旨の規定並びに前記各医薬品の販売又は授与及び情報提供は有資格者の対面により行う旨の規定を薬事法施行規則に加える改正省令が違法であるとしてした,前記各医薬品を郵便等により販売することができる地位にあることの確認を求める訴えにつき,前記事業者らは前記改正省令の施行により前記各医薬品をインターネットにより販売することができなくなったのであり,この規制は営業の自由に係る事業者の権利の制限であって,その権利の性質等に鑑みると,前記改正省令に行政処分性が認められない以上,前記改正省令による規制をめぐる法的な紛争の解決のために有効かつ適切な手段として,確認の利益を肯定すべきであり,また,単に抽象的一般的な省令の適法性及び憲法適合性の確認を求めるのではなく,省令の個別的な運用対象とされる具体的な法的地位の確認を求めるものである以上,この訴えの法律上の争訟性についても肯定することができるとして,前記訴えを適法とした事例

2 薬局開設者又は店舗販売業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与を行う場合は第一類医薬品,第二類医薬品の販売又は授与は行わない旨の規定並びに前記各医薬品の販売又は授与及び情報提供は有資格者の対面により行う旨の規定を薬事法施行規則に設ける改正省令につき,規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される営業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならないとした上で,前記改正省令に係る規制には,一般用医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保し,一般用医薬品の副作用による健康被害を防止するという規制目的を達成するための規制手段としての必要性と合理性を認めることができ,医薬品の副作用及び情報通信技術等をめぐる本邦の現状下において,営業活動の態様に対するより緩やかな制限を内容とする規制手段によっては前記の規制目的を十分に達成することができないと認められる以上,前記規制は,職業活動の内容及び態様に関する規制として,あるいは狭義における職業選択の自由そのものに制約を課する規制に準じて,広狭のいずれかに解するかにかかわらず,立法機関の合理的裁量の範囲を超えるものではないというべきであるから,憲法22条1項に違反するとはいえない。


 主   文

 1 本件訴えのうち,厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることの確認を求める訴え並びに上記省令の改正規定の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
 2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,原告らの負担とする。

判決文全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101006145252.pdf


*******朝日新聞(2012/04/27)*****
http://www.asahi.com/national/update/0426/TKY201204260420.html

医薬品ネット販売の権利認める 東京高裁が逆転判決


 医師の処方箋(せん)なしで買える一般用医薬品(市販薬)について、インターネット販売を原則禁止にしたのは過大な規制だとして、ネット販売業者2社が販売できる権利の確認などを求めた訴訟の控訴審判決が26日、東京高裁であった。三輪和雄裁判長は業者側の請求を退けた一審・東京地裁判決を取り消し、販売を認める逆転判決を言い渡した。

 市販薬のネット販売をめぐっては政府内でも規制緩和の議論が高まっており、国は現在の販売制度の見直しを迫られることになる。

 控訴していたのは「ケンコーコム」(東京都港区)と「ウェルネット」(横浜市)。

 厚生労働省は、改正薬事法で市販薬を副作用の危険性に応じ1~3類に分類。省令で、危険性の高い1、2類には薬局などでの対面販売を義務づけ、ネット販売は3類しか原則認めないようにした。両社は1、2類を含む全体のネット販売を認めるよう求めていた。

 高裁判決は、改正薬事法がネット販売の一律禁止を想定していたとは認められないと指摘。原則禁止にした省令について「法の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定で、無効であると解釈すべきだ」とし、ネット販売できる権利を認めた。

 ネット販売の禁止について、一審では「健康被害を防ぐための規制手段としての必要性と合理性を認めることができる」と容認していた。しかし、東京高裁では、「ネット販売された薬の副作用の実態把握が不十分で、省令で規制する合理性が裏付けられているとは言い難い」とした。


*******東京新聞(2012/04/27)******
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012042702000111.html

薬ネット販売認める 東京高裁逆転判決「省令で禁止 違法」


2012年4月27日 朝刊


 改正薬事法施行に伴い多くの一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を原則禁じた厚生労働省令は違法だとして、ネット販売業者二社が販売を続ける権利の確認を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は二十六日、原告敗訴の一審判決を取り消し、販売権を認める逆転判決を言い渡した。


 省令の禁止規定を「違法で無効」と判断、二〇〇九年六月の規制開始後、大衆薬のネット販売を認める判決は初めて。購入の利便性向上のために規制撤廃を求める声は強く、判決は政府内で進む見直しの議論にも影響するとみられる。


 三輪和雄裁判長は「改正法の目的は医薬品の適切な使用の確保であり、ネット販売の一律禁止は明記されていない」と指摘。


 さらに薬を買う人が自分で健康を守る考え方が浸透している現状を踏まえ「専門家の取り扱いを前提とする旧薬事法とは違い、改正法は購入者の立場に立っており、ネットなどを通じた購入者の選択を前提とする幅広い情報提供の方法が考えられる」とした。


 その上で、ネット販売が原因の副作用被害について、厚労省内や国会での調査が不十分だった点にも言及し「法に委ねられていないのにネット販売を禁止し、国民の権利を制限した省令は違法で無効だ」と結論付けた。


 訴えていたのは「ケンコーコム」(東京都港区)と「ウェルネット」(横浜市)。一〇年三月の東京地裁判決は、ネット販売では「対面販売と比べると健康被害を防ぐ効果が小さい」と指摘。規制は合憲と判断していた。







**********参考資料********************

http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/pdf/sekou.pdf#search='薬事法施行規則等の一部を改正する省令'

「薬事法施行規則等の一部を改正する省令の一部を改正する省令」(平成23年厚生労働省令第65号)が、平成23年5月27日に公布・施行


http://japan.cnet.com/image/l/story_media/20396652/090714kenoko_01la.jpg




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今年もクリニックに参上、鯉のぼりの鯉たち。子どもの日を前に。

2012-04-27 11:39:00 | 小児医療

 今年も、クリニックに、鯉のぼりの鯉たちが、訪れました。


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築地を守る。築地市場移転候補地豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄(汚染証拠隠滅)差止め請求裁判第一回公判

2012-04-26 23:00:00 | 築地を守る、築地市場現在地再整備

 築地市場移転候補地豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄(汚染証拠隠滅)差止め請求裁判の控訴審第一回公判(斉藤隆裁判長裁判官)が、東京高等裁判所で平成24年4月26日行われました。

 

 梓澤和幸弁護団代表から、裁判の意義として、土壌汚染対策が不十分であること、よって、土壌汚染から食の安心・安全が守られないことや、市場関係者や都民の健康への影響への蓋然性があるため、コアサンプルを保存すべきこと、そして、なによりも築地市場を守っていくことの重要性が口頭弁論されました。

 私たちは、さらに審議を深めるため、証人を法廷に招くことを要請、一方、東京都側は、不要を主張。

 まずは、証人の陳述書を作成し、裁判所に提出、その後、陳述書を提出、その後、第二回の公判となる日程が決められました。

 第一審から、深めていくべきところが、多くあると考えられます。

 次回、第二回公判。

 多くの皆様が傍聴いただけますことを、よろしくお願い申し上げます。


 平成24年7月26日木曜日
 午後2時~

 東京高等裁判所822号法廷


<梓澤弁護士 口頭弁論要旨>



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東京都による行政処分(教員減給処分)に対する最高裁での違法判決(最判H24.1.16)を、行政法学的に考える

2012-04-25 13:42:22 | シチズンシップ教育
 東京都による行政処分(教員減給処分)に対する違法判決(最判H24.1.16)は、憲法学的に重要な論点がございますが、ここでは、行政法学的な視点に重点を置いて述べます。
 どうか、ご了承ねがいます。


【事件の概要】
Xらは、H15.10月ごろH16.5月ごろ、東京都立高等学校、東京都立養護学校に勤務する教職員であった。

H15年度卒業式、H16年度入学式、又はH15年度記念式典に先立ち、所属校の各校長は、音楽科の教員であったX5,X6に対しては、国歌斉唱の際に伴奏行為を命ずる旨の職務命令を、その余のXらに対しては国歌斉唱の際に規律斉唱行為を命ずる旨の職務命令をそれぞれ発した。(合わせて「本件職務命令」という。)


上記の卒業式や入学式等の式典において、本件職務命令に従わず、

X5、X6は、国歌斉唱時に伴奏行為拒否。

X7,X8,X9は、式場に入場せず。

X10は、卒業式に出席せず。

X11は国歌斉唱の途中で着席。

X12,X13は国歌斉唱の際に式場から退席。

X14は一度起立したがすぐ着席してその後起立せず。

X4を含むその余のXらは国歌斉唱の際に起立しなかった。


都教委は、H16.2.17、同3.30 同3.31、同4.6及び同5.26 X4を除くXらに、不起立行為などは、それぞれ地方公務員法32条及び33条に違反するとして、戒告処分。これらXらには、過去に同種の行為による懲戒処分などの処分歴はなかった。

また、都教委は、H16.4.6、X4に対し、不起立行為は、地方公務員法32条及び33条に違反するとして、給与1月の月額10分の1を減ずる減給処分をした。H14.4.9に行われた平成14年度入学式の際の服装及びその後の事実確認に関する校長の職務命令に従わなかったことが、地方公務員法32条及び33条に違反するとして同年11.6戒告処分を受けたことを踏まえ、量定を加重するという処分量定の方針によるものであった。


【参照法令など】
*東京都の懲戒処分基準
職務命令違反1回目:戒告、違反2回目:減給1月、違反3回目:減給3月、違反4回目以降:停職。

*地方公務員法
(懲戒)
第二十九条  職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
(小坂補足:4種類の懲戒処分え選ぶ点で、選択裁量。処分することができる、しないこともできる点で、決定裁量)
一  この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
2  職員が、任命権者の要請に応じ当該地方公共団体の特別職に属する地方公務員、他の地方公共団体若しくは特定地方独立行政法人の地方公務員、国家公務員又は地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社をいう。)その他その業務が地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち条例で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職地方公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職地方公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職地方公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職地方公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職地方公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。次項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。
3  職員が、第二十八条の四第一項又は第二十八条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又はこれらの規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に第一項各号の一に該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。
4  職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。



【選択された訴訟】
訴訟相手方:東京都
*取り消し:行政処分を取り消せ
*国家賠償


【行政法上の論点】
裁量判断の合理性が欠如していることを示すためにどのような指摘を行うべきか

【最高裁の判例法理】
国家公務員の懲戒処分について、神戸全税関(最判昭52.12.20)

*効果裁量の審査方法:神戸全税関(最判昭52.12.20)より抜粋
「(三) 裁量権の範囲の逸脱について
 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」

*国家公務員法
(懲戒の場合)
第八十二条  職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一  この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
○2  職員が、任命権者の要請に応じ特別職に属する国家公務員、地方公務員又は沖縄振興開発金融公庫その他その業務が国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち人事院規則で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職国家公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職国家公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職国家公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職国家公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職国家公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。以下この項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。職員が、第八十一条の四第一項又は第八十一条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又は第八十一条の四第一項若しくは第八十一条の五第一項の規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に前項各号のいずれかに該当したときも、同様とする。



【本判決】
 「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられる」
 の判例法理を用いて判断。

第3
1(1)最高裁の一般法理:効果裁量→比例原則違反がないか。

 (2)ア 不起立行為の性質・態様・結果:職務命令違反、重要な儀式、式典への影響あり。
   イ 不起立行為の動機・原因:個人の歴史観。
     不起立の態様:積極的妨害でない。 結果:支障の評価は困難。

2(1)戒告: 職務命令は合憲であり遵守確保の必要性あり

      効果裁量の考慮要素:①学校規律秩序維持の必要性の見地から相当
                    +
                ②処分が不利益を及ぼさないこと
 (2)あてはめ:処分歴のないものである→戒告処分選択裁量に逸脱濫用はない

3(1)減給:直接・将来の不利益を伴う+繰り返される→減給処分選択裁量の考慮要素:「相当性を基礎づける具体的な事情」→過去の違反の性質・処分歴の内容や頻度から、不利益より規律や秩序の必要性が大きい。

 (2)あてはめ X4さん:式典妨害でなく服装にかかわる命令で2年前に1回の戒告処分歴→選択が重きに失する。(比例原則違反)

【宮川反対意見】(全判決文最後のほうにありますので、ぜひ、お読みください。)
*職務命令違憲説もある。

*戒告処分の不利益は過小評価されるべきでない。

*通常の戒告の対象行為(刑事罰対象)と本件不起立行為とは異なる。



【本判決の位置づけ】
戒告処分には広範な裁量を認め、減給・停職処分には厳格審査基準を提示した。

【本判決の検討課題】
*戒告とその他の懲戒処分との区別は適切か。(宮川反対意見)

*戒告処分においても「相当性を基礎づける具体的な事情」判断基準は必要ではないか。

*別件のX1(3回懲戒処分と2回不起立処分歴)とX2(不起立処分歴)の停職処分について本判決の判断基準を当てはめると、裁量の濫用といえるか。






********判決文 全文(ただし、第1は字数の関係で略)*****************

 主   文

 1 平成23年(行ツ)第263号上告人らの上告を棄却する。
 2 原判決のうち平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの戒告処分の取消請求に係る部分を破棄する。
 3 前項の部分につき,平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの控訴を棄却する。
 4 平成23年(行ヒ)第294号上告人のその余の上告を棄却する。
 5 第1項の部分に関する上告費用は,平成23年(行ツ)第263号上告人らの負担とし,第2項及び第3項の部分に関する控訴費用及び上告費用は,平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの負担とし,前項の部分に関する上告費用は,同号上告人の負担とする。

       理   由

 第1 本件の事実関係等の概要
(小坂補足:字数の関係で略)

 第2 平成23年(行ツ)第263号上告代理人尾山宏ほかの上告理由について
 1 上告理由のうち職務命令の憲法19条違反(同条違反に係る理由の不備・食違いを含む。)をいう部分について
 原審の適法に確定した事実関係等の下において,本件職務命令が憲法19条に違反するものでないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決・民集10巻7号785頁,最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁,最高裁昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁)の趣旨に徴して明らかというべきである(起立斉唱行為に係る職務命令につき,最高裁平成22年(オ)第951号同23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁,最高裁平成22年(行ツ)第54号同23年5月30日第二小法廷判決・民集65巻4号1780頁,最高裁平成22年(行ツ)第314号同23年6月14日第三小法廷判決・民集65巻4号2148頁,最高裁平成22年(行ツ)第372号同23年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事237号53頁参照。伴奏行為に係る職務命令につき,最高裁平成16年(行ツ)第328号同19年2月27日第三小法廷判決・民集61巻1号291頁参照)。所論の点に関する原審の判断は是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 2 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 第3 平成23年(行ヒ)第294号上告代理人石津廣司ほかの上告受理申立て理由について
 1(1) 公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和59年(行ツ)第46号平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
 (2)ア 本件において,上記(1)の諸事情についてみるに,不起立行為等の性質,態様は,全校の生徒等の出席する重要な学校行事である卒業式等の式典において行われた教職員による職務命令違反であり,当該行為は,その結果,影響として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって,それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い。
 イ 他方,不起立行為等の動機,原因は,当該教職員の歴史観ないし世界観等に由来する「君が代」や「日の丸」に対する否定的評価等のゆえに,本件職務命令により求められる行為と自らの歴史観ないし世界観等に由来する外部的行動とが相違することであり,個人の歴史観ないし世界観等に起因するものである。また,不起立行為等の性質,態様は,上記アのような面がある一方で,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではない。そして,不起立行為等の結果,影響も,上記アのような面がある一方で,当該行為のこのような性質,態様に鑑み,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかは客観的な評価の困難な事柄であるといえる(原審によれば,本件では,具体的に卒業式等が混乱したという事実は主張立証されていないとされている。)。
 2(1) 本件職務命令は,前記第2の1のとおり憲法19条に違反するものではなく,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであって(前掲最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決等参照),このような観点から,その遵守を確保する必要性があるものということができる。このことに加え,前記1(2)アにおいてみた事情によれば,本件職務命令の違反に対し,教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることは,学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであって,法律上,処分それ自体によって教職員の法的地位に直接の職務上ないし給与上の不利益を及ぼすものではないことも併せ考慮すると,将来の昇給等への影響や前記第1の2(5)の本件における条例及び規則による勤勉手当への影響を勘案しても,過去の同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず,基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する事柄ということができると解される。前記1(2)イにおいてみた事情に関しては,不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについて,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮を必要とする事情であるとはいえるものの,このことを勘案しても,本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは解し難い。また,本件職務命令の違反に対し1回目の違反であることに鑑みて訓告や指導等にとどめることなく戒告処分をすることに関しては,これを裁量権の範囲内における当不当の問題として論ずる余地はあり得るとしても,その一事をもって直ちに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法の問題を生ずるとまではいい難い。なお,原審は,本件職務命令の合憲性を否定する有力な見解があったことを指摘するが,その合憲性については前記第2のとおりであって,その他原審の指摘する事情はいずれも上記の判断を左右するものとはいえない。
 (2) 以上によれば,本件職務命令の違反を理由として,第1審原告らのうち過去に同種の行為による懲戒処分等の処分歴のない者に対し戒告処分をした都教委の判断は,社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず,上記戒告処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないと解するのが相当である。
 3(1) 他方,前示のように,前記1(2)イにおいてみた事情によれば,不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。そして,減給処分は,処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ上,本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると,上記のような考慮の下で不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。したがって,不起立行為等に対する懲戒において減給処分を選択することについて,上記の相当性を基礎付ける具体的な事情が認められるためには,例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。
 (2) これを本件についてみるに,前記第1の2(3)エのとおり,第1審原告X4については,都教委において,過去の懲戒処分の対象とされた非違行為と同様の非違行為を再び行った場合には量定を加重するという処分量定の方針に従い,過去に同様の非違行為による戒告処分を受けているとして,量定を加重して減給処分がされたものである。しかし,過去の懲戒処分の対象は,約2年前に入学式の際の服装及びその後の事実確認に関する校長の職務命令に違反した行為であって積極的に式典の進行を妨害する行為ではなく,当該1回のみに限られており,本件の不起立行為の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれないこと等に鑑みると,同第1審原告については,上記(1)において説示したところに照らし,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から,なお減給処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情があったとまでは認め難いというべきである。そうすると,上記のように過去に入学式の際の服装等に係る職務命令違反による戒告1回の処分歴があることのみを理由に同第1審原告に対する懲戒処分として減給処分を選択した都教委の判断は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き,上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。
 4(1) 以上によれば,第1審原告X4及び同X2以外の第1審原告らの戒告処分の取消請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決のうち上記請求に係る部分は破棄を免れない。
 (2) 他方,以上によれば,第1審原告X4の減給処分が違法であるとして同第1審原告の同処分の取消請求を認容すべきものとした原審の判断は,是認することができ,原判決のうち上記請求に係る部分に所論の違法はない。この点に関する論旨は採用することができない。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,平成23年(行ツ)第263号上告人らの上告を棄却するとともに,原判決のうち平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの戒告処分の取消請求に係る部分を破棄し,同部分につき同被上告人らの控訴を棄却することとし,同号上告人のその余の上告を棄却することとする。
 よって,裁判官宮川光治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官櫻井龍子,同金築誠志の各補足意見がある。
 裁判官櫻井龍子の補足意見は,次のとおりである。
 1 事案の性格に鑑み,若干の補足意見を述べておきたい。
 公務員の懲戒処分制度は,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するために課される制裁である(多数意見の引用するいわゆる神戸税関事件に係る最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決参照)。一方,懲戒処分は,職員にとってその身分や勤務条件に重大な不利益をもたらすものであるため,懲戒の事由,手続等があらかじめ法定,周知されているべきであるのみならず,公正原則,平等取扱い原則,比例原則などの公務員の服務に関する諸原則を踏まえ,個々の事案に即して謙抑的に行使されるべきものである。神戸税関事件に係る上記最高裁判決の判示は,このような公務員の懲戒制度の基本的枠組みを踏まえた上で,当該行政組織の秩序の維持,職員の服務に第一次的な責任を有する懲戒権者の裁量を尊重するという,司法判断の基本的スタンスを画したものといえる。したがって,同判決も述べるように,当該懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き,当該懲戒権者がその裁量権を適切に行使しているとはいえない事案については,司法がこれに制約を加えることが必要となるものである。
 そこで,多数意見は,本件の懲戒処分のうち,戒告処分については適法と認められるが,過去の処分歴等を理由に量定を加重される処分(以下「加重処分」という。)については,過去の処分歴等が減給などの加重処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するとして,過去の1回の不起立行為と同様の行為による処分歴のみを理由とする加重処分として課された減給処分を裁量権の範囲を超えるものと判断したものである。
 2(1) 公務員の懲戒制度における処分の加重については,制度的に加重の在り方を定める法令上の根拠はないため,過去の処分歴等を個別事案の情状として考慮するのみとする考えも見られるところであり,加重処分そのものが裁量の範囲内といえるためには,懲戒の対象行為の態様や影響と加重処分による不利益の内容との権衡,公務秩序維持のための必要性などについて,上記に述べた懲戒処分制度の基本的枠組みを踏まえ,より慎重な判断が要求されるといわなければならない。
 東京都(東京都教育委員会)における懲戒処分の処分量定については,入学式や卒業式等での国歌斉唱時における不起立(ピアノ伴奏の拒否を含む。本意見において以下同じ。)という職務命令違反の行為に対し,1回目は戒告処分とし,2回目以降からは加重処分を行うこととし,2回目で減給1か月,3回目で減給6か月,4回目以降は停職処分にする方針が採られていることがうかがわれる。
 (2) これらの懲戒処分のうち最も軽い戒告処分と,その上の減給処分の差は大きく,更にその上の停職処分との間には大きな差がある。戒告処分は,職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分であって,勤勉手当の減額という条例上の不利益や将来の昇給等への間接的な影響はあるものの,法律上は直接的な給与上ないし職務上の不利益を含む処分ではないのに対し,減給処分は,法律上の不利益として給与そのものが直接的に減額されるのみならず,その結果が期末手当,退職金,年金等にも影響するなど給与上の多大な不利益を伴う処分である。さらに,停職処分は,法律上の不利益として停職中の給与が全額支給されないことによる大きな給与上の不利益に加え,教師の場合は停職期間中教壇に立てないことについての本人の職務上の不利益も大きく(生徒への教育上の影響なども無視できない。),極めて厳しい重大な処分であることが明らかである。したがって,東京都における上記(1)のような一律の加重処分の定め方,実際の機械的な適用は,そのこと自体が問題であるといわなければならず,また,懲戒の対象行為との関係における相当性が問題である。
 本件の不起立行為は,既に多数意見の中で説示しているように,それぞれの行為者の歴史観等に起因してやむを得ず行うものであり,その結果式典の進行が遅れるなどの支障を生じさせる態様でもなく,また行為者も式典の妨害を目的にして行うものではない。不起立の時間も短く,保護者の一部に違和感,不快感を持つものがいるとしても,その後の教育活動,学校の秩序維持等に大きく影響しているという事実が認められているわけではない。
 このような行為が繰り返し行われた場合に加重処分をすることは,それが相当性を欠くものでなければ許容されるものではあるものの,上記のように多大な給与上ないし職務上の不利益や影響をもたらす減給ないし停職の処分を前記(1)のように一律に機械的に加重処分として課すことは,行為と不利益との権衡を欠き,社会観念上妥当とはいい難いものというべきである。
 3 さらに,本件が,さきに当小法廷が判示した起立斉唱に係る職務命令の合憲判断に関する判決(多数意見の引用する平成23年6月6日判決)に関係するものであるので,以下の点を付言しておきたい。
 さきの上記判決において,多数意見は上記職務命令の合憲性を是認しつつ,思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることを認めたものであり,そのことは,上記職務命令に従って起立斉唱することに自らの歴史観,世界観等との間で強い葛藤を感じる職員が存在することを踏まえたものといえ,処分対象者の多くは,そのような葛藤の結果,自らの信じるところに従い不起立行為を選択したものであろう。式典のたびに不起立を繰り返すということは,その都度,葛藤を経て,自らの信条と尊厳を守るためにやむを得ず不起立を繰り返すことを選択したものと見ることができる。前記2(1)の状況の下で,毎年必ず挙行される入学式,卒業式等において不起立を行えば,次第に処分が加重され,2,3年もしないうちに戒告から減給,そして停職という形で不利益の程度が増していくことになるが,これらの職員の中には,自らの信条に忠実であればあるほど心理的に追い込まれ,上記の不利益の増大を受忍するか,自らの信条を捨てるかの選択を迫られる状態に置かれる者がいることを容易に推測できる。不起立行為それ自体が,これまで見たとおり,学校内の秩序を大きく乱すものとはいえないことに鑑みると,このように過酷な結果を職員個人にもたらす前記2(1)のような懲戒処分の加重量定は,法が予定している懲戒制度の運用の許容範囲に入るとは到底考えられず,法の許容する懲戒権の範囲を逸脱するものといわざるを得ない。
 4 最後に,本件の紛争の特性に鑑みて付言するに,今後いたずらに不起立と懲戒処分の繰り返しが行われていく事態が教育の現場の在り方として容認されるものではないことを強調しておかなければならない。教育の現場においてこのような紛争が繰り返される状態を一日も早く解消し,これまでにも増して自由で闊達な教育が実施されていくことが切に望まれるところであり,全ての関係者によってそのための具体的な方策と努力が真摯かつ速やかに尽くされていく必要があるものというべきである。
 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 本件職務命令が憲法19条に違反しないとする多数意見に賛成する立場からこれに付加する私の意見は,多数意見の引用する最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決において私の補足意見として述べたとおりである。

 裁判官宮川光治の反対意見は,次のとおりである。
 多数意見は,本件職務命令は憲法19条(思想及び良心の自由)に違反せず,また,第1審原告X4を除くその余の第1審原告らに対し戒告処分をした都教委の判断は懲戒権者としての裁量権の範囲にあるとするが,私は,そのいずれについても同意できない。なお,第1審原告X4に対する減給処分を裁量権の範囲を超えるものとした結論には同意できるが,理由を異にする。
 第1 本件職務命令の憲法適合性について
 1 原審は,第1審原告らがそれぞれ所属校の各校長から受けた本件職務命令に従わなかったのは,「君が代」や「日の丸」が過去の我が国において果たした役割に関わる第1審原告らの歴史観ないし世界観及び教育上の信念に基づくものであるという事実を,適法に確定している。そのように真摯なものである場合は,その行為は第1審原告らの思想及び良心の核心の表出であるか少なくともこれと密接に関連しているとみることができる。したがって,その行為は第1審原告らの精神的自由に関わるものとして,憲法上保護されなければならない。第1審原告らとの関係では,本件職務命令はいわゆる厳格な基準による憲法審査の対象となり,その結果,憲法19条に違反する可能性がある。このことは,多数意見が引用する最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決における私の反対意見で述べたとおりである。なお,そこでは,国旗及び国歌に関する法律と学習指導要領が教職員に起立斉唱行為等を職務命令として強制することの根拠となるものではないこと,本件通達は,式典の円滑な進行を図るという価値中立的な意図で発せられたものではなく,その意図は,前記歴史観等を有する教職員を念頭に置き,その歴史観等に対する強い否定的評価を背景に,不利益処分をもってその歴史観等に反する行為を強制することにあるとみることができ,職務命令はこうした本件通達に基づいている旨を指摘した。本件では,さらに多数意見が指摘する「地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性」について,私の意見を付加しておくこととする。
 2 第1審原告らは,地方公務員ではあるが,教育公務員であり,一般行政とは異なり,教育の目標に照らし,特別の自由が保障されている。すなわち,教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,幅広い知識と教養を身に付けること,真理を求める態度を養うこと,個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うこと等の目標を達成するよう行われるものであり(教育基本法2条),教育をつかさどる教員には,こうした目標を達成するために,教育の専門性を懸けた責任があるとともに,教育の自由が保障されているというべきである。もっとも,普通教育においては完全な教育の自由を認めることはできないが,公権力によって特別の意見のみを教授することを強制されることがあってはならないのであり,他方,教授の具体的内容及び方法についてある程度自由な裁量が認められることについては自明のことであると思われる(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。上記のような目標を有する教育に携わる教員には,幅広い知識と教養,真理を求め,個人の価値を尊重する姿勢,創造性を希求する自律的精神の持ち主であること等が求められるのであり,上記のような教育の目標を考慮すると,教員における精神の自由は,取り分けて尊重されなければならないと考える。
 個々の教員は,教科教育として生徒に対し国旗及び国歌について教育するという場合,教師としての専門的裁量の下で職務を適正に遂行しなければならない。したがって,「日の丸」や「君が代」の歴史や過去に果たした役割について,自由な創意と工夫により教授することができるが,その内容はできるだけ中立的に行うべきである。そして,式典において,教育の一環として,国旗掲揚,国歌斉唱が準備され,遂行される場合に,これを妨害する行為を行うことは許されない。しかし,そこまでであって,それ以上に生徒に対し直接に教育するという場を離れた場面においては,自らの思想及び良心の核心に反する行為を求められることはないというべきである。音楽専科の教員についても,同様である。
 このように,私は,第1審原告らは,地方公務員であっても,教育をつかさどる教員であるからこそ,一般行政に携わる者とは異なって,自由が保障されなければならない側面があると考えるのである。
 3 以上のとおり,第1審原告らの上告理由のうち本件職務命令が憲法19条違反をいう部分は理由がある。
 第2 懲戒処分の裁量審査について
 1 多数意見は,本件職務命令の違反を理由として,過去に同種の行為による懲戒処分等の処分歴のない第1審原告らに対してなされた戒告処分(以下「本件戒告処分」という。)は,懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとはいえないという。そこで,私も,本件職務命令の憲法適合性に関する判断を留保し,また,本件戒告処分自体も憲法19条に違反する可能性があるが,その判断を留保し,その上で,本件の懲戒処分に係る裁量審査に関し,私の反対意見を述べる。以下,2において考慮すべき諸事情のうち第1審原告らの行為の原因,動機及び行為の態様と法益の侵害の程度について述べ,3において本件では戒告処分は実質的にみると重い不利益処分であることを指摘し,4において他の非違行為に対する処分及び他地域の処分例と比較すると不公正であることを述べる。
 2 第1審原告らの不起立行為等は,「日の丸」や「君が代」は軍国主義や戦前の天皇制絶対主義のシンボルであり平和主義や国民主権とは相容れないと考える歴史観ないし世界観,及び人権の尊重や自主的に思考することの大切さを強調する教育実践を続けてきた教育者としての教育上の信念に起因するものであり,その動機は真摯であり,いわゆる非行・非違行為とは次元を異にする。また,他の職務命令違反と比較しても,違法性は顕著に希薄である。
 第1審原告らが抱いている歴史観等は,ひとり第1審原告ら独自のものではなく,我が国社会において,人々の間に一定の広がりを有し,共感が存在している。また,原審も指摘しているが,憲法学などの学説及び日本弁護士連合会等の法律家団体においては,式典において「君が代」を起立して斉唱すること及びピアノ伴奏をすることを職務命令により強制することは憲法19条等に違反するという見解が大多数を占めていると思われる。確かに,この点に関して最高裁は異なる判断を示したが,こうした議論状況は一朝には変化しないであろう。
 第1審原告らの不起立行為等は消極的不作為にすぎないのであって,式典を妨害する等の積極的行為を含まず,したがって,式典の円滑な遂行に物理的支障をいささかも生じさせていない。法益の侵害はほとんどない。
 3 第1審原告らは,最初の不起立行為等で本件戒告処分を受けたのであるが,その処分が第1審原告らに与える不利益については過小評価されるべきではないと思われる。確かに,戒告処分は法の定める懲戒処分の中では最も軽いが,処分を受けると,履歴に残り,多数意見も認めるとおり勤勉手当は当該支給期間(半年間)において10%の割合で減額され,昇給が少なくとも3か月延伸される可能性があり,その延伸によりひいては,退職金や年金支給額への影響もあり得る。そして,東京都の教職員は定年退職後に再雇用を希望するとほぼ例外なく再雇用されているが,戒告処分を受けるとその機会を事実上失い,合格通知を受けていた者も合格は取り消されるのが通例であることがうかがわれる。
 都教委は,不起立行為等をした教職員に対し,おおむね1回目は戒告処分,2回目は1か月間月額給与10分の1を減ずる減給処分,3回目は6か月間月額給与10分の1を減ずる減給処分,4回目は停職1か月の停職処分等という基準で懲戒処分を行っていることがうかがわれる。毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積加重されるのであるから,短期間で反復継続的に不利益が拡大していくのである。戒告処分がひとたびなされると,こうした累積処分が機械的にスタートする。
 以上のとおり,実質的にみると,本件では,戒告処分は,相当に重い不利益処分であるというべきである。
 4 教職員の主な非行に対する標準的な処分量定(東京都教育長決定)に列挙されている非行の大半は,刑事罰の対象となる行為や性的非行であり,量定上それらに関しても戒告処分にとどまる例が少なくないと思われる。原審は,体罰,交通事故,セクハラ,会計事故等の服務事故について都教委の行った処分等の実績をみると,平成16年から18年度において,懲戒処分を受けた者が205人(うち戒告が74人)であるのに対し,文書訓告又は口頭注意といった事実上の措置を受けた者が397人,指導等を受けた者が279人となっており,服務事故(非違行為)と認められた者のうち懲戒処分を受けたのは4分の1にも満たないとし,これによれば,戒告処分であっても,一般的には,非違行為の中でもかなり情状の悪い場合にのみ行われるものということができるとしている。
 さらに,不起立行為等に関する懲戒処分の状況を全国的にみると,懲戒処分まで行っている地域は少なく,例えば神奈川県や千葉県では,不起立行為等があっても,またそれが繰り返されていても,懲戒処分はされていないことがうかがわれる。
 このように比較すると,本件戒告処分は過剰に過ぎ,比例原則に反するというべきである。
 5 以上を総合すると,多数意見がいう不起立行為等の性質,態様,影響を前提としても,不起立行為等という職務命令違反行為に対しては,口頭又は文書による注意や訓告により責任を問い戒めることが適切であり,これらにとどめることなくたとえ戒告処分であっても懲戒処分を科すことは,重きに過ぎ,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであって,是認することはできない。この点に関する原審の判断は相当である。
 第1審原告X4については,多数意見は減給処分の取消請求を認容した原審の判断を是認することができるとしており,結論において同じとなるが,上記のとおり,私の意見は理由を異にする。なお,多数意見は,過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなどの場合は,減給処分が裁量の範囲にあるものとされる可能性を容認していると思われる。そうであるとすると,前述のとおり式典は毎年度2回以上あり,不起立行為等を理由とする戒告処分は短期間に累積されていくのであるから,ある段階では減給処分がなされる可能性がある。多数意見は,起立斉唱行為に係る職務命令は思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることを認めていることに鑑みると,ただ単に不起立行為等が累積したにすぎない場合に減給処分が裁量の範囲にあるものとされる可能性を容認することは,相当でないと思われる。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
コメント (1)
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中央区の適正な行政処分手続のための『中央区行政手続条例』平成八年六月二十八日 条例第十九号

2012-04-25 00:38:47 | シチズンシップ教育
 行政手続法(平成五年十一月十二日法律第八十八号)

 同法3条3項により、自治体の機関が条例・規則に基づいて行う行政行為は、行政手続法の適用除外となっており、

 同法46条で、各自治体はそれぞれ行政手続法に準じた行政手続条例を制定しています。

*****行政手続法 関連条文*****
(適用除外)
第三条  次に掲げる処分及び行政指導については、次章から第四章までの規定は、適用しない。
一  国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二  裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三  国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四  検査官会議で決すべきものとされている処分及び会計検査の際にされる行政指導
五  刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分及び行政指導
六  国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、収税官吏、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び行政指導並びに金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分及び行政指導
七  学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分及び行政指導
八  刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分及び行政指導
九  公務員(国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項 に規定する国家公務員及び地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第三条第一項 に規定する地方公務員をいう。以下同じ。)又は公務員であった者に対してその職務又は身分に関してされる処分及び行政指導
十  外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導
十一  専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二  相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として法令の規定に基づいてされる裁定その他の処分(その双方を名あて人とするものに限る。)及び行政指導
十三  公衆衛生、環境保全、防疫、保安その他の公益にかかわる事象が発生し又は発生する可能性のある現場において警察官若しくは海上保安官又はこれらの公益を確保するために行使すべき権限を法律上直接に与えられたその他の職員によってされる処分及び行政指導
十四  報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導
十五  審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の処分
十六  前号に規定する処分の手続又は第三章に規定する聴聞若しくは弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において法令に基づいてされる処分及び行政指導
2  次に掲げる命令等を定める行為については、第六章の規定は、適用しない。
一  法律の施行期日について定める政令
二  恩赦に関する命令
三  命令又は規則を定める行為が処分に該当する場合における当該命令又は規則
四  法律の規定に基づき施設、区間、地域その他これらに類するものを指定する命令又は規則
五  公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について定める命令等
六  審査基準、処分基準又は行政指導指針であって、法令の規定により若しくは慣行として、又は命令等を定める機関の判断により公にされるもの以外のもの
3  第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。

(地方公共団体の措置)
第四十六条  地方公共団体は、第三条第三項において第二章から前章までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。


************************************

 そこで、中央区の『中央区行政手続条例』。

 中央区の行政処分手続は、この条例に沿って適正になされることが求められています。

 以下、その条例。

********中央区行政手続条例**********

○中央区行政手続条例

平成八年六月二十八日

条例第十九号

中央区行政手続条例

目次
第一章 総則(第一条―第四条)
第二章 申請に対する処分(第五条―第十一条)
第三章 不利益処分
第一節 通則(第十二条―第十四条)
第二節 聴聞(第十五条―第二十六条)
第三節 弁明の機会の付与(第二十七条―第二十九条)
第四章 行政指導(第三十条―第三十四条)
第五章 届出(第三十五条)
附則

第一章 総則
(目的等)
第一条 この条例は、処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が区民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り、もって区民の権利利益の保護に資することを目的とする。
2 処分、行政指導及び届出に関する手続に関しこの条例に規定する事項について、他の条例に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。

(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 条例等 条例及び規則(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第二項に規定する規程を含む。)をいう。
二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
三 申請 条例等に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四 不利益処分 行政庁が、条例等に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために条例等において必要とされている手続としての処分
ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの
五 区の機関 中央区の執行機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法令(条例等を含む。)により独立に権限を行使することを認められた職員をいう。
六 行政指導 区の機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
七 届出 行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、条例等により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の条例等における効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。
2 前項の規定にかかわらず、同項第三号に掲げる用語の意義は第三十一条において同号中「条例等」とあるのは、「法令(条例等を含む。)」とする。
(一部改正〔平成一二年条例四号〕)

(適用除外)
第三条 処分及び行政指導で行政手続法(平成五年法律第八十八号。以下「法」という。)第三条第一項各号に掲げるものについては、次章から第四章までの規定は、適用しない。

(国の機関等に対する処分等の適用除外)
第四条 国の機関、区の機関又は他の地方公共団体若しくはその機関に対する処分(これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る。)及び行政指導並びにこれらの機関又は団体がする届出(これらの機関又は団体がその固有の資格においてすべきこととされているものに限る。)については、この条例の規定は適用しない。

第二章 申請に対する処分
(審査基準)
第五条 行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定めるものとする。
2 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
3 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、条例等により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。

(標準処理期間)
第六条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(条例等により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

(申請に対する審査及び応答)
第七条 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の条例等に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。

(理由の提示)
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、条例等に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載、添付書類その他申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。
(一部改正〔平成二〇年条例二二号〕)

(情報の提供)
第九条 行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。
2 行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。

(公聴会の開催等)
第十条 行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該条例等において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。

(複数の行政庁が関与する処分)
第十一条 行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない。
2 一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては、当該複数の行政庁は、必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努めるものとする。

第三章 不利益処分
第一節 通則
(処分の基準)
第十二条 行政庁は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(次項において「処分基準」という。)を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、当該不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ イ及びロに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二 前号イからハまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。
二 条例等において必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。
三 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が条例等において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。
四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
五 申出に基づき当該申出をした者を名あて人としてされる不利益処分をしようとするとき。
六 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして区規則で定める処分をしようとするとき。

(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。

第二節 聴聞
(聴聞の通知の方式)
第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 聴聞の期日及び場所
四 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地
2 前項の書面においては、次に掲げる事項を教示しなければならない。
一 聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること。
二 聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。
3 行政庁は、不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合においては、第一項の規定による通知を、その者の氏名、同項第三号及び第四号に掲げる事項並びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合においては、掲示を始めた日から二週間を経過したときに、当該通知がその者に到達したものとみなす。

(代理人)
第十六条 前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は、代理人を選任することができる。
2 代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる。
3 代理人の資格は、書面で証明しなければならない。
4 代理人がその資格を失ったときは、当該代理人を選任した当事者は、書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。

(参加人)
第十七条 第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は、必要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる条例等に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号において「関係人」という。)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる。
2 前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は、代理人を選任することができる。
3 前条第二項から第四項までの規定は、前項の代理人について準用する。この場合において、同条第二項及び第四項中「当事者」とあるのは、「参加人」と読み替えるものとする。

(文書等の閲覧等)
第十八条 当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人(以下この条及び第二十四条第三項において「当事者等」という。)は、聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し、当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。
2 前項の規定は、当事者等が聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることを妨げない。
3 当事者等は、聴聞が終結するまでの間、行政庁に対し、前二項の規定により閲覧した資料の写しの交付を求めることができる。この場合において、写しの作成に要する費用は、当該写しの交付を受ける者の負担とする。
4 前項の規定は、法第十八条第一項及び第二項の規定により閲覧した資料について準用する。この場合において、前項中「当事者等」とあるのは「法第十八条第一項の当事者等」と、「前二項」とあるのは「同項及び同条第二項」と読み替えるものとする。
5 行政庁は、第一項及び第二項の閲覧並びに第三項(前項の規定により準用される場合を含む。)の写しの交付について日時及び場所を指定することができる。

(聴聞の主宰)
第十九条 聴聞は、行政庁が指名する職員その他区規則で定める者が主宰する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、聴聞を主宰することができない。
一 当該聴聞の当事者又は参加人
二 前号に規定する者の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
三 第一号に規定する者の代理人又は次条第三項に規定する補佐人
四 前三号に規定する者であったことのある者
五 第一号に規定する者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
六 参加人以外の関係人
(一部改正〔平成一二年条例一二号〕)

(聴聞の期日における審理の方式)
第二十条 主宰者は、最初の聴聞の期日の冒頭において、行政庁の職員に、予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければならない。
2 当事者又は参加人は、聴聞の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠書類等を提出し、並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。
3 前項の場合において、当事者又は参加人は、主宰者の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
4 主宰者は、聴聞の期日において必要があると認めるときは、当事者若しくは参加人に対し質問を発し、意見の陳述若しくは証拠書類等の提出を促し、又は行政庁の職員に対し説明を求めることができる。
5 主宰者は、当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても、聴聞の期日における審理を行うことができる。
6 聴聞の期日における審理は、行政庁が公開することを相当と認めるときを除き、公開しない。

(陳述書等の提出)
第二十一条 当事者又は参加人は、聴聞の期日への出頭に代えて、主宰者に対し、聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。
2 主宰者は、聴聞の期日に出頭した者に対し、その求めに応じて、前項の陳述書及び証拠書類等を示すことができる。

(続行期日の指定)
第二十二条 主宰者は、聴聞の期日における審理の結果、なお聴聞を続行する必要があると認めるときは、更に新たな期日を定めることができる。
2 前項の場合においては、当事者及び参加人に対し、あらかじめ、次回の聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければならない。ただし、聴聞の期日に出頭した当事者及び参加人に対しては、当該聴聞の期日においてこれを告知すれば足りる。
3 第十五条第三項の規定は、前項本文の場合において、当事者又は参加人の所在が判明しないときにおける通知の方法について準用する。この場合において、同条第三項中「不利益処分の名あて人となるべき者」とあるのは「当事者又は参加人」と、「掲示を始めた日から二週間を経過したとき」とあるのは「掲示を始めた日から二週間を経過したとき(同一の当事者又は参加人に対する二回目以降の通知にあっては、掲示を始めた日の翌日)」と読み替えるものとする。

(当事者の不出頭等の場合における聴聞の終結)
第二十三条 主宰者は、当事者の全部若しくは一部が正当な理由なく聴聞の期日に出頭せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書若しくは証拠書類等を提出しない場合、又は参加人の全部若しくは一部が聴聞の期日に出頭しない場合には、これらの者に対し改めて意見を述べ、及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく、聴聞を終結することができる。
2 主宰者は、前項に規定する場合のほか、当事者の全部又は一部が聴聞の期日に出頭せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合において、これらの者の聴聞の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは、これらの者に対し、期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め、当該期限が到来したときに聴聞を終結することとすることができる。

(聴聞調書及び報告書)
第二十四条 主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し、当該調書において、不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければならない。
2 前項の調書は、聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに、当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。
3 主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、第一項の調書とともに行政庁に提出しなければならない。
4 当事者又は参加人は、第一項の調書及び前項の報告書の閲覧を求めることができる。
5 当事者又は参加人は、前項の規定により閲覧した調書及び報告書の写しの交付を求めることができる。この場合において、写しの作成に要する費用は、当該写しの交付を受ける者の負担とする。
6 前項の規定は、法第二十四条第四項の規定により閲覧した調書及び報告書について準用する。この場合において、前項中「当事者又は参加人」とあるのは「法第二十四条第四項の当事者又は参加人」と、「前項」とあるのは「同項」と読み替えるものとする。

(聴聞の再開)
第二十五条 行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは、主宰者に対し、前条第三項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる。第二十二条第二項本文及び第三項の規定は、この場合について準用する。

(聴聞を経てされる不利益処分の決定)
第二十六条 行政庁は、不利益処分の決定をするときは、第二十四条第一項の調書の内容及び同条第三項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。

第三節 弁明の機会の付与
(弁明の機会の付与の方式)
第二十七条 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類等を提出することができる。

(弁明の機会の付与の通知の方式)
第二十八条 行政庁は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時及び場所)

(聴聞に関する手続の準用)
第二十九条 第十五条第三項及び第十六条の規定は、弁明の機会の付与について準用する。この場合において、第十五条第三項中「第一項」とあるのは「第二十八条」と、「同項第三号及び第四号」とあるのは「同条第三号」と、第十六条第一項中「前条第一項」とあるのは「第二十八条」と、「同条第三項後段」とあるのは「第二十九条において準用する第十五条第三項後段」と読み替えるものとする。

第四章 行政指導
(行政指導の一般原則)
第三十条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該区の機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

(申請に関連する行政指導)
第三十一条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。ただし、申請者が当該行政指導に従わないことにより公共の利益が害されると認められるときは、当該行政指導を継続することができる。

(許認可等の権限に関連する行政指導)
第三十二条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する区の機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。

(行政指導の方式)
第三十三条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。
2 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
3 前項の規定は、次に掲げる行政指導については、適用しない。
一 相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの
二 既に文書(前項の書面を含む。)によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの

(複数の者を対象とする行政指導)
第三十四条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、区の機関は、あらかじめ、事案に応じ、これらの行政指導に共通してその内容となるべき事項を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。

第五章 届出
(届出)
第三十五条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の条例等に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が条例等により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

附 則
1 この条例は、平成八年十月一日から施行する。
2 この条例の施行前に第十五条第一項又は第二十八条の規定による通知に相当する行為がされた場合においては、当該通知に相当する行為に係る不利益処分の手続に関しては、第三章の規定にかかわらず、なお、従前の例による。
附 則(平成一二年三月三一日条例第四号)抄
(施行期日)
第一条 この条例は、平成十二年四月一日から施行する。
(東京都中央区行政手続条例の一部改正に伴う経過措置)
第二条 この条例の施行の際現に東京都行政手続条例(平成六年東京都条例第百四十二号)の規定に基づき定められている審査基準、標準処理期間及び処分基準は、第一条の規定による改正後の東京都中央区行政手続条例の規定に基づき定められたものとみなす。
附 則(平成一二年三月三一日条例第一二号)
この条例は、平成十二年四月一日から施行する。
附 則(平成二〇年一〇月二〇日条例第二二号)抄
(施行期日)
1 この条例は、平成二十年十一月一日から施行する。


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声に出せない声もあると思います。でも、日本の宝、世界のブランド築地市場は必ず現在地で守る。

2012-04-24 16:42:51 | 築地を守る、築地市場現在地再整備

 本日、築地市場で働かれている皆様の声を、築地市場でお伺いいたしました。  

 やっぱり、築地市場を現在地で守らねばならないと強く感じました。  

 大事な部分が市場内関係者に知らされず、(もしくは、ごくごく一部の方たちにしか知らされていないのかもしれませんが、)移転の計画が独り歩きしています。  

 大事な部分、例えば。  

 市場の冷温管理はいったいどうなるのか?15度の話が、25度いや22度?  

 ランニングコストがものすごくかかり、それに、土壌汚染対策費が上乗せされ、市場利用料がべらぼうに高くなる可能性があります。  
 利益率がものすごく薄くなっている中、さらなる経費の上昇は、経営に大きなダメージとなることが予想されます。  
 きっと、市場利用料は、最後の最後に出されるのでしょう。  

 土壌汚染対策も、話が変わってきている節があります。  
 土壌汚染が、ヒ素、鉛など自然由来は残してもよいという話が、あからさまに聞こえてきています。  
 そのような状況では、揮発性のベンゼンが、実際に開場後の市場に、出てくることが考えられます。  
 土壌汚染は、すべてにおいて環境基準以下にする約束が、いつの間にか反古にされようとしています。  

 一部業種は、海水を使う必要があるが、人工海水を使うというところ、ろ過海水に変更されることへの説明がなされていません。  

 様々な問題が、新たに生じてきているのに、その声を実際にあげることが、難しくなっています。  
 今、声をあげることで、東京都に目をつけられることが、市場関係者が、口には出せないけれどもたいへん恐れています。  

 そんな様々な声が聞こえる中、しかし、築地市場を守ることができるものと確信しています。  

 なぜならば、  築地市場移転問題関連裁判で、築地市場移転問題の不正義、不法、違法な点を一つずつ明らかにできています。  
 動かぬ証拠となります。  
 この動かぬ証拠を根拠に、都の言い分を、都民の力で覆します。  

 なぜ、わざわざ、土壌汚染地に不十分な土壌汚染調査・対策にもかかわらず、移転させねばならないのでしょうか。  
 食の安心安全、築地のブランド、築地の食の文化、築地のまちのにぎわいを犠牲にして。  

 これから始まる、移転候補地豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄(汚染証拠隠滅)差止め請求裁判の控訴審も、ぜひともご注目ください。
 4月26日木曜日11時、東京高等裁判所424号法廷 

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4月26日11時東京高裁 コアサンプル廃棄差止め等請求控訴事件 第1回口頭弁論

2012-04-24 01:49:53 | 築地を守る、築地市場現在地再整備


皆様

築地市場移転問題原告団事務局より、公判のスケジュールのお知らせをいたします。
提訴から2年半を経たコアサンプル廃棄差し止め訴訟は、昨年12月22日、の東京地裁により、「棄却」の判決を受けました。原告団は直ちに東京高裁に控訴しを提出、いよいよ控訴人98名による控訴審第1回の公判をむかえます。下記の通りご案内いたしますので、多くの方の傍聴をお願いいたします。

 コアサンプル廃棄差止め等請求控訴事件 第1回口頭弁論
日時:4月26日(木)午前11時
場所:東京高等裁判所424号法廷
期日終了後はいつもどおり弁護士会館に移動して報告集会の開催を予定しております。
ご都合がつきましたらぜひご出席いただければ幸いと存じます。

 東京地裁判決は棄却であったものの、判決文では「人格権に基づく権利の認定」「安全配慮義務に基づく権利の認定」などが記されました。仲卸や消費者の二つの権利を勝ち取ったことは大きな前進だと思いますが、残念ながら「廃棄の差し止め」を勝ち取るところまでは至りませんでした。
 コアサンプルは、豊洲新市場の汚染対策工事に直接かかわる重要な資料であり、汚染の範囲などの調査不足を裏付ける「証拠物」です。仮に調査などに問題が無いのであれば、都がこれほど廃棄にこだわる必要は無いはずですが、都は、第一審で明らかになった調査データの不整合についても、何の合理的な説明もできないまま工事を開始しています。その結果、予測される放置汚染の問題はかなり深刻です。また、液状化対策設計もレベル1(最大加速度144ガル)で、昨年3月の東京湾岸の地震動より小さいことも判りました。加えて液状化判定のあった部分を全部対策する訳ではないことも判っています。したがって、残置された汚染の封じ込めもできないことになりますので、食品を扱う卸売市場用地としては、どう考えても問題が多過ぎます。この裁判は市場で働く人や消費者の「身体の生命・安全」を守るためのものです。引き続き多くの方人のご賛同とご支援をお願いいたします。
 
★【築地移転問題関連裁判のご案内】 (市場用地購入に関し、汚染地を汚染無しの不当に高い金額で購入したことについて、公金の返還を求める裁判)
    公金支出金返還請求事件 第9回口頭弁論
    日時:5月30日(水)午後4時30分~
    場所:東京地方裁判所522号法廷

★【 3月2日提出「豊洲新市場予定地のうち昨年3月~4月に購入された(1162億円)分に関する住民監査請求」について】
 3月19日付けで「監査する」旨の通知がありました。監査に関連して4月5日「証拠及び陳述の機会」が設けられましたので、資料の提出と陳述を行いました。監査の結果は5月1日までにだされます。後日ご報告いたします。有効数559名の大型監査請求となりました。署名などご協力いただいた方、大変ありがとうございました。

引き続き 築地移転問題にご注目をよろしくお願いいたします。

〒104-0052 中央区月島3―30-4 イイジマビル1F
 築地市場移転問題原告団 事務局  TEL;03-5547-1191 

http://tsukiji-wo-mamoru.com/ 
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詐欺取引の場合より取引安全を保護すべき錯誤取引の第三者の保護規定が民法95条にないのは、なぜ?

2012-04-23 23:32:26 | シチズンシップ教育

 多々言われているところと思います。学説では、深い考察がなされているのかもしれません。

 ただ、初学者としてもひっかかるところであり、記載します。

 詐欺の場合、引き続きの取引の第三者を保護する規定があります。
 だまされている訳であり、その契約の本人は、保護されてしかるべきで、その契約は取り消すことができます(96条1項)。
 その一方、第三者の取引の安全も保護されています(96条3項、下線部分)。


******民法96条******
(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

*****************

 ところが、錯誤の場合には、言うなれば、本人のうっかりミスで契約がなされ、そのうっかりの場合でも、本人保護ゆえ、契約は無効になります(95条)。
 引き続きの取引の第三者は、ある意味、たまったものではありません。
 本人のうっかりミスで、攻められるべきは、本人。詐欺と比較すれば、何倍も、本人の責任が大きいです。
 なのに、第三者の取引の安全を保護する規定が設けられていないのです。
 錯誤の条文は、95条はひとつであり、96条のように三項もありません。


******民法95条******
(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

*****************

 イメージとして、私は、保護すべき力関係は、

 詐欺でだまされた人の権利の保護 ≧ 引き続きの取引の第三者の保護 > 錯誤をおかした人の権利の保護

 と思います。

 だから、95条にも第三者保護の条文がほしかった…
 96条とのバランスからも。


 この点に関し、教科書 内田貴 著『民法 I』では、

*****引用****

(d)錯誤との関係

 詐欺が偽罔(ぎもう)行為による錯誤であるなら、錯誤についての95条との関係はどのように考えるべきだろうか。仮に設例(II-23)で、土地がCに転売されてからAが錯誤による無効を主張したとしよう。95条には第三者についての規定がないから、Aは常にCから土地を取り戻せるのだろうか。しかし、それでは取引の安全を害する。そこで、Bのところに登記があってCがそれを信頼したことをとらえて、94条2項を類推適用する余地もある。しかし、Aが錯誤に気づいて無効を主張する前にBからCに転売されてしまった場合、AはBが権利者であるという外観を放置し承認したとはいえないから、94条2項の類推は困難だろう。
 もちろん、それはそれでいいのだとも考えられる。つまり、Aが無効の主張をすることによりBははじめから無権利であったことになるのだから、無効主張前の転得者Cが保護されなくとも仕方がないともいえるからである。
 
 しかし、仮にAB間の取引が詐欺で取り消されたとすると、善意(無過失)のCは保護される。そして、錯誤と詐欺を比べると、自分で勝手に勘違いした場合を想定している錯誤よりも他人に騙された詐欺の方が本人保護の要請が強いはずなのに、96条3項によって、逆に、表意者の保護が薄く(第三者の保護が厚く)なってしまう。これはアンバランスであろう。そこで、錯誤の場合にも、96条3項を類推して第三者保護を図るべきである。
 このことは、同一の事案が錯誤と詐欺の双方に該当することが少なくないという事情からも支持されよう(詐欺が成立する場合でも、相手方を刺激しない錯誤が主張されることが少なくないといわれる。)

***********

 結局、95条に錯誤の場合の第三者保護規定をおいていないことの理由が解決されませんでした。

 96条3項類推を使うんだよ(厳密に言えば、無効主張前の第三者の場合)と、すんなりと済ませればよいのだけど、ひっかかってしまいました。
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人に不注意に、不動産権利証、印鑑登録証明書、実印を渡したり、内容未確認の署名押印は絶対やめて!

2012-04-23 10:15:37 | シチズンシップ教育
 Xさんは、以下の経過のもと、自分の不動産だったものを、「自分のものだ。」とYさんに主張しましたが、最高裁(H18.2.23第一小法廷判決)は、その主張を認めませんでした。

 不動産は、ひとつしかなく、両立しえないXさんの権利と、Yさんの取引の安全とどちらかを立てるしかありません。(Aとの関係ではなく、無過失のYさんとの関係が問題になっています。)


 実際にそのようなことがあるのかと思われるかと思いますが、不動産取り引きは、なかなか分かりにくく、ついひとに頼ってしまいます。

 でも、不注意にしていると、大切な財産を失ってしまいます。


 どうか、みなさん、気をつけてください!



**********事件の概要********************


H8.1月 X(原告・控訴人・上告人)は、「本件不動産」買い受け、所有権移転登記
    (A紹介)

 本件不動産を、すべてAに依頼して第三者に賃貸
 (賃借人との交渉、契約書作成、敷金の授受。本件不動産管理の業者委託のため諸経費の名目240万円Aに交付)


H11.9月~H12.1月
 1)本件不動産の登記済証(不動産権利証) Aに預ける(上記240万円返還手続きのため必要と言われ)

 2)印鑑登録証明書4通  Aに交付(別件土地の所有権移転登記手続き、隣接地との合筆登記手続きに必要と言われ)

 3)本件不動産 4300万円 売買契約書署名押印(Aに売り渡す旨の契約書、売却の意思ないが、その内容及び使途を確認なく、Aから言われるままに署名押印)


H12.2.1 
 4)実印をAに渡す(別件土地 登記手続きに必要と言われ)
  Aがその場で、本件不動産の登記申請書に押印するのを漫然と見ていた。
 →この登記申請書、1)登記済証、2)印鑑登録証明書を用いて、同日、本件不動産につき、XからAへの同年1月31日売買を原因とする所有権移転登録手続き「本件登記」をした。


H12.3.23 Aは、Y(被告・被控訴人・被上告人)との間で本件不動産の売買契約締結
売買を原因とするY名義への所有権移転登記がなされた。
     (Yは、本件登記等からAが本件不動産の所有者であると無過失で信じていた。)


H15. Xが、本件不動産の所有権に基づきこの所有権移転登記の抹消登記手続をYに求める裁判提起。


****************************

 


 最高裁が、Xさんの主張を認めなかった理由。

******最高裁ホームページより********
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120744690649.pdf

    主     文

       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。

            理     由

 上告代理人河野浩,同千野博之の上告受理申立て理由1について

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,平成7年3月にその所有する土地を大分県土地開発公社の仲介
により日本道路公団に売却した際,同公社の職員である甲と知り合った。

 (2) 上告人は,平成8年1月11日ころ,甲の紹介により,Dから,第1審判
決別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下,これらを併せて「本
件不動産」という。)を代金7300万円で買い受け,同月25日,Dから上告人
に対する所有権移転登記がされた。

 (3) 上告人は,甲に対し,本件不動産を第三者に賃貸するよう取り計らってほ
しいと依頼し,平成8年2月,言われるままに,業者に本件不動産の管理を委託す
るための諸経費の名目で240万円を甲に交付した。上告人は,甲の紹介により,
同年7月以降,本件不動産を第三者に賃貸したが,その際の賃借人との交渉,賃貸
借契約書の作成及び敷金等の授受は,すべて甲を介して行われた。

 (4) 上告人は,平成11年9月21日,甲から,上記240万円を返還する手
続をするので本件不動産の登記済証を預からせてほしいと言われ,これを甲に預け
た。
 また,上告人は,以前に購入し上告人への所有権移転登記がされないままになっ
ていた大分市大字a字b)c番dの土地(以下「c番dの土地」という。)につい
ても,甲に対し,所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していた
が,甲から,c番dの土地の登記手続に必要であると言われ,平成11年11月3
0日及び平成12年1月28日の2回にわたり,上告人の印鑑登録証明書各2通(
合計4通)を甲に交付した。
 なお,上告人が甲に本件不動産を代金4300万円で売り渡す旨の平成11年1
1月7日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が存在するが,これ
は,時期は明らかでないが,上告人が,その内容及び使途を確認することなく,本
件不動産を売却する意思がないのに甲から言われるままに署名押印して作成したも
のである。

 (5) 上告人は,平成12年2月1日,甲からc番dの土地の登記手続に必要で
あると言われて実印を渡し,甲がその場で所持していた本件不動産の登記申請書に
押印するのを漫然と見ていた。甲は,上告人から預かっていた本件不動産の登記済
証及び印鑑登録証明書並びに上記登記申請書を用いて,同日,本件不動産につき,
上告人から甲に対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続をした
(以下,この登記を「本件登記」という。)。

 (6) 甲は,平成12年3月23日,被上告人との間で,本件不動産を代金35
00万円で売り渡す旨の契約を締結し,これに基づき,同年4月5日,甲から被上
告人に対する所有権移転登記がされた。被上告人は,本件登記等から甲が本件不動
産の所有者であると信じ,かつ,そのように信ずることについて過失がなかった。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件不動産の所有権に基づき,甲から
被上告人に対する所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案であり,原審は,民
法110条の類推適用により,被上告人が本件不動産の所有権を取得したと判断し
て,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 3 前記確定事実によれば,上告人は,甲に対し,本件不動産の賃貸に係る事務
及びc番dの土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが,そ
のために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もない
のに甲に預けて数か月間にわたってこれを放置し,甲からc番dの土地の登記手続
に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通を甲に交付し,本件不動産を
売却する意思がないのに甲の言うままに本件売買契約書に署名押印するなど,甲に
よって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかか
わらず,これを顧みることなく,さらに,本件登記がされた平成12年2月1日に
は,甲の言うままに実印を渡し,甲が上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請
書に押捺したのに,その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫
然とこれを見ていたというのである。【要旨】そうすると,甲が本件不動産の登記
済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件
登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為に
よるものであり,甲によって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについて
の上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知り
ながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである
。そして,
前記確定事実によれば,被上告人は,甲が所有者であるとの外観を信じ,また,そ
のように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項
,110条の類推適用により,上告人は,甲が本件不動産の所有権を取得していな
いことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。上
告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において正当であり,論旨
は理由がない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫
裁判官 泉 徳治 裁判官 才口千晴)
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憲法学:違憲審査基準、それを理解していくために。「二重の基準の理論」について。

2012-04-22 00:14:31 | シチズンシップ教育

 厳格な合理性の基準、LRAの基準、合理的関連性の基準、明白性の基準、目的効果基準、明白かつ現在の危険の基準など、様々な違憲審査基準が、憲法学の教科書にでてきます。

 

<二重の基準の理論>

 精神的自由は、立憲民主政の政治過程にとって不可欠な権利であるから、それは経済的自由に比べて優越的地位を占めるとし、したがって、人権を規制する法律の違憲審査にあたって、経済的自由の規制立法に関して適用される「合理性の基準」は、精神的自由の規制立法には妥当せず、より厳格な基準によって審査されなければならないとする理論です。

 経済的な自由に関しては、弱い保障で構わないということで、「合理性の基準」で違憲審査を行います。
 それは、立法府が、判断に合理性があると推定するところに起因します。(合憲性の推定)
 なぜ、立法府があまり間違っていないと言えるのか、ご存じのように、選挙で選ばれた国会議員が内閣と連携し、また様々な関連団体の声も反映し法案を作り、公開の国会で議論されて、法律ができているからであります。
 そして、万が一、誤った法律であったとしても、民主政が機能する限り、悪法は改正され、よりよい法律に淘汰されていくことが期待できるからです。


 「合理性の基準」は、一般的には精神的な自由(「表現の自由」をはじめ)には適用しません。(合憲性の推定は排除される。)
 裁判所側の事情として、判断がしやすいということが一つあります。
 さらに重要なこととして、精神的な自由は、主に「表現の自由」であり、それは、民主政と密接に関連し、言うなれば民主政そのものであります。民主政の根幹をなすものであることより、慎重に審査せねばならないからです。
 なぜなら、民主政の過程が一端傷つくと回復しづらいことが大きな理由としてあります。 
 慎重な判断、厳格な判断が求められることになります。



 よって、考え方として

 精神的自由は、強い保障が必要であり、特に最も守るべき精神的自由(政治的な言論の自由、信教の自由、プライバシー権)には、「厳格な基準」が用いられます。

 中間ぐらいの程度に強い保障が必要な場合、精神的自由(ビラ配り、街宣活動、ポスター掲示など)や、経済的な自由の中では、もっとも保障すべきもの(森林法、薬事法距離制限、郵政法事件)には、「厳格な合理性の基準」が用いられます。

 そして、経済的な自由など、弱い保障である場合、上述の「合理性の基準」が使われます。
 精神的自由にも、弱い保障の場合があります。営利的な言論の自由、ポルノグラフィーなど。


 整理しますと、

「厳格な基準」:強い保障が必要な場合。最も守るべき精神的自由(政治的な言論の自由、信教の自由、プライバシー権)

「厳格な合理性の基準」:中間ぐらいの程度に強い保障が必要な場合。精神的自由(ビラ配り、街宣活動、ポスター掲示など)&経済的自由(森林法、薬事法距離制限、郵便法事件)
 →目的と手段において、実質的関連性があるか必要性・合理性から判断、「LRAの基準」

「合理性の基準」:弱い保障の場合。主に経済的な自由&一部精神的自由(営利的な言論の自由、ポルノグラフィーなど)


 精神的な自由と経済的な自由の間では、すでに保障の程度が、「精神的な自由>経済的な自由」と考えられ、基準の尺度が根本的に異なる故、「二重の基準の理論」が多く用いられます。(アメリカ法の考え方) 英語では、double standard。


*********************
 次に、 

 それぞれの基準において、では、実際にどのように審査するか。

1)目的審査としての、規制利益の有無(規制目的) 

2)手段審査としての、規制目的と規制手段の関連性

 

 具体例

『薬事法違憲訴訟』(最大判昭50.4.30)

1)目的審査:不良薬品の供給防止(生命・健康を守る)

2)手段審査:薬局間の距離制限

 判例では、1)2)の関連性がなく、違憲判断



『前科照会事件』(最三判昭56.4.14)

1)目的審査:公正な裁判の実現のために必要

2)手段審査:他に代わるべき立証手段がない 

 判例での用いられた状況の例、

*****『前科照会事件』(最三判昭56.4.14)での伊藤正己裁判官 補足意見より******

裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。


 他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であつても、国や地方公共団体による公開であつても変わるところはない。国又は地方公共団体においては、行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプライバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まつているといつてよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを広く公開することに対する要求もつよまつてきている。しかし、このことも個人のプライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるのである。

 本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。このように考えると、人の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである。本件の場合、京都弁護士会長の照会に応じて被上告人の前科等を報告した中京区長の過失の有無について反対意見の指摘するような事情が認められるとしても、同区長が前述のようなきびしい守秘義務を負つていることと、それに加えて、昭和二二年地方自治法の施行に際して市町村の機能から犯罪人名簿の保管が除外されたが、その後も実際上市町村役場に犯罪人名簿が作成保管されているのは、公職選挙法の定めるところにより選挙権及び被選挙権の調査をする必要があることによるものであること(このことは、原判決の確定するところである。)を考慮すれば、同区長が前科等の情報を保管する者としての義務に忠実であつたとはいえず、同区長に対し過失の責めを問うことが酷に過ぎるとはいえないものと考える。 

 

 
 

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