「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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事実の確認、そのための情報の入手が基本中の基本。民事訴訟法220条での証拠提出義務の規定をみると。

2015-05-10 10:10:59 | 民事訴訟法学

 どのような政策をつくるにしても、まずは、問題の所在を確認するために、現状における事実はどのようであるかしる必要があります。

 事実が誤っていると、当然に、政策も誤ることになります。
 裁判では、誤った、もしくは、不利な判決に繋がります。

 事実の確認に当たっては、刑事訴訟法が、民事訴訟法より厳格なのですが、通常我々は、民事の中で生きていますので、ここでは、民事訴訟法の規定を見ることにします。

 (*民事訴訟法の特別法としての、情報公開法に考え方が引き継がれているとも考えられ、民事訴訟法から情報公開の考え方を紐解くため、今回のブログ記載をしています。本当のところは、住民の皆様に直接関係のある情報公開法、情報公開条例に話を今後進めたいと考えています。)


 事実を確認するためには、証拠とくに文書での証拠を得る必要があります。(行政分野においては、文書を取り寄せる必要があります。)

 
 そこで、文書提出の義務の考え方が問題となります。(行政分野においては、情報公開の考え方が問題となります。)


 まず、民事訴訟法における文書提出義務の考え方を見ます。(行政分野の、情報公開の考え方につながるはずです。)


 民事訴訟法は、平成8年6月26日に改正され、平成10年に施行され、刷新されています。
 改正以前を旧法、それ以後を現行法と表現することにします。

 新法220条で規定されている事実を確認するための証拠の提出義務の考え方が、大きく変わっています。
 現行法において、証拠提出の考え方が、発想が逆転され、提出義務が、広がったと言ってもよいかもしれません。

 旧法では、1~3号以外は、提出義務なしでした

 現行法では、4号に該当する場合は、提出義務なしで、それ以外は、提出義務ありに変わっています


******現行法 民事訴訟法*********

(文書提出義務)
第二百二十条  次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。

 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

********************

 

 概念図であらわすと、以下の様になります。
 斜線が、証拠提出義務なしの範囲です。



 文書提出義務の考え方が大きく変わりましたが、ここで、ひとつの壁があります。

 民事訴訟法220条4号二 「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(=「自己利用文書」という。)に該当するということで、文書提出義務から外れてしまい、提出されなくなるという壁です

 自己利用文書にあたるかどうかは、以下の①形式的、②実質的に判断し、かつ、③特段の事情がないかを検討したうえで、最終判断されます。

 自己利用文書に当たらない場合は、提出義務の対象となります。


 今後詳述したいと考えますが、情報公開法でも、原則公開なのだけど、特定の規定に該当すると公開されないとなっています。さらに特定の規定にあたってもなお、公開される場合があるとなっています。


 比較のため、情報公開法の規定を以下にあげます。

 情報公開法5条で、一号から六号に(不開示情報)あたらない限り公開するとなり、不開示情報にあたっても、なお公開される場合(同条一号イないしハ)があるとされています。

******情報公開法、行政機関の保有する情報の公開に関する法律 ******

(行政文書の開示義務)
第五条  行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

 一
 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
 当該個人が公務員等(国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項 に規定する国家公務員(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第二項 に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律 (平成十三年法律第百四十号。以下「独立行政法人等情報公開法」という。)第二条第一項 に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)の役員及び職員、地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条 に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第一項 に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

 二
 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの

 三
 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

 四
 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

 五
 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

 六
 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

*******************************


 おまけ!!

 最初に民事の世界と御断りをしました。
 刑事の世界では、ひとを裁くに当たって、実は、文書は、原則証拠になりません。
 厳格な要件に耐えた文書のみ(刑事訴訟法321条~328条に該当する場合に限り)、裁判における証拠として(証拠能力有りとして)扱われます。
 なお、証拠能力があっても、証明力があるかどうかは、また、別の次元の話です。

*********刑事訴訟法******
第三百二十条  
 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない
○2  第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。
********************
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信義則(民事訴訟法2条)を、民法ではなく、民事訴訟法に従い裁判において用いる5類型

2015-02-04 23:00:00 | 民事訴訟法学
 事件自体の中に、相手に信義誠実に反することがあったことを争うのではなく(民法での普通の信義則の使い方ではなく)、裁判において、相手のとった行動(訴訟行為)が、信義誠実に反するとして、裁判で争う手法(相手のその行為を却下してなかったものとする方法)を以下に列挙します。

 民事訴訟法上の信義則の使う例です。
 このことを学んだ時は、民事訴訟法学を、楽しいと思った一場面でした。
 民法で、信義則を持ち出したら、負けるといいますが、民事訴訟法では、信義則を、有効に用いることができる場合が多いようなところが楽しいと思った点です。もちろん、民法でも、信義則の主張は有効とは思いますが…

 5つの類型化ができます。


**********************************************

訴訟行為と信義則

1.信義則の意義
(1)訴訟上の信義則(2)
・信義則:当事者間の特別な関係を根拠として、特定の行為の効力を制限しようとするもの
・権利濫用:制度的又は公共的見地から、行為の効力を制限するもの

(2)効果
・当事者は、行為規範として信義に従い、誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
・裁判所は、信義則に反する訴訟行為を却下するか、訴訟行為本来の効力を否定する。

2.信義則の類型化

(1)訴訟状態の不当形成
・意義:当事者が、法規の要件事実を作為的に形成して、当該法規を不当に適用せしめ、または、要件事実の発生を故意に妨げて、当該法規の適用を不当に回避しようとすること。

*法人格否認の法理(最判昭和48年10月26日民集27巻9号1240頁、主要判例集19事件)、管轄選択権の濫用(札幌高決昭和41年9月19日高民19巻5号428頁、第7回資料3)など


(2)先行行為に対する矛盾挙動の禁止(禁反言)
①意義:ある事実に基づき訴えを提起し、その事実の存在を極力主張・立証した者が、その後相手方から右事実の存在を前提とする別訴提起や主張をされると、一転して右事実の存在を否認すること
②要件
・先行行為と後行行為との間に矛盾があること
・当事者の先行行為を相手方が信頼したこと
・矛盾行為を容認したのでは先行行為を信頼した相手方の利益を不当に害することになること

【例】
 Xは、金500万円の手形債権に基づいて、A所有の動産に仮差押えの執行をした。これに対して、Aの娘婿Yは、以前にAより営業譲渡を受けており、上記動産はそれに含まれていることを理由に、執行対象物件はYの所有物であると主張して、第三者異議訴訟(第一訴訟)を提起して、営業譲渡に伴う商号使用に関する公正証書等を証拠として提出し、自己の主張にかかる当該事実の証明に努力した。

 そこで、Xは、Yを被告として、営業譲渡に伴う商号続用により会社法22条が適用される結果、Aの営業上の債務である本件手形債務についてはYに責任があるとして、Yを被告とする手形金支払請求の訴えを提起した(第二訴訟)。第二訴訟において、Yは、第一訴訟とは異なり、営業譲渡を受けたことにより商号を続用したものではないとして、Xの主張を否認した。なお、第一訴訟は、その後、当事者双方が欠席したため、取下擬制により終了している。
 
 裁判所は、Yの営業譲渡を否認する主張について、どのように判断すべきか。

(参照判例)
最判昭和48年7月20日民集27巻7号890頁(主要判例集20事件、百選Ⅰ12事件)



(3)訴訟上の権能の失効
①意義:当事者がある訴訟上の権能を長期間にわたって行使せずに放置すると、行使されないであろうとの正当な期待が相手方に生じるため、当事者の一方が改めてその権能を行使しようとしても、その権能は失効したものとされること

②要件
・長期間訴訟行為が行われなかった理由
・長期間の不作為によって形成された法律関係の内容
・当該訴訟行為を認めることによる相手方の不利益

【例】
 本件土地の所有者であるAは、大正11年に、推定家督相続人がなくて死亡し、親族会がB1を相続人に選定する決議をし、その旨の戸簿の届出がされたが、右届出は当該決議を無効とする判決によって抹消された。ところが、B1は、その間に、Aから本件土地を相続したとして、Y1の先代C(昭和20年9月死亡)に本件土地を売り渡して所有稚移転登記をし、Cは、さらにY2の先代D(昭和29年4月死亡)に転売して所有権移転登記をした。

 ところで、Ⅹの先代B2は、上記無効判決後に、親族会から適法にAの家督相続人に選定され、昭和7年12月に、C・Dの両名に対して、右の所有権移転登記の抹消等を求める本件訴えを提起したが、昭和12年3月に死亡し、その家督相続人であるⅩが本件訴訟を追行することになった。しかし、Ⅹは、昭和19年10月に戦争に召集されたため訴訟の進行を弁護士に委ねた。

 その後、昭和22年に復員すると、弁護士から事件記録が全部消失して再製を要するとの説明を受けながら、経済的な理由で裁判所に記録再製を要請しなかった。また、Xは、住所を変更したが、それを裁判所に届け出ることもせず、積極的に期日指定の申立てを行うこともまったくしなかった。しかるところ、訴外Eは、昭和54年10月に、本件土地の一部を買受け、本訴提起に伴う予告登記(処分禁止の仮処分登記)を発見して、Ⅹにその抹消を要請したが、拒絶され、昭和55年4月、予告登記の抹消を求める上申書を提出した。裁判所は、これに対し、訴訟は終了していないとして、昭和55年6月19日午前11時を口頭弁論期日として指定した。これに対して、Y1・Y2は、長期間の経過によりXが訴訟追行権を喪失したものとして、訴えの却下を求めた。

 裁判所は、どのような判断を下すべきか。

(参考判例)
最判昭和63年4月14日判タ683号62頁(資料4)
東京高判昭和60年4月24日判時1155号264頁(資料5:資料4の控訴審判決)



(4)訴訟上の権能の濫用禁止
・訴訟上の権能についても、法がそれを認めた趣旨を逸脱する利用は許されないこと

【例】
 Y有限会社(持分合計220口)は、Ⅹらを中心とする同族会社であったが、経営に行詰りを来した。そこで、代表取締役A(Ⅹの娘・持分93口)、取締役Ⅹ(持分100口)、Aの夫B(持分10口)等が協議した結果、A・Ⅹらはその持分の大半をC・D夫婦に譲渡してY会社の経営から手を引くことになり、昭和47年5月28日に、Ⅹの持分100口のうち40口をCに、60口をDに、Aの持分93口のうち90口及びBの持分10口をDに譲渡する合意がなされ、C・Dは右持分譲受の代償としてA会社の債務の弁済等のため金500万円を出えんし、A及びⅩは取締役の辞任届けを提出した。そして、同日Yの社員総会で、①右持分譲渡の承認及びCを代表取締役、Dを取締役に選任すること等を内容とする社員総会決議がなされたとして(現実には社員総会は適法に開催されていない)取締役変更の登記がされ、また同年6月にはYの商号変更の社員総会決議がなされたとして(現実には社員総会は適法に開催されていない)、商号変更登記がなされた。その後、Yの経営は持ち直した。
 
 ところが、昭和50年5月に、Ⅹは、上記二つの社員総会決議の不存在の確認を求めて訴えを提起した。第一審では総会決議の不存在が認められて請求が認容された。これに対してYが控訴し、控訴審においてYは、上記のような事実関係の下で、自ら社員持分の譲渡を承諾しておきながら本訴請求をすることは権利の濫用として許されないと主張した。

 裁判所は、Yの主張についてどのように判断するべきか。

(参照判例)
最判昭和53年7月10日民集32巻5号888頁(主要判例集291事件、百選4版31事件)

(5)紛争の蒸返しの禁止
・既判力は及ばないが、実体は紛争の蒸返しに過ぎない後訴を新たな紛争として取り扱わず、信義則でもって遮断する。 


【例】
 昭和23年に、Ⅹの先代A所有の本件各土地について自作農創設特別措置法による買収処分がなされ、さらにY1らの先代Bに対する売渡処分が行われた。その後、Xは、Bとの間で本件土地を買い戻す契約が成立したとしてBの死後Bの相続人Y1・Y2・C(Bの妻)に対して農地法所定の許可申請手続および右許可を条件とする所有権移転登記手続を求め、予備的に買戻契約が無効とされるのであれば、すでにX1からBに給付されていた買戻代金を不当利得であるとして返還するよう求める訴えを提起した(第一訴訟)。

 第一訴訟において、Xは、本件買戻契約は本件買収処分が無効であるため、買収処分の対象となった本件各土地の返還を実現する一方法として行われたものである旨一貫して主張したが、結局買収処分は有効とされ、昭和41年に、主位的請求については棄却され、予備的請求については認容する判決が確定した。

 それにもかかわらず、Xは、昭和42年に、右買収処分の無効を理由にY1・Y2、および、第一訴訟係属中にY1らから本件土地の一部を譲り受けたY3会社に対して、所有権移転登記の抹消登記手続に代わる所有権移転登記手続等を求める訴えを提起した(第二訴訟)。これに対して Y1・Y2は 第一訴訟において売渡処分の有効性を認める判決が確定している以上、第二訴訟で右処分の無効を主張することは許されないとする本案前の抗弁を提出した。
第一審では、第一訴訟で争いがあったのは買戻契約の有効性であり、これに先立つ買収処分ないし売渡処分はXにおいて本件土地移転の経緯として述べられたものであることから、必ずしもXが右買収処分の有効性を認めたものではなく、第二訴訟を提起することは問題ないとしつつ、Y1らの取得時効の抗弁を認めⅩの請求を棄却した。

 Ⅹは、1審判決に対して控訴し、A・B間に本件土地の返還約束がなされていたことを理由に農地法所定の許可申請手続、所有権移転登記手続、および本件土地工作物収去土地明渡を予備的に請求として追加した。Y1らは、第一訴訟と第二訴訟とは、ほとんど同一の紛争のむし返しであり、第二訴訟の提起は信義則に反すると主張した。

 裁判所は、第二訴訟についてどのような判断を下すべきか。
 また、第二訴訟の提起が、当該買収処分から3年経った頃に提起されたものである場合はどうか。


(参照判例)
最判昭和51年9月30日民集30巻8号799頁(主要判例集203事件、百選4版80事件)


memo:2013.10.30
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再審事由の存否は、訴状送達の有効・無効にかかわらず、当事者に対する手続保障の有無の観点から判断

2014-07-30 01:31:52 | 民事訴訟法学
 手続保障を裁判所は、かなり守ろうとしていると思います。

 自分が知らない間に、誰かが自分の名を名乗って裁判がなされてしまうことは、ありえないと安心できます。
 たとえ、自分の家族が、訴状を受け取っていたとしても、民事訴訟法106条1項の趣旨(訴状送達は補充送達として有効)に反してでもです。。

 再審事由(338条1項3号)の存否は、訴状送達の有効・無効にかかわらず、当事者に対する手続保障の有無の観点から判断される

 最高裁の理由の主要な部分。

「受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との
間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため,同居者等から受送達
者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合
において,実際にもその交付がされなかったときは,受送達者は,その訴訟手続に
関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると,上記の
場合において,当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付され
ず,そのため,受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされた
ときには,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に
扱う理由はないから,民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当
である。」


**********最高裁ホームページ*********************
最高裁決定 平成19年3月20日
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070323154018.pdf

主文

原決定を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

抗告代理人伊藤諭,同田中栄樹の抗告理由について

1 本件は,抗告人が,相手方の抗告人に対する請求を認容した確定判決につ き,民訴法338条1項3号の再審事由があるとして申し立てた再審事件である。
2 記録によれば,本件の経過は次のとおりである。
(1) 相手方は,平成15年12月5日,横浜地方裁判所川崎支部に,抗告人及 びAを被告とする貸金請求訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。
相手方は,前訴において,1B1及びB2は,平成9年10月31日及び同年11 月7日,Aに対し,いずれも抗告人を連帯保証人として,各500万円を貸し付け た,2相手方は,Bらから,BらがAに対して有する上記貸金債権の譲渡を受けた などと主張して,抗告人及びAに対し,上記貸金合計1000万円及びこれに対す る約定遅延損害金の連帯支払を求めた。
(2) Aは,抗告人の義父であり,抗告人と同居していたところ,平成15年1 2月26日,自らを受送達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日(平成16 年1月28日午後1時10分)の呼出状等の交付を受けるとともに,抗告人を受送 達者とする前訴の訴状及び第1回口頭弁論期日の呼出状等(以下「本件訴状等」と いう。)についても,抗告人の同居者として,その交付を受けた。
(3) 抗告人及びAは,前訴の第1回口頭弁論期日に欠席し,答弁書その他の準 備書面も提出しなかったため,口頭弁論は終結され,第2回口頭弁論期日(平成1
-1-
6年2月4日午後1時10分)において,抗告人及びAが相手方の主張する請求原 因事実を自白したものとみなして相手方の請求を認容する旨の判決(以下「前訴判 決」という。)が言い渡された。
(4) 抗告人及びAに対する前訴判決の判決書に代わる調書の送達事務を担当し た横浜地方裁判所川崎支部の裁判所書記官は,抗告人及びAの住所における送達が 受送達者不在によりできなかったため,平成16年2月26日,抗告人及びAの住 所あてに書留郵便に付する送達を実施した。上記送達書類は,いずれも,受送達者 不在のため配達できず,郵便局に保管され,留置期間の経過により同支部に返還さ れた。
(5) 抗告人及びAのいずれも前訴判決に対して控訴をせず,前訴判決は平成1 6年3月12日に確定した。
(6) 抗告人は,平成18年3月10日,本件再審の訴えを提起した。 3 抗告人は,前訴判決の再審事由について,次のとおり主張している。 前訴の請求原因は,抗告人がAの債務を連帯保証したというものであるが,抗告
人は,自らの意思で連帯保証人になったことはなく,Aが抗告人に無断で抗告人の 印章を持ち出して金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に抗告人の印章を押印したも のである。Aは,平成18年2月28日に至るまで,かかる事情を抗告人に一切話 していなかったのであって,前訴に関し,抗告人とAは利害が対立していたという べきである。したがって,Aが抗告人あての本件訴状等の交付を受けたとしても, これが遅滞なく抗告人に交付されることを期待できる状況にはなく,現に,Aは交 付を受けた本件訴状等を抗告人に交付しなかった。以上によれば,前訴において, 抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達(民訴法106条1項)としての効力
-2-
を生じていないというべきであり,本件訴状等の有効な送達がないため,抗告人に 訴訟に関与する機会が与えられないまま前訴判決がされたのであるから,前訴判決 には民訴法338条1項3号の再審事由がある(最高裁平成3年(オ)第589号 同4年9月10日第一小法廷判決・民集46巻6号553頁参照)。
4 原審は,前訴において,抗告人の同居者であるAが抗告人あての本件訴状等 の交付を受けたのであるから,抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として 有効であり,前訴判決に民訴法338条1項3号の再審事由がある旨の抗告人の主 張は理由がないとして,抗告人の再審請求を棄却すべきものとした。
5 原審の判断のうち,抗告人に対する本件訴状等の送達は補充送達として有効 であるとした点は是認することができるが,前訴判決に民訴法338条1項3号の 再審事由がある旨の抗告人の主張は理由がないとした点は是認することができな い。その理由は,次のとおりである。
(1) 民訴法106条1項は,就業場所以外の送達をすべき場所において受送達 者に出会わないときは,「使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領 について相当のわきまえのあるもの」(以下「同居者等」という。)に書類を交付 すれば,受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしており,その後,書類が同 居者等から受送達者に交付されたか否か,同居者等が上記交付の事実を受送達者に 告知したか否かは,送達の効力に影響を及ぼすものではない(最高裁昭和42年 (オ)第1017号同45年5月22日第二小法廷判決・裁判集民事99号201 頁参照)。
したがって,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が,その訴訟
において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として
-3-
(民法108条参照),その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対
立があるにすぎない場合には,当該同居者等に対して上記書類を交付することによ
って,受送達者に対する送達の効力が生ずるというべきである。
そうすると,仮に,抗告人の主張するような事実関係があったとしても,本件訴 状等は抗告人に対して有効に送達されたものということができる。
以上と同旨の原審の判断は是認することができる。
(2) しかし,本件訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって,直 ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならない。同 事由の存否は,当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの 観点から改めて判断されなければならない。
すなわち,受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との
間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため,同居者等から受送達
者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合
において,実際にもその交付がされなかったときは,受送達者は,その訴訟手続に
関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると,上記の
場合において,当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付され
ず,そのため,受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされた
ときには,当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に
扱う理由はないから,民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当
である。
抗告人の主張によれば,前訴において抗告人に対して連帯保証債務の履行が請求 されることになったのは,抗告人の同居者として抗告人あての本件訴状等の交付を
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受けたAが,Aを主債務者とする債務について,抗告人の氏名及び印章を冒用して Bらとの間で連帯保証契約を締結したためであったというのであるから,抗告人の 主張するとおりの事実関係が認められるのであれば,前訴に関し,抗告人とその同 居者であるAとの間には事実上の利害関係の対立があり,Aが抗告人あての訴訟関 係書類を抗告人に交付することを期待することができない場合であったというべき である。したがって,実際に本件訴状等がAから抗告人に交付されず,そのために 抗告人が前訴が提起されていることを知らないまま前訴判決がされたのであれば, 前訴判決には民訴法338条1項3号の再審事由が認められるというべきである。
抗告人の前記3の主張は,抗告人に前訴の手続に関与する機会が与えられないま ま前訴判決がされたことに民訴法338条1項3号の再審事由があるというもので あるから,抗告人に対する本件訴状等の補充送達が有効であることのみを理由に, 抗告人の主張するその余の事実関係について審理することなく,抗告人の主張には 理由がないとして本件再審請求を排斥した原審の判断には,裁判に影響を及ぼすこ とが明らかな法令の違反がある。論旨は,以上の趣旨をいうものとして理由があ り,原決定は破棄を免れない。そして,上記事由の有無等について更に審理を尽く させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官
那須弘平 裁判官 田原睦夫)
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