「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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犯罪行為の分析における責任(責任能力、責任故意、適法行為の期待可能性)とは。刑法39、41、38条

2012-06-28 16:20:33 | シチズンシップ教育
 刑法における、責任についての考え方を見てみます。

 責任は、犯罪成立を判断するうえで、1構成要件該当性、2違法性、3責任(有責性)の3つの重要な分析項目のひとつです。


A先生

 犯罪行為は、形式的には、刑法で規定されたどの犯罪カタログのことを行われたかみられ(構成要件該当性)、実質的には、違法性と責任(有責性)があるかどうかがみられ、最終的に成立の可否や罪責が決められます。

 「責任」とは、行為者に対する非難可能性であり、非難できなければ、罰せられません。「責任なければ刑罰なし」と言われます。

 責任の判断は、個別的に判断されます。「違法性は連帯的に、責任は個別的に」と言われます。



Q君 責任があるかどうかは、どういう要素で判断されるのですか?


A先生

 「責任能力」「故意又は過失」そして「適法行為の期待可能性」で判断されます。

 「期待可能性」は、条文には書かれていませんが、規範的観点から判断されます。


Q君 責任能力とは?

A先生 「事物の是非善悪を弁別し、それに従って行動する能力」です。

 刑法39条に規定されています。

*****刑法***
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条  心神喪失者の行為は、罰しない。
2  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
**********

 心神喪失者とは、精神の障害によって、事柄の是非善悪を弁えることができず、あるいはその弁えに従って行動することができない場合をいいます。
 責任無能力者となり、犯罪は成立しません。精神医療の措置がとられます。

 心身耗弱者とは、精神の障害によって、是非善悪を弁える力、その弁えによって行為する力が著しく低下している場合をいいます。
 限定責任能力者となり、必ず、刑が減軽されます。


 もう一つの場合があります。
 刑事未成年者です。

 刑法41条で規定されています。

*****刑法****
(責任年齢)
第四十一条  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
***********

 判断能力があっても13歳未満は、刑事責任は問われません。よって刑法ではなく、少年法により対応が定められていきます。
 年少者は可塑性があり、刑事処罰を控えめにする政策的判断により、14歳と規定されています。


Q君 責任能力の有無や程度の判断方法はどうするのですか?
  医師に判断を任せるのですか?


A先生 まさにこの判断は、難しいもののひとつです。

  裁判員裁判でも、未必の故意、正当防衛などとともに、難しい判断とされているところです。


 責任能力は、「精神の障害」という生物学的要件と「是非善悪の弁識能力と行動制御能力」という心理学的要件で判断されます。

 責任能力は、あくまで法律上の概念、法律判断であり、精神医学者ら専門家の鑑定は経ても、たとえその鑑定書で「心神喪失」「心神耗弱」と書かれていたとしても、最終的には、裁判官が、判断をします。

 その判断も、継続的な要素で判断するのではなく、その行為の一点でどうであったかという判断をします。


Q君 次に責任における故意過失について教えてください。

A先生 罪を犯す意思があることを「故意」ありといいます。

   責任故意が、犯罪成立には必要です。

  この場合、問題となるのが、錯誤の問題です。

 錯誤とは、主観と客観の不一致のこと。

 事実の錯誤は、故意がなかったとされますが、法律の錯誤は、故意がなかったとされません。
 
 事実を知らなかったことは、許されても、法律を知らなかったことは、許されないのです。

 刑法38条3項で述べられています。

******刑法*****
(故意)
第三十八条  罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2  重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3  法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
*************


Q君 では、事実の錯誤は、どんな場合ですか?

A先生 別に自分が襲われたわけではないが、暗がりで前のひとが手を挙げてきたので、襲われたと思って(事実の錯誤)蹴り返した場合などです。こういう場面を「誤想防衛」と言われます。

 刑法36条1項の正当防衛の場面です。

****刑法****
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
*********

 このような場合、事実の錯誤として、責任故意がないものとされます。(多数説)

 

Q君 最後に、「適法行為の期待可能性」とは?


A先生 超法規的責任阻却事由と言われています。
   条文には、ありません。

Q君 具体的には、どんな場合ですか?

A先生 ある教団グループにおいて、あるひとに対して、リンチが上のひとの命令でなされたとします。
   そして、もし、その命令に従わないと自分の命が奪われるようなとき、その上のひとに、よくないからリンチをやめろと進言することが、はたしてできるかどうかという問題です。

  刑法では、期待可能性を考慮したと思われる規定の例はあります。

 過剰防衛(刑法36条2項)、犯人蔵匿や隠避罪における親族間の特例(刑法105条)、偽造通貨収得後知情行使罪(刑法152条)などです。

 襲われた場合の反撃行動、罪を犯した親族を匿ってしまうこと、偽札をつかまされてしまった場合など各場面で、適法行為の期待可能性が配慮されています。

****刑法****
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

(犯人蔵匿等)
第百三条  罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

(証拠隠滅等)
第百四条  他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

(親族による犯罪に関する特例)
第百五条  前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。

(収得後知情行使等)
第百五十二条  貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。

**********

 期待可能性の判断基準は、行為者基準か、平均人(一般人)基準か、国家基準か、それは裁判所の判断で、基準が決められます。


以上、
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外国の相手方との取引契約などで、どこの国の法を準拠法として適用すべきか:法の適用に関する通則法7-12条

2012-06-28 10:53:04 | シチズンシップ教育

 国際私法の分野で重要な法律である「法の適用に関する通則法(平成十八年六月二十一日法律第七十八号)」。

 契約関連のことがら(債権のうちの任意債権)で、どの国の法を適用するかという準拠法について整理します。
 (身分関係は、24条以下、物権は13条。不法行為など法定債権は15-22条)

 青字、下線は、小坂。


****************************

第三章 準拠法に関する通則

第二節 法律行為


(当事者による準拠法の選択)
第七条  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

→法律行為の成立及び効力 原則は、選択した地

 明示でも黙示でもどちらでもよい。

 例えば、7/10に準拠法についての署名をする。7/30に契約書の署名。その場合、契約が成立したかどうか、7/10に署名された準拠法で判断される。

 次に特則である9条へ。
 

(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条  前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2  前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3  第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。

→7,9条の例外。 
 準拠法の選択の明示・黙示がない場合。その時は、最も密接な関係がある法を用いる。(1項)

 では、「最も密接な関係がある地」とは、何をもって「密接」というのか。2項、3項で規定。

 2項 不動産以外の場合。

 3項 不動産の場合。

 2項、3項とも「推定する」故、争いになる。
 

(当事者による準拠法の変更)
第九条  当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。

→特則。原則の7条とセットで考える。
 準拠法を決めていても、変更が可能。

 7、8、9条の整理。
 選択した法を変更するならまず9条。変更しないなら7条。準拠法の明示・黙示がないなら8条。最も密接な関係がある地として2項3項で判断。


(法律行為の方式)
第十条  法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2  前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3  法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。
4  法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5  前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。

→7,8,9条は、実質的成立要件のみ。10条は形式。

 3項は、「みなす」ゆえ、それ以上の争いはできない。「推定」ではない。

 

(消費者契約の特例)
第十一条  消費者(個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。以下この条において同じ。)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。以下この条において同じ。)との間で締結される契約(労働契約を除く。以下この条において「消費者契約」という。)の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が消費者の常居所地法以外の法である場合であっても、消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、当該消費者契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

2  消費者契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、第八条の規定にかかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法による。

3  消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法以外の法が選択された場合であっても、当該消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式に関しその強行規定の定める事項については、専らその強行規定を適用する。

4  消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法が選択された場合において、当該消費者契約の方式について消費者が専らその常居所地法によるべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、専ら消費者の常居所地法による。

5  消費者契約の成立について第七条の規定による選択がないときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、消費者の常居所地法による。

6  前各項の規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。
一  事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締結したとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において消費者契約を締結することについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。
二  事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき、又は受けることとされていたとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において債務の全部の履行を受けることについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。
三  消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことについて相当の理由があるとき。
四  消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤認したことについて相当の理由があるとき。

→消費者契約の特例。

 クーリングオフなどが適用されやすくするため、10条によらず、消費者の常居所地法になるようにしている。

 ただし、6項で、「能動的消費者」(海外に出向き、仕入れる消費者)は、適用除外とする。


(労働契約の特例)
第十二条  労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

2  前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

3  労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

→労働契約の特例。

 選択した法を変更するならまず9条。変更しないなら7条。準拠法の明示・黙示がないなら12条で、労務を提供すべき地の法。

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