なぜ中国は南シナ海で力づくの現状変更を強行するのか。目的には、共産党の覇権主義的な方針、石油・天然ガス等海洋資源の確保、うっ積する国内の不満を外部に向けさる大衆の意識操作があるだろう。その上、ここ4月以降に限れば、米国がリバランス政策でどこまで本気なのかを試すという目的があるだろう。さらに加えて、習近平国家主席が掲げる「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」という心理的な要因があるだろう。
どの民族、どの国民にも、ナショナリズムは存在する。だが、共産中国の場合、そのナショナリズムは、他にない特徴を三つ持つ。第一に、共産主義国が共産主義では国民を統合できなくなったとき、国民を統合するために持ち出されたものであること。江沢民による反日的な愛国主義がそれである。第二に、かつて世界最高の民族だったとの自尊心を傷つけられたという意識から、復讐心に燃えるものであること。アヘン戦争以来の屈辱を晴らしたいという感情がそれである。第三に、世界最大の人口、世界第二位のGDP、そして世界屈指の軍事力を持つ国におけるものであること。特に、短期間に強大化した軍事力が、ポイントである。これら三つの特徴を、共産中国のナショナリズムは、持っている。
習近平氏は、平成24年(2012)11月の第18回中国共産党大会で総書記に選出された。この大会で、中国共産党は、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。習氏は総書記就任演説で、「中華民族」という言葉を繰り返し使った。漢民族や中国人民はあっても「中華民族」など存在しないのだが、多民族国家の中国であえて「中華民族」という言葉を掲げ、国家意識の高揚を図ったものだろう。
25年(2013)3月習氏は、国家主席に選出された。主席として初めて行った演説で、習氏は「中華民族の偉大な復興を実現することは中華民族の最も偉大な夢である」と強調し、国内だけでなく海外にいる「同胞」にも団結を呼びかけた。この習氏の「中国の夢の実現」の柱になるのが「海洋強国」である。この時の全人代で、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」が創設され、習主席の指導下に、「海洋強国化」を推進する態勢が打ち出された。
その後の昨25年5月、東海大学教授・山田吉彦氏は、中国で海洋政策に携わる官僚や軍関係者と会う機会があった。国家海洋局の官僚に海洋進出の目的を尋ねると、「中華民族の復興が根本的な目標。そのために海洋強国になる必要がある」との答えが返ってきたという。
中国は7月11日を「航海の日」と定めている。1405年に、明の太監、鄭和が2万7千人を乗せた艦隊を従え、北アフリカへの大遠征に南京付近の港を出立した日である。鄭和が通過した国々は明への朝貢国となり、実質的な支配下に組み入れられていった。
中国指導部、当局者らが、「海洋強国」建設による「中華民族の偉大な復興」を言うとき、軍事力と経済力でアジアの国々を影響下に置いた、この全盛期の壮図をイメージしているのではないか。私は、中国は、海洋に関しては明朝の最盛期、陸地に関しては清朝の最盛期を「中華民族の偉大な復興」の目標としているものと思う。
習氏の中華民族復興の夢という思想のもとは、毛沢東にある。習氏は毛沢東を崇拝している。毛沢東は、漢民族の矜持と強烈な反米感情に彩られた現代の中華思想を懐き、19世紀清王朝末期に失った地域覇権を取り戻そうと考えた。共産主義は本来、インターナショナリズムの思想だったが、スターリンによってナショナリズムに逆転し、さらに毛沢東によって中華思想と結びついたのである。ナショナリズムと結合した共産主義は、ファシズムに類似したものに変容する。ファッショ的共産主義である。既に中国は、マルクス・レーニンの名を掲げてはいても、実態はウルトラ・ナショナリズムを基盤とするナチス・ドイツに似た国家に変質している。
ただし、中国の地域覇権への志向は、過去の支配権の範囲にはとどまるものではない。現時点では、過去の版図をもって膨張主義を正当化する材料にしているだけである。既に米国に対して、太平洋の東西分割統治を持ち出しているのが、その表れである
中国は、東アジアにおける地域大国であるだけでなく、世界覇権国家アメリカに挑戦しようとしている。これは、西洋文明とシナ文明の中核国家同士の争いである。サミュエル・ハンチントンが予想した「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立が現実になるとすれば、世界覇権をかけた米中対決となるだろう。中国の挑戦は、単なる覇権主義的な野望によるものだけでなく、中華ナショナリズムという心理的要因があると考えられる。
現在、南シナ海で起こっている事態は、単に石油掘削による資源の獲得ではなく、また南シナ海の領海化だけでもなく、さらに大きな米国への挑戦によるアジア・太平洋地域の帝国的支配への衝動の表れと考えられる。重大な歴史的事件であると私は思う。わが国の中国への対応は、政治、経済、外交、安全保障の観点だけでなく、こうした心理学的了解また文明史的な構図を以て、なされるべきである。
どの民族、どの国民にも、ナショナリズムは存在する。だが、共産中国の場合、そのナショナリズムは、他にない特徴を三つ持つ。第一に、共産主義国が共産主義では国民を統合できなくなったとき、国民を統合するために持ち出されたものであること。江沢民による反日的な愛国主義がそれである。第二に、かつて世界最高の民族だったとの自尊心を傷つけられたという意識から、復讐心に燃えるものであること。アヘン戦争以来の屈辱を晴らしたいという感情がそれである。第三に、世界最大の人口、世界第二位のGDP、そして世界屈指の軍事力を持つ国におけるものであること。特に、短期間に強大化した軍事力が、ポイントである。これら三つの特徴を、共産中国のナショナリズムは、持っている。
習近平氏は、平成24年(2012)11月の第18回中国共産党大会で総書記に選出された。この大会で、中国共産党は、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。習氏は総書記就任演説で、「中華民族」という言葉を繰り返し使った。漢民族や中国人民はあっても「中華民族」など存在しないのだが、多民族国家の中国であえて「中華民族」という言葉を掲げ、国家意識の高揚を図ったものだろう。
25年(2013)3月習氏は、国家主席に選出された。主席として初めて行った演説で、習氏は「中華民族の偉大な復興を実現することは中華民族の最も偉大な夢である」と強調し、国内だけでなく海外にいる「同胞」にも団結を呼びかけた。この習氏の「中国の夢の実現」の柱になるのが「海洋強国」である。この時の全人代で、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」が創設され、習主席の指導下に、「海洋強国化」を推進する態勢が打ち出された。
その後の昨25年5月、東海大学教授・山田吉彦氏は、中国で海洋政策に携わる官僚や軍関係者と会う機会があった。国家海洋局の官僚に海洋進出の目的を尋ねると、「中華民族の復興が根本的な目標。そのために海洋強国になる必要がある」との答えが返ってきたという。
中国は7月11日を「航海の日」と定めている。1405年に、明の太監、鄭和が2万7千人を乗せた艦隊を従え、北アフリカへの大遠征に南京付近の港を出立した日である。鄭和が通過した国々は明への朝貢国となり、実質的な支配下に組み入れられていった。
中国指導部、当局者らが、「海洋強国」建設による「中華民族の偉大な復興」を言うとき、軍事力と経済力でアジアの国々を影響下に置いた、この全盛期の壮図をイメージしているのではないか。私は、中国は、海洋に関しては明朝の最盛期、陸地に関しては清朝の最盛期を「中華民族の偉大な復興」の目標としているものと思う。
習氏の中華民族復興の夢という思想のもとは、毛沢東にある。習氏は毛沢東を崇拝している。毛沢東は、漢民族の矜持と強烈な反米感情に彩られた現代の中華思想を懐き、19世紀清王朝末期に失った地域覇権を取り戻そうと考えた。共産主義は本来、インターナショナリズムの思想だったが、スターリンによってナショナリズムに逆転し、さらに毛沢東によって中華思想と結びついたのである。ナショナリズムと結合した共産主義は、ファシズムに類似したものに変容する。ファッショ的共産主義である。既に中国は、マルクス・レーニンの名を掲げてはいても、実態はウルトラ・ナショナリズムを基盤とするナチス・ドイツに似た国家に変質している。
ただし、中国の地域覇権への志向は、過去の支配権の範囲にはとどまるものではない。現時点では、過去の版図をもって膨張主義を正当化する材料にしているだけである。既に米国に対して、太平洋の東西分割統治を持ち出しているのが、その表れである
中国は、東アジアにおける地域大国であるだけでなく、世界覇権国家アメリカに挑戦しようとしている。これは、西洋文明とシナ文明の中核国家同士の争いである。サミュエル・ハンチントンが予想した「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立が現実になるとすれば、世界覇権をかけた米中対決となるだろう。中国の挑戦は、単なる覇権主義的な野望によるものだけでなく、中華ナショナリズムという心理的要因があると考えられる。
現在、南シナ海で起こっている事態は、単に石油掘削による資源の獲得ではなく、また南シナ海の領海化だけでもなく、さらに大きな米国への挑戦によるアジア・太平洋地域の帝国的支配への衝動の表れと考えられる。重大な歴史的事件であると私は思う。わが国の中国への対応は、政治、経済、外交、安全保障の観点だけでなく、こうした心理学的了解また文明史的な構図を以て、なされるべきである。
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