落葉松亭日記

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台湾総統選挙・国民党惨敗

2016年01月18日 | 政治・外交
台湾総統選挙で民進党の蔡英文氏が圧勝した。
中共の「一つの中国」に対抗して台湾独立に向う出発点に立った。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」平成28年(2016)1月18日(月曜日)通算第4781号
http://melma.com/backnumber_45206/

台湾総統選挙で蔡英文が地滑り的大勝となったが
  国民党の敗因は、将来の台湾像をしめせなかったからだろう


 台湾取材から還りました。
 町は醒めていて選挙をやっているかどうかも分からないほど静かでした。直前の票読みでも蔡英文の大勝は分かっていましたが、予測をこえて、56%(直前の情報では51%)、しかし25%とみられた国民党も6%のばして31%をはじき出しました。

 国会議員選挙が同時に行われ、民進党が過半数を取れず、学生運動の新党「時代力量」との「連立政権」をくめるか、どうかというのが見所でした。
ところが蓋を開けると、民進党だけで単独過半、だれも予想しなかった数字でした。
日本からも総勢200名近い取材団でしたが、日頃の取材の積み重ねが希薄なので、どの記事も皮相ですね。

 問題は、これからです。
 北京は早速にも「蔡英文政権は台湾独立を完全に引っ込めなければ両岸関係はうまく行かない」などと脅迫めいた反応をしています。
蔡英文次期総統は、まず周囲を固め、四つ派閥のいがみ合いを克服し、党内をしっかり纏めながら、国会の審議を円滑化し、何から先に実践してゆくのか。
国民に何をアピールするか、「現状維持」と言っているだけでも、年末あたりに身内からも批判を浴びるかもしれません。
なにしろ今度は「勝ち過ぎ」でした。慢心を慎み、ふんどしを締め直すことが大事ではないかと思いました。

[AC論説] No.577 台湾選挙の首実検 (2016/01/17)
http://melma.com/backnumber_53999/

台湾の選挙は一般に国民党(藍軍)と民進党(緑軍)の「藍緑合戦」 と言われる。選挙の結果は多くの新聞が報道したので改めてここで お浚いすることはないが、国民党側の自己評価では「完全なる惨敗」 だそうだ。総統選挙はすでに蔡英文の大勝利と報道されたからここ では立法委員選挙で国民党の大将首を何個取れたか検討してみる。

立法委員選挙では台湾の中央部を東西に流れる濁水渓以南の諸県市 で国民党は一席も取れず全滅した。國民黨の勢力範囲と言われた北 部でも新北市では12議席のうち2席しか取れず、台北市は8議席の うち5席、桃園市は6議席のうち2席、台中市は8議席のうち3席 しか確保できなかった。まさに完全な惨敗である。立法委員の選挙 議席73席のうち国民党は20席しか取れなかった。

選挙の結果、朱立倫は国民党主席を辞任し、行政院長・毛治國も辞 任した。大きな打撃は国民党の重鎮や大将クラスの人物が枕を並べ て討ち死にしたことである。このため4年後の国民党の再起は難し くなった。

最大の損失は基隆市で国民党のカク龍斌、親民党の劉文雄が民進党 の蔡適応に敗北したことである。二人とも大幹部だった。
カク龍斌は台湾の軍部に隠然たる勢力を持つカク伯村の息子で、元 台北市長、国民党副主席などの経歴があり、2020年の総統選挙の有 力候補と言われていた。
カク伯村は元参謀総長で中華民国の軍隊の重鎮、ラファイェット巡 洋艦、ミラージュ戦闘機、マジックミサイルなどの武器購買でいろ いろ問題があった人物である。

息子のカク龍斌は台北市長時代に花卉博覧会、ゴンドラ遊園地、夢 幻音楽会などで実費の数倍と言われた膨大な無駄遣いがあったので、 退任して汚職の調査を逃れるため立法委員に立候補したと言われた。 今の台北市長が就任してすぐに過去4代の市長、馬英九とカク龍斌 の土地開発が大問題となり、犯罪調査が二人に及ぶと言われている。 カク龍斌は落選し、馬英九も任期が終わると司直の追及を逃れるこ とが出来なくなる。

カク龍斌が出馬した基隆市は親民党の劉文雄の地盤である。カク龍 斌がここで選挙にでたため劉文雄と票の取り合いとなって二人とも 落選した。劉文雄は親民党の党首宋楚瑜の右腕と言われる人物だが、 今回の選挙では何故か宋楚瑜が劉文雄を比例代表に選らばなかった ため地元で立候補して落選した。つまり民進党の蔡適応が当選した のでカク龍斌、劉文雄の二人の大物が討ち死にしたのだ。

台北市はこれまで国民党の根拠地として知られていたが、今回は第 1区で国民党の重鎮、当選7回の丁守中が民進党に敗れて落選した。 第5区では当選7回の林郁方が時代力量党の新人候補林チョウ佐(永 の右に日)に5千票差で敗れた。

桃園市第6区では当選5回の孫大千が無党派の趙正宇に敗れて落選 した。この三人は国民党の重要幹部で当選確実と言われていたが、 落選したあと政界復帰は難しいかもしれない。

もう一人の大物は新北市第12区で当選7回の李慶華が時代力量党の 黄國昌に12000票の大差で落選したことだ。李慶華は国民党の元老 で元行政院長・李煥の息子である。

また、高雄市第3区では国民党の大物で、元大陸委員会副主任・張 顕耀が民進党の劉世芳に3万票の大差で落選した。高雄市第3区は 国民党の退役軍人の住居が林立している区域で民進党の当選は難し いと言われていた地区である。彼の落選は外省人、退役軍人の居住 地区でも国民党の影響力が薄れたことを示している。これは重要な ことで、馬英九の不評だけでなく、外省人も中国統一を忌避するよ うになったことである。

最後に今回の選挙では幾つかの民間組織が合同で「落選運動」を発 起し、国民党の呉育昇、廖正井と張慶忠の三人の落選に成功した。
「落選運動」は人民主人基金会、島国前進、国会調査兵団など、幾 つもの団体が集まって発起した運動である。選挙運動で民間団体が 政敵落選を組織したのは恐らく世界で初めてであろう。この運動で は呉育昇、廖正井、張慶忠の三人の落選を目標とし、三人とも落選 させたのである。

呉育昇は元台北市の新聞処主任で馬英九の子分と言われた人物であ る。本人は選挙運動で「私は馬英九の子分ではない」と弁解してい たが無駄だった。
張慶忠は二年前に国会で馬英九の「服務貿易協議」を取り上げ、審 議もなく30秒で「賛成通過」と宣言したのでヒマワリ学生運動の導 火線となった。「半分忠(39秒忠)」と綽名された人物である。
桃園市第2選挙区の廖正井は元台北市財政局長、秘書長などを歴任 した立法委員で前回の立法委員選挙で買票行為があったと言われた 人物である。

民間団体が以上の三人を落選させる「落選運動」を推進した結果は 100%成功だった。政治家にふさわしくない人物を落選させるための 団体運動が成功したのである。ダメな政治家を落選させる運動が成 功したのは人民の政治意識が成熟した結果かもしれない。

戦い済んで日が暮れて、5月に新政権が発足する。国会は数日後に 補足するが総統の就任は5月20日である。5月までの4か月は政治 の空白期間ともいえる。この期間に現職の馬英九が勝手な行動を起 こすとは思えないが注意して見守る必要がある。

国民党の完全惨敗は台湾アイデンティティの発露であり、馬英九の 中台統一路線は大幅に後退し、国民党と中国が強引に推し進めた嘘 の「92年コンセンサス」は問題でなくなる。中国の台湾併呑計画は 失敗したのである。

但し民進党政権が誕生してもすぐに独立運動が起きるとは思えない。 蔡英文の主張する現状維持は台湾海峡の安定発展となる。台湾人は 動乱を望まない。独立は気長に穏便に推進すべきである。


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