2016年9月23日(金) 7:00pm サントリー
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 皇帝 20′9+10′
ピアノ、チョ・ソンジン
(encore)
ベートーヴェン ピアノソナタ第8番ハ短調 悲愴第2楽章 5′
Int
ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調 田園 12′11′5+4+11′
(encore)
ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調 第4楽章 7′
チョン・ミョンフン 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
●
ミョンフンの指揮は何度見てもほれぼれするもので、音楽を完全掌握、オーケストラを完全掌握。東フィルの引き締まった充実のサウンドはこのような指揮があってこそ湧き出てくるものとあらためて認識。指揮者の実力の凄さ、スーパー・ナレッジ、耳の良さ、音楽を感じさせる棒さばき、音楽のありとあらゆるものが全部出てくる。プレイヤーにとってスーパーコンダクターは怖いに違いない。ビビらせずに力を出させる指揮者ですね。もう、感服。
それにしても東フィルのサウンドは機能美とは一味違ったもので、生き物のような火照り具合で、本格的な響きが何かデジャビュのような雰囲気を醸し出している。初台のオペラ伴奏などでは見られない現象で、この指揮者が振るとこうなる。オケは指揮者しだいですかねやっぱり。もはや、豹変と言っても過言ではない。
それに、
にやけない、踊らない。
にやけて、踊って、サムアップする前にもっと大事なことをするべきなんだと言っているようだ。彼の爪の垢を煎じて飲まなければならないジャパニーズ・ダンシング・コンダクターは沢山いる。
●
1994年生まれ、昨年2015年ショパコンチャンピオン、ソンジン。ホールは満員の盛況。
初めて聴きます。皮相的な熱に殊更浮かれることもないと感じるのは若いながらこれまでの数々の受賞歴からもわかるように場慣れしているからなのか、それともご本人のもともと持っているテンペラメントからくるものなのか、わからないですけれども、たぶん後者だろうなぁと思うに至ったのはアンコールに選んだ悲愴第2楽章を聴いてから。
ピアニストにとっては過酷な響きのホールですので聴衆は頭の中である程度イメージ補正をおこなって音を聴くことになります。ピアニストの派手なアクションがイメージ補正に一役買うこともありますね。ソンジンの場合はストイックとは言いませんが、余計な助けを借りることのないピアニスト。むしろ淡々としているほどで、技巧を忘れさせてくれるし、また、曲が進行するにつれて、音楽の内面を魅せつけられているように思えてくる。エンペラーの曲を久しぶりにじっくりと聴くことが出来ました。彼のプレイでベートーヴェンは素晴らしいと感じさせてくれた。ベートーヴェンが前に出てきた。
さらに特筆すべきは伴奏です。ミョンフンの指揮によるオケ伴は最初に書いた通りのもので、アナログ風味で引き締まった本格的サウンドは魅力的。ピアノにあわせたコントラストが素晴らしく雄弁。本当にほれぼれとする伴奏、生きた演奏でした。圧倒的。
●
田園はともすると凡庸な演奏に聴こえてきたりするのは聴き手側のせいによるところが大きいのだろうとは思うのですが、波のあまりない第1,2楽章あたりはどうしてもユルム。
ところが、この日の田園。ミョンフンの棒による田園は全く弛緩しない。とことん魅力的な演奏でした。
厚みのある人肌のようなオーケストラサウンド、ミョンフンの醸し出す指揮の魔術ですね。指揮姿を見ていればよくわかる、音楽そのもののような運び、ウィンドが歌い、ザッツの合ったピアニシモからフォルテに湧き出るような音楽の流れはもはや止めようもなく、筆舌に尽くし難い美しさとなる。絶品の第1楽章。何も言うことはない。
美しさは次の2楽章でも変わらない。心地よい緊張感がホールに漂う。中低音域で弦が歌い尽くす。アンサンブル単位に揺れ動くさまは、何重もの小川の流れが生き物のように動いているかのようだ。離れ業ですな。
3楽章の深いリズム、快活さの極み。4楽章の滑り込むようなダイナミックな嵐表現。するりと雲の中からさす光がやたらとまぶしい終楽章、溢れる喜びの音楽はもはや歌を越える、そして遠くでホルンが信号を鳴らし天に飛んでいく、ベートーヴェンの振幅の大きな曲をこれほど見事に表現した演奏はそうザラにはないだろう。もう、満足の極み。
田園、再発見。
アンコールがありまして、翌々日のプログラム演目になっている7番。それの先出なのか第4楽章をいきなり始めました。
これがまた凄かった。7番はこの楽章だけあればいいのではないのかなどとふと脳裏をよぎるような最高峰の演奏。ダイナミックなたたみ込み、滑るような音の流れ、嵐の舞踏。ど・アンコールに満足。
前半後半、両アンコール含めオール・ベートーヴェン、最高の演奏会。
前半のコンマスさんのめずらしいチューニング含め、大いに楽しめた一夜でした。
色々とありがとうございました。
おわり