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日記を書くことは癒しの効果があるそう

2011-04-27 10:22:52 | 読書ノート
ダニエル・ネトル『目からウロコの幸福学』山岡万里子訳, オープンナレッジ, 2007.

  原題は"Happiness : The science behind your smile"で、一般向けの小著である。著者は英ニューカッスル大学の心理学者で、このブログですでに『パーソナリティを科学する』(参考)を紹介している。200ページ程度の短くて地味な著作ながらも、心理学だけでなく、幸福に関する社会調査から哲学者の言説・脳科学までを検討しており、視野が広い。

 著者によれば、人間は幸福を求めるよう生物学的にプログラムされている。しかし、欲望を満たそうとする脳内のシステムと、快・不快を判定するシステムは直結していない。そのため、望むものを手に入れたのにもかかわらず満足を感じないことがある。また、一時的に満足を感じてもその状態にすぐ慣れてしまったりするのは、快を感じる状態を継続することよりも生活上のリスク認知を優先させるよう人間ができているためである。快感はリスク認知の感度を下げる。危険と認識したことのうち本当の危険はたとえごく一部だとしても、その危険に気づかなくて死ぬよりは、多少大袈裟でも神経質なほうが生き残ることができる。そのような遺伝的傾向を持った者の方が生存に有利だったのである。というわけで、人間は四六時中快に浸っているわけにはいかず、平常に戻らなければならない。そして、その後に再び快の追及を始めるというサイクルで生きることになる。なお、神経質さの程度は遺伝的に決まっているが、それが強すぎるタイプは多くのストレスにさらされ、幸福感も他のタイプより弱まるという。

  最後の二章で、幸福になるためのアドバイスも添えられている。神経質なタイプには、認知療法やトレーニングを薦めている。定期的に自己の体験を文章に綴ることも精神の安定にとって効果的だそうだ。しかし、「欲望を放棄する」というより本質的な対策も提示されている。さらには、幸福に生きることを追及するよりも、たとえ苦しみを伴うものであっても幸福とは異なる美徳に沿って生きる──社会に貢献したり、倫理的に善い生き方をする──という人生もあるのだと述べて締めくくっている。

  幸福についての考察ながらも、最後の章で幸福の追求を人生の唯一の目的とする必要はないと説くどんでん返しにやられる。
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