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科学技術立国というのは画餅。早急に対策せよ。

2016-12-26 22:02:59 | 読書ノート
山口栄一『イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機』ちくま新書, 筑摩書房, 2016.

  日本における研究開発の衰退や、科学的知識が十分に普及しないことを論じた書籍。著者は同志社大の教授で、物理の博士号を持ち、NTTの研究所に勤務し(すでに退職)、ベンチャー企業支援などを行ってきたという経歴の持ち主である。誤解を恐れずに要約すれば、科学に無知な人間が日本企業で要職に就いているため、先端技術を支援するための企画が単なる中小企業支援対策に堕し、予見できた事故に有効な対策を打てないままとなっているという。

  対案として、理系出身者を官僚や経営者に入れろ、大学では文系に科学をもう少し教えろということになる。ただし、もう少し微妙なニュアンスもある。というのは、科学にも二種類あって、パラダイムに則ってパズルのピースを埋めてゆくようなものと、パラダイム自体を問い直すようなものとである。現在日本に不足しているのは既存のパラダイムを問い直すような後者の科学であり、積極的に採用すべき人材はそうした志向を持つはずの領域横断的な理系科学者であるという。

  前半は研究開発と企業および公的支援の話だったのに、後半は社会で科学知識が不足していることの問題の話となってしまい、大風呂敷の感はある。しかし、シャープや、福島の原発事故、福知山線の脱線事故など、具体的事例の分析は興味深い。究極的には、成果があるかどうかわからない研究活動に社会はいくら金を出せるのか、という問題となる。だが、その前段階である科学知識の普及度が日本では不十分に見え、正しく研究活動を評価できない可能性が高いというのがまずもっての本書の危機感なのだろう。
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