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グローバル化は今やメリットよりも害悪をもたらしている、と

2016-12-23 21:48:53 | 読書ノート
ダニ・ロドリック『グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道』柴山桂太,大川良文訳, 白水社, 2014.

  反グローバル化を訴える経済学啓蒙書。グローバル化の歴史的な経緯から説き起こして(帝国主義がそのはじまり)、それに対抗して一般民衆の雇用を重視する現在の国民国家ができたという話が続き、さらに1970年代以降になると世界経済の再度の統合が進んで再び世界中で雇用が不安定化するようになったという。この問題を克服するために9章で「世界経済のトリレンマ」というコンセプトを示して将来を指南する。原書は2011年発行。

  世界経済のトリレンマというのは、「グローバル化」「国民国家」「民主主義」の三つは鼎立しないというアイデアで、そのうち二つを採ることは一つを捨てることになるという。その基本には、円滑な経済運営には統治制度が必要という考えがある。グローバル化を徹底しつつ経済の安定を両立させるためには、国民国家を捨てて民主主義的な世界政府を樹立することが必要である。これは非現実的だ。一方、国内の一部の(あるいは大半の)階層の利益を無視することのできる非民主的な体制ならば、グローバル化と国民国家を両立させることができる。しかしこれはのぞましくない。というわけで、国民国家と民主主義を維持して、グローバル化を捨てるのが望ましいと著者はいう。ただし、鎖国や保護貿易を支持しているわけではなく、資本移動や移民労働力などのマイルドな規制を求めているだけで、グローバル化から完全撤退することを主張しているわけではない。現状すでにグローバル化しているので、この段階からさらに貿易規制を撤廃しても1-3%程度の利益しかない、とも。

  本書では、安定した経済成長をもたらした制度として、たびたび1950年代から60年代のブレトンウッズ体制が理想化されているが、固定相場制および為替変動という面からのアプローチが無いのが気になったところ。また、問題提起のわりには挙げられた処方箋がぬるい気がするのだが、経済の不安定化に対抗するのに有効なんだろうか。結局、グローバル化は程度の問題なんだろうけれども、ではどこまでが適正なのかという点については明解ではない。論証よりはあくまでも問題提起を重視した書なんだろう。
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